【文献】
MAN Liu, et al.,Investigation of (CeO2)x(Sc2O3)(0.11-x)(ZrO2)0.89(x=0.01-0.10) electrolyte materials for intermediat,Journal of Alloys and Compounds,2009年12月28日,Vol.502,p.319-323
【文献】
GODOI G.S. et.al.,Influence of sintering conditions on the electrical properties of 10% ZrO2-10%Y2O3-CeO2(mol%),Solid State Ionics,2009年,Vol.180,P.1587-1592
【文献】
GUO.C.X. et.al.,Effect of aluminaon the properties of ceria and scandia co-doped zirconia for electrolyte-supported SOFC,Ceramics international,2013年,Vol.39,p.9575-9582
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0016】
1.酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物
本発明の酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物は,下記一般式(1)
(ZrO
2)
1−x−a(CeO
2)
x(M
2O
3)
a (1)
で表される化合物及びアルミナを含有し,
(1)式中,xの値は0.05≦x≦0.12,かつ,aの値は0.01≦a≦0.03であり,Mは希土類元素(セリウムを除く)の少なくとも1種であり,
前記アルミナの含有量は,前記化合物に対して1mol%以下である。
【0017】
本発明の酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物を用いることにより,優れた導電性及び機械特性を兼ね備える材料を形成することができる。例えば,酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物を焼結して得られる焼結体は,優れた導電性及び機械特性を兼ね備えることができる。
【0018】
なお,本明細書において,前記一般式(1)で表される化合物を「化合物A」と略記することがある。また,本発明の酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物を単に「組成物」と記すことがある。
【0019】
化合物Aは,式(1)からもわかるように,ZrO
2と,CeO
2と,M
2O
3とを構成単位として含み,各酸化物は固溶体を形成し得る。化合物Aの1分子あたりのZrO
2,CeO
2及びM
2O
3それぞれの組成比は,1−x−a:x:aである。
【0020】
化合物AにZrO
2及びCeO
2成分が含まれることで,例えば,組成物の焼結体に高い靱性を付与することが可能となる。化合物AにM
2O
3成分が含まれることで,例えば,組成物の焼結体に高い強度と導電性を付与することができる。
【0021】
前記式(1)中,Mは,セリウム以外の希土類元素である。これらの希土類元素の中でも特にMは,Sc,Y及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合,組成物の焼結体の結晶構造が安定となりやすく,また,焼結体はより優れた導電性を有しやすい。なお,Mは,安定同位体を有さないという観点から,Pmは含まないことが好ましい。
【0022】
前記式(1)中,xの値が0.05≦x≦0.12の範囲であることで,例えば,組成物の焼結体の結晶構造がより安定となりやすく,かつ,焼結体は高い機械特性を有し得る。xの値が0.05未満となると化合物Aの体積変化が生じやすくなる。xの下限は0.055であることが好ましく,0.06であることがより好ましく,0.065であることがさらに好ましく,0.07であることが特に好ましい。xの上限は0.115であることが好ましく,0.11であることがより好ましい。
【0023】
前記式(1)中,aの値が0.01≦a≦0.03であることで,例えば,組成物の焼結体の結晶構造がより安定となりやすく,かつ,焼結体の抵抗値が低くなりやすいので,高いイオン電導性(すなわち,高い導電率)を有し得る。aの値が0.01未満となると,組成物の焼結体は,高い機械特性を有する半面,高い導電性を有さない。また,aの値が0.03を超えると,組成物の焼結体の機械特性の低下が引き起こされる。aの値は,0.01≦a≦0.025であることが好ましく,0.01≦a≦0.02であることが特に好ましい。
