特許第6554809号(P6554809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554809
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】コイル巻線の製造方法およびコイル巻線
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/061 20160101AFI20190729BHJP
   H01F 41/077 20160101ALI20190729BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01F41/061
   H01F41/077
   H01F27/28 K
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-26946(P2015-26946)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-149509(P2016-149509A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川崎 大志
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−132174(JP,U)
【文献】 特開2013−168476(JP,A)
【文献】 特開平08−317610(JP,A)
【文献】 特開2004−186414(JP,A)
【文献】 特開2007−036056(JP,A)
【文献】 特開2007−150139(JP,A)
【文献】 特開昭59−107506(JP,A)
【文献】 特開2013−098397(JP,A)
【文献】 特開2012−175741(JP,A)
【文献】 特開2005−217084(JP,A)
【文献】 特開2006−032663(JP,A)
【文献】 実公昭14−003752(JP,Y1)
【文献】 特開2001−267144(JP,A)
【文献】 特表2015−535658(JP,A)
【文献】 特開2012−060194(JP,A)
【文献】 実開昭58−020521(JP,U)
【文献】 特開2015−228476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/061
H01F 41/077
H01F 27/28
H02K 3/04
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線を矩形状に巻回することによりコイル巻線を形成するコイル巻線の製造方法であって、
前記平角線に2つの異なる向きのエッジワイズ曲げを行って層間移行部を形成し、その層間移行部を挟んだ前後で1本の前記平角線の幅寸法だけ位置ずれするように前記平角線を変形させるエッジワイズ曲げ工程と、
前記層間移行部を位置決めした状態で、第1治具に固定する第1固定工程と、
前記第1治具に形成されていると共に1本分の前記平角線の幅を有する第1加工溝に沿って前記平角線にフラットワイズ曲げを行うことで、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する3つの曲げ部を形成して、第1ターンを形成する第1ターン形成工程と、
2本分の前記平角線の幅を有する第2加工溝を有する第2治具に対して、前記第1ターンを形成した後の前記平角線を、前記層間移行部を位置決めした状態で固定する第2固定工程と、
前記第2加工溝に沿って前記平角線にフラットワイズ曲げを行うことで、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する3つの曲げ部を形成して、第2ターンを形成する第2ターン形成工程と、
を備えることを特徴とするコイル巻線の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のコイル巻線の製造方法であって、
前記第1治具の前記第1加工溝の縁部、および前記第2治具の前記第2加工溝の縁部には、それぞれ位置決め段差が設けられていて、
前記第1ターン形成工程および前記第2ターン形成工程では、前記平角線の側縁を前記位置決め段差に接触させた状態を維持しつつ前記平角線を曲げる、
ことを特徴とするコイル巻線の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のコイル巻線の製造方法であって、
