特許第6554928号(P6554928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6554928
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】界面活性剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/10 20060101AFI20190729BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20190729BHJP
   C07C 233/47 20060101ALI20190729BHJP
   C07C 303/32 20060101ALI20190729BHJP
   C07C 309/15 20060101ALI20190729BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20190729BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C11D1/10
   C07C231/02
   C07C233/47
   C07C303/32
   C07C309/15
   A61K8/44
   A61Q19/10
   A61Q5/02
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-118754(P2015-118754)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-2209(P2017-2209A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】上田 龍
(72)【発明者】
【氏名】松尾 諭
(72)【発明者】
【氏名】藤田 博也
(72)【発明者】
【氏名】山仲 藍子
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平1−093566(JP,A)
【文献】 特開昭61−216724(JP,A)
【文献】 特開2004−238350(JP,A)
【文献】 特開平7−157795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
A61K 8/00
A61Q
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される(a)成分と式(2)で表される(b)成分とをモル比((a)/(b))が9/1〜3/7となるように含有し、かつ水を溶媒とする混合液に対し、0〜80℃、pH8〜13の条件下、(a)成分および(b)成分の全アミノ酸当量に対して0.5〜3倍モル量の炭素数8〜22の脂肪酸クロライドを反応させることで、式(3)で表される(c)成分と式(4)で表される(d)成分とを含有する混合物を得ることを特徴とする界面活性剤組成物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、RおよびRは同一または異なって、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)
【化2】
(式(2)中、RおよびRは同一または異なって、炭素数1〜3の直鎖アルキレン基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)
【化3】
(式(3)中、RおよびRは式(1)中のRおよびRとそれぞれ同一のアルキレン基を示し、RCOは炭素数8〜22の脂肪族アシル基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)
【化4】
(式(4)中、RおよびRは式(2)中のRおよびRとそれぞれ同一の直鎖アルキレン基を示し、RCOは式(3)中のRCOと同一の脂肪族アシル基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はN−アシル−N−ヒドロキシアルキル−β−アラニン誘導体を含む界面活性剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、身体および毛髪の洗浄を目的とする洗浄剤組成物の主成分としては、優れた界面活性能と高い安全性を有するN−アシルアミノ酸型アニオン活性剤が広く使用されるようになっている。このような化合物としては、N−アシルグルタミン酸塩、N−アシルグリシン塩、N−アシルメチル−β−アラニン塩、N−アシルメチルタウリン塩などが挙げられる。一般的な身体および毛髪洗浄剤組成物としては、これらのN−アシルアミノ酸型アニオン活性剤や、その他アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤を複数組み合わせることで、しっとり感やさっぱり感といった多様な使用感を演出することができる。
【0003】
このようなN−アシルアミノ酸型アニオン活性剤の中でも、特許文献1に開示されたN−アシルヒドロキシアルキル−β−アラニン塩は、十分な起泡力および洗浄力を有し、かつ耐硬水性にも優れることが示されており、身体および毛髪の洗浄用途などにおいて有望な化合物となっている。
