(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554802
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】混練装置および混練り方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/84 20060101AFI20190729BHJP
B29B 15/02 20060101ALI20190729BHJP
B29B 7/40 20060101ALI20190729BHJP
B29C 48/76 20190101ALI20190729BHJP
B29C 48/693 20190101ALI20190729BHJP
【FI】
B29B7/84
B29B15/02
B29B7/40
B29C48/76
B29C48/693
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-19077(P2015-19077)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-141064(P2016-141064A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2018年1月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安達 彰
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−071831(JP,A)
【文献】
特開平07−164509(JP,A)
【文献】
特開平08−132433(JP,A)
【文献】
特開2002−254427(JP,A)
【文献】
特開平11−245283(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/021227(WO,A1)
【文献】
特開平03−208607(JP,A)
【文献】
特開2009−083346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00− 7/94
B29C 48/00−48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練機、天然ゴムを含む混練物を通過させるメッシュ状部材、脱気手段、ならびに混練物をシート状に成形するための押出ヘッドまたはローラヘッドを備えたストレーナーを有する混練装置。
【請求項2】
前記ストレーナーが、さらに水供給手段を備えたストレーナーである請求項1記載の混練装置。
【請求項3】
前記脱気手段が、前記メッシュ状部材よりも下流に接続されている請求項1または2記載の混練装置。
【請求項4】
混練機、天然ゴムを含む混練物を通過させるメッシュ状部材、および脱気手段を備えたストレーナーを有する混練装置による天然ゴムの素練り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練機および所定のストレーナーを備えた混練装置、および該混練装置を用いた素練り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、その優れた物理的性質、入手容易性(安価)、環境問題的観点から、各ゴム産業において大量に使用されている。天然ゴムは一般的な合成ゴムよりも分子量が大きく、加工性に劣るため、天然ゴムを少量の素練り促進剤とともに混練りし、原料ゴムの分子量を適度に下げて加工性を改善させる素練り工程、メッシュ状部材を用いて天然ゴム中に含まれる異物を除去するストレーナー処理を行った後に、補強剤、軟化剤などの配合剤をさらに添加して混練りする混練り工程を行う方法が知られている。
【0003】
しかし、従来の方法で製造された天然ゴムには、特有の臭気があり、天然ゴムを原料とし、ゴム製品を製造する過程において特有の臭気を放つという問題や、天然ゴムを用いたゴム製品が特有の臭気を放つという問題がある。そこで、これらの問題を解決するため、特有の臭気を低減した天然ゴムが求められている。
【0004】
天然ゴムの臭気を低減させる方法として種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1〜3には、ゴム練り時にテルペン化合物などの香料を添加し、持続した芳香性を有するタイヤ用ゴム組成物が記載されているが、これらは加硫ゴムの臭気をマスキングすることで臭気を低減させるものであり、天然ゴム臭気を低減させる方法ではなく、臭気低減効果は十分ではない。
【0005】
また、特許文献4には、脱蛋白天然ゴムとすることにより、色の濁りやゴム臭を極力排除できることが記載されているが、脱蛋白処理に時間を要し、臭気低減効果は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−8225号公報
【特許文献2】特開2012−255066号公報
【特許文献3】特開2007−51265号公報
