特許第6554707号(P6554707)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554707
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】背負式植栽器具
(51)【国際特許分類】
   A01C 5/04 20060101AFI20190729BHJP
   A01D 34/73 20060101ALI20190729BHJP
   A01D 42/04 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   A01C5/04 B
   A01D34/73 A
   A01D42/04
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-21623(P2015-21623)
(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公開番号】特開2016-140347(P2016-140347A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成26年8月9日、 刊行物 第77回(平成26年度)九州農業研究発表会 専門部会発表要旨集,第109頁,九州農業試験研究機関協議会 〔刊行物等〕ウェブサイトの掲載日 平成26年8月7日、 ウェブサイトのアドレス http://jsam−kyushu.bpes.kyushu−u.ac.jp/modules/shibu2/ 〔刊行物等〕開催日 平成26年9月1日、 集会名、集合場所 第68回農業食料工学会九州支部例会(第77回(平成26年度)九州農業研究発表会)、九州大学 箱崎地区文系講義棟(福岡市東区箱崎6−10−1)
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515034286
【氏名又は名称】株式会社長倉樹苗園
(74)【代理人】
【識別番号】240000039
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人 衞藤法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】槐島 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 太一
(72)【発明者】
【氏名】長倉 良守
【審査官】 小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭51−135107(JP,U)
【文献】 実公昭40−006052(JP,Y1)
【文献】 実公昭14−009660(JP,Y1)
【文献】 特開2005−137231(JP,A)
【文献】 米国特許第05491963(US,A)
【文献】 実公昭63−007506(JP,Y2)
【文献】 特開平08−277530(JP,A)
【文献】 特開2014−108057(JP,A)
【文献】 特表2011−505830(JP,A)
【文献】 特開2005−261269(JP,A)
【文献】 実開昭57−133689(JP,U)
【文献】 米国特許第02563195(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第02288784(GB,A)
【文献】 米国特許第06349776(US,B1)
【文献】 実開平07−039331(JP,U)
【文献】 実公昭44−010265(JP,Y1)
【文献】 米国特許第06125776(US,A)
【文献】 米国特許第03097466(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 5/00 − 5/08
A01D34/412−34/90
A01D42/04
A01G 1/00 − 1/02
A01G 1/06 − 1/12
A01G 5/00 − 9/10
A01G16/00 −17/02
A01G17/18
A01G23/04 −23/14
E02F 1/00 − 3/26
E02F 3/46 − 3/60
