(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば工作機械の主軸用軸受として、転がり軸受が用いられており、
図4に示すように、工作機械の主軸装置が有するハウジング90には、軸方向に沿って複数の転がり軸受91が設けられている。
図4に示す主軸装置では、転がり軸受91の潤滑性を確保するためにオイルエア潤滑が採用されている。しかし、オイルエア潤滑の場合、エア消費によるランニングコストが高くなり、また、オイルエア供給装置及びエアクリーンユニット等の付帯設備が必要であり、設備コストが高くなることがある。
【0003】
そこで、転がり軸受91に給油を行うための他の手段として、例えば特許文献1に開示されているような、給油ユニットを組み込んだ転がり軸受装置(以下、軸受装置という。)が知られている。この軸受装置では、転がり軸受の外輪の内周側に給油ユニットが装着されており、転がり軸受(軸受部)と給油ユニットとが一体となっている。給油ユニットは、潤滑油を溜めるタンク、及びこのタンク内の潤滑油を内輪と外輪との間の環状空間に吐出するポンプ等を備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4に示す工作機械の主軸装置に含まれる転がり軸受91の代わりに、前記特許文献1に記載の軸受装置を採用することで、オイルエア潤滑を行う場合のコストに関する問題点を解消することができる。
【0006】
しかし、給油ユニットを有する軸受装置は、ハウジング90内に収容された状態となり、この給油ユニットが潤滑油を溜めるタンクを備えていることから、このタンクに潤滑油を補給するメンテナンスを行う場合、
図4に示す主軸装置を分解し、ハウジング90から軸受装置を取り出す必要がある。このため、メンテナンスに要する時間が長くなり、生産性に影響を与えるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、転がり軸受装置が組み込まれている装置全体から、分解してこの転がり軸受装置を取り出さなくても、潤滑油の補給を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の転がり軸受装置は、内輪、外輪、前記内輪と前記外輪との間に介在している複数の転動体、及び、複数の前記転動体を保持する保持器を有している軸受部と、前記内輪と前記外輪との間に形成される環状空間の軸方向隣に設けられ、当該環状空間に供給するための潤滑油を溜めるタンクを有する給油ユニットと、を備え、前記タンクは径方向外側の外壁を有しており、当該外壁の径方向内側に形成される空間が前記潤滑油を溜める貯留部であり、前記貯留部に潤滑油を補給するための給油穴が前記外壁を貫通して設けられ、当該給油穴は径方向外側に開口している。
【0009】
この転がり軸受装置によれば、タンクが有する径方向外側の外壁を貫通し径方向外側に開口している給油穴から、貯留部に潤滑油を補給することができる。このため、転がり軸受装置が組み込まれている装置全体から、分解して転がり軸受装置を取り出さなくても、タンクに潤滑油を補給することが可能となる。
【0010】
また、前記外壁に空気穴が前記給油穴と兼用として設けられているのが好ましい。
この場合、タンクから潤滑油が流出することによる貯留部の負圧の発生を、空気穴によって防ぐことができる。また、タンク内に異物が入ったりタンク内から潤滑油が漏れたりするのを可及的に防ぐために、タンクには穴を多く設けないのが好ましい。そこで、前記構成によれば、空気穴と給油穴とを兼用することで、タンクに穴を多く設けないで済む。
【0011】
また、転がり軸受装置は、前記貯留部と前記給油穴を通じて繋がる径方向外側空間と、前記環状空間とを連通させる流路を有しているのが好ましい。
タンクの貯留部の圧力は短期短では変化しないのに対して環状空間の圧力が変動して高くなると、圧力差に起因して環状空間への潤滑油の供給が損なわれる場合があるが、前記流路により貯留部と環状空間とが連通する構成が得られ、環状空間に圧力変動が生じても貯留部との圧力差を解消することができ、潤滑油の供給不良を防止することが可能となる。
【0012】
また、転がり軸受装置は、前記流路を有している場合において、前記給油ユニットの前記タンクを収容している枠体を更に有し、前記流路は、前記環状空間側において前記外壁と前記枠体との間に形成されている溝からなるのが好ましい。
この場合、流路が簡単に得られ、また、環状空間と径方向外側空間とを結ぶ流路は短く、環状空間の圧力変動に対する貯留部の圧力の追従性が向上する。
【0013】
また、転がり軸受装置は、前記給油ユニットの前記タンクを収容している枠体を更に有し、前記枠体には、前記給油穴の径方向外側の開口を露出させるための貫通穴が形成されており、前記貫通穴は前記給油穴よりも大きいのが好ましい。
