(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記提示時間は、匂いの提示から提示された匂いが知覚されるまでの時間、または、匂いを連続的に提示した場合の感覚強度の時間的変化に基づいて設定された時間に基づいて決定され、前記停止時間は、匂いの停止から嗅覚の順応が回復するまでの時間に基づいて決定される
請求項1または請求項2に記載の匂い制御装置。
前記目標感覚強度特性は、提示する匂いの強度、匂いを提示する頻度、1回の提示における匂いの持続時間、および1回の提示における提示時間の割合の少なくとも1つに基づいて決定される
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の匂い制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された車両用覚醒維持装置では、覚醒度が低下しているときには、1/fゆらぎ間隔より短い断続的な1分ごとの間隔で香りを発生させるとしているが、この1分の間隔と嗅覚疲労との関係について、あるいは、どれだけの時間香りを提示するのか(どれだけの時間香りを提示しないのか)については開示されていない。したがって、この1分の間隔での香りの発生によって、嗅覚疲労のため運転者の感覚強度が低下し、その結果覚醒度の回復が抑制される可能性がある。
【0008】
すなわち、特許文献1に開示された車両用覚醒維持装置では、この1分ごとの間隔での香りの提示が、覚醒度を向上させるための提示方法として必ずしも最適であるとはいえない。これは、この1分ごとの間隔での香りの提示により、感覚強度が時間的にどのように変化しているかが検討されていないことに起因する。
【0009】
このことは、覚醒度の低下を誘発する状態のときに、覚醒度を維持させる場合も同様であり、1/fゆらぎ間隔で香りを発生させることと、感覚強度の時間的変化との関係が検討されていないから、1/fゆらぎ間隔で香りを発生させることが覚醒度の維持に最適であるかどうかはわからない。特に、前回の香り提示から5分以上経過したときにのみ1/fゆらぎ間隔で香りを発生させるようにして嗅覚疲労の影響を排除しようとしているが、この5分という時間内で香りの感覚強度が著しく低下し、覚醒度の維持が阻害される可能性もある。
【0010】
一方、特許文献1では、上記のような覚醒度の回復および覚醒の維持以外の目的で香りを提示することは想定されていない。すなわち、覚醒度の回復および覚醒の維持においては嗅覚疲労が問題となるが、たとえばリラックス作用のような作用目的の場合には、嗅覚疲労による感覚強度の低下をある程度許容しつつ、提示時間の割合を高くした方が、あるいは1回の提示における香りの持続時間を長くした方が、香りの作用がより効果的に発揮される場合もある。つまり、特許文献1に開示された車両用覚醒維持装置では、香りの提示の作用目的が限定的であった。
【0011】
以上のように、特許文献1に開示された車両用覚醒維持装置では、心身に対する作用目的に応じた匂いの提示という観点から改良の余地があった。
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、心身に対する作用目的を拡大しつつ、作用目的に応じた匂いの作用をより効果的に発揮することが可能な匂い制御装置および匂い制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の匂い制御装置は、心身に対する
複数の作用目的から選択されたいずれかの作用目的を受け付ける受付手段と、匂いを発生する発生源からの匂いの提示および停止が可能な匂い発生部と、前記匂い発生部から発生された匂いに対する感覚強度の時間的変化が、前記受付手段で受け付けられた前記作用目的に応じた目標感覚強度特性となるように、前記匂い発生部における匂いの提示時間および匂いの停止時間に基づいて前記匂い発生部を制御する制御手段と、を含
