(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記集塵器で集塵されたダストがセメントクリンカ又は前記仕上工程に添加される前に、当該ダストに対して有害元素の高アルカリ水への不溶化処理をする装置を更に備える請求項4又は5に記載のセメントクリンカの製造装置。
【背景技術】
【0002】
クリンカは、通常、最高温度が2000℃以上の微粉炭等の燃焼ガスを用いて1450℃程度にまで原料をキルンで加熱して製造される。そのために、原燃料として廃棄物を使用しても、有機物は元の分子の性状を残さないCO
2やH
2Oのレベルにまで分解され、無機物の多くはクリンカ中に取り込まれてほとんど無害な状態になる。そのため、近年、大量の廃棄物がセメントの原燃料として利用されるようになっている。
【0003】
キルンの排ガスは通常900℃以上の高温なので、サスペンションプレヒータ(以下SPと略すことがある)を接続して熱回収を行っている。SP排ガスもまだ300〜400℃程度の高温であるため、その熱量は、原料の乾燥や発電ボイラなどに用いられている。その後、排ガスは集塵され、大気に排出される。
【0004】
キルン入口からSP出口までの間のガスの流れは、全体で見れば、原料の流れと向流の関係にある。このため、揮発性の分子を作り易い揮発性元素は濃縮される。濃縮された揮発性元素は、設備内に付着し、大量になると装置の閉塞などの問題が発生する。
【0005】
廃棄物の利用増加に伴って、揮発性の分子を作り易い元素として塩素の量が特に増加している。そのためもあって、塩化物などの揮発性の分子を焼成工程から抜き出す塩素バイパスと呼ばれる装置が最近では普及している。
【0006】
循環して濃縮される元素は、焼成工程内に入った量がクリンカに同伴して出て行きにくい。このため、塩素バイパスから系外に排出しないと、大気に排出されるか、運転が乱れた時などに、クリンカ又は大気等にまとめて排出されることになる。
【0007】
特許文献1には、この大気に排出される特に水銀などの重金属の揮発性元素を低減する方法として、排ガスから捕集したダストをクリンカ粉砕系に投入する方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、特許文献1の改善方法として、350℃以上のSP排ガスを抽気して、水銀等がセメント製造設備内に蓄積するのを防止する方法が示され、この方法により、大気に排出される水銀等を低減可能なことが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
セメント製造業に対して、クリンカの製造時及びセメントの使用時に、環境に排出される有害物質の低減が求められている。
【0011】
本発明は、有害物質が環境に排出されにくいセメントクリンカの製造装置、セメントの製造装置、セメントクリンカの製造方法及びセメントの製造方法を提供することが主な目的である。
【0012】
有害物質の多くは、SP排ガス(指摘しなければ、排ガスはかなりのダストを含む)に濃縮されている。クリンカの製造では、このSP排ガス中の有害物質をダスト側に移動させて捕集し、大気に放出される有害物質を低減している。しかしながら、捕集して原料として再利用しているため、循環している有害元素や有害な有機物からなる有害物質の多くが濃縮され、その結果、捕集しきれずに排出される量が増える。
【0013】
そこで、SP排ガスから捕集したダスト(以下SPダストと略すことがある)を、循環している工程から抜き出して、そのまま仕上工程で使用することもできる。しかし、セメントの使用時に有害元素や有害な有機物が溶出して、環境を汚染するおそれがある。
【0014】
特に、セメントを含む固化材を用いて地盤改良を行うことが近年増えており、従来のいわゆるコンクリート構造体に使うのに比べ、セメントの固化中、固化後の溶出が厳しく管理されるようになり、セメント製造設備で発生するダストを、クリンカやセメントに安易に添加できなくなっている。
