特許第6554792号(P6554792)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6554792炭素繊維強化樹脂組成物、ペレット、成形品および電子機器筐体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554792
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】炭素繊維強化樹脂組成物、ペレット、成形品および電子機器筐体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20190729BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20190729BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20190729BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20190729BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20190729BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20190729BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C08L77/06
   C08K7/06
   C08L67/00
   C08J5/04
   C08K5/09
   C08G69/26
   C08G63/60
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-549236(P2014-549236)
(86)(22)【出願日】2014年10月3日
(86)【国際出願番号】JP2014076517
(87)【国際公開番号】WO2015053181
(87)【国際公開日】20150416
【審査請求日】2017年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-213347(P2013-213347)
(32)【優先日】2013年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 公彦
(72)【発明者】
【氏名】玉井 晃義
(72)【発明者】
【氏名】歌崎 憲一
【審査官】 工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/080820(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/116818(WO,A1)
【文献】 特開2011−195814(JP,A)
【文献】 特開2007−106917(JP,A)
【文献】 特開2009−041009(JP,A)
【文献】 特開2012−116917(JP,A)
【文献】 特開2008−069339(JP,A)
【文献】 特開2011−080092(JP,A)
【文献】 特開2009−298853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08G 63/00−63/91
C08L 67/00−67/04
C08G 69/00−69/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジカルボン酸総量中テレフタル酸を60〜100モル%含有するジカルボン酸と、ジアミン総量中1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを合計60〜100モル%含有するジアミンとを重縮合して得られる、融点が220〜300℃である半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)炭素繊維60〜200重量部(C)樹状ポリエステル0.01〜10重量部および(D)酸無水物0.01〜5重量部を配合してなる炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
(A)半芳香族ポリアミド樹脂の0.2g/dL濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.5〜1.3dL/gの範囲である請求項に記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
炭素繊維強化樹脂組成物中における(A)半芳香族ポリアミド樹脂1kgあたりの末端アミノ基濃度が0.1〜30ミリ当量/kgである請求項1または2に記載の炭素繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を成形してなる、炭素繊維の重量平均繊維長が0.1〜0.5mmであるペレット。
【請求項5】
請求項に記載のペレットを射出成形して得られる成形品。
【請求項6】
成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長が0.01〜0.5mmである請求項に記載の成形品。
【請求項7】
成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長/数平均繊維長の比(Lw/Ln)が1.0以上1.3未満である請求項またはに記載の成形品。
【請求項8】
請求項に記載のペレットを射出成形して得られる電子機器筐体。
【請求項9】
平均肉厚が0.5〜1.0mmである請求項記載の電子機器筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化樹脂組成物、それを成形してなるペレット、ペレットを射出成形して得られる成形品および電子機器筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、剛性、強度などの機械特性や耐熱性などに優れているため、電気・電子、自動車、機械、建材など多岐に渡り利用されている。最近では、金属代替としての樹脂化が進み、樹脂に金属同等レベルの剛性、強度などの機械特性が求められている。特に、パソコン、携帯電話等のOA機器に代表される電子機器の筐体などの家電製品部品に対しては、優れた表面外観、低吸水性、薄肉化が求められるため、その材料には、機械特性に加え、優れた表面外観、吸水特性および流動性を有し、ソリを低減することが求められる。
【0003】
ポリアミド樹脂の機械特性を向上させるための手段として、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填剤を配合することは一般的に知られている。一般的な配合手法としては、ポリアミド樹脂と繊維状充填剤のチョップドストランド(短繊維)を押出機中で溶融混練することにより、繊維強化樹脂組成物を得る手法が用いられる。金属同等の剛性を実現するためには、繊維状充填剤を高充填する必要があるが、ガラス繊維を用いた場合、著しく多量に配合する必要があり、金属同等の剛性を実現することは現実的には困難である。一方、炭素繊維を用いた場合、剛性等の機械特性はガラス繊維と比べて著しく向上するものの、炭素繊維を高充填した成形品は、高光沢であってもうねり状凹凸が発生するため、機械特性と表面外観との両立は困難であった。さらに、炭素繊維を多量配合するために、溶融混練時の剪断によって炭素繊維が折損して機械特性が低下すること、多量の炭素繊維起因の剪断発熱によりポリアミド樹脂が劣化しやすく熱安定性が低下すること、流動性が低く薄肉成形が困難であることなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
これに対し、機械特性および表面外観を向上させる目的で、熱可塑性ポリアミド樹脂100重量部に対して、引張強度が5.1GPa以上の炭素繊維20〜160重量部を配合してなる炭素繊維強化樹脂組成物(特許文献1参照)、融点と降温結晶化の発熱ピーク温度との差が0℃以上50℃以下である熱可塑性ポリアミド樹脂100重量部に対して、炭素繊維10〜300重量部を配合してなる炭素繊維強化樹脂組成物(特許文献2参照)などが提案されている。
【0005】
また、流動性と機械特性、表面外観を向上させる手段として、結晶融解熱量が特定範囲にあるポリアミド樹脂100重量部、液晶性樹脂0.01〜100重量部および酸無水物0.01〜5重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物(特許文献3参照)、熱可塑性樹脂および樹状ポリエステルを配合してなる樹脂組成物100重量部に対し、繊維状充填材5〜200重量部を配合してなる長繊維強化樹脂ペレット(特許文献4参照)などが提案されている。
【0006】
一方、結晶化速度の速いポリアミド樹脂を用いて成形性を向上させる手段として、主成分がテレフタル酸であるジカルボン酸成分と主成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれた1種以上であるジアミン成分とからなり、過冷却度が40℃以下であるポリアミド100質量部および導電性付与剤5〜50質量部を含有する導電性ポリアミド樹脂組成物(特許文献5参照)が提案されており、比較例にはジアミン成分に1,9−ノナンジアミンを用いた例が記載されている。
【特許文献1】特開2012−255063号公報
【特許文献2】特開2013−64106号公報
【特許文献3】特開2000−313803号公報
【特許文献4】特開2012−92303号公報
【特許文献5】特開2013−60580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載の樹脂組成物では、機械特性および表面外観は向上するものの、炭素繊維強化樹脂組成物の流動性が低く、薄肉成形性に課題があった。
【0008】
特許文献3、4に記載の樹脂組成物では、流動性は向上するものの、吸水特性および表面外観が不十分である課題があった。
【0009】
特許文献5に記載の樹脂組成物では、炭素繊維を高充填した場合、流動性、薄肉成形性や表面外観が不十分である。
【0010】
上述のとおり、従来公知の炭素繊維強化樹脂組成物は、熱安定性、流動性や薄肉成形性と、機械特性と表面外観とを両立することが困難であった。さらに、成形品にソリが生じやすい課題があった。
【0011】