E21B 1/00 −49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテナ苗を移植する植穴を形成する器具において、鞘筒内に配設された回転軸と、該回転軸の一端側に形成されたスクリュー羽根と、前記回転軸の他端側に可撓性の伝達機構を介して接続される駆動源と、該駆動源を積載する背負子と、前記鞘筒の一端側に配設された水平ハンドルと、前記鞘筒の他端側に配設された足踏バーと、前記鞘筒に対して上下へ摺動可能に配設された保護カバーとから構成され、前記回転軸の先端に、前記回転軸の遠心力により半径方向へ開閉可能な草刈刃が設けられたことを特徴とする背負式植栽器具。
【請求項2】
前記水平ハンドルが配設位置を前記鞘筒に沿って調整可能に配設されたことを特徴とする請求項1に記載の背負式植栽器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナ苗を植栽する際に、苗の移植に先立って植穴をあける植栽器具に関し、とくに山野での作業に適した背負式植栽器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、森林の健全性の維持、温暖化ガス吸収源の確保、林資源の確保を目的とし、山野に杉や檜などの苗木を人為的に植栽する人工林造成が行われている。この人工林造成においては、造林の低コスト化を図ったコンテナ苗が普及している。コンテナ苗は、特殊な形状のコンテナで育苗し、根が培地(土)と一体となった苗木である。コンテナ苗は、根がむき出しの苗木(裸苗)と比べ、細い根が育っていることから、根づきが良好で、初期成長が速く、植栽に適している。そのため近年では、このコンテナ苗を植栽するコストや労力を削減し、再造林コストの削減を通じて林業採算性の見通しを確立することが重要視されている。
【0003】
コンテナ苗の植栽作業は、一般的に、苗木を植える植穴を地面に掘る作業と、植穴に苗木を入れる作業の2つの作業に大きく分けられる。そのため、これらの作業を機械化し、作業者の肉体的負担の軽減を図った種々の装置が先に提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、植穴を掘削する回転可能なカッターバー付きオーガと、コンテナ苗を投入し、オーガ軸に並設されたプランティングチューブを、自走式の土木或いは建設用機器の一つであるバックホウ(ユンボ)等の可動アームの先端部に取り付けられる自動耕転植付機が開示されている。また、特許文献2には、地面にカップ状の穴を形成する掘削部と、その穴の中の内周面の草木を切断する根切り部を有する掘削機を自走式の土木或いは建設用機器の一つであるバックホウ(ユンボ)等の可動アームの先端部に取り付けられる自動式苗木植穴掘削機が開示されている。
【0005】
また例えば、特許文献3には、背負枠にエンジンを設け、エンジンからフレキシブルシャフト、及び歯車を介してスクリューコンベアを回転させ、人力により植穴を掘削するハンディ型の装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−6715号公報
【特許文献2】特開2003−3778号公報
【特許文献3】実開昭51−135107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された重機を併用する装置は、平地に連続して植穴を形成する作業において作業効率が良いものの、傾斜地に連続して植穴を形成する作業においては、重機のアーム操作に手間取り、作業効率が悪化するという問題があった。とくに造林地となる山野では、傾斜地が多いうえに、岩や雑木等の障害物が多くあり、アーム操作は困難を極める。
【0008】
また、特許文献3に記載された装置では、植穴を形成する近辺の雑草が刈払いされないため、植穴にコンテナ苗を移植した後、雑草が繁茂してコンテナ苗の生育を阻害するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、植穴形成時の作業効率を向上させるとともに、植穴近辺の雑草を刈払いできる背負式植栽器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため本発明の背負式植栽器具は、コンテナ苗を移植する植穴を形成する器具において、鞘筒内に配設された回転軸と、該回転軸の一端側に形成されたスクリュー羽根と、前記回転軸の他端側に可撓性の伝達機構を介して接続される駆動源と、該駆動源を積載する背負子と、前記鞘筒の一端側に配設された水平ハンドルと、前記鞘筒の他端側に配設された足踏バーと、前記鞘筒に対して上下へ摺動可能に配設された保護カバーとから構成され、前記回転軸の先端に、前記回転軸の遠心力により半径方向へ開閉可能な草刈刃が設けられたことを第一の特徴とする。
