特許第6554616号(P6554616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6554616自動変速機の制御装置及び自動変速機の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554616
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置及び自動変速機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20190722BHJP
【FI】
   F16H61/04
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-548618(P2018-548618)
(86)(22)【出願日】2017年10月18日
(86)【国際出願番号】JP2017037747
(87)【国際公開番号】WO2018083988
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2018年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-217448(P2016-217448)
(32)【優先日】2016年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 嘉裕
(72)【発明者】
【氏名】栗田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】山本 明弘
(72)【発明者】
【氏名】板倉 亮文
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−163535(JP,A)
【文献】 特開2013−60048(JP,A)
【文献】 特開2010−76677(JP,A)
【文献】 特開2008−74197(JP,A)
【文献】 特開2006−219001(JP,A)
【文献】 特開2015−140893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00− 61/12
F16H 61/16− 61/24
F16H 61/66− 61/70
F16H 63/40− 63/50
F16D 25/00− 39/00
F16D 48/00− 48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構と、エンジンと前記変速機構との間に設けられる摩擦クラッチと、を備える自動変速機の制御装置であって、
コースト走行中に前記自動変速機をアップシフトする際は、前記摩擦クラッチを締結状態からスリップ状態にして前記エンジンの回転速度を目標エンジン回転速度まで低下させてから前記アップシフトを前記スリップ状態のまま実行する、
自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機の制御装置であって、
前記自動変速機は、
変速段を達成する複数のドグクラッチと、
前記アップシフトの際に、前記複数のドグクラッチのうち前記アップシフト時の変速下段に対応する変速下段クラッチ、及び変速上段に対応する変速上段クラッチそれぞれを同時に噛合わせて、前記変速上段クラッチの噛合いに応じて前記変速下段クラッチに作用するトルクで、前記変速下段クラッチの噛合いを解除する噛合解除機構と、を備える、
自動変速機の制御装置。
【請求項3】
変速機構と、エンジンと前記変速機構との間に設けられる摩擦クラッチと、を備える自動変速機の制御方法であって、
コースト走行中に前記自動変速機をアップシフトする際は、前記摩擦クラッチを締結状態からスリップ状態にして前記エンジンの回転速度を目標エンジン回転速度まで低下させてから前記アップシフトを前記スリップ状態のまま実行する、
自動変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御装置及び自動変速機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2009−298199Aには、無段変速機をアップシフトする際に、エンジントルクを低下させることで、エンジン回転速度の低下に伴って発生するイナーシャトルクを相殺することが開示されている。これによれば、アップシフトに伴う変速ショックが抑制される。
【0003】
