(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554681
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】ナノスプレーイオン化・チップの高機能化
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N27/62 G
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-247524(P2014-247524)
(22)【出願日】2014年12月8日
(65)【公開番号】特開2016-11942(P2016-11942A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年12月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-113659(P2014-113659)
(32)【優先日】2014年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507170653
【氏名又は名称】株式会社HUMANIX
(74)【代理人】
【識別番号】100136250
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 博臣
(72)【発明者】
【氏名】升島 努
【審査官】
吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/063776(WO,A1)
【文献】
特開2011−120582(JP,A)
【文献】
特開2005−190767(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/071182(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/126141(WO,A1)
【文献】
特開2014−070922(JP,A)
【文献】
特開平10−307122(JP,A)
【文献】
特開2007−097872(JP,A)
【文献】
実開平06−070708(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細管の端部が徐々に細くなって先端に向かい、かつその先端部が0.001ナノメーターから2ミリメーターまでの口径で開口している細管であって、
細管内部に同じ材料か光ファイバーをフィラメントとして配し、
当該細管の材料自身が蛍光や燐光を持つ材料でできているか、
あるいは当該細管の先端部が、蛍光や燐光物質でコートされているか、
または、当該細管が、透明度のある部分があり、細管内部に蛍光や燐光を持つフィラメントを配してある細管で構成されるナノスプレーチップにおいて、
当該細管の表面の一部あるいは全部を導電性物質でコートしてある、ないし内部に保持する試料に細管内部口径より小さい外径の電極を挿入し、
電場が当該細管に印加できるようにしたことを特徴とするナノスプレーチップ。
【請求項2】
請求項1に記載のナノスプレーチップであって、
先端形状のだんだん細くなる部分の総長が細管最大口径の5倍以内で、急に先端に向かって細くなり、
試料への刺入時の腰が強く形成されていることを特徴とするナノスプレーチップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノスプレーチップであって、
当該細管の後端の延長上に、後端部を包接する形でアダプターを設置し、
当該アダプターは、その細管結合部において、細管内径とほぼ同じ内径を最終径とし、それより大きな径の導入開口部を細管の後端部への延長線上に持ち、細管との結合部の口径までをスロープとし、
細管後部と結合できるようにしたことを特徴とするナノスプレーチップ。
【請求項4】
請求項3に記載のナノスプレーチップであって、
アダプターの一部に2次元バーコードなどの試料認識コードを印刷あるいは接着できる面を設け表示する、あるいは、非接触ICタグなどをこのアダプターに埋め込んだもの、あるいは、細管部にバーコードを印刷あるいはその印刷物を貼ったことを特徴とするナノスプレーチップ。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載のナノスプレーチップを用いたナノスプレーイオン化装置であって、
当該細管の先端部のみにある採取試料に対し、極微量体積の超低熱容量により、冷媒や冷却ユニットに当該先端を近づけることで1分以内に採取試料を冷凍し、
