【文献】
Nancy W. STAUFFER,Novel slippery surfaces: Improving steam turbines and ketchup bottles,MIT Energy Initiative,2013年 6月20日,URL,http://mitei.mit.edu/news/novel-slippery-surfaces-improving-steam-turbines-and-ketchup-bottles
【文献】
Austin CARR,MIT's Freaky Non-Stick Coating Keeps Ketchup Flowing,Fast Company,2012年 5月24日,URL,http://www.fastcoexist.com/1679878/mits-freaky-non-stick-coating-keeps-ketchup-flowing
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記構造体上に6mgの純水をのせ30°の傾斜角に傾けたときの滑落速度が、該構造体上に粗面加工をせずに液膜の厚さを同じにしたときの滑落速度と比較して大きい、請求項1〜9の何れかに記載の構造体。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<構造体の表面形態>
図1を参照して、本発明の構造体は、1で示す粗面部を有しており、この粗面部1上に液膜3が形成され、液膜3を形成する液体の種類に応じて、水性物質に対する滑り性や油性物質に対する滑り性が大幅に向上するというものである。
即ち、本発明では、上記の粗面部1の最大高さ粗さRzを0.5〜5.0μmの範囲に設定し、且つ液膜3の厚みが0.1μm以上3.4μm未満の範囲の小さな値に設定されており、この結果、かかる液膜は、粗面1に追随するような凹凸が形成され、この液膜3上を流れる物体に対して優れた滑り性が発現することとなる。
このような液膜3表面の凹凸は、液体の移動により形成される波のような形態とは異なり、一定の位置に存在するものであり、原子間力顕微鏡、白色干渉顕微鏡等により確認することができる。
【0016】
例えば、
図2は、後述する実施例での実験結果を示すものであり、種々の表面粗さを有する粗面或いは平滑面上に形成された液膜について、その厚みと滑落速度との関係を示す図である。
上記の実験結果において、滑落速度は、中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)により形成された液膜3を保持している表面の傾斜角度θを、
図3に示されているように30度に設定し、この状態で水滴(6mg)を自重により落下させたときの速度を示すものであり(詳細な条件は実施例参照)、この速度が大きいほど、水に対する滑り性が大きいことを示す。
尚、液膜の厚みは、液膜形成前後の構造体の重量変化から求めることができる。
【0017】
図2において、曲線Aは、表面がポリプロピレンにより形成されているプラスチックフィルムの表面に粗面処理を行って形成された粗面A上の液膜についての厚みと滑落速度との関係を示し、曲線Bは、粗面処理により形成された粗面B上の液膜についての厚みと滑落速度との関係を示し、曲線Cは、粗面処理により形成された粗面C上の液膜についての厚みと滑落速度との関係を示し、曲線Dは、粗面処理がされず、下地のポリプロピレンの平滑面D上の液膜についての厚みと滑落速度との関係を示す。
各面A〜Dでの最大高さ粗さRz及び二乗平均平方根粗さRqは次のとおりとなっている。
Rq(nm) Rz(μm)
粗面A 134 1.3
粗面B 475 2.5
粗面C 717 5.2
平滑面D 34 0.2
【0018】
図2から理解されるように、本発明にしたがって、Rzが所定の範囲内にある粗面A及びBについて液膜が形成された場合には、液膜の厚みがRz近傍となっている部分に滑落速度の極大ピーク値を有しており、同じ液膜の厚さで平滑面上に液膜を形成した場合には見られなかった滑落性の向上が見られる。また粗面Aではその極大ピーク値が平滑面Dに同じ厚みの液膜を形成した場合よりも高い滑落性を示している。さらに、Rzが本発明で規定する範囲よりも粗くなっている粗面Cに液膜が形成されている場合には、極大ピーク値は消失している。
このように、本発明によれば、Rzが極めて低い領域にある粗面に、厚みがRzに近い値に設定されている極薄の液膜3を形成することにより、優れた滑落性を発現させることができるのである。
【0019】
このような最大高さ粗さRzと液膜の厚みとの設定により達成される高い滑落性の原理は、明確に解明されたわけではないが、本発明者等は、次のように推定している。
【0020】
即ち、所定の表面に形成された液膜上を液状物質が滑り落ちるときには、液−液接触で液状物質が流れ落ちるため、その滑落速度は、固体表面上を流れ落ちる場合に比して速くなるというのが一般的な考えであり、その滑落速度は、クエット流れにより説明される。
