(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
板状部とこの板状部の少なくとも片面から隆起した突起部を有し、前記板状部及び前記突起部が、強化繊維と、この強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化射出成形品において、
前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であり、
前記強化繊維が、前記マトリックス樹脂に埋設されるとともに、前記板状部の内部に配置された第1コア部と、この第1コア部から前記突起部の突出方向に分岐して前記突起部の内部に配置され、前記突起部の厚み方向の断面において前記突起部が突出する方向に延びた第2コア部とを有する連続繊維からなり、前記連続繊維が、前記板状部から前記突起部に亘って蛇行形状に連続して配設される繊維強化射出成形品。
前記強化繊維が、前記板状部の全域にわたるように埋設された第1層コアと、この第1層コアに重ねられた第2層コアとからなり、前記第2層コアが前記第2コア部を有し、この第2コア部以外の前記第2層コアの部位及び前記第1層コアが前記第1コア部を形成している請求項1に記載の繊維強化射出成形品。
板状部とこの板状部の少なくとも片面から隆起した突起部を有し、前記板状部及び前記突起部が、強化繊維と、この強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化射出成形品の製造方法において、
コア相当部と、このコア相当部の周囲三方を囲む溝を有する保持シートを準備するシート準備工程と、
束ねられるように纏められた連続繊維の繊維群からなる強化繊維を前記保持シートに蛇行形状に連続した形態に保持させる平面形状保持工程と、
前記コア相当部を、前記保持シートから起こすとともに、起こされた状態に固定化する処理を施こして、立体形状のインサート部材を形成する立体形状保持工程と、
前記インサート部材を成形用の金型内に位置決めしてセットした後、前記板状部及び前記突起部を有し、かつ前記強化繊維が、前記板状部の内部に配置された第1コア部と、この第1コア部から前記突起部の突出方向に分岐して前記突起部の内部に配置され、前記突起部の厚み方向の断面において前記突起部が突出する方向に延びた第2コア部とを有する連続繊維からなり、前記連続繊維が前記板状部から前記突起部に亘って蛇行形状に連続して配設される前記繊維強化射出成形品を成形する成形工程と、
前記金型から前記繊維強化射出成形品を取出す離型工程と、
を備える繊維強化射出成形品の製造方法。
板状部とこの板状部の少なくとも片面から隆起した突起部を有し、前記板状部及び前記突起部が、強化繊維と、この強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化射出成形品の製造方法において、
保持シートとして第1保持シート及び第2保持シートを準備するシート準備工程と、
束ねられるように纏められた連続繊維の繊維群からなる第1強化繊維を前記第1保持シートに蛇行形状に連続した形態に保持させるとともに、束ねられるように纏められた連続繊維の繊維群からなる第2強化繊維を前記第2保持シートに蛇行形状に連続した形態に保持させる平面形状保持工程と、
前記第2強化繊維が保持された前記第2保持シートを第1強化繊維が保持された前記第1保持シートに重ねるとともに、前記第2保持シートのコア相当部を除いて前記第1保持シートと前記第2保持シートとが積み重なった状態に保持する積み重ね工程と、
前記コア相当部を、前記第1保持シートから起こすとともに、起こされた状態に固定化する処理を施こして、立体形状のインサート部材を形成する立体形状保持工程と、
前記インサート部材を成形用の金型内に位置決めしてセットした後、前記板状部及び前記突起部を有し、かつ前記強化繊維が、前記板状部の内部に配置された第1コア部と、この第1コア部から前記突起部の突出方向に分岐して前記突起部の内部に配置され、前記突起部の厚み方向の断面において前記突起部が突出する方向に延びた第2コア部とを有する連続繊維からなり、前記連続繊維が前記板状部から前記突起部に亘って蛇行形状に連続して配設される前記繊維強化射出成形品を成形する成形工程と、
前記金型から前記繊維強化射出成形品を取出す離型工程と、
を備える繊維強化射出成形品の製造方法。
前記保持シート、前記強化繊維を前記保持シートに保持させる保持部材、及び前記コア相当部を起こされた状態に固定化する固定用部材に、前記マトリックス樹脂と同じ熱可塑性樹脂を用いた請求項4または5に記載の繊維強化射出成形品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1の実施の形態について、