測定時には、温度を上昇させる、あるいは、イオン化溶媒を添加することで、迅速に解凍することを特徴とするナノスプレーイオン化装置。
【請求項6】
請求項5に記載のナノスプレーイオン化装置に用いられ、前記ナノスプレーチップを固定ないし回転規制をして保持するケースであって、
当該ケースが当該ナノスプレーチップの先端部を保護し、
試料採取時には、当該ナノスプレーチップを取り出す際は、当該ケースが分割されて開き、あるいは穴に挿入されているナノスプレーチップが抜き取れる様になっており、
採取後は、元に戻し、かつ該ナノスプレーチップ先端部を優先してケース内あるいは外から効率良く冷却出来る様にする為、冷媒や冷却部が、当該ナノスプレーチップ先端部から0.0001ミリメーターから50ミリメーターまでの範囲で近接して冷却される様にしたことを特徴とするケース。
【請求項7】
請求項1から4の何れか1項に記載のナノスプレーチップを用いたナノスプレーイオン化装置であって、
当該ナノスプレーチップの先端部10ミリメーター以内のみをケースの先端外部に露出し、それ以外はケース内に保持し、
かつ、ナノスプレーチップの先端部に向かって当該チップの設置軸と同軸状に、室温より温度の高いガスを鞘状に吹き出すようにし、
かつ、ナノスプレーチップの導電性コーティング部ないし当該チップ内溶液に直接挿入した電極に電場を印加出来る様にし、
かつ、当該ナノスプレーチップの位置が3次元およびスプレー入射角を取る3次元位置を、当該チップを保持するケースごと変化できるようにしたことを特徴とするナノスプレーイオン化装置。
【請求項8】
請求項7に記載のナノスプレーイオン化装置において、
ナノスプレーチップの周辺の全部あるいは一部にペルチエ素子などの冷却素子あるいは冷媒が、当該チップの近傍に配置されているか、薄い媒体を介して接しているか、あるいは高い熱伝導体を介して接していることを特徴とするナノスプレーイオン化装置。
【請求項9】
請求項8に記載のナノスプレーイオン化装置において、
当該ナノスプレーチップがもたらすナノスプレー域および質量分析計試料導入口に向かって、あるいは、質量分析計内部の試料導入口から初段のイオン誘導光学系までの真空部に、紫外光ないし真空紫外光を照射するようにしたナノスプレーイオン化装置。
【請求項10】
請求項3に記載のナノスプレーチップを用いたナノスプレーイオン化装置であって、
前記細管に、導入試料を保持させ、当該細管を細胞や組織内に刺入し、
その導入試料をこれらの内部に導入し、その後の細胞の変化を、ナノスプレーチップを細胞や組織に刺入し試料を採取するとともに、
その後の分子変化を連携して追跡することを特徴とするナノスプレーイオン化装置。
【請求項11】
請求項1から4の何れか1項に記載のナノスプレーチップにおいて、細管内部の長手方向のすべてあるいは先端部を含む一部に、細管内径より細い同じ材料あるいは光ファイバーのフィラメントが設置してあることを特徴とするナノスプレーチップ。
【請求項12】
請求項1から4の何れか1項に記載のナノスプレーチップを用いたナノスプレーイオン化方法であって、
当該細管の先端部のみにある採取試料に対し、極微量体積の超低熱容量により、冷媒や冷却ユニットに当該先端を近づけることで1分以内に採取試料を冷凍し、
測定時には、温度を上昇させる、あるいは、イオン化溶媒を添加することで、迅速に解凍することを特徴とするナノスプレーイオン化方法。
【請求項13】
請求項3に記載のナノスプレーチップを用いたナノスプレーイオン化方法であって、
前記細管に、導入試料を保持させ、当該細管を細胞や組織内に刺入し、
その導入試料をこれらの内部に導入し、その後の細胞の変化を、ナノスプレーチップを細胞や組織に刺入し試料を採取するとともに、
その後の分子変化を連携して追跡することを特徴とするナノスプレーイオン化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の試料を質量分析などにおいて、ナノスプレーイオン化チップと質量分析計の試料導入口の間に印加された電場により、細管内部の試料などの溶液を霧状にして放出するナノスプレー技術において、その細管を形成し、これを用いて試料を操作し、試料を高効率にスプレーイオン化導入する一連の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノスプレー技術は、細管から電場のみで電荷を帯びた霧を誘導する技術として確立されており、この技術を有効に使い、我々はナノスプレーイオン化(細管)チップ(以下ナノスプレーチップと記載)の先端に極微量の細胞や体液・液体成分を捕捉し、これを質量分析に導入することに成功し、特許とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5317983号