このクエット流れでは、
図4に示されているように、所定の基材表面に形成された液膜上を流れる対象物の速度Vは、液膜との摩擦力Fに支配され、そのときの摩擦力Fは、下記式(1)で表される。
F=ηVA/h (1)
式中、ηは液膜の粘度、
Aは接触面積
hは液膜の厚さである。
一方、液滴(対象物)が前述した
図3に示す傾斜角θの傾斜面を滑り落ちるとき、摩擦力Fは、下記式(2)で表される。
F=mgsinθ (2)
式中、mは、液滴の質量
gは、重力加速度
θは、傾斜角である。
従って、このときの滑落速度Vは、下記式(3)で表される。
V=mgsinθ・h/ηA (3)
即ち、式(3)から理解されるように、滑落速度Vは、液膜の厚みに比例するわけである。
【0021】
そこで、
図2の曲線Dを示す
図5を参照すると、平滑面D上に液膜が形成されている場合には、液膜表面の滑落速度は、液膜の厚みhに比例しており、クエット流れにしたがっていることがわかる。
【0022】
ところが、本発明にしたがって、最大高さ粗さRzが所定の範囲内にある粗面A及びBについて液膜が形成された場合には、同じ厚みの液膜を平滑面D上に形成した場合には見られなかった滑落性の向上が見られる。これは、液膜表面に粗面の粗さが反映されたためと推定される。
例えば、液膜の厚さが大きい領域(
図6(b)の領域)では、
図7(b)で示されているように液膜の表面は平滑で、クエット流れに従うが、液膜の厚さが小さくなると液膜表面に粗面の粗さが反映され、
図7(a)で示されているように液膜の表面に凹凸が形成されると推定される。このため,液膜の厚さが小さい領域では、クエット流れとは異なる挙動を示すわけである。
【0023】
また、この液膜の表面に凹凸形状が反映される領域(
図6(a))では、極大ピーク値が存在するが、この極大ピーク値は粗面の最大高さ粗さRzと一致する。即ち、液膜の厚さhが最大高さ粗さRzよりも小さい場合、
図8で示すように、液膜の厚さhが粗面の最大高さ粗さRzよりも小さい凹部Xが存在することにより、粗面の凹凸形状の影響が大きくなり、滑りに対して抵抗となる。液膜の厚さhが小さいほど、その抵抗は大きくなるため、滑落速度も液膜の厚さhの減少に伴って低下したものと推定される。
【0024】
従って、所定の表面粗さを有する粗面A及びB上に液膜を形成した場合には、液膜の厚みhが最大高さ粗さRzとなる部分で滑落速度の極大ピーク値を示し、その近傍部分でも、同じ厚みの液膜を平滑面D上に形成した場合には見られなかった滑落性の向上が見られる。さらに粗面A上に液膜を形成した場合には、平滑面Dに液膜を形成した場合よりも滑落速度が速くなる。
【0025】
ここで、最大高さ粗さRzが粗面Aよりも大きな粗面B(曲線B)では、
図2に示されているように、液膜の極大ピーク値が、厚みhが大きくなる側にシフトしている。即ち、粗面Bでは、Rzが粗面Aよりも大きいため、前述した
図8での凹部Xを埋めるに必要な液膜の厚みhは大きく、このため、凹部Xが埋められる厚みhがRzの部分で極大ピーク値を示す。即ち、粗面Bでは、Rzが粗面Aよりも大きいため、極大ピーク値の位置は、厚みhが大きい側にシフトしたものとなっている。
また、この粗面Bでは、最大高さ粗さRzが大きいため、液膜の表面が粗面Bに追随し難く、液膜の厚みが一定値以上になると、液膜の凸部が自重により平坦化されてしまい、この結果、滑落速度の低下をもたらすこととなる。即ち、粗面Bでは、滑落速度の極大ピーク値は、粗面Aに比して小さな値を示す。
【0026】
これに対して、最大高さ粗さRzが粗面Aばかりか粗面Bよりも大きい粗面C(曲線C)では、液膜の表面が粗面Cに一層追随し難く、液膜の凸部の平坦化が一層顕著となる。従って、このような粗面Cでは、液膜表面の平坦化により滑落速度のさらなる低下をもたらす。即ち、粗面Cでは、滑落速度の極大ピーク値は消失しており、滑落性の向上が発現しなかった。このことは、同じ厚みの液膜を平滑面D上に形成した場合と比較して滑落性を向上させるためには、液膜を形成する粗面の最大高さ粗さRzが、所定の範囲よりも小さい領域になければならないことを示している。
【0027】
かくして、本発明によれば、
図1に示されているように、液膜3の下地となる表面(粗面)1の最大高さ粗さRzを一定の範囲(0.5〜5.0μm)とし、且つ液膜3の厚みhを0.1μm以上3.4μm未満の範囲に設定することにより、この液膜3の厚みが著しく薄いにもかかわらず、同じ厚みの液膜を平滑面D上に形成した場合に比して、高い滑落性を発現させることが可能となるわけである。
【0028】
また、本発明において、液膜3を保持する粗面は、液膜3による滑落速度を安定に確保するという点で、二乗平均平方根粗さRqが50〜600nmの範囲にあることが好ましい。最大高さ粗さRzが局部的に所定の範囲内あるに過ぎないときには、滑落速度のバラつきが大きくなるからである。
【0029】