み、複数の前記目標感覚強度特性の少なくとも1つは予め定められた臭気強度が継続した特性で示され、少なくとも1つは断続的に知覚される特性で示されるものである。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記制御手段は、前記提示時間および前記停止時間の合計時間を1つの周期とし、前記匂い発生部を間欠的に制御するものである。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記提示時間は、匂いの提示から提示された匂いが知覚されるまでの時間、または、匂いを連続的に提示した場合の感覚強度の時間的変化に基づいて設定された時間に基づいて決定され、前記停止時間は、匂いの停止から嗅覚の順応が回復するまでの時間に基づいて決定されるものである。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記目標感覚強度特性は、提示する匂いの強度、匂いを提示する頻度、1回の提示における匂いの持続時間、および1回の提示における提示時間の割合の少なくとも1つに基づいて決定されるものである。
【0017】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記作用目的が複数であり、前記受付手段は、複数の前記作用目的から選択された作用目的を受け付け、前記制御手段は、複数の前記作用目的ごとに定められた前記提示時間および前記停止時間に基づいて前記匂い発生部を制御するものである。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記匂い発生部は、前記作用目的に応じた匂いを発生する複数の前記発生源を備えたものである。
【0019】
また、請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の発明において、複数の前記作用目的が、感覚刺激作用目的、生理的刺激作用目的、および生理的鎮静作用目的から選択された少なくとも2つの作用目的であるものである。
【0020】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記匂い発生部は、提示する匂いの強度を調整可能とされており、前記作用目的が感覚刺激作用目的の場合には、臭気強度を6段階臭気強度表示法における臭気強度
で2.5〜3.5の範囲の臭気強度とし、
他の作用目的の場合よりも高頻度で匂いが知覚されるように前記目標感覚強度特性を決定し、前記作用目的が生理的刺激作用目的の場合には、前記臭気強度
を1.5〜2.5の範囲とし、1回の提示における提示時間の割合が
感覚作用刺激目的の場合よりも高くなるように前記目標感覚強度特性を決定し、前記作用目的が生理的鎮静作用の場合には、前記臭気強度
を1.0〜2.0の範囲とし、1回の提示における提示時間の割合が
感覚作用刺激目的の場合よりも高くなるようにかつ1回の提示における匂いの持続時間が
他の作用目的の場合よりも長くなるように前記目標感覚強度特性を決定するものである。
【0021】
また、請求項9に記載の発明は、請求項7または請求項8に記載の発明において、前記作用目的が感覚刺激作用目的の場合には、前記提示時間を、匂いの提示から提示された匂いが知覚されるまで
に必要な時間のうち最も短い時間とし、かつ前記停止時間を匂いの停止から嗅覚の順応が回復するまで
に必要な時間のうち最も短い時間とし、前記作用目的が生理的刺激作用目的の場合には、前記提示時間を、匂いを連続的に提示した場合の感覚強度が提示開始時の感覚強度
の80%となるまでの時間とし、かつ前記停止時間を前記提示時間と等しくし、前記作用目的が生理的鎮静作用目的の場合には、前記提示時間を、匂いを連続的に提示した場合の感覚強度が提示開始時の感覚強度
の50%となるまでの時間とし、かつ前記停止時間を前記提示時間と等しくするものである。
【0022】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の発明において、心身の状態に関する情報を検出する心身状態検出手段と、周囲の環境情報を検出する環境情報検出手段と、をさらに含み、前記受付手段は、前記心身状態検出手段および前記環境情報検出手段の少なくとも一方で検出された情報に基づいて前記心身に対する作用目的を受け付けるものである。
【0023】
一方、上記目的を達成するために、請求項11に記載の匂い制御方法は、心身に対する
複数の作用目的から選択されたいずれかの作用目的を受け付ける受付手段と、匂いを発生する発生源からの匂いの提示および停止が可能な匂い発生部と、を含む匂い制御装置を制御する方法であって、前記匂い発生部から発生された匂いに対する感覚強度の時間的変化が、前記受付手段で受け付けられた前記作用目的に応じた目標感覚強度特性となるように、前記匂い発生部における匂いの提示時間および匂いの停止時間に基づいて前記匂い発生部を制御