前記第1ターン形成工程および前記第2ターン形成工程において、いずれかの前記曲げ部を形成し、その後に次の前記曲げ部を形成する際に、直前に形成した前記曲げ部と、その直前の曲げ部の1つ前に形成した前記曲げ部の間に亘る直線部分を押さえ手段で固定して、直前の前記曲げ部の側縁が前記位置決め段差に接触させた状態を維持しつつ、次の前記曲げ部を形成する、
ことを特徴とするコイル巻線の製造方法。
【請求項4】
平角線を矩形状に巻回することにより形成されるコイル巻線であって、
一端側のコイル端末に連続すると共に、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する部分にフラットワイズ曲げを行うことで、合計3つの曲げ部を有する第1ターンと、
他端側のコイル端末に連続すると共に、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する部分にフラットワイズ曲げを行うことで、合計3つの曲げ部を有する第2ターンと、
を備え、
前記第1ターンと前記第2ターンの間には、前記平角線に2つの異なる向きのエッジワイズ曲げを行って形成される層間移行部が設けられていて、
この層間移行部を挟んだ前後で1本の前記平角線の幅寸法だけ位置ずれするように設けられていて、
前記第1ターンと前記第2ターンとは前記巻線部の巻軸方向に重ねられ、かつ互いに密着していて、
前記層間移行部の付け根であって、前記エッジワイズ曲げの内側には、当該エッジワイズ曲げの基点となる凹部と、当該凹部に隣接して拡幅された拡幅部とが設けられている、
ことを特徴とするコイル巻線。
【請求項5】
請求項4記載のコイル巻線であって、
一端側の前記コイル端末と、他端側の前記コイル端末とは、前記巻線部に対して同じ方向に突出している、
ことを特徴とするコイル巻線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル巻線の製造方法およびコイル巻線に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のコイルには、平角線を巻回することにより形成されるものが広く用いられている。そのような平角線を用いてコイルを形成する場合、フラットワイズ巻きと呼ばれる巻回方法が広く知られている。このようなフラットワイズ巻きには、たとえば特許文献1および特許文献2に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−196238号公報(図1他参照)
【特許文献2】特開2003−124039号公報(図5(b)参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1および特許文献2に示すようなフラットワイズ巻きでは、平角線を巻回したときの、コイル巻線の高さが高くなってしまう、という問題がある。すなわち、フラットワイズ巻きでは、平角線の厚み方向に、内周と外周が形成されるように曲げられるが、その場合、平角線は螺旋状に巻回される。そのため、特に巻数が少ないコイル巻線では、螺旋状に巻回される分だけ、コイル巻線の低背化を図ることが難しくなっている。
【0005】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コイル巻線の低背化を図ることが可能なコイル巻線の製造方法、および低背化を図ることがコイル巻線を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、平角線を矩形状に巻回することによりコイル巻線を形成するコイル巻線の製造方法であって、平角線に2つの異なる向きのエッジワイズ曲げを行って層間移行部を形成し、その層間移行部を挟んだ前後で1本の平角線の幅寸法だけ位置ずれするように平角線を変形させるエッジワイズ曲げ工程と、層間移行部を位置決めした状態で、第1治具に固定する第1固定工程と、第1治具に形成されていると共に1本分の平角線の幅を有する第1加工溝に沿って平角線にフラットワイズ曲げを行うことで、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する3つの曲げ部を形成して、第1ターンを形成する第1ターン形成工程と、2本分の平角線の幅を有する第2加工溝を有する第2治具に対して、第1ターンを形成した後の平角線を、層間移行部を位置決めした状態で固定する第2固定工程と、第2加工溝に沿って平角線にフラットワイズ曲げを行うことで、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する3つの曲げ部を形成して、第2ターンを形成する第2ターン形成工程と、を備えることを特徴とするコイル巻線の製造方法が提供される。
【0007】
