(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
排気通路に配置された還元触媒の上流側に上流NOxセンサを、下流側に下流NOxセンサを配置した内燃機関と、前記上流NOxセンサ及び前記下流NOxセンサのそれぞれが接続された車載電子計算機とを搭載した車両の点検中に、前記上流NOxセンサと前記下流NOxセンサとのそれぞれの劣化又は故障を点検するNOxセンサの点検プログラムにおいて、
前記車載電子計算機に通信機を介して接続される車外電子計算機に記憶され、
前記車載電子計算機に、
前記還元触媒に還元剤噴射弁からの還元剤が供給されない状態となってから、前記内燃機関に、排気ガスの温度を予め定められた高温度以上にする高温排気運転をさせる高温排気運転手順と、
排気ガスの流量が低減しない状態となってから、前記内燃機関に、前記内燃機関の回転数を予め定められた高回転数以上にする高流量排気運転をさせる高流量排気運転手順と、を実行させ、
前記車外電子計算機に、
前記内燃機関の回転数が予め定められた判定回転数のときに、前記上流NOxセンサ及び前記下流NOxセンサのそれぞれの検出値を取得させて、
取得させた前記下流NOxセンサの検出値が予め設定された第一判定値未満か否かを判定させ、該下流NOxセンサの検出値が該第一判定値未満のときに、前記上流NOxセンサの検出値が前記下流NOxセンサの検出値により設定される上流判定領域から外れた値であるか否かを判定させ、
前記上流NOxセンサの検出値が前記上流判定領域に収まる値の場合には前記上流NOxセンサが劣化又は故障していると判定させる判定手順を実行させることを特徴とするNOxセンサの点検プログラム。
前記高温排気運転を、前記還元触媒の機能を回復するパージ制御時の運転、及び前記還元触媒の上流に配置された捕集装置の機能を回復する再生制御時の運転のどちらかにした請求項1〜3のいずれか1項に記載のNOxセンサの点検プログラム。
前記判定回転数を、アイドル回転数と、無負荷最高回転数と、該アイドル回転数及び該無負荷最高回転数の間の回転数に設定された少なくとも一つの回転数とのいずれか、又はいくつかの組み合わせにした請求項1〜5のいずれか1項に記載のNOxセンサの点検プログラム。
前記車載電子計算機に、前記還元触媒から前記還元剤を脱離するまでに掛かる第一時間が経過するまで前記高温排気運転を継続させる手順と、前記排気通路から前記還元剤を排出するまでに掛かる第二時間が経過するまで前記高流量排気運転を継続させる手順とを実行させる請求項1〜6のいずれか1項に記載のNOxセンサの点検プログラム。
排気通路に配置された還元触媒の上流側に上流NOxセンサを、下流側に下流NOxセンサを配置した内燃機関と、前記上流NOxセンサ及び前記下流NOxセンサのそれぞれが接続された車載電子計算機とを搭載した車両を点検中に、前記上流NOxセンサと前記下流NOxセンサとのそれぞれの劣化又は故障を点検するNOxセンサの点検方法において、
前記還元触媒に還元剤噴射弁からの還元剤が供給されない状態となってから、前記内燃機関の運転を、排気ガスの温度を予め定められた高温度以上にする高温排気運転をするステップと、
排気ガスの流量が低減しない状態となってから、前記内燃機関の運転を、前記内燃機関の回転数を予め定められた高回転数以上にする高流量排気運転をするステップと、
前記内燃機関の回転数が予め定められた判定回転数のときに、前記上流NOxセンサ及び前記下流NOxセンサのそれぞれの検出値を取得するステップと、
取得した前記下流NOxセンサの検出値が予め設定された第一判定値未満か否かを判定するステップと、
前記下流NOxセンサの検出値が前記第一判定値未満のときに、前記上流NOxセンサの検出値が前記下流NOxセンサの検出値により設定される上流判定領域から外れた値であるか否かを判定するステップと、
前記上流NOxセンサの検出値が前記上流判定領域に収まる値の場合には前記上流NOxセンサが劣化又は故障していると判定するステップと、を含むことを特徴とするNOxセンサの点検方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のNOxセンサの点検プログラム及び車両点検設備、並びにNOxセンサの点検方法について説明する。
図1は、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の配置と、これらのための点検プログラム60の関係を例示している。この点検プログラム60は、車両点検設備50に設けられている車外電子計算機52に記憶され、車両1のエンジン10の排気通路23に配置された上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の劣化を点検するプログラムである。なお、車両点検設備50としては、給油所などのサービスステーションを例示できる。
【0013】
図1に示すように、車両1は車両点検設備50に停車して、点検整備が行われている車両である。