【0004】
しかし、この検出において、ナノスプレーチップに使いにくい点、また、高価な質量分析計をそばに持っていないと測定できない、また他の手法との組み合わせの困難点など、改良すべき点が多く出てきた。本発明は、これらナノスプレーイオン化による質量分析の一連の改良すべき点の解決法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この一連の操作にかかわる課題として以下のようなものがある。1)細胞など、蛍光画像で、細胞の中の小器官など所定の部分を光らせて捕捉する際、蛍光画像だけで細胞形態を捉える際は、画像はほぼ真っ暗で、ナノスプレーチップの先端部が、所定の場所に到達したかどうかを確認することが難しい。2)また、細胞成分など捕捉後、ナノスプレーチップ後端からイオン化溶媒を細管内に導入するが、細管なので、後端からイオン化溶媒などを入れる際、内径が細すぎて、溶媒を導入する為の溶媒導入用使い捨てチップのひげの様な細い先端部を細管内に入れる操作が難しく、なかなか入らない事がある。また、ナノスプレーイオン化を、当該チップ後端から細い電極を試料あるいは試料にイオン化溶媒などを添加した部分に挿入する時も、同様な問題が生じる。
【0006】
3)測定する為の質量分析計は高価である為、どこにでも設置して測定する事が難しい。採取後の試料をナノスプレーチップ内で再現性の良い保存ができれば、質量分析はどこかの分析可能な所まで運搬し、後でまとめて分析できる。その際、ナノスプレーチップ毎に試料の属性を認識できる方法があるとさらに良い。また、4)生体試料は、その中で酵素反応などが進むことがあり、試料の分子群の量的変動が、採取後も起こり続ける事があり得る。採取後すぐにこの反応を止める操作も必要である。5)この場合、ナノスプレーチップ先端が例えば冷却などの操作を行う場合、細すぎて見えないので、折りやすく、その様な事を防ぎながら、冷却する手段が必要である。
【0007】
またそのナノスプレーイオン化においても、6)高圧電場をナノスプレーチップと質量分析計の試料導入口の間に印加するが、その際、大気中の分子(環境分子)や溶媒のクラスターが一緒にイオン化し、そのピークが強すぎ、測定を妨害する事があることが分かった。これを少なくとも軽減するか無くす必要がある。7)定量性を確保する為、イオン化溶媒に内部標準物質を入れて、濃度と質量の基準とするが、電場を印加すると、イオン化溶媒の有機溶媒含量が高い時は特に当該溶媒が測定中に揮発し、内部標準物質濃度がどんどん濃縮され、内部標準とならない事があり、スプレー時間も溶媒が減少する為に短縮する。また有機溶媒含量が高いと毛細管現象が弱まり、ナノスプレーチップ内の溶媒が水平に広がり、時には後端から漏れ出てしまうことがあることが分かった。8)またナノスプレーイオン化法は、極性分子はイオン化できるが、無極性のものはイオン化しにくい。無極性のものも同時にイオン化することができれば、分子検出の網羅性を上げる事ができる。9)また、その際、異性体など、分子の質量で見分ける質量分析では分離しにくいという問題も本質的にある。10)マイクロインジェクションという技術があるが、これは本手法の逆で、意図した成分を細胞内に導電性コートしていない細管を細胞に刺し込み、当該成分を導入する手法である。この場合の導入部位の針先の位置が分かりにくい、かつ、その後の細胞内の網羅的な分子変化を検出することが今までできなかった。一連のナノスプレーイオン化分子検出において、以上の様な問題があることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題1に対しては、細管の端部が徐々に細く先端に向かい、かつその先端部が0.001ナノメーターから2ミリメーターまでの口径で開口している細管において、
図1の様に当該細管の材料自身が蛍光や燐光を持つ材料でできているか、あるいは当該細管の特に先端部が、蛍光や燐光物質でコートされているか、または、当該細管がほぼ透明あるいは一部が透明で、細管内部に蛍光や燐光を持つフィラメントを配してある細管で、かつ、ナノスプレーイオン化を行う為に、当該細管の表面の一部あるいは全部を導電性物質でコートしてあるか、内部に保持する試料に直接電場印加の細管内部口径より小さい外径の電極を挿入し、電場が当該細管に印加できるようにしたもの。この場合、当該細管内部の長手方向のすべてあるいは先端部を含む一部に、細管内径より細い同じ材料のフィラメントが更に設置してあるものも含むようにして解決する。また、ナノスプレーチップを刺入する対象が比較的硬いものには、先端形状のだんだん細くなる部分の総長が細管口径の5倍以内で、急に先端に向かって細くなり、刺入時の腰が強く形成されているもので解決する。