また、本発明の他の側面は、上述の発明に加えて更に、第1治具の第1加工溝の縁部、および第2治具の第2加工溝の縁部には、それぞれ位置決め段差が設けられていて、第1ターン形成工程および第2ターン形成工程では、平角線の側縁を位置決め段差に接触させた状態を維持しつつ平角線を曲げる、ことが好ましい。
【0008】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明に加えて更に、第1ターン形成工程および第2ターン形成工程において、いずれかの曲げ部を形成し、その後に次の曲げ部を形成する際に、直前に形成した曲げ部と、その直前の曲げ部の1つ前に形成した曲げ部の間に亘る直線部分を押さえ手段で固定して、直前の曲げ部の側縁が位置決め段差に接触させた状態を維持しつつ、次の曲げ部を形成する、ことが好ましい。
【0009】
また、本発明の第2の観点によると、平角線を矩形状に巻回することにより形成されるコイル巻線であって、一端側のコイル端末に連続すると共に、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する部分にフラットワイズ曲げを行うことで、合計3つの曲げ部を有する第1ターンと、他端側のコイル端末に連続すると共に、矩形状に巻回される巻線部の3つの角部に対応する部分にフラットワイズ曲げを行うことで、合計3つの曲げ部を有する第2ターンと、を備え、第1ターンと第2ターンの間には、平角線に2つの異なる向きのエッジワイズ曲げを行って形成される層間移行部が設けられていて、この層間移行部を挟んだ前後で1本の平角線の幅寸法だけ位置ずれするように設けられていて、第1ターンと第2ターンとは巻線部の巻軸方向に重ねられ、かつ互いに密着していて、層間移行部の付け根であって、エッジワイズ曲げの内側には、当該エッジワイズ曲げの基点となる凹部と、当該凹部に隣接して拡幅された拡幅部とが設けられている、ことを特徴とするコイル巻線が提供される。
【0010】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明に加えて更に、一端側の前記コイル端末と、他端側のコイル端末とは、巻線部に対して同じ方向に突出している、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、コイル巻線の低背化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係るコイル巻線の構成を示す斜視図である。
図2図1のコイル巻線の正面図である。
図3図1のコイル巻線の層間移行部の付け根付近に凹部が形成されている状態を示す斜視図である。
図4図1のコイル巻線の層間移行部の付け根付近に凹部と共に拡幅部が形成されている状態を示す斜視図である。
図5】比較例に係るコイル巻線の構成を示す斜視図である。
図6図5のコイル巻線の正面図である。
図7】第1工程に係り、層間移行部を有する加工物の構成を示す斜視図である。
図8】第2工程に係り、加工物を第1治具にセットした状態を示す図である。
図9】第3工程に係り、押さえ板を線配置部に固定する様子を示す図である。
図10】第4工程に係り、第1治具をチャッキング手段に挟持させた状態を示す図である。
図11】第4工程に係り、平角線に張力を与えながら位置決め段差に平角線を沿わせた状態を示す図である。
図12】第5工程に係り、押さえ板を基体部に固定すると共に、第1治具をチャッキング手段に挟持させた状態を示す図である。
図13】第6工程に係り、線配置部に平角線が位置する状態で、押さえ板を基体部に固定した状態を示す図である。
図14】第6工程に係り、第1治具をチャッキング手段に挟持させた状態を示す図である。
図15】第6工程により、平角線11の曲げが完了した状態を示す図である。
図16】第7工程に係り、加工物を第2治具にセットした状態を示す図である。
図17】第8工程に係り、押さえ板を線配置部に固定した様子を示す図である。
図18】第9工程に係り、第2治具をチャッキング手段に挟持させた状態を示す図である。
図19】第9工程により、第2ターンの形成が完了した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施の形態について)
以下、本発明の第1の実施の形態に係る、コイル巻線10と、そのコイル巻線10の製造方法について、図面に基づいて説明する。
【0015】
なお、以下の説明においては、コイル巻線10の巻軸方向をZ方向とし、図1において紙面から離れる側を上側(Z1側)、それとは逆側を下側(Z2側)とする。また、図1においてコイル端末11a,11bが延伸する方向をY方向とし、コイル端末11a,11bが突出する側を手前側(Y1側)、それとは逆側を奥側(Y2側)とする。また、Z方向およびY方向に直交する方向をX方向とし、図1において右側をX1側、それとは逆の左側をX2側とする。