【0024】
アルミナ(Al
2O
3)の種類は特に限定されない。例えば,アルミナは粒子状であって,その平均粒子径を0.1〜1μmとすることができる。アルミナの平均粒子径はSEMにより計測することができる。具体的には,SEM観察において,アルミナを無作為に20個選択し,これらの円相当径を計測し,算術平均する方法によって,アルミナの平均粒子径を計測することができる。焼結体に存在するアルミナの平均粒子径を計測する場合は,例えば,焼結体の断面をSEM観察して,上記方法にて計測することができる。
【0025】
組成物の焼結体において,アルミナは分散して存在し得るものである。より詳しくは,焼結体において,アルミナは均一に分散しやすいもの,すなわち,焼結体において,偏在して存在しにくいものである。これにより,焼結体は,所望の結晶構造が安定となりやすく,しかも,導電性がより一層高まる。また,組成物がアルミナを含むことで,組成物の焼結が促進されやすく,簡便な方法で焼結体を得ることができる。
【0026】
組成物において,アルミナの含有量は,化合物Aの全量(全モル数)に対して1mol%以下である。アルミナの含有量がこの範囲であることで,組成物及び焼結体の結晶構造が安定となりやすく,しかも,優れた導電性を発現し得る。アルミナの含有量は,化合物Aの全量(全モル数)に対して0.8mol%以下であることが特に好ましい。なお,アルミナが0mol%の場合であっても,高い導電性と機械特性を有する場合がある。なお,高い導電性と機械特性を有しやすい点では,アルミナの含有量の下限は,化合物Aの全量(全モル数)に対して0.1mol%であることが好ましい。
【0027】
組成物は,化合物A及びアルミナを含有する限り,本発明の効果が阻害されない程度であれば,その他の添加剤が含まれていてもよい。例えば,組成物には,化合物A以外の化合物が含まれていてもよいし,あるいは,焼結助剤等が含まれていてもよい。
【0028】
また,組成物には,異なる2種以上の化合物Aが含まれていてもよい。
【0029】
組成物は,例えば,粉末状の形態とすることができる。組成物が粉末である場合,粉末を構成する粒子の平均粒子径は,例えば,0.1〜1μmとすることができ,焼結性が特に優れるという観点から,0.2〜0.8μmであることが好ましい。ここでいう組成物の平均粒子径は,レーザー回折法で測定された値をいう。
【0030】
組成物は,焼結することで焼結体とすることができる。組成物の焼結方法は特に限定されないが,例えば,冷間等方圧加圧法(CIP),熱間等方圧加圧法(HIP)等の焼結方法を採用することができる。
【0031】
例えば,CIPであれば,圧力を0.3〜2.5t/cm
2とすることができ,0.5〜2t/cm
2とすることがより好ましい。また,焼結温度は1200〜1600℃とすることができ,1300〜1500℃とすることがより好ましい。焼結時間は1〜24時間とすることができ,2〜20時間とすることがより好ましい。焼結は,例えば,大気雰囲気下で行うことができる。焼結方法は,安価かつ簡便に焼結体を製造できる観点から,CIPであることが好ましい。
【0032】
以下,本発明の組成物を焼結してなる焼結体を単に「焼結体」と表記する。
【0033】
焼結体の破壊靱性値は,例えば,5.0MPa・m
0.5以上の値を取り得る。焼結体の破壊靱性値は,JIS1607に準拠して測定できる。具体的には,ビッカース圧子を用いて測定したビッカース硬度をHv,ヤング率をE, 押込荷重をP、クラック長さの平均値の半分をcとしたときに,以下の式を用いて算出できる。
【0034】
K
IC=0.018×[E/Hv]^(0.5)
×P/[c^(1.5)]
ここで,K
ICは破壊靱性値を示す。
【0035】
焼結体の破壊靱性値は,機械特性がより向上するという観点から,5.2MPa・m
0.5以上であることが好ましく,5.4MPa・m
0.5以上であることが特に好ましい。焼結体の破壊靱性値の上限は特に限定されず,例えば,30MPa・m
0.5とすることができる。
【0036】
また,焼結体の曲げ強度は,例えば,700MPa以上の値を取り得る。焼結体の曲げ強度は,JIS R1601に準拠した3点曲げ測定法で評価できる。
【0037】
焼結体の曲げ強度は,機械特性がより向上するという観点から,730MPa以上であることが好ましく,750MPa以上であることが特に好ましい。焼結体の曲げ強度の上限は特に限定されず,例えば,1500MPaとすることができる。
【0038】
焼結体は,破壊靱性値5MPa・m
0.5以上,曲げ強度700MPa以上の両方を満たす場合もあれば,いずれか一方だけを満たす場合もある。
【0039】
焼結体の導電率は,より優れた導電性を有することができるという観点から,
600℃において,5.0×10
−4(S/cm)以上,
700℃において,1.5×10