図1〜
図4を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は例えば片面(
図1では上面)が開放された容器状をなす繊維強化射出成形品(以下、単に射出成形品と略称する。)1を示している。射出成形品1は、例えば長方形状をなしていて、板状部2と、周壁3と、突起部4とを有する。
【0016】
第1実施形態の場合、板状部2は射出成形品1の底壁をなしている。板状部2は例えば水平状であるが、これに限らず、全体が傾いて斜状となっていてもよく、或いは上向きに湾曲していてもよく、若しくは段差を有していてもよい。なお、射出成形品1は板状部2を縦にした状態で使用することも可能である。
【0017】
周壁3は板状部2の周囲に形成されている。この周壁3は、板状部2からその片側に一体に曲がって、例えば
図1において板状部2から上向きに曲がって板状部2の長手方向と平行に延びた第1周壁部3a及び第2周壁部3bと、板状部2から上向きに曲がるとともに板状部2の長手方向と直交する方向に延びて第1周壁部3a及び第2周壁部3bの端に連続した第3周壁部3c及び第4周壁部3dとを有する。
【0018】
第1実施形態の場合、突起部4は板状部2と一体のリブであり、この突起部4は板状部2の片面例えば
図1において上面から隆起されている。これとともに、突起部4は板状部2の長手方向に延びていて、その両端は、第3周壁部3c及び第4周壁部3dに一体に連続している。この突起部4により射出成形品1の内部が複数に仕切られている。第1実施形態において、突起部4の高さは、周壁3の高さより低いが、周壁3の高さと同じかそれ以上に高くても差し支えない。
【0019】
既述のように板状部2、周壁3、及び突起部4を備える射出成形品1は、
図2に示すように強化繊維5と、この強化繊維5と一体となったマトリックス樹脂8とからなる。
【0020】
強化繊維5は連続繊維からなる。ここに連続繊維とは、一般的に長繊維と称される繊維よりも遥かに長く、マトリックス樹脂8を補強するために強化繊維が配設される補強領域(例えば第1実施形態では板状部2のほぼ全域)に例えば一筆書きの形態、具体例としては蛇行する形態で配列される長さを有する連続した繊維を指している。なお、強化繊維5が配設される補強領域が複数ある場合、強化繊維5は、マトリックス樹脂8の全ての補強領域にわたって一筆書きの形態で配列されていてもよく、或いは、補強領域ごとに一筆書きの形態で夫々配列されていてもよい。
【0021】
このような連続繊維からなる強化繊維5の形態としては、モノフィラメント又はマルチフィラメント或いは紡績により糸となった形態等を挙げることができるが、一方向に引き揃えられた複数例えば数本から数十本の連続繊維が、束ねられるように纏められた繊維群からなるコンポジットファイバーであることが好ましい。
【0022】
強化繊維5には、金属繊維、有機繊維、無機繊維等を単独で使用でき、又は強化繊維5が束状の繊維群である場合、2種以上の繊維を併用することもできる。金属繊維には、例えばアルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン繊維、ボロン繊維等を例示できる。有機繊維には、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリフェニレシスフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等を例示できる。無機繊維には、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイドライド繊維、ガラス繊維、炭素繊維等を例示できる。以下に限定されるものではないが、第1実施形態において強化繊維5としては、比強度、比剛性、及び軽量性に優れるという観点からガラス繊維や炭素繊維、取分け安価で容易に入手可能なポリアクリロニトル系炭素繊維を好適に使用できる。
【0023】
束状に纏められた強化繊維5は、
図2及び
図3に示すように第1コア部5aと、第2コア部5bと、第3コア部5cを有する。
【0024】
強化繊維5の一部からなる第1コア部5aは板状部2の内部に配置されている。これにより、板状部2はその少なくとも一部に第1コア部5aが埋設された第1埋設部をしている。第1コア部5aを板状部2の略全域にわたって配置することは、板状部2の略全体を補強できるだけではなく、この第1コア部5aを射出成形金型のキャビティ内の所定位置に保持する上において好ましい。
【0025】
強化繊維5の一部からなる第2コア部5bは、例えば複数具体例としては
