【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー用ダンパー1aについて説明する図であり、
図1(a)は平面図であり、
図1(b)はL−O−X断面図である。スピーカー用ダンパー1aは、(図示しない)ボイスコイルボビンと接合する平面を備える内周部2と、(図示しない)フレームと接合する平面を備える外周部3と、内周部2と外周部3とを連結する波形で円周状のコルゲーション4から構成される支持可動部とを備え、支持可動部のコルゲーション4が、複数の孔5を備える。
【0022】
コルゲーション4は、複数の山部6と谷部7とを有する。コルゲーション4の山部6は、スピーカー用ダンパー1aを表側から見た場合のコルゲーションが最も高くなる頂きの部分である。本実施例の場合には、
図1(a)に図示されている
図1(b)の断面図の上側が、スピーカー用ダンパー1aの表側である。また、コルゲーション4の谷部7は、スピーカー用ダンパー1aを表側から見た場合のコルゲーションが最も低くなる底の部分である。
図1(b)の断面図において、基準平面を示すL−O−Xの線は、内周部2または外周部3を規定し、また、複数の山部6と谷部7との境界を規定している。
【0023】
スピーカー用ダンパー1aは、綿およびポリエステル繊維の複数の縦糸及び横糸が概略直交する織布に、フェノール樹脂を含浸したプリプレグを基材とし、金型で加熱成型されて、内周および外周を切断されて形成されるダンパーである。なお、スピーカー用ダンパー1aの基材の織布は、複数の縦糸がX軸方向、複数の横糸がY軸方向に、そしてこれらが概略直交するように編み込まれており、
図1の領域8は、織布の織目方向を模式的に表している。
【0024】
本実施例のスピーカー用ダンパー1aでは、複数の孔5は、山部6の頂点を含む位置に形成されて隣接する谷部7との境界にまで至らない大きさの孔であって、複数の山部6に設けられる。複数の孔5は、それぞれが異なる同心円により規定される内径部および外径部を有する円弧状であって、同心円状に中心Oから90度の均等な間隔で配置されている。本実施例では、複数の孔5は、3つの同心円上に規定される山部6に設けられて、周方向に4つずつ、合計12カ所に配置されている。また、複数の孔5は、例えば異なる同心円上に配置される3つが中心Oから半径方向Lに向かって揃って1列に配置されている。
【0025】
図2は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー用ダンパー1bについて説明する図であり、
図2(a)は平面図であり、
図2(b)はL−O−X断面図である。スピーカー用ダンパー1bは、上述のスピーカー用ダンパー1aと複数の孔5の配置が異なる他は共通するスピーカー用ダンパーである。したがって、共通する部分は共通の符号を用い、重複する説明は省略する。
【0026】
スピーカー用ダンパー1bでは、複数の孔5は、谷部7の頂点を含む位置に形成されて隣接する山部6との境界にまで至らない大きさの孔であって、複数の谷部7に設けられる。複数の孔5は、それぞれが異なる同心円により規定される内径部および外径部を有する円弧状であって、同心円状に中心Oから90度の間隔で配置されている。本実施例では、複数の孔5は、3つの同心円上に規定される谷部7に設けられて、周方向に4つずつ、合計12カ所に配置されている。また、複数の孔5は、例えば異なる同心円上に配置される3つが中心Oから半径方向Lに向かって揃って1列に配置されている。
【0027】
図3は、スピーカー用ダンパーについて、静荷重に対する変位特性を説明する特性図である。具体的には、静荷重に対する変位特性は、50gの重りを用いて、それぞれ「表」の場合と「裏」の場合とを測定して、前後振幅変位の対称性を測定する。このグラフにおいて、「表」の場合と「裏」の場合とが近い静荷重変位値を示すものが、前後振幅の対称性が良好なスピーカー用ダンパーを示すことになる。例えば、「表」の場合には、表側を上向きにして外周部3を固定したスピーカー用ダンパーの内周部2に50gの重りを載せて、内周部2の変位値を測定する。「裏」の場合には、表側を下向きにして同様に測定する。