し、複数の前記目標感覚強度特性の少なくとも1つは予め定められた臭気強度が継続した特性で示され、少なくとも1つは断続的に知覚される特性で示されるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る匂い制御装置および匂い制御方法によれば、心身に対する作用目的を拡大しつつ、作用目的に応じた匂いの作用をより効果的に発揮することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例について詳細に説明する。
【0027】
図1(a)は、実施の形態に係る匂い制御装置10のブロック図を示す。匂い制御装置10は、制御部12、入力部14、および匂い発生部16を備えている。匂い制御装置10は、たとえば、車両の運転者の心身の状態を調整するために車両内に配置される装置である。しかしながら、本実施の形態に係る匂い制御装置10が適用される形態はこれに限られず、たとえば、工場において作業者の心身の状態を調整するために、工場内に備えてもよい。
【0028】
入力部14は、主として、匂い制御装置10の起動、停止の指示の入力、ユーザ(本実施の形態では、車両の運転者)が自己の心身の状態に応じて、心身の状態をどのように調整したいかを示す作用目的の入力を実行する部位である。本実施の形態では、作用目的を、一例として、「覚醒」、「リフレッシュ」、および「リラックス」の3種を想定している。これらの作用目的の詳細については後述する。
【0029】
入力部14は、一例として、ディスプレイ上に透過型のタッチパネルが重ねられたタッチパネルディスプレイ等から構成され、各種情報がディスプレイの表示面に表示されると共に、ユーザがタッチパネルに触れることにより所望の情報や指示が入力される。
図1(b)に、入力部14の表示画面20の一例を示す。
図1(b)に示すように、本実施の形態に係る入力部14の表示画面20には、「覚醒」ボタン22、「リフレッシュ」ボタン24、「リラックス」ボタン26、および匂い制御装置10の電源をオン/オフする電源ボタン28が表示されている。そして、ユーザがいずれかのボタンをタッチすることにより、匂い制御装置10の起動、停止の入力、および作用目的の入力が可能なように構成されている。
【0030】
匂い発生部16は、たとえば、図示しない液状の芳香剤が入ったタンクと、タンクに備えられた芳香剤を発生させ、停止させるように移動する噴霧ピストンと、噴霧ピストンを稼動させるモータとを含んで構成され、モータによって噴霧ピストンを移動させることにより、芳香剤による匂いの提示、および停止が可能なように構成されている。
【0031】
制御部12は、主として、匂い発生部16のモータを制御して匂い制御装置10から間欠的に匂いを発生させ、入力部14から入力された作用目的に応じた匂い環境を作り出す部位である。制御部12は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、およびRAM(Random Access Memory)等を含んで構成されている。CPUは、匂い制御装置10の全体を統括、制御し、ROMは、後述する匂い制御処理プログラム、匂い制御パターン、あるいは各種パラメータ等を予め記憶する記憶手段であり、RAMは、各種プログラムの実行時のワークエリア等として用いられる記憶手段である。
【0032】
つぎに、
図2を参照して、本実施の形態に係る匂い制御処理について説明する。
図2は、本実施の形態に係る匂い制御処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
図2に示す処理は、ユーザにより入力部14の電源ボタン28を介して実行開始の指示がなされると、CPUがROM等の記憶手段から本匂い制御処理プログラムを読み込み、実行する。
【0033】
まず、ステップS100で、作用目的を取得する。本実施の形態では、先述したように、作用目的の取得はユーザが表示画面20の各作用目的を示すボタンをタッチすることにより行う。
【0034】
つぎのステップS102では、ROM等の記憶手段から匂い制御パターンを読み出す。
「匂い制御パターン」とは、各作用目的に応じた匂い環境、すなわち感覚強度の時間的変化を作り出すための、匂い発生部16における匂い時間T1および無臭時間T2の制御パターンである。匂い制御パターンの詳細については後述する。
【0035】