【0015】
また、ダストを扱うには相応の装置と手間が必要で、ダストを直接仕上工程などで使わないのなら、ガスの方が扱い易い。しかしながら、ガスから水銀等を回収するには追加の回収装置が必要なため、設備が複雑になる傾向にあった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るセメントクリンカの製造装置は、キルンと、サスペンションプレヒータと、キルンとサスペンションプレヒータとを接続する接続配管と、接続配管に接続されて、キルンのキルン排ガスを抽気する抽気管と、抽気管の下流に接続された冷却器と、
冷却器に接続された冷却空気導入用配管と、冷却器の下流に接続された集塵器と、サスペンションプレヒータより下流の配管に接続されてサスペンションプレヒータの排ガスを抽気する冷却用ガス配管とを備え、冷却用ガス配管から冷却器にガスを供給するように接続されている。
【0017】
本発明に係るセメントクリンカの製造装置は、サスペンションプレヒータは、仮焼炉を有することもあり、集塵器からの排ガスがキルン又は仮焼炉に供給されることが好ましい。
【0018】
本発明に係るセメントクリンカの製造装置では、集塵器で集塵されたダストがセメントクリンカ又は仕上工程に添加されることが好ましい。
【0019】
本発明に係るセメントクリンカの製造装置は、集塵器で集塵されたダストがセメントクリンカ又は仕上工程に添加される前に、当該ダストを水洗する装置を更に備えることが好ましい。
【0020】
本発明に係るセメントクリンカの製造装置は、集塵器で集塵されたダストがセメントクリンカ又は仕上工程に添加される前に、当該ダストに対して有害元素の高アルカリ水への不溶化処理をする装置を更に備えることが好ましい。
【0021】
本発明に係るセメントの製造装置は、本発明に係るセメントクリンカの製造装置を備える。
【0022】
本発明に係るセメントの製造方法は、キルンの排ガスを抽気したガスに、サスペンションプレヒータの排ガスを抽気したガス
と空気を混合する工程と、混合したガスからダストを集塵する工程とを備える。
【0023】
本発明に係るセメントクリンカの製造方法は、水銀又はタリウムのセメントクリンカの製造装置内での循環を低減できる。
【0024】
本発明に係るセメントの製造方法は、本発明に係るセメントクリンカの製造方法により製造したセメントクリンカからセメントを製造する。
【0025】
なお、本発明で有害元素とは、まず、土壌汚染対策法施行令で元素が特定有害物質とされている、カドミウム、水銀、セレン、鉛、砒素、フッ素、ホウ素であり、また、通常の環境で安定した毒性の高い化合物が存在する、クロム、タリウム、リン、アンチモン、ゲルマニウム、スズなどを想定している。
【0026】
この中で、セメントの製造設備内で濃縮され、ダストを取り扱う際に注意を要するのは、カドミウム、水銀、セレン、鉛、フッ素、タリウムであるが、セメント製造設備で多種多様な廃棄物を原燃料としてリサイクルするようになり、他の元素が問題となる可能性は残る。
【0027】
また、本発明で有害な有機物とは、少量でも毒性の高いダイオキシン類を主に想定しているが、油汚染土などをリサイクルするようになり、また、クリンカ製造時の燃焼でも多少発生するので、VOCの様な物が問題になることもある。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、有害元素が環境に排出されるのを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係るクリンカの製造装置は、キルンとSPを有する公知のクリンカの焼成装置に、抽気管と、冷却器と、集塵器と、冷却用ガス配管とを備えることを特徴とする。
【0031】