この場合、枠体にタンクを収容して組み立てる際に、貫通穴の範囲で給油穴を開口させる必要がある。そこで、給油穴よりも貫通穴が大きいことから、この貫通穴の範囲で給油穴を開口させるのが容易となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、転がり軸受装置が組み込まれている装置全体から、分解してこの転がり軸受装置を取り出さなくても、タンクに潤滑油を補給することが可能となり、潤滑油の補給のメンテナンスが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の転がり軸受装置の実施の一形態を説明する。
〔転がり軸受装置の全体構成〕
図1は、転がり軸受装置10の縦断面図である。本実施形態の転がり軸受装置10(以下、軸受装置10という。)は、工作機械が有する主軸装置の主軸(軸7)を回転可能に支持するものであり、主軸装置の軸受ハウジング8内に収容されている。
図1において、軸受ハウジング8を2点鎖線で示している。軸受装置10は、軸受部20と給油ユニット40とを備えている。
【0017】
軸受部20は、内輪21、外輪22、複数の玉(転動体)23、及びこれら玉23を保持する保持器24を有している。
内輪21は、軸7に外嵌する円筒状の部材からなり、軸方向一方側(
図1では右側)の内輪本体部31と、軸方向他方側(
図1では左側)の内輪延長部32とを有している。内輪本体部31の外周に軌道溝(以下、内輪軌道溝25という。)が形成されている。本実施形態では、内輪本体部31と内輪延長部32とは一体不可分であるが、別体であってもよい。別体とする場合、内輪延長部32は短円筒形状の間座となる。
【0018】
外輪22は、軸受ハウジング8の内周面に固定される円筒状の部材からなり、軸方向一方側(
図1では右側)の外輪本体部35と、軸方向他方側(
図1では左側)の外輪延長部36とを有している。外輪本体部35の内周に軌道溝(以下、外輪軌道溝26という。)が形成されている。本実施形態では、外輪本体部35と外輪延長部36とは一体不可分であるが、別体であってもよい。別体とする場合、外輪延長部36は短円筒形状の間座となる。
【0019】
玉23は、内輪21(内輪本体部31)と外輪22(外輪本体部35)との間に介在しており、内輪軌道溝25及び外輪軌道溝26を転動する。保持器24は、環状の部材からなり、周方向に沿ってポケット27が複数形成されている。各ポケット27に一つの玉23が収容されている。これにより、保持器24は、複数の玉23を周方向に並べて保持することができる。
【0020】
内輪本体部31と外輪本体部35との間に、第1の環状空間11が形成されており、内輪延長部32と外輪延長部36との間に、第2の環状空間12が形成されている。第1の環状空間11と第2の環状空間12とは連続している。第1の環状空間11に玉23及び保持器24が設けられている。そして、第2の環状空間12に給油ユニット40が設けられている。第2の環状空間12を構成する内輪延長部32及び外輪延長部36は、給油ユニット40が有する後述のタンク42を収容している枠体37となる。
【0021】
本実施形態では、外輪22に対して内輪21が軸7と共に回転する。そこで、給油ユニット40は、外輪延長部36の内周面に密着嵌合して取り付けられている。これに対して、内輪延長部32の外周面と、給油ユニット40(後述する環状のホルダ41)の内周面との間には微小隙間が設けられており、給油ユニット40によって内輪32の回転が阻害されない。
【0022】
図2は、
図1のA−A矢視の断面図である。給油ユニット40は、全体として円環形状を有している。給油ユニット40は、ホルダ41、タンク42、及びポンプ43を備えており、更に、回路部44及び電源部45を備えている。
【0023】
ホルダ41は、例えば樹脂製の環状部材であり、短円筒状の内壁46、短円筒状の外壁47、これら内壁46及び外壁47の間に設けられている複数の隔壁48a,48b,48c,48d、及び側壁48e,48f(
図1参照)を有している。これらの壁によって、
図2に示すように、複数の空間K1,K2,K3が周方向に沿って形成されている。
【0024】
本実施形態では、第1の空間K1によりタンク42が構成され、第2の空間K2にポンプ43が格納され、第3の空間K3に回路部44及び電源部45が格納されている。これにより、ホルダ41、タンク42、ポンプ43、回路部44、及び電源部45を含む給油ユニット40は、一体として構成されている。
そして、この給油ユニット40は外輪延長部36に取り付けられて軸受部20と一体となっており、また、
図1に示すように、第2の環状空間12に設けられている給油ユニット40は、第1の環状空間11の軸方向隣に設けられた構成となる。
【0025】
〔給油ユニット40の各部の構成〕