【0014】
この車両1に搭載されたエンジン10では、車両の走行時などにおいて吸気バルブ11からピストン12が往復する筒内13に吸入された吸入空気と、燃料噴射弁14から筒内13に噴射された軽油と、が混合されて燃焼して、排気ガスとなって排気バルブ15から排気されている。
【0015】
吸入空気は、外部から吸気通路16へ吸入されて、ターボチャージャ17のコンプレッサ18により圧縮されて高温になり、インタークーラー19で冷却されている。その後に、吸気スロットル20により流量が調節されて、インテークマニホールド21を経て吸気バルブ11から筒内13に吸入されている。
【0016】
排気ガスは、筒内13から排気バルブ15を経由してエキゾーストマニホールド22から排気通路23へ排気されて、ターボチャージャ17のタービン24を駆動させている。その後に、排気ガス浄化装置30で浄化されて大気へと放出されている。また、排気ガスの一部は、EGR通路25に設けられたEGRクーラー26で冷却された後に、EGRバルブ27により吸気通路16に供給されて吸入空気に混合されている。
【0017】
また、エンジン10は、冷却回路28に設けられたラジエータ29で冷却された冷却水により冷却されている。
【0018】
排気ガス浄化装置30には、酸化触媒31、捕集装置32、尿素水噴射弁33、SCR触媒(還元触媒)34、及びアンモニアスリップ触媒35が上流から下流に向って順に配置されている。
【0019】
排気ガスがこの排気ガス浄化装置30を通過すると、酸化触媒31では、排気ガス中の未燃炭化水素と一酸化炭素とが酸化されると共に、一酸化窒素が酸化されて二酸化窒素が生成される。次いで、捕集装置32では、担持された触媒によって一酸化窒素が酸化されて二酸化窒素が生成されると共に、排気ガス中の微粒子状物質が捕集される。また、この捕集装置32では、捕集した微粒子状物質と二酸化窒素とを反応させることで微粒子状物質が酸化除去される。次いで、SCR触媒34では、酸化触媒31と捕集装置32との酸化反応で温度が上昇した排気ガス中の窒素酸化物が、尿素水噴射弁33から噴射された尿素水の加水分解により生じたアンモニアによる各SCR反応によって還元される。次いで、アンモニアスリップ触媒35では、SCR触媒34を通過したアンモニアが除去される。尿素水噴射弁33から噴射される尿素水は尿素水タンク36に貯蔵されている。その尿素水タンク36に貯蔵された尿素水は、圧送ポンプ37により圧送され、配管を経由して尿素水噴射弁33へ移送されている。
【0020】
また、エンジン10は、エンジン10を制御する車載電子計算機のユニットとして制御
ユニット40を備えている。この制御ユニット40は、燃料噴射弁14を制御して、燃料の噴射量と噴射のタイミングを調節し、エンジン10を所定の運転状態に維持するエンジン制御装置(以下、ECM)41や、排気ガス浄化装置30における尿素水噴射弁33を制御して、尿素水の噴射を調節するDCU42を有している。
【0021】
ECM41は、イグニッションオンセンサ43、水温センサ44、及びエンジン回転数センサ45が接続されており、エンジン10の所定の運転状態の継続時間を計測するタイマー46を備えている。DCU42は、SCR触媒34の上流に配置された上流NOxセンサ47、SCR触媒34の下流に配置された下流NOxセンサ48、及びSCR触媒34の上流に配置された排気温度センサ49が接続されている。なお、このエンジン10に設けられている各センサは一例であり、この構成に限定されない。
【0022】
上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48においては、車両1の走行中に、簡易的に劣化又は故障を判定してもよいが、その走行中の判定は、SCR触媒34におけるアンモニアの残留量をゼロに、すなわちSCR触媒34における還元作用をゼロにはできないために精度が低い。そのため、走行中の判定に従って車両点検設備50で該当のセンサを交換すると、劣化又は故障していないセンサを誤交換してしまうおそれがある。
【0023】
そこで、本発明のNOxセンサの点検プログラム60は、車外電子計算機52に記憶されたプログラムであり、車両1の走行中ではなく、車両1を車両点検設備50で点検する際に、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48のそれぞれの劣化又は故障を判定するように構成される。
【0024】
車外電子計算機52は通信機51によりDCU42に接続されて、相互にデータを送受信可能なコンピュータで構成され、CPU、メモリ、記憶媒体、入力装置、及び出力装置を有している。通信機51としては、光ケーブル、同軸ケーブル、TPケーブル、シリアルケーブル、及びパラレルケーブルなどを例示できる。そして、DCU42に、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48のそれぞれが接続されているので、この車外電子計算機52は、DCM42と通信機51を介して、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48のそれぞれに接続されていることになる。