−3(S/cm)以上,
800℃において,3.5×10
−3(S/cm)以上,
900℃において,7.5×10
−3(S/cm)以上,
1000℃において,1.5×10
−2(S/cm)以上,
であることが好ましい。
【0040】
また,焼結体の導電率は,
600℃において,5.1×10
−4(S/cm)以上,
700℃において,1.6×10
−3(S/cm)以上,
800℃において,4.0×10
−3(S/cm)以上,
900℃において,8.0×10
−3(S/cm)以上,
1000℃において,1.5×10
−2(S/cm)以上,
であることがより好ましい。
【0041】
さらに,焼結体の導電率は,
600℃において,5.2×10
−4(S/cm)以上,
700℃において,1.7×10
−3(S/cm)以上,
800℃において,4.3×10
−3(S/cm)以上,
900℃において,8.5×10
−3(S/cm)以上,
1000℃において,1.5×10
−2(S/cm)以上,
であることが特に好ましい。
【0042】
上記焼結体の導電率は,交流インピーダンス法を用いて測定できる。
【0043】
焼結体の密度は特に限定的でないが,例えば,優れた導電性及び機械特性を有しやすいという観点から,焼結体の密度を96%以上とすることができ,97%以上であることが好ましく,98%以上であることがさらに好ましい。焼結体の密度はアルキメデス法を用いて測定できる。
【0044】
焼結体の結晶相の形態は特に限定的でない。優れた導電性及び機械特性を有しやすいという観点から,焼結体は,正方晶相を含むことが好ましい。焼結体の結晶相は,正方晶相に加えて又は正方晶相に替えて立方晶を含んでもよい。なお,焼結前の組成物の形態では,結晶相としては,単斜晶相及び/又は正方晶相が含まれ得る。結晶相は1種のみでもよいし,2種以上でもよい。
【0045】
本発明の組成物を使用することで,優れた導電性及び機械特性を兼ね備える焼結体を形成することができる。そのため,組成物の焼結体は,例えば,SOFC(固体酸化物形燃料電池)等に適用可能な固体電解質として好適に使用することができる。つまり,本発明の組成物は,前記固体電解質を形成させるための電解質材料として適している。
【0046】
また,焼結体は,優れた導電性のみならず,優れた機械特性をも兼ね備えることから,例えば,従来にない大きさ,形状を有するSOFC用固体電解質を形成することができる。
【0047】
本発明の組成物は,SOFC用途に限定されることはなく,その他の各種電子材料用途にも適用可能である。
【0048】
本発明の組成物をSOFC用途に使用する場合,具体的には,組成物を焼結して焼結体(酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系焼結体)を形成し,この焼結体を所定形状に成形することで固体電解質を製造できる。該固体電解質は,SOFCの固体電解質板として用いられる。
【0049】
固体電解質を成形する方法は,例えば,静水圧プレス機により加圧成形する方法,あるいは,ドクターブレード法やカレンダーロール法を採用できる。成形条件等は特に限定されず,従来と同様の条件で行うことができる。
【0050】
上記固体電解質板の片面に燃料極を形成し,反対側の面に空気極を形成することで,固体電解質の片面に燃料極を有し,反対側面に空気極を有する単セル構造を備えて成る固体酸化物形燃料電池が得られる。
【0051】
固体電解質板の片面に燃料極を形成するにあたっては,燃料極を形成させるためのセラミックス粉末を含むスラリーを準備し,このスラリーをいわゆるスラリーコーティング法により固体電解質板の片面に塗布し,その後,所定温度で焼成を行う。これにより,固体電解質板の片面に薄膜状の燃料極が形成される。燃料極を形成させるためのセラミックス粉末としては,例えば,ニッケル60重量%−ジルコニア40重量%で構成されるNi−ジルコニアサーメット材料等が例示されるが,その他,従来から燃料極として使用されているセラミックス粉末も使用できる。燃料極の厚みは,例えば,50μmとすることができるが,この厚みに限定されるものではない。
【0052】
一方,固体電解質板に空気極を形成するにあたっても燃料極の形成と同様,空気極を形成させるためのセラミックス粉末を含むスラリーを用いたスラリーコーティング法により固体電解質板の片面に塗布し,その後,所定温度で焼成を行う。これにより,固体電解質板の燃料極の形成面とは反対側の面に薄膜状の空気極が形成される。空気極を形成させるためのセラミックス粉末としては,例えば,ランタンストロンチウムマンガネイト(La(Sr)MnO
3)等が例示されるが,その他,従来から空気極として使用されているセラミックス粉末も使用できる。空気極の厚みは,例えば,50μmとすることができるが,この厚みに限定されるものではない。
【0053】