つぎのステップS104では、ステップS102で読み出した匂い制御パターンに基づいて、匂い発生部16を制御する。すなわち、当該匂い制御パターンで指定された匂い時間T1および無臭時間T2に基づいて、匂い発生部16を間欠制御する。
【0036】
つぎのステップS106では、匂い制御装置10の停止の指示があったか否か判定する。当該判定が否定判定となった場合には、ステップS104に戻り、匂い発生部16の制御を継続する一方、当該判定が肯定判定となった場合には、本匂い制御処理プログラムを終了する。なお、本実施の形態では、匂い制御装置10の停止の指示は、ユーザが電源ボタン28をタッチすることにより実行する。
【0037】
ところで、本実施の形態では、ユーザの心身に対する作用目的に応じた匂いの作用を効果的に発揮することを目的とし、作用目的の一例として、「感覚刺激作用」、「生理的刺激作用」、および「生理的鎮静作用」の3種を想定している。作用目的とは、自身の現在の心身の状態に応じて心身の状態をどのように調整したいかを示すユーザの意図である。
【0038】
本実施の形態において、「感覚刺激作用」は、ユーザの覚醒低下時に覚醒を促す作用である。「生理的刺激作用」は、ユーザの気分をリフレッシュさせる作用である。「生理的鎮静作用」は、ユーザの気分をリラックスさせる作用である。むろん、作用目的はこの3種に限られず、心理的安定作用等他の作用目的を採用してもよい。
【0039】
先述したように、作用目的に応じて匂いを提示する場合に勘案すべき嗅覚の特性の一つとして順応、すなわち、一回の持続した匂い刺激に対する感覚強度の低下がある。つまり、各作用目的で匂いを提示する場合、順応によってその効果が低減してしまうことを考慮する必要がある。この順応を防ぐ手段としては、適切な時間間隔によって匂いを間欠的に提示する方法が考えられ、本実施の形態でも、この匂いの間欠提示を前提とする。
【0040】
一方、匂いを効果的に作用させるための匂いの提示方法は、作用目的によって異なると考えられる。たとえば、覚醒低下時に匂いを提示して覚醒させる作用目的(感覚刺激作用)の場合、匂いの強度を明確に感じられる強度(たとえば、6段階臭気強度表示法における臭気強度3:「楽に感知できるにおい」程度の強度)で、かつ高頻度に匂いの提示、非提示を切り替えて、ユーザに匂いを提示することが望ましい。覚醒低下時に覚醒させる場合のように、感覚刺激作用を目的として匂いを提示する場合には、強い感覚強度で、高頻度で提示することにより、感覚刺激を強く与えることができるからである。一方、匂いの変化を知覚するには、最短でも呼吸2〜3回分の時間、つまり10秒程度が必要なため、10秒毎に提示、非提示を切り替えるのが望ましい。
【0041】
ここで、「6段階臭気強度表示法」とは、匂いの強さを0〜5の6段階で評価し、表示する表示方法であり、匂いの強度の表示方法として一般的に使用されている。ちなみに、6段階の各段階の具体的な表現は、0:無臭、1:やっと感知できるにおい(検知閾値)、2:何のにおいであるかわかる弱いにおい(認知閾値)、3:楽に感知できるにおい、4:強いにおい、5:強烈なにおい、である。以下、本実施の形態でも、匂いの強度を表現する場合には、この6段階臭気強度表示法による臭気強度を用いて表現する。
【0042】
図3(a)は、この「感覚刺激作用」を目的とする感覚強度特性の一例を模式的に示すグラフである。本実施の形態において、感覚強度特性とは、匂いの感覚強度の時間変化(順応特性)を意味する。本実施の形態に係る感覚刺激作用を目的とする匂いの提示方法は、一例として、臭気強度を概ね3.5〜2.5とし、かつユーザによって知覚される臭気強度の変化の頻度を高くするようにする。
図3(a)示すグラフでは、一例として、臭気強度の最大値を臭気強度3とし、臭気強度3を縦軸の目盛100に対応させ、強度100と強度0とを間欠的に切り替えている。臭気強度3を縦軸の目盛100に対応させる点は、後述する
図3(b)、(c)についても同様である。本実施の形態では、強度100の時間を10秒、強度0の時間を10秒とし、切り替えの周期を20秒としている。ユーザに、
図3(a)に示すような感覚強度特性で匂いを知覚させることにより、ユーザに対して感覚刺激作用をもたらし、その結果、ユーザの覚醒を促すことができる。なお、臭気強度の概ね3.5〜2.5という設定値は、慣れによる感覚強度の低下に対する許容レベルを想定した値であり、提示開始直後や提示切替直後にこの設定値を瞬間的に上回ることは問題ない。この点に関しては、以下に示す生理的刺激作用を目的とする場合、生理的鎮静作用を目的とする場合も同様である。