【0028】
図3の測定では、上記実施例のスピーカー用ダンパー1aと、1bと、(図示しない)比較例の複数の孔5を備えないスピーカー用ダンパー10と、をそれぞれ3つのサンプルについて測定した測定値を表示している。なお、上記実施例のスピーカー用ダンパー1aと、1bと、比較例のスピーカー用ダンパー10とでは、複数の孔5の有無/配置以外の条件は同一である。したがって、スピーカー用ダンパー1aと、1bと、10との比較は、複数の孔5を設ける位置の相違、つまり、複数の孔5を山部6に設ける場合と、複数の孔5を谷部7に設ける場合と、複数の孔5を設けない場合と、についての作用効果の相違を示すことができる。
【0029】
最初に、比較例のスピーカー用ダンパー10では、「10:表」の場合と「10:裏」の場合とが近い静荷重変位値を示しており、前後振幅の対称性が良好なスピーカー用ダンパーであることが分かる。複数の孔5を備えない比較例のスピーカー用ダンパー10は、本発明の複数の孔5を設ける位置の相違を明確にするべく、前後振幅の対称性が良好なものを選定している。
【0030】
次に、実施例のスピーカー用ダンパー1aまたは1bでは、比較例のスピーカー用ダンパー10に比べて変位量が大きくなっている。これは、複数の孔5を備えることで支持可動部のスティフネスが低下して柔らかくなっていることを示す。また、「表」の場合と「裏」の場合とが異なる静荷重変位値を示すようになっている。具体的には、スピーカー用ダンパー1aでは、「1a:表」の場合と「1a:裏」の場合とで「1a:表」の場合の方が大きい静荷重変位値を示し、一方で、スピーカー用ダンパー1bでは、「1b:表」の場合と「1b:裏」の場合とで「1b:裏」の場合の方が大きい静荷重変位値を示している。
【0031】
この結果は、本実施例のスピーカー用ダンパー1aのように、コルゲーションの複数の山部6に複数の孔5を設ける場合には、前後振幅の対称性を前側に振れやすく調整可能であることを示唆し、また、本実施例のスピーカー用ダンパー1bのように、コルゲーションの複数の谷部6に複数の孔5を設ける場合には、前後振幅の対称性を後側に振れやすく調整可能であることを示唆している。
【0032】
したがって、仮にコルゲーション部分に孔を有しない前後振幅の対称性が優れないスピーカー用ダンパーが存在する場合には、本実施例のスピーカー用ダンパー1aまたは1bのように、コルゲーションの複数の山部6または谷部7に複数の孔5を設ければ、前後振幅の対称性を前側または後側に振れやすくするように調整可能である。スピーカー用ダンパーの設計において、上下振幅の対称性に関する検討をシミュレーションによって行った場合であっても、成形型を起型して製作されたスピーカー用ダンパーの上下変位量がシミュレーションと合致しない場合がある。この様な場合には、新たに成形型を起こす以外に上下振幅の対称性をコントロールする術がないが、上記の様にコルゲーションの複数の山部6または谷部7に複数の孔5を設ければ、前後振幅の対称性を前側または後側に振れやすくするように調整可能である。
【0033】
つまり、本実施例のスピーカー用ダンパー1aまたは1bのようにコルゲーションの複数の山部6に複数の孔5を設けたスピーカー用ダンパーを用いるスピーカー(図示しない)は、前後振幅の対称性を改善でき、その結果、スピーカー用ダンパーの内周部2と接合するボイスコイルボビンを含む振動系の振動が改善され、音質および耐久性に優れるスピーカーとなる。
【0034】
複数の孔5の大きさおよび位置は、スピーカー用ダンパー1aまたは1bの複数の山部6および複数の谷部7を有する支持可動部4のコルゲーションの形状により、自由に設定し得る。複数の孔5のそれぞれは、山部6または谷部7の頂点を含む位置に形成されて隣接する谷部7または山部6との境界にまで至らない大きさであればよく、単純な丸孔であってもよく、好ましくは、上記実施例の様な異なる同心円により規定される内径部および外径部を有する円弧状であってもよい。円弧状の孔5の長さを変えることで、コルゲーションの山部6または谷部7の固さ/柔らかさを調整することができる。
【0035】