また、JP2009−298199Aには、エンジントルクを低下させることができない場合は、変速速度を遅くすることでイナーシャトルクの発生を抑制することが開示されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、JP2009−298199Aに開示の技術では、一般的な有段自動変速機やシームレス自動変速機(例えば、JP2012−127471A参照)等といった変速速度を細かく制御することが難しい自動変速機を備えた車両において、コーストアップ走行中であってエンジンのトルクを低下させることができない場合は、イナーシャトルクの発生を抑制できないという問題がある。
【0005】
本発明は、コースト走行中にアップシフトする際のエンジンのイナーシャトルクの発生を抑制することを目的とする。
【0006】
本発明のある態様によれば、変速機構と、エンジンと前記変速機構との間に設けられる摩擦クラッチと、を備える自動変速機の制御装置であって、コースト走行中に前記自動変速機をアップシフトする際は、前記摩擦クラッチをスリップ状態にして前記エンジンの回転速度を目標エンジン回転速度まで低下させてから前記アップシフトを実行する、自動変速機の制御装置が提供される。
【0007】
また、本発明の別の態様によれば、変速機構と、エンジンと前記変速機構との間に設けられる摩擦クラッチと、を備える自動変速機の制御方法であって、コースト走行中に前記自動変速機をアップシフトする際は、前記摩擦クラッチをスリップ状態にして前記エンジンの回転速度を目標エンジン回転速度まで低下させてから前記アップシフトを実行する、自動変速機の制御方法が提供される。
【0008】
これらの態様では、コースト走行中は、アップシフトする前にエンジンの回転速度を低下させるので、アップシフトを実行したときのエンジンのイナーシャトルクの発生を抑制できる。よって、変速ショックを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。
図2図2は、自動変速機の概略構成図である。
図3図3は、複数のカム溝を示す図である。
図4図4は、ATCUが行う制御の内容を示すフローチャートである。
図5図5は、コースト走行中にアップシフトが実行される様子を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、車両100の概略構成図である。車両100は、エンジン50を備える。エンジン50の動力は、自動変速機1、差動装置51を介して、駆動輪52へと伝達される。
【0012】
ATCU10は、自動変速機1を制御する制御装置としての自動変速機コントロールユニットである。ATCU10には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ11、車速VSPを検出する車速センサ12等からの信号が入力される。ATCU10は、ECU20と相互通信可能に接続される。
【0013】
ECU20は、エンジン50を制御するエンジンコントロールユニットである。ECU20は、エンジン50の回転速度(エンジン回転速度)Ne、スロットル開度TVO等をATCU10に出力する。
【0014】
なお、ATCU10とECU20とを個別に設けるのではなく、両者の機能を統合した統合コントロールユニットを設けてもよい。また、ATCU10の機能をECU20や他のコントロールユニットに分担させてもよい。ECU20についても同様である。
【0015】
各コントロールユニットは、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インターフェース(I/Oインターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成することが可能である。各コントロールユニットをそれぞれ複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0016】
図2は、自動変速機1の概略構成図である。図2では、以下で説明するシフトドラム21及びチェック機構3を展開した状態で示す。自動変速機1は、変速機構2と、チェック機構3と、駆動モータ4と、エンジン50との間に設けられた摩擦クラッチCLと、摩擦クラッチCLに油圧Pcを供給する油圧回路(図示せず)と、を備える。自動変速機1は、1速、2速及び3速の変速段を含む複数の変速段を有する。
【0017】
変速機構2は、シフトドラム21と、ロッド機構22と、変速ギア部23と、を備える。シフトドラム21は、複数のカム溝211を有する。
【0018】
