(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
オレフィン系発泡樹脂粒子は型内成形によってオレフィン系発泡樹脂成形体に成形され、自動車用緩衝材や部品などに用いられる。
【0003】
型内成形において加熱されたオレフィン系発泡樹脂成形体は、その表面だけでなく、内部も冷却する必要がある。一般にスチレン系発泡樹脂粒子の型内成形では、減圧による気化熱を利用し、オレフィン系発泡樹脂成形体の内部の冷却を実現している。しかし、空気の透過速度が速いとされるオレフィン系発泡樹脂粒子では、減圧を行うとオレフィン系発泡樹脂成形体が収縮してしまい、所定の寸法精度を有する良好なオレフィン系発泡樹脂成形体を得ることができない。そこで、オレフィン系発泡樹脂粒子の型内成形における冷却では、凹凸の中型それぞれの蒸気室側に設けられたノズルから連続して水を中型に向けて噴霧し続ける、連続水冷が採用されている。
【0004】
蒸気室下方には、排水弁(あるいはドレン弁と呼ぶ)に接続された排水口(あるいはドレン口と呼ぶ)が設けられており、噴霧した水はこのドレン口から外部に排出される。一般に型内成形では、中型を均一に冷却する目的から大量の冷却水を中型に当てる。そのため、水冷時間が長くなると排水が追いつかず蒸気室内に水が溜まっていく傾向にある。
【0005】
蒸気室内に水が溜まった場合、特に中型下部が浸かるほど水が溜まった場合、中型に温度分布が生じ、成形体の各部の収縮の度合いが異なり、所定の形状の成形体が得難くなる問題が発生する。また、金型内に中型を複数配置した金型の場合、上部の中型と下部の中型とで冷却の度合いが異なり、結果として成形体の収縮挙動が異なることとなり、中型配置により寸法が異なる成形体となってしまう結果となる。
【0006】
また、冷却された金型の温度は、次の成形体の型内成形の際の起点温度となる。低すぎる金型の温度の部分は型内成形時に伸び(成形体となった場合の表面美麗性)が悪くなる。そのため、型内成形の際の加熱を強くしなければならず、加熱エネルギーを余分に消費してしまうことがある。
【0007】
これを避けるあるいは低減するために上記課題を解決する方法としては、例えば特許文献1または特許文献2による方法が提案されている。
【0008】
特許文献1は、長時間の水冷による金型の過度な冷却を防止するため、タイマーによる時間の調整ないしは温度の測定により、金型が所定の温度まで下がるとそこで水冷を止め、金型温度が自然に上昇するのを待ち、その後再度水冷を行うことを金型および成形体の温度が所定の温度になるまで繰り返すことを開示している。
【0009】
特許文献2は、特許文献1と同様に水冷と空冷とを交互に繰り返す方法であるが、特許文献1の空冷が何もせずに放置する冷却であるのに対し、送風機(ブロア)を用いた積極的な空冷を採ることを特徴としている。
【0010】
また、特許文献3は、金型を水冷しながら、成形用金型と成形製品とを剥離しながら圧力空冷を行うことを開示している。具体的には、特許文献3は、合成樹脂を平行板状体の板状型枠に型内成形した後、型枠を離型する型内成形方法において、冷却工程時にキャビティ周囲から冷却水を注入して水冷しながら、キャビティ内に加圧エアを繰り返し注入して、成形用金型と成形製品間とを剥離しながら圧力空冷することを特徴としている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に用いることができるオレフィン系発泡樹脂粒子は、型内成形用オレフィン系発泡樹脂粒子であれば特に制限されず、工業的に市場で一般に使用されるプロピレン系発泡樹脂粒子、エチレン系発泡樹脂粒子等が好適に使用される。
【0020】
本発明の一実施形態で用いられるプロピレン系発泡樹脂粒子としては、その基材樹脂にプロピレンホモポリマー、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体またはプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体等を用いた粒子が挙げられ、これら二種以上を併用してもよい。
【0021】
プロピレンと共重合可能なα−オレフィンとしては炭素数2,4〜15のα−オレフィンなどが挙げられ、これらは、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0022】
プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の中でも、特に、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン−ブテン−1ランダム共重合体が好ましい。プロピレン以外のコモノマー含量が1〜5重量%である場合にプロピレン系発泡樹脂粒子は良好な発泡性を示し、好適に使用し得る。
【0023】
また、プロピレン系発泡樹脂粒子は、プロピレン系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂、例えば低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブテンまたはアイオノマー等をプロプレン系樹脂の特性が失われない範囲で混合使用されても良い。
【0024】
本発明の一実施形態で用いられるエチレン系発泡樹脂粒子としては、その基材樹脂に高密度エチレン系樹脂、中密度エチレン系樹脂、低密度エチレン系樹脂、直鎖状低密度エチレン系樹脂、等を用いた粒子が挙げられる。これら樹脂の中でも、高発泡のエチレン系樹脂発泡樹脂粒子が得られる点から、直鎖状低密度エチレン系樹脂を用いることがより好ましい。
【0025】
また、密度が互いに異なる直鎖状低密度エチレン系樹脂を複数種、ブレンドして用いることも可能である。
【0026】
さらには、直鎖状低密度エチレン系樹脂に、高密度エチレン系樹脂、中密度エチレン系樹脂および低密度エチレン系樹脂からなる群より選択される一種以上の樹脂をブレンドして用いることもできる。
【0027】
直鎖状低密度エチレン系樹脂に、複数種のエチレン系樹脂をブレンドして用いることは、型内成形する場合における成形可能な圧力範囲を広げることが容易となることから、本発明の一実施形態においてより好ましい態様である。特に、直鎖状低密度エチレン系樹脂と低密度エチレン系樹脂とをブレンドして用いることがより好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態で用いられる直鎖状低密度エチレン系樹脂は、エチレン以外の、エチレンと共重合可能なコモノマーを含んでいてもよい。エチレンと共重合可能なコモノマーとしては、炭素数が4以上、18以下のα−オレフィンを用いることができ、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。これらコモノマーは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の一実施形態の型内成形は、水冷および空冷よりなる冷却工程に特徴を有する型内成形である。
図1は、本発明の一実施形態の金型の概略の断面図を示す。以下に、本発明の一実施形態の型内成形について
図1を参照して説明する。まず、あらかじめ発泡させた発泡樹脂粒子を金型内の割面にそれぞれ配置された凹凸2つの中型1を組み合わせて形成される成形空間2に充填する。その後、蒸気弁6を開き、それぞれの中型1の背面に設けられた蒸気室から各中型1の蒸気孔を通じて成形空間2に加熱媒体(最も汎用的には、蒸気)を導入する。成形空間2内の発泡樹脂粒子を加熱し相互に融着せしめた後、水冷および空冷よりなる冷却工程により形状を固定、その後、凹凸の中型1を開き、形状固定された成形体を取り出す。本発明に関わる部分を除き、市販の型内発泡成形機および市販の金型をそのまま使用できる。
【0030】
本発明の一実施形態の水冷とは、金型内の蒸気室下方に設けられたドレン口3を開けた状態、すなわちドレン口3に接続された排水弁(ドレン弁4ともいう)を開けた状態で、凹凸の中型1のそれぞれの蒸気室側に設けられたノズル5から連続して水を中型1に向けて噴霧し続ける冷却のことである。但し、冷却工程1の水冷はドレン口閉、すなわちドレン口に接続されたドレン弁を閉じた状態で行う。
【0031】
ノズルは従来の技術と同様に、中型裏面(すなわち、成形体と反対側)に当たるように、また、冷却される中型の面積等を考慮しながら、個数および噴射角度などを適宜選択、配置すれば良い。
【0032】
本発明の一実施形態の水冷の水の温度は、オレフィン系発泡樹脂粒子を用いる場合、45〜60℃が好ましい。水冷の水の温度が45〜60℃であれば、成形体の収縮が小さく、成形体に変形が生じ難いため好ましい。また、次の成形体の型内成形での加熱エネルギー消費が少ないため好ましい。