本発明は、前記課題を解決し、熱安定性、滞留安定性、流動性および薄肉成形性に優れ、金属同等レベルの剛性と優れた表面外観および吸水特性を有しながら、ソリの低減された成形品を得ることのできる炭素繊維強化樹脂組成物およびそれを射出成形して得られる電子機器筐体用薄肉成形品を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、以下の構成を有する。
すなわち、
(A)ジカルボン酸総量中テレフタル酸を60〜100モル%含有するジカルボン酸と、ジアミン総量中1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを合計60〜100モル%含有するジアミンとを重縮合して得られる、融点が220〜300℃である半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)炭素繊維60〜200重量部(C)樹状ポリエステル0.01〜10重量部および(D)酸無水物0.01〜5重量部を配合してなる炭素繊維強化樹脂組成物、である。
【0013】
本発明のペレットは次の構成を有する。すなわち、
上記炭素繊維強化樹脂組成物を成形してなるペレットであって、ペレット中の炭素繊維の重量平均繊維長が0.1〜0.5mmであるペレット、である。
【0014】
本発明の成形品は次の構成を有する。すなわち、
ペレットを射出成形して得られる成形品、である。
【0015】
本発明の電子機器筐体は次の構成を有する。すなわち、
ペレットを射出成形して得られる電子機器筐体、である。
【0016】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対して、さらに(D)酸無水物0.01〜5重量部を配合してな
【0017】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂の0.2g/dL濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.5〜1.3dL/gの範囲であることが好ましい。
【0018】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、炭素繊維強化樹脂組成物中における(A)半芳香族ポリアミド樹脂1kgあたりの末端アミノ基濃度が0.1〜30ミリ当量/kgであることが好ましい。
【0019】
本発明の成形品は、成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長が0.01〜0.5mmであることが好ましい。
【0020】
本発明の成形品は、成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長と数平均繊維長の比(Lw/Ln)が1.0以上1.3未満であることが好ましい。
【0021】
本発明の電子機器筐体は、平均肉厚が0.5〜1.0mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、熱安定性、滞留安定性、流動性および薄肉成形性に優れ、金属同等レベルの剛性と優れた表面外観および吸水特性を有しながら、ソリの低減された成形品を得ることができる。そのため、軽量性、高剛性、薄肉成形性、良表面外観などが必要な、パソコン、携帯電話などの電子機器筐体に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の炭素繊維強化樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と記載する場合がある)について具体的に説明する。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、(A)ジカルボン酸総量中テレフタル酸を60〜100モル%含有するジカルボン酸と、ジアミン総量中1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを合計60〜100モル%含有するジアミンとを重縮合して得られる、融点が220〜300℃である半芳香族ポリアミド樹脂(以下、「(A)半芳香族ポリアミド樹脂」と記載する場合がある)を配合してなる。かかる(A)半芳香族ポリアミド樹脂を配合することにより、流動性と薄肉成形性に優れ、成形品の剛性や強度などの機械特性および吸水特性を向上させることのできる炭素繊維強化樹脂組成物が得られる。
【0025】
(A)半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸としては、テレフタル酸が用いられる。ジカルボン酸総量中、テレフタル酸を60〜100モル%含有することが必要であり、他のジカルボン酸をジカルボン酸総量中40モル%以下含有してもよい。テレフタル酸成分が60モル%未満の場合には、樹脂組成物の熱安定性、滞留安定性、流動性および薄肉成形性や、樹脂組成物から得られる成形品の吸水特性、表面外観、耐薬品性、寸法安定性などの特性が低下する。テレフタル酸の含有量は、ジカルボン酸総量中75モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。
【0026】
他のジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらのうち芳香族ジカルボン酸が好ましく使用される。
【0027】
さらに、これらのジカルボン酸に加えて、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。
【0028】
(A)半芳香族ポリアミド樹脂を構成するジアミンとしては、1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンが用いられる。一般的に、ポリアミド樹脂においてはいわゆる偶奇効果が発現する。すなわち、ポリアミド樹脂を構成するジアミンの炭素数が偶数であると、奇数である場合に比べてより安定な結晶構造をとり、結晶性が高くなる傾向にある。本発明においては、1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを用いることにより、樹脂組成物の結晶化速度を適度な範囲に調整し、半芳香族ポリアミド樹脂の特性を生かしながら、流動性および薄肉成形性を向上させるとともに、成形品のソリも低減することができる。本発明においては、ジアミン総量中、1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを合計60〜100モル%含有することが必要であり、他のジアミンをジアミン中40モル%以下含有してもよい。なお、1,9−ノナンジアミンまたは2−メチル−1,8−オクタンジアミンのいずれかを含有する場合には、その含有量が60〜100モル%であり、両方を含有する場合には、その合計含有量が60〜100モル%であればよい。1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンの合計含有量が60モル%未満の場合には、樹脂組成物の熱安定性、流動性および薄肉成形性が低下し、樹脂組成物から得られる成形品の耐薬品性、吸水特性、力学特性のいずれかが低下する。1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンの合計含有量は、ジアミン総量中70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。また、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比(1,9−ノナンジアミン:2−メチル−1,8−オクタンジアミン)は、好ましくは30:70〜90:10、より好ましくは40:60〜70:30である。1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比がこの好ましい範囲にあると、樹脂組成物の流動性、熱安定性および滞留安定性に優れ、樹脂組成物から得られる成形品の表面外観とのバランスをより向上させることができる。
【0029】
他のジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0030】
また、上記(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、滞留安定性を向上させる観点から、その分子鎖の末端が末端封止剤により封止されていることが好ましく、末端基の40%以上が封止されていることがより好ましく、末端基の60%以上が封止されていることがさらに好ましく、末端基の70%以上が封止されていることがさらに好ましい。
【0031】
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能化合物であれば特に制限はなく、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。反応性および封止末端の安定性の点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸がより好ましい。
【0032】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸などの脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
【0033】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミンなどの脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミンなどの芳香族モノアミンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。反応性、沸点、封止末端の安定性および価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましい。
【0034】
本発明における(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、上記ジカルボン酸とジアミンとを公知の任意の方法で重縮合することにより得ることができる。より具体的には、例えば、ジアミンおよびジカルボン酸、必要に応じて触媒や末端封止剤を混合してナイロン塩を製造し、得られたナイロン塩を200〜250℃の温度で加熱してプレポリマーを得て、さらにプレポリマーを高重合度化する方法などが挙げられる。
【0035】