上記のように構成される固体酸化物形燃料電池は,本発明の組成物で形成された固体電解質板を備えるので,優れた発電効率を有する。そのため,このような固体酸化物形燃料電池を使用することで,エネルギー効率に優れる発電システムを構築することが可能である。
【0054】
2.酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物の製造方法
酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物の製造方法は特に限定されないが,例えば,下記工程1〜4を含む製造方法により,組成物を製造することができる。
工程1:ジルコニウム塩,セリウム塩及び希土類(セリウムを除く)塩と,溶媒とを含む原料を調製する工程,
工程2:前記工程1で得られた原料を中和し,沈殿物を得る工程,
工程3:前記工程2で得られた沈殿物を焼成し,酸化物を得る工程,及び,
工程4:前記工程3で得られた酸化物にアルミナを混合する工程,
を含む,製造方法。
【0055】
工程1では,ジルコニウム塩を含む原料と,セリウム塩を含む原料と,セリウムを除く希土類の塩を含む原料を,溶媒に溶解又は分散させる。
【0056】
ジルコニウム塩としては,ジルコニウムイオンを供給できる化合物であれば特に限定されず,例えば,オキシ硝酸ジルコニウム,オキシ塩化ジルコニウム等のジルコニウム無機酸塩;ジルコニウムテトラブトキシド等のジルコニウム有機酸塩;などが挙げられる。ジルコニウム塩を含む原料は,上記ジルコニウム塩を1種又は2種以上含むことができる。ジルコニウム塩を含む原料は,ジルコニウム塩のみで構成されていてもよい。
【0057】
ジルコニウム塩は溶媒に溶解させてジルコニウム塩溶液として使用することができる。当該溶媒としては,ジルコニウム塩を溶解できるものであれば特に限定されず,例えば,水等の水系溶媒;メタノール,エタノール等の有機溶媒;などが挙げられる。溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
ジルコニウム塩と溶媒との組み合わせに関して,以下に具体例を挙げる。溶媒として水等の水系溶媒を用いる場合は,ジルコニウム塩は,オキシ硝酸ジルコニウム,オキシ塩化ジルコニウム等のジルコニウム無機酸塩を用いることができる。また,溶媒としてメタノール,エタノール等の有機溶媒を用いる場合は,ジルコニウム塩は,ジルコニウムテトラブトキシド等のジルコニウム有機酸塩を用いることができる。本実施形態では,工業的規模での生産性等の見地より,溶媒として水系溶媒(特に水),ジルコニウム塩としてオキシ塩化ジルコニウムの組み合わせが好ましい。
【0059】
セリウム塩としては,セリウムイオンを供給できる化合物であれば特に限定されず,例えば,硝酸塩,塩化物,蓚酸塩等のセリウムの無機酸塩;メトキシド,エトキシドやブトキシド等のセリウム有機酸塩;などが挙げられる。セリウム塩を含む原料は,上記セリウム塩を1種又は2種以上含むことができる。セリウム塩を含む原料は,セリウム塩のみで構成されていてもよい。
【0060】
セリウム塩は溶媒に溶解させてセリウム塩溶液として使用することができる。当該溶媒としては,セリウム塩を溶解できるものであれば特に限定されず,例えば,水等の水系溶媒;メタノール,エタノール等の有機溶媒;などが挙げられる。溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
セリウム塩と溶媒との組み合わせに関して,以下に具体例を挙げる。溶媒として水等の水系溶媒を用いる場合は,セリウム塩は,硝酸塩,塩化物,蓚酸塩等のセリウムの無機酸塩を用いることができる。また,溶媒としてメタノール,エタノール等の有機溶媒を用いる場合は,セリウム塩は,メトキシド,エトキシドやブトキシド等のセリウム有機酸塩を用いることができる。本実施形態では,工業的規模での生産性等の見地より,溶媒として水系溶媒(特に水),塩化物の組み合わせが好ましい。
【0062】
希土類塩としては,希土類イオンを供給できる化合物であれば特に限定されず,例えば,硝酸塩,塩化物,蓚酸塩等の希土類の無機酸塩;メトキシド,エトキシドやブトキシド等の希土類の有機酸塩;などが挙げられる。希土類塩を含む原料は,上記希土類塩を1種又は2種以上含むことができる。希土類塩を含む原料は,希土類塩のみで構成されていてもよい。
【0063】
希土類塩は溶媒に溶解させて希土類塩溶液として使用することができる。当該溶媒としては,希土類の塩を溶解できるものであれば特に限定されず,例えば,水等の水系溶媒;メタノール,エタノール等の有機溶媒;などが挙げられる。溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
