【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1〜8、比較例1〜4]
電解液は、環状酸無水物及びマグネシウム塩を有機溶媒に溶解させ、それぞれ表1に示すような所定の濃度となるようにグローブボックス内で調製した。環状酸無水物はSAA又はGAAを、マグネシウム塩はMg(TFSI)
2を、エーテル系溶媒はトリグライムを、それぞれ用いた。
【0038】
【表1】
【0039】
<サイクリックボルタンメトリー>
実施例1〜8、比較例1〜4の電解液を用いた電池について、サイクリックボルタンメトリー(以下、「CV法」という。)を行った。CV法の条件は以下の通り、3電極法にて行った。
(CV法条件)
正極:V
2O
5を正極活物質としてSUS箔上に塗工(比較例2を除く)
負極:Mg金属
参照極:Mg金属
掃引速度:1mmV/秒
掃引範囲:−0.5〜2.5V(vsMg
2+/Mg)
サイクル数:3〜20サイクル
測定雰囲気:大気中、25℃
【0040】
図3〜
図14は、CV法により得られたサイクリックボルタモグラム(以下、「CV曲線」という。)である。縦軸は電流(μA)を示しており、横軸は印加した電位(V)を示す。
図3は、比較例1の電解液により得られたCV曲線である。
図3に示す通り、1サイクル目で還元側、酸化側共に過電流を示す反応ピークが現れ、2サイクル目以降では反応ピークが減少し、3サイクル目で反応ピークが消滅した。
図3の結果より、電解液にSAA等の環状酸無水物が添加されていない場合、可逆的な酸化還元反応が起こらないことが確認された。
図4は、比較例2の電解液により得られたCV曲線である。比較例2は、SAAを電解液に、マグネシウム塩に対し2.0倍モル濃度添加しているが、正極は活物質を塗工せずSUS箔のみの構成である。
図4に示す通り、還元側で過電流を示すピークが現れたのみで酸化ピークが現れなかった。従って、
図3〜
図14で現れるピークは、正極−負極間の酸化還元反応によるものであることが明らかとなった。
これら
図3及び
図4の結果より、電解液に環状酸無水物が添加されることで、以下の可逆的な酸化還元反応が起こることが確認された。
【0041】
図5、
図6は、比較例3、4の電解液により得られたCV曲線である。それぞれ表1に示す通り、マグネシウム塩に対する環状酸無水物の添加量が、1.0倍モル濃度未満である、0.2、0.8の電解液である。
図5、6に示す通り、2サイクル目以降、還元側、酸化側双方で反応ピークが徐々に減少した。
図7〜
図14は、実施例1〜8の電解液により得られたCV曲線である。それぞれ表1に示す通り、マグネシウム塩に対する環状酸無水物の添加量が、1.0倍モル濃度以上である、1.0、1.2、2.0、2.4、3.0、1.33、2.0、4.0の電解液である。
図7〜14に示す通り、2サイクル目以降、還元側及び酸化側双方で反応ピークはほとんど変化しなかった。
以上の結果より、実施例1〜8と、比較例1、3、4とを比較すると、SAA又はGAAの添加量がマグネシウム塩の1.0モル当量未満である比較例1、3、4の場合、十分に可逆的な酸化還元反応が得られず、SAA又はGAAの添加量がマグネシウム塩の1.0モル当量以上である実施例1〜8の場合、常温で十分に可逆的な酸化還元反応が得られることが確認された。
【0042】
<充放電試験>
実施例7の電解液を用いた電池について、充放電試験を行った。充放電試験の条件は以下の通りである。
(充放電試験条件)
正極:V
2O
5
負極:AZ31(マグネシウム合金)
充放電条件:2μA−7.5h
サイクル数:12サイクル
測定雰囲気:大気中、25℃
【0043】
図15A、
図15Bは、上記充放電試験によって得られた充放電曲線図である。縦軸は電圧(V)を表しており、横軸はV
2O
51g当たりの容量(mAh/g)を表している。
図15A、
図15Bに示す通り、実施例7では、1〜3サイクル目までは負極の活性化につれて電圧がやや上昇するが、4サイクル目以降の充放電曲線は比較的近傍に安定して現れた。以上の結果より、本実施形態における電解液をマグネシウム二次電池に用いた場合、常温で良好なサイクル特性が得られることが確認された。
【0044】
<表面元素組成分析>
実施例8の電解液を用いた電池について、X線光電子分光法(XPS)による表面元素組成分析を行った。XPSの測定条件は以下の通りである。
(XPS測定条件)
測定装置:KRATOS社製AXIS−ULTRA DLD形
X線源:MONO(AL)
エミッション:10mA
アノード HT:15KV
測定範囲:1400eV〜0eV
Depth:Arガス
【0045】
XPS分析用のサンプルは、以下の方法で調製した。電解液は実施例8と同様のものを用い、作用極にV
2O
5塗工電極、対極にMg金属、参照極にMg金属を用いて3極式セルを組んだ。放電後充電した状態、及び、新たにセルを組んで放電−還元後放電した状態のそれぞれについてMg電極を取り出し表面分析を行った。
【0046】
XPS分析は以下の方法で行った。サンプルを大気非暴露の状態で装置にセットし、測定後Arガスを用いてDepth(表面のミリング、以下「ミリング」という。)を行い、一定間隔で分析とミリングを繰り返した。上記方法により、Mg負極表面から一定深さ方向における組成成分が明らかとなった。
【0047】
図16A〜
図19Bは、XPSスペクトル図である。
図16A、
図17A、
図18A、
図19Aは充電後のMg負極のXPSスペクトル図であり、
図16B、
図17B、
図18B、
図19Bは放電後のMg負極の分析結果である。また、
図16A及び
図16Bはフッ素、
図17A及び
図17Bは硫黄、
図18A及び
図18Bは炭素、
図19A及び
図19BはマグネシウムのそれぞれXPSスペクトル図である。
【0048】
図16A及び
図16Bから明らかであるように、
図16A及び
図16B双方において負極表層にフッ素(炭化フッ素)を示すピークが出現し、ミリングにより消滅することから、充電後及び放電後双方のMg負極表層にフッ素を含む一定厚さの被膜が形成されている。
また
図17A及び
図17Bから明らかであるように、
図17Bにのみ負極表層に硫酸塩を示すピークが出現し、ミリングにより消滅することから、充電後のMg負極表層に硫酸塩を含む一定厚さの被膜が形成されている。
また
図18A及び
図18Bから明らかであるように、
図18Aにのみ負極表層に炭化フッ素を示すピークが出現し、ミリングにより消滅することから放電後のMg負極表層に炭化フッ素を含む一定厚さの被膜が形成されている。
【0049】
また
図19A及び
図19Bから明らかであるように、負極表層にMgを示すピークが出現せず、ミリングにより出現することから、Mg負極表層にはMgを含まない一定厚さの被膜が形成されている。
また
図19Aにおいてのみ表層にブロードな酸素由来のピークが確認され、Depthにより消滅することから、放電後のMg負極表層に酸素を含む一定厚さの被膜が形成されている。
【0050】
以上の結果より、放電後、Mg表面にマグネシウムイオンが通過可能なフッ素由来の不働態被膜を形成し、充電後はその被膜の上にフッ化カーボンと硫黄由来の被膜が生成することが確認された。この被膜は放電後は電解液に溶解し、再び充電後、表面に生成することによって可逆的な酸化還元反応を可能とする。これらの被膜はマグネシウム塩と環状酸無水物に由来した成分であることが確認された。