(A)半芳香族ポリアミド樹脂の末端を封止する場合、末端封止剤の配合量は、最終的に得られる(A)半芳香族ポリアミド樹脂の極限粘度および末端基の封止率に応じて適宜調整することができる。具体的な配合量は、用いる末端封止剤の反応性、沸点、反応装置、反応条件などによって異なるが、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モル数に対して0.5〜10モル%の範囲内で配合される。
【0036】
本発明における(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、融点が220〜300℃である。融点が220℃未満であると、樹脂組成物から得られる成形品の機械特性および吸水特性が低下する。230℃以上が好ましく、240℃以上がより好ましい。一方、融点が300℃を超えると、樹脂組成物の流動性、熱安定性および滞留安定性が低下し、成形品の薄肉成形性、表面外観が低下する。290℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。ここで、本発明における(A)半芳香族ポリアミド樹脂の融点とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC、EXSTAR 6000を用い、ポリアミド樹脂を330℃で5分間保持し、次いで10℃/分の速度で23℃まで降温せしめた後、10℃/分で昇温したときの融解吸熱ピークを融点とする。なお、半芳香族ポリアミド樹脂の融点を前記範囲に調整する方法としては、例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比を適宜調整する方法や、その他のジアミンを共重合する方法などが挙げられる。
【0037】
本発明における(A)半芳香族ポリアミド樹脂は、0.2g/dL濃硫酸中30℃で測定した極限粘度が0.5〜1.3dL/gの範囲であることが好ましい。極限粘度が0.5dL/g以上であると、成形品の機械特性をより向上させることができる。0.6dL/g以上がより好ましく、0.7dL/g以上がさらに好ましい。一方、極限粘度が1.3dL/g以下であると、樹脂組成物の流動性、薄肉成形性および成形品の表面外観をより向上させ、成形品のソリをより低減することができる。1.2dL/g以下がより好ましく、1.1dL/g以下がさらに好ましい。
【0038】
半芳香族ポリアミド樹脂の極限粘度をかかる範囲にする手段としては、例えば、半芳香族ポリアミド樹脂製造時の圧力、温度、重合時間等の重合条件を適宜調整する方法や、ジカルボン酸、ジアミン、末端封鎖剤などの原料組成を調整する方法などが挙げられる。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、(B)炭素繊維を配合してなる。(B)炭素繊維を配合することにより、成形品の剛性、強度などの機械特性を向上させることができる。
【0040】
本発明における(B)炭素繊維としては、特に制限がなく、公知の各種炭素繊維、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ、レーヨン、リグニン、炭化水素ガスなどを用いて製造される炭素質繊維や黒鉛質繊維などが挙げられる。これらの繊維をニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属で被覆した繊維を用いてもよい。なかでも機械特性向上効果に優れることから、PAN系炭素繊維が好ましい。(B)炭素繊維は通常チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状であり、直径は15μm以下が一般的であり、好ましくは5〜10μmである。
【0041】
本発明における(B)炭素繊維の形態は、特に制限されないが、数千から数十万本の炭素繊維からなる炭素繊維束や、これを粉砕したミルド状の形態が好ましい。炭素繊維束については、連続繊維を直接使用するロービング法により得られるものや、所定長さにカットしたチョップドストランドを使用することが可能である。
【0042】
本発明における(B)炭素繊維は、チョップドストランドが好ましく、チョップド炭素繊維の前駆体である炭素繊維ストランドのフィラメント数は、1,000〜150,000本が好ましい。炭素繊維ストランドのフィラメント数が1,000〜150,000本であれば、製造コストを抑制でき、生産工程における安定性を確保することができる。
【0043】
本発明における(B)炭素繊維のストランド弾性率は、150GPa以上が好ましく、220GPa以上がより好ましい。一方、ストランド弾性率は、1,000GPa以下が好ましく、500GPa以下がより好ましい。炭素繊維のストランド弾性率がこの好ましい範囲であれば、樹脂組成物の流動性および薄肉成形性をより向上させ、成形品の剛性および表面外観をより向上させ、ソリをより低減されることができる。
【0044】
本発明における(B)炭素繊維のストランド強度は、1GPa以上が好ましく、3GPa以上がより好ましい。一方、ストランド強度は、10GPa以下が好ましく、5GPa以下がより好ましい。炭素繊維のストランド強度がこの好ましい範囲であれば、成形品の機械特性をより向上させるとともに、成形品表面のうねり状凹凸を低減することができ、表面外観をより向上させることができる。
【0045】
ここで、ストランド弾性率およびストランド強度とは、炭素繊維単繊維1,000〜150,000本よりなる連続繊維束にエポキシ樹脂を含浸硬化させて作製されたストランドの弾性率および強度をいい、ストランド試験片をJIS R 7601に準拠して引張試験に供して得られる値である。
【0046】
本発明における(B)炭素繊維は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂との接着性を向上させるために、表面酸化処理が施されていてもよい。表面酸化処理としては、例えば、通電処理による表面酸化処理、オゾンなどの酸化性ガス雰囲気中での酸化処理などが挙げられる。
【0047】
また、(B)炭素繊維は、その表面にカップリング剤や集束剤等を付着させたものであってもよく、(A)半芳香族ポリアミド樹脂の濡れ性や、取り扱い性を向上させることができる。カップリング剤としては、例えば、アミノ系、エポキシ系、クロル系、メルカプト系、カチオン系のシランカップリング剤などが挙げられ、アミノ系シラン系カップリング剤が好適に使用可能である。集束剤としては、例えば、無水マレイン酸系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、エポキシ系化合物、フェノール系化合物またはこれら化合物の誘導体などが挙げられ、ウレタン系化合物、エポキシ系化合物を含有する集束剤が好適に使用可能である。(B)炭素繊維中のカップリング剤および集束剤の含有量は、0.1〜10重量%であることが好ましい。集束剤の含有量が0.1〜10重量%であれば、(A)半芳香族ポリアミド樹脂の濡れ性、取り扱い性により優れる炭素繊維を得ることができる。より好ましくは0.5〜6重量%である。
【0048】
本発明の樹脂組成物における(B)炭素繊維の配合量は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対し、60〜200重量部である。(B)炭素繊維の配合量が60重量部未満であると、成形品の剛性(曲げ弾性率)、強度および耐衝撃性が低下し、電子機器筐体用途に適さない。70重量部以上が好ましく、80重量部以上がより好ましい。一方、(B)炭素繊維の配合量が200重量部を超えると、熱安定性が著しく損なわれ、表面外観、流動性に優れる炭素繊維強化樹脂組成物が得られず、生産性も著しく低下する。180重量部以下が好ましく、150重量部以下がより好ましい。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、(C)樹状ポリエステルを配合してなる。(C)樹状ポリエステルを配合することにより、樹脂組成物製造時の(A)芳香族ポリエステル樹脂の分解を抑制し、樹脂組成物の流動性、薄肉成形性および熱安定性を大きく向上させることができる。また、成形品のソリを低減することができる。
【0050】
本発明における(C)樹状ポリエステルは、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、芳香族ジカルボニル単位(R)、ならびに、3官能以上の有機残基(S)を含み、かつ、(S)の含有量が樹状ポリエステルを構成する全単量体に対して7.5〜50モル%の範囲にあり、溶融液晶性を示す樹状ポリエステルであることが好ましい。
【0051】
ここで、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)は、それぞれ以下の一般式(3)で表される構造単位であることが好ましい。
【0052】
【化1】
【0053】
ここで、RおよびRは、それぞれ芳香族残基である。Rは、芳香族残基または脂肪族残基である。R、RおよびRは、それぞれ複数の構造単位を含んでもよい。
【0054】
芳香族残基としては、置換または非置換のフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基などが挙げられ、脂肪族残基としてはエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。R、RおよびRは、それぞれ以下の構造式(4)で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0055】
【化2】
【0056】
ただし、式中Yは、水素原子、ハロゲン原子およびアルキル基から選ばれる少なくとも1種である。アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。式中nは2〜8の整数である。
【0057】
本発明における樹状ポリエステルは、3官能以上の有機残基(S)が、互いにエステル結合および/またはアミド結合により直接、あるいは、枝構造部分である前記P、QおよびRからなる構造単位を介して結合した、3分岐以上の分岐構造を基本骨格としている。ポリマーの全てが該基本骨格からなる必要はなく、例えば末端封鎖のために末端に他の構造が含まれてもよい。樹状ポリエステル中には、(S)が有する官能基が全て反応している構造、2つだけが反応している構造、および1つだけしか反応していない構造が混在していてもよい。(S)の有する官能基が全て反応した構造が、(S)全体に対して15モル%以上であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上である。