【0025】
図2に示すように、点検プログラム60は、車外電子計算機52から制御ユニット40に指示をして、ステップS10〜ステップS40を実行させる。つまり、ステップS10で、制御ユニット40のDCU42に尿素水噴射弁33から尿素水の噴射を停止する手順を実行させる。そして、SCR触媒34に尿素水噴射弁33からの尿素水が供給されない状態となってから、ステップS20で、エンジン10に排気ガスの温度Taを予め定められた高温度T1以上にする高温排気運転D1をさせる高温排気運転手順を実行させる。次いで、ステップS30で、ECM41にEGRバルブ27を閉じる手順を実行させる。そして、筒内13からの排気ガスの流量が低減しない状態となってから、ステップS40で、エンジン10にエンジン回転数Naを予め定められた高回転数N6以上にする高流量排気運転D2をさせる高流量排気運転手順を実行させる。
【0026】
次いで、車外電子計算機52から制御ユニット40に指示をして、ステップS50を実行させる。つまり、ステップS50で、ECM41にエンジン回転数Naが予め定められた判定回転数Nxにする手順を実行させる。
【0027】
次いで、車外電子計算機52に指示をして、ステップS60〜ステップS80を実行させる。つまり、ステップS50でエンジン回転数Naが判定回転数Nxになったときに、ステップS60及びステップS70で、車外電子計算機52に上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48のそれぞれの検出値Ca、Cbを取得させて、ステップS80で、
車外電子計算機52で、その検出値Ca、Cbに基づいて上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の劣化を判定させる判定手順を実行させる。
【0028】
SCR触媒34に尿素水噴射弁33からの尿素水が供給されない状態とは、SCR触媒34に新たなアンモニアが吸着されない状態のことである。この状態としては、DCU42により尿素水噴射弁33からの尿素水の噴射を停止した状態の他に、例えば、車両1の点検のために尿素水噴射弁33が取り外された状態、又は、DCU42に接続された電子制御信号線が尿素水噴射弁33から取り外された状態を例示できる。
【0029】
高温排気運転D1は、SCR触媒34に流入する排気ガスの温度Taを、SCR触媒34に吸着したアンモニアを脱離する温度に設定された高温度T1以上にする運転、すなわち、捕集装置32の下流、且つSCR触媒34の上流に配置された排気温度センサ49で取得される温度Taを高温度T1以上にする運転である。この高温排気運転D1としては、例えば、捕集装置32に捕集された粒子状物質を燃焼除去して捕集装置32を再生する再生制御時の運転、SCR触媒34に付着した白色生成物を燃焼除去してSCR触媒34の機能を回復する機能回復制御時の運転を例示できる。特に、ECM41は、走行中などにおいて捕集装置32の再生制御やSCR34の機能回復制御を行うようにそれらの制御がプログラムされており、高温排気運転D1としてそれを実行させると制御を単純化できるので望ましい。
【0030】
また、高温度T1としては、例えば、400度以上、500度以下の値を例示できる。高温度T1を400度未満の値に設定すると、SCR触媒34に吸着されたアンモニアを充分に脱離させることができない。一方、高温度T1を、500度を超えた値に設定すると、排気ガスの温度がSCR触媒34で許容できる温度を超えて、SCR触媒34の耐久性が低下するおそれがある。
【0031】
筒内13からの排気ガスの流量が低減しない状態とは、排気ガスが排気通路23からEGR通路25を経由して吸気通路16に還流しない状態、すなわち、EGRバルブ27が閉じられてEGR通路25が遮断した状態のことである。この状態としては、ECM41によりEGRバルブ27が閉じられた状態の他に、例えば、車両1の点検のためにECM41に接続された電子制御信号線が、閉弁したEGRバルブ27から取り外された状態を例示できる。
【0032】
高流量排気運転D2は、排気ガス中のNOx流量を多くして排気通路23に残っているアンモニアを速やかに排出する運転、すなわち、エンジン回転数Naを予め定められた高回転数N6以上にする運転である。この高流量排気運転D2としては、エンジン回転数Naを無負荷最高回転数N5にする運転、つまり空吹かし運転を例示できる。エンジン回転数Naを無負荷最高回転数N5にすると、筒内13から排出される排気ガスの流量が最も多くなり、排気通路23やSCR触媒34に残留しているアンモニアを吹き飛ばしながら、完全に消費する効果が最も高くなる。