複数のカム溝211は、シフトパターンに応じたカム形状を有する。シフトパターンは具体的には、一の操作方向で変速段が順次達成されるシーケンシャルシフトパターンである。シフトドラム21は、複数のカム溝211を有することで、シフトパターンが設定された切替要素とされる。
【0019】
シフトドラム21は、各変速段及びニュートラルに応じた複数の切替位置を有する。複数の切替位置は具体的には順に、1速位置GP1、ニュートラル位置NP、2速位置GP2、ニュートラル位置NP、3速位置GP3となっている。
【0020】
ニュートラル位置NPは、アップシフト時の変速下段位置LP及び変速上段位置UPと隣り合うように設定される。例えば、1速から2速へのアップシフトでは、1速位置GP1が変速下段位置LPとなり、2速位置GP2が変速上段位置UPとなる。
【0021】
ロッド機構22は、複数のシフトロッド221、複数のシフトアーム222及び複数のシフトフォーク223を有する。複数のシフトロッド221の具体的形状は、互いに異なっていてよい。複数のシフトアーム222、複数のシフトフォーク223及び後述する複数のロック防止機構236についても同様である。
【0022】
シフトロッド221は、カム溝211毎に設けられる。各シフトロッド221には、シフトアーム222とシフトフォーク223とが設けられる。シフトアーム222は、カム溝211と係合し、シフトフォーク223は、後述するスリーブ235と係合する。
【0023】
変速ギア部23は、メインシャフト231と、カウンターシャフト232と、複数のギア233と、複数のハブ234と、複数のスリーブ235と、複数のロック防止機構236とを備える。複数のギア233は、1速ギア233a、2速ギア233b、3速ギア233cを含む。また、複数のハブ234は、1速ハブ234a、2速ハブ234b、3速ハブ234cを含み、複数のスリーブ235は、1速スリーブ235a、2速スリーブ235b、235cを含む。
【0024】
メインシャフト231には、エンジン50からの動力が摩擦クラッチCLを介して入力される。カウンターシャフト232は、メインシャフト231と並列に設けられ、複数のギア233と噛合う複数のカウンターシャフトギア部を有する。カウンターシャフト232には、複数のギア233のうち達成状態にある変速段のギアを介してメインシャフト231から動力が伝達される。
【0025】
複数のギア233それぞれは、メインシャフト231に相対回転可能に設けられる。複数のギア233それぞれは、外歯からなる複数のドグ歯を有する第1ドグクラッチ部を備える。第1ドグクラッチ部は、噛合動作されない側のクラッチ要素を構成する。
【0026】
複数のハブ234それぞれは、メインシャフト231に設けられ、メインシャフト231とともに回転する。ハブ234はメインシャフト231の一部であってもよく、メインシャフト231とは別の部材としてメインシャフト231に固定されてもよい。
【0027】
複数のハブ234それぞれの外周には、スリーブ235が設けられる。スリーブ235は、対応するハブ234とともに回転する一方、メインシャフト231の軸方向へ移動可能に設けられる。互いに対応するハブ234及びスリーブ235は例えば、スプラインで係合させることができる。複数のスリーブ235それぞれの外周には、シフトフォーク223がスリーブ235の回転を許容しながら係合する。複数のスリーブ235それぞれは、シフトフォーク223によってメインシャフト231の軸方向に移動される。
【0028】
複数のスリーブ235それぞれは、第2ドグクラッチ部を備える。第2ドグクラッチ部は、噛合動作される側のクラッチ要素であり、メインシャフト231の軸方向に移動して、対応する第1ドグクラッチ部との噛合い、噛合いの解除を行う。第2ドグクラッチ部は、対応する第1ドグクラッチ部とともにドグクラッチDGを構成する。
【0029】
自動変速機1は、複数のドグクラッチDGを有する。複数のドグクラッチDGは、1速、2速、3速の変速段を達成するための1速ドグクラッチDG1、2速ドグクラッチDG2、3速ドグクラッチDG3を含む。複数のドグクラッチDGのうちいずれかが噛合状態となると、対応するギア233がメインシャフト231とともに回転し、変速段が達成される。図2では、1速ドグクラッチDG1が噛合状態、2速、3速ドグクラッチDG2、DG3それぞれが解放状態となっており、1速の変速段が達成されている。
【0030】
ロック防止機構236は、複数の変速段のうち少なくともアップシフト時に変速下段を構成する変速段のハブ234及びスリーブ235に設けられる。ロック防止機構236については後述する。
【0031】
