【実施例】
【0024】
次に、本発明による背負式植栽器具1の実施例について説明する。本実施例では、背負式植栽器具1の性能を確認するため、圃場において地面を連続的に掘削する作業試験を実施した。具体的には、背負式植栽器具1、及び4種の植栽器具を用いて掘削作業を行い、植栽器具ごとに作業効率、作業者への負荷、作業者によるアンケートを実施した。まずは本発明品との比較対象とした4種の植栽器具(特注品〜手回しドリル)について、
図3〜
図6を参照して説明する。尚、試験において、使用した本発明品は、第一の実施形態で説明した装置を用い、以下では、本発明品を背負式オーガと記す。
【0025】
特注品は、
図3に示すように、金属製のパイプ材にて形成された柄部に、地中に突入する金属製の植穴形成部と、金属製のハンドル部と、柄部と植穴形成部の境目に設けられた金属製の踏棒とが一体的に形成されている。特注品は、踏棒を足で踏み込んで、地中に植穴形成部の形状と合致した植穴を形成する植栽器具である。
【0026】
植栽チューブは、BCC AB社製の植栽器具であり、
図4に示すように、先端に片開きできる先鋭状の口を有する金属製の筒と、口を開くためのペダルと、口を閉じるための牽引式レバーとから構成されている。植栽チューブは、先端の口を閉じた状態で地面に突き刺し、ペダルを踏んで口を開くことで、植穴を形成する植栽器具である。
【0027】
植栽ショベルは、WORKWIZER INDUSTRIES社製の植栽器具であり、
図5に示すように、先端がエッジ形状に形成され、幅の狭い平らなショベル部を有し、いわゆるスペードと呼ばれる植栽器具である。植栽ショベルは、通常のショベルとは違い、土を掬う機能はなく、先端のショベル部を土に突き刺し、前後に抉ることで植穴を形成する植栽器具である。
【0028】
手回しドリルは、浅香工業株式会社製の植栽器具であり、
図6に示すように、基軸の一旦側にハンドルを有し、他端側に螺旋羽根とこの螺旋羽根に溶接された切削刃を有している。手回しドリルは、地表に突き刺した後に、ハンドルを押圧回転させることで螺旋羽根を土中へ押し込み、土砂を地表へ搬出して植穴を形成する手回し式ドリルの植栽器具である。
【0029】
また、試験を行う圃場は、実際の植栽地の土壌に、硬さと湿り具合を近似させるため、耕うん後に降雨で適度に締め固まった黒ボク土の圃場で実施した。そこで、圃場の力学的特性を把握するため、圃場に5×5の格子交点をマーキングし、各地点の地中深さ5cmと10cmでの円すい貫突入抵抗力と、ドリルによる回転抵抗トルクを計測した。測定グラフを
図7、
図8に示す。
【0030】
図7に示すように、測定地点番号1、11および12に8kg以上の値が見られたが、これは圃場の端に位置した未耕うんの場所を測定したためと考えられる。これらの測定地点番号のデータを除き、円すい貫突入抵抗力の平均値を求めたところ、地中深さ5cmでは、2.22kg、地中深さ10cmでは2.57kgとなった。また、
図8に示すように、φ60mmドリルの回転抵抗トルクは、円すい貫突入抵抗力ほどではないものの、圃場の端に位置する測定地点番号1、6、11、及び16に若干大きな値が見られた。全測定地点をそのまま平均したところ4.03kg・mとなった。これらの結果から土壌は、山野などの土壌に近い比較的柔らかい土壌であることが判明した。
【0031】
続いて、試験を行う作業者の諸元を表1に示す。作業者は、植栽作業等の経験がない学生であり、表1に示すように、身体的な特徴が高身長・標準体重であるX、及びZの2名と、低身長・標準体重のY1名の計3名で行った。また、後述する作業強度を算出するために、安静時心拍数の計測結果を示す。心拍数の測定は、POLAR社製のハートレートモニタRS300XG1で行った。この測定器は、心拍数を計測するユニットを、胸部にベルトで固定し、計測した心拍数を腕時計型の表示部にワイヤレスで表示するものである。
【表1】
【0032】
[試験の概要]
前述した背負式オーガと特注品〜手回しドリルの計5種類の植栽器具を、前述した3人の作業者が交代で使用し、深さ10cmの植穴を形成する。植穴は、地面に塩ビパイプを50cm間隔で25本並列させ、塩ビパイプの一端側を移動しながら25穴、他端側を移動しながら25穴の合計50穴を連続して形成した。この際に、1穴毎の作業時間、並びに心拍数を計測した。また、作業終了後の安静時に、各作業者に各植栽器具による使い易さのアンケートを実施した。