【0011】
また、前記水平ハンドルが配設位置を前記鞘筒に沿って調整可能に配設されたことを第二の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下の優れた効果を有する。
(1)重量感のある駆動源を背負子に積載しているため、作業者の腕に懸かる負担を軽減し、作業性の安定を図ることができる、かつ足場の悪い山野での移動が容易となる。
(2)重機などの大型器具を用いないため、狭小な場所に植穴を形成できる。また植穴を形成するコストを抑制することが可能となり、引いては、再造林コストを削減することができる。
(3)駆動源の回転力を使用して植穴の形成を行うため、硬い土壌であっても植穴を確実に形成することができる。
(4)保護カバーを設けているため、回転するスクリュー羽根のスクリューポンプ作用により飛散する土砂から作業者を保護することができる。
(5)水平ハンドルが配設位置を調整可能とされているため、作業者の身体に合わせた位置で作業を行うことができ、肉体的負担を軽減することができる。
(6)草刈刃を設けているため、コンテナ苗の生育を阻害する植穴近辺の雑草を刈払うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る背負式植栽器具を示す斜視図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る背負式植栽器具を示す(a)が正面図、(b)が側面図である。
図3】特注品の植栽器具を説明するための図である。
図4】植栽チューブの植栽器具を説明するための図である。
図5】植栽ショベルの植栽器具を説明するための図である。
図6】手回しドリルの植栽器具を説明するための図である。
図7】実施例の各測定地点における円すい貫入抵抗力を示す測定グラフである。
図8】実施例の各測定地点におけるφ60mmドリルの回転抵抗トルクを示す測定グラフである。
図9】実施例において本発明を使用した際の心拍数変化を示すグラフである。
図10】実施例において特注品を使用した際の心拍数変化を示すグラフである。
図11】実施例において植栽チューブを使用した際の心拍数変化を示すグラフである。
図12】実施例において植栽ショベルを使用した際の心拍数変化を示すグラフである。
図13】実施例において手回しドリルを使用した際の心拍数変化を示すグラフである。
図14】実施例における植栽器具ごとの作業強度を示すグラフである。
図15】実施例における植栽器具ごとの主観評価(使い易さ)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1乃至図2を参照して、本発明による背負式植栽器具の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る背負式植栽器具を示す斜視図であり、図2は、本発明の他の実施形態に係る背負式植栽器具を示す(a)が正面図、(b)が側面図であり、まずは第一の実施形態に係る背負式植栽器具について説明する。
【0016】
第一の実施形態に係る背負式植栽器具1は、図1に示すように、エンジン11を積載する背負子12と、エンジン11にフレキシブルシャフト3、及びギヤケース4を介して接続され、エンジン11の回転力により軸方向へ回転するシャフト部51と、シャフト部51の下端に設けられた螺旋型のスクリュー羽根52と、ギヤケース4の下部に固定された鞘筒6と、鞘筒6の上端に設けられた水平ハンドル7と、鞘筒6の下端側に鞘筒6に対して上下に摺動可能に設けられた保護カバー8と、保護カバー8の上端に固定された足踏バー9とから構成される。
【0017】
エンジン11は、例えば草刈機等に用いられる市販の小型エンジンであり、背負子12に積載され、傾斜のある山野での移動が容易となるよう背負って持ち歩かれる。背負子12は、エンジン11を積載して肩掛紐により作業者が背負うことができる構造となっている。エンジン11は、燃料タンク(図示せず)や操作スイッチ(図示せず)を含み、ガソリンや軽油などにより回転力を生み出すことを可能とする。このエンジン11の回転出力軸には、可撓性の伝達機構となるフレキシブルシャフト3の一端が連結され、エンジン11の回転出力がフレキシブルシャフト3の他端に伝達される。さらに、フレキシブルシャフト3の他端には、ギヤケース4を介してシャフト部51が着脱可能に接続され、エンジン11の回転出力は、フレキシブルシャフト3、及びギヤケース4を介してシャフト部51へ伝達されてシャフト部51、及びシャフト部51の他端側に形成されたスクリュー羽根52を軸方向へ回転させる。したがって、スクリュー羽根52が高速回転することによって、地面にスクリュー羽根52の外径に合致した穴を形成することができる。また、スクリュー羽根52により掻き出された土砂は、スクリューポンプ作用により地表方向へ運搬され排出される。