しかしこの化合物は、N−アシルアミノ酸型界面活性剤製造の常法であるショッテンバウマン法を用いた場合、反応系の著しい増粘および撹拌効率の悪化を引き起こすので、製造設備に過負荷を与え、さらに収率や歩留りが悪化することから効率的でないという問題を有していた。この問題を解消する方法としては、反応溶液の濃度を著しく低下させて増粘を低減する手法が考えられる。しかしこの手法は、歩留りの大幅な低下に繋がるので、工業的に望ましくない。したがって水溶媒の反応系において増粘を阻止することは通常困難とされる。
【0004】
このような反応時の増粘に関しては、例えば特許文献2に示されるように、親水性有機溶媒と水との混合溶媒を使用する改良ショッテンバウマン法によって抑制できることが知られている。
しかしこの方法では、使用した有機溶媒を除去する工程が必要となる。多くの場合において、加熱減圧下で親水性有機溶媒を留去する手法が用いられているが、操作の煩雑化、工数および製造時間の増加、歩留りの低下、加熱による色相の悪化、残存する有機溶媒の臭気など課題が多かった。特に、身体洗浄剤などの用途では、色相や臭気が製品価値に多大な影響を及ぼす可能性があった。
【0005】
以上のとおり、これまでに、N−アシル−N−ヒドロキシアルキル−β−アラニン誘導体を、水を溶媒として、効率的かつ簡便に製造する方法は確立されておらず、その製法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−90295号公報
【特許文献2】特開平11−12240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、N−アシル−N−ヒドロキシアルキル−β−アラニン誘導体を含む界面活性剤組成物を製造する方法であって、ショッテンバウマン反応時に生じる著しい増粘を、親水性有機溶媒を使用せずに、抑制することで、反応率が高く、かつ脱溶媒などの非効率的な後処理を必要とすることなく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、新規な界面活性剤組成物の開発を目指し鋭意検討を行った結果、水溶媒中におけるショッテンバウマン反応時に、式(1)で表される(a)成分に対して(2)で表される(b)成分を所定のモル比で添加した混合アミノ酸を原料とすることで、反応時の増粘が抑制され反応率が向上するとともに、親水性有機溶媒を使用した際に必要となる、脱溶媒などの煩雑な工程を経ることなく、簡便な後処理によって界面活性剤組成物が得られることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、式(1)で表される(a)成分と式(2)で表される(b)成分とをモル比((a)/(b))が9/1〜3/7となるように含有し、かつ水を溶媒とする混合液に対し、0〜80℃、pH8〜13の条件下、(a)成分および(b)成分の全アミノ酸当量に対して0.5〜3倍モル量の炭素数8〜22の脂肪酸クロライドを反応させることで、式(3)で表される(c)成分と式(4)で表される(d)成分とを含有する混合物を得ることを特徴とする界面活性剤組成物の製造方法である。
【化1】
(式(1)中、RおよびRは同一または異なって、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)
【化2】
(式(2)中、RおよびRは同一または異なって、炭素数1〜3の直鎖アルキレン基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)
【化3】
(式(3)中、RおよびRは式(1)中のRおよびRとそれぞれ同一のアルキレン基を示し、RCOは炭素数8〜22の脂肪族アシル基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)
【化4】
(式(4)中、RおよびRは式(2)中のRおよびRとそれぞれ同一の直鎖アルキレン基を示し、RCOは式(3)中のRCOと同一の脂肪族アシル基を示し、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水を溶媒としたショッテンバウマン反応中であっても反応系の増粘を抑制することができ、反応率を向上させるとともに、親水性有機溶媒を使用する必要がないので脱溶媒などの煩雑な工程を経ることなく、簡便な後処理によってN−アシル−N−ヒドロキシアルキル−β−アラニン塩を含む界面活性剤組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明は、N−アシル−N−ヒドロキシアルキル−β−アラニン塩を含む界面活性剤組成物を製造する方法であり、上記式(1)で表される(a)成分および上記式(2)で表される(b)成分を原料とする。以下、(a)成分および(b)成分を説明する。
【0012】
〔(a)成分〕
(a)成分は、上記式(1)で表されるN−ヒドロキシアルキル−β−アラニン誘導体である。