【0009】
課題2に対しては、細管やフィラメントを形成する材料が蛍光や燐光を持たない材料であるものも含め、当該細管の後端の延長上に、
図1の7のように、後端部を包接する形でアダプターを設置し、当該アダプターは、その細管結合部において、65のように、細管内径とほぼ同じ内径を最終径とし、それより大きな径の導入開口部を細管の後端部への延長線上に持ち、細管との結合部の口径までをスロープとし、細管後部と結合できるようにして、当該ナノスプレーチップ内部へ、液体や細い固体を導入し易くして、解決する。
【0010】
課題3に対し、ナノスプレーチップ毎に試料の属性を認識できるようにするには、上記のようなナノスプレーチップに接合したアダプターの一部に、
図1の45のように、2次元バーコードなどの試料認識コードを印刷あるいは接着できる面を設け表示する、ないし、非接触ICタグなどをこのアダプターに埋め込んだもの、あるいは、46のように、細管部にバーコードを印刷したり、印刷物を貼ることで、解決する。また、どこで採取しても測定できるようにするには、この極微量な試料を当該細管の先端部に捕捉したナノスプレーチップに対し、極微量体積の超低熱容量に着目して、すぐ簡単に凍結できる特性を利用して、
図2のように、冷媒や冷却ユニットに近づける、あるいは冷凍空間に入れることで迅速に冷凍し、試料内の反応や変化も迅速に止め、その冷却を測定場所まで維持し、また、測定時には、同じく極微量体積の超低熱容量に着目して、当該ナノスプレーチップ先端の温度を上げるか、あるいは、イオン化溶媒を添加することで、迅速に解凍し、すぐにそのまま測定できるようにして解決する。
【0011】
課題5に対しては、
図2の下図のように、前述の様なナノスプレーチップを固定ないし回転規制をして保持するケースにおいて、当ケースが当該チップの先端部を保護し、試料採取時に当該ナノスプレーチップを取り出す際は、当該ケースが分割されて開き、あるいは穴に挿入されているチップが抜き取れる様になっており、採取後は、元に戻し、かつ該チップ先端部を優先してケース内あるいは外から効率良く冷却出来る様にする為、冷媒や冷却部が、当該ナノスプレーチップ先端部から0.0001ミリメーターから50ミリメーターまでの範囲で近接して冷却される様にしたケースに保持することで解決する。
【0012】
課題6に対しては、
図3のように、当該ナノスプレーイオン化チップの先端部10ミリメーター以内のみをケースの先端外部に露出し、それ以外はケース内に21,22の様な構成で、保持し、ガス流を吹き付けても、ナノスプレーイオン化チップ内の試料や液体が干上がらない様にし、かつ、ナノスプレーイオン化チップの先端部に向かって当該チップの設置軸と同軸状に、室温より温度の高い不活性なガスを、24のように、鞘状に吹き出すようにし、環境分子を遮断し、かつ温度の高いガスにより、溶媒クラスターを形成しにくくする。同時に、ナノスプレーイオン化チップの導電性コーティング部ないし当該チップ内溶液に直接挿入した電極に電場を印加出来る様にし、かつ、当該チップの位置が3次元およびスプレー入射角が当該チップを保持するケースごと変化できるようにして、自由な位置や角度でナノスプレーを質量分析計試料導入口に導くようにして解決する。
【0013】
課題7に対しては、上記のようにチップ先端以外をホルダー内に保護・保持して、外気にさらさない様にするのみでなく、
図3の25のように、更にナノスプレーイオン化チップの周辺の全部あるいは一部にペルチエ素子などの冷却素子あるいは冷却冷媒循環回路が、当該チップの近くに直接か、薄い熱伝導性の媒体を介して接しているか、あるいは高い熱伝導体を介して接しさせ、ナノスプレーイオン化チップ内にある微量体積の試料や液体を揮発しにくくする。ナノスプレーチップ内の溶媒が水平に広がり、時には後端から漏れ出てしまうことがあることに対しては、この様な発明の上に、当該チップ保持装置が
図3の32にようなマウントに結合され、傾けられるようにし、角度を変えて、チップ内の溶媒が水平に広がらない様にする。
【0014】
課題8に対しては、
図4の41のように、当該ナノスプレーイオン化チップがもたらすナノスプレー域および質量分析計試料導入口に向かって、あるいは、