【0058】
本発明における(C)樹状ポリエステルは、溶融液晶性を示すことが好ましい。ここで溶融液晶性を示すとは、室温から昇温していった際に、ある温度域で液晶状態を示すことである。液晶状態とは、剪断下において光学的異方性を示す状態である。
【0059】
3官能の有機残基(S)としては、カルボキシル基、ヒドロキシル基またはアミノ基を有する化合物の有機残基が好ましい。これらの基を2種以上有する化合物の有機残基であってもよい。例えば、グリセロール、1,2,3−トリカルボキシプロパン、ジアミノプロパノール、ジアミノプロピオン酸などの脂肪族化合物や、トリメシン酸、トリメリット酸、4−ヒドロキシ−1,2−ベンゼンジカルボン酸、フロログルシノール、レゾルシン酸、トリカルボキシナフタレン、ジヒドロキシナフトエ酸、アミノフタル酸、5−アミノイソフタル酸、アミノテレフタル酸、ジアミノ安息香酸、メラミンなどの芳香族化合物の残基が好ましく用いられる。下記一般式(5)で表される芳香族化合物の残基がさらに好ましい。
【0060】
【化3】
【0061】
上記の3官能の有機残基の具体例としては、フロログルシノール、トリメシン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、α−レゾルシル酸、4−ヒドロキシ−1,2−ベンゼンジカルボン酸などの残基が好ましく、さらに好ましくはトリメシン酸の残基である。
【0062】
また、樹状ポリエステルの芳香族ヒドロキシカルボニル単位(P)、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位(Q)、芳香族ジカルボニル単位(R)は、樹状ポリエステルの分岐間の枝構造部分を構成する単位である。p、qおよびrはそれぞれ構造単位P、QおよびRの平均含有量(モル比)であり、(S)の含有量dの1モルに対して、p+q+r=1〜10モルの範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜6モルの範囲である。枝鎖長が上記範囲にあると、剛直で綿密な樹状構造に基づく剪断応答性などの効果が十分に奏される。
【0063】
このp、qおよびrの値は、例えば、樹状ポリエステルをペンタフルオロフェノール50重量%:重クロロホルム50重量%の混合溶媒に溶解した溶液の、40℃におけるプロトン核の核磁気共鳴スペクトルにおけるそれぞれの構造単位に由来するピーク強度比から求めることができる。各構造単位のピーク面積強度比から、平均含有率を算出し、小数点3桁は四捨五入する。分岐構造Fの含有量fにあたるピークとの面積強度比から、枝構造部分の平均鎖長を算出し、p+q+rの値とする。この場合にも小数点3桁は四捨五入する。
【0064】
pとqの比率およびpとrの比率(p/q、p/r)は、いずれも5/95〜95/5の範囲が好ましく、より好ましくは20/80〜80/20である。p/qおよびp/rの比率を95/5以下とすることで、樹状ポリエステルの融点を適度な範囲とすることができる。また、p/qおよびp/rを5/95以上とすることで樹状ポリエステルの溶融液晶性をより効果的に発現することができる。
【0065】
qとrは、実質的に等モルであることが好ましいが、末端基を制御するためにどちらかの成分を過剰に加えることもできる。q/rの比率としては0.7〜1.5の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.9〜1.1である。ここでいう等モルとは、繰り返し単位内でのモル量が等しいことを意味し、末端構造は含めない。ここで、末端構造とは、枝構造部分の末端を意味し、末端が封鎖されている場合などには、最も末端に近い枝構造部分の末端を意味する。
【0066】
前記一般式(3)において、Rは芳香族オキシカルボニル単位由来の構造単位であり、具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位などが挙げられる。好ましくはp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位であり、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位を一部併用することも可能である。また、本発明の効果を損なわない範囲で、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含有してもよい。
【0067】
は芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位由来の構造単位であり、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなど由来の構造単位が挙げられる。4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンもしくは4,4’−ジヒドロキシビフェニルとエチレングリコール由来の構造単位が含まれることが液晶性の制御の点から好ましい。
【0068】
は芳香族ジカルボニル単位由来の構造単位であり、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸など由来の構造単位が挙げられる。好ましくはテレフタル酸またはイソフタル酸由来の構造単位であり、特に両者を併用した場合に融点調節がしやすく好ましい。セバシン酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位が一部含まれていてもよい。
【0069】
本発明における(C)樹状ポリエステルの枝構造部分は、主としてポリエステル骨格からなることが好ましいが、カーボネート構造やアミド構造、ウレタン構造などを、特性に大きな影響を与えない程度に導入することも可能である。このような別の結合を導入することで、多種多様な熱可塑性樹脂に対する相溶性を調整することができる。中でもアミド構造を導入することが好ましい。アミド結合の導入の方法としては、例えば、脂肪族、脂環族、あるいは芳香族のアミン化合物を共重合する方法が挙げられる。脂肪族アミン化合物としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどが挙げられる。脂環族アミン化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。芳香族アミン化合物としては、例えば、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でもp−アミノフェノールまたはp−アミノ安息香酸が好ましい。
【0070】
樹状ポリエステルの枝構造部分の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位およびイソフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位およびイソフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位および2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるものなどが挙げられる。
【0071】
これらの中でも、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成されるもの、もしくは、下記構造単位(I)、(II)、(VI)および(IV)から構成されるものが好ましい。
【0072】
【化4】
【0073】
枝構造部分が、上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される場合には、構造単位(I)の含有量pは、各構造単位の合計p+q+rに対して30〜70モル%が好ましく、より好ましくは45〜60モル%である。また、構造単位(II)の含有量q(II)は、構造単位(II)および(III)の合計含有量qに対して60〜75モル%が好ましく、より好ましくは65〜73モル%である。また、構造単位(IV)の含有量r(IV)は、構造単位(IV)および(V)の合計含有量rに対して60〜92モル%が好ましく、より好ましくは60〜70モル%、さらに好ましくは62〜68モル%である。このような場合には、流動性をより向上させることができる。
【0074】
前記のように、構造単位(II)および(III)の合計含有量qと(IV)および(V)の合計含有量rは実質的に等モルであることが好ましいが、いずれかの成分を過剰に加えてもよい。
【0075】
枝構造部分が、上記構造単位(I)、(II)、(VI)および(IV)から構成される場合には、上記構造単位(I)の含有量pは、p+q+rに対して30〜90モル%が好ましく、40〜80モル%がより好ましい。また、構造単位(VI)の含有量q(VI)は、(II)と(VI)の合計含有量qに対して5〜70モル%が好ましく、8〜60モル%がより好ましい。前記のように、構造単位(IV)の含有量rは、構造単位(II)および(VI)の合計含有量qと実質的に等モルであることが好ましいが、いずれかの成分を過剰に加えてもよい。
【0076】
また、本発明における(C)樹状ポリエステルの末端は、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、またはそれらの誘導体の残基であることが好ましい。水酸基またはカルボン酸の誘導体としては、例えば、メチルエステルなどのアルキルエステルやフェニルエステルやベンジルエステルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0077】
また、単官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、酸無水物化合物などを用いて末端封鎖することも可能である。末端封鎖の方法としては、樹状ポリエステルを合成する際に、あらかじめ単官能性の有機化合物を添加する方法や、ある程度樹状ポリステルの骨格が形成された段階で単官能性の有機化合物を添加する方法などが挙げられる。
【0078】
具体的には、水酸基末端やアセトキシ末端を封鎖する場合には、安息香酸、4−t−ブチル安息香酸、3−t−ブチル安息香酸、4−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸などを添加することが好ましい。
【0079】