【0033】
水冷の水の温度が低い場合、金型が過度に冷却され成形体の収縮が大きくなったり、次の成形体の型内成形での加熱エネルギー消費が多くなったりする。一方、水冷の水の温度が高すぎる場合、成形体の冷却が不十分となり、取り出した成形体に膨れが生じたり変形が生じたりすることがある。
【0034】
水冷の水の温度の調整には、温度調整された排温水の再利用、排温水あるいは蒸気などの熱媒体との熱交換、ヒーター等による加熱など公知の方法が適用できる。
【0035】
本発明の一実施形態の空冷とは、排水弁を開けたまま水冷を止め、放置し排水を促す工程のことである。この工程において蒸気室内に圧縮空気を導入することで、さらなる排水の速度向上を期待することができる。水冷時間が短い場合、あるいは空冷時間が十分に長い場合は、エネルギーを使用してそのような工程を付加する必要は無い。ドレン口の個数および口径も、従来の技術同様に、排水性および金型の大きさなどを考慮して適宜選択すれば良い。
【0036】
本発明ではオレフィン系発泡樹脂粒子の型内成形によるオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法において、少なくとも以下の工程
冷却工程1:短時間水冷
冷却工程2:短時間水冷と短時間空冷との繰り返し
冷却工程3:それぞれ冷却工程2よりも長い時間の水冷と空冷との繰り返し
を順次行う工程を含む。
【0037】
また、本発明ではオレフィン系発泡樹脂粒子の型内成形によるオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法において、
加熱後、蒸気室に残留している加熱媒体を凝集する、冷却工程1と、
成形体表面に硬化層を形成する、冷却工程2と、
成形体内部を冷却する、冷却工程3と、
を順次実施する工程を含む。
【0038】
本発明の各冷却工程の時間は、中型の大きさ、成形体の厚さ(肉厚)、ノズルの配置数および蒸気室の大きさに応じて適宜決めれば良い。
【0039】
本発明の冷却工程1は、型内成形の加熱工程に続いて、ドレン口は閉めたままで水冷を実施し、主として加熱後、蒸気室に残留している加熱媒体、特に蒸気、を凝集(ドレン化)するための工程である。
【0040】
加熱媒体のドレン化が行えれば十分であることから、代表的には、冷却工程1の水冷時間は、好ましくは2秒間以上10秒間以下、より好ましくは3秒間以上8秒間以下の短時間である。冷却工程1の水冷時間が上記範囲内であれば、水冷に十分な水量が噴霧され、加熱媒体のドレン化を十分行うことができる。
【0041】
冷却工程1の水冷時間が2秒間よりも短い場合、冷却水弁7および空気弁8の動作遅れや冷却水弁7の開速度により十分な水量が噴霧されないことや、配管中の空気を押し出すだけで実効的な水冷にならないことがある。さらにまた、加熱媒体のドレン化が不十分となり蒸気室に比較的高い圧力の加熱媒体が残留してしまい、続く工程でドレン口を開けた際に、排水ライン等に該高い圧力の加熱媒体が瞬間的に流れ込むことがある。このため、該排水ライン各所のシール性、衝撃などについて対策する必要が発生する場合がある。冷却工程1の水冷時間が10秒間よりも長い場合、加熱媒体の凝集が終了し水冷の意味が薄れても水冷し続けることとなる場合がある。
【0042】
本発明の一実施形態の冷却工程2は、冷却工程1に続いて実施される工程で、中型を水冷で急冷することにより成形体表面に硬化層(スキン層)を形成すると共に、金型内部に噴霧した水が溜まり不均一な冷却にならないように、空冷および噴霧した冷却水の排出を行う工程である。この工程は、これら水冷と空冷とを繰り返す工程である。冷却工程1の終了時にドレン弁は開とし、冷却工程2でもドレン弁は開である。
【0043】
すなわち、冷却工程2では、急冷によってスキン層が形成される一方で、水が溜まらないような短時間の水冷を行い、直後に排水を促す空冷を繰り返すことが好ましい。水が溜まらない水冷時間としては、代表的には、2秒間以上10秒間以下が好ましく、3秒間以上8秒間以下がさらに好ましい。
【0044】
冷却工程2の水冷時間が上記範囲内であると、急冷するのに十分な水量が噴霧され、配管中の空気を押し出すことができる。また、冷却工程2の水冷時間が上記範囲内であると、蒸気室内に水が溜まり難い。