希土類塩と溶媒との組み合わせに関して,以下に具体例を挙げる。溶媒として水等の水系溶媒を用いる場合は,希土類塩は,硝酸塩,塩化物,蓚酸塩等の希土類の無機酸塩を用いることができる。また,溶媒としてメタノール,エタノール等の有機溶媒を用いる場合は,希土類塩は,メトキシド,エトキシドやブトキシド等の希土類の有機酸塩を用いることができる。本実施形態では,工業的規模での生産性等の見地より,溶媒として水系溶媒(特に水),塩化物の組み合わせが好ましい。
【0065】
なお,工程1において,ジルコニウム塩,セリウム塩及び希土類塩を固体状態であらかじめ混合してから,溶媒と混合することで,ジルコニウム塩,セリウム塩及び希土類塩と,溶媒とを含む原料を調製することもできる。この場合の溶媒は,前述同様である。
【0066】
工程1で調製される原料は,化合物Aを調製するための原料となり得る。以下,工程1で調製される原料を「化合物Aの原料」と表記することがある。
【0067】
工程2では,工程1で得られた化合物Aの原料を中和し,この中和により沈殿物が得られる。この沈殿物は,ジルコニウム塩,セリウム塩及び希土類塩に由来する複合水酸化物である。
【0068】
化合物Aの原料を中和するには,例えば,アルカリを使用することができる。前記アルカリは,例えば,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化アンモニウム等を使用することができる。アルカリは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また,アルカリは,固体状態で化合物Aの原料に加えてもよいし,あるいは,アルカリ溶液として化合物Aの原料に加えてもよい。
【0069】
工程3では,工程2で得られた沈殿物(複合水酸化物)を焼成する,この焼成により,酸化物を得る。
【0070】
工程2で得られた沈殿物は,例えば,あらかじめ固液分離により回収しておくことができる。この回収は,工程2及び工程3のいずれの工程で行ってもよい。
【0071】
前記焼成の条件は限定的ではない。例えば,焼成温度は600〜1200℃とすることができ,700〜1100℃とすることがより好ましい。また,焼成時間は2〜10時間とすることができ,3〜9時間とすることがより好ましい。この焼成は,例えば,大気圧下で行うことができる。
【0072】
工程4では,工程3で得られた酸化物にアルミナを混合させる。
【0073】
アルミナが焼結体に均一に分散して存在しやすい等の観点から,アルミナは粉末であることが好ましい。この場合,アルミナの平均粒子径は,例えば,0.1〜1μmであることが好ましい。
【0074】
アルミナは,使用する化合物Aの原料の全量(全モル数)(もしくは,酸化物の全量)に対して,1mol%以下となるように酸化物と混合させる。アルミナの添加量は,化合物Aの原料の全量(全モル数)に対して0.8mol%以下であることが特に好ましい。アルミナの添加量の下限は,化合物Aの原料の全量(全モル数)に対して0.1mol%であることが好ましい。
【0075】
工程3で得た酸化物にアルミナを混合するにあたっては,あらかじめ酸化物を粉砕処理しておいてもよい。あるいは,工程3で得た酸化物にアルミナを混合してから粉砕処理を行ってもよい。
【0076】
酸化物とアルミナとを混合した後は,必要に応じてボールミル等の工程の粉砕機で粉砕処理をしてもよい。この粉砕を行うことで,焼結体中においてアルミナがより均一に分散して存在しやすくなる。
【0077】
酸化物とアルミナとを混合し,必要に応じて粉砕処理をした後は,得られた粉末を乾燥処理することができる。この乾燥処理は,例えば,乾燥温度を100〜250℃とすることができ,110〜240℃とすることがより好ましい。乾燥時間は12〜120時間とすることができ,24〜96時間とすることがより好ましい。乾燥処理は,例えば,大気圧下で行うことができる。
【0078】
上記工程1〜工程4を経ることで,酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物が粉末等の形態で得られる。具体的に,工程1〜3では,化合物Aが調製され,工程4にて,化合物Aとアルミナが混合されて,酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物が得られる。
【0079】
工程1〜工程3を含む製造方法は,いわゆる共沈法であり,化合物Aを調製するための工程である。化合物Aの調製方法は,必ずしも工程1〜工程3を含む共沈法に限定されることなはなく,その他の方法,例えば,ゾルゲル法等の各種の方法で調製してもよい。ただし,化合物Aは,コストや生産性の観点から共沈法(工程1〜工程3を含む工程)で製造することが好ましい。この場合,焼結体においてアルミナ成分の分散状態も向上しやすくなり,また,化合物Aの焼結も促進されやすくなる。その結果,焼結体は,所望の結晶構造が安定となりやすく,しかも,優れた導電性を備えることが可能になる。