図1に示すように所定間隔を隔てて五個あって、夫々の第2コア部5bが第1コア部5aから突起部4の突出方向に例えば舌片状をなして分岐し、突起部4の表面に露出することなく突起部4の内部に配置されている。これにより、突起部4はその少なくとも一部に第2コア部5bが埋設された第2埋設部をしている。ここで、各第2コア部5bが第1コア部5aから分岐するとは、突起部4の厚み方向の断面において、この突起部4の内側に入り込んだ第2コア部5bが、折り返されるように反転し、突起部4の内部でこの突起部4の厚み方向に積層されて第1コア部5aに再び連続する形態ではなく、
図3に示すように分岐基部のみが第1コア部5aに連続し第2コア部5bの先端がそこで途切れた形態を指している。したがって、この形態では、マトリックス樹脂8の突起部(第2埋設部)4の強度が要求される方向に、第2コア部5bの繊維方向が配列されている。
【0026】
このように配置された第2コア部5bは板状部2から突起部4に亘って連続して存在している。ここで、
図3に示すように第2コア部5bをなす連続繊維の一部は、突起部4の厚み方向の断面において突起部4が突出する方向に延びていることが好ましい。なお、第2コア部5bの先端は、突起部4の先端近傍にまで達していることがより好ましいが、これには制約されず突起部4の高さの少なくとも半分に高さに達しておればよい。
【0027】
板状部2の片側に第1コア部5aから曲がった第3コア部5cは、第1周壁部3a〜第4周壁部3dの表面に露出することなく、第1周壁部3a〜第4周壁部3dの内部に夫々配置されている。これら第1コア部5a、第2コア部5b、及び第3コア部5cは、射出成形品1の各部の厚みの中央部、つまり、板状部2、突起部4、及び第1周壁部3a〜第4周壁部3dの厚み方向の中央部に埋設された状態であることが好ましい。ここで、射出成形品1の各部の厚みの中央部は前記厚みの1/2を占める領域を指している。
【0028】
強化繊維5を埋めてこの強化繊維5により強化されるマトリックス樹脂8は、射出成形された熱可塑性樹脂からなる。
【0029】
熱可塑性樹脂としては、例えばナイロン等のポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレンエチレン樹脂、これらの変成体または混合体を例示することができる。更に、繊維強化射出成形品に要求される特性に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、マトリックス樹脂8は、以下に例示する他の充填材や添加剤を含有していてもよい。例えば、充填材、導電性付与材、結晶核材、紫外線吸収剤、制振剤、抗菌剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、染料、制泡剤等を挙げることができる。
【0030】
次に、
図1〜
図3に示した射出成形品1の製造方法について説明する。
【0031】
まず、強化繊維5を保持する保持シート11(
図4参照)を用意する(シート準備工程)。用意される保持シート11は、布状の織物からなるシートであっても、織られていない形態のシートであってもよい。
【0032】
保持シート11は、前記第2コア部5bより一回り大きい第2コア相当部12と、この第2コア相当部12の周囲三方を囲む例えばコの字形の溝13を有する。隣接した第2コア相当部12は互いに反対向きとなっており、隣接した溝13も同様に反対向きとなっている。更に、保持シート11は、その周部に前記第3コア部5cより一回り大きい第3コア相当部14と、保持シート11の周方向に隣接する第3コア相当部14同士を非連続とする分断溝15を有する。この保持シート11は、マトリックス樹脂8の射出成形において、この樹脂と融合することが可能な樹脂、好ましくはマトリックス樹脂8の樹脂材料と同材料で作られていることが望ましい。
【0033】
次に、保持シート11に連続繊維が束状に纏められた強化繊維5を保持させる(平面形状保持工程)。
図4に例示したように保持シート11は例えば4つの第1保持領域A〜第4保持領域Dを有する。第1保持領域Aに二つの第2コア相当部12が含まれ、第3保持領域Cに三つの第2コア相当部12が含まれている。
図4中符号Eは束状に纏められた強化繊維5をなす連続繊維の始点を示し、
図4中符号Fは同連続繊維の終点を示している。
【0034】
そのため、
図4に示した保持シート11において、連続繊維は、始点Eから始まって第1保持領域Aのほぼ全域に蛇行形状に配設され、第1保持領域Aでの蛇行形状に連続して第2保持領域Bのほぼ全域に蛇行形状に配設され、第2保持領域Bでの蛇行形状に連続して第3保持領域Cのほぼ全域に蛇行形状に配設され、更に、第3保持領域Cでの蛇行形状に連続して第4保持領域Dのほぼ全域に蛇行形状に配設されて終点Fに至っている。したがって、強化繊維5は一筆書きの要領で保持シート11に蛇行形状をなす二次元の配列で配設されている。なお、第1保持領域Aに配設された連続繊維部分を符号G1で示し、第2保持領域Bに配設された連続繊維部分を符号G2で示し、第3保持領域Cに配設された連続繊維部分を符号G3で示し、第4保持領域Dに配設された連続繊維部分を符号G4で示す。