冷却器は、キルンとSPとを接続する接続配管と抽気管を介して接続され、キルン排ガスが接続管から供給される。更に、冷却器は、SPのガス側の下流の配管と冷却用ガス配管を介して接続され、抽気されたSP排ガスが冷却用ガス配管から供給される。
【0032】
集塵器は、冷却器の排ガスからダストを集塵するように配置される。
【0033】
原料とガスとが向流で熱交換を行う装置では、高温部で原料から蒸発した揮発性分子がガスに乗って低温部に移動し、そこで再び原料側に凝結することがある。このような現象が起こると、揮発性分子は蒸発と凝結とを繰り返し、特定の元素や分子が循環して濃縮される。また、蒸発と凝結という物理現象だけでなく、分解と結合という化学現象が起こっても同様に濃縮される。両者をまとめて、本願では揮発と凝集と呼ぶ。
【0034】
クリンカの製造装置は、キルン入口からSP出口までの間のガスと、原料との流れが向流である。そのため、塩素や硫黄と、ナトリウムやカリウムに代表されるアルカリ金属類が循環して濃縮され、装置の内部に付着して閉塞トラブルを引き起こす。
【0035】
そうならないために、品質上の要求もあって、循環物質を安定的に焼成系外に抜き出す、アルカリバイパスや塩素バイパスと呼ばれる装置が実用化されている。
【0036】
本願発明の抽気管と冷却器と集塵器(以下塩素バイパス集塵器と略すことがある)とを含む装置の部分は、一般に塩素バイパスと呼ばれる装置である。
【0037】
塩素バイパス集塵器で捕集されたダストの分析から、ナトリウム、カリウム、ルビジウムやセシウムといったアルカリ金属類や、塩素や臭素、硫黄やセレン、カドミウムや鉛は、クリンカの製造工程外に安定的に抜き出せていることが分かった。しかし、水銀やタリウムは、塩素バイパスダストでの濃度にバラツキがあり、ある程度の量が大気に排出されていることが分かってきた。
【0038】
バラツキの原因は、新原料中の元素は、キルンに入って溶融し、揮発性の分子を形成するまでは比較的揮発しにくい(このような新原料の揮発率は一次揮発率と呼ばれる)のに対し、一度揮発した揮発性元素は、揮発しやすい分子の形で回収され、原料表面に捕捉されていることが多いため、キルンに入る前のSPで大部分が揮発して(このような循環物の揮発率は二次揮発率と呼ばれる)、塩素バイパスで回収され難いためと考えられる。
【0039】
つまり、水銀やタリウムは、送入原料などから新原燃料として入った時に、キルンで揮発した一部が塩素バイパスに抽気され、それ以外は、ほとんどがSPで揮発するため塩素バイパスに抽気されることが少なく、塩素バイパスダストとして回収され難いのではないかと推測された。
【0040】
そこで、本願発明者は、SPでの二次揮発率が高くSPダストに回収されて循環している元素は、SPダストの集塵装置(以下SP集塵器と略すことがある)とSPとの間を主に循環するため、SP排ガス中に濃縮されていることに気付き、SP排ガスから有害元素を回収すれば、塩素バイパスダストに回収し切れていない有害元素が大気に排出されるのを低減できるのではないかと考えた。
【0041】
また、この場合、既に揮発性元素を効率的に回収している塩素バイパスを利用できれば、効率良く回収できるのではないかと考え、本発明に至った。
【0042】
表1に、例として、実際に運転しているクリンカの製造装置の、クリンカ、塩素バイパスダスト、SPの最上段及び最下段のサイクロンで捕集したSPサイクロン原料、送入原料、及び、SPダストを、XRFで分析した元素の濃度を%で示した。XRFの分析値は、ナトリウムより重い元素の測定値を、ハロゲン以外は酸化物換算して合計が100%になるように正規化する酸化物換算値である。
【0043】
送入原料はクリンカ製造のためにSPに投入される原料で、新しく調合して粉砕した原料に、SPダストのほぼ全量を回収して加えている。
【0044】
【表1】