さらに、液膜3を保持する粗面では、高さが0.7μm以上の突起が存在していることが好ましく(即ち、最大高さ粗さRzが0.7μm以上である)、特に、このような高さの突起が、平均して30μm以下の間隔で存在していることが、滑落性をより向上させる上で望ましい。このような場合には、液膜3の表面に、粗面が有する凹凸が明確に反映されるからである。
【0030】
<表面構造の形成>
本発明において、上述した構造体の表面構造は、上記のような所定の最大高さ粗さRzの粗面を形成し得る限り、任意の材料の表面に形成されていてよく、例えば、樹脂製表面、金属製表面、ガラス製表面であってもよいが、粗面加工し易いという観点からは、樹脂製表面であることが好ましい。
即ち、金属製表面やガラス表面に粗面加工して前述した最大高さ粗さRzを有するには、アランダム、ホワイトアランダムなどの微細な投射材(メディア)を用いてのブラスト処理やエッチングなどに限定されてしまい、所定の最大粗さを確保することが難しいが、樹脂製表面の場合には、ブラスト処理やエッチングを成形金型の表面に行っての転写により粗面を形成することができるばかりか、これ以外にも、樹脂製表面に、所定の粗面化剤(微細粒子)を適宜の溶剤に分散させた処理液を、スプレー塗装、浸漬、或いはスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布し、乾燥するという手段や、表面を形成する樹脂中にブリーディング性の添加剤などを配合しておくことにより、所定の最大高さ粗さRzを有する粗面を確実に形成することもでき、粗面加工手段として、用途に応じて種々の手法を採用することができるからである。
【0031】
樹脂製表面に粗面加工を施すにあたって外添される粗面化剤としては、平均二次粒径(レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の平均一次粒径)4μm以下の微細粒子、例えば酸化チタン、アルミナ、シリカ等の金属酸化物粒子、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、カーボンブラックなどの炭素系微粒子、ポリメチル(メタ)アクリレートや、ポリエチレン、ポリオルガノシルセスキオキサンに代表されるシリコーン粒子などから成る有機微粒子を使用することができ、これらは、シランカップリング剤やシリコーンオイル等により疎水化処理されていてもよい。即ち、平均粒径が上記範囲よりも大きな粗大粒子を用いた場合には、最大高さ粗さRzが目的とする範囲よりも大きな粗面となってしまい、前述した特異な挙動を示す液膜3を形成することが困難となってしまう。
また、上記のように、疎水化処理されている微細粒子を用いる場合には、油性の液膜3を安定に形成することができ、疎水化処理が施されていない微細粒子を用いる場合には、水性の液膜3を形成するのに適している。
【0032】
また、表面を形成する樹脂中に粗面化用添加剤を内添する場合において、このような添加剤としては、上記と同様の微細粒子を使用することができ、このような添加剤は、表面を形成する樹脂の種類によっても異なるが、一般に塗料の場合、該樹脂100質量部当り0.1〜100質量部、特に0.1〜80質量部の量で配合し、樹脂組成物の場合、該樹脂100質量部当り0.1〜50質量部、特に0.1〜30質量部の量で配合しておくことが、樹脂の成形性を損なわず、前述した最大高さ粗さRzの粗面を確実に形成する上で好適である。
【0033】
上記のように、粗面化剤の微細粒子を樹脂製表面に外添し或いは樹脂中に内添するという手法は、何れも一長一短があり表面に要求される特性に応じて、何れか適当な手段を採用することができる。例えば、粗面化剤を外添する手段では、液膜3を形成する液体の樹脂中への浸透を確実に防止でき、液膜3の厚みを長期にわたって安定に保持することができるが、反面、液膜3を保持している下地の粗面部分(微細粒子の層)が物理的な外力に剥がれ落ちてしまうというトラブルを生じることがある。一方、粗面化剤を内添する方法では、液膜3を保持している粗面部分が脱落するなどの不都合は有効に回避することができるが、反面、液膜3を形成する液体が、下地の樹脂中に浸透し易く、液膜3の厚みの経時的薄膜化を生じることがある。従って、外添及び内添の何れの手法も一長一短があり、用途に応じた要求特性を考慮して、何れかの手段を採用することが好適である。
【0034】
また、前述した粗面1上に形成する液膜3の形成に使用される液体としては、この樹脂構造体(樹脂成形体1)の表面に付与しようとする表面特性に応じて適宜のものが使用されるが、かかる液体は、当然、大気圧下での蒸気圧が小さい不揮発性の液体、例えば沸点が200℃以上の高沸点液体でなければならない。揮発性液体を用いた場合には、容易に揮散して経時と共に消失し、液膜3を形成することが困難となってしまうからである。
【0035】
このような液体の具体例としては、上記のような高沸点液体であることを条件として、種々のものを挙げることができるが、特に表面張力が、滑り性の対象となる物質と大きく異なるものほど、潤滑効果が高く、本発明には好適である。