図6,7,8のように、質量分析計内部の試料導入口から初段のイオン誘導光学系までの真空部に、紫外光や真空紫外光を照射するようにし、極性分子をイオン化しやすいナノスプレーイオン化に加え、光イオン化を更に加え、極性の低い分子もイオン化できるようにする。
課題9に対しては、イオンモビリティーという技法があるが、これは、ガス分子層を検出分子が通過するようなイオンモビリティーチェンバーを設け、この中を分子が通過する際、異性体のように同一分子量でも分子の立体的な形態の違いのあるものが、ガス分子との立体的な衝突確率や相互作用の違いで、行程差を生み出し分離され、検出されるようにするものである。従来は、単にこのガス層を直線的あるいは往復的に運動するもののみであったが、本発明では、本ガス層に、
図6の右図にように、イオンガイド電極に回転電場をもたらすようするために、ガス層を囲むようにして設置された複数の電極に、順に位相差を与えた交流電場を与え、その電場で形成された右ないし左の回転電場内で、異性体分子、特に分離の難しい光学異性体などが、ガス分子との相互作用の違いで更に効率よく分離できるようにした。また、この際に、この電極内部の空間に
図8の63のような光変調器を用いて、円偏光などを含む紫外光や真空紫外光などを生成し、これを照射し、無極性分子も光イオン化させながら、ガス分子との相互作用を多様化させ、分離の幅や対象分子をさらに広げることも可能とする。
課題10に対しては、同一のナノスプレーイオン化チップで細胞などの成分を捕捉する装置を利用して、チップ先端が蛍光などで光る材料のチップでマイクロインジェクションを行い、その成分導入部位を明確にし、そののち、同一装置にナノスプレーチップを装着して、同一部位あるいは異なった細胞内部位の成分を吸引捕捉して、同一細胞に対し、導入した成分の影響も含め、細胞内の網羅的分子検出を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
これにより、課題1に対しては、細胞など、蛍光画像で、細胞の中の小器官など所定の部分を光らせて捕捉する際、蛍光画像だけで細胞形態を捉える際は、画像はほぼ真っ暗でも、ナノスプレーイオン化チップの先端部が、所定の場所に到達したかどうかを確認できる。また、課題2に対しては、ナノスプレーイオン化チップ後端からイオン化溶媒や電極等が簡単に細管内に入れる事ができるようになる。
【0016】
課題3に対しては、採取後の試料をナノスプレーチップ内に、簡単迅速かつ再現性の良い保存ができ、質量分析はどこかの分析可能な所まで搬送し、後でまとめて分析できる様になる。その際、ナノスプレーチップ毎に試料の属性も認識できる。また、課題4に対しては、試料の急速冷凍と解凍時の有機溶媒を含むイオン化溶媒の為、生体試料は、その中での酵素反応は止まったままで、試料の分子群の量的変動が、試料採取後も起こらなく、長期保存も可能で、安定した測定がどこでも可能となる。課題5に対しては、本発明のナノスプーイオン化チップ内試料の冷凍も可能とする特殊な当該チップ保護ケースにより、細すぎて見えないナノスプレーチップ先端も保護でき、かつ先端部も冷却できる。
【0017】
課題7に対しては、ナノスプレーイオン化において、大気中の分子(環境分子)や溶媒のクラスターピークが激減し、微量分析の精度と確度が格段に上がる。課題7に対しては、チップ周囲の冷却により、イオン化溶媒の揮発も押さえられ、そこに含有される内部標準物質濃度も変わらず、溶媒が揮発もせず、スプレー時間も短縮する事も無くなり安定化する。またこの装置の取付角度が可変出来るので、有機溶媒含量が高いと毛細管現象が弱まり、ナノスプレーチップ内の溶媒が水平に広がり、時には後端から漏れ出てしまうことも、少し後端を上げる様にすれば防げる。課題8に対しては、ナノスプレーイオン化法は、極性分子はイオン化できるが、光イオン化により「同時に」無極性のものもイオン化でき、検出分子の網羅性が飛躍的に上がる。課題9に対しては、これにより光学異性体の様なものまで、質量分析法で分離して検出が可能となる。課題10に対しては、同じ装置を用いて、細胞などに積極的に試料導入し、その結果も同時に網羅的分子変動として捉える事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】蛍光観察対応および簡易操作アダプター付きナノスプレーイオン化チップの一例
【
図2】捕捉試料瞬間冷却保存とナノスプレーイオン化チップケースの一例
【
図4】光イオン化を伴ったナノスプレーイオン化装置の一例
【
図5】(左図)指の指紋領域の汗腺一ヶから出る汗(約1ナノリットル)をナノスプレーイオン化チップで吸引捕捉する様子、(右図)汗腺一ヶの汗から検出された質量分析分子ピーク群と分子種