塩素、セレン、カドミウム、鉛は塩素バイパスダストの濃度が最も高い。これらの元素が、キルンで揮発してSPで凝集する循環で濃縮されていると推測される。そのため、キルン排ガスを接続部から抽気配管を介して抽気することで、これらの元素は塩素バイパスダストに回収できている。
【0045】
それに対し、水銀やタリウムはSPダストの濃度が最も高い。これらの元素は、主に、SPで揮発してSPダストに凝集して捕集され、送入原料に回収されて、再びSPに送入されることで循環して濃縮されていると推測される。つまり、水銀やタリウムのようなSPでの2次揮発率が高く、塩素バイパスだけでの回収が困難な元素は、循環経路であるSP排ガス中での濃度が高い。
【0046】
従って、本発明では、塩素バイパスの冷却用のガスの全量若しくは一部に、SP排ガスを利用するので、SPでの二次揮発率が高く従来の塩素バイパスでは抽気するのが難しい有害元素を、SP排ガスから塩素バイパスの冷却器に導いて、塩素バイパスダストとして回収できる。
【0047】
この時、SP排ガスは冷却される方が好ましく、配管からの放熱が期待できるので、冷却用ガス配管は多少長くなっても良く、SPの最上段のサイクロンを出て直ぐからの抽気も可能である。
【0048】
また、SP排ガスにはかなりのダストが含まれるので、2次揮発率の高い分子はその凝集機構や物理吸着によりダストの微粉に多く含まれることから、サイクロンのような集塵器を用いて粗いダストを除く装置を、冷却用ガス配管の途中に入れて、塩素バイパスダストの量が増えないようにすると、抽気したSP排ガスの冷却にも寄与するので好ましい。
【0049】
本発明に係るクリンカの製造装置では、塩素バイパス集塵器の排ガスには、塩素バイパスダストに凝集しなかった有害物質が含まれるので、塩素バイパス集塵器の排ガスはキルン又はSP内に設置された仮焼炉に供給されることが好ましい。
【0050】
本発明に係るクリンカの製造装置では、塩素バイパスダストをクリンカ又は仕上工程に添加する構成になっても良い。この場合、塩素バイパスダストをクリンカ又は仕上工程に添加する前に水洗装置を更に備えることが好ましい。また、更に、不溶化処理を加えることもできる。
【0051】
水洗によって、塩素バイパスダストに含まれるセメントの品質上好ましくない成分を取り除くことができる。更に、セレン、カドミウム、水銀、タリウム、鉛等の、ほとんどの有害な元素が、微量に含まれるCaS
x(多硫化カルシウム)からと思われる硫黄と硫化物を作って、高アルカリ水にほとんど溶けなくなる。更に、同伴するCaOがCaOH
2となって固化するので、多くの有害物質が固化体に封じ込められる。また、この塩素バイパスダストが固化する時に、キレートやセメント等を加えるといった積極的な不溶化処理を行うと、セメント固化による不溶化と同等の効果を得ることができる。こういった処理をしたダストはクリンカ又は仕上工程に加えても、水を加えてセメントを固化する際の環境への溶出を非常に少なくすることができる。
【0052】
本発明に係るセメントの製造装置は、本発明に係るクリンカの製造装置を備えている。従って、本発明に係るセメント製造装置からの環境に排出される有害物質の低減、及び、本発明に係るセメント製造装置で製造したセメントを使用する時の環境に排出される有害物質を効果的に抑制することができる。
【0053】
本発明に係るクリンカの製造方法は、抽気したキルン排ガスに、抽気したSP排ガスを混合し、混合されたガスからダストを集塵する。この工程で、従来の塩素バイパスでは抜き出すのが困難であった水銀とタリウムも塩素バイパスダストとして回収され、クリンカの製造工程内での循環が低減される。
【0054】
キルン排ガスには、主にキルンで揮発してSPで凝集して循環している揮発性元素が含まれ、その量は大量で、従来の塩素バイパスを用いて焼成系外に排出されている。SP排ガスには、塩素バイパスでは取れにくい、主にSPで揮発してSPダストに捕捉されて再びSPに供給されることで循環している、SPでの2次揮発率の高い元素が多く含まれる。そこで、本発明を使えば、SP排ガスも塩素バイパスに供給することで、SPでの2次揮発率の高い元素、特に水銀とタリウムとを塩素バイパスのダストとして回収できる。