また、カルボキシル基末端を封鎖する場合には、アセトキシベンゼン、1−アセトキシ−4−t−ブチルベンゼン、1−アセトキシ−3−t−ブチルベンゼン、1−アセトキシ−4−クロロベンゼン、1−アセトキシ−3−クロロベンゼン、1−アセトキシ−4−シアノベンゼンなどを添加することが好ましい。
【0080】
理論的には、上記末端封鎖に用いる有機化合物を、封鎖したい末端基に相当する量添加することで末端封鎖が可能である。末端封鎖を効果的に行う観点から、封鎖したい末端基相当量に対して、末端封鎖に用いる有機化合物を、1.005倍当量以上用いることが好ましく、より好ましくは1.008倍当量以上である。一方、系内に残存する過剰な末端封鎖剤に起因する反応速度低下やガス発生を抑制する観点から、末端封鎖に用いる有機化合物の添加量は1.5倍当量以下であることが好ましい。
【0081】
また、有機残基(S)の含有量は、樹状ポリエステルを構成する全単量体の含有量に対して7.5モル%以上であり、20モル%以上が好ましい。このような場合に、枝構造部分の連鎖長が、樹状ポリエステルが樹状の形態をとるのに適した長さとなるため好ましい。有機残基(S)の含有量の上限としては、50モル%以下であり、40モル%以下が好ましい。
【0082】
また本発明における(C)樹状ポリエステルは、特性に影響が出ない範囲で、部分的に架橋構造を有していてもよい。
【0083】
本発明において、(C)樹状ポリエステルの製造方法は、特に制限されず、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。例えば、前記Rで表される構造単位を含む単量体、前記Rで表される構造単位を含む単量体、前記Rで表される構造単位を含む単量体および3官能性単量体を反応させる方法が挙げられ、3官能性単量体の添加量(モル)を、樹状ポリエステルを構成する全単量体(モル)に対して7.5モル%以上とする方法が好ましい。3官能性単量体の添加量は、より好ましくは20モル%以上である。
【0084】
また、上記反応に際して、R、RおよびRで表される構造単位から選ばれる少なくとも1種を含む単量体をアシル化した後、3官能性単量体を反応させる態様も好ましい。また、R、RおよびRで表される構造単位から選ばれる少なくとも1種を含む単量体、および、3官能性単量体をアシル化した後、重合反応させる態様も好ましい。
【0085】
前記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)とトリメシン酸残基から構成される樹状ポリエステルを製造する場合を例に挙げて、好ましい製造方法を説明する。
【0086】
(1)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸およびイソフタル酸から脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱酢酸重縮合反応させて製造する方法。
【0087】
(2)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸、イソフタル酸およびトリメシン酸から脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0088】
(3)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成し、さらにトリメシン酸を加えて脱酢酸重縮合反応させて製造する方法。
【0089】
(4)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸およびトリメシン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0090】
(5)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニルエステルおよびイソフタル酸ジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
【0091】
(6)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニルエステル、イソフタル酸ジフェニルエステルおよびトリメシン酸のフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
【0092】
(7)p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸にジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンを加え、脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
【0093】
なかでも(1)〜(5)の製造方法が好ましく、鎖長制御と立体規制の点から(3)の製造方法がより好ましい。
【0094】
(3)の製造方法において、無水酢酸の配合量は、鎖長制御の点から、フェノール性水酸基の合計の0.95当量以上1.10当量以下が好ましく、1.02当量以上1.05当量以下がより好ましい。無水酢酸量を調整すること、ジヒドロキシモノマーおよびジカルボン酸モノマーのいずれかを過剰に配合すること等により、末端基を調整することが可能である。
【0095】
分子量を高めるためには、トリメシン酸のカルボン酸量に相当する分だけ、ハイドロキノンや4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどのジヒドロキシモノマーを、ジカルボン酸モノマーに対して過剰に加え、全単量体におけるカルボン酸と水酸基当量を合わせることが好ましい。一方、カルボン酸を意図的に末端基に残す場合には、前記のようなジヒドロキシモノマーの過剰添加を行わないことが好ましい。さらに、水酸基を意図的に末端に残す場合には、ジヒドロキシモノマーをトリメシン酸のカルボン酸当量以上に過剰に添加し、かつ無水酢酸の使用量をフェノール性水酸基の1.00当量未満で行うことが好ましい。
【0096】
これらの方法により、本発明における(C)樹状ポリエステルには、本発明における(A)半芳香族ポリアミド樹脂との反応性に富む末端基構造を選択的に設けることが可能である。ただし、(A)半芳香族ポリアミド樹脂の構造によっては、過剰な反応性を抑制するために、単官能エポキシ化合物などを用いて末端を封鎖した方が分散状態を制御しやすい場合もある。
【0097】
脱酢酸重縮合反応を行う場合には、樹状ポリエステルが溶融する温度で、場合によっては減圧下で反応させ、所定量の酢酸を留出させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。具体的には、例えば、以下の方法が挙げられる。所定量のp−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸および無水酢酸を、撹拌翼および留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込む。反応容器中の混合物を、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら加熱して、水酸基をアセチル化させた後、200〜350℃まで昇温して脱酢酸重縮合反応を行い、酢酸を留出させる。酢酸が理論留出量の50%まで留出した段階で、トリメシン酸を所定量加えて、さらに理論留出量の91%まで酢酸を留出させ、反応を完了させる。
【0098】
アセチル化反応条件としては、反応温度は、130〜170℃の範囲が好ましく、より好ましくは135〜155℃の範囲である。反応時間は、0.5〜6時間が好ましく、より好ましくは1〜2時間である。
【0099】
重縮合反応温度は、樹状ポリエステルが溶融する温度であり、好ましくは樹状ポリエステルの融点+10℃以上の温度である。具体的には、例えば、200〜350℃の範囲であり、240〜280℃が好ましい。重縮合させるときの雰囲気は、常圧窒素下でも問題ないが、減圧すると反応が早く進み、系内の残留酢酸が少なくなるため好ましい。減圧度は、0.1mmHg(13.3Pa)〜200mmHg(26,600Pa)が好ましく、より好ましくは10mmHg(1,330Pa)〜100mmHg(13,300Pa)である。なお、アセチル化と重縮合は同一の反応容器で連続して行ってもよいし、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行ってもよい。
【0100】
重縮合反応が完了した後、反応容器内を樹状ポリエステルが溶融する温度に保ち、例えば、0.01〜1.0kg/cm(0.001〜0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口より、樹状ポリエステルをストランド状に吐出することが好ましい。吐出口には断続的に開閉する機構を設け、液滴状に吐出することも可能である。吐出した樹状ポリエステルは、空気中もしくは水中を通過して冷却された後、必要に応じて、カッティングもしくは粉砕されることが一般的である。
【0101】
得られたペレット状、粒状または粉状の樹状ポリエステルは、さらに必要に応じて、熱乾燥や真空乾燥により水、酢酸などを除くことが好ましい。また、重合度の微調整、あるいは、さらに重合度を上げるために、固相重合をすることも可能である。固相重合方法としては、例えば、上記により得られた樹状ポリエステルを、窒素気流下、または、減圧下、樹状ポリエステルの融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の温度範囲で1〜50時間加熱する方法が挙げられる。
【0102】
樹状ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0103】
本発明で用いる(C)樹状ポリエステルは、数平均分子量が1,000〜40,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜5,000の範囲である。なお、この数平均分子量は、樹状ポリエステルが可溶な溶媒であるペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65重量%混合溶媒を使用して濃度0.08%(wt/vol)に調整した樹状ポリエステル溶液を、GPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により絶対分子量として測定した値である。ここでの測定条件として、カラムはShodex K−G、Shodex K−806M×2本、Shodex K−802を用い、流速0.8mL/min、温度23℃、検出器は示差屈折計(RI)、多角度光散乱(MALS)とする。