【0045】
水冷時間が短い場合、冷却水弁7および空気弁8の動作遅れや冷却水弁7の開速度により中型を急冷するには十分な水量が噴霧されなかったり、配管中の空気を押し出すだけで実効的な水冷にならなかったりすることがある。水冷時間が長い場合、蒸気室内に水が溜まり易く本発明の効果が薄れてしまう。
【0046】
排水を促す空冷の時間としては、該水冷の時間と同等程度の時間とすることが好ましい。この場合、概ね排水できれば良く、完全に排水する必要は無い。例えば、本冷却工程2の水冷を2秒間以上10秒間以下とする場合は、本冷却工程2の空冷も2秒間以上10秒間以下とすることが好ましい。本冷却工程2の水冷を3秒間以上8秒間以下とする場合は、本冷却工程2の空冷も3秒間以上8秒間以下とすることが好ましい。
【0047】
本冷却工程2は、水冷と空冷とを複数回繰り返すことによって行われる。本発明の効果をより確実にするためには、代表的には、上記水冷と空冷との組み合わせを2回以上5回以下行うことが好ましく、2回または3回繰り返すことが好ましい。
【0048】
従って、代表的には、冷却工程2の水冷時間の合計は、4秒間以上50秒間以下であり、代表的には、空冷時間の合計は、4秒間以上50秒間以下である。
【0049】
本発明の一実施形態の冷却工程3は、冷却工程2に続いて実施され、成形体内部を冷却するための工程である。すなわち、冷却工程2までの工程で、成形体内部の圧力の、減圧状態の緩和ないし大気圧化、および中型の急冷によるスキン層の形成は完了している。従って、本冷却工程3は成形体を金型から取り出し可能な状態まで、金型に本発明の効果を損なうような温度分布を生じずに、オレフィン系発泡樹脂成形体を冷却していく工程である。また、本冷却工程3は、水冷と空冷とを複数回繰り返すことによって行われる。
【0050】
中型がある程度冷却されてしまうと、成形体の温度降下は水冷によっても空冷によっても大きな差が無くなる。むしろ水冷を続けることによる冷却水の溜まりあるいは過度な金型温度分布の発生といった問題が生じる。このため、冷却工程3の初期は、成形体の温度がある程度下がってきたら水冷し続けることに代えて、空冷を長く設定することが好適となる。
【0051】
本発明とは異なる従来の型内成形時の水冷時間および空冷時間は、成形体の厚さ、加熱時のムラおよび金型の熱容量などによってその都度異なるため、一概に定義することができないが、通常は水冷時間と空冷時間との比率が凡そ3:1〜2:1と、水冷を長くした比率で行われることが多い。これに対して、本発明では、代表的には、本冷却工程3の水冷時間は、該通常の型内成形時の水冷時間と空冷時間とを逆転させ、凡そ1:2〜1:3とする。さらに、冷却工程3の繰り返し回数で略均等按分した時間を、1回の水冷時間および空冷時間として設定する。
【0052】
1回当たりの水冷時間としては、代表的には、好ましくは10秒間以上70秒間以下、より好ましくは15秒間以上60秒間以下とする。1回当たりの水冷時間が上記範囲内であれば、成形体を取り出しに適する温度に冷やすことができ、かつ、金型下部に冷却水が溜まり難い。1回当たりの水冷時間が短すぎると、成形体が取り出しに適する温度まで冷えるのに時間が掛かりすぎることがある。1回当たりの水冷時間が長すぎると、金型下部に冷却水が溜まってしまい金型に温度分布を生じ易くなり本発明の目的を損なうことがある。
【0053】
また、本冷却工程3の空冷時間は、代表的には、冷却工程3の水冷時間の凡そ2倍である。具体的には、好ましくは20秒間以上140秒間以下、より好ましくは30秒間以上120秒間以下とする。また、冷却工程3の水冷と空冷との繰り返しの回数は、代表的には、2回または3回が好ましい。冷却工程3の水冷時間、空冷時間、および水冷と空冷との繰り返しの回数が上記範囲内であれば、金型内に温度分布が生じ難い。
【0054】
水冷と空冷との繰り返しの回数を多くすると、1回当たりの冷却が不十分となりさらなる回数が必要となる。そのため、通常の型内成形よりも成形時間が長くなることがあり、1回だけだと水冷が長く水が溜まり易くなり金型内に温度分布が生じ易くなる上、金型が過度に冷え易く、次の成形体の型内成形で加熱媒体を多く消費することがある。
【0055】
冷却工程3の水冷と空冷との繰り返し回数が、上記範囲内であると、成形時間を短縮することができ、かつ金型下部に冷却水が溜まり難い。