【0055】
従って、クリンカ製造工程での循環量が減り大気に排出される量も低減される。
【0056】
SPの排ガスや、キルンの排ガスとSPの排ガスとが混合されたガスは、揮発している有害元素を凝集させるため、冷却されるのが好ましい。
【0057】
塩素バイパス集塵器はSP排ガス中の揮発性成分を凝集させる目的から、SPの排ガス温度よりも低い温度で運転されるのが好ましい。また、凝集を進める目的で塩素バイパス集塵器の前に、ゼオライトのようなセメントに無害な物理吸着材を添加することもできる。また、意図的に塩素バイパス集塵器の温度を上げて、その出口で水銀やタリウムを回収することもできる。その場合、ガス温度を下げたり、活性炭のような物理吸着材を使うことが可能である。
【0058】
本発明に係るセメントの製造方法では、本発明に係るクリンカの製造方法により製造したクリンカからセメントを製造する。従って、本発明に係るセメント製造方法によれば、セメントの製造装置から環境に排出される有害物質の低減、及び、セメントを使用する時の環境に排出される有害物質を効果的に抑制することができる。
【0059】
以下に、本発明を実施した好ましい形態の例について説明する。下記の実施形態は例示であり、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0060】
図は同じ部分は同じ符号を用いて参照しており、同様の機能を有する他の装置と代替可能である。また、図のブロックは装置を機能的に図示した物で、具体的な実際の寸法や構造とは関係が無い。
【0061】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るクリンカ及びセメントの製造装置の模式図である。
図1及び後述する
図2〜
図4において、実線は原料など固体及びそれに同伴する液体及び気体の流れ、破線はガス及びそれに同伴するダスト等の流れを示している。
【0062】
セメントの製造設備は、原料工程(設備)1と焼成工程(設備)2と仕上工程(設備)3とを備えている。
【0063】
原料工程1では、新原料を調合して粉砕した原料に、SP排ガスG1中に含まれるSP21を飛散した原料が回収されて、送入原料M1が作られる。なお、SP排ガスG1はかなりの熱量を持っているので、新原料の乾燥に利用される。
【0064】
焼成工程2では、送入原料M1は、SP21に投入されて熱交換を行い、接続配管22を通ってキルン23に入り、キルン23で焼成されて、クリンカM2が製造される。
【0065】
なお、今日ではSP21のガス側入口に仮焼炉を設けて燃料を供給するNSP(ニュー・サスペンション・プレヒータ)化して生産量を増やしているのが一般的ある。本発明ではSPとNSPとで本質的な違いが無いので、まとめてSPと表現する。
【0066】
図には示していないが、キルン23を出たクリンカM2は、品質上急冷が必要なので、クリンカクーラーと呼ばれる熱交換器で冷却される。この冷却には空気を主体とするガスが使われ、キルン21の燃料の燃焼に利用さる。また、NSPの場合は仮焼炉の燃料の燃焼にも利用される。キルン23のキルン排ガスG2は接続配管22を通って、仮焼炉の燃焼ガスと共にSP21で、送入原料M1の加熱に利用される。
【0067】
仕上工程3では、クリンカM2に、石膏などが加えられて粉砕され、セメントM3が製造される。
【0068】
本実施形態は、こういったSP23を備える一般的なクリンカ及びセメントの製造装置を対象にしている。
【0069】
セメント製造に、多種多様な廃棄物を原燃料としてリサイクルするのが近年普通になり、特に塩素の量が増加した。塩素は、多くの金属と飽和蒸気圧の高い比較的安定した分子を作るため、キルンで、KClやNaClやCaCl