【0016】
<コイル巻線10の構成について>
図1は、本実施の形態のコイル巻線10の構成を示す斜視図である。図2は、図1のコイル巻線10の正面図である。
【0017】
図1および図2に示すように、コイル巻線10は、平角線11をフラットワイズ巻きとなる状態で巻回することで構成されている。平角線11は、導体部分を絶縁被膜等により覆っている導線であり、その断面形状が長方形に設けられている。すなわち、平角線11の断面形状には、寸法の大きな幅方向(エッジ方向)と、幅方向よりも寸法の小さな厚み方向とが存在している。
【0018】
かかる平角線11が巻回されたコイル巻線10では、一端側のコイル端末11a(X1側かつY1側のコイル端末)は、その延伸方向がY方向に平行である。また、一端側のコイル端末11aは、巻線部12よりも手前側(Y1側)に向かって突出している。
【0019】
また、一端側のコイル端末11aの厚み方向は、X方向と平行に設けられている。すなわち、一端側のコイル端末11aでは、その側面がXY平面と平行に設けられている。そして、一端側のコイル端末11aから巻線方向に沿って進行すると、平角線11が矩形状に巻回された部分である巻線部12の第1直線部121に差し掛かり、そのまま奥側(Y2側)に向かうと最初の曲げ部分である第1曲げ部122に差し掛かる。これら第1直線部121と第1曲げ部122の側面も、XY平面と平行に設けられている。
【0020】
以下、第1曲げ部122に続く第2直線部123、第2直線部123に続く第2曲げ部124、第2曲げ部124に続く第3直線部125、および第3直線部125に続く第3曲げ部126についても、それらの側面がXY平面に平行に設けられている。なお、これら第1直線部121〜第3曲げ部126までは、第1ターンT1を構成している。
【0021】
また、第3曲げ部126に続くように、層間移行部127が設けられている。層間移行部127は、第1ターンT1から第2ターンT2に移行するための部分である。図1および図2に示すように、層間移行部127においては、第1ターンT1側の付け根127aと、第2ターンT2側の付け根127bとは、XY平面に平行に設けられている。しかしながら、2つの付け根127a,127bの間は、XY平面に対して傾斜した傾斜部127cが設けられている。傾斜部127cの存在により、付け根127aと付け根127bの間では、平角線11の幅方向(エッジ方向)の1本分だけ高さに相違が生じている。
【0022】
また、付け根127aと付け根127bのそれぞれには、図3に示すような凹部127dを形成しても良い。このような凹部127dが存在する場合、傾斜部127cを形成する際の曲げの基点として利用することができる。したがって、コイル巻線10の加工が容易となる。
【0023】
また、上述のような凹部127dに隣接して、図4に示すような拡幅部127eを形成するようにしても良い。このような拡幅部127eが形成される場合、凹部127dを形成することが容易となり、それによってコイル巻線10の加工の容易化を実現可能となる。
【0024】
なお、第2ターンT2の構成は、上述した第1ターンT1の各部の構成と同様であるので、それらの詳細についての説明は省略する。また、第2ターンT2の終端側には、他端側のコイル端末11bが連続している。他端側のコイル端末11bは、上述した一端側のコイル端末11aと同様に、巻線部12よりも手前側(Y1側)に向かって突出している。
【0025】
図5は、比較例として、通常のコイル巻線10Aの構成を示す斜視図である。図6は、図5のコイル巻線10Aの正面図である。通常のコイル巻線10Aでは、図5および図6に示すように、コイル巻線10Aの巻線部12Aは、平角線11が螺旋状に巻回されている。そのため、図6に示すように、XY平面と平行な面である設置面にコイル巻線10Aを置いた場合、コイル巻線10Aは傾斜してしまう。図6に示す構成例では、コイル巻線10Aを設置面に設置すると、巻線部12Aの巻軸方向Lは、設置面の法線方向Nに対して、所定の角度αだけ傾いてしまう。なお、この角度αは、たとえば10度とするものがあるが、角度αは10度には限られず、種々の値を取ることが可能である。
【0026】
かかるコイル巻線10Aにおける、巻軸方向Lの法線方向Nに対する傾斜は、一端側のコイル端末11aと他端側のコイル端末11bとの突出長さが長くなれば、その分だけ顕著となる。また、図5および図6に示す構成では、巻線部12Aが螺旋状に巻回されている部分であるので、巻線部12Aから一端側のコイル端末11aに向かうと、第1直線部121Aよりも下側(Z2側)に向かおうとする。また、巻線部12Aから他端側のコイル端末11bに向かうと、第3直線部125Aよりも上側(Z1側)に向かおうとする。したがって、コイル巻線10Aの高さ方向の寸法が大きくなってしまう。
