(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2質量%ポリビニルアルコール水溶液100質量部と2質量%リグニン組成物水溶液30質量部との混合液の波長280nmにおける光線透過率が、0.1%以下である、請求項1又は2に記載のリグニン組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。なお、部および%は、特に記載した場合を除き、質量に基づく値であり、数値範囲「X〜Y」は、特に記載した場合を除き、両端の値XおよびYを含む。
【0011】
<リグノセルロース系原料>
本発明の方法で原料として使用するリグノセルロース系原料としては、次のものが挙げられる。木質系:製紙用樹木、林地残材、間伐材等のチップまたは樹皮、木本性植物の切株から発生した萌芽、製材工場等から発生する鋸屑またはおがくず、街路樹の剪定枝葉、建築廃材等。草本系:ケナフ、稲藁、麦わら、コーンコブ、バガス等の農産廃棄物、油用作物やゴム等の工芸作物の残渣および廃棄物(例えば、EFB: Empty Fruit Bunch)、草本系エネルギー作物のエリアンサス、ミスカンサスやネピアグラス等。特にこれらに限定されない。また、木材由来の紙、古紙、パルプ、パルプスラッジ、スラッジ、下水汚泥等、食品廃棄物、等を原料として利用することができるが、特にこれらに限定されない。これらの原料は、単独、あるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、原料は、乾燥固形物であっても、水分を含んだ固形物であっても、スラリーであっても用いることができる。
【0012】
前記木質系のリグノセルロース系原料としては、特に限定するものではないが、ユーカリ(Eucalyptus)属植物、アカシア(Acacia)属植物、ヤナギ(Salix)属植物、ポプラ属(Populus)植物、スギ(Cryptomeria)属植物、マツ属(Pinus)属植物等が利用できる。ユーカリ属植物、アカシア属植物、ヤナギ属植物は、原料として大量に採取し易いためである。特に、ユーカリ属植物としては、Eucalyptus globulus、Eucalyptus pellita、アカシア属としては、Acacia mangium、Acacia auriculiforimis、アカシアハイブリッド(Acacia mangiumとAcacia auriculiforimisの交雑種)、ヤナギ属植物としては、Salix schweriniiを用いるのが好ましい。
木本性植物由来のリグノセルロース系原料の中では、林地残材(樹皮、枝葉を含む)、樹皮を用いるのが好ましい。例えば、製紙原料用として一般に用いられるユーカリ(Eucalyptus)属またはアカシア(Acacia)属等の樹種の樹皮は、製紙原料用の製材工場やチップ工場等から安定して大量に入手可能であるため、特に好適に用いられる。
他の観点からの本発明に用いられる木質系のリグノセルロース系原料好適な例として、ユーカリ、オーク、アカシア、ビーチ、タンオーク、オルダー等の広葉樹材が挙げられる。使用する広葉樹材に多少の針葉樹材を含まれていても構わない。
【0013】
<リグニン組成物を得る工程>
本発明では、前記リグノセルロース原料には、キシロース−リグニン複合体を得るための前処理が施される。
【0014】
(機械的処理)
本発明では、前記リグノセルロース原料に、機械的処理を施すことができる。機械的処理としては、破砕、裁断、磨砕等の任意の機械的手段が挙げられ、リグノセルロースを次工程の化学的処理工程でキシロース−リグニン複合体が溶出されやすい状態にすることである。使用する機械装置については特に限定されないが、例えば、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマークラッシャー、レファイナー、ニーダー等を用いることができる。
【0015】
前記機械的処理の前工程または後工程として、異物(石、ゴミ、金属、プラスティック等のリグノセルロース以外の異物)を除去するための洗浄などによる異物除去工程を導入することもできる。
原料を洗浄する方法としては、例えば、原料に水を噴射して原料に混合されている異物を除く方法、あるいは、原料を水中に浸漬し異物を沈降させて取り除く方法等が挙げられる。また、メタルトラップ等の装置を用いて、異物を原料から分離する方法が挙げられる。
原料に異物が含まれていると、リファイナーのディスク(プレート)等の機械的処理で用いる装置の部品を破損させる可能性があるし、配管が詰まる等の製造工程内でトラブルを起こす等の問題が発生するため、異物除去工程を導入することが望ましい。
【0016】
(化学的処理)
本発明では、リグノセルロース原料には、化学的処理を施す。化学的処理は、リグノセルロース原料から、薬品を用い、必要に応じ加熱することにより、化学的な結合を切断してキシロース−リグニン複合体を溶出させるための処理である。キシロース−リグニン複合体が得られる限り、どのような処理でも問わないが、化学処理の例は、亜硫酸ナトリウムを含有する水溶液にリグノセルロース原料を浸漬することである。化学的処理は、前記機械的処理と組み合わせて、それらの機械的処理の後の処理として行うことが好適である。
【0017】
化学的処理で使用する薬品の添加量は、状況に応じて任意に調整可能であるが、薬品コスト低下、また過分解による収率低下防止の観点から設定してもよい。これらの観点からは、亜硫酸ナトリウム(97質量%)を用いる場合は、リグノセルロース系原料の絶乾質量に対して70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0018】