チェック機構3は、変速機構2を切替位置で保持する。具体的にはチェック機構3は、シフトドラム21に設けられ、シフトドラム21を切替位置で保持する。これにより、変速機構2全体としても切替位置で保持される。チェック機構3は、チェックボール31と、複数のチェック溝32と、スプリング33とを備える。
【0032】
チェックボール31は、複数のチェック溝32のうちいずれかと係合した状態でシフトドラム21を保持する。チェックボール31は具体的には、現在の切替位置に対応するチェック溝32を保持するように設けられる。図2では、シフトドラム21の現在の切替位置が1速位置GP1のため、チェックボール31が1速位置GP1に対応するチェック溝32を保持している。
【0033】
複数のチェック溝32は、シフトドラム21の作動方向に沿って設けられる。チェック溝32は、各切替位置に対応させて設けられる。具体的にはチェック溝32は、シフトドラム21の回転方向において各切替位置と同じ位置に設けられる。
【0034】
複数のチェック溝32は、第1のチェック溝であるチェック溝321と、第2のチェック溝であるチェック溝322とを有して構成される。チェック溝321は、1速位置GP1から3速位置GP3に対応するチェック溝32、つまり各変速段に対応するチェック溝32である。チェック溝322は、ニュートラル位置NPに対応するチェック溝32である。スプリング33は、チェックボール31を付勢する付勢部材を構成する。
【0035】
駆動モータ4は、切替位置を変更するように変速機構2を駆動する駆動源を構成する。駆動モータ4は具体的には、シフトドラム21を駆動することで、このように変速機構2を駆動する。駆動モータ4は、ATCU10によって制御される。
【0036】
また、ATCU10は、油圧回路に制御指令値を出力し、油圧回路から摩擦クラッチCLに供給される油圧Pcを調整する。これにより、摩擦クラッチCLの締結状態が制御される。
【0037】
ATCU10には、上述したアクセル開度センサ11、車速センサ12等からの信号が入力される他に、図1に示すように、シーケンシャル式のシフトレバーに対する変速操作を検出するシフトスイッチ13、シフトドラム21の位置を検出する位置センサ14からの信号が入力される。位置センサ14は具体的には、シフトドラム21の回転位置を表すシフトドラム回転角を検出する。
【0038】
ATCU10は、アップシフト操作が行われた場合に、図2に示すシフトアップ駆動方向SUDにシフトドラム21を回転させ、ダウンシフト操作が行われた場合に、シフトダウン駆動方向SDDにシフトドラム21を回転させる。
【0039】
図3は、複数のカム溝211を示す図である。なお、以下では、主に1速から2速へのアップシフトを例にして説明するが、2速から3速へのアップシフトについても、1速から2速へのアップシフトと同様である。
【0040】
図3に示すように、複数のカム溝211は具体的には、1速、2速、3速の変速段を達成するための1速カム溝211a、2速カム溝211b、3速カム溝211cを含む。また、複数のカム溝211それぞれは、対応するスリーブ235を噛合位置に位置させる噛合溝D1と、対応するスリーブ235を噛合解除位置に位置させる噛合解除溝D2と、噛合溝D1及び噛合解除溝D2を結ぶ遷移溝D3とを有する。
【0041】
2速カム溝211bには、ニュートラル位置NPからニュートラル位置NP及び2速位置GP2の中間位置に亘って、遷移溝D3が設けられる。1速カム溝211aには、シフトドラム21の回転方向における設定範囲が当該遷移溝D3とオーバラップするように自由溝D31が設けられる。
【0042】
自由溝D31は、遷移溝D3の変速上段位置UP側溝壁部と変速下段位置LP側溝壁部とで、シフトドラム21の回転方向における設定範囲がオーバラップしないように、変速上段位置UP側溝壁部を変速上段位置UP側にずらすことで設けられている。自由溝D31は、噛合溝D1及び噛合解除溝D2をカム溝211の幅方向に連結して一体にした形状を有する。自由溝D31では、シフトアーム222の位置は、噛合溝D1相当の位置及び噛合解除溝D2相当の位置の間でカム溝211によって規制されない。
【0043】
このため、シフトドラム21の切替位置が1速位置GP1からニュートラル位置NPになっても、1速カム溝211aでは、噛合溝D1に位置していたシフトアーム222が、噛合解除溝D2相当の位置に移動せず、そのまま噛合溝D1相当の位置に留まり、アップシフトが続行される。
【0044】