【0027】
これに対して、本実施の形態におけるコイル巻線10では、図2に示すように、巻軸方向Lと法線方向Nとが平行となっている。また、巻線部12のうち第1ターンT1を構成する部分(層間移行部127を除く)と、一端側のコイル端末11aとは、同一の高さに位置している。また、第2ターンT2を構成する部分(層間移行部127を除く)と、他端側のコイル端末11bとは、同一の高さに位置している。したがって、コイル巻線10では、低背化を図ることが可能となっている。
【0028】
なお、幅寸法が5.2mm、厚み寸法が2.3mm、コイル巻線10のY方向の寸法が28.8mmの場合、図6に示す構成では、高さ寸法が13.0mmとなる。一方、図2に示す構成では、高さ寸法が10.4mmとなる。このように、高さ寸法は2.6mm低減されており、図6の高さ寸法に対して20%程度の低背化が可能となる。
【0029】
<コイル巻線10の製造方法について>
続いて、コイル巻線10の製造方法について、図面に基づいて説明する。
(1)第1工程:層間移行部127の形成
コイル巻線10を形成する場合、平角線11に加工を施して、図7に示すような加工物P1を、たとえばプレス加工等によって形成する。このとき、平角線11には、2つの異なる向きのエッジワイズ曲げがなされ、そのエッジワイズ曲げによって、加工物P1は、層間移行部127となる部分を有する状態となる。なお、層間移行部127の中央には、マーキングM1が設けられているが、そのようなマーキングM1が存在しないようにしても良い。
【0030】
ここで、上述した2つのエッジワイズ曲げにより、層間移行部127を挟んだ前後では、1本の平角線11の幅寸法だけ位置ずれした状態となっている。なお、第1工程は、エッジワイズ曲げ工程に対応する。
【0031】
(2)第2工程:加工物P1のセット
次に、図8に示すように、加工物P1を、第1治具20にセットする。図8に示す第1治具20は、投影面積の大きな基体部21と、投影面積の小さな線配置部22とを有している。基体部21と線配置部22とは、平面視したときの形状が矩形状に設けられているが、それら矩形状の角部には、いずれも平角線11を曲げる際の曲率に対応したR面(湾曲した面)が設けられている。
【0032】
また、基体部21と線配置部22の間には、位置決め段差23が設けられていて、この位置決め段差23に平角線11の側縁を接触させることで、平角線11の位置決めをすることが可能となっている。なお、線配置部22は、平角線11が配置される部分であり、位置決め段差23にて平角線11を位置決めしつつ、この線配置部22を利用して、平角線11を曲げることが可能となっている。また、位置決め段差23の高さは、平角線11の厚み以下に設けられている。
【0033】
以下、第1治具20の構成については、製造工程と共に説明する。なお、図8に示す状態では、平角線11は、4つの線配置部22のうち、一対のネジ孔221を有する線配置部22aにセットさせる。一対のネジ孔221は、線配置部22aに平角線11をセットしても、それらが露出する位置に設けられている。
【0034】
(3)第3工程:押さえ板241での平角線11の固定
続いて、図9に示すように、押さえ板241を線配置部22aに固定する。すなわち、ネジ25を押さえ板241の挿通孔241aに挿通させつつ、そのネジ25をネジ孔221に捻じ込んで、押さえ板241を線配置部22aに固定する。この固定状態では、平角線11が動かないように挟持される。なお、第3工程は、第1固定工程に対応する。また、押さえ板241は、押さえ手段に対応する(後述する押さえ板242,243,47も同様)。
【0035】
(4)第4工程:第1曲げ部122の形成
次に、図10に示すように、第1治具20をチャッキング手段30に挟持させる。このとき、線配置部22aが上側ではなく、曲げ加工により平角線11が次に位置する線配置部22(線配置部22b)が上側を向くように、第1治具20をチャッキング手段30に固定させる。そして、平角線11に張力を与えながら、R面に沿うように押圧手段で押圧力を加えつつ、位置決め段差23に平角線11を沿わせることで、図11に示すような状態となる。
【0036】
ここで、線配置部22bには、スペーサ26が取り付けられている。スペーサ26は、線配置部22bにおいて平角線11の位置がずれるのを防止するために取り付けられる部材である。すなわち、スペーサ26と位置決め段差23との間には、平角線11の1本分の幅の第1加工溝27が形成される。そのため、押圧手段で押圧力を加えて平角線11を曲げた場合でも、その平角線11が第1加工溝27に入り込み、それによって平角線11に位置ずれが生じるのが防止される。なお、スペーサ26は、後述する線配置部22cと線配置部22dにもそれぞれ設けられていて、それら線配置部22cおよび線配置部22dにも、第1加工溝27が存在している。
