(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554883
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】旋回座軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/60 20060101AFI20190729BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20190729BHJP
F16H 55/12 20060101ALI20190729BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
F16C33/60
F16C19/38
F16H55/12 Z
F16H55/17 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-80706(P2015-80706)
(22)【出願日】2015年4月10日
(65)【公開番号】特開2016-200213(P2016-200213A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大岩 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】蔵下 義一
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−190291(JP,A)
【文献】
特開2010−190324(JP,A)
【文献】
特開昭62−001940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
F16H 55/12
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成された複数の軌道輪と、この軌道輪の間に転動自在に設けられた転動体とを備え、少なくとも一方の軌道輪が、外周面又は内周面に多数の歯を有する歯車部と、前記歯車部と結合部材によって連結された軌道部とで構成されている旋回座軸受であって、
前記軌道部と前記歯車部とが、それぞれ周方向に関して複数に分割されており、
前記歯車部の分割数が、前記軌道部の分割数よりも多い、旋回座軸受。
【請求項2】
前記軌道部及び前記歯車部が、それぞれ周方向に関して均等に分割されており、前記歯車部の分割数が、前記軌道部の分割数の整数倍である、請求項1に記載の旋回座軸受。
【請求項3】
前記軌道部と前記歯車部とは、それぞれの分割位置が互いに周方向にずらされた状態で連結されている、請求項1又は2に記載の旋回座軸受。
【請求項4】
前記軌道部の分割位置は、その周方向両側に位置する前記歯車部の2つの分割位置の間の中心に配置されている、請求項3に記載の旋回座軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回座軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機のカッターヘッド用軸受や大型建設機械のターンテーブル用軸受等の旋回部に使用される旋回座軸受には、内輪及び外輪と、これらの間に転動可能に設けられた1列又は複数列の転動体とを備えたものが知られている。また、外輪を軌道部と歯車部とに分割したものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の旋回座軸受のうち、特に大型のシールド掘進機に用いられるものは非常に大径となるため、そのままでは陸上を運搬することが困難になる。そのため、内輪及び外輪を周方向の所定位置で複数の分割体に分割し、運搬後に複数の分割体を組み立てることが行われている。また、特許文献1記載の旋回座軸受のように、外輪が軌道部と歯車部とからなる場合、
図5に示すように、外輪112の軌道部131と歯車部132とをそれぞれ同数の分割体131D,132Dに分割し、組み立てるときに軌道部131における分割位置131Eと、歯車部132における分割位置132Eとを周方向にずらして連結することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−190324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の旋回座軸受の軌道輪は、高周波焼き入れ等の熱処理を施すことによって硬度等の性質が調整されるが、この熱処理に伴って変形が生じることがある。例えば、
図6(a)に示すように、歯車部132の歯133を熱処理(ハッチングで示す)すると、歯車部132の分割体132Dの円弧が拡がるように変形する(矢印a参照)。このような変形を修正するため、
図6(b)に示すように、歯133とは反対の歯車部132の内周面132Fを熱処理し、円弧を狭めるように変形させる(矢印b参照)ことも行われているが、これだけでは不十分な場合もある。特に、歯車部132は、相手側の歯車との適切な噛み合いのために高い寸法精度が求められる一方、熱処理後に、硬化された歯133を仕上げ加工することは困難であるため、熱処理による変形はできるだけ小さくすることが望まれる。
【0006】
一般に、熱処理による変形を小さくするには、処理対象となる分割体の大きさを小さくする、すなわち分割数を多くすることが考えられる。しかし、分割数を多くするほど軌道輪の剛性が低下するため、無条件に分割数を多くすることもできない。また、軌道輪における軌道部の分割位置と歯車部の分割位置との周方向の位置が互いに一致してしまうことによっても軌道輪の剛性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、軌道輪の剛性の低下を抑制しながら熱処理に伴う変形を可及的に小さくすることができる旋回座軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の旋回座軸受は、環状に形成された複数の軌道輪と、この軌道輪の間に転動自在に設けられた転動体とを備え、少なくとも一方の軌道輪が、外周面又は内周面に多数の歯を有する歯車部と、前記歯車部と結合部材によって連結された軌道部とで構成されている旋回座軸受であって、前記軌道部と前記歯車部とが、それぞれ周方向に関して複数に分割されており、前記歯車部の分割数が、前記軌道部の分割数よりも多くされている。