【0104】
また、本発明における樹状ポリエステルの溶融粘度は、0.01〜30Pa・sが好ましく、1〜10Pa・sがより好ましい。なお、この溶融粘度は、樹状ポリエステルの液晶開始温度+10℃の条件で、ずり速度100/sの条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0105】
本発明における(C)樹状ポリエステルの配合量は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部である。(C)樹状ポリエステルの配合量が0.01重量部未満であると、樹脂組成物の流動性、薄肉成形性および熱安定性が低下する。また、成形品のソリが増大する。0.05重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましい。一方、(C)樹状ポリエステルの配合量が10重量部を超えると、成形品の剛性が低下する。8重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。
【0106】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物には、さらに(D)酸無水物を配合する。酸無水物を配合することにより、成形品の機械特性を維持しながら、樹脂組成物の流動性および薄肉成形性、薄肉成形時の剛性を向上させ、成形品のソリをより低減する効果が得られる。
【0107】
(D)酸無水物としては、例えば、無水安息香酸、無水イソ酪酸、無水イタコン酸、無水オクタン酸、無水グルタル酸、無水コハク酸、無水酢酸、無水ジメチルマレイン酸、無水デカン酸、無水トリメリト酸、無水1,8−ナフタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でも無水コハク酸、無水1,8−ナフタル酸、無水フタル酸などが好ましく、特に無水コハク酸、無水フタル酸が好ましい。
【0108】
本発明における(D)酸無水物の配合量は、(A)半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部であ。(D)酸無水物の配合量をこ範囲とすることにより、成形品の機械特性を維持しながら、樹脂組成物の流動性を向上させ、薄肉成形時の剛性を向上させ、成形品のソリをより低減することができる。0.05重量部以上がより好ましく、0.1重量部以上が最も好ましい。また、2.5重量部以下がより好ましく、2重量部以下が最も好ましい。
【0109】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物中における(A)半芳香族ポリアミド1kgあたりの末端アミノ基濃度が0.1〜30ミリ当量/kgであることが好ましい。ここで、本発明における(A)半芳香族ポリアミド1kgあたりの末端アミノ基濃度は、樹脂組成物0.2gをヘキサフルオロイソプロパノール10mLに溶解し、試料溶液を、0.02N塩酸水溶液を使用して電位差滴定を行うことにより測定する。
【0110】
末端アミノ基濃度をこの好ましい範囲とすることにより、熱安定性、吸水特性に優れるとともに、滞留安定性が著しく向上した樹脂組成物を得ることができる。0.2ミリ当量/kg以上がより好ましく、0.3ミリ当量/kg以上が最も好ましい。15ミリ当量/kg以下がより好ましく、10ミリ当量/kg以下が最も好ましい。
【0111】
樹脂組成物中における(A)半芳香族ポリアミド1kgあたりの末端アミノ基濃度をかかる範囲にする手段としては、例えば、半芳香族ポリアミド樹脂製造時の圧力、温度、重合時間等の重合条件を適宜調整する方法、ジカルボン酸、ジアミン、末端封鎖剤などの原料組成を調整する方法、前記(D)酸無水物を溶融混練時に任意量添加する方法などを挙げることができる。
【0112】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物には、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、(E)難燃剤を配合することができる。(E)難燃剤としては、組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されず、臭素化合物、塩素化合物、フッ素化合物、燐化合物、赤燐、窒素化合物、珪素化合物、ホウ素化合物、アンチモン化合物などが挙げられる。
【0113】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃助剤、滴下防止剤、滑剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、耐衝撃性改良剤、結晶核剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などの添加剤、炭素繊維以外の充填剤、本発明における(A)半芳香族ポリアミド樹脂、(C)樹状ポリエステル以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを配合することができる。
【0114】
本発明の樹脂組成物の製造方法は本発明で規定する要件を満たす限り特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド樹脂、炭素繊維、樹状ポリエステル、必要に応じてその他の成分を、単軸または二軸押出機で均一に溶融混練する方法や、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが好ましく用いられる。生産性の点で、単軸または二軸押出機で均一に溶融混練する方法が好ましく、炭素繊維が分散しやすく、成形品の機械特性および表面外観により優れた樹脂組成物を得られるという点で、二軸押出機で均一に溶融混練する方法がより好ましい。なかでも、スクリュー長さをL、スクリュー直径をDとすると、L/D>30の二軸押出機を使用して溶融混練する方法が特に好ましい。ここで言うスクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置から、スクリュー先端部までの長さを指す。なお、溶融混練されたストランドは、切断されてペレット化されることが一般的である。
【0115】
本発明において、溶融混練する場合に、各成分を投入する方法としては、例えば、投入口を2カ所有する押出機を用い、スクリュー根元側に設置した主投入口から(A)半芳香族ポリアミド樹脂、(B)炭素繊維、(C)樹状ポリエステル、必要に応じてその他成分を供給する方法や、主投入口から(A)半芳香族ポリアミド樹脂、(C)樹状ポリエステルおよびその他成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から(B)炭素繊維および必要に応じてその他成分を供給する方法、主投入口から(A)半芳香族ポリアミド樹脂およびその他成分を供給し、主投入口と副投入口の両方から(B)炭素繊維および必要に応じてその他成分を供給する方法などが挙げられる。生産安定性および成形品の機械特性に優れるという点で、主投入口から(A)半芳香族ポリアミド樹脂、(C)樹状ポリエステルおよびその他成分を供給し、主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から(B)炭素繊維を供給する方法が好ましい。
【0116】
本発明の樹脂組成物から得られるペレット中の炭素繊維の重量平均繊維長は、特に限定されるものでないが、0.1〜0.5mmの範囲であることが好ましい。炭素繊維の重量平均繊維長がこの好ましい範囲の場合は、十分な衝撃強度、曲げ弾性率が得られ、流動性、表面外観および薄肉成形性が低下するおそれもない。
なお、ペレット中の炭素繊維の重量平均繊維長は、ペレットを500℃で1時間焼成し、得られた灰分を水分散させた後、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて観察し、1,000本の長さを測定した結果を重量平均繊維長に換算することにより求めることができる。具体的には、樹脂組成物のペレットを10g程度ルツボに入れ、電気コンロにて可燃性ガスが発生しなくなるまで蒸し焼きにした後、500℃に設定した電気炉内でさらに1時間焼成することにより炭素繊維の残渣のみを得る。その残渣を光学顕微鏡にて50〜100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1,000本の長さを測定し、その測定値(mm)(小数点2桁が有効数字)を用いて、次の式(1)または式(2)に基づき算出することができる。
【0117】
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Wi×Li)/ΣWi=Σ(π×ri×Li×ρ×ni×Li)/Σ(π×ri×Li×ρ×ni)・・・式(1)
ここで、Liは炭素繊維の繊維長、niは繊維長Liの炭素繊維の本数、Wiは繊維長Liの炭素繊維の重量、riは繊維長Liの炭素繊維の繊維径、ρは炭素繊維の密度、πは円周率を示し、炭素繊維の断面形状を繊維径riの真円と近似している。繊維径ri、および密度ρが一定である場合、上記式(1)は次の通りに近似され、式(2)により重量平均繊維長を求めることができる。
【0118】
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×ni)/Σ(Li×ni)・・・式(2)
(B)炭素繊維の重量平均繊維長を前記範囲に調整する手段としては、例えば、目的の繊維長に合わせて任意の繊維長分布を有する炭素繊維を原料とする方法、使用する熱可塑性樹脂の溶融粘度を調整することにより炭素繊維への剪断付与を調整する方法、後述する樹脂組成物の溶融混練時のスクリュー回転数、シリンダー温度、吐出量を調整する方法などを挙げることができる。
【0119】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、通常公知の射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、一軸延伸、二軸延伸などの各種フィルム、シート、未延伸糸、延伸糸、超延伸糸など各種繊維などが挙げられる。
【0120】