【0037】
以上のようにして、平角線11の第1曲げ部122が形成される。また、平角線11が線配置部22bに位置する状態となる。なお、チャッキング手段30は、万力でも良く、曲げ加工装置のチャッキング部でも良い。また、押圧手段は、木槌等のようなものであっても良く、押圧ローラ等であっても良い。
【0038】
また、第1曲げ部122の形成に当たっては、平角線11の側縁が、既に配置されている線配置部22aの位置決め段差23に接触させた状態を維持しつつ、線配置部22bの位置決め段差23に対しても、平角線11の側縁が曲げによって差し掛かる場合には、両者の接触状態を維持しながら曲げを行うことが好ましい(第1ターンT1と第2ターンT2の他の曲げ部124,126,128においても同様)。なお、第4工程から第6工程は、第1ターン形成工程に対応する。
【0039】
(5)第5工程:第2曲げ部124の形成
次に、図12に示すように、線配置部22bに平角線11が位置する状態で、押さえ板242を基体部21に固定する。基体部21には、ネジ孔211が形成されていて、このネジ孔211にネジを捻じ込むことで、押さえ板242を基体部21に固定する。その押さえ板242での固定の後に、第1治具20をチャッキング手段30に挟持させる。このとき、線配置部22bが上側ではなく、曲げ加工により平角線11が次に位置する線配置部22(線配置部22c)が上側を向くように、第1治具20をチャッキング手段30に固定させる。
【0040】
そして、上記の第4工程と同様に、平角線11に張力を与えながら、R面に対して押圧手段で押圧力を加えつつ、位置決め段差23に平角線11を沿わせることで、平角線11の第2曲げ部124が形成される。また、平角線11が線配置部22cに位置する状態となる。
【0041】
(6)第6工程:第3曲げ部126の形成
次に、線配置部22cに平角線11が位置する状態で、上記の第5工程と同様に、押さえ板243を基体部21に固定する。図13は、線配置部22cに平角線11が位置する状態を示す底面図である。この押さえ板243の固定の後に、図14に示すように、第1治具20をチャッキング手段30に挟持させる。このとき、線配置部22cが上側ではなく、曲げ加工により平角線11が次に位置する線配置部22(線配置部22d)が上側を向くように、第1治具20をチャッキング手段30に固定させる。
【0042】
そして、上記の第4工程および第5工程と同様に、平角線11に張力を与えながら、R面に対して押圧手段で押圧力を加えつつ、位置決め段差23に平角線11を沿わせることで、平角線11の第3曲げ部126が形成される。図15は、線配置部22dに平角線11が位置する状態を示す底面図である。図15に示すように、第6工程が完了すると、第1ターンT1の形成が完了した加工物P2が形成される。
【0043】
(7)第7工程:加工物P2のセット
次に、第1治具20から加工物P2を外す。その後に、図16に示すように、加工物P2を、第2治具40にセットする。図16に示す第2治具40は、上述の第1治具20の基体部21と同様の第1基体部41を備え、さらに上述した線配置部22と類似する線配置部42を有している。また、第2治具40は、さらに第2基体部43も備えている。第2基体部43は、第1基体部41と同様の形状に設けられている。
【0044】
また、第1基体部41と線配置部42の間には、上述した位置決め段差23と同様の位置決め段差44が設けられている。加えて、第2基体部43と線配置部42の間にも、位置決め段差44と同様の位置決め段差45が設けられている。そして、これら位置決め段差44と位置決め段差45の間の幅は、平角線11の2本分の幅に対応する第2加工溝46となっている。すなわち、第1ターンT1の形成後、第2ターンT2を形成するためには、平角線11の2本分の幅を有する第2加工溝46が設けられている。したがって、第2治具40の線配置部42には、スペーサ26のようなスペーサは取り付けられていない。
【0045】
(8)第8工程:押さえ板47での平角線11の固定
次に、図17に示すように、ネジ48を介して、第1基体部41のネジ孔41aに押さえ板47を固定する。そして、この押さえ板47によって、線配置部42aに位置している平角線11が動かないように挟持する。なお、第8工程は、第2固定工程に対応する。
【0046】
(9)第9工程:第2ターンT2の形成