また、複数の孔5は、同一の同心円上の山部6または谷部7に複数設けられていればよい。配置する複数の孔5の数を変えることで、コルゲーションの山部6または谷部7の固さ/柔らかさを調整することができる。単一の同心円上の山部6または谷部7に設けられる複数の孔5の円周方向の長さが、全体の円周長に占める割合が大きくなるほど、複数の孔5が与える影響を大きくすることができる。配置する複数の孔5の大きさを変えることで、コルゲーションの山部6または谷部7の固さ/柔らかさを調整することができる。
【0036】
また、コルゲーション4を構成する基材が、複数の縦糸及び横糸が概略直交する織布であるので、例えば、複数の孔5の間に形成される支持可動部4の支持アームでは、横糸がX軸方向で、かつ、縦糸がY軸方向になり、半径方向(ここではX軸方向)には編目が延びにくくなっている。他の3つの支持アームにおいても同様であり、中心Oに対してほぼ直交した編目が形成されるので、スピーカー用ダンパー1aまたは1bの内周部2が大きく振幅変位する際には、支持アームを延びにくく調整することができる。
【0037】
本実施例のスピーカー用ダンパー1aまたは1bでは、中心Oと複数の孔5とを結ぶ直線Lが、X軸およびY軸に対して概略45度の関係となる方向に孔5aを配置するようにしたが、この角度は、0度から90度の間で変更できる。例えば、中心Oと孔5aとを結ぶ直線Lが、X軸に近づく0度(もしくはY軸に近づく90度)の場合であれば、複数の縦糸及び横糸からなる編目が広がりやすくなるので、スピーカー用ダンパー1aまたは1bの内周部2が大きく振幅変位する際には、支持アームを延びやすいように調整することができる。したがって、本発明のスピーカー用ダンパーは、コルゲーション4の形状変化のみならず、4カ所の孔を設ける場合に、一つの目の孔を配置する角度を0度から90度の間で変更することにより、振幅変位の直線性、および、振幅制限性の調整が可能である。
【0038】
また、複数の孔5の数は、本実施例の12に限らず、複数であればよい。また、孔の配置も円周方向に等間隔である必要はなく、内周部2および外周部3の形状に基づいて不均等でもよい。具体的には、円形スピーカー用のダンパーに限らず、楕円形や、トラック形といったスピーカーに用いるダンパーであって、長径および短径を備えるダンパーに孔を設けたものであればよい。
【0039】
図4は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー用ダンパー1cについて説明する図であり、
図4(a)は平面図であり、
図4(b)はL−O−M断面図である。なお、
図4において、実施例1と共通する部分は共通の符号を用い、説明は省略する。
【0040】
本実施例のスピーカー用ダンパー1cでは、複数の孔5は、山部6の頂点を含む位置に形成されて隣接する谷部7との境界にまで至らない大きさの孔であって、複数の山部6に設けられるのは、先の実施例のスピーカー用ダンパー1aと共通する。複数の孔5は、それぞれが異なる同心円により規定される内径部および外径部を有する円弧状であって、同心円状に中心Oから120度の均等な間隔で配置されている点で相違する。
【0041】
また、本実施例では、複数の孔5は、3つの同心円上に規定される山部6に設けられて、周方向に3つずつ、合計9カ所に配置されているが、複数の孔5は、例えば異なる同心円上に配置される3つが中心Oから半径方向LまたはMに向かって揃って1列に配置されておらず、いずれの同一の半径方向には重ならないように配置されている。
【0042】
複数の孔5を設ける方法としては、スピーカー用ダンパーの内周および外周を切断する際に単一の切断型により同時に切断してもよく、また、形成されたスピーカー用ダンパーに対して、孔を設けるための切断治具によって作業してもよい。
【0043】
また、本発明のスピーカー用ダンパーの基材は、綿及びポリエステル繊維、もしくはアラミド繊維の織布もしくは不織布でもよく、含浸する樹脂も、フェノール樹脂、もしくは、メラミン樹脂でもよい。本発明は、コルゲーションを備えた熱硬化性樹脂を含むダンパーであれば、基材の材料に制限されない。