【0035】
第1保持領域Aと第3保持領域Cにおいては、そこに蛇行形状に配設された連続繊維部分G1,G3の各一部、具体的にはこれら連続繊維部分がなした蛇行形状の折り返し部間の直線部位の一端部Gaが、第2コア相当部12に入り込んでいる。前記直線部位は保持シート11の長手方向と直交する方向に延びている。一端部Gaは第2コア部5bを担っている。これとともに、連続繊維は一筆書きの形態で設けられているので、前記一端部Gaは、その三方を溝13で囲まれているにも拘わらず、この溝13で繊維が切断されて途切れることなく第1保持領域A及び第3保持領域Cに配設された連続繊維部分G1,G3に連続している。
【0036】
保持シート11に強化繊維5を保持させる平面形状保持手段として、好ましくはマトリックス樹脂8と同材料で作られた図示しない保持部材を用いることができる。ここでの保持形態は、例えば接着性を有する保持部材を保持シート11に接着させて蛇行形状の連続繊維(強化繊維5)を保持シート11との間に挟んでも、保持部材を糸として、この糸で保持シート11に連続繊維(強化繊維5)を蛇行形状に縫い付けてもよい。或いは、片面に接着層を有する保持シート11を採用し、前記接着層に連続繊維(強化繊維5)を蛇行形状に接着させるとともに、補助的に接着性を有する保持部材を接着層に接着し保持シート11との間に連続繊維(強化繊維5)を挟んで、保持シート11に強化繊維5を保持させてもよい。若しくは、連続繊維(強化繊維5)に接着性を付与させて保持シート11の片面に接着させることによって、保持シート11に強化繊維5を保持させてもよい。これらの例示から明らかなように保持シート11に強化繊維5を二次元形状(平面形状)の配列で保持させるには、様々な形態の平面形状保持手段を採用できる。
【0037】
次に、保持シート11に対して各第2コア相当部12及び各第3コア相当部14を、夫々保持シート11の片面から起きるように折り曲げるとともに、起こされた状態に固定化する処理を施こすことにより、立体形状(三次元形状)のインサート部材を形成する(立体形状保持工程)。
【0038】
この立体形状保持工程において、第2コア相当部12及び各第3コア相当部14を起こされた状態に固定化する立体形状保持手段を例示する。前記コア相当部の少なくとも根元部を固定用部材としての樹脂で固めることを等により可能であり、或いは、前記コア相当部をその厚み方向から挟む状態に、予め成形された固定用部材を配置し、これら固定用部材を保持シート11に接着すること等により可能である。これらの立体形状保持手段において使用される固定用部材は、マトリックス樹脂8と同材料であることが望ましい。
【0039】
この後、射出成形工程を行う。つまり、まず、インサート部材を射出成形用の金型内にセットする。この場合、射出圧力によってインサート部材の三次元形状が損なわれないように、インサート部材の保持部を金型内に設け、この保持部にインサート部材を保持させて、インサート部材を金型に対して位置決めすることがより望ましい。金型にインサート部材を保持させる手段として、保持シートの周部複数個所に外側に一体に延出する延出凸部(図示しない)を設け、これら凸部が有する孔を前記保持部に引っ掛けること等を例示できる。次いで、型締めにより金型間に形成されたキャビティ内に溶融されたマトリックス樹脂を充填して、板状部2及び突起部4を有する射出成形品1を射出成形した後、金型を冷却する。
【0040】
最後に、金型を開いて、射出成形により形成された射出成形品1を金型から取出す(成形品離型工程)。
【0041】
以上の各工程により
図1に示す射出成形品1を製造できる。この製造において、保持シート11、保持部材、固定用部材の夫々がマトリックス樹脂8と同材料である場合、前記保持シート11、保持部材、固定用部材はマトリックス樹脂8と融合する。このため、保持シート11、保持部材、固定用部材は、剥離の原因となる界面をマトリックス樹脂8との間で形成することなく、マトリックス樹脂8として機能でき強化繊維5に接合しこの強化繊維5と一体となる。
【0042】
以上説明した製造方法によれば、射出成形品1の板状部2内に埋め込まれた強化繊維5の第1コア部5aに一体に連続しかつ分岐された第2コア部5bが、射出成形品1が有する突起部4の内部にまで延在して埋め込まれた射出成形品1を製造できる。起こされた第2コア部5bの根元は、この第2コア部5bの突出方向に対して曲がっていて板状部2内に位置している。なお、既述のように射出成形品1の製造においては、第1コア部5aに対して第2コア部5bが起こされた状態が維持されるように保持された条件下で射出成形を行われる。そのため、第2コア部5bが突起部4の幅方向中央部に正しく配置された射出成形品1を得ることができる。