【0033】
[試験結果]
各植栽器具を用いて50穴の植穴を形成した作業時間を表2に示す。尚、表中、作業時間の単位は秒である。
【表2】
作業時間が最も短時間だったのは、特注品と植栽チューブであり、ほぼ3分弱で作業を終了した。次いで背負式オーガが4分程度、植栽ショベルが5分弱、手回しドリルが7〜10分であった。特注品と植栽チューブは、柔らかい土壌の場合、1〜2回の足操作で植穴を形成できるため、作業時間を短時間で行うことができた。これに対し、背負式オーガと手回しドリルは、10cmの深さに到達するまでの時間を要し、植栽ショベルは、土へ差し込み、前後に抉って排土するため、1穴の形成に要する時間を要し、特注品、及び植栽チューブに比べて作業時間を要した。
【0034】
図9〜
図13に、作業時間中の植栽器具ごとの心拍数変換を示す。
図9〜
図13に示すように、各植栽器具使用時の心拍数の上昇傾向には差が見られた。また、心拍数の増加率、作業時間1分当たりの心拍増加率を求め、表3に示す。
【表3】
作業者Xの心拍数の増加率は、他の作業者に比べて小さく、かつ1分当たりの増加率も低かった。作業者Yと作業者Zは、増加率が大きく植栽器具による有意差が顕著に見られた。とくに特注品と植栽チューブは、
図10、
図11に示すように、急激な上昇傾向が見られ、1分当たり増加数も約15%〜22%/分の高い値を示した。これに対し、背負い式オーガ、植栽ショベル、及び手回しドリルでは、約4〜10%/分の低い値を示し、特注品や植栽チューブと比較して、肉体的負荷が小さいことが明らかとなった。
【0035】
さらに、前述したPOLAR社製のハートレートモニタRS300XG1の機能を用いて計測した各種心拍数から下記式を用いて作業強度を定義し、各植栽器具における作業強度を比較した。
【0036】
【数1】
【0037】
式1により植栽器具ごとに算出した作業強度Sを
図14に示す。
図14に示すように、作業者による差が大きいものの、全ての作業者において、背負式オーガの作業強度Sが最も小さい値を示した。
【0038】
以上のように、背負式オーガは、心拍の大きな増加を伴わずに作業強度も小さいことから、作業者の肉体への負荷が小さく、比較的短時間で植穴の形成作業が行えることから、長時間の作業に適している。今回の試験では、圃場の土壌が柔らかいため、特注品、植栽チューブ、及び手回しドリルでの心拍数増加は、緩やかであったが、土壌が硬い場合は、土壌へ踏み込む、或いは押し込む力が必要となり、作業時の心拍数の増加が予測される。
【0039】
さらに、作業者に行ったアンケートの結果を、
図15に示す。使い易さは、
図15に示すように、「使い易い」を0、「使い辛い」を5として、6段階の主観評価で評価した。背負式オーガは、
図15に示すように、使い易さにおいては、最も良い評価を受けた。
【0040】
植穴の形状を比較したところ、背負式オーガ、特注品、植栽チューブ、及び手回しドリルで形成した植穴は、きれいな円筒形の穴を所定の深さまで形成することが確認され、コンテナ苗の移植に使用できる形状であった。一方植栽ショベルにより形成した植穴は、ショベル部に排土する土を載せるために緩やかな角度で挿入して植穴の径が大きくなり過ぎる場合や、ショベル部を抉ることで穴形状がきれいにならない場合がほとんどであった。
【0041】
尚、本発明の第一の実施形態では、ギヤケース4が水平ハンドル7の上部に設けられているが、これに限定されるものではなく、作業者の肉体的負担の軽減を目的として、例えば、エンジン11の回転出力部にギヤケース4を設ける、植穴の形成に必要な最低限のトルクを出力することができるエンジン11を使用する、或いはエンジン11の代わりに軽量型の電動モータなどを用いても良い。また、第二の実施形態では、草刈刃53は、ヒンジ機構を用いて開閉式とされているが、これに限定されるものではなく、シャフト部51の回転により草刈刃53が開き、草刈刃53が土砂に接した際には、土砂との反発力により折り畳まれる機構であれば、いずれの機構でも採用することができる。さらに、駆動源の操作スイッチを水平ハンドル7に具備し、手元操作により回転軸の回転をON−OFFするよう構成しても良い。このように本発明は、本実施例に限定されるものではなく、種々の改良を加え得ることは、自明の理である。