【0080】
化合物Aが,工程1,工程1及び工程3を含む共沈法で製造される場合,化合物Aは,ジルコニア中にセリア及びセリウム以外の希土類元素が固溶された酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系化合物を主成分とする。アルミナは,当該化合物中において良好な分散状態で存在し得る。
【0081】
なお,酸化セリウム安定化酸化ジルコニウム系組成物粉末を製造するにあたっては,化合物A及びアルミナ以外の他の添加剤等の材料を添加する工程を有してもよい。当該添加は工程1〜4の中で行ってもよいし,別途,添加剤を添加する工程を備えてもよい。他の添加剤としては,例えば,焼結助剤等が例示される。
【0082】
上記製造方法で得られた組成物を焼結することで焼結体を形成することができる。焼結方法は特に限定的ではなく,前述の焼結方法(例えば,冷間等方圧加圧法(CIP),熱間等方圧加圧法(HIP)等の方法)を採用することができる。焼結条件も前述のとおりである。特に,組成物にはアルミナが含まれていることで,焼結が促進されやすい。そのため,熱間等方圧加圧法(HIP)用の特殊な操作を必要とせず安価かつ簡便に焼結体を形成することができる。
【0083】
上記焼結によって得られる焼結体は,本発明の組成物を用いて形成されるため,優れた導電性及び機械特性を兼ね備える。そのため,組成物の焼結体は,例えば,SOFC(固体酸化物形燃料電池)等に適用可能な固体電解質として好適に使用することができる。
【実施例】
【0084】
以下,実施例により本発明をより具体的に説明するが,本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。なお,実施例及び比較例において得られた材料中には,不可避不純物として酸化ハフニウムが酸化ジルコニウムに対して1.3〜2.5重量%含まれている。
【0085】
(実施例1)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液,塩化セリウム水溶液及び塩化イットリウム水溶液(すべて第一稀元素化学工業製)を(ZrO
2)
0.89(CeO
2)
0.1(Y
2O
3)
0.01の比率となるように秤量し,混合した。得られた混合液(化合物Aの原料)を,水酸化ナトリウム溶液を用いて中和し,セリウム−イットリウム−ジルコニウム複合水酸化物スラリーを得た。このスラリーには,水酸化物が沈殿物として存在していた。
【0086】
得られた水酸化物スラリーを固液分離して水酸化物(沈殿物)を回収し,この沈殿物を,電気炉で大気中1090℃,5時間焼成した。この焼成により酸化物が得られた。次いで,平均粒子径を0.5μmに調整したアルミナ粉末(和光純薬工業制試薬)を,当該酸化物に対して0.3mol%となるよう添加し,その後,湿式ボールミルで粉砕,分散した後,120℃で乾燥し,粉末を得た。
【0087】
得られた粉末のXRDパターンをX線回折装置で測定した結果,サンプルのXRDパターンは単斜晶相及び正方晶相であった。
【0088】
次に,CIPを用いて,組成物を1.0t/cm
2の圧力で2分間成形後,電気炉で大気中1450℃,2時間熱処理(焼結)することで,焼結体を得た。得られた焼結体のXRDパターンをX線回折装置で測定した結果,サンプルのXRDパターンは正方晶相及び立方晶相であった。また,交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,600℃において,5.9×10
−4(S/cm),
700℃において,1.9×10
−3(S/cm),
800℃において,4.4×10
−3(S/cm),
900℃において,8.9×10
−3(S/cm),
1000℃において,1.5×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は5.4MPa・m
0.5,3点曲げ強度は772MPaであった。
【0089】
(実施例2)
塩化イットリウム水溶液を塩化スカンジウム水溶液に変更し(第一稀元素化学工業製),酸化物の組成が(ZrO
2)
0.925(CeO
2)
0.06(Sc
2O
3)
0.015の比率となるようにオキシ塩化ジルコニウム水溶液と塩化セリウム水溶液及び塩化スカンジウム水溶液を秤量したこと以外は実施例1と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,1.2×10
−3(S/cm),
700℃において,3.7×10
−3(S/cm),
800℃において,8.4×10
−3(S/cm),
900℃において,1.6×10
−2(S/cm),
1000℃において,2.6×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は9.3MPa・m