【0056】
本発明とは異なる通常の型内成形時の水冷時間および空冷時間は、成形体の厚さ、加熱時のムラおよび金型の熱容量などによってその都度異なるため、一概に定義することができないが、代表的な例では、概ね80秒間(水冷60秒間、空冷20秒間)〜160秒間(水冷110秒間、空冷50秒間)である。
【0057】
これに対して、本発明では、代表的には、本冷却工程3の水冷時間の合計は、20秒間以上210秒間以下、好ましくは20秒間以上50秒間以下である。また、空冷時間の合計は、代表的には、40秒間以上420秒間以下、好ましくは60秒間以上110秒間以下である。
【0058】
冷却工程3の終了後、成形体の取り出し前に、例えば冷却工程4として、追加的に2秒間以上10秒間以下の水冷を行ってもよい。冷却工程4を行うことで、成形体の厚さの不均一、金型の厚さの不均一、並びに蒸気孔および冷却水の噴霧ノズルの配置などの理由による、成形体の変形を抑えることができるため好ましい。
【0059】
冷却工程4を行わず、冷却工程2〜3の時間を調整する方法を採ることもできる。但し、生産の途中で冷却条件の調整をする必要が無いことから、本冷却工程4の実施が好ましい。
【0060】
冷却工程4を採る場合でも、該工程の時間は、蒸気室内に水が溜まらず、かつ金型の温度を下げすぎないように、代表的には、2秒間以上10秒間以下、好ましくは3秒間以上8秒間以下である。
【0061】
尚、本発明の意図を実現する別方法として、上記水冷時間の設定に代えて、金型に水位が判別できるセンサを設け、その水位検知によって水冷を終了する方法を採ることもできる。
【0062】
図2は、本発明の一実施形態において金型の側壁外面に水位を検知するセンサを取り付けた状態の概略の斜視図である。
図2において、当該センサとしては、例えば、金型蒸気室側面に、外部から蒸気室内に連通する孔を蒸気室下端面と中型下端面相当の位置よりも上方の2カ所に開け、それを透明チューブ10で接続することにより蒸気室内の水位を確認できるようにした構成の途中に、センサ11(例としてオムロン株式会社製の近接センサ、型番:E2K−L)を設置したセンサを利用することができる。
【0063】
その他、金型内に水位を検知するセンサ、例えば、金型内部の所定位置、例えば中型の下端面付近に液面を検知する電極(例としてオムロン株式会社製の近接センサ、型番:PH−1)を設置してもよい。金型内は蒸気雰囲気であること、それに伴い比較的高温であるとともに加熱・冷却が繰り返される温度条件であることなどから、センサには高度の耐久性が要求される。そのため、上記近接センサのように金型内の蒸気雰囲気に直接触れないセンサである方が好ましい。
【0064】
尚、上記透明チューブとしては、耐熱性のある透明樹脂チューブの他、耐熱ガラス管などを用いることもできる。金型内の温度および蒸気雰囲気を考慮すると、耐熱ガラス管が好ましい。耐熱ガラス管を用いる場合、ガラスの脆弱性を鑑み、センサ検知に差し支えのない範囲で耐熱ガラス管を金属または管などで保護してもよい。
【0065】
透明チューブの金型への取り付けについては、通常、この種の取り付けに使われる接続金具9(
図2)などを本発明でも用いることができる。
【0066】
センサの設置による別方法は、当該センサを水冷時に金型内に溜まっても良い上限水位(所定水位)付近に設置し、本発明の一実施形態の冷却工程の水冷時間に代えて、当該センサが所定水位に達したことを検知することで水冷から空冷へと進めるようにする方法である。
【0067】
この場合、本発明の一実施形態の各冷却工程の水冷時間を、タイマー制御する代わりに、上記センサの設置による方法を採って制御することができる。特に時間の長い冷却工程3の水冷に対して有効である。
【0068】
冷却工程1あるいは冷却工程4の水冷は、特に短時間であることからタイマー制御とすることが好ましい。
【0069】
冷却工程2については、冷却工程2の水冷による許容水位付近に上記センサを追加することで対応し得るし、また制御精度としては好ましい。しかし、冷却工程2の水冷の目的からして水冷時間が比較的短時間であること、センサを追加することによる作業工数を考えると、冷却工程2も、タイマー制御とすることが好ましい。
【0070】
このように、本発明の各工程の水冷時間の設定を、水位を検知するセンサで代替することができるが、この置き換えは本発明の本質を何ら変更するものではない。