【特許文献4】特許3806317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、天然ゴムの特有の臭気を除去することができる混練装置および素練り方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、混練機から排出された混練物に対し、脱気手段を備えたストレーナーによるストレーナー処理を行うことにより天然ゴムの特有の臭気が低減することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、混練機および脱気手段を備えたストレーナーを有する混練装置に関する。
【0010】
前記ストレーナーが、さらに水供給手段を備えたストレーナーであることが好ましい。
【0011】
さらに本発明は、前記の混練装置による天然ゴムの素練り工程を含むゴム組成物の素練り方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の混練機および脱気手段を備えたストレーナーを有する混練装置ならびにこの混練装置による天然ゴムの素練りを行う素練り方法によれば、天然ゴムの特有の臭気を簡便かつ効果的に低減できる混練装置および素練り方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態である混練装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の混練装置および素練り方法について添付図面を参照しながら説明するが、この実施態様に限定されるものではない。
図1に本発明の一実施形態として混練機1、押出機2、ストレーナー3および押出ヘッド4を有する混練装置を示す。なお、押出機2、ストレーナー3および押出ヘッド4は断面図で示す。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の混練装置は、混練機1、混練機1から排出された混練物R1が投入される投入口21および投入された混練物R1を押し出す押出しスクリュー22を備えた押出機2、内部にメッシュ状部材31を備え、さらに脱気手段32および水供給手段33を備えたストレーナー3、ならびに吐出孔となる押出ヘッド4を有する混練装置である。
【0016】
混練機1は特に限定されず、バンバリーミキサーやオープンロールなど、ゴム製品の製造に従来使用されている混練機を使用することができる。なかでも、生産性に優れるという理由からバンバリーミキサーが好ましい。
【0017】
混練機1から排出された混練物は、
図1に示すように押出機2によりストレーナー3へ供給しても良く、押出機ではなく他の方法により供給しても良い。押出しスクリュー22による押出圧力により混練物がストレーナー内のメッシュ状部材31を効率的に通過させることができるという理由からは、押出機によりストレーナーへ供給することが好ましく、
図1に示すように押出機2とストレーナー3とが連結していることがより好ましい。他の方法であっても混練物R1をストレーナー内のメッシュ状部材31を通過させることができる方法であれば他の方法により混練物をストレーナーに供給してもよい。
【0018】
押出機2を備える場合の押出機は特に限定されず、ゴム製品の製造などに従来使用されている押出機を使用することができる。例えば、
図1に示すような混練物が投入される投入口および投入された混練物を押し出す押出しスクリューを備えた押出機が挙げられる。
【0019】
ストレーナー3はその内部にメッシュ状部材31が配置されており、ストレーナー3内部に搬送された混練物の全てが、当該メッシュ状部材31の網目を通過することにより、混練物中に含まれるゴミなどの不要物を除去することができる(ストレーナー処理)。本願発明に係るストレーナーは、脱気手段32を備えており、この脱気手段32によりストレーナー3内部を脱気することにより、天然ゴムの特有の臭気を低減することができ、さらにストレーナー処理における通過性を向上させ、所要時間を短縮することができる。
【0020】
脱気手段32は真空ポンプとトラップとからなる装置とすることができ、ストレーナー3内部とトラップと真空ポンプとが接続されており、真空ポンプを作動させることにより、ストレーナー3内の空気が脱気され、天然ゴム特有の臭気を低減させることができる。ここでトラップとは、真空ポンプの下流に接続される筒状の装置であり、真空ポンプにより吸引された水などの異物を、液体窒素などによる冷却で凝集させて捕捉する設備である。トラップを備えることにより、真空ポンプ内への異物混入による脱気速度の低下を防ぐことができる。
【0021】
ストレーナー3における脱気手段32の接続箇所は、メッシュ状部材31よりも下流(混練機や押出機とはメッシュ状部材31を基準に逆側)とすることが、混練物のメッシュ状部材31の通過を吸引力により補助でき、ストレーナー処理における通過性を向上させ、所要時間を短縮することができる点から好ましい。
【0022】
脱気手段32によるストレーナー3内部の脱気速度は、天然ゴム特有の揮発性臭気成分を十分に脱気できるという理由、および水が供給された場合は水を十分に脱気(吸引)できるという理由から、8.5L/min以上が好ましく、10L/min以上がより好ましい。