【0043】
他方、生理的刺激作用を目的とする場合は、匂いが感知される強度(臭気強度2:「弱いにおい」程度の強度)を保ちながらも長時間持続して匂いを提示することが望ましい。
気分をリフレッシュさせる場合のように、生理的刺激作用を目的として匂いを提示する場合には、比較的高い感覚強度レベルを保ちながら、提示時間割合を高くすることにより、リフレッシュ作用を効果的に発揮させることができるからである。
【0044】
図3(b)は、この「生理的刺激作用」を目的とする感覚強度特性の一例を模式的に示すグラフである。本実施の形態に係る生理的刺激作用を目的とする匂いの提示方法は、一例として、臭気強度を概ね2.5〜1.5とし、かつユーザに対する匂いの提示時間割合を高くするようにする。本実施の形態において、「提示時間割合」とは、間欠的に匂いを提示する場合の1周期における匂いの提示時間の割合であるが、詳細については後述する。
図3(b)示すグラフでは、一例として、臭気強度2の匂いが継続する感覚強度特性としている。ユーザに、
図3(b)に示すような感覚強度特性で匂いを知覚させることにより、ユーザに対して生理的刺激作用をもたらし、その結果、ユーザのリフレッシュ感を醸成することができる。
【0045】
さらに、生理的鎮静作用を目的とする場合は、匂いがかすかに感じられる程度の強度(臭気強度2〜臭気強度1:「やっと感知できるにおい」程度)を保ちながら長時間持続して匂いを提示することが望ましい。気分をリラックスさせる場合のように、生理的鎮静作用を目的として匂いを提示する場合には、匂いが感じられる程度に感覚強度を保ちながらも、1回あたりの匂いの持続時間を長くすることにより、リラックス作用を効果的に発揮させることができるからである。
【0046】
図3(c)は、この「生理的鎮静作用」を目的とする感覚強度特性の一例を模式的に示すグラフである。本実施の形態に係る生理的鎮静作用を目的とする匂いの提示方法は、一例として、臭気強度を概ね2.0〜1.0とし、かつユーザに対する匂いの提示時間割合を高くするとともに、匂い時間長くする。
図3(c)示すグラフでは、一例として、臭気強度1.5の匂いが継続する感覚強度特性としている。ユーザに、
図3(c)に示すような感覚強度特性で匂いを知覚させることにより、ユーザに対して生理的鎮静作用をもたらし、その結果、ユーザのリラックス感を醸成することができる。
【0047】
以上が、各作用目的に応じた匂いの提示方法の基本であるが、実際には嗅覚順応があるため、
図3(a)のように10秒間隔で匂いの提示、非提示を繰り返すと、最初に提示した時に感じられる感覚強度が次第に低下してしまう。感覚強度が低下することは、
図3(b)あるいは(c)の場合も同様であり、一定に維持された感覚強度特性を造りだすことにも困難が伴う。すなわち、匂いの発生源を制御して意図する感覚強度特性を造り出すことは、一般的に非常に難しい。
【0048】
そこで、本実施の形態では、各作用目的に応じ、
図3に示すような提示する匂いの感覚強度の時間変化(順応特性)の目標特性(目標感覚強度特性)を想定し、この目標感覚強度特性を実現するように、匂いの感覚強度レベル、提示頻度、1回あたりの持続時間、および提示時間割合というパラメータの組み合わせを適切に設定する。このことにより、ユーザの周囲に各作用目的に応じた匂いの環境を造りだすことができ、その結果、心身に対する作用目的を拡大しつつ、作用目的に応じた匂いの作用をより効果的に発揮することが可能となる。
【0049】
つぎに、
図4および
図5を参照して、各作用目的と、該作用目的を実現する制御パラメータとの関係について、より詳細に説明する。
図4は、匂いを連続して提示した場合の感覚強度の時間変化を示すグラフであり、
図5は、作用目的と制御パラメータの設定方法との対応を示す図である。
【0050】
図4は、匂いを連続して提示した場合の感覚強度特性、つまり、感覚強度の時間変化(順応特性)の、匂いの種類による違いを例示した図である。
図4(a)は、比較的順応しやすい匂いAを、提示開始時(横軸の時間が0の位置)における臭気強度を臭気強度3(縦軸の目盛が100の位置)として提示した場合の感覚強度特性を示している。また、
図4(b)は、比較的順応しにくい匂いBを提示開始時のおける臭気強度を臭気強度3として提示した場合の感覚強度特性を示している。
【0051】
ここで、