2を生成し、循環物質が増加する。
【0070】
そのため、装置内での付着物が増加して閉塞トラブルが増え、また、品質上の要求もあって、焼成工程から塩化物などの循環物質を抜き出す塩素バイパスが普及している。
【0071】
本実施形態に係る製造装置は、こういった塩素バイパス4を備える。
【0072】
塩素バイパス4では、キルン排ガスG2の一部を抜き出した塩素バイパス抽気G3を処理する。抜き出しは、抽気管41を接続配管22に接続して抽気することで行い、キルン排ガスG2の0.3〜30%を抽気することが多い。この割合を抽気率と呼ぶ。
【0073】
抽気率は、目的によって0〜100%が可能で、塩化物の循環を減らして運転を安定化したいのなら通常は1%未満で十分であり、原燃料中の塩素が多く、セメントM3の品質上除去したいのなら3%以上抽気して、クリンカM2中の塩素を減らす。
【0074】
塩素バイパス抽気G3は冷却器42に送られ、冷却用空気を混合して冷却される。冷却用空気は、周囲の空気が使われるのが普通であるが、冷却が可能であれば他のガスを混ぜて使うこともできる。
【0075】
キルン排ガスG2には凝集して閉塞を引き起こす成分が大量に含まれているので、それらの揮発性物質が凝集するまでは装置の壁面に接触しないようにする。冷却用ガスを、揮発性成分が固化するまでは装置内壁面を保護するように流し、内壁面に揮発性成分が付着しないようにする。
【0076】
実際の運転では、塩素バイパス抽気G3の揮発性分子はKClとSO
2が主で、共晶による融点の低下や気体が液化する時の凝集熱や脱硫時の反応熱も影響するため、凝集して固化する温度は600℃程度のようである。よって、塩素バイパス抽気G3の最高温度が600℃以下になるまでは、内壁面に接触しないように運転することが好ましい。なお、この時点では、塩素バイパス抽気G3は冷却用のガスとは余り混ざっておらず、管の中心部が高温で周囲が低温の不均一な温度分布になっている。中心部が600℃でこのような温度分布のあるガスを完全に混合すると、シミュレーションなどの結果では300〜400℃であった。
【0077】
冷却器42で冷却された塩素バイパス抽気G3は、塩素バイパス集塵器43に送られて、塩素バイパスダストM4が回収される。塩素バイパス集塵器43の耐熱温度まで冷却器42だけで冷却すると通常は効率が悪い。そのため、冷却器42の排ガスは、図示していない別の熱交換器や、配管による自然冷却若しくは冷却用の空気を吹き込むことで十分冷却されて塩素バイパス集塵器43に供給される。
【0078】
本実施形態は、前記冷却用空気の全量又は一部として、SP排ガスG1を利用するための冷却用ガス配管5が設置される。
【0079】
図1は、冷却用ガス配管5が直接冷却器42に接続するように描いているが、この図に限定されるわけではない。冷却用ガス配管5はSP排ガスG1を冷却器42に供給するように接続されれば良く、例えば冷却用空気を吹き込むファンの入口や、冷却用空気を冷却器42に吹き込む配管、又、抽気管41に接続することができる。
【0080】
SP排ガスG1に含まれる循環物質の総量は、ダストを排ガスから除去しない限り減らない。従って、冷却用ガス配管5は、原料工程の個別の装置でSP排ガスG1に原料が混合されて除去されるまでに、SP排ガスG1をダスト込みで抽気できるように接続されれば良い。なお、抽気するSP排ガスG1の温度は、塩素バイパス排気G4の温度より高ければ、塩素バイパス集塵器43で循環物質の回収が効率的に可能である。
【0081】
冷却用ガス配管5で抽気したSP排ガスG1中のダストは、揮発性分子が物理吸着しているので、含まれていても構わない。しかし、粗く重いダストは細孔も少なく比表面積も狭いため物理吸着を余り期待できないので、塩素バイパスダストG4の量が増え過ぎるなら、除去した方が好ましい。SP排ガスG1中のダストは、SPのサイクロンで捕集できなかった比較的細かく軽いダストが主体であるが、再飛散による粗く重いダストも存在するので、除去にはサイクロンや慣性集塵器や重力沈降室等を利用できる