次に、図18に示すように、第2治具40をチャッキング手段30に挟持させる。その後に、第2ターンT2における最初の曲げ部(第4曲げ部128;図1参照)を形成する。このときの曲げの向きは、上述した第4工程〜第6工程とは逆向きとなっている。以後、上述した第1ターンT1の第4工程と第5工程と同様の工程を実施する。それにより、図19に示すように、第2ターンT2が形成される。そして、第2治具40からコイル巻線10を取り外すと、図1および図2に示すようなコイル巻線10が形成される。なお、第9工程は、第2ターン形成工程に対応する。
【0047】
<効果について>
以上述べたように、本実施の形態によると、第1工程を行って、平角線11に2つの異なる向きのエッジワイズ曲げを行って層間移行部127を形成する。そして、その層間移行部127を挟んだ前後で1本の平角線11の幅寸法だけ位置ずれするように平角線11を変形させる。そのため、第1工程では、平角線11のフラットワイズ曲げに先立って、平角線11に2つの異なる向きのエッジワイズ曲げを行って層間移行部127を形成するので、層間移行部127を挟んだ前後で1本の平角線11の幅寸法だけ、正確に位置ずれするように、平角線11を変形させることができる。
【0048】
また、第2工程で第1治具20に加工物P1をセットした後に、第3工程で押さえ板241を用いて平角線11を第1治具20に固定する。その後に、第4工程から第6工程を行うことにより、1本分の平角線11の幅を有する第1加工溝27に沿って平角線11にフラットワイズ曲げを行うことで、巻線部12の3つの角部に対応する3つの曲げ部(第1曲げ部122、第2曲げ部124、第3曲げ部126)を形成して、第1ターンT1を形成する。
【0049】
その後に、第7工程を行って、2本分の平角線11の幅を有する第2加工溝46を有する第2治具40に対して、第1ターンT1を形成した後の平角線11を、層間移行部127を位置決めした状態でセットし、その後に第8工程を行って、押さえ板47を用いて平角線11を第1治具20に固定する。続いて、第9工程を行って、第2加工溝46に沿って平角線11にフラットワイズ曲げを行うことで、巻線部12の3つの角部に対応する3つの曲げ部(第2曲げ部124、第3曲げ部126、第4曲げ部128)を形成して、第2ターンT2を形成する。
【0050】
そのため、第2工程から第9工程を行うことで、平角線11のフラットワイズ曲げの際には、第1治具20および第2治具40を用いつつ、平角線11が位置ずれしないように、押さえ板241〜243,押さえ板47で押さえる状態とすることができる。そのため、平角線11の正確なフラットワイズ曲げを実現することができる。
【0051】
加えて、平角線11に対して、第4工程から第6工程を行うことで、1本分の平角線11の幅を有する第1加工溝27に沿って平角線11にフラットワイズ曲げが行える。したがって、第1ターンT1においては、高さ方向(Z方向)の位置ずれがない状態とすることができ、非常に曲げの精度の高い第1ターンT1を形成することができる。
【0052】
同様に、平角線11に対して、第9工程を行うことで、平角線11の2本分の幅を有する第2加工溝46に沿って、平角線11にフラットワイズ曲げが行える。したがって、第2ターンT2においても、高さ方向(Z方向)の位置ずれがない状態とすることができ、非常に曲げの精度の高い第2ターンT2を形成することができる。特に、第2ターンT2の形成に際しては、平角線11の2本分の幅を有する第2加工溝46を利用して、フラットワイズ曲げを行える。したがって、フラットワイズ曲げを行うと、第2ターンT2は、第1ターンT1に対して密着した状態となる。したがって、第1ターンT1と第2ターンT2の間で間隔が開いてしまったり、後に両者を密着させる場合のような第1ターンT1と第2ターンT2のいずれかの平角線11に傾きが生じる等の不具合が生じるのを防止可能となる。
【0053】
また、上述したようなコイル巻線10の製造方法を行うことにより、図2に示すようなコイル巻線10を形成することができ、コイル巻線10の低背化を図ることが可能となる。
【0054】
特に、本実施の形態では、コイル巻線10においては、層間移行部127を挟んだ前後で1本の平角線11の幅寸法だけ位置ずれするように設けられている。しかも、第1ターンT1と第2ターンT2は巻線部12の巻軸方向に重ねられ、かつ互いに密着している。このため、第1ターンT1と第2ターンT2の間に無駄な隙間が形成されずに済み、第1ターンT1と第2ターンT2とが重ねられる構成のコイル巻線10においては、究極的な低背化を図ることが可能となる。
【0055】