好ましい態様の一つにおいては、化学処理として、リグノセルロース原料(乾燥質量)に対して10〜70質量%の亜硫酸ナトリウムと、pH調整剤として0.1〜5質量%のアルカリを添加することができる。pH調整剤として用いるアルカリの例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0019】
化学的処理における薬品水溶液への浸漬時間および処理温度は、使用する原料や薬品によって適宜設定可能であるが、処理時間は10分以上であり、好ましくは30分以上であり、処理温度は、80℃以上であり、好ましくは120℃以上であることが好ましい。処理条件の上限値は、コストや過分解を防止する等の観点から、適宜設定可能である。このような観点からは、処理時間は180分以下であることが好ましく、120分以下であることがより好ましく、処理温度は200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。
【0020】
亜硫酸ナトリウムおよびpH調整剤としてアルカリを添加して加熱処理を行う態様においては、加熱処理温度は、80〜200℃が好ましく、120〜180℃がより好ましい。また、加熱処理時間は、10〜600分で行うことができるが、30〜240分が好ましい。
【0021】
亜硫酸ナトリウムおよびpH調整剤としてアルカリを添加して加熱処理することにより、加熱処理後(加水分解後)の水溶液のpHが4.0〜8.0(中性〜弱アルカリ性)となる。そのため、加水分解処理後の廃液または加水分解物を中和するための薬品の使用量を低減できるというメリットがある。
【0022】
化学処理が施された処理済原料懸濁液の水溶液部分には、目的のキシロース−リグニン複合体が含まれる。目的のキシロース−リグニン複合体は、リグニン部分に、酸加水分解性を有する化学結合により、キシロース部分が化学結合した形態であると考えられ、キシロース部分を有するために水溶性である。処理済原料懸濁液からキシロース−リグニン複合体を含むリグニン組成物を得るには、必要に応じ低分子物質や固形分を除去する操作を行い、水溶液部分を得ればよい。水溶液は、必要に応じ、濃縮、凍結乾燥等の処理を経ることができる。
【0023】
低物資物質を除去する手段としては、目的のキシロース−リグニン複合体を保持しつつ、低分子物質を除くことができる方法であれば制限なく使用することができ、例えば、透析に拠ることができる。透析に用いる膜の素材(例えば、セルロース、ポリスルホン等)、形態(例えば、チューブ、中空糸モジュール等)は、特に限定されず、種々のものを選択することができる。また後述するようにキシロース−リグニン複合体の分子量を考慮して、適切な分子分画能を有する透析膜を選択することができる
【0024】
固液分離する方法も特に限定されず、例えば、スクリュープレス等を用いて水溶液と固形分に分離することができる。具体的な手段・装置としては、デカンター、ディスク型遠心機、セラミックフィルター、スクリュープレス、スクリーン、フィルタープレス、ベルトプレス、ロータリープレス等を用いることができる。スクリーンとしては、振動装置が付加された振動スクリーンなどを用いることができる。
【0025】
<リグニン組成物>
本発明の製造方法により、リグニン組成物が得られる。リグニン組成物は、一または数種のキシロース−リグニン複合体と、場合によりそれ以外の成分を含む。なお、本発明でキシロース−リグニン複合体というときは、特に記載した場合を除き、キシロース部分とリグニン部分とを有する複合体をいう。キシロース−リグニン複合体は、キシロース以外の糖(例えばグルコース、アラビノース、ガラクトース、マンノース)からなる部分を含んでいてもよい。
【0026】
一般に、リグニンは由来により、針葉樹リグニン、広葉樹リグニン、草本リグニンに大別され、構成している基本骨格が異なる。一般に、針葉樹リグニンはG型、広葉樹リグニンはG型とS型、草本リグニンはG型、S型およびH型で構成されている。本発明のキシロース−リグニン複合体およびリグニン組成物におけるリグニン部分は、それらのいずれも含み得る。また、クラフトリグニン、リグノスルホン酸、ソーダリグニンも含み得る。クラフトリグニンは、パルプ化法の主流であるクラフト法(水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムなどで高温高圧処理)由来のリグニンであり、構造中にチオエーテル結合などを有している。リグノスルホン酸は亜硫酸法(亜硫酸/亜硫酸水素カルシウムなどで高温高圧処理)由来のリグニンであり、構造中にスルホン酸基を有している。またソーダリグニンはソーダ法(水酸化ナトリウムでの高温高圧処理)由来のリグニンで、構造中に硫黄を含有しない。
【0027】
実施態様の一つにおいては、キシロース−リグニン複合体およびリグニン組成物は、ニトロベンゼンで分解したとき、分解生成物に含まれるデヒドロジバニリンに対するバニリンの比率が1.0〜15である。クラフトパルプなど一般のリグニンは天然リグニンと比べて、ニトロベンゼン酸化を行うと、分解生成物に含まれるジヒドロバニリンの比率が多い。これは、クラフト処理などの厳しい条件で処理を行うことにより、リグニン分子内の主な結合であるβ-O-4結合が分子内で変質することが原因である。一方、バニリンの比率が高い場合は分子内の変質が少なく、誘導体化が効率的に行われると考えられる。従って、分解生成物に含まれるデヒドロジバニリンに対するバニリンの比率が1.0〜15の範囲である場合、誘導体化が適切に進んでいるため好ましい。