式(1)中のRおよびRは同一または異なって、炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基を示す。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基が挙げられ、RおよびRのいずれも好ましくはエチレン基、プロピレン基である。すなわち、式中ROHとしては、例えば、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシイソブチル基などが挙げられ、好ましくはヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基である。また、式中のRCOOH(Mが水素原子の場合)としては、例えば、カルボキシメチレン基、カルボキシエチレン基、カルボキシプロピレン基、カルボキシイソプロピレン基、カルボキシブチレン基、カルボキシイソブチレン基などが挙げられ、好ましくはカルボキシエチレン基、カルボキシプロピレン基である。
また、式(1)中のMは、アルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。アルカリ金属原子としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。これらのうち好ましくは、ナトリウム、カリウム、トリエタノールアミンであり、より好ましくはナトリウム、カリウムである。
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、N−ヒドロキシエチル−β−アラニンナトリウム、N−ヒドロキシエチル−β−アラニントリエタノールアミン、N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンナトリウム、N−ヒドロキシプロピル−β−アラニントリエタノールアミンなどが挙げられ、これらのうち好ましくはN−ヒドロキシエチル−β−アラニンナトリウム、N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンナトリウムである。
本発明においては、(a)成分として上記式(1)に包含される複数の化合物のうち一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0013】
〔(b)成分〕
(b)成分は、上記式(2)で表される中性アミノ酸誘導体である。
式(2)中のRおよびRは同一または異なって、炭素数1〜3の直鎖アルキレン基を示し、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が挙げられる。Rとして好ましくはメチレン基、エチレン基であり、より好ましくはメチレン基である。またRとして好ましくはエチレン基、プロピレン基であり、より好ましくはエチレン基である。
また、式(2)中のXはカルボン酸塩(−COOM)、またはスルホン酸塩(−SO)を示す。また、Mはアルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。アルカリ金属原子としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。これらのうち好ましくは、ナトリウム、カリウム、トリエタノールアミンであり、より好ましくはナトリウム、カリウムである。
式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、N−メチル−β−アラニンナトリウム、N−エチル−β−アラニンナトリウム、N−メチルタウリンナトリウム、N−エチルタウリンナトリウム、N−メチルグリシンナトリウム、N−エチルグリシンナトリウムなどが挙げられ、これらのうち好ましくはN−メチル−β−アラニンナトリウム、N−メチルタウリンナトリウムである。
本発明においては、(b)成分として上記式(2)に包含される複数の化合物のうち一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。
【0014】
〔混合液〕
本発明の製造方法においては、まず上記(a)成分および上記(b)成分を含有し、かつ水を溶媒とする混合液を用意する。混合液中における(a)成分と(b)成分の含有割合は、モル比((a)/(b))で9/1〜3/7、好ましくは6/4〜4/6である。モル比((a)/(b))が大きすぎる場合には、反応系の増粘を引き起こし、反応率が低下することがあり、モル比((a)/(b))が小さすぎる場合には、反応率の低下および(c)成分の分率の低下を引き起こすことがある。
混合液においては、上記(a)成分および上記(b)成分の総含有量が1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%となるように溶媒(水)の含有量を調整することが望ましい。
なお、本発明の製造方法においては、親水性有機溶媒を用いないことが特徴の一つであるが、脱溶媒などの後処理を不要とする限りにおいて混合液に微量な親水性有機溶媒が含まれていてもよい。
【0015】
〔ショッテンバウマン反応〕
本発明の製造方法においては、上記混合液に脂肪酸クロライドを滴下などにより加えて反応させる。