【0033】
図3に示すように、判定回転数Nxとしては、アイドル回転数N1と、無負荷最高回転数N5と、このアイドル回転数N1と無負荷最高回転数N5との間の回転数に設定された第一回転数N2、第二回転数N3、及び第三回転数N4とのいずれかを選択できる。一方で、この点検プログラム60においては、判定回転数Nxを上記の複数の回転数に設定して、異なる判定回転数Nxに対して判定手順を実行させると、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の劣化又は故障をより精度良く判定できるので、より望ましい。
【0034】
検出値Ca、Cbに基づいて上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48のそれぞれの劣化又は故障を判定する手順としては、判定回転数Nxのときの下流NOxセンサ4
8の検出値Cbが、予め設定された第一判定値CB未満(Cb<CB)のときに、上流NOxセンサ47の検出値Caが、下流NOxセンサ48の検出値Cbにより設定される上流判定領域Aから外れた値であるか否か、及び判定回転数Nxのときの上流NOxセンサ47の検出値Caが、予め設定された第二判定値CA超(Ca>CA)のときに、下流NOxセンサ48の検出値Cbが、上流NOxセンサ47の検出値Caにより設定される下流判定領域Bから外れた値であるか否かを判定する手順とすることが望ましい。
【0035】
一般的にNOxセンサの実際的な故障形態としては、被毒によるNOx検出電極の機能低下を起因とする感度の低い側へのシフト(感度の低下)と、被毒や素子のクラックによるセンサ内の酸素濃度の制御不良を起因とする感度の高い側へのシフト(感度の上昇)がある。その中でも特に、上流NOxセンサ47の感度が低下する故障は、この上流NOxセンサ47の検出値Caに応じて尿素噴射量が決定されることから、NOx浄化率に致命的な影響を与えるおそれがある。また、NOx浄化率が低下すると、排気ガス性能が悪化し、OBDによる診断検出にも至ることもあることから、この上流NOxセンサ47の感度の低下の故障については特に精度良く判定する必要がある。
【0036】
そこで、下流NOxセンサ48の検出値Cbが第一判定値CB未満のときに、つまり、下流NOxセンサ48の高い側へシフトする故障の可能性がないことを確認した後に、上流NOxセンサ47の検出値Caが上流判定領域Aから外れた値であるか否か、すなわち、上流NOxセンサ47の検出値Caと下流NOxセンサ48の検出値Cbとを比較することにより、上流NOxセンサ47の低い側のずれを高精度で判定することができる。
【0037】
また、同様に、上流NOxセンサ47の検出値Caが第二判定値CA超のときに、つまり、上流NOxセンサ47の低い側へシフトする故障の可能性がないことを確認した後に、下流NOxセンサ48の検出値Cbが下流判定領域Bから外れた値であるか否か、すなわち、上流NOxセンサ47の検出値Caと下流NOxセンサ48の検出値Cbとを比較することにより、下流NOxセンサ48の高い側のずれを高精度で判定することができる。
【0038】
ここで、第一判定値CBは例えば300ppm〜400ppm、第二判定値CAは例えば50ppmであり、それぞれ下流NOxセンサ48、あるいは上流NOxセンサ47が、大幅な高い側ずれの故障、大幅な低い側ずれの故障状態でないことを確かめ、続く、相互比較による高精度な点検が実施可能であることを確認するための判定値である。
【0039】
図3は、高温排気運転D1及び高流量排気運転D2のそれぞれが実行された後の、エンジン回転数とNOx濃度との関係を示している。
【0040】
判定回転数Nxを無負荷最高回転数N5に設定した場合においては、上流判定領域AはNOx濃度C1以下の領域となり、下流判定領域BはNOx濃度C2以上の領域となる。このNOx濃度C1は、エンジン回転数Naが無負荷最高回転数N5のときに、下流NOxセンサ48で取得された検出値Cbに0.5〜0.9を乗算した値であり、NOx濃度C2は、エンジン回転数Naが無負荷最高回転数N5のときに、上流NOxセンサ47で取得された検出値Cbに2〜3を乗算した値である。
【0041】
NOx濃度は、外気圧や外気温などの影響により変化する。従って、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48が劣化又は故障していない場合には、検出値Ca及び検出値Cbは略一致した値になるので、これに基づいて、一方の検出値に対する判定領域を、他方の検出値に基づいて設定することにより、より精度よくセンサの劣化又は故障を判定できる。
【0042】
そして、上流NOxセンサ47の検出値Caが上流判定領域Aに収まる値である場合には上流NOxセンサ47が劣化又は故障していると判定し、下流NOxセンサ48の検出値Cbが下流判定領域Bに収まる値である場合には、下流NOxセンサ48が劣化又は故障していると判定する。