【0018】
ギヤケース4の下部には、金属製の鞘筒6が固定されており、その内腔にシャフト部51を有している。鞘筒6は、作業者の衣服やフレキシブルシャフト3が回転するシャフト51に接触して巻き込まれないよう、保護している。鞘筒6の上端側には、作業者が把持可能な棒状の水平ハンドル7が、上下方向に取付け位置を調整できるよう設けられており、作業者の身体に合わせて水平ハンドル7の高さ位置を調整可能とされている。作業者は、自身の身体に適した高さで水平ハンドル7を把持することで、作業により発生する肉体的負荷を軽減させ、効率良く作業を行うことが可能となる。水平ハンドル7の高さ調節機構は、例えば、鞘筒6に筒の軸方向に複数の孔を形成し、所望する高さの孔に水平ハンドル7を挿通させて固定する機構、或いはアジャスターとしてハンドル基部71を設けるなど、種々の機構を用いることができ、特に限定されるものではない。また、水平ハンドル7は、金属製パイプなど、一定の強度を持つ素材であれば良く何れでも使用することができる。
【0019】
鞘筒6の下端部外周には、鞘筒6の外径とほぼ同径、又は少し大径の内径を有する保護カバー8が設けられている。保護カバー8は、金属製の筒状体で、鞘筒6に対して上下方向に摺動可能に設けられている。これにより、植穴を形成しない際には、スクリュー羽根52を保護するとともに、回転するスクリュー羽根52に作業者が接触することを防ぐことが可能となる。さらに、スクリューポンプ作用により飛散する土砂を、保護カバー8内へ衝突させて落下させて植穴周辺に積もらせ、飛散物から作業者を保護することが可能となる。
【0020】
また、保護カバー8の上端には、金属製の足踏バー9が水平に固定されており、植穴を形成するにあたって、作業者が足踏バー9を踏み、長尺の鞘筒6を安定させ、スクリュー羽根52を地面に効率的に押し込むことができる。とくに植穴を斜面に形成する際、地面に対して交差するよう植穴を形成すると、植苗の延びる方向(鉛直方向上向き)が違うため、斜面においても植穴は、鉛直方向へ形成することが望ましく、斜面に対して鉛直方向にスクリュー羽根52を押し込む必要がある。このような操作を水平ハンドル7だけで行うことは、非常に困難で操作性が悪く、足踏バー9を踏む込むことで、スクリュー羽根52の押し込む方向を安定させることができる。
【0021】
次に、他の実施形態に係る背負式植栽器具について図2を参照して説明する。第一の実施形態と同様の構成については、同一符号を用いて説明を省略し、以下では第一の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0022】
図2(a)に示すように、シャフト部51の先端外周には支持部55にヒンジピン54を挿通して支持された草刈刃53が、対向する位置に設けられている。草刈刃53は、ヒンジピン54により、シャフト部51の軸方向に対して水平方向に90度開く、かつシャフト部51の軸方向へ折り畳まれるヒンジ機構となっている。そのため、シャフト部51が回転し、遠心力が草刈刃53に加わると水平方向に開き、地表付近の雑草を刈ることができる。また、草刈刃53が土砂に接した際には、土砂との反発力によりシャフト部51の軸方向へ折り畳まれる。したがって、移植されたコンテナ苗の生育を阻害する植穴近辺の雑草を刈り取り、移植に適した植穴を形成することができる。
【0023】
また、図2(a)に示すように、上下へ摺動する保護カバー8の外周に鍔状のストッパー10を設け、保護カバー8の摺動距離を制限している。これにより、ストッパー10と足踏バー基部91との離隔距離分だけ、保護カバー8が上方向へ摺動するとともに、土中へ押し込まれるスクリュー羽根52は、その長さが制限される。したがって、作業者の熟練度を問わず、同じ深さの植穴を形成することができる。さらに、図2(b)に示すように、保護カバー8の外周に長穴81を設けて、保護カバー8の摺動制限機構としても良い。
【実施例】
【0024】