【0071】
なお、本発明は、以下のような構成とすることも可能である。
【0072】
〔1〕オレフィン系発泡樹脂粒子の型内成形によるオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法であって、以下の冷却工程1〜3
冷却工程1:短時間水冷
冷却工程2:水冷と空冷との繰り返し
冷却工程3:それぞれ冷却工程2よりも長い時間の水冷と空冷との繰り返し
の各工程を順次実施する工程を含むことを特徴とする、オレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0073】
〔2〕金型に水位が判別できるセンサを設け、その水位検知によって上記冷却工程1〜3のうちの少なくとも1つの水冷を終了することを特徴とする、〔1〕に記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0074】
〔3〕オレフィン系発泡樹脂粒子の型内成形によるオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法であって、
加熱後、蒸気室に残留している加熱媒体を凝集する、冷却工程1と、
成形体表面に硬化層を形成する、冷却工程2と、
成形体内部を冷却する、冷却工程3と、
を順次実施する工程を含むことを特徴とする、オレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0075】
〔4〕上記冷却工程1が、2秒間以上10秒間以下の水冷を行う工程であることを特徴とする、〔1〕〜〔3〕の何れか1つに記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0076】
〔5〕上記冷却工程2が、2秒間以上10秒間以下の水冷と、2秒間以上10秒間以下の空冷との繰り返しを行う工程であることを特徴とする、〔1〕〜〔4〕の何れか1つに記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0077】
〔6〕上記冷却工程2の繰り返し回数が、2回以上5回以下であることを特徴とする、〔1〕〜〔5〕の何れか1つに記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0078】
〔7〕上記冷却工程3が、10秒間以上70秒間以下の水冷と、20秒間以上140秒間以下の空冷との繰り返しを行う工程であることを特徴とする、〔1〕〜〔6〕の何れか1つに記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0079】
〔8〕上記冷却工程3の繰り返し回数が、2回または3回であることを特徴とする、〔1〕〜〔7〕の何れか1つに記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0080】
〔9〕上記冷却工程3の後に、冷却工程4:2秒間以上10秒間以下の水冷を実施することを特徴とする、〔1〕〜〔8〕の何れか1つに記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法。
【0081】
〔10〕〔1〕〜〔9〕の何れか1つに記載のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法を用いた型内成形により成形されることを特徴とする、オレフィン系発泡樹脂成形体。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施形態をさらに詳しく説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0083】
実施例および比較例で用いたオレフィン系発泡樹脂粒子および装置、並びに本発明の効果の評価方法について以下説明する。
【0084】
(オレフィン系発泡樹脂粒子)
実施例および比較例では、オレフィン系発泡樹脂粒子として株式会社カネカ製のプロピレン系発泡樹脂粒子(エペランLBS30C)を用いた。型内成形に当たっては、加圧タンクにてオレフィン系発泡樹脂粒子を圧縮空気で24時間、空気加圧保持し、本発明において好適な圧力である約0.2MPaGまで気泡内圧力を高めてから型内成形に供した。型内成形された成形体を金型から取り出し、室温にて1時間放置した後、室内温度80℃の乾燥室に24時間入れ、乾燥した。