【0028】
本発明により得られるリグニン組成物には、キシロース、グルコース、アラビノース、ガラクトース、マンノースなどの糖類が結合している複合体が含まれる。そのため酸加水分解したとき、リグニン組成物固形分(絶乾質量)あたりのキシロース含量は、例えば5質量%以上である。15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。リグニン組成物のキシロースの含量が、固形分中15質量%以上であるとリグニン組成物の溶液中での溶解性が高まる。リグニン組成物はまた、酸加水分解したとき、グルコース含量が0.2〜20質量%、アラビノース含量が0.2〜20質量%、ガラクトース含量が0.7〜15質量%、マンノース含量が0.1〜10質量%のいずれかを満たすものであってもよい。キシロースの含量が一定以上になると、キシロース−リグイン複合体およびリグニン組成物は、水溶性樹脂と混合することなく単独でも膜を形成することが容易となる。従来のアルカリリグニン、有機溶剤に可溶なリグニン、およびリグニンスルホン酸は、単独では膜形成が困難である。
【0029】
リグニン組成物はまた、酸加水分解したときのキシロースのリグニンに対する質量比(キシロース質量/リグニン質量)が0.7以上であることが好ましい。0.9以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。キシロースのリグニンに対する質量比が高いと、水溶性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール等)との相溶性が高まり、膜形成が容易になる。
【0030】
リグニン組成物の酸加水分解は、複合体を形成する糖類が単糖に分解される酸性条件で適宜行うことができる。酸加水分解というときは、特に記載した場合を除き、リグニン組成物に硫酸を添加して一定時間反応させた後、水を添加して、高温で一定時間さらに反応させることを指す。より詳細な条件は、本明細書の実施例の項を参照することができる。得られた酸加水分解液中の糖の種類および濃度は、従来法、例えばイオンクロマトグラフィにより、分析・定量できる。
【0031】
本発明により得られるリグニン組成物に含有される成分の平均分子量は、典型的には、40,000〜100,000、例えば50,000〜90,000である。リグニン組成物中の成分の平均分子量は、高分子物質の分子量および分子量部分布を測定するための種々の方法で測定することができる。リグニン組成物について平均分子量というときは、特に記載した場合を除き、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ、Gel permeation chromatography)により測定した平均分子量をいう。
【0032】
本発明により得られたリグニン組成物はまた、紫外線吸収能を有する。リグニン組成物の2質量%の水溶液30質量部と、ポリビニルアルコールの2質量%の水溶液100質量部とを混合液したとき、混合液の波長280nmにおける光線透過率は、10%以下である。好ましくは8.0%以下であり、より好ましくは4.0%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下(例えば、0.0%)である。なお、光線透過率というとき、特に記載した場合を除き、上述のように特定の濃度のリグニン組成物水溶液とポリビニルアルコール水溶液との混合液の、波長280nmの光線の透過率をいう。このとき用いるポリビニルアルコールは特に限定されないが、好ましくは重合度1500または重合度3500の、完全けん化型または部分けん化型を用いる。
【0033】
本発明により得られたリグニン組成物はまた、水溶性であり、水溶性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール)との相溶性に優れる。リグニン組成物の2質量%の水溶液は、ポリビニルアルコールの2質量%の水溶液100質量部に混合し、沈殿のない溶液を得ることができる。混合比率は、沈殿が生じない限り特に限定されない。本発明者らの検討によると、ポリビニルアルコールの2質量%の水溶液100質量部に対し、リグニン組成物の2質量%の水溶液を30質量部まで、場合により50質量部まで、沈殿が認められることなく混合可能である。
【0034】
なおリグニン組成物に関し、水溶性というときは、特に記載した場合を除き、次の(1)および(2)を満たすことをいう。(1)少なくとも2質量%の水溶液(20℃)が得られること、(2)かつリグニン組成物の2質量%の水溶液の少なくとも1質量部が、ポリビニルアルコールの2質量%の水溶液100質量部に沈殿が認められることなく混合できること。このとき用いるポリビニルアルコールは特に限定されないが、好ましくは重合度1500または重合度3500の、完全けん化型または部分けん化型を用いる。
【0035】
<リグニン組成物の利用>
本発明により得られるリグニン組成物は、紫外線吸収能を有するので、紫外線吸収剤として利用することができる。また本発明により得られたリグニン組成物は水溶性であるので、水溶性樹脂に添加することができる。リグニン組成物を樹脂製品(フィルム、成形品)に含有させることにより、紫外線吸収機能を有する樹脂製品(フィルム、成形品)を製造することが可能となる。本発明により得られるフィルムは、水溶性であることから、薬品の包装材料として使用した場合は、包装ごと、薬品に直接触れることなく、水系溶媒へ投入することができる。このような薬品の例として、セメントやパルプが挙げられる。