【0043】
なお、この判定手順を、検出値Ca、Cbの差分が予め定められた閾値以上となる場合に一方のセンサが劣化していると判定する手順としてもよい。また、下流NOxセンサ48の検出値Cbの比較については、上流NOxセンサ47の検出値Caに基づいて設定された下流判定領域Bから外れた値であるか否かを判定する手順の他、予め定めた一定値、例えば、400ppm未満か否かを判定する手順を用いてもよい。
【0044】
この点検プログラム60及び、点検プログラム60を実行することで行われる上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の点検方法によれば、まず、SCR触媒34にアンモニアが新たに供給されない状態になってから、エンジン10の運転状態を高温排気運転D1にすることで、SCR触媒34に吸着したアンモニアを脱離する。
【0045】
次いで、排気ガスの流量が低減しない状態となってから、エンジン10の運転状態を高流量排気運転D2にすることで、排気通路23及びSCR触媒34に残留したアンモニアを高流量の排気ガスで吹き飛ばししながら、完全に消費して排出する。
【0046】
このようにエンジン10の運転状態を二段階に変化させて、SCR触媒34で完全にアンモニアによる還元作用が無くなった状況、すなわちSCR触媒34の前後で実際のNOx濃度が略一致する状況を作り出す。
【0047】
そして、その状況下でエンジン回転数Naが判定回転数Nxになったときに、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48のそれぞれの検出値Ca、Cbを取得して、その検出値Ca、Cbに基づいてそれぞれの劣化又は故障を判定する。
【0048】
従って、本発明の点検プログラム60及び点検方法によれば、SCR触媒34の前後で実際のNOx濃度が略一致する状況下で判定するので、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48のそれぞれの劣化又は故障を精度よく判定することができ、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48が故障していない場合の誤交換を防止できる。また、この精度の高い劣化の判定を行うことで、車両点検設備50における上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の予防的整備が推進されるので、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の故障に伴う車両1の稼働率の低下を抑制できる。
【0049】
上記の点検プログラム60においては、制御ユニット40のECM41に、高温排気運転D1及び高流量排気運転D2が実行されるとタイマー46でそれぞれの経過時間をカウントさせて、SCR触媒34からアンモニアを脱離するまでに掛かる第一時間t1が経過するまで高温排気運転D1を継続させる手順と、排気通路23及びSCR触媒34からアンモニアを外部に排出するまでに掛かる第二時間t2が経過するまで高流量排気運転D2を継続させる手順とを実行させることが望ましい。
【0050】
第一時間t1は、予め実験や試験により求めた時間に設定される。例えば、20分以上の時間に設定される。また、高温排気運転D1として、捕集装置32の再生制御の運転やSCR触媒34の機能回復制御の運転を用いる場合には、第一時間t1をそれらの制御時間としてもよい。なお、捕集装置32の再生制御やSCR触媒34の機能回復制御の制御時間も20分以上の時間に設定されている。
【0051】
第二時間t2は、予め実験や試験により求めた時間に設定される。この第二時間t2は
、排気通路23の通路長やエンジン10の排気量に基づいて設定でき、例えば、60秒以上、300秒以下の時間に設定される。この第二時間t2が60秒未満の時間の場合には、排気通路23及びSCR触媒34からアンモニアを吹き飛ばすことができない。一方、第二時間t2が300秒を超える時間の場合には、排気ガスの排出時間が長くなる。
【0052】
図4は、高温排気運転D1及び高流量排気運転D2のそれぞれが実行された後の、エンジン回転数とNOx濃度との関係を示している。
【0053】
上流判定領域Aの各回転数における最大値のそれぞれは、各回転数における下流NOxセンサ48の検出値Cbに0.5〜0.9を乗算した値とする。下流判定領域Bの各回転数における最小値のそれぞれは、各回転数における上流NOxセンサ47の検出値Caに2〜3を乗算した値とする。
【0054】
また、上記の点検プログラム60においては、車両1のエンジン10から尿素水噴射弁33が取り外されてから、ECM41に高温排気運転D1を実行させることが望ましい。
【0055】