本発明の樹脂組成物は、上記の如く製造されたペレットを射出成形することにより、各種成形品を製造することが好ましい。射出成形方法としては、例えば、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、超高速射出成形などが挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また、成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0121】
本発明の樹脂組成物を成形して得られる成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長は、特に限定されるものでないが、0.01〜0.5mmの範囲であることが好ましい。炭素繊維の重量平均繊維長がこの好ましい範囲の場合は、十分な衝撃強度、曲げ弾性率が得られ、表面外観が低下するおそれもない。なお、成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長は、成形品から所定量切り出したサンプルを500℃で1時間焼成し、得られた灰分を水分散させた後、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて観察し、1,000本の長さを測定した結果を重量平均繊維長に換算することにより求めることができる。具体的には、樹脂組成物の成形品を切り出したサンプルを10g程度ルツボに入れ、電気コンロにて可燃性ガスが発生しなくなるまで蒸し焼きにした後、500℃に設定した電気炉内でさらに1時間焼成することにより炭素繊維の残渣のみを得る。その残渣を光学顕微鏡にて50〜100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1,000本の長さを測定し、その測定値(mm)(小数点2桁が有効数字)を用いて、前述の式(1)または式(2)に基づき算出することができる。
【0122】
成形品中の(B)炭素繊維の重量平均繊維長を前記範囲に調整する手段としては、例えば、目的の繊維長に合わせて任意の繊維長分布を有するペレットを用いる方法、射出成形等の溶融加工時のスクリュー回転数、シリンダー温度、射出圧力、背圧を適宜調整する方法などを挙げることができる。
【0123】
本発明の樹脂組成物を成形して得られる成形品は、成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長と数平均繊維長の比(Lw/Ln)が、1.0以上1.3未満であることが好ましい。Lw/Lnがこの好ましい範囲の場合は、表面外観に優れ、ソリの低減された成形品を得ることができる。
【0124】
成形品中の(B)炭素繊維の重量平均繊維長と数平均繊維長の比(Lw/Ln)を前記範囲に調整する手段としては、例えば、目的の繊維長に合わせて任意の繊維長分布を有するペレットを用いる方法、射出成形等の溶融加工時のスクリュー回転数、シリンダー温度、射出圧力、背圧を適宜調整する方法などを挙げることができる。
【0125】
本発明の樹脂組成物を成形して得られる成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に幅広く用いることができる。本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形品は、特に、剛性が高く、表面外観、吸水特性に優れることから、電気・電子部品の筐体に好適に用いることができる。さらに、流動性および薄肉成形性に優れ、ソリを低減することができることから、平均肉厚0.5〜1.0mm以下の薄肉電子機器筐体に好適である。なお、薄肉電子機器筐体の平均肉厚は、電子機器筐体において無作為に選択した20箇所の肉厚の数平均値をいう。肉厚は、マイクロメーターを用いて測定することができる。薄肉電子機器筐体としては、具体的には、ノート型パソコン、電子手帳、携帯電話、PDA、デジタルカメラ、プロジェクター等の筐体が挙げられる。面積が大きく、流動性を必要とされるノート型パソコンの筐体により適している。
【実施例】
【0126】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各種特性は以下の方法により評価した。
【0127】
(1)ポリアミド樹脂の極限粘度
ポリアミド樹脂0.1gを98%硫酸溶液50mLに溶解し、ウベローデ粘度計を使用し、30℃±0.05℃の条件下で試料溶液の流下秒数を測定し、以下の式に基づき極限粘度を算出した。
【0128】
[η]=ηSP/[C(1+0.205ηSP)]、ηSP=(t−t)/t
上記の式中、[η]は極限粘度(dL/g)、ηSPは比粘度、Cは試料濃度(g/dL)、tは試料溶液の流下秒数(秒)、tは硫酸の流下秒数(秒)を示す。
【0129】
(2)ポリアミド樹脂の融点
セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計EXSTAR DSC6000を用い、ポリアミド樹脂を一旦330℃で5分間保持し、次いで10℃/分の速度で23℃まで降温せしめた後、10℃/分で昇温したときの融解吸熱ピークを測定し、これを融点とした。
【0130】
(3)成形品の曲げ弾性率および曲げ強度
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、住友重機械工業(株)製の75トン射出成形機を使用して、シリンダー温度300℃、金型温度80℃の条件で曲げ試験片を射出成形し、ISO178に従い23℃で曲げ強度および曲げ弾性率を評価した。
【0131】
(4)成形品の耐衝撃性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、住友重機械工業(株)製の75トン射出成形機を使用して、シリンダー温度300℃、金型温度80℃の条件でシャルピー衝撃試験片を射出成形し、ISO179に従い23℃でシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)を評価した。
【0132】
(5)樹脂組成物の流動性
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、住友重機械工業(株)製の75トン射出成形機を使用して、シリンダー温度320℃、金型温度130℃、射出圧力55MPa、射出時間5秒、成形品厚み0.7mmの条件で射出成形した。最初の20ショットを成形した後、続けて成形した10ショットの成形品の流動長を平均し、その値をバーフロー流動長とした。この値が大きい程、流動性に優れている。
【0133】
(6)成形品の吸水率
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、住友重機械工業(株)製の75トン射出成形機を使用して、シリンダー温度300℃、金型温度80℃の条件でダンベル試験片を射出成形した。得られたダンベル試験片を用いて、80℃、95%RH環境下にて静置して重量の経時変化を測定する吸水試験を行い、乾燥時(吸水試験前)および1,000時間経過後の重量を測定し、以下の式より吸水率を求めた。なお、以下の式において、乾燥時重量とは、吸水試験に供する前のダンベル試験片の初期の重量のことである。
【0134】
吸水率(%)=〔(95%RH1,000時間経過後の重量−乾燥時重量)/乾燥時重量〕×100
(7)成形品の吸水特性
前記(6)の吸水試験後のダンベル試験片を用いて、前記(3)と同様の方法で曲げ強度を評価し、以下の式より強度保持率を求めた。
【0135】
強度保持率(%)=(吸水試験後の曲げ強度)/(吸水試験前の曲げ強度)×100
(8)成形品の反り
各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットを、住友重機械工業(株)製の75トン射出成形機を使用して、シリンダー温度320℃、金型温度130℃、射出時間10秒、冷却時間20秒の条件で、80mm×80mm×厚み1mmの金型内に樹脂を充填して射出成形を行った後、冷却し、ゲート部分をカットしないまま取り出し、反り評価用の試験片とした。この試験片を、25℃、湿度65%の条件で24時間静置した後、ゲート側を基準として、これと反対側の端面の浮き上がった高さ(反り量)を測定し、以下の4段階で評価した。
【0136】
excellent:浮き上がり高さが0.5mm以下である。
【0137】
good:浮き上がり高さが0.5mmを超え1.0mm以下である。
【0138】
fair:浮き上がり高さが1.0mmを超え3.0mm以下である。
【0139】
bad:浮き上がり高さが3.0mmを超える。
【0140】
(9)表面外観
前記(8)で作製した80mm×80mm×厚み1mmの試験片の表面光沢、表面の凹凸を目視観察し、以下の基準により評価を行った。
【0141】
good:表面光沢が高く、凹凸がほとんど見られない。
【0142】
fair:表面光沢は高いが、凹凸が発生している。
【0143】
bad:表面状態が粗く、光沢がない。
【0144】
(10)樹脂組成物の薄肉成形性
薄肉電子機器筐体への適用性を実証するため、各実施例および比較例により得られた樹脂組成物ペレットに対して、750トン射出成形機を使用し、シリンダー温度320℃、金型温度100〜120℃の条件で、ホットランナーを使用せず、220mm×300mm×0.8mm厚の金型(11点ゲート)での射出成形を行った。その結果を以下の3段階で評価した。
【0145】
excellent:成形品を得ることができ、反りが小さい。
【0146】
good:反りは発生するが、成形品を得ることができる。
【0147】
bad:充填不足等により、成形品が得られない。
【0148】
(11)樹脂組成物の熱安定性
各実施例および比較例における二軸押出機での溶融混練時の樹脂温度を測定し、併せてガスの発生状況を以下の3段階で評価した。
【0149】
excellent:ほとんどガスが発生しない。
【0150】
good:少量のガスが発生する。
【0151】
bad:ガスが多量に発生する。
(12)ポリアミド樹脂および樹脂組成物の末端アミノ基濃度
ポリアミド樹脂または樹脂組成物ペレット0.2gをヘキサフルオロイソプロパノール10mLに溶解して試料溶液とし、0.02N塩酸水溶液を使用して電位差滴定を行うことにより測定した。
(13)滞留安定性
作製した樹脂組成物ペレットを用いて、ASTM D−1238−82に準拠し、荷重2.16kgおよび温度300℃の条件で、滞留時間5分および30分におけるMFRを測定し、これらをMFR5、MFR30とした時の比:MFR30/MFR5を算出した。
【0152】