【0043】
そして、製造された射出成形品1の形を造っている熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂8は、束ねられるように纏められるとともに一筆書きの形態でマトリックス樹脂8内に埋設された連続繊維からなる強化繊維5で強化されている。具体的には、射出成形品1の板状部2はその内部に配置された強化繊維5の第1コア部5aで強化され、射出成形品1が有する突起部4は、第1コア部5aから突起部4の突出方向に分岐して突起部4の内部に配置された強化繊維5の第2コア部5bで強化されている。
【0044】
ここで、第1コア部5aと第2コア部5bは途切れることなく連続した繊維であるから、強化繊維5の一部からなる第2コア部5bは、板状部2から突起部4に亘って連続して存在している。それにより、突起部4がその厚み方向に補強されてこの突起部4の強度及び剛性が高められる。更に、第1コア部5aと第2コア部5bは、束ねられるように纏められた連続繊維からなる強化繊維5で形成されているため、突起部4の強度及び剛性をより高める上で有効であり、また、既述のように保持シート11に強化繊維5を保持させる際の取り扱いが容易である。
【0045】
加えて、
図3に示すように第2コア部5bが突起部4の厚み方向の断面において突起部4が突出する方向に延びている。言い換えれば、前記直線部位の一端部Gaによって形成されて突起部4に入り込んだ第2コア部5bの繊維が、突起部4の厚み方向の断面において延びる方向(繊維方向)が突起部4の突出方向と同じである。これにより、突起部4の強度及び剛性をより高めることができ、それに伴い射出成形品1全体の強度及び剛性を向上できる。更に、強化繊維5が炭素繊維である場合には、射出成形品1の軽量化も図ることができる。
【0046】
更に、強化繊維5の一部からなる第2コア部5bは、第1コア部5aから突起部4の突出方向に単に分岐されているだけで、折り返されて積層された構成ではない。このため、板状部2の片側に隆起した突起部4に、所望とする強度及び剛性を与えつつ、この突起部4を薄肉にすることができる。
【0047】
図5及び
図6を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。第2実施形態で、以下説明する事項以外は第1実施形態と同じであるので、第1実施形態と同一の構成又は同様の機能を奏する構成については、第1実施形態の対応構成と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0048】
第2実施形態において、突起部4内に配置された第2コア部5bは、単一であって、射出成形品1の長手方向に延びている。
【0049】
更に、第2実施形態の射出成形品1の製造における立体形状保持工程では、第1コア部5aから起こされた第2コア部5b及び溝の跡が細長い孔11a(
図5中二点鎖線参照)が保持シートに形成される。この細長い孔11aを原因として、第1コア部5aが内部に配置された板状部2の強度及び剛性が低下することが考えられる。これを改善するために、第2実施形態では、突起部4の突出方向と反対側から第1コア部5aに接する補助強化繊維6を第1コア部5aの内部に配置させて、この補助強化繊維6によって前記細長い孔11aを閉じている。
【0050】
補助強化繊維6は、強化繊維5に一体に連続していてもよく、或いは強化繊維5とは別に用意された他の連続繊維であってもよい。この補助強化繊維6は、強化繊維5と同様に束ねられるように纏められた繊維群からなるとともに、例えばガラス繊維や炭素繊維からなることが好ましい。
【0051】
第2実施形態の射出成形品1の製造での平面形状保持工程においては、保持シートの一面(片面)に強化繊維5が保持され、他面(前記片面と反対側の面)に補助強化繊維6が保持される。この場合、補助強化繊維6は、第2コア部5bよりも一回り大きいコの字形の溝の周りだけについて保持シートに保持させることにより、第2コア部5bを起こすことを可能とする。
【0052】
なお、補助強化繊維6は保持シートの他面の略ほぼ全域にわたって設けることで、射出成形品1において補助強化繊維6が第1コア部5aのほぼ全域において積層されるようにしてもよい。更に、補助強化繊維6が蛇行形状である場合、その折り返し部間の直線部位が延びる方向(繊維方向)は、細長い孔11aの長手方向であっても、又はこの長手方向に直交する方向であっても差し支えない。
【0053】