使用される脂肪酸クロライドは、炭素数8〜22の脂肪酸クロライドであり、炭素数8〜22の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸、またはこれらの一種または二種以上を含む混合脂肪酸の塩化物である。例えば、カプリル酸クロライド、カプリン酸クロライド、ラウリン酸クロライド、ミリスチン酸クロライド、パルミチン酸クロライド、ステアリン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、2−エチルヘキサン酸クロライド、オレイン酸クロライド、ベヘニン酸クロライド等の単一組成の脂肪酸クロライドのほか、ヤシ油脂肪酸クロライド、パーム核油脂肪酸クロライド、牛脂脂肪酸クロライド等の混和組成の脂肪酸クロライド等が挙げられ、好ましくはカプリン酸クロライド、ラウリン酸クロライド、ミリスチン酸クロライド、ヤシ油脂肪酸クロライドであり、より好ましくはラウリン酸クロライド、ヤシ油脂肪酸クロライドである。
【0016】
脂肪酸クロライドの添加量は、(a)成分および(b)成分の全アミノ酸当量に対して0.5〜3倍モル量であり、好ましくは0.9〜1.2倍モル量である。添加量が少なすぎる場合には、生成物量の低減を引き起こすため経済的ではないことがあり、添加量が多すぎる場合には、多量の脂肪酸塩が副生することがある。
【0017】
脂肪酸クロライドを添加して反応させる際の溶液のpHは8〜13であり、好ましくは10〜13である。pHが低すぎる場合には、反応の進行に著しい時間を要し、経済的ではないことがある。またpHが高すぎる場合には、添加した脂肪酸クロライドの加水分解が促進され、脂肪酸塩の副生を伴って収率が低下することがある。
ショッテンバウマン反応中に塩酸が発生するので、発生した塩酸を適宜または断続的にアルカリ性物質を加えることで、好ましいpHを維持することができる。アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらのうち好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0018】
脂肪酸クロライドを添加して反応させる際の溶液の温度は0〜80℃であり、好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜45℃である。温度が低すぎる場合には、反応が著しく遅くなることがあり、温度が高すぎる場合には、脂肪酸の副生を伴って収率が低下することがある。
反応時は脂肪酸クロライドの滴下に伴って発熱が生じ、液温の上昇を招くことから、好ましい温度を維持するために、反応前の液温を20℃前後に調整する、脂肪酸クロライドを1時間以上かけて徐々に滴下し急激な温度上昇を防ぐ、溶液を冷却する、などの一般的な手段を講じることができる。
反応時間は、例えば1〜20時間程度である。
【0019】
ショッテンバウマン反応後の反応液は、そのまま使用することができるが、常法により脱塩した後、pH調整して使用してもよい。
【0020】
〔界面活性剤組成物〕
本発明の製造方法によって、上記式(3)で表される(c)成分と上記式(4)で表される(d)成分とを含有する混合物が得られる。(c)成分および(d)成分はいずれもN−アシルアミノ酸型界面活性剤であるから、かかる混合物は界面活性剤組成物、特にN−アシルアミノ酸型界面活性剤組成物と表記することができる。以下、(c)成分および(d)成分を説明する。
【0021】
〔(c)成分〕
(c)成分は、(a)成分に対して脂肪酸クロライドを反応させた生成物であり、N−アシル−N−ヒドロキシアルキル−β−アラニン誘導体である。よって、式(3)中のRおよびRは式(1)中のRおよびRとそれぞれ同一のアルキレン基を示す。
また、式(3)中のRCOは炭素数8〜22の脂肪族アシル基を示す。脂肪族アシル基は、炭素数8〜22の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸、もしくはこれらの一種または二種以上を含む混合脂肪酸由来のアシル基である。例えば、カプリリル基、カプロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イソステアロイル基、2−エチルヘキサノイル基、オレオイル基、ベヘニル基、ヤシ油脂肪酸アシル基、パーム核油脂肪酸アシル基が挙げられる。好ましくは、カプリリル基、ラウロイル基、ミリストイル基、ヤシ油脂肪酸アシル基、パーム核油脂肪酸アシル基である。より好ましくは、ラウロイル基、ヤシ油脂肪酸アシル基である。
また、一般式(3)中のMは、アルカリ金属原子、アルカノールアミン、水素原子を示す。アルカリ金属原子としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。これらのうち好ましくは、ナトリウム、カリウム、トリエタノールアミンであり、より好ましくはナトリウム、カリウムである。
式(3)で表される化合物の具体例としては、N−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンナトリウム、N−ラウロイル−N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンナトリウムなどが挙げられ、これらのうち好ましくはN−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンナトリウム、N−ラウロイル−N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンナトリウムである。
【0022】
〔(d)成分〕