高温排気運転D1を行っている最中においては、尿素水噴射弁33は、高温の排気ガスに曝されている。通常、排気ガスが高温になっている場合には、尿素水噴射弁33からは尿素水が噴射されており、この尿素水の噴射によって尿素水噴射弁33への熱害は防止されている。しかし、本発明の場合には、尿素水噴射弁33からの尿素水の噴射を停止した状態で、エンジン10を高温排気運転D1にするために、エンジン10を高温排気運転D1にする前に、尿素水噴射弁33を取り外すことで、高温排気運転D1による尿素水噴射弁33への熱害を回避することができる。
【0056】
また、車両1のエンジン10からEGRバルブ27から電子制御信号線が取り外されてから、ECM41に高流量排気運転D2を実行させることが望ましい。
【0057】
高流量排気運転D2を行っている最中においては、排気ガスの排気流量が増加することから、通常、EGRバルブ27を開いて、その排気ガスの一部をEGRガスとして還流させている。しかし、本発明の場合には、EGRバルブ27を閉じた状態で、高流量排気運転D2を維持しないと、排気通路23及びSCR触媒34からアンモニアを効率よく吹き飛ばすことができないので、エンジン10を高流量排気運転D2にする前に、閉弁状態のEGRバルブ27とECM41との通信を遮断する、すなわちEGRバルブ27から電子制御信号線を外すことで、高流量排気運転D2における排気ガスの流量が低減することを回避できる。
【0058】
上記の点検プログラム60よる点検方法について、
図5〜
図9に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、この点検方法は、車両1を車両点検設備50において点検する際に行われる方法である。また、
図7の二重線は並列処理を示している。
【0059】
図5に示すように、ステップS100では、点検者が、エンジン10の暖機を行う。次いで、ステップS110では、点検者が、水温センサ44の取得した冷却水の水温Tbが予め定められた閾値T2より高くなったか否かを判定する。この閾値T2としては、例えば、75度を例示できる。このステップS110で、水温Tbが閾値T2以下の場合にはステップS100へ戻る。一方、このステップS110で、水温Tbが閾値T2を超えた場合には、ステップS120へ進む。
【0060】
次いで、ステップS120では、点検者が、イグニッションキーをオフにする。次いで、ステップS130では、点検者が、予め定められた時間tcが経過するまで待機する。この時間tcは、例えば、三分以上、十分以下の時間を例示できる。この時間tcが経過するまで待機することで、確実にエンジン10のアフターランを回避できる。
【0061】
次いで、ステップS140では、点検者が、尿素水噴射弁33を取り外す。次いで、ステップS150では、点検者が、尿素水噴射弁33の電子制御信号線を外す。尿素水噴射弁33を排気通路23から取り外しても、DCU42との通信線が接続されている場合には、高温排気運転D1中に尿素水が噴射されてしまう。そこで、電子制御信号線を外しておく。次いで、ステップS160では、点検者が、尿素水噴射弁33を取り外した箇所を封鎖するために封鎖蓋を取り付ける。次いで、ステップS170では、点検者が、エンジン10を再始動する。
【0062】
以上の、ステップS100〜ステップS160までを行うことで、SCR触媒34に新たなアンモニアが供給されない状態となる。
【0063】
図6に示すように、次いで、ステップS180では、点検者が、DCU42に通信機51を接続して、車両1の制御ユニット40と車外電子計算機52とを接続する。次いで、ステップS190では、点検者が、車外電子計算機52に記憶されている点検プログラム60を実行する。
【0064】
次いで、ステップS20が行われる。ステップS20が完了すると、ステップS200では、点検プログラム60が、ECM41にEGRバルブ27を閉弁させる手順を実行させる。次いで、ステップS210では、点検者が、EGRバルブ27の電子制御信号線を外す。なお、このとき、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、点検者にEGRバルブ27の電子制御信号線を外させるように、車外電子計算機52の画面にその指示を表示させる手順を実行させるとよい。また、点検者がEGRバルブ27の電子制御信号線を外した後に、そのことを車外電子計算機52に入力するようにしてから、点検プログラム60が次のステップを実行するようにするとよい。
【0065】
次いで、ステップS40が行われる。ステップS40が完了すると、
図7のステップS50〜ステップS70へ進む。なお、最初にステップS50を行う場合には、判定回転数Nxは無負荷最高回転数N5に設定される。
【0066】
図7に示すように、ステップS50〜ステップS70が完了すると、並列処理としてステップS220では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に