以上説明した事項以外は第1実施形態と同じである。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態で説明した理由によって、強度及び剛性が高く、かつ、薄肉化に適するリブとしての突起部4を有する射出成形品1を提供できる。更に、第2実施形態では、第2コア部5bの根元部が長いので、突起部4の強度及び剛性を更に高めることが可能であるとともに、補助強化繊維6が第1コア部5aのほぼ全域において積層された形態の場合は、補助強化繊維6により板状部2の強度及び剛性を更に高めることが可能である。
【0054】
図7及び
図8を参照して本発明の第3の実施の形態を説明する。第3実施形態で、以下説明する事項以外は第2実施形態と同じであるので、第2実施形態と同一の構成又は同様の機能を奏する構成については、第2実施形態の対応構成と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0055】
第3実施形態では、突起部4がリブではなく円筒形のボスとして実施されている。ボスをなした突起部4の内部、つまり、突起部4をなす円筒形の壁に、第1コア部5aから突起部4の突出方向に分岐された複数例えば四つの第2コア部5bが入り込んで配置されている。
【0056】
第3実施形態の射出成形品1の製造における立体形状保持工程では、第1コア部5aから起こされた第2コア部5b及び溝の跡が例えば四角い孔11a(
図7中二点鎖線参照)となって保持シートに複数形成される。これらの四角い孔11aを原因として、第1コア部5aが内部に配置された板状部2の強度及び剛性が低下する。これを改善するために、第3実施形態では、突起部4の突出方向と反対側から第1コア部5aに接する補助強化繊維6が第1コア部5aの内部に配置され、この補助強化繊維6によって前記四角い孔11aが閉じられている。
【0057】
なお、
図7及び
図8に示すように突起部4の周囲に四角い孔11aが複数形成されるように第2コア部5bを第1コア部5aから分岐させたが、突起部4からなるボスの高さが低い場合、円筒形をなした突起部4の内部空間に対向するように位置された複数の第2コア部を、第1コア部5aから分岐させて突起部4に埋設させることも可能である。
【0058】
補助強化繊維6は、強化繊維5に一体に連続していてもよく、或いは強化繊維5とは別に用意された他の連続繊維であってもよい。この補助強化繊維6は、強化繊維5と同様に束ねられるように纏められた繊維群をなしているとともに、例えば炭素繊維からなることが好ましい。
【0059】
以上説明した事項以外は第2実施形態と同じである。したがって、第3実施形態においても、第2実施形態で説明した理由によって、強度及び剛性が高く、かつ、薄肉化に適するボスとしての突起部4を有する射出成形品1を提供できる。
【0060】
図9〜
図11を参照して本発明の第4の実施の形態を説明する。第4実施形態で、以下説明する事項以外は第1実施形態と同じであるので、第1実施形態と同一の構成又は同様の機能を奏する構成については、第1実施形態の対応構成と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0061】
第4実施形態において、
図11に示す射出成形品(繊維強化射出成形品)1が備える強化繊維5は、板状部2の全域にわたるように埋設された第1層コア5Cと、この第1層コア5Cの少なくとも一面例えば片面に重ねられた第2層コア5Dとで形成された二層構造となっている。第2層コア5Dは、第1層コア5Cに対して分岐するように起こされた第2コア部5bを有する。第4実施形態において第1コア部5aは、第2コア部5b以外の第2層コア5Dの部位(つまり、第1層コア5Cに重なった部位)及び第1層コア5Cにより形成されている。
【0062】
射出成形品1が有する突起部4内に、第1コア部5aから突起部4の突出方向に分岐して配置された第2コア部5bは、単一であって、射出成形品1の長手方向(
図11ではこれが描かれた紙面の表裏方向)に延びている。この第2コア部5bは、板状部2から突起部4に亘って連続して存在し、かつ、突起部4の厚み方向の断面において突起部4が突出する方向に突出している。
【0063】
次に、
図11に示した射出成形品1の製造方法を説明する。
【0064】
まず、シート準備工程で、第1保持シート11Cと第2保持シート11Dを準備する。
【0065】
次に、平面形状保持工程において、