(d)成分は、(b)成分に対して脂肪酸クロライドを反応させた生成物である。よって、式(4)中のRおよびRは式(2)中のRおよびRとそれぞれ同一の直鎖アルキレン基を示す。
また式(4)中のRCOは式(3)中のRCOと同一の脂肪族アシル基を示す。
さらに式(4)中のXはカルボン酸塩(−COOM)、またはスルホン酸塩(−SO)を示す。
はアルカリ金属、アルカノールアミン、水素原子を示す。アルカリ金属原子としては、例えば、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。これらのうち好ましくは、ナトリウム、カリウム、トリエタノールアミンであり、より好ましくはナトリウム、カリウムである。
式(4)で表される化合物の具体例としては、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−メチル−β−アラニンナトリウム、N−ラウロイル−N−メチルタウリンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−メチルタウリンナトリウム、N−ラウロイル−N−メチルグリシンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−メチルグリシンナトリウムなどが挙げられ、これらのうち好ましくはN−ラウロイル−N−メチル−β−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−メチル−β−アラニンナトリウム、N−ラウロイル−N−メチルタウリンナトリウムである。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び処方例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下に記載の反応率は、高速液体クロマトグラフィー測定の結果より、得られた(c)成分のモル数を計算し、式(5)を使用して算出した。以下、ナトリウムはNaで表記する。
【0024】
【数1】
【0025】
<測定条件>
カラム:Wakosil−II 5C18HG(3.0mm(直径)×150mm)
溶離液:0.1M リン酸二水素ナトリウム緩衝液(pH2.1±0.1)とメタノールの1:3(体積比)溶液
流速:1ml/分
検出機:紫外検出器210nm
【0026】
〔参考製造例1:N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaの製造〕
モノエタノールアミン162.5g(2.66mol)と水590gを仕込んだ後、撹拌を行いながらアクリロニトリル156.8g(2.96mol)を1時間かけて滴下し、その後30分間熟成させた。この間、液温は40〜50℃に維持した。この反応液を、撹拌下、70℃〜80℃に維持された48%のNaOH水溶液211.7g(2.54mol)中に1時間かけて滴下し、その後30分間熟成させた。得られた溶液を70〜80℃、200〜300mmHgの減圧条件下で5時間還流させてアンモニアを除去することで、40%のN−ヒドロキシエチル−β−アラニンNa水溶液980.2g(2.53mol)を得た。
【0027】
〔実施例1:N−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaを含む界面活性剤組成物の製造〕
参考製造例1得られた40%のN−ヒドロキシエチル−β−アラニンNa水溶液73.4g(0.19mol)、37%のN−メチル−β−アラニンNa水溶液95.9g(0.29mol)、48%のNaOH水溶液20.0g(0.24mol)および水399.5gを仕込んだ後、ラウリン酸クロライド52.8g(0.24mol)を1時間かけて滴下した。この間、液温は20℃から33℃に上昇し、pHは13から10に低下した。再び48%のNaOH水溶液20.0g(0.24mol)を加えてpHを13とした後、ラウリン酸クロライド52.8g(0.24mol)を1時間かけて滴下し、その後30分間熟成させた。N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaおよびN−メチル−β−アラニンNaの全アミノ酸当量に対するラウリン酸クロライドの滴下量は1.0倍モル量(0.48mol)であった。またこの間の液温は31〜45℃であった。
反応液の温度を70〜80℃に昇温した後、硫酸を用いて溶液のpHを1.5とし、有機層と水層に分層させて脱塩処理を行った。分取した有機層140.3gと温水266.0gを仕込んだ後、NaOH水溶液を用いてpH7.6となるように調整して界面活性剤組成物を得た。
高速液体クロマトグラフィー測定の結果、この組成物には、N−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaが38.6g(0.11mol)、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニンNaが87.6g(0.28mol)含まれており、反応率は57.9%であった。
【0028】
〔実施例2:N−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaを含む界面活性剤組成物の製造〕