【0009】
上記の構成によれば、歯車部の分割数が軌道部の分割数よりも多くされているので、歯車部を構成する各分割体をより小さく形成することができ、熱処理による変形を可及的に小さくすることができる。一方、軌道部は、分割数をより少なくすることができるので、剛性の低下を抑制することができる。したがって、軌道輪全体として、剛性の低下を抑制しながら熱処理に伴う変形を可及的に小さくすることができる。
【0010】
前記軌道部及び前記歯車部が、それぞれ周方向に関して均等に分割されており、前記歯車部の分割数が、前記軌道部の分割数の整数倍であることが好ましい。
このような構成によって、軌道部の分割位置と歯車部の分割位置とを周方向にずらした状態で軌道部と歯車部とを連結する場合に、軌道部の分割位置に対する歯車部の分割位置の関係を、軌道輪の全体にわたって均一にすることができる。
【0011】
前記軌道部と前記歯車部とは、それぞれの分割位置が互いに周方向にずらされた状態で連結されていることが好ましい。
このような構成によって、軌道輪の剛性の低下を抑制することができる。
【0012】
前記軌道部の分割位置は、その周方向両側に位置する前記歯車部の2つの分割位置の間の中心に配置されていることが好ましい。
このような構成によって、軌道部の分割位置と、その周方向両側に位置する歯車部の2つの分割位置との関係を均一にし、軌道輪の剛性の偏り等を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、軌道輪の剛性の低下を抑制しながら熱処理に伴う変形を可及的に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る旋回座軸受を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す旋回座軸受の外輪の分割パターンを示す説明図である。
【
図3】外輪の分割パターンの変形例を示す説明図である。
【
図4】外輪の分割パターンの他の変形例を示す説明図である。
【
図5】従来技術に係る外輪の分割パターンを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の旋回座軸受の実施形態を詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る旋回座軸受を示す断面図である。旋回座軸受10は、軌道輪としての内輪11及び外輪12と、転動体としてのころ13,14,15とを備えている。
図1中のOは、旋回座軸受10の軸心(回転中心)を示す。以下の説明においては、軸心Oに沿った方向を上下方向とする。
【0016】
内輪11は、円環状の第1の内輪部21と、円環状の第2の内輪部22との2部材により構成されている。第1の内輪部21は、軸方向一方側(
図1の上側)に配置され、第2の内輪部22は、軸方向の他方側(
図1の下側)に配置されている。そして、第1の内輪部21の下端面21aと、これに対向する第2の内輪部22の上端面22aとが互いに重ね合わされている。
【0017】
第1の内輪部21には軸方向に貫通する挿通孔21bが形成され、第2の内輪部22の上端面22aには、挿通孔21bに対応する雌ねじ22bが形成されている。そして、挿通孔21bに挿通され、雌ねじ22bに螺合されたボルト(図示省略)によって、第1の内輪部21の上端面に取り付けられる他の部材60(例えば、シールド掘進機のフレーム)が固定される。また、第1の内輪部21と第2の内輪部22とは、互いに重ね合わされた部分において図示しないボルト等の結合部材によって連結されている。
【0018】
第1の内輪部21には、軸心Oに垂直な1つの軌道21A1が形成されている。また、第2の内輪部22には、軸心Oに沿った軌道22B1と、軸心Oに垂直な軌道22A1とが形成されている。各軌道21A1,22A1,22B1上には、それぞれころ13,14,15が配置されている。
【0019】
外輪12は、円環状の第1の外輪部31と、円環状の第2の外輪部32との2部材により構成されている。第1の外輪部31は、軸方向一方側(
図1の下側)に配置され、第2の外輪部32は、軸方向の他方側(
図1の上側)に配置されている。第1の外輪部31の外周側には、軸心Oに垂直な載置面31Cが形成されている。この載置面31C上に、第2の外輪部32の下端面が載置されている。
【0020】
第1の外輪部31には、軸心Oに垂直な2つの軌道31A1,31A2と、軸心Oに沿った1つの軌道31B1とが形成されている。軌道31A1は、第1の内輪部21に形成された軌道21A1に対向して配置され、ころ13の軌道を構成している。軌道31A2及び軌道31B1は、それぞれ第2の内輪部22に形成された軌道22A1及び軌道22B1に対向して配置され、ころ14,15の軌道を構成している。
【0021】
第2の外輪部32は、外周面に多数の歯33を有しており、歯車としての機能を有している。したがって、本実施形態の第2の外輪部32は、本発明における「歯車部」を構成している。以下の説明では、第2の外輪部32のことを歯車部ともいい、この歯車部には、第2の外輪部と同様の符号32を付すことにする。この歯車部32には、軌道は形成されていない。
【0022】
他方、第1の外輪部31は、複数の軌道31A1,31A2,31B1が形成されている。したがって、本実施形態の第1の外輪部31は、本発明の「軌道部」を構成している。以下の説明では、第1の外輪部31のことを軌道部ともいい、この軌道部には、第1の外輪部と同様の符号31を付すことにする。