図4に示す感覚強度特性の測定は、提示直後を100とし、知覚された匂いの強度変化を、0〜100の目盛ついたスライドバーを移動させて被験者が時系列的に示した値を記録することにより行っている。本測定例における被験者数は6名で、データの記録は1秒後ごとに行い、
図4は、6名の被験者が示した強度の値を平均したものである。
以下に示す感覚強度特性の測定においても、この感覚強度特性の評価方法を用いている。
【0052】
図4(a)に示すように、匂いAについては、感覚強度が提示開始直後の100%から80%に低下するまでの時間は60秒、50%に低下するまでの時間は180秒であった。また、
図4(b)に示すように、匂いBについては、感覚強度が提示開始直後の100%から80%に低下するまでの時間は120秒、50%に低下するまでの時間は270秒であった。
【0053】
このように、匂いの種類によって、感覚強度特性が異なり、したがって、匂いの種類によって、匂いに対する順応特性が異なる。本実施の形態では、このような匂いの種類による順応特性のばらつきを考慮し、どのような匂いについても感覚強度特性を制御することができる共通の制御パラメータとして、匂い時間T1、および無臭時間T2を導入した。
そして、この匂い時間T1、および無臭時間T2の組み合わせに基づく先述の匂い制御パターンによって、匂い発生部16を制御する。
【0054】
「匂い時間T1」は、匂いを提示する時間であり、「無臭時間T2」は、嗅覚を回復させるための匂いを提示しない時間、すなわち匂い発生部16の「停止時間」である。本実施の形態では、この匂い時間T1、および無臭時間T2を組み合わせた匂い制御パターンによって匂い発生部16を制御し、匂いを間欠的に提示することにより、作用目的に応じた感覚強度特性を有する匂い環境を造りだす。本実施の形態では、この匂い時間T1、および無臭時間T2による匂い発生部16の制御は、先述したように、制御部12が匂い発生部16を制御することにより実行される。
【0055】
本実施の形態では、さらに、各作用目的に応じた感覚強度特性を実現するための目標パラメータとして、匂い時間T1、および無臭時間T2を用いた、以下に示す(式1)で定義される「提示頻度F」、(式2)で定義される「提示時間割合D」を導入している。
F=1/(T1+T2) ・・・ (式1)
D=T1/(T1+T2) ・・・ (式2)
定義式から明らかなように、提示頻度Fは、匂いを提示する周期(つまり、頻度)であり、提示時間割合Dは、間欠な提示の1周期における匂いの提示時間の割合である。
【0056】
つぎに、
図5を参照して、各作用目的に応じた感覚強度特性を実現するための制御パラメータ(T1、T2)、および目標パラメータ(F、D)の設定について説明する。なお、以下の説明では、匂いの種類として、
図4(a)の感覚強度特性を有する匂いAを用いた場合を例示して説明する。
【0057】
まず、感覚刺激作用(覚醒低下時に覚醒させる作用)を目的として匂いAを提示する場合には、
図5に示すように、臭気強度を3.5〜2.5という比較的強い強度とし、この強い強度の匂いを高頻度で提示するように、制御パラメータT1およびT2を設定する。
感覚刺激作用目的の場合、匂い時間T1をできるだけ短くして順応による感覚強度の低下を抑制する必要がる。また、嗅覚を回復するための無臭時間T2もできるだけ短くし、全体として高頻度で匂い刺激を提示することが望ましい。
【0058】
より具体的には、本実施の形態では、匂い時間T1を、匂いを感じさせるための最短時間、すなわち10秒(呼吸2〜3回分の時間に相当)とし、無臭時間T2を、嗅覚の回復に必要な最短時間、すなわち30秒とし、極力順応による感覚強度の低下を抑制している。なお、この10秒という匂いを感じさせるための最短時間、および、30秒という嗅覚の回復に必要な最短時間は、これまでに検討されたデータに基づく時間である。
【0059】
この場合、提示頻度Fは40秒ごと(F=1/(10+30))、提示時間割合Dは、25%(D=10×100/(10+30))となる。制御パラメータT1およびT2をこのように設定することにより、匂いを提示する周期を40秒と最短に近い値とすることができるので、匂いを高頻度で提示することが可能となる。
【0060】
匂いAを、T1=10秒、T2=30秒(以下、このようなT1とT2の組合せを、匂い制御パターン(T1,T2)=(10,30)と表記する)とした場合の間欠提示で、20分間提示した場合の感覚強度変化を、連続提示の場合と併せて
図6に示す。