実施例1において、使用するアミノ酸の量を、40%のN−ヒドロキシエチル−β−アラニンNa水溶液を112.0g(0.29mol)、37%のN−メチル−β−アラニンNa水溶液を62.8g(0.19mol)に変えた以外は同様の操作を実施し、界面活性剤組成物を得た。
この組成物にはN−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaが56.7g(0.17mol)含まれており、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニンNaが57.2g(0.19mol)含まれており、反応率は58.6%であった。
【0029】
〔実施例3:N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaを含む界面活性剤組成物の製造〕
実施例1において、使用する脂肪酸クロライドをラウリン酸クロライドからヤシ油脂肪酸クロライド105.2g(0.48mol)に変えた以外は同様の操作を実施し、界面活性剤組成物を得た。
この組成物にはN−ヤシ油脂肪酸アシル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaが38.1g(0.11mol)含まれており、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−メチル−β−アラニンNaが87.2g(0.28mol)含まれており、反応率は57.9%であった。
【0030】
〔実施例4:N−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaを含む界面活性剤組成物の製造〕
実施例1において37%のN−メチル−β−アラニンNa水溶液を38%N−メチルタウリンNa水溶液122.8g(0.29mol)に変えた以外は同様の操作を実施し、界面活性剤組成物を得た。
この組成物には、N−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaが39.5g(0.11mol)含まれており、N−ラウロイル−N−メチルタウリンNaが98.9g(0.29mol)含まれており、反応率は57.9%であった。
【0031】
〔参考製造例2:N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンNaの製造〕
参考製造例1において、モノエタノールアミンをモノプロパノールアミン199.7g(2.66mol)に変えた以外は同様の操作を実施し、40%のN−ヒドロキシプロピル−β−アラニンNa水溶液1023.7g(2.42mol)を得た。
【0032】
〔実施例5:N−ラウロイル−N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンNaを含む界面活性剤組成物の製造〕
実施例1において、40%のN−ヒドロキシエチル−β−アラニンNa水溶液を、参考製造例2で得られた40%のN−ヒドロキシプロピル−β−アラニンNa水溶液80.4g(0.19mol)に変えた以外は同様の操作を実施し、界面活性剤組成物を得た。
この組成物には、N−ラウロイル−N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンNaが41.5g(0.12mol)含まれており、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニンNaが87.0g(0.28mol)含まれており、反応率は63.2%であった。
【0033】
〔比較例1〕
実施例1において、37%のN−メチル−β−アラニンNa水溶液を使用せず、40%のN−ヒドロキシエチル−β−アラニンNa水溶液187.2g(0.48mol)のみを反応原料として用いた以外は同様の操作を実施しようとしたところ、ラウリン酸クロライドの滴下中に反応系の著しい増粘が生じ、撹拌が困難となった。有機層を分取した後、中和操作により界面活性剤組成物を得た。
この組成物には、N−ラウロイル−N−ヒドロキシエチル−β−アラニンNaが66.1g(0.19mol)含まれており、反応率は39.6%であった。
【0034】
〔比較例2〕
比較例1において、40%のN−ヒドロキシエチル−β−アラニンNa水溶液に変えて40%のN−ヒドロキシプロピル−β−アラニンNa水溶液203.0g(0.48mol)のみを反応原料として用いた以外は同様の操作を実施しようとしたところ、ラウリン酸クロライドの滴下中に反応系の著しい増粘が生じ、撹拌が困難となった。有機層を分取した後、中和操作により界面活性剤組成物を得た。
この組成物には、N−ラウロイル−N−ヒドロキシプロピル−β−アラニンNaが66.3g(0.19mol)含まれており、反応率は39.6%であった。
【0035】
以上の結果に関し、使用した原料、反応率との関係について下記第1表および第2表に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
本発明の製造方法によれば、N−アシル−N−ヒドロキシアルキル−β−アラニン誘導体を含む界面活性剤組成物を水溶媒中で反応率良く製造することができる。本発明方法は親水性有機溶媒が不要であるので、脱溶媒などの煩雑な工程を必要とせず、時間的、エネルギー的な効率に優れている。