また、本実施の形態では、第1治具20の第1加工溝27の縁部、および第2治具40の第2加工溝46の縁部には、それぞれ位置決め段差23が設けられている。そして、第4工程から第6工程、および第9工程では、平角線11にフラットワイズ曲げを行う際に、平角線11の側縁を位置決め段差23に接触させた状態を維持しつつ平角線11を線配置部22の底面に向けてずらしながらフラットワイズ曲げを行っている。そのため、平角線11に対して、非常に正確なフラットワイズ曲げを行える。そのため、巻線部12では、高さ方向のずれもなく、また平角線11に傾きが生じるのを防止可能となる。したがって、一層良好にコイル巻線10の低背化を実現することができる。
【0056】
さらに、本実施の形態では、第4工程から第6工程、および第9工程では、いずれかの曲げ部(第1曲げ部122、第2曲げ部124、第3曲げ部126)を形成し、その後に次の曲げ部(第2曲げ部124、第3曲げ部126、第4曲げ部128)を形成する際に、直前の曲げ部とその1つ前に形成した曲げ部の間に亘る直線部を押さえ板241〜243,47で固定する。そして、直前の曲げ部の側縁を位置決め段差23に接触させた状態を維持しつつ、次の曲げ部を形成している。したがって、第1ターンT1と第2ターンT2を形成すると、それらが設置面に精度良く平行な状態とすることができる。
【0057】
さらに、本実施の形態では、一端側のコイル端末11aと、他端側のコイル端末11bとは、巻線部12に対して同じ方向に突出している。このため、コイル巻線10への電気的な接続を行い易くなる。
【0058】
また、本実施の形態では、層間移行部127の付け根127a,127bであって、フラットワイズ曲げの内側には、当該フラットワイズ曲げの基点となる凹部127dが設けられている。したがって、コイル巻線10の加工が容易となる。
【0059】
<変形例>
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0060】
上述の各実施の形態では、コイル巻線10は、第1ターンT1と第2ターンT2を備えた、2ターン(2巻)を有する構成となっている。しかしながら、コイル巻線10は、3ターン(3巻)以上を有する構成であっても良い。このような場合でも、コイル巻線の低背化を図ることが可能となる。
【0061】
また、上述の実施の形態では、コイル巻線10を製造する場合、第1治具20と第2治具40を用い、さらにチャッキング手段30を用いて形成している。しかしながら、上述したのとは異なる手法によって、コイル巻線10を製造しても良い。たとえば、加工溝の溝幅を可変とすることが可能な治具を用いて、コイル巻線10を形成しても良い。この場合、加工溝の溝幅を、1本の平角線11に対応した幅から、2本の平角線11に対応した溝幅にすることができ、それによって、一度治具にセットした平角線11を、別の治具にセットし直す手間を軽減することができる。なお、このような加工溝の溝幅の変更は、スペーサのセット及び除去によって、実現するようにしても良い。
【0062】
また、上述の実施の形態では、コイル巻線10は、平角線11を矩形状に巻回することで構成されている。しかしながら、矩形状以外にも、たとえば、三角形状、六角形状等のような多角形状に平角線11を巻回されたコイル巻線においても、本発明を適用することができる。また、円形状に巻回する場合のような、少なくとも一部に曲線状に巻回する部分を含むコイル巻線においても、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
10,10A…コイル巻線、11…平角線、11a,11b…コイル端末、12,12A…巻線部、20…治具、21…基体部、22,22a,22b,22c,22d…線配置部、23…位置決め段差、25…ネジ、26…スペーサ、27…第1加工溝、30…チャッキング手段、40…第2治具、41…第1基体部、41a…ネジ孔、42,42a…線配置部、43…第2基体部、44,45…位置決め段差、46…第2加工溝、47…押さえ板(押さえ手段に対応)、48…ネジ、121,121A…第1直線部、122…第1曲げ部(曲げ部に対応)、123…第2直線部、124…第2曲げ部(曲げ部に対応)、125,125A…第3直線部、126…第3曲げ部(曲げ部に対応)、127…層間移行部、127a,127b…付け根、127c…傾斜部、127d…凹部、127e…拡幅部、128…第4曲げ部(曲げ部に対応)、211,221…ネジ孔、241〜243…押さえ板(押さえ手段に対応)、241a…挿通孔、M1…マーキング、P1,P2…加工物、T1…第1ターン、T2…第2ターン

図1
図2
図3
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図5
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図19