図8に示す第一判定の手順を実行させる。また、ステップS230では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に
図9に示す第二判定の手順を実行させる。なお、この実施形態では、ステップS220及びステップS230を並列処理としたが、ステップS220及びステップS230を順に処理してもよい。
【0067】
図8に示すように、第一判定におけるステップS240では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、無負荷最高回転数N5における検出値Cbが第一判定値CB未満か否かを判定させる手順を実行させる。このステップS240で、検出値Cbが第一判定値CB未満の場合にはステップS250へ進み、一方、検出値Cbが第一判定値CB以上の場合には
図9のステップS290へ進む。
【0068】
次いで、ステップS250では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、無負荷最高回転数N5における検出値Caが、
図4に示す上流判定領域Aから外れた値か否かを判定させる手順を実行させる。このステップS240で、検出値Caが上流判定領域Aから外れた値である場合には、
図7のステップS300へ進む。一方、ステップS240で、検出値Caが上流判定領域Aに収まる値の場合には、ステップS260へ進む。次いで、ステップS260では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、上流NOx
センサ47が劣化している、又は故障していると判定させる手順を実行させて、ステップS300へ進む。
【0069】
図9に示すように、第二判定におけるステップS270では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、無負荷最高回転数N5における検出値Caが第二判定値CA超か否かを判定させる手順を実行させる。このステップS270で、検出値Caが第二判定値CA超の場合にはステップS280へ進み、一方、検出値Caが第二判定値CA以下の場合には
図8のステップS260へ進む。
【0070】
次いで、ステップS280では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、無負荷最高回転数N5における検出値Cbが、
図4に示す下流判定領域Bから外れた値か否かを判定させる手順を実行させる。このステップS280で、検出値Cbが下流判定領域Bから外れた値である場合には、
図7のステップS300へ進む。一方、ステップS280で、検出値Cbが下流判定領域Bに収まる値の場合には、ステップS290へ進む。次いで、ステップS290では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、下流NOxセンサ48が劣化している、又は故障していると判定させる手順を実行させて、ステップS300へ進む。
【0071】
図7に示すように、ステップS300では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に変数xから「1」を引いたものを次の変数とする手順を実行させる。最初に設定された変数は「5」であるため、次の変数は「4」、すなわち判定回転数Nxとして第三回転数N4を用いる。次いで、ステップS310では、点検プログラム60が、車外電子計算機52に、判定回転数Nxがアイドル回転数N1未満となるか否かを判定させる手順を実行させる。このステップS310で、判定回転数Nxがアイドル回転数N1以上の場合には、ステップS50へ戻り、判定回転数Nxを第三回転数N4として、ステップS50〜ステップS300を行う。このように、無負荷最高回転数N5、第三回転数N4、第二回転数N3、第一回転数N2、アイドル回転数N1まで繰り返し上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の劣化又は故障を判定する。そして、ステップS300で変数xがゼロになると、ステップS310で判定回転数Nxがアイドル回転数N1未満となり、この点検方法は完了する。
【0072】
このように、本発明の点検プログラム60及び点検方法によれば、車両1を車両点検設備50で点検する際に、車両1の走行中には作り出すことができないSCR触媒34におけるアンモニアによる還元作用が生じない状況を作り出して、上流NOxセンサ47及び下流NOxセンサ48の劣化又は故障を判定するので、劣化又は故障の判定の精度を向上でき、故障していないNOxセンサの誤交換を防止できる。
【0073】
そして、この点検プログラム60を記憶した車外電子計算機52を車両点検設備50に備えておくことで、車両1の点検の際に、上記の精度の高いNOxセンサの劣化の判定を行うことができ、NOxセンサの予防的整備が推進されるので、NOxセンサの故障に伴う車両1の稼働率の低下を抑制できる。