次に、本発明による背負式植栽器具1の実施例について説明する。本実施例では、背負式植栽器具1の性能を確認するため、圃場において地面を連続的に掘削する作業試験を実施した。具体的には、背負式植栽器具1、及び4種の植栽器具を用いて掘削作業を行い、植栽器具ごとに作業効率、作業者への負荷、作業者によるアンケートを実施した。まずは本発明品との比較対象とした4種の植栽器具(特注品〜手回しドリル)について、図3図6を参照して説明する。尚、試験において、使用した本発明品は、第一の実施形態で説明した装置を用い、以下では、本発明品を背負式オーガと記す。
【0025】
特注品は、図3に示すように、金属製のパイプ材にて形成された柄部に、地中に突入する金属製の植穴形成部と、金属製のハンドル部と、柄部と植穴形成部の境目に設けられた金属製の踏棒とが一体的に形成されている。特注品は、踏棒を足で踏み込んで、地中に植穴形成部の形状と合致した植穴を形成する植栽器具である。
【0026】
植栽チューブは、BCC AB社製の植栽器具であり、図4に示すように、先端に片開きできる先鋭状の口を有する金属製の筒と、口を開くためのペダルと、口を閉じるための牽引式レバーとから構成されている。植栽チューブは、先端の口を閉じた状態で地面に突き刺し、ペダルを踏んで口を開くことで、植穴を形成する植栽器具である。
【0027】
植栽ショベルは、WORKWIZER INDUSTRIES社製の植栽器具であり、図5に示すように、先端がエッジ形状に形成され、幅の狭い平らなショベル部を有し、いわゆるスペードと呼ばれる植栽器具である。植栽ショベルは、通常のショベルとは違い、土を掬う機能はなく、先端のショベル部を土に突き刺し、前後に抉ることで植穴を形成する植栽器具である。
【0028】
手回しドリルは、浅香工業株式会社製の植栽器具であり、図6に示すように、基軸の一旦側にハンドルを有し、他端側に螺旋羽根とこの螺旋羽根に溶接された切削刃を有している。手回しドリルは、地表に突き刺した後に、ハンドルを押圧回転させることで螺旋羽根を土中へ押し込み、土砂を地表へ搬出して植穴を形成する手回し式ドリルの植栽器具である。
【0029】
また、試験を行う圃場は、実際の植栽地の土壌に、硬さと湿り具合を近似させるため、耕うん後に降雨で適度に締め固まった黒ボク土の圃場で実施した。そこで、圃場の力学的特性を把握するため、圃場に5×5の格子交点をマーキングし、各地点の地中深さ5cmと10cmでの円すい貫突入抵抗力と、ドリルによる回転抵抗トルクを計測した。測定グラフを図7図8に示す。
【0030】
図7に示すように、測定地点番号1、11および12に8kg以上の値が見られたが、これは圃場の端に位置した未耕うんの場所を測定したためと考えられる。これらの測定地点番号のデータを除き、円すい貫突入抵抗力の平均値を求めたところ、地中深さ5cmでは、2.22kg、地中深さ10cmでは2.57kgとなった。また、図8に示すように、φ60mmドリルの回転抵抗トルクは、円すい貫突入抵抗力ほどではないものの、圃場の端に位置する測定地点番号1、6、11、及び16に若干大きな値が見られた。全測定地点をそのまま平均したところ4.03kg・mとなった。これらの結果から土壌は、山野などの土壌に近い比較的柔らかい土壌であることが判明した。
【0031】
続いて、試験を行う作業者の諸元を表1に示す。作業者は、植栽作業等の経験がない学生であり、表1に示すように、身体的な特徴が高身長・標準体重であるX、及びZの2名と、低身長・標準体重のY1名の計3名で行った。また、後述する作業強度を算出するために、安静時心拍数の計測結果を示す。心拍数の測定は、POLAR社製のハートレートモニタRS300XG1で行った。この測定器は、心拍数を計測するユニットを、胸部にベルトで固定し、計測した心拍数を腕時計型の表示部にワイヤレスで表示するものである。
【表1】
【0032】
[試験の概要]
前述した背負式オーガと特注品〜手回しドリルの計5種類の植栽器具を、前述した3人の作業者が交代で使用し、深さ10cmの植穴を形成する。植穴は、地面に塩ビパイプを50cm間隔で25本並列させ、塩ビパイプの一端側を移動しながら25穴、他端側を移動しながら25穴の合計50穴を連続して形成した。この際に、1穴毎の作業時間、並びに心拍数を計測した。また、作業終了後の安静時に、各作業者に各植栽器具による使い易さのアンケートを実施した。
【0033】
[試験結果]
各植栽器具を用いて50穴の植穴を形成した作業時間を表2に示す。尚、表中、作業時間の単位は秒である。
【表2】