【0036】
プラスチック材料のひとつである熱硬化性樹脂は、従来から、各種電気分野、自動車分野等の幅広い分野で使用されている。熱硬化性樹脂にリグニン組成物を添加することにより、成形品やフィルムの機械的強度、耐熱性、電気絶縁性等のさらなる向上が期待できる。例えば、粉状のリグニン組成物をフィラーとしてフェノール樹脂と組み合わせてミキシングロールで成形材料を作製し、そして成形材料を、170℃で15分のトランスファ成形により成形を行い、リグニン組成物添加成形品を得ることができる。
【0037】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
[リグニン組成物の調製]
チップ状のユーカリ・グロブラスの林地残材(樹皮70%、枝葉30%)を20mmの丸孔スクリーンを取り付けた一軸破砕機(西邦機工社製、SC−15)で破砕し原料として用いた。
上記原料100kg(絶乾質量)に対して97質量%亜硫酸ナトリウム20kgおよび水酸化ナトリウム1kgを添加後、水を添加し水溶液の容量を1m
3に調整した。前記原料懸濁液を混合後、170℃で1時間加熱した。加熱処理後の原料懸濁液を分子量12000〜16000分画の透析チューブ(透析用セルロースチューブ(UC24−32−100,size24/32)三光純薬株式会社)で、透析液を水とし、25℃にて1週間、透析した。透析後のチューブ内の水溶液を凍結乾燥し、茶色のフィルムの細片様のリグニン組成物を得た。
【0039】
得られたリグニン組成物のリグニン含量、糖含量を下記の方法で測定した。その結果、リグニン組成物(絶乾質量)あたり、リグニン33.7質量%、グルコース2.4質量%、キシロース43.2質量%、アラビノース2.1質量%、ガラクトース7.8質量%、マンノース1.0質量%であった。また、リグニン組成物の平均分子量は、71000(WATER製GPC(Shodex製SB−803HQ,SB802.5HQカラム、溶離液 200mM NaCl、0.6mL/min)で測定)であった。
【0040】
[リグニン組成物のリグニン含量の測定]
リグニンスルホン酸を標準試薬として検量線を作成し、リグニン組成物に含まれるリグニン含量を測定した。
【0041】
[リグニン組成物の糖分析]
リグニン組成物0.2gに72質量%硫酸6mlを添加して20℃、2時間で反応させた。反応後、水224mlを添加し、120℃で60分間反応させた。得られた反応液中の糖濃度(グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース)をダイオネクス社製イオンクロマト(使用カラムPA1(2 x 250mm)、水100% 0.25ml/min)で定量した。
【0042】
[ポリビニルアルコール水溶液の調製]
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」という。)は、重合度3500の部分けん化型(poly(vinyl alcohol)3500 partially Hydrolyzed 和光純薬工業。86〜90mol%、以下、「重合度3500」という。)を使用した。前記PVAを、よく攪拌しながら常温にて水にゆっくりと加え、ある程度水が浸透した後、95℃までゆっくりと昇温し、30〜60分維持した。その後、よく攪拌しながら室温まで冷却し、PVA水溶液を調製した。
【0043】
[リグニン組成物とPVAとの混合液の調製]
2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%のリグニン組成物1質量部を添加後、混合し、リグニン組成物−PVA混合液を調製した。
【0044】
[リグニン組成物−PVA混合液の吸収スペクトル、光線透過率の測定]
リグニン組成物−PVA混合液を石英セル(光路長10 mm:縦10 mm ×横10 mm ×高さ45 mm)に添加し、分光光度計(島津製作所UV−2450、波長280nm)で吸収スペクトルおよび光線透過率を測定した。尚、比較例については、PVAのみを含む溶液(2質量%水溶液)の光線透過率を前記と同様の方法で測定した。
【0045】
[溶解性の評価]
リグニン組成物−PVA混合液の状態を肉眼で観察し、溶解性について下記の基準で評価した。
○:沈殿が認められず透明であった。
×:沈殿が認められた。
【0046】
リグニン組成物の糖含量、リグニン組成物とPVA混合液の光線透過率、及び溶解性の評価結果を表1に示す。またリグニン組成物とPVA混合液の吸収スペクトルを
図1に示す。
【0047】
[実施例2]
実施例1において、2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物2質量部を添加した以外は、全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例3]
実施例1において、2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物5質量部を添加した以外は、全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例4]
