(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554859
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】直噴式エンジンの燃焼室構造
(51)【国際特許分類】
F02B 23/06 20060101AFI20190729BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
F02B23/06 L
F02B23/06 T
F02B23/06 Y
F02F3/26 C
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2015-66780(P2015-66780)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-186255(P2016-186255A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年3月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2014年秋季学術講演会前刷り集No.130−14の第13頁で公開。
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】荒戸 景太
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−227650(JP,A)
【文献】
特開昭56−050214(JP,A)
【文献】
特開平04−228821(JP,A)
【文献】
特開2002−276375(JP,A)
【文献】
特開平04−031650(JP,A)
【文献】
特表2013−515198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 23/06
F02F 3/26
F02M 61/14
F02M 61/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの上面に凹設された中心部に略円錐台状の凸部を有するキャビティからなる浅皿型燃焼室と、前記浅皿型燃焼室の上方に同軸で配置されたインジェクタとからなる直噴式エンジンの燃焼室構造において、
前記キャビティの開口径に対する深さの比を20〜25%の範囲にするとともに、該キャビティの開口面積に対する前記凸部の上面積の比を9〜16%の範囲にして、
前記インジェクタの燃料噴射口の延長先を示す線と前記浅皿型燃焼室の中心軸とのなす角が、前記凸部の上面の周縁部から前記キャビティの底部に向かう傾斜角よりも小さくなるように構成し、
前記ピストンが上死点近傍にあるときに、前記インジェクタの前記燃料噴射口の前記延長先が前記凸部の前記上面の前記周縁部となるように構成したことを特徴とする直噴式エンジンの燃焼室構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直噴式エンジンの燃焼室構造に関し、更に詳しくは、良好な燃焼状態を維持しつつ、熱損失を低減することができる直噴式エンジンの燃焼室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力源として用いられているディーゼルエンジンにおいては、地球温暖化や化石燃料の枯渇などの喫緊の課題に対応するため、より一層の燃費改善が求められている。燃費改善のために、ディーゼルエンジンの熱効率を向上するには、熱損失を低減させることが必須である。
【0003】
この熱損失を低減する手法には様々なものがあるが(例えば、特許文献1を参照)、その1つとして、浅皿型燃焼室と広角の噴射角度を有するインジェクタとを組み合わせることで、燃焼室の壁面と火炎の高温ガスとの接触を抑制することが考えられる。
【0004】
しかしながら、通常の浅皿型燃焼室において理論熱効率の向上を図るために圧縮比を高めると、高負荷運転条件下で空気利用率が顕著に低下して、従来のリエントラント型の燃焼室の場合よりも燃焼状態が悪化してしまうとともに、熱損失の低減効果も得られなくなるため、結果として熱効率が低下してしまうという問題があった。
【0005】
上記の問題について、本発明者が鋭意研究を進めたところ、通常の浅皿型燃焼室の構造では、燃焼室中心部の空気を効果的に利用できないため、燃焼室の外周部に燃料噴霧が滞留してしまうことが原因であることを見出した結果、本発明を完成させるに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−15845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な燃焼状態を維持しつつ、熱損失を低減することができる直噴式エンジンの燃焼室構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の直噴式エンジンの燃焼室構造は、ピストンの上面に凹設された中心部に略円錐台状の凸部を有するキャビティからなる浅皿型燃焼室と、前記浅皿型燃焼室の上方に同軸で配置されたインジェクタとからなる直噴式エンジンの燃焼室構造において、前記キャビティの開口径に対する深さの比を20〜25%の範囲にするとともに、該キャビティの開口面積に対する前記凸部の上面積の比を9〜16%の範囲にして、