【
図6】質量分析計内部の初段イオンガイド部に光イオン化するための光を照射する例 その際、このイオンガイド部の電極を右のような3重極、4重極、6重極の場合、印加する電場の位相を電場が回転するように印加する様子を示したもの
【
図7】質量分析計のスプレー導入部の前に、
図6に記載したイオンガイド部を設け、試料内溶媒分子や導入ガス分子とイオン化分子がイオンガイド部内で、相互作用するようにしたもの(上図)あるいは、これにさらに、イオンガイド部内で光イオン化するようにしたもの
【
図8】光イオン化レーザービームを質量分析計試料導入部から初段の試料イオンビームに照射できるようにし、かつ、必要な場合、光変調器によりこの照射するレーザーイオンビームを円偏光や偏光あるいはパルス光にように変調できるようにしたもの
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0019】
図5は、指の指紋領域の汗腺一ヶから出る汗(約1ナノリットル)をナノスプレーイオン化チップで吸引捕捉し、一度
図2のケース内で冷凍保存したのち、
図3の装置で捉えた極微量の汗の中に含まれる分子群の質量スペクトルである。溶媒ピークも消え、きれいなピークが多く検出されている。
【産業上の利用可能性】
【0020】
この様に、本手法は、医療・健康分子診断・創薬に広く利用出来、血液も極一滴の微量から、その人の健康状態、疾患マーカー、病気の予後診断など様々な健康モニタリングに利用出来る。新薬開発の強力なツールともなる。また、植物に応用すると、農作物の育種環境と植物内生成分子群がわかり、品種改良の高速化のみならず味覚の良い農作物を作る条件を分子情報を元に構築出来る。何よりも、どこでも試料採取さえできれば、質量分析センターに送る事で、詳細で網羅的な分子分析が可能となる。本手法は、勿論生物、生物組織、細胞、細菌など生命科学で対象となる殆どのテーマに対し、非常にダイレクトで網羅的な分子検出法として利用でき、生命現象のダイレクトで簡便な分子メカニズム解明にも貢献し、その応用分野はきわめて広い。
【符号の説明】
【0021】
1.ナノスプレーイオン化チップ細管
2.蛍光あるいは燐光フィラメント
3.導電体コート
4.ナノスプレーイオン化チップ用アダプター
5.ナノスプレーイオン化チップ用アダプター・インサート部
6.ナノスプレーイオン化チップ回転規制ひれ
7.ナノスプレーイオン化チップ保持用つかみ部
8.溶媒等導入用チップ
9.挿入長さ規制アダプター付電極線
10.吸引・加圧ワンタッチアダプター
11.はずれ止めロック
12.先端までが急に細くなり腰が強くなったナノスプレーイオン化チップ先端
13.冷媒または冷却装置
14.ナノスプレーイオン化チップに捕捉された試料
15.チップケース(半割れ上側)
16.チップケース(半割れ下側)
17.フタ開放用ヒンジ
18.フタロック
19.フタ(ロボット捕捉対応品)
20.ケース半割れ用ヒンジ
21.ナノスプレーイオン化チップ保護・保持マウント(下側)
22.ナノスプレーイオン化チップ保護・保持マウント(上側)
23.不活性ガス注入口
24.不活性ガス吐出口
25.ペルチエ素子
26.ナノスプレーチップ外部導電コート接触点
27.試料まで細管内に伸びた電極
28.電極接触点
29.挿入電極用電圧印加配線
30.外部導電部電圧印加配線
31.先端のみ露出したナノスプレーイオン化チップ
32.XYZおよび角度調節ナノスプレーイオン化チップホルダー
33.密封リング
34.ナノスプレー
35.質量分析計試料導入口
36.ナノスプレーイオン化チップ外部導電コート接触マウント
37.保持マウント支持棒
38.ペルチエ素子電源線
39.紫外または遠紫外光源
40.楕円鏡
41.集光された紫外または遠紫外光
42.Oリング
43.指の指紋領域の汗腺一ヶから出る汗(約1ナノリットル)
44.汗腺一ヶの汗から検出された質量分析分子ピーク群と分子種
45.二次元バーコード印刷あるいは貼り付け面
46.細管部表面に印刷あるいは貼り付けたバーコード
50.イオンガイド電極
51.光イオン化光透過材質(例えば石英)でできたガス保持チェンバー
52.イオンガイド中に保持された溶媒分子あるいは導入されたガス分子あるいはガスイオン化分子あるいはその混合
53.ガス導入管
55.イオンビーム
56.ナノスプレー電源
57.スキマー(質量分析計内初段)
58.スキマー(外部イオンガイド前部)
60.線状に集光された光イオン化光(例 紫外または遠紫外光)
61.真空吸引
62.レーザーイオン化光源
63.光変調器
64.レーザーイオン化光ビーム
65.スロープ穴