【0085】
(装置)
実施例および比較例では、東洋機械金属株式会社製のオレフィン発泡樹脂用型内成形機P110を用いた。尚、実施例および比較例では冷却工程の動作プログラムをそれぞれの実施内容に応じて変更して使用した。
【0086】
実施例および比較例では、概略寸法が長辺(幅方向)850mm×短辺(上下方向)750mm×厚さ50mmの板状の成形体の1個取り金型(金型A)、および概略寸法が長辺(幅方向)650mm×短辺(上下方向)285mm×高さ150mmで平均厚さ30mmの上面が開放された単純箱形状成形体の2個取り(上下各1個、横長配置)の金型(金型B)を使用した。金型Aでは成形体を形成する中型は、蒸気室中央に配置されており、蒸気室には中型の上下面からそれぞれ120mm程度の空間がある。金型Bでは中型は、蒸気室に対して配置した中型の上面、下面および中型の間の間隔が概ね均等になるように配置され、それぞれ140mm程度の空間がある。金型A,B共に中型から、蒸気室背面までには概ね100mmの空間があり、ここに水冷配管とノズルとが配置されている。金型A,Bの概略形状は
図1の金型の形状と同様である。但し、
図1は汎用的かつ概念的な記載であり、金型Aおよび金型Bの成形室と形状は異なる。
【0087】
(評価方法)
実施例および比較例では、以下の3点の評価を行った。
【0088】
<評価点1 冷却終了時点の蒸気室内の水位>
金型蒸気室側面に、外部から蒸気室内に連通する直径10mmの孔を蒸気室下端および蒸気室上端付近の2カ所に開け、それらの孔を透明チューブで接続することにより蒸気室内の水位を確認できるようにした。水位は、透明チューブに沿わすように金型蒸気室側面に貼り付けた定規で目視確認した。
【0089】
水位の測定は、下側に配置される中蒸気室の略下面の高さを「0」に規定し、蒸気室の略上面の高さを「100」(換算高さ)に換算して、「水位÷換算高さ×100」で中型(群)の水没率(%)を示すことにより実施した。中型(群)の水没率は、金型Aの場合は中型下面が12%、上面が88%、金型Bの場合は下側中型の下面が14%、上面が43%、上側中型の下面が57%、上面が86%となる。従って、水没率(水位)がこれら%以上になると、対応する中型が水没していることを示す。
【0090】
<評価点2 冷却終了時点の金型温度>
金型Aの場合は中型上下の2カ所、金型Bの場合は下側中型の下側付近および上側中型の下側付近の計2カ所に熱電対を貼り付け、外部に設置した温度計にて冷却終了時点のそれぞれの金型温度(温度指示値)を目視確認した。冷却終了時の上記2カ所の温度差および平均温度を計算、評価した。
【0091】
<評価点3 成形体の変形および収縮>
成形体を金型から取り出した後、乾燥し、室温にて12時間経過後に、各成形体の長辺寸法を各成形体の上部、下部2カ所において定規を用いて測定した。測定値と金型寸法との差異を求め、当該差異を金型寸法で除した値「差異÷金型寸法×100」を収縮率(%)として小数点以下1桁まで計算、評価した。
【0092】
(実施例1)
金型Aを用い、オレフィン系発泡樹脂粒子としてのプロピレン系発泡樹脂粒子(エペランLBS30C)を、3秒間の予備加熱、一方の金型による5秒間の片面加熱、他方の金型による2.5秒間の片面加熱、および両方の金型による11秒間の両面加熱にて加熱した。その後、5秒間の水冷を行う冷却工程1、5秒間の水冷と5秒間の空冷とを2回繰り返す冷却工程2、および、15秒間の水冷と45秒間の空冷とを2回繰り返す冷却工程3を行った後、さらに5秒間の水冷を行う冷却工程4を実施し、成形体を取り出した。各水冷に用いた冷却水は、55℃程度に温度調整した。また、冷却水の水圧を減圧調整し、0.4MPaとした。
・評価点1:冷却工程1の終了時点において、冷却工程全体を通しての最高水位である10%ほどに到達した。それ以降、水位は下がり、冷却工程2の終了時点では、水位は中型下面よりも下となり、蒸気室下端付近となった。
・評価点2:冷却終了時点での平均温度は65℃、温度差は1℃であった。
・評価点3:上部および下部の収縮率はそれぞれ1.5%で差が無かった。成形体は膨れもなく良好であった。
【0093】
(実施例2)
10秒間の水冷と20秒間の空冷とを3回繰り返す冷却工程3を行った以外は、実施例1と同様の工程を経て、成形体を取り出した。