【0023】
図1に示すように、ストレーナー3は、さらに水供給手段33を備えていることが好ましい。水供給手段33から水などの液体をストレーナー3内部の混練物に対して供給することにより、天然ゴム特有の臭気成分が水に溶解し、脱気手段32が臭気成分を水ごと吸引するため、天然ゴム特有の臭気を一層低減させることができる。なお、ストレーナー3における水供給手段33の接続箇所は、メッシュ状部材31よりも上流(混練機や押出機とはメッシュ状部材31を基準に同側)とすることが、効率的に天然ゴム特有の臭気を低減させることができる点から好ましい。
【0024】
水供給手段33から供給される液体としては、純水や蒸留水、水道水、井戸水などの水が挙げられ、なかでも天然ゴムの変質や不純物の混入が起こらないという理由から、純水が好ましい。
【0025】
水供給手段33による液体の供給量は、十分な臭気低減効果を発揮させるという理由から、天然ゴム1kgに対して0.5g以上が好ましく、1.0g以上がより好ましい。また、供給量が多すぎると吸引できずに残留してしまう恐れがあることから、天然ゴム1kgに対して50g以下が好ましく、40g以下がより好ましい。
【0026】
ストレーナー3の下流には、混練物をシート状のゴムシートR2に成形するための押出ヘッド4を備えることが好ましい。シート状のゴムシートR2に成形することで、後の混練工程での取り扱いが容易となる。なお、押出ヘッド4に替えてローラヘッドなどを備えても良い。
【0027】
本発明の素練り方法は、前記混練装置による素練り方法である。すなわち、混練機1で混練りした混練物R1を、押出機2によりストレーナー3に供給してストレーナー処理を行い、さらに押出ヘッド4によりゴムシートR2に成形する素練り方法である。また、本発明の天然ゴムの素練り方法を含む混練方法とすることができる。すなわち、前記混練装置による天然ゴムの素練り工程を行い、素練り後の天然ゴムを他のゴム成分および添加剤と混練りする混練工程を含むゴム組成物の混練方法であり、本発明の混練装置による素練りを行った天然ゴムを用いることにより、天然ゴム特有の臭気が低減された混練工程となり、さらに臭気が低減されたゴム組成物が得られる混練方法である。
【0028】
前記天然ゴムとしては、SIR20、RSS#3、TSR20など、ゴム工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムの素練り工程では、ゴム工業において一般的な素練り促進剤を配合してもよい。また、ゴム成分中の分散性が向上するという理由から、カーボンブラックやシリカなどの分散性が低い充填剤を素練り工程で添加してもよい。
【0029】
その他のゴム成分としては、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムが挙げられ、ゴム製品の使用目的などに応じて適宜選択すればよい。
【0030】
添加剤としては、各種補強剤、軟化剤、酸化亜鉛、各種老化防止剤、オゾン劣化防止剤、カップリング剤、ワックス、硫黄または硫黄化合物などの加硫剤、加硫促進剤などのゴム工業で一般的に使用される配合剤をゴム製品の使用目的などに応じて適宜選択すればよい。
【0031】
本発明の混練方法を経て製造されたゴム組成物は、天然ゴム特有の臭気が低減されたゴム組成物が得られることから、タイヤの各部材に用いることができる。
【実施例】
【0032】
実施例にもとづいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0033】
以下、実施例および比較例で使用した各種薬品をまとめて説明する。
天然ゴム:TSR20
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(N2SA:111m
2/g)
【0034】
実施例および比較例
10kgの天然ゴムおよび2kgのカーボンブラックを16Lバンバリーミキサーで素練りし、排出部に直結したストレーナーによるストレーナー処理を表1に示す条件で行った。得られた混練物(素練り物)に対して下記の評価を行った。
【0035】
<臭気評価>
パネリスト10人により、素練り工程終了から60分後の混練物の臭気を下記の基準に従って評価した。最も多かった評価結果を表1に示す。
◎臭気なし
○少し臭気あり
×臭気あり
【0036】
<ストレーナー通過性>
ストレーナー処理にかかった時間を測定し、通過速度を算出した。結果は、下記の式により比較例1を100とする指数で示す。指数が高いほどストレーナー処理にかかった時間が短く良好なことを示す。
(通過性指数)=(各実施例の通過速度)/(比較例1の通過速度)×100
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示す結果より、本発明の混練装置および素練り方法が、天然ゴムの特有の臭気を簡便かつ効果的に低減できる混練装置および素練り方法であることがわかる。
【符号の説明】
【0039】
1 混練機
2 押出機
21 投入口
22 押出しスクリュー
3 ストレーナー
31 メッシュ状部材
32 脱気手段
33 水供給手段
4 押出ヘッド
R1 混練物
R2 ゴムシート