2速ドグクラッチDG2の噛合いは、2速カム溝211bでシフトアーム222が遷移溝D3を通過している際に開始される。結果、1速ドグクラッチDG1と2速ドグクラッチDG2とがともに噛合状態となる。つまり、1速ドグクラッチDG1と2速ドグクラッチDG2の同時噛合いが発生する。
【0045】
同時噛合いが発生すると、2速ドグクラッチDG2の噛合いに応じて、2速スリーブ235bから2速ギア233b、カウンターシャフト232、1速ギア233aを介して、1速スリーブ235aにトルクが作用する。結果、1速スリーブ235aが、メインシャフト231に対して増速される状態となる。
【0046】
この際、1速に対して設けられた変速下段のロック防止機構236は、2速スリーブ235bに対する相対回転を許容しながら、1速スリーブ235aに噛合解除方向の軸力を生じさせる。
【0047】
すなわち、ロック防止機構236は、アップシフト時の変速上段及び変速下段のスリーブ235それぞれが同時噛合いをした際に、変速上段のスリーブ235と変速下段のスリーブ235との相対回転を許容する。
【0048】
また、ロック防止機構236は、このような相対回転を許容しながら、変速上段のドグクラッチDGの噛合いに応じて変速下段のドグクラッチDGに作用するトルクで、変速下段のドグクラッチDGに噛合解除方向の軸力を生じさせる。当該軸力は具体的にはここでは、1速スリーブ235aの第2ドグクラッチ部に作用する。その一方で、1速カム溝211aでは、シフトアーム222は自由溝D31に位置している。
【0049】
このため、1速カム溝211aでシフトアーム222が噛合解除溝D2相当の位置に移動できることと相俟って、1速スリーブ235aは軸力によって噛合解除位置に移動され、これにより1速ドグクラッチDG1の噛合いが解除される。
【0050】
ロック防止機構236は、シフトドラム21及びロッド機構22とともに、噛合解除機構RMを構成する。噛合解除機構RMは、アップシフトの際に、複数のドグクラッチDGのうちアップシフト時の変速下段に対応する変速下段のドグクラッチDG、及び変速上段に対応する変速上段のドグクラッチDGそれぞれを同時に噛み合わせる。また、噛合解除機構RMは、変速上段のドグクラッチDGの噛合いに応じて変速下段のドグクラッチDGに作用するトルクで、変速下段のドグクラッチDGの噛合いを解除する。
【0051】
自動変速機1は、噛合解除機構RMを備えることで、シームレス自動変速機として構成される。シームレス自動変速機では、上述のように同時噛合いをさせてアップシフトを行うので、エンジン50から駆動輪52への動力がアップシフトによって途切れないようにすることができる。噛合解除機構RMは、ロック防止機構236を含む変速ギア部23がシフトドラム21及びロッド機構22とともに構成していると把握することもできる。
【0052】
ダウンシフトについては、次の通りである。すなわち、ダウンシフトの際には摩擦クラッチCLは一旦解放される。そして、ニュートラル位置NPでは、同時噛合いを行わずに自動変速機1はニュートラル状態とされ、この状態で変速下段側のドグクラッチDGの同期制御が行われる。同期制御では、摩擦クラッチCLを接続し、エンジン50によってドグクラッチDGの回転の同期を図る。そして、同期制御が完了したら摩擦クラッチCLを解放して、ドグクラッチDGを噛み合わせる。
【0053】
ところで、自動変速機1の変速段は、アクセル開度APOと車速VSPとをパラメータとするマップに基づいて決定される。このため、車両100においては、例えば、下り勾配の道路をコースト走行している場合等において、アップシフトが実行されることがある。
【0054】
ここで、アップシフトする際には、エンジン50のトルク(エンジントルク)Teを低下させることでエンジン回転速度Neの変化に伴って発生するイナーシャトルクTinerを相殺し、変速ショックを抑制することが考えられる。また、エンジントルクTeを低下させることができない場合は、変速速度を遅くすることでイナーシャトルクの発生を抑制することが考えられる。
【0055】
しかしながら、本実施形態の自動変速機1は、上述した構成から分かるように、変速速度を細かく制御することが難しい。このため、コースト走行中であってエンジントルクTeを低下させることができない場合は、イナーシャトルクの発生を抑制できず、結果として変速ショックが発生する可能性がある。
【0056】
このため、本実施形態のATCU10は、走行中に図4のフローチャートに示す制御を実行することで、コースト走行中にアップシフトする際のイナーシャトルクの発生を抑制できるようにしている。
【0057】
以下、ATCU10が実行する制御の内容について、図4を参照しながら詳しく説明する。