実施例1において、2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物10質量部を添加した以外は、全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0050】
[実施例5]
実施例1において、2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物20質量部を添加した以外は、全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例6]
実施例1において、2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物30質量部を添加した以外は、全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
実施例1において、リグニン組成物を添加しない試験を実施した。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
チップ状のユーカリ・グロブラスを20mmの丸孔スクリーンを取り付けた一軸破砕機(西邦機工社製、SC−15)で破砕し原料として用いた。
上記原料100kg(絶乾質量)に対して水を添加し水溶液の容量を0.5m
3に調整した。前記原料懸濁液を混合後、170℃で2時間加熱した。得られた固形分を179℃で3回爆砕処理を行ったのち、レファイナー処理により磨砕した。磨砕した固形分を2質量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、ろ過により回収し、リグニン組成物とした。実施例1と同様の方法で該リグニン組成物のリグニン含量、糖含量を測定した。リグニン組成物のリグニン含量、糖含量は、リグニン16.6質量%、グルコース72.1質量%、キシロース4.6質量%、アラビノース0質量%、ガラクトース0.2質量%、マンノース0.6質量%であった。
実施例1と同様の方法で、2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物1質量部を添加後、混合し、混合液の光線透過率を測定した。また、混合液の溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例3]
比較例2において、2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物30質量部を添加した以外は、全て比較例2と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例7]
実施例1において、2質量%PVA(重合度3500)の代わりに、2質量%PVA(重合度1500、polyvinyl alcohol(完全けん化型) 和光純薬工業)を用いた以外は、全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例8]
実施例2において、2質量%PVA(重合度3500)の代わりに2質量%PVA(重合度1500)を用いた以外は、全て実施例2と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例9]
実施例3において、2質量%PVA(重合度3500)の代わりに2質量%PVA(重合度1500)を用いた以外は、全て実施例3と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例10]
実施例4において、2質量%PVA(重合度3500)の代わりに2質量%PVA(重合度1500)を用いた以外は、全て実施例4と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例11]
実施例5において、2質量%PVA(重合度3500)の代わりに2質量%PVA(重合度1500)を用いた以外は、全て実施例5と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例12]
実施例6において、2質量%PVA(重合度3500)の代わりに2質量%PVA(重合度1500)を用いた以外は、全て実施例6と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例4]
実施例7において、リグニン組成物を添加しない試験を実施した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、PVAに対するリグニン組成物の添加率が高い程、光線透過率が低下した。リグノセルロースの前処理液から得られたリグニン組成物は、PVA(水溶性樹脂)と相溶性が高く、紫外線防止効果を有するフィルムの素材として適していることが判明した。
【0064】
[実施例13]
[フィルムの調製]
実施例1で調製したリグニン組成物を用いて下記の方法でフィルムを作製した。2質量%PVA(重合度3500)100質量部に対して2質量%リグニン組成物30質量部を添加後、混合して混合液を得た。混合液を80℃で4時間キャストし、フィルム(厚さ40μm)を作製した。問題なくフィルムが作製できた。なお、リグニン組成物の添加量は、280nmにおける光線透過率が1%程度以下であること、およびフィルム作製上どの程度まで濃度が上げられるかを確認しながら決定した。本発明者らの検討によると、添加量30質量%までは、ひび割れなくフィルム化できることが確認できており、また50質量%程度までは添加可能であると考えられた。