・評価点1:実施例1と同様の結果となった。
・評価点2:冷却終了時点での平均温度は66℃、温度差は3℃であった。
・評価点3:上部および下部の収縮率はそれぞれ1.5%で差が無かった。
【0094】
(実施例3)
冷却工程4を省略した以外は、実施例1と同様の工程を経て、成形体を取り出した。
・評価点1:冷却工程1の終了時点において、冷却工程全体を通しての最高水位である10%ほどに到達した。それ以降、水位は下がり、冷却工程2の終了時点では、水位は中型下面よりも下となり、蒸気室下端付近となった。
・評価点2:冷却終了時点での平均温度は66℃、温度差は2℃であった。
・評価点3:上部および下部の収縮率はそれぞれ1.5%で差が無かった。成形体は外観が良好であるものの、成形体表面に若干ではあるが粒子の膨れによる凹凸が観察された。
【0095】
(実施例4)
金型Bを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て、成形体を取り出した。
・評価点1:冷却工程1の終了時点において、冷却工程全体を通しての最高水位である10%ほどに到達した。それ以降、水位は下がり、冷却工程2の終了時点では、水位は中型下面よりも下となり、蒸気室下端付近となった。
・評価点2:冷却終了時点での平均温度は65℃、温度差は1℃であった。
・評価点3:上部および下部の収縮率はそれぞれ1.5%で差が無かった。成形体は膨れもなく良好であった。
【0096】
(実施例5)
上記透明チューブにおける、金型の蒸気室下端面から中型下端面への距離のおおよそ80%の位置に、オムロン株式会社製の近接センサ(型番:E2K−L)を設置した。その近接センサによる検知をもって冷却工程3の水冷の終了とした以外は、実施例1と同様の工程を経て、成形体を取り出した。実施結果は実施例1と同様であった。
【0097】
(比較例1)
金型Aを用い、オレフィン系発泡樹脂粒子としてのプロピレン系発泡樹脂粒子(エペランLBS30C)を、3秒間の予備加熱、一方の金型による5秒間の片面加熱、他方の金型による2.5秒間の片面加熱、および両方の金型による11秒間の両面加熱にて加熱した。その後、5秒間の水冷を行う冷却工程1、および、100秒間の水冷に続いて50秒間の空冷を実施し、成形体を取り出した。各水冷に用いた冷却水は、55℃程度に温度調整した。また、冷却水の水圧を減圧調整し、0.4MPaとした。本比較例は、通常の型内成形方法に相当する。
・評価点1:100秒間の水冷の途中において、冷却工程全体を通しての最高水位である60%ほどに到達した。その後、空冷に入ると水位は下がったが、冷却工程の終了時点でも25%ほどの水位を保っていた。この水は、成形体の取り出し時に、中型に形成された蒸気穴などから排水された。
・評価点2:冷却終了時点での平均温度は60℃、温度差は7℃であった。
・評価点3:上部の収縮率は1.5%、下部の収縮率は2%で差が生じ、成形体に変形を生じた。成形体の表面は膨れもなく良好であった。
【0098】
(比較例2)
100秒間の水冷に続いて50秒間の空冷を実施する代わりに、10秒間の水冷と5秒間の空冷とを10回繰り返す冷却工程を実施した以外は、比較例1と同様の工程を経て、成形体を取り出した。
・評価点1:冷却工程に入ると最初の水冷において、冷却工程全体を通しての最高水位である23%ほどに到達した。その後、空冷に入ると水位は下がったが、再度、水冷に入ると水位が上昇した。それ以降、最高水位が下がりつつ、水位の上下が繰り返され、冷却工程の終了時点でも10%ほどの水位を保っていた。この水は、成形体の取り出し時に、中型に形成された蒸気穴などから排水された。
・評価点2:冷却終了時点での平均温度は62℃、温度差は5℃であった。
・評価点3:上部の収縮率は1.5%、下部の収縮率は1.8%で差が生じ、比較例1よりは小さいが成形体に変形を生じた。成形体の表面は膨れもなく良好であった。
【0099】
以上のように、本発明の一実施形態のオレフィン系発泡樹脂成形体の製造方法を採用することで、金型の温度分布を小さくし成形体の変形を低減することができる。また、金型の温度を高く保つことで、次の成形体の型内成形に使用する熱エネルギーを低減することができる。
【0100】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。