前記インジェクタの燃料噴射口の延長先を示す線と前記浅皿型燃焼室の中心軸とのなす角が、前記凸部の上面の周縁部から前記キャビティの底部に向かう傾斜角よりも小さくなるように構成し、前記ピストンが上死点近傍にあるときに、前記インジェクタの前記
燃料噴射口の前記延長先が
前記凸部の
前記上面の前記周縁部となるように構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の直噴式エンジンの燃焼室構造によれば、燃焼時において燃焼室中心部の空気の利用が促進されるとともに、燃料噴霧の壁面側での燃焼が抑制されてガスが高温にならないため、良好な燃焼状態を維持しつつ、熱損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態からなる直噴式エンジンの燃焼室構造の半断面図である。
【
図2】本発明の実施形態からなる直噴式エンジンの燃焼室構造と、従来の浅皿型燃焼室の構造とを比較評価したシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態からなる直噴式エンジンの燃焼室構造を示す。
【0012】
この直噴式エンジンの燃焼室構造1(以下、単に「燃焼室構造」と言う。)は、シリンダボア(図示せず)内を往復動するピストン2の上面3の中央部に凹設されたキャビティ4からなる浅皿型燃焼室5と、その浅皿型燃焼室5と同軸の上方に配置されたインジェクタ6とから構成されている。
【0013】
キャビティ4の中心部には、略円錐台状の凸部7が設けられている。また、インジェクタ6の先端部には、燃料を噴射する燃料噴射口8が形成されている。
【0014】
このような燃焼室構造1において、キャビティ4の開口径Dに対する深さHの比(H/D)は20〜25%の範囲になっているとともに、キャビティ4の開口面積Sに対する凸部7の上面積Aの比(A/S)は9〜16%の範囲になっている。
【0015】
また、インジェクタ6の燃料噴射口8は、ピストン2が上死点近傍にあるときには、その噴射先(燃料噴射口8の延長先9)が凸部7の周縁部7aになるように設定されている。なお、ここでいう上死点近傍とは、クランク角が−10〜10°ATDCとなる範囲を指す。
【0016】
このように燃焼室構造1を構成することで、燃料の噴射初期に燃料噴霧が燃焼室中心部の壁面に衝突するので、燃焼室中心部の空気の利用が促進されて、従来の浅皿型燃焼室の構造に比べて燃焼状態を改善することができる。
【0017】
また、燃料噴霧の主要部分が、キャビティ4の表面に沿って発達するので、燃料噴霧の壁面側での燃焼が抑制されてガスが高温にならないため、熱損失を低減することができる。
【0018】
更には、燃焼の後半においても、燃料噴霧によって引き起こされる横方向から見て反時計回りのガスの流動により、燃焼室中心部の空気と燃料噴霧との混合が促進されるので、燃焼の全期間で良好な燃焼状態を維持することができる。
【0019】
このように、本発明の燃焼室構造1によれば、良好な燃焼状態を維持しつつ、熱損失を低減することができるのである。
【実施例】
【0020】
図2は、H/Dが22%かつA/Sが11%である本発明の燃焼室構造(実施例)と、H/Dが19%かつA/Sが0%である従来の浅皿型燃焼室の構造(比較例)とを対象にして、数値流体力学に基づくシミュレーションによる比較評価を行った結果を示す。なお、この比較評価においては、インジェクタ6からの燃焼噴射開始時期を−5°ATDCとしている。
【0021】
図2の評価結果より、実施例では、予混合燃焼が緩慢となり拡散燃焼が活発化していることが分かる。これは、噴射初期から燃料噴霧を壁面に衝突させたこと、及び燃焼後半において横方向から見て反時計回りの流れが形成されて燃焼室中心部の空気と燃料噴霧との混合が促進されたことが原因であると考えられる。
【0022】
また、燃焼が緩慢になることから、燃料騒音を低減する効果も期待できる。
【0023】
更に、実施例では比較例に比べて熱損失が低下していることが分かる。これは、予混合燃焼の減少に伴う筒内のガス温度の低下、及び壁面衝突時の壁面近傍でのガス温度の低下が原因であると考えられる。
【符号の説明】
【0024】
1 燃焼室構造
2 ピストン
3 上面
4 キャビティ
5 浅皿型燃焼室
6 インジェクタ
7 凸部
7a 周縁部
8 燃料噴射口
9 延長先