図6では、匂い提示開始時(横軸の時間=0の位置)の臭気強度を臭気強度3.0(縦軸の感覚強度=100の位置、以下、「初期感覚強度」という)としている。
図6において、ドットパターンで示された時間が匂い時間T1を示しており、T1とT1との間の白抜きで示された時間が無臭時間T2である。なお、無臭時間T2の期間では、被験者は、原則的にスライドバーを移動させていない。
【0061】
図6に示すように、連続提示では約60秒で感覚強度が初期感覚強度に対し80%以下となったのに対し、匂い制御パターン(T1,T2)=(10,30)の間欠提示では、約4分間、初期感覚強度に対し83%以上の感覚強度、すなわち臭気強度2.5(3.0×0.83)以上が維持されていることがわかる。また、20分の時間において、概ね60%以上の感覚強度が維持されていることがわかる。一方、このような感覚強度を維持しながらも、提示頻度を40秒に1回と、高頻度にすることができた。このように、本実施の形態に係る感覚刺激作用目的の匂い提示方法によれば、匂いを明確に感じられる感覚強度を保ちながら、高頻度で匂いを提示することができる。
【0062】
ここで、匂い制御パターン(T1,T2)=(10,30)で提示した場合の、匂い提示中の感覚強度の被験者6名に対する平均値を、連続提示した場合の平均値、および匂い制御パターン(T1,T2)=(10,10)で提示した場合の平均値と併せて
図7に示す。匂い制御パターン(T1,T2)=(10,10)による提示は、匂いの変化を知覚できる最短時間での間欠提示である。
図7中には、後述する匂い制御パターン(T1,T2)=(60,60)、匂い制御パターン(T1,T2)=(180,180)で提示した場合の平均値も併せて示した。
図7に示すように、匂い制御パターン(T1,T2)=(10,30)で提示した場合の感覚強度の平均値が最も高かった。つまり、本実施の形態では、匂い時間T1を10秒、無臭時間T2を30秒と設定することにより、高頻度で匂いを提示することができるとともに、比較的強い強度の匂いを提示することができるので、覚醒目的の匂いの提示に好適であることがわかる。
【0063】
一方、生理的刺激作用(気分をリフレッシュさせる作用)を目的として匂いAを提示する場合には、
図5に示すように、一例として、匂い時間T1を、匂いAの強度が初期感覚強度から80%程度に低下するまでにかかる時間、すなわち60秒とし、無臭時間T2を、T1と同じ時間、すなわち60秒とする。すなわち、匂い制御パターン(T1,T2)=(60,60)で匂いを提示する。この場合、提示頻度Fは120秒ごと(F=1/(60+60))、提示時間割合Dは、50%(D=60×100/(60+60))となる。制御パラメータT1およびT2をこのように設定することにより、匂いの提示時間割合を50%と高い値としつつ、匂いを提示することが可能となる。
【0064】
匂いAについて、初期感覚強度を臭気強度3.0とし、匂い制御パターン(T1,T2)=(60,60)の間欠提示で20分間提示した場合の感覚強度特性を、連続提示の場合と併せて
図8に示す。匂い制御パターン(T1,T2)=(60,60)の間欠提示では、20分の間、初期感覚強度に対して概ね50%以上の感覚強度、すなわち臭気強度1.5(3.0×0.5)以上を維持できた。このように、本実施の形態に係る生理的刺激作用目的の匂い提示方法によれば、匂いが感知される程度に感覚強度を保ちながら、匂いが提示される時間割合を高くすることができるので、リフレッシュ目的の匂いの提示に好適であることがわかる。
【0065】
また、生理的鎮静作用(気分をリラックスさせる作用)を目的として匂いAを提示する場合には、
図5に示すように、一例として、匂い時間T1を、匂いAの強度が初期感覚強度から50%程度に低下するまでにかかる時間、すなわち180秒とし、無臭時間T2は、T1と同じ時間とする。すなわち、匂い制御パターン(T1,T2)=(180,180)で匂いを提示する。この場合、提示頻度Fは360秒ごと(F=1/(180+180))、提示時間割合Dは、50%(D=180×100/(180+180))となる。制御パラメータT1およびT2をこのように設定することにより、匂いの提示時間割合を50%と高い値としつつ、匂い時間T1を長くして匂いを提示することが可能となる。
【0066】
匂いAについて、初期感覚強度を臭気強度3.0とし、匂い制御パターン(T1,T2)=(180,180)の間欠提示で20分間提示した場合の感覚強度特性を、連続提示の場合と併せて