図9(a)に示すように第1保持シート11Cの片面に、その略全域にわたり、束ねられるように纏められた繊維群で形成された連続繊維からなる第1強化繊維5Aを、例えば一筆書きの形態で蛇行状に配設する。ここで、第1保持シート11において、連続繊維は、始点Eから始まって第1保持領域Aのほぼ半分の領域に蛇行形状に配設され、第1保持領域Aでの蛇行形状に連続して第2保持領域Bのほぼ全域に蛇行形状に配設され、第2保持領域Bでの蛇行形状に連続して第1保持領域Aの残りのほぼ半分の領域に蛇行形状に配設され、更に、第1保持領域Aでの蛇行形状に連続して第4保持領域Dのほぼ全域に蛇行形状に配設されて終点Fに至っている。なお、第1保持領域Aに配設された連続繊維部分を符号G1,G3で示し、第2保持領域Bに配設された連続繊維部分を符号G2で示し、第4保持領域Dに配設された連続繊維部分を符号G4で示す。
【0066】
これとともに、平面形状保持工程では、
図9(b)に示すように第2保持シート11Dの片面に、その略全域にわたり、束ねられるように纏められた繊維群で形成された連続繊維からなる第1強化繊維5Bを、例えば一筆書きの形態で蛇行状に配設する。
【0067】
なお、第1保持シート11C及び第2保持シート11Dの材料、第1保持シート11Cに対する第1強化繊維5Aの保持、及び第2保持シート11Dに対する第2強化繊維5Bの保持は、第1実施形態で説明した通りである。また、第1強化繊維5Aは、一筆書きの形態ではなく、複数の第1強化繊維5Aを平行に並べた形態で、第1保持シート11Cの片面の所定領域(例えば略全域)にわたって配設してもよい。同様に、第2強化繊維5Bも、一筆書きの形態ではなく、複数の第2強化繊維5Bを平行に並べた形態で、第2保持シート11Dの片面の所定領域(例えば略全域)にわたって配設してもよい。この場合、全ての第2強化繊維5Bを第2保持シート11Dの長手方向に直交させて設けることができ、それにより、全ての第2強化繊維5Bが第2コア部5bの先端に露出するように配置される。
【0068】
この後、積み重ね工程で、第1保持シート11Cに第2保持シート11Dを重ねる。それにより、
図10に示すように第1強化繊維5Aが、第1保持シート11Cと第2保持シート11Dとで挟まれる。更に、この積み重ね工程では、第1保持シート11Cと第2保持シート11Dとを、例えば縫合や接着等の連結手段により連結して、積み重ね状態を保持する。この場合、第2コア部5bに相当する第2保持シート11Dの一側部からなるコア相当部11Eは、第1保持シート11Cに連結せずに、この第1保持シート11Cから起こすことが可能となるようにする。
【0069】
次に、立体形状保持工程により、
図10中二点鎖線で示すようにコア相当部11Eを第1保持シート11Cから離れる方向に起こすとともに、起された状態に固定化する処理を施して、立体形状のインサート部材を形成する。なお、コア相当部11Eを起された状態に固定化する処理は、第1実施形態で説明した通りである。
【0070】
次の射出成形工程で、インサート部材を射出成型用の金型内に位置決めしてセットし、この状態で金型内に溶融された熱可塑性樹脂を主成分とするマトリックス樹脂8を充填した後、金型を冷却し、射出成形品1を射出成形する。この成形により、強化繊維5が、マトリックス樹脂8に埋設されるとともに、板状部2の内部に配置された第1コア部5aと、この第1コア部5aから突起部4の突出方向に分岐して突起部4の内部に配置された第2コア部5bとを有する連続繊維からなり、第2コア部5bが、板状部2から突起部4に亘って連続して存在し、かつ、突起部4の厚み方向の断面において突起部4が突出する方向に突出している射出成形品1が成形される。
【0071】
最後に、成形品離型工程で、金型から射出成形品1を取出す。
【0072】
以上説明した事項以外は第1実施形態と同じである。したがって、第4実施形態においても、第1実施形態で説明した理由によって、強度及び剛性が高く、かつ、薄肉化に適するボスとしての突起部4を有する射出成形品1を提供できる。
【0073】
本発明は前記各実施形態には制約されない。例えば、繊維強化射出成形品は容器であることには制約されるものではなく、少なくとも板状部2と突起部4を有する構造物であればよく、更に、突起部4は板状部2の両面の夫々に隆起していても差し支えない。また、本発明に係る繊維強化射出成形品は、医療機器のような産業機械や精密機器等の構造部材、自動車、航空機、船舶等などの輸送機器の構造部材、自転車やゴルフ用品等のスポーツ用具の構造部材、及びヘルメットや安全靴の保護カバー等の安全用品の構造部材等、強度及び剛性が必要な部材のすべてに好適に用いることが可能である。更に、本発明において、強化繊維をなす束状に纏められた繊維群を形成する繊維の本数、及び突起部に対する第2コア部の高さ等は、繊維強化射出成形品の仕様に応じて要求される肉厚や強度及び剛性等に適合させて適宜選定されるものである。
【0074】
なお、以上説明した本明細書中の発明の実施の形態には以下の発明が記載されているので、以下に付記する。
【0075】
[1]強化繊維と、この強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化射出成形品において、