【0058】
ステップS11では、ATCU10は、車両100がコースト走行中か判定する。具体的には、ATCU10は、アクセル開度APO=0の状態で車両100が惰性走行中である場合に、車両100がコースト走行中であると判定する。
【0059】
ATCU10は、車両100がコースト走行中と判定すると、処理をステップS12に移行する。また、車両100がコースト走行中でないと判定すると、ステップS11の処理を繰り返し行う。
【0060】
ステップS12では、アップシフト条件が成立したか判定する。ステップS12の判定は、上述したように、アクセル開度APOと車速VSPとをパラメータとするマップに基づいて行われる。
【0061】
ATCU10は、アップシフト条件が成立したと判定すると、処理をステップS13に移行する。また、アップシフト条件が成立していないと判定すると、ステップS11に戻って処理を繰り返し行う。
【0062】
ステップS13では、ATCU10は、エンジントルクTeが所定の下限トルクよりも大きいか判定する。
【0063】
所定の下限トルクは、アップシフトする際にエンジントルクTeを低下させることで、エンジン回転速度Neの変化に伴って発生するイナーシャトルクTinerを相殺可能なトルクの下限値である。つまり、下限トルクよりもエンジントルクTeが大きい場合は、イナーシャトルクTinerを相殺できるだけのエンジントルクTeの低下代が有ることになる。一方で、エンジントルクTeが下限トルク以下の場合は、エンジントルクTeの低下代が少ないので、イナーシャトルクNinerを狙い通りに相殺できない。
【0064】
ATCU10は、エンジントルクTeが下限トルクよりも大きいと判定すると、処理をステップS14に移行する。また、エンジントルクTeが下限トルク以下と判定すると、処理をステップS15に移行する。なお、コースト走行中に燃料噴射を停止する場合は、エンジントルクTeは下限トルク以下となる。
【0065】
ステップS14では、ATCU10は、エンジントルクTeを低下させてアップシフトを実行する。
【0066】
ステップS15では、ATCU10は、摩擦クラッチCLをスリップ状態にする。具体的には、油圧回路に制御指令値を出力し、油圧回路から摩擦クラッチCLに供給される油圧Pcを低下させる。
【0067】
制御指令値は、摩擦クラッチCLのトルク容量が、エンジントルクTeよりもわずかに低くなるように設定される。これにより、摩擦クラッチCLがスリップ状態となり、エンジン回転速度Neが低下する。
【0068】
ステップS16では、ATCU10は、目標エンジン回転速度TNeを算出する。目標エンジン回転速度TNeは、自動変速機1の出力軸であるカウンターシャフト232の回転速度にアップシフト後の自動変速機1のスルー変速比を乗じて求められる。
【0069】
ステップS17では、ATCU10は、エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度TNe以下になったか判定する。
【0070】
ATCU10は、エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度TNe以下になったと判定すると、処理をステップS18に移行する。また、エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度TNeよりも高いと判定すると、ステップS17の処理を繰り返し行う。
【0071】
ステップS18では、ATCU10は、アップシフトを実行する。
【0072】
ステップS19では、ATCU10は、摩擦クラッチCLを締結状態にする。具体的には、油圧回路に制御指令値を出力し、油圧回路から摩擦クラッチCLに供給される油圧Pcを締結圧まで上昇させる。
【0073】
このように、本実施形態のATCU10は、コースト走行中にアップシフトする際に、エンジントルクTeを低下させることではイナーシャトルクTinerを相殺できない場合は、エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度TNeまで低下させてから、アップシフトを実行する。
【0074】
これによれば、アップシフトを実行したときのイナーシャトルクTinerの発生を抑制できる。よって、アップシフト時の変速ショックを抑制できる。また、本実施形態では、アップシフトの実行中も摩擦クラッチCLがスリップ状態となっているので、変速ショックの発生が一層抑制される。
【0075】