値が1に近いほど滞留安定性が良好であり、1より小さい場合は滞留により粘度が上昇して成形性が低下し、1より大きい場合は滞留によって樹脂が分解していることを示す。0.8〜1.2の範囲内であれば滞留安定性が比較的良好であり、0.9〜1.1の範囲内はさらに良好である。
(14)ペレットおよび成形品の炭素繊維の平均繊維長
ペレットおよび引張試験片からサンプル10gを切り出し、500℃に設定した電気炉中で1時間焼成した後、イオン交換水に分散、濾過を行い、その残渣を光学顕微鏡にて50〜100倍の倍率で観察しながら、1,000本の長さを測定し、ペレット、成形品の炭素繊維の重量平均繊維長(Lw)および数平均繊維長(Ln)をそれぞれ求めた。
(製造例1)ポリアミド樹脂(A−1)の製造
テレフタル酸4,539.3g(27.3モル)、(a)1,9−ノナンジアミンと(b)2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物〔(a)/(b)=50/50(モル比)〕4,478.8g(28.3モル)、安息香酸101.6g(0.83モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物9.12g(原料の総質量に対して0.1質量%)および蒸留水2.5リットルを、内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。この混合物を、100℃で30分間撹拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま2時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次に、30分間かけて圧力を1MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、極限粘度[η]が0.18dL/gのプレポリマーを得た。
【0153】
得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕し、230℃、13Pa(0.1mmHg)にて8時間固相重合させ、融点が262℃、極限粘度が0.91dL/gである白色のポリアミド樹脂(A−1)を得た。
(製造例2)ポリアミド樹脂(A−2)の製造
製造例1において、固相重合時間のみを2時間に変更し、融点が262℃、極限粘度が0.52dL/gのポリアミド樹脂(A−2)を製造した。
(製造例3)ポリアミド樹脂(A−3)の製造
製造例1において、安息香酸の添加量を1.02g(0.008モル)に変更した以外は、同様の方法により、ポリアミド樹脂(A−3)を製造した。(A−3)の融点は262℃、極限粘度は0.9dL/gであった。
(製造例4)ポリアミド樹脂(A’−3)の製造
(a)1,9−ノナンジアミンと(b)2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物のモル比を(a)/(b)=80/20に変更した以外は、製造例1と同様の方法でポリアミド樹脂(A’−3)を製造した。(A’−3)の融点は302℃、極限粘度は0.91dL/gであった。
(製造例5)樹状ポリエステル(C−1)の製造
撹拌翼および留出管を備えた500mLの反応容器に、p−ヒドロキシ安息香酸66.3g(0.48モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.38g(0.045モル)、テレフタル酸7.48g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dL/gのポリエチレンテレフタレ−ト14.41g(0.075モル)および無水酢酸62.48g(フェノール性水酸基合計の1.00当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた。その後、トリメシン酸31.52g(0.15モル)を加えて260℃まで昇温し、3時間撹拌し、理論留出量の91%の酢酸が留出したところで加熱および撹拌を停止し、内容物を冷水中に吐出し、樹状ポリエステル(C−1)を得た。
【0154】
得られた樹状ポリエステル(C−1)について、核磁気共鳴スペクトル分析を行った結果、トリメシン酸残基に対して、p−オキシベンゾエート単位の含量pが2.66、4,4’−ジオキシビフェニル単位とエチレンオキシド単位の含量qが0.66、テレフタレート単位の含量rが0.66であり、p+q+r=4であった。末端はカルボン酸とアセチル基が64:36の比率で存在した。
【0155】
核磁気共鳴スペクトルは、樹状ポリエステル(C−1)をペンタフルオロフェノール50%:重クロロホルム50%混合溶媒に溶解した溶液を用いて、40℃でプロトン核の核磁気共鳴スペクトル分析を行った。p−オキシベンゾエート単位由来の7.44ppmおよび8.16ppmのピーク、4,4’−ジオキシビフェニル単位由来の7.04ppm、7.70ppmのピーク、テレフタレート単位由来の8.31ppmのピーク、エチレンオキシド単位由来の4.75ppmのピーク、トリメシン酸由来の9.25ppmのピークが検出された。各ピークの面積強度比から、各構造単位の含有比率を算出し、小数点3桁は四捨五入した。枝構造部分P、QおよびR由来のピーク面積強度と、有機残基S由来のピーク面積強度との比から、含量p、q、rおよび分岐点Sの含有量を算出した。また、トリメシン酸の3つのプロトンのピークシフトからカルボン酸の反応の有無を判定し、分岐度を算出したところ、0.68(小数点3桁を四捨五入)であった。なお、分岐度は、トリメシン酸の3つの官能基が3つとも反応しているものの割合を算出して求めた。
【0156】
得られた樹状ポリエステル(C−1)の融点Tmは185℃、液晶開始温度は159℃で、数平均分子量は2,300であった。なお、融点(Tm)は、樹状ポリエステル(C−1)を、示差熱量測定において、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、Tm+20℃の温度で5分間保持し、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)とした。液晶開始温度は、剪断応力加熱装置(CSS−450)により、剪断速度100(1/秒)、昇温速度5.0℃/分、対物レンズ60倍の条件において、視野全体が流動開始する温度とした。
【0157】
また、樹状ポリエステル(C−1)の数平均分子量は、ペンタフルオロフェノール/クロロホルム=35/65重量%混合溶媒を使用して、濃度0.08%(wt/vol)に調整した樹状ポリエステル溶液を、GPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により絶対分子量として測定した。ここでの測定条件として、カラムはShodex K−G、Shodex K−806M×2本、Shodex K−802を用い、流速0.8mL/min、温度23℃、検出器は示差屈折計(RI)、多角度光散乱(MALS)とした。
【0158】
実施例、参考例および比較例において用いた他の原料を以下に示す。
(A’−4)ポリアミドMXD6樹脂“レニー”(登録商標)#6002(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)(融点:238℃)
(A’−5)ポリアミド10T樹脂“Vestamid”(登録商標)HTPlus M3000(ダイセル・エボニック(株)製)(融点:285℃)
(A’−6)ポリアミド6樹脂“アミラン”(登録商標)CM1001(東レ(株)製)(融点:222℃)
(B−1)PAN系炭素繊維“トレカ”(登録商標)カットファイバーTV14−006(東レ(株)製、原糸T700SC−12K:ストランド強度4.9GPa、ストランド弾性率230GPa)
(D−1)無水コハク酸(シグマアルドリッチジャパン(株)製)、SAJ1級
(E−1)ホスフィン酸塩化合物“EXOLIT”(登録商標)OP1230(クラリアントジャパン(株)製)
(E−2)アクリル変性テトラフルオロエチレン“メタブレン”(登録商標)A3800(三菱レイヨン(株)製)。
[実施例1〜5、参考例1〜3、比較例1〜8]
シリンダー温度を表1に示す温度に設定し、スクリュー回転数を200rpmに設定した二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α)を用いた。主ホッパーからポリアミド樹脂、樹状ポリエステル、酸無水物および難燃剤を表1〜2に示す配合で供給し、サイドフィーダーから炭素繊維を溶融樹脂中に供給して溶融混練した。ダイから吐出されたストランドを水中にて冷却し、ストランドカッターにより長さ3.0mm長にカットしてペレット化し、炭素繊維強化樹脂組成物ペレットを得た。作製したペレットを用いて、上述した方法により、各種特性評価を行った。結果を表1〜2に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
【表2】
【0161】
実施例1〜に示す炭素繊維強化樹脂組成物は、熱安定性、滞留安定性、流動性および薄肉成形性に優れ、非常に高い剛性(曲げ弾性率)を有し、強度、耐衝撃性、吸水特性(低吸水性)、表面外観に優れ、ソリの低減された成形品を得ることができる。一方、比較例1および7に示す炭素繊維強化樹脂組成物は、(C)の樹状ポリエステルを含まないため、流動性、薄肉成形性、熱安定性(ガス発生状況)に劣り、成形品の反り低減も不十分であった。比較例2〜5に示す炭素繊維強化樹脂組成物は、(A)に規定する半芳香族ポリアミド樹脂を用いないため、流動性、吸水率、吸水特性、反り、薄肉成形性、熱安定性(ガス発生状況)のいずれかの特性に劣っていた。比較例6に示す炭素繊維強化樹脂組成物は、(B)の炭素繊維の配合量が(A)の半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対し44重量部と少ないため、曲げ弾性率に劣っていた。比較例8に示す炭素繊維強化樹脂組成物は、(B)の炭素繊維の配合量が(A)の半芳香族ポリアミド樹脂100重量部に対し212重量部と多いため、溶融混練時に著しく発熱しガスが多量に発生するとともに、ペレット化が困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の炭素繊維強化樹脂組成物は、熱安定性、滞留安定性、流動性および薄肉成形性に優れ、金属同等レベルの剛性と優れた表面外観および吸水特性を有しながら、ソリの低減された成形品を得ることができる。そのため、軽量性、高剛性、薄肉成形性、良表面外観などが必要な、パソコン、携帯電話などの電子機器筐体に好適に用いることができる。