図1において、タンク42は、第1の環状空間11に供給するための潤滑油3を溜めるものであり、潤滑油3を溜める貯留部49を有している。本実施形態では、
図2に示すように、内壁46の一部、外壁47の一部、隔壁48a,48b、及び側壁48e,48f(
図1参照)によって囲まれている空間が貯留部49となる。なお、側壁48eは、取り外し可能であってもよい。
【0026】
タンク42は、その一部に、貯留部49の潤滑油3をポンプ43へ流出させる流出部51(
図2参照)を有しており、この流出部51とポンプ43とは(図示していないが)流路を通じて繋がっている。タンク42内には、潤滑油3を保持する保持体(例えば、フエルトやスポンジ)が設けられていてもよい。以上よりタンク42は、潤滑油3を溜めると共に、貯めている潤滑油3をポンプ43へ供給可能となっている。
【0027】
図1において、ポンプ43は、タンク42から供給された潤滑油3を第1の環状空間11に吐出するためのものである。本実施形態のポンプ43は、圧電素子55を有しており、この圧電素子55が動作することでポンプ43の内部空間54aの容積を変化させ、この内部空間の潤滑油3をノズル50から吐出させることができる。
【0028】
図2において、電源部45は、発電部45aと二次電池部45bとを有している。発電部45aは、内輪21が回転することで発電可能となる構成を有し、発生した電力が二次電池部45bに蓄えられる。
回路部44は、プログラミングされたマイコンを含む基板回路からなり、ポンプ43に対して制御信号(駆動信号)を発信する。つまり、回路部44は、圧電素子55に対して駆動電力を与える(所定の電圧を印加する)。
【0029】
〔タンク42について〕
タンク42について更に説明する。
図1において、タンク42は、前記のとおり、径方向外側の外壁47等を有しており、この外壁47の径方向内側に形成される空間が潤滑油3を溜める貯留部49となっている。そして、この外壁47に給油穴60が設けられている。給油穴60は、例えばメンテナンスの際に、貯留部49に潤滑油3を補給するために用いることのできる穴であり、外壁47を径方向に貫通している。このため、給油穴60は径方向外側に開口した構成となっている。
【0030】
また、本実施形態の軸受装置10は、前記のとおり、内輪延長部32及び外輪延長部36を有しており、これら内輪延長部32及び外輪延長部36それぞれは給油ユニット40のタンク42を収容している枠体37となっている。そして、外側の枠体37(外輪延長部36)の周壁37aには貫通穴61が形成されている(
図3参照)。
図3は、給油ユニット40の一部を示す斜視図である。
【0031】
図1及び
図3に示すように、貫通穴61は、枠体37の周壁37aを径方向に貫通して設けられており、貫通穴61は径方向外側に開口している。また、貫通穴61は給油穴60よりも(直径が)大きく、給油穴60は貫通穴61の範囲内において開口している。つまり、貫通穴61は給油穴60の径方向外側の開口60aを露出させるための穴となっている。以下において、貫通穴61の内周面に囲まれる領域を給油ユニット40の「径方向外側空間52」と呼ぶ。この径方向外側空間52は、貯留部49と給油穴60を通じて繋がっている。
【0032】
本実施形態では、タンク42を構成しているホルダ41を、枠体37(外輪延長部36)に収容して給油ユニット40を軸受装置10に組み入れるが、この際に、貫通穴61の範囲で給油穴60を開口させる必要がある。そこで、前記のとおり、給油穴60よりも貫通穴61が大きいことから、組み立ての際に、貫通穴61の範囲で給油穴60を開口させるのが容易となる。給油穴60の直径を、例えば1mm以下とすることができ、これに対して、貫通穴61の直径を給油穴60の直径の例えば10倍とすることができる。
【0033】
また、
図1において、貫通穴61が形成されている外輪延長部36(枠体37)は、軸受ハウジング8の内周側に設けられており、この軸受ハウジング8には、径方向に貫通するねじ穴8aが形成されている。そして、このねじ穴8aにプラグ(栓部材)8bが着脱可能として取り付けられている。ねじ穴8aは、図示しないが、軸受ハウジング8の外周面で開口しており、この開口は主軸装置の外部に露出している。
そして、プラグ8bがねじ穴8aに取り付けられた状態では、前記径方向外側空間52は閉じられた状態にあるが、プラグ8bが外されると前記径方向外側空間52は開放された状態となる。なお、プラグ8bが取り付けられた状態であっても、前記径方向外側空間52は密閉された空間ではなく、隙間から外気の流入は可能となっている。また、ねじ穴8aは貫通穴61よりも(直径が)大きく、貫通穴61はねじ穴8aの範囲内において開口している。つまり、ねじ穴8aは貫通穴61の径方向外側の開口61aを露出させるための穴となっている。
【0034】