作業時間が最も短時間だったのは、特注品と植栽チューブであり、ほぼ3分弱で作業を終了した。次いで背負式オーガが4分程度、植栽ショベルが5分弱、手回しドリルが7〜10分であった。特注品と植栽チューブは、柔らかい土壌の場合、1〜2回の足操作で植穴を形成できるため、作業時間を短時間で行うことができた。これに対し、背負式オーガと手回しドリルは、10cmの深さに到達するまでの時間を要し、植栽ショベルは、土へ差し込み、前後に抉って排土するため、1穴の形成に要する時間を要し、特注品、及び植栽チューブに比べて作業時間を要した。
【0034】
図9図13に、作業時間中の植栽器具ごとの心拍数変換を示す。図9図13に示すように、各植栽器具使用時の心拍数の上昇傾向には差が見られた。また、心拍数の増加率、作業時間1分当たりの心拍増加率を求め、表3に示す。
【表3】
作業者Xの心拍数の増加率は、他の作業者に比べて小さく、かつ1分当たりの増加率も低かった。作業者Yと作業者Zは、増加率が大きく植栽器具による有意差が顕著に見られた。とくに特注品と植栽チューブは、図10図11に示すように、急激な上昇傾向が見られ、1分当たり増加数も約15%〜22%/分の高い値を示した。これに対し、背負い式オーガ、植栽ショベル、及び手回しドリルでは、約4〜10%/分の低い値を示し、特注品や植栽チューブと比較して、肉体的負荷が小さいことが明らかとなった。
【0035】
さらに、前述したPOLAR社製のハートレートモニタRS300XG1の機能を用いて計測した各種心拍数から下記式を用いて作業強度を定義し、各植栽器具における作業強度を比較した。
【0036】
【数1】
【0037】
式1により植栽器具ごとに算出した作業強度Sを図14に示す。図14に示すように、作業者による差が大きいものの、全ての作業者において、背負式オーガの作業強度Sが最も小さい値を示した。
【0038】
以上のように、背負式オーガは、心拍の大きな増加を伴わずに作業強度も小さいことから、作業者の肉体への負荷が小さく、比較的短時間で植穴の形成作業が行えることから、長時間の作業に適している。今回の試験では、圃場の土壌が柔らかいため、特注品、植栽チューブ、及び手回しドリルでの心拍数増加は、緩やかであったが、土壌が硬い場合は、土壌へ踏み込む、或いは押し込む力が必要となり、作業時の心拍数の増加が予測される。
【0039】
さらに、作業者に行ったアンケートの結果を、図15に示す。使い易さは、図15に示すように、「使い易い」を0、「使い辛い」を5として、6段階の主観評価で評価した。背負式オーガは、図15に示すように、使い易さにおいては、最も良い評価を受けた。
【0040】
植穴の形状を比較したところ、背負式オーガ、特注品、植栽チューブ、及び手回しドリルで形成した植穴は、きれいな円筒形の穴を所定の深さまで形成することが確認され、コンテナ苗の移植に使用できる形状であった。一方植栽ショベルにより形成した植穴は、ショベル部に排土する土を載せるために緩やかな角度で挿入して植穴の径が大きくなり過ぎる場合や、ショベル部を抉ることで穴形状がきれいにならない場合がほとんどであった。
【0041】
尚、本発明の第一の実施形態では、ギヤケース4が水平ハンドル7の上部に設けられているが、これに限定されるものではなく、作業者の肉体的負担の軽減を目的として、例えば、エンジン11の回転出力部にギヤケース4を設ける、植穴の形成に必要な最低限のトルクを出力することができるエンジン11を使用する、或いはエンジン11の代わりに軽量型の電動モータなどを用いても良い。また、第二の実施形態では、草刈刃53は、ヒンジ機構を用いて開閉式とされているが、これに限定されるものではなく、シャフト部51の回転により草刈刃53が開き、草刈刃53が土砂に接した際には、土砂との反発力により折り畳まれる機構であれば、いずれの機構でも採用することができる。さらに、駆動源の操作スイッチを水平ハンドル7に具備し、手元操作により回転軸の回転をON−OFFするよう構成しても良い。このように本発明は、本実施例に限定されるものではなく、種々の改良を加え得ることは、自明の理である。
【符号の説明】
【0042】
1 背負式植栽器具
3 フレキシブルシャフト
4 ギヤケース
6 鞘筒
7 水平ハンドル
8 保護カバー
9 足踏バー
10 ストッパー
11 エンジン
12 背負子
51 シャフト部
52 スクリュー羽根
53 草刈刃
54 ヒンジピン
55 支持部
71 ハンドル基部
81 長穴
91 足踏バー基部
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