図9に示す。匂い制御パターン(T1,T2)=(180,180)の間欠提示では、20分の間、初期感覚強度に対して概ね33%以上の感覚強度、すなわち臭気強度1.0(3.0×0.33)以上を維持できた。このように、本実施の形態に係る生理的鎮静作用目的の匂い提示方法によれば、匂いがかすかに感じられる程度に感覚強度を保ちながら、匂いが提示される時間割合を高くし、かつ匂い時間T1(1回あたりの匂いの提示における匂いの持続時間)を長くすることができるので、リラックス目的の匂いの提示に好適であることがわかる。
【0067】
なお、上記実施の形態では、生理的刺激作用目的の場合の匂い時間T1を、匂いAの強度が初期感覚強度から80%程度に低下するまでにかかる時間とし、生理的鎮静作用目的の場合の匂い時間T1を、匂いAの強度が初期感覚強度から50%程度に低下するまでにかかる時間とした形態を例示して説明したが、これに限られず、実験等から求めた具体的な匂いの順応特性等に基づいて設定した所定の強度に低下するまでにかかる時間としてよい。
【0068】
以上詳述したように、本実施の形態に係る匂い制御装置および匂い制御方法によれば、心身に対する作用目的を拡大しつつ、作用目的に応じた匂いの作用をより効果的に発揮させることができる。
【0069】
なお、上記実施の形態では、各作用目的の匂いの提示において、匂いAを共通に用いる形態を例示して説明したが、これに限られず、各作用目的に応じて用いる匂いを異ならせてもよい。たとえば、感覚刺激作用(覚醒作用)目的の場合には、刺激性のある匂い、すなわちペパーミントやスペアミント、レモン、ローズマリー、ブラックペッパーといった天然香料やそれに含まれる成分、またはその成分を含む香料が望ましい。一方、生理的刺激作用(リフレッシュ作用)目的の場合には、上記感覚刺激作用と同様な匂いに加え、気分をリフレッシュさせる匂い、すなわちティートリー、ユーカリ、グレープフルーツといった天然香料やそれに含まれる成分、またはその成分を含む香料が望ましい。また、生理的鎮静作用(リラックス作用)目的の場合には、気分をリラックスさせる匂い、すなわちラベンダー、オレンジその他の柑橘系、ローズといった天然香料やそれに含まれる成分、またはその成分を含む香料が望ましい。この場合、採用した各匂いごとに、各作用目的に対応する目標感覚強度特性を実現する匂い時間T1、無臭時間T2(制御パラメータ)を、実験等に基づいて決定すればよい。
【0070】
また、上記実施の形態では、初期感覚強度を臭気強度3とする形態を例示して説明したが、これに限られず、初期感覚強度を臭気強度2.5程度と弱くしたり、逆に臭気強度3.5程度と強くしたりしてもよい。この場合、選択された初期感覚強度に応じて制御パラメータである匂い時間T1、無臭時間T2を設定することにより、嗅覚順応を防ぎつつ、匂いの作用をより効果的に発揮させることができる。
【0071】
また、上記実施の形態では、各作用目的に応じて提示する匂いが単一の成分による匂いである場合を例示して説明したが、これに限られず、たとえば、複数の成分による匂いである混合臭を用いた形態としてもよい。この場合、その混合臭に対する順応特性、または、混合臭を構成する成分の1つに対する順応特性に基づいて、匂い時間T1、および無臭時間T2を決定すればよい。また、提示しようとする匂いに対する順応特性が未知の場合には、他の匂い、できれば順応しやすい匂いに対する順応特性から、匂い時間T1、および無臭時間T2を決定すればよい。
【0072】
また、上記実施の形態では、匂いの提示の開始の決定は、ユーザが入力部に設けられた電源ボタンを操作することにより、また、匂い提示の作用目的の選定は、ユーザが入力部に設けられた各作用目的に対応するボタンを操作することにより実行する形態を例示して説明したがこれに限られない。たとえば、ユーザの心身に関する情報(覚醒度が低下している等の情報)や、車両等の外部の情報である環境情報(天候、あるいは走行している道路の種類等の情報)に基づいて判定される心身状態に応じて、匂い提示の開始、あるいは、作用目的の選定が自動的に実行される形態としてもよい。この場合、心身に関する情報としては、たとえば、車両内に設けられたモニタカメラによる顔画像から得られる閉眼時間割合などが挙げられる。閉眼時間割合とは、開眼時に対して一定以上眼を閉じている時間の割合である。また、環境情報としては、たとえば、カーナビゲーションから得られる道路種別や交通量などが挙げられる。