例えば、表面張力が10乃至40mN/m、特に16乃至35mN/mの範囲にある液体を用いるのが良く、流動パラフィン、フッ素系液体、フッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、脂肪酸トリグリセライド、各種の植物油などが代表的である。植物油としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油などが好適に使用できる。
【0036】
さらに、樹脂製表面を形成する樹脂としては、構造体の用途に応じた形状に成形可能である限り、特に制限されず、任意の樹脂を使用することができるが、容器やキャップ等の包装材に適しているという点で、熱可塑性樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中或いは高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンなどのオレフィン系樹脂や、これらのオレフィン類の共重合樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート等のポリエステル樹脂が好ましい。特に、この構造体を、内容物を絞り出すスクイズ容器として使用する場合には、低密度ポリエチレンや直鎖低密度ポリエチレンに代表されるオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0037】
<構造体の形態>
上述した表面構造を有する本発明の構造体は、そのまま単独で使用することもできるが、通常は、この表面構造を維持したまま、他の材料からなる層が積層された多層構造体として使用することが好ましい。例えば、液膜3を支持する下地粗面を有している表面樹脂層の下側に、その形態に応じて、金属箔やガラス、紙や他の樹脂層を積層することができ、このような積層構造の作成にあたっては、適宜、金属箔や他の樹脂層との接着強度を高めるために適宜の接着剤を用いることもできる。
【0038】
例えば、金属箔としては、通常、アルミ箔が使用され、このようなアルミ箔を用いた形態は、特にパウチの作成に適している。
また、ガラスが積層されている場合は、ガラスの曇り防止など、特に水膜の付着防止の用途に適している。
【0039】
さらに、他の樹脂層を積層する場合には、ボトル、カップ等の容器の形態に適している。例えば、このような他の樹脂層としては、特に中間層として、エチレン・ビニルアルコール共重合体に代表されるガスバリア性樹脂の層や、被酸化性重合体と遷移金属触媒とを含む酸素吸収層、或いは成形時に発生するバリ等のスクラップを含むリグラインド層などが代表的である。
また、このような多層構造にあっては、内面層(樹脂製表面の層)と外面層とを異なる樹脂により形成することも可能であり、例えば、内面を低密度ポリエチレン等のオレフィン系樹脂で形成し、外面をPET等のポリエステル樹脂で形成することも可能である。
【0040】
このような単層或いは多層の構造体は、その形態に応じて、それ自体公知の成形法、キャスト法、Tダイ法、カレンダー法又はインフレーション法などのフィルム成形や、サンドイッチラミネーション、共押出成形、共射出成形、圧縮成形、真空成形等の公知の手段で成形することができる。例えば、容器においては、シート状、パイプ状、試験管状等の形態のプリフォームを成形し、次いで、ブロー成形やプラグアシスト成形などの二次成形を行うことにより成形を行うことができる。
【0041】
上述した本発明の構造体は、液膜3による表面特性を十分に発揮させることができるため、特に、ケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マヨネーズ、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、ヨーグルト、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス等の粘稠な内容物が充填された容器として最も好適である。即ち、内容物の種類に応じて適宜の液により液膜3を形成しておくことにより、容器を傾斜或いは倒立させることにより、これらの内容物が容器内壁に付着することなく、速やかに排出できるからである。
例えば、ケチャップ、各種ソース類、蜂蜜、マヨネーズ、マスタード、ジャム、チョコレートシロップ、ヨーグルト、乳液などは、水分を含む親水性物質であり、液膜3を形成する液体としては、シリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステル、食用油などの食品添加物として認可されている油性液体が好適に使用される。
【実施例】
【0042】
本発明を次の実施例にて説明する。
尚、以下の実施例等で行った各種の特性、物性等の測定方法及び構造体の成形に用いた樹脂等は次の通りである。
【0043】
1.粗面の表面形状測定
後述の方法で作製した粗面が形成されたフィルムにおいて、潤滑液を塗布する前の表面状体を、原子間力顕微鏡(NanoScopeIII、Digital Instruments社製)により測定した。測定条件を下記に示す。