前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂であり、
前記強化繊維が、前記マトリックス樹脂に埋設された第1コア部及びこの第1コア部に連続した第2コア部を有する連続繊維からなり、
前記第1コア部が埋設されている前記マトリックス樹脂の第1埋設部に連続しているとともに前記第2コア部が埋設されている前記マトリックス樹脂の第2埋設部の強度が要求される方向に、前記第2コア部の繊維方向が配列されている繊維強化射出成形品。
【0076】
この発明[1]によれば、マトリックス樹脂の第2埋設部の強度及び剛性が高く、第2埋設部が負荷を受けた場合にその損傷を受け難い繊維強化射出成形品を提供できる。
【0077】
[2]板状部とこの板状部の少なくとも片面から隆起した突起部を有し、前記板状部及び前記突起部が、強化繊維と、この強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化射出成形品の製造方法において、
コア相当部と、このコア相当部の周囲三方を囲む溝を有する保持シートを準備するシート準備工程と、
束ねられるように纏められた連続繊維の繊維群からなる強化繊維を前記保持シートに一筆書きの形態に保持させる平面形状保持工程と、
前記コア相当部を、前記保持シートから起こすとともに、起こされた状態に固定化する処理を施こして、立体形状のインサート部材を形成する立体形状保持工程と、
前記インサート部材を射出成形用の金型内に位置決めしてセットし、この状態で前記金型内に溶融された熱可塑性樹脂を主成分とする前記マトリックス樹脂を充填した後、前記金型を冷却して、前記板状部及び前記突起部を有し、かつ前記強化繊維が、前記板状部の内部に配置された第1コア部とこの第1コア部から前記突起部の突出方向に分岐して前記突起部の内部に配置された第2コア部とを有する連続繊維からなり、前記第2コア部が前記板状部から前記突起部に亘って連続して存在し、かつ、前記突起部の厚み方向の断面において前記突起部が突出する方向に延びている繊維強化射出射出品を射出成形する射出成形工程と、
前記金型から前記繊維強化射出成形品を取出す成形品離型工程と、
を備える繊維強化射出成形品の製造方法。
【0078】
[3]板状部とこの板状部の少なくとも片面から隆起した突起部を有し、前記板状部及び前記突起部が、強化繊維と、この強化繊維と一体となったマトリックス樹脂とからなる繊維強化射出成形品の製造方法において、
第1保持シート及び第2保持シートを準備するシート準備工程と、
束ねられるように纏められた連続繊維の繊維群からなる第1強化繊維を前記第1保持シートに保持させるとともに、束ねられるように纏められた連続繊維の繊維群からなる第2強化繊維を前記第2保持シートに保持させる平面形状保持工程と、
前記第2強化繊維が保持された第2保持シートを第1強化繊維が保持された前記第1保持シートに重ねるとともに、前記第2保持シートのコア相当部を除いて前記第1保持シートと前記第2保持シートとが積み重なった状態に保持する積み重ね工程と、
前記コア相当部を、前記保持シートから起こすとともに、起こされた状態に固定化する処理を施こして、立体形状のインサート部材を形成する立体形状保持工程と、
前記インサート部材を射出成形用の金型内に位置決めしてセットし、この状態で前記金型内に溶融された熱可塑性樹脂を主成分とする前記マトリックス樹脂を充填した後、前記金型を冷却して、前記板状部及び前記突起部を有し、かつ前記強化繊維が、前記板状部の内部に配置された第1コア部とこの第1コア部から前記突起部の突出方向に分岐して前記突起部の内部に配置された第2コア部とを有する連続繊維からなり、前記第2コア部が前記板状部から前記突起部に亘って連続して存在し、かつ、前記突起部の厚み方向の断面において前記突起部が突出する方向に延びている繊維強化射出射出品を射出成形する射出成形工程と、
前記金型から前記繊維強化射出成形品を取出す成形品離型工程と、
を備える繊維強化射出成形品の製造方法。
【0079】
これらの発明[2] [3]によれば、強度及び剛性が高く、かつ、薄肉化に適する突起部を有する繊維強化射出成形品を製造できる。
【0080】
[4]前記保持シート、前記強化繊維を前記保持シートに保持させる保持部材、及び前記コア相当部を起こされた状態に固定化する固定用部材に、前記マトリックス樹脂と同じ熱可塑性樹脂を用いた前記[2]又は[3]に記載の繊維強化射出成形品の製造方法。
【0081】
この発明[4]によれば、保持シート、保持部材、及び固定用部材が、マトリックス樹脂をなす熱可塑性樹脂と融合し一体となるので、保持シート、保持部材、及び固定用部材を原因とするマトリックス樹脂の剥離を生じ難い繊維強化射出成形品を製造できる。