0.5,3点曲げ強度は1015MPaであった。
【0090】
(実施例3)
酸化物の組成が(ZrO
2)
0.92(CeO
2)
0.07(Sc
2O
3)
0.01とした以外は実施例2と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,8.0×10
−4(S/cm),
700℃において,2.5×10
−3(S/cm),
800℃において,5.6×10
−3(S/cm),
900℃において,1.1×10
−2(S/cm),
1000℃において,1.7×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は15.4MPa・m
0.5,3点曲げ強度は854MPaであった。
【0091】
(実施例4)
酸化物の組成が(ZrO
2)
0.91(CeO
2)
0.08(Sc
2O
3)
0.01とした以外は実施例2と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,7.0×10
−4(S/cm),
700℃において,2.2×10
−3(S/cm),
800℃において,5.2×10
−3(S/cm),
900℃において,1.0×10
−2(S/cm),
1000℃において,1.7×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は10.4MPa・m
0.5,3点曲げ強度は875MPaであった。
【0092】
(実施例5)
酸化物の組成が(ZrO
2)
0.89(CeO
2)
0.1(Sc
2O
3)
0.01とした以外は実施例2と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,6.5×10
−4(S/cm),
700℃において,2.1×10
−3(S/cm),
800℃において,5.0×10
−3(S/cm),
900℃において,9.8×10
−3(S/cm),
1000℃において,1.7×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は7.9MPa・m
0.5,3点曲げ強度は918MPaであった。
【0093】
(実施例6)
酸化物の組成が(ZrO
2)
0.87(CeO
2)
0.12(Sc
2O
3)
0.01とした以外は実施例2と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,5.2×10
−4(S/cm),
700℃において,1.8×10
−3(S/cm),
800℃において,4.4×10
−3(S/cm),
900℃において,8.8×10
−3(S/cm),
1000℃において,1.5×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は5.4MPa・m
0.5,3点曲げ強度は896MPaであった。
【0094】
(実施例7)
塩化イットリウム水溶液を塩化イッテルビウム水溶液に変更し(第一稀元素化学工業製),酸化物の組成が(ZrO
2)
0.89(CeO
2)
0.1(Yb
2O
3)
0.01の比率となるようにオキシ塩化ジルコニウム水溶液と塩化セリウム水溶液及び塩化スカンジウム水溶液を秤量したこと以外は実施例1と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,6.0×10
−4(S/cm),
700℃において,1.9×10
−3(S/cm),
800℃において,4.5×10
−3(S/cm),
900℃において,9.0×10
−2(S/cm),
1000℃において,1.6×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は5.3MPa・m
0.5,3点曲げ強度は861MPaであった。
【0095】
(実施例8)
塩化イットリウム水溶液を塩化スカンジウム水溶液に変更し(第一稀元素化学工業製),酸化物の組成が(ZrO
2)
0.93(CeO
2)
0.05(Sc
2O
3)
0.02の比率となるようにオキシ塩化ジルコニウム水溶液と塩化セリウム水溶液及び塩化スカンジウム水溶液を秤量したこと以外は実施例1と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,2.0×10
−3(S/cm),
700℃において,5.0×10
−3(S/cm),
800℃において,11.0×10
−3(S/cm),
900℃において,2.0×10
−2(S/cm),
1000℃において,3.2×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は6.1MPa・m
0.5,3点曲げ強度は791MPaであった。
【0096】