以上の構成によれば、主軸装置(軸受装置10)のメンテナンスの際に、プラグ8bを外すことで、ねじ穴8a及び貫通穴61の奥側で、給油穴60の開口60aを主軸装置の外部に臨ませることができ、給油穴60を通じて、貯留部49に潤滑油3を補給することができる。なお、この補給は注射器により行うことができる。このため、軸受装置10が組み込まれている主軸装置全体から、軸7等を分解して軸受装置10(給油ユニット40)を取り出さなくても、タンク42に潤滑油3を補給することが可能となる。このため、潤滑油3の補給のメンテナンスが容易となる。
【0035】
また、本実施形態の給油ユニット40において、タンク42には、貯留部49とタンク42の外部とを繋げる空気穴62が設けられている。本実施形態では、タンク42の外壁47に空気穴62が設けられており、この空気穴62は給油穴60と兼用されている。この空気穴62によれば、貯留部49と前記径方向外側空間52とが繋がった構成となる。このため、軸受装置10を長期にわたって使用していると、タンク42内の潤滑油は消費され貯留部49が空となっていくが、タンク42から潤滑油3が流出することによる貯留部49の負圧の発生を、空気穴62によって防ぐことができる。
また、タンク42内に異物が入ったりタンク42内から潤滑油3が漏れたりするのを可及的に防ぐために、タンク42には穴を多く設けないのが好ましく、本実施形態によれば、空気穴62と給油穴60とを兼用しているのでタンク42に穴を多く設けないで済む。
【0036】
また、本実施形態の軸受装置10は、給油穴60が開口している径方向外側空間52と、第1の環状空間11とを連通させる流路39を有している。
図1に示す流路39は、第1の環状空間11側において、外壁47と、枠体37の周壁37aとの間に形成されている直線状の溝からなる。なお、この溝は、外壁47に形成されているが、周壁37aに形成されていてもよい。そして、流路39の一端が径方向外側空間52において開口しており、他端が第1の環状空間11において開口している。このため、第1の環状空間11から径方向外側空間52へ気体の通過が自由となり、更には、第1の環状空間11から径方向外側空間52及び空気穴62(給油穴60)を通じて貯留部49へ気体の通過が自由となる。
【0037】
この流路39は、次の機能を有している。すなわち、軸受装置10が設けられている工作機械の主軸装置では、軸受部20への異物の浸入を防ぐために、軸受部20の軸方向一方側(
図1では右側)にはパージガスが供給されている。すると、第1の環状空間11の圧力(内圧)は上昇し、また、内輪21の回転速度の変動により第1の環状空間11の圧力は短期間で変動する場合がある。これに対して、仮に前記流路39が形成されていない場合、第1の環状空間11と貯留部49との間で気体が自由に流れることができず、貯留部49の圧力(内圧)は短期間で変化することができない(つまり、環状空間11の圧力変動に追従できない)。
このように、貯留部49の圧力は変化しないのに対して、第1の環状空間11の圧力が短期間で変動して高くなると、つまり、潤滑油3の吐出側の圧力の方が貯留部49の圧力よりも高くなると、この圧力差に起因してタンク42及びポンプ43から第1の環状空間11への潤滑油3の供給が損なわれる場合がある。
しかし、本実施形態では、流路39により貯留部49と第1の環状空間11とが連通する構成が得られ、これらの間で気体が自由に流れることが可能となり、第1の環状空間11に圧力変動が生じても貯留部49との圧力差を解消することができる。すなわち、流路39によれば、圧力差に起因する潤滑油3の供給不良を防止することが可能となる。
【0038】
特に本実施形態では、流路39は、第1の環状空間11側においてポンプ43の外壁47と枠体37(外輪延長部36)との間に形成されている溝からなるため、流路39は簡単な構成であり、また、第1の環状空間11と径方向外側空間52とを結ぶ流路39は短くて済み、第1の環状空間11の圧力変動に対する貯留部49の圧力の追従性が向上する。
【0039】
〔その他について〕
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の転がり軸受装置10は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
例えば、前記実施形態では、内輪21が回転輪であり外輪22が固定輪である場合について説明したが、外輪22が回転輪であってもよく、内輪21が固定輪であってもよい。この場合、給油ユニット40は内輪21に固定される。
また、給油ユニット40は、ホルダ41内に回路部44及び電源部45を備えている場合について説明したが、回路部44及び電源部45の双方又は一方はホルダ41の外部に設けられていてもよい。この場合、ホルダ41内のポンプ43とホルダ41の外部とはケーブルを通じて接続される。
また、軸受部20は玉軸受以外であってもよく、転動体をころ(円筒ころや円すいころ)としたころ軸受であってもよい。