カンチレバー:共振周波数f
0=363〜392kHz
バネ定数k=20〜80N/m
測定モード:タッピングモード
Scanrate:0.250Hz
スキャン範囲:10μmx10μm
スキャンライン数:256
得られた3次元形状のデータから、前記原子間力顕微鏡に付属のソフトウェア(Nanoscope:version5.30r2)を用いて、スキャン範囲の二乗平均平方根粗さRqと最大高さ粗さRzを求めた。二乗平均平方根粗さRqは下記式で与えられる。
【数1】
式中、nはデータポイント数であり、Z(i)は角データポイントのZの値であり、Zaveは全Z値の平均値である。
また最大高さ粗さRzは全データポイントZ(i)の最大値と最小値の差である。さらに上記測定条件でスキャン範囲50μm×50μmを測定し、得られた3次元形状のデータから、10μm×10μm範囲内に0.7μm以上の高さをもつものを突起としたときの突起の数と、該突起の平均突起間隔を求めた。
【0044】
2.滑落速度測定
後述の方法で作製したフィルムから30mm×150mmの試験片を切り出し、固定用治具に測定面(液膜が形成された面)が上になるように貼り付けた。室温下(20〜25℃)にて、この治具を30°の傾斜角に傾け、背後にスケールを設置し、測定面に6mgの純水をのせ、5秒毎に画像を撮影した。得られた画像から移動距離を測定し、算出される速度が一定になったところを滑落速度とした。前記滑落速度の値が大きい程、内容物の滑落性が優れている。
【0045】
粗面A,B,Cを作製するために用いた疎水性シリカを下記に示す。
粗面Aの作製
疎水性シリカA(乾式疎水性シリカ、平均二次粒径 <1μm)
粗面Bの作製
疎水性シリカB(湿式疎水性シリカ、平均二次粒径 2.8μm)
粗面Cの作製
疎水性シリカC(湿式疎水性シリカ、平均二次粒径 8.3μm)
また、液膜の形成には、下記の潤滑液を用いた。
中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)
表面張力:28.8mN/m
粘度(25℃):33.8mPa・s
【0046】
<実施例1>
疎水性シリカA0.5g、エタノール9.5gをバイアル瓶に秤量し、スターラーを用いて30分間撹拌させた。この塗料を、ポリプロピレン多層フィルムのポリプロピレン表面側にバーコーター(#6)を用いて塗布した後、室温にて乾燥させ、粗面Aが形成されたフィルムを作製した。(以下、ポリプロピレンをPPと略すことがある。)
作製したフィルムから150mm×150mmの断片を切り出し、粗面Aが上になるようにスピンコーターの回転台に取り付けた。次いで、潤滑液としてMCTをスピンコーター(5000rpm、60sec)により塗布した。
MCTの塗布前後のフィルムの重量変化から、MCTの塗布量を算出し、疎水性シリカAの吸油量を差引いて、液膜の厚さを求めた。また、作製したフィルムを用いて、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0047】
<実施例2>
スピンコーターによる塗布条件を3500rpm×60secに変更した以外は実施例1と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0048】
<実施例3>
スピンコーターによる塗布条件を3000rpm×60secに変更した以外は実施例1と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
<実施例4>
スピンコーターによる塗布条件を2500rpm×60secに変更した以外は実施例1と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0050】
<実施例5>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカBを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0051】
<実施例6>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカBを用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例7>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカBを用いた以外は実施例3と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0053】
<比較例1>
スピンコーターによる塗布条件を1000rpm×60secに変更した以外は実施例1と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
<比較例2>
スピンコーターによる塗布条件を500rpm×60secに変更した以外は実施例1と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0055】