(比較例1)
アルミナを添加しなかったこと以外は,実施例1と同様に粉末及び焼結体を得た。得られた焼結体のXRDパターンをX線回折装置で測定した結果,サンプルのXRDパターンは正方晶相及び立方晶相であった。また,交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,4.6×10
−4(S/cm),
700℃において,1.5×10
−3(S/cm),
800℃において,3.6×10
−3(S/cm),
900℃において,7.1×10
−3(S/cm),
1000℃において,1.4×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は5.5MPa・m
0.5,3点曲げ強度は690MPaであった。
【0097】
(比較例2)
酸化物の組成を(ZrO
2)
0.88(CeO
2)
0.12としたこと以外(すなわち,セリウムを除く希土類元素の酸化物を含まない)実施例1と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,5.5×10
−5(S/cm),
700℃において,2.0×10
−4(S/cm),
800℃において,5.3×10
−4(S/cm),
900℃において,1.1×10
−3(S/cm),
1000℃において,2.0×10
−3(S/cm),
であった。破壊靱性値は焼結体にクラックが生じず測定不可であった。また,3点曲げ強度は531MPaであった。
【0098】
(比較例3)
酸化物の組成を(ZrO
2)
0.86(CeO
2)
0.14としたこと以外(すなわち,セリウムを除く希土類元素の酸化物を含まない)実施例1と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,4.0×10
−4(S/cm),
700℃において,1.4×10
−3(S/cm),
800℃において,3.8×10
−3(S/cm),
900℃において,8.1×10
−4(S/cm),
1000℃において,1.5×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は6.2MPa・m
0.5,曲げ強度は435MPaであった。
【0099】
(比較例4)
酸化物の組成を(ZrO
2)
0.97(Y
2O
3)
0.03としたこと以外(すなわち,セリウムの酸化物を含まない)実施例1と同様に粉末及び焼結体を得た。交流インピーダンス法を用い焼結体の導電率を測定した結果,
600℃において,1.7×10
−3(S/cm),
700℃において,5.9×10
−3(S/cm),
800℃において,1.4×10
−2(S/cm),
900℃において,2.9×10
−3(S/cm),
1000℃において,5.0×10
−2(S/cm),
であった。また,破壊靱性値は4.4MPa・m
0.5,曲げ強度は985MPaであった。
【0100】
実施例1〜8で得られた粉末の焼結体は,優れた導電性及び機械特性を兼ね備えた材料であった。一方,比較例1では,アルミナを含まないので,導電率が低く,比較例2,3では,希土類元素(セリウムを除く)の酸化物を含まないので,導電率及び機械特性がいずれも悪化しており,比較例4では,酸化セリウムを含まないので,破壊靭性値が低いものであった。
【0101】
実施例及び比較例の各評価方法は次のようにして行った。
【0102】
(X線回折法)
結晶構造は,X線回折(XRD)測定のスペクトルから判定した。X線回折測定は,リガク社製「MiniFlexII」を用い,CuKα1線により2θ=28°〜32°の範囲で室温にて測定を行なった(単斜晶であれば28°と32°付近にピークが出現し,安定化相(正方晶・立方晶)であれば30°付近にピークが出現する)。また,正方晶と立方晶は72°〜76°のピークにおいて,2本に分離した場合を正方晶,1本の場合を立方晶とした。
【0103】
(交流インピーダンス法による導電率測定)
導電率の測定には,インピーダンスメーター(HP4194A)を用いた。インピーダンスメーターの周波数範囲を100Hz〜10MHzとして測定を行い,600℃〜1000℃の温度範囲にて複素インピーダンス解析により,導電率と温度との関係をプロット(アレニウスプロット)することで導電率を測定した。
【0104】
(破壊靱性値測定)
焼結体の破壊靱性値は,JIS1607の式に準拠して測定した。具体的には,ビッカース圧子を用いて測定したビッカース硬度をHv,ヤング率をE, 押込荷重をP、クラック長さの平均値の半分をcとし,以下の式,
K
IC=0.018×[E/Hv]^(0.5)
×P/[c^(1.5)]
を用いて,破壊靱性値K
ICを算出した。
【0105】
(曲げ強度測定)
焼結体の曲げ強度は,JIS R1601に準拠した3点曲げ測定法で評価した。