続いて、図5のタイムチャートを参照しながら、コースト走行中にエンジン回転速度Neを低下させてからアップシフトを実行する様子について説明する。図5では、車両100がコースト走行中であるため、車両100の駆動力、エンジントルクTe、及び自動変速機1への入力トルクTinpはマイナス(エンジンブレーキ状態)となっている。
【0076】
時刻t1でアップシフト条件が成立すると、油圧回路から摩擦クラッチCLに供給される油圧Pcが低下し、摩擦クラッチCLがスリップ状態となる。これにより、エンジン回転速度Neが徐々に低下する。
【0077】
エンジン回転速度Neの変化に伴ってイナーシャトルクTinerが発生するものの、摩擦クラッチCLをスリップ状態にしてエンジン回転速度Neを徐々に低下させているので、大きなイナーシャトルクTinerは発生しない。
【0078】
時刻t1から時刻t2にかけて、エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度TNeまで低下する。
【0079】
時刻t1から時刻t2の間は、摩擦クラッチCLがスリップ状態なので、イナーシャトルクTinerは自動変速機1には殆ど伝達されない。よって、入力トルクTinp及び駆動力は変動しない。
【0080】
時刻t2でエンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度TNeまで低下すると、アップシフトが実行される。このとき、油圧回路から摩擦クラッチCLに供給される油圧Pcを少し上昇させて摩擦クラッチCLの容量を戻すので、エンジン回転速度Neが時刻t2以降も低下し続けることはない。これにより、時刻t2から時刻t3にかけて、自動変速機1の入力軸であるメインシャフト231の回転速度Ninpがエンジン回転速度Neと一致する速度まで低下する。
【0081】
アップシフト実行中である時刻t2から時刻t3の間は、自動変速機1内部のイナーシャトルクの影響により、車両100の駆動力がプラス側(前進側)に変動する。しかしながら、自動変速機1内部のイナーシャ自体がエンジン50と比べて非常に小さいため、エンジン回転速度Neを低下させることなくアップシフトを実行する場合と比較すると、駆動力の変動、すなわち変速ショックは大幅に抑制される。
【0082】
以上述べたように、本実施形態によれば、ATCU10は、コースト走行中に自動変速機1をアップシフトする際は、摩擦クラッチCLをスリップ状態にしてエンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度TNeまで低下させてからアップシフトを実行する。
【0083】
これによれば、コースト走行中は、アップシフトする前にエンジン回転速度Neを低下させるので、アップシフトを実行したときのエンジン50のイナーシャトルクTinerの発生を抑制できる。よって、変速ショックを抑制できる。
【0084】
また、自動変速機1は、変速段を達成する複数のドグクラッチDGと、アップシフトの際に、複数のドグクラッチDGのうちアップシフト時の変速下段に対応する変速下段のドグクラッチDG、及び変速上段に対応する変速上段のドグクラッチDGそれぞれを同時に噛合わせて、変速上段のドグクラッチDGの噛合いに応じて変速下段のドグクラッチDGに作用するトルクで、変速下段のドグクラッチDGの噛合いを解除する噛合解除機構RMと、を備えたシームレス自動変速機である。
【0085】
このようなシームレス自動変速機においては、アップシフトが短時間で完了することになるので、大きなイナーシャトルクTinerが発生しやすい。これに対して、ATCU10が実行する制御では、アップシフトする前にエンジン回転速度Neを低下させるので、自動変速機1がシームレス自動変速機であっても、アップシフトを実行したときのエンジン50のイナーシャトルクTinerの発生を抑制できる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0087】
例えば、上記実施形態では、自動変速機1がシームレス自動変速機である場合について説明した。しかしながら、自動変速機1は、一般的な有段自動変速機や、ドグクラッチで変速段を達成しシーケンシャルシフトパターンが設定された変速機構をアクチュエータで駆動することで変速を行うシーケンシャル自動変速機等であってもよい。また、本発明は、変速速度を制御可能な無段変速機等に対しても適用可能である。
【0088】
本願は2016年11月7日に日本国特許庁に出願された特願2016−217448に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5