<比較例3>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカBを用いた以外は実施例4と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0056】
<比較例4>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカBを用いた以外は比較例1と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
<比較例5>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカBを用いた以外は比較例2と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
<比較例6>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカCを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0059】
<比較例7>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカCを用いた以外は実施例2と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0060】
<比較例8>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカCを用いた以外は実施例3と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0061】
<比較例9>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカCを用いた以外は実施例4と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0062】
<比較例10>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカCを用いた以外は比較例1と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
<比較例11>
疎水性シリカAの代わりに疎水性シリカCを用いた以外は比較例2と同様にしてフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例12>
疎水性シリカを用いず、PP系多層フィルムのPP面側に直接MCTをスピンコーター(5000rpm、60sec)により塗布した。MCTの塗布前後のフィルムの重量変化から、MCTの液膜の厚さを求めた。また、作製したフィルムを用いて、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例13>
スピンコーターによる塗布条件を3000rpm×60secに変更した以外は実施例12と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0066】
<比較例14>
スピンコーターによる塗布条件を2000rpm×60secに変更した以外は実施例12と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0067】
<比較例15>
スピンコーターによる塗布条件を1000rpm×60secに変更した以外は実施例12同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
【0068】
<比較例16>
スピンコーターによる塗布条件を500rpm×60secに変更した以外は実施例1と同様にして、MCTの膜が形成されたフィルムを作製し、表面形状測定と滑落速度測定を行った。測定した液膜の厚さと最大高さ粗さRzからそれらの比を算出した。結果を表1に示す。
尚、表1においては、下記の略語を用いた。
Ex:実施例
Com:比較例
P数:突起数
P間隔:突起の平均間隔
【0069】
【表1】
【0070】
測定した液膜の厚さと滑落速度の関係をグラフにしたものを
図2に示す。最大高さ粗さRzが0.5〜5.0μmの範囲にある粗面A及びB上に液膜を作製した場合には、液膜の厚みが0.1μm以上3.4μm未満の範囲にあるとき、滑落速度の極大ピークを有しており、同じ厚みの液膜を平滑面上に形成した場合に比して滑落性が向上していることが判る。
また粗面A及びBでは、滑落速度の極大ピークが存在しているが、Rzが5.0μmよりも大きい粗面Cに液膜が形成されている場合には、このような滑落速度の極大ピークは消失していることが分かる。
以上の結果から、表面を一定レベルの粗面とすることにより、液膜の厚みが著しく薄いにも関わらず、高い滑落性を得られることが分かる。