【0023】
軌道部31には、軸方向に貫通する第1の挿通孔31bが形成されている。また、歯車部32には、第1の挿通孔31bに対応して軸方向に貫通する第2の挿通孔32bが形成されている。そして、第1及び第2の挿通孔31b,32bに挿通されるボルト等(図示省略)によって、第1の外輪部31の下端面に取り付けられる他の部材61(例えば、シールド掘進機のカッターヘッド)が固定される。また、第1の外輪部31と第2の外輪部32とは、互いに重ね合わされた部分において、図示しないボルト等の結合部材によって連結される。
【0024】
図2は、
図1に示す旋回座軸受10の外輪12の分割パターンを示す説明図である。
外輪12の軌道部31は、周方向に関して均等に4分割されている。すなわち、軌道部31は、1/4円弧形状に形成された4個の分割体31Dにより構成されている。
これに対して、外輪12の歯車部32は、周方向に関して均等に8分割されている。すなわち、歯車部32は、1/8円弧形状に形成された8個の分割体32Dにより構成されている。したがって、歯車部32の分割数は、軌道部31の分割数の2倍とされている。
【0025】
軌道部31と歯車部32とは、それぞれの分割位置31E,32Eが周方向にずらされた状態で互いに連結されている。
具体的に、軌道部31の分割位置31Eと、その周方向両側に位置する歯車部32の分割位置32Eとの間隔(角度)cが同一となるように、各分割位置31E,32Eが配置されている。言い換えると、軌道部31の各分割位置31Eは、その周方向両側に位置する歯車部32の2つの分割位置32Eの間の中心に位置している。本実施形態の場合、角度cは、22.5°となる。
【0026】
以上のように本実施形態では、外輪12を構成する軌道部31と歯車部32とが、それぞれ複数の分割体31D,32Dによって構成され、その歯車部32の分割数が軌道部31の分割数よりも多くなっている。そのため、歯車部32の分割体32Dをより小さく形成することができ、軌道部31の分割体31Dをより大きく形成することができる。
【0027】
旋回座軸受10の外輪12及び内輪11は、適宜熱処理が施されることによって硬度等の性質が調整される。
一般に、熱処理対象は、その大きさが小さいほど熱処理の際に加えられる熱量が小さくなるため、その分、変形量も小さくなる。本実施形態では、歯車部32の分割数が多く、各分割体32Dが小さく形成されるため、熱処理による歯車部32(分割体32D)の変形を小さくすることができ、歯33の寸法精度の低下を抑制することができる。
【0028】
これに対して軌道部31は、分割数が少なく、各分割体31Dが大きく形成されるため、軌道部31全体としての剛性の低下が抑制されている。軌道部31には、ころ13,14,15が転動する軌道31A1,31A2,31B1が形成され、ころ13,14,15からの荷重を受ける。したがって、本実施形態のように軌道部31の分割数を少なくして剛性の低下を抑制することは極めて有益である。
【0029】
また、本実施形態では、歯車部32の分割数が、軌道部31の分割数の整数倍にあたる2倍となっているので、軌道部31の分割位置31Eと、その周方向両側の歯車部32の分割位置32Eとの関係(
図2における角度c)を外輪12の周方向全体にわたって均一にすることができる。そのため、外輪12の剛性の偏り等を抑制することができる。
【0030】
図3は、外輪の分割パターンの変形例を示す説明図である。
この変形例では、軌道部31が周方向に関して4分割されているのに対して、歯車部32は、周方向に関して12分割されている。したがって、歯車部32の分割数は、軌道部31の分割数の3倍となっている。
本変形例では、上記実施形態に比べて歯車部32の分割体32Dをより小さく形成することができるので、熱処理の際の変形をより小さくすることができる。
【0031】
図4は、外輪の分割パターンの他の変形例を示す説明図である。
この変形例では、軌道部31が周方向に関して3分割されているのに対して、歯車部32は、周方向に関して6分割されている。したがって、歯車部32の分割数は、軌道部31の分割数の2倍となっている。
本変形例においては、上記実施形態に比べて軌道部31の分割数をより少なくすることができるので、軌道部31の剛性の低下をより抑制することができる。
【0032】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態の旋回座軸受は、3列の円筒ころを備えたものであったが、2列又は4列以上の円筒ころを備えていてもよい。また、旋回座軸受は、転動体として円筒ころを備えたものに限らず、玉や円錐ころ等を備えたものであってもよい。
【0033】
外輪は、1つの軌道部と、1つの歯車部とから構成されていたが、複数の軌道部又は複数の歯車部を備えていてもよい。
旋回座軸受の歯車部は、外輪に限らず内輪に設けられていてもよい。この場合、内輪が軌道部と歯車部とに分割され、それぞれが複数の分割体によって構成される。また、歯車部は、外輪及び内輪の双方に設けられていてもよい。
軌道輪の歯車部は、外周面に限らず内周面に多数の歯を有していてもよい。また、歯車部は、歯だけでなく軌道を有していてもよい。ただし、軌道部は、軌道は形成されているが、歯は形成されていないものとなる。
【0034】
歯車部及び軌道部の分割数は上記実施形態に限定されるものではない。また、歯車部の分割数は、軌道部の分割数の整数倍に限定されるものでもない。また、軌道部及び歯車部は、均等に分割されていなくてもよい。ただし、軌道輪の剛性の均一化や製造の容易性等の観点から、軌道部及び歯車部がそれぞれ均等に分割され、歯車部の分割数が軌道部の分割数の整数倍とされていることがより好ましい。
【符号の説明】
【0035】
10:旋回座軸受、11:内輪(軌道輪)、12:外輪(軌道輪)、13:ころ(転動体)、14:ころ(転動体)、15:ころ(転動体)、31:軌道部、31A1:軌道、31A2:軌道、31B1:軌道、32:歯車部、33:歯