また、当然のことながら冷却という目的から、冷却用ガス配管5で抽気したSP排ガスG1は冷却される方が好ましい。
【0082】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係るクリンカ及びセメントの製造装置の模式図である。
【0083】
図2は、塩素バイパス排気G4が、キルン23に入るガスと仮焼炉に入るガスとに接続されている点で
図1と異なる。
図2では、塩素バイパスが仮焼炉の2箇所に接続されているが、塩素バイパスが仮焼炉の1カ所のみに接続されていても構わない。
【0084】
キルン23に入るガスは、図には示していないクーラーからキルンに入る又はキルンの主バーナから入るキルン燃料燃焼用のO
2源のガスである。仮焼炉に入るガスは、図には示していないクーラーから仮焼炉に入る又は仮焼炉のバーナから入る仮焼炉燃料燃焼用のO
2源のガスである。塩素バイパス排気G4をクーラーに戻す場合は、熱交換が行われるように戻すと好ましい。
【0085】
塩素バイパスダストG4を回収する高温ガスを処理する塩素バイパス集塵器43は、設備費を抑えるために、集塵器が耐える程度に高温で運転することが多い。バグフィルタだとフィルタの耐熱性から、使用温度の上限は200℃前後で、また、EPやセラミックフィルタでは筐体やファンの耐熱性から、使用温度の上限は350℃程度が目安となる。もちろん装置が高温に耐えるように設計すれば、更に高い温度での運転も可能である。
【0086】
その高温のために、有害な元素の分子は塩素バイパスダストG4に十分吸着されず、塩素バイパス排気G4に逃げ易い。そのため、塩素バイパス排気G4はそのまま大気に排出せずに、もう一度クリンカの生産装置に戻すことで、大気に排出される有害元素を低減できる。
【0087】
(第3の実施形態)
図3は、第3の実施形態に係るクリンカ及びセメントの製造装置の模式図である。
【0088】
図3は、塩素バイパスダストM4が、クリンカM2と仕上げ工程3とに接続されている点が
図1と異なる。
図2では、塩素バイパスが仮焼炉の2箇所に接続されているが、塩素バイパスが仮焼炉の1カ所のみに接続されていても構わない。
【0089】
塩素バイパスダストM4は、少量であればそのままクリンカに添加することが可能である。その際、少量の水が加われば、塩素バイパスダストM4はクリンカM2に固着して、粉と塊とが分離した際に(セグリと呼ばれ、クリンカのハンドリング時に良く起こる)、粉の方にダストが多く行って濃度のバラツキが生じる危険性が減るので好ましい。
【0090】
なお、クリンカへの添加は仕上工程3でも可能で、粉の場合は仕上ミル出口のセパレータの前で行うと、粉砕の邪魔にならず発塵も少ないので効果的である。
【0091】
(第4の実施形態)
図4は、第4の実施形態に係るクリンカ及びセメントの製造装置の模式図である。
【0092】
図4は、塩素バイパスダストM4が、クリンカM2と仕上げ工程3とに接続される前に水洗装置6が入っている点が
図3と異なる。
図2では、塩素バイパスが仮焼炉の2箇所に接続されているが、塩素バイパスが仮焼炉の1カ所のみに接続されていても構わない。
【0093】
塩素バイパスダストM4中に塩化物などセメントの品質上有害な成分が多ければそれらを除去するのが好ましい。その際、塩化物の大部分が水に溶けやすく無害なKClかNaClなので水洗で除去できる。また、水洗の際に有害元素の溶出が抑制される不溶化処理にもなり、セメントから環境に排出される有害物質を低減できるので好ましい。
【0094】
また、水洗装置6に代えて、又は、水洗装置6に加えて、セメントやキレートを加えて固化させるような不溶化処理装置を配置することができる。