(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。
図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
図1において、実線BBLはビードベースラインを表している。このビードベースラインは、タイヤ2が装着されるリム(図示されず)のリム径(JATMA参照)を規定する線である。このビードベースラインは、軸方向に延びる。
【0024】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のウィング6、一対のサイドウォール8、一対のクリンチ10、一対のビード12、カーカス14、ベルト16、バンド18、インナーライナー20、一対のチェーファー22及び一対のスキン層24を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、乗用車に装着される。
【0025】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面26を形成する。トレッド4には、溝28が刻まれている。この溝28により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は、キャップ層30とベース層32とを有している。
【0026】
キャップ層30は、ベース層32の半径方向外側に位置している。キャップ層30は、ベース層32に積層されている。
【0027】
このタイヤ2では、キャップ層30は非導電性である。本発明において非導電性とは、当該部材の体積固有抵抗が1.0×10
8Ω・cm以上であることを意味する。特には、非導電性の部材の体積固有抵抗は、1.0×10
10Ω・cm以上である。
【0028】
キャップ層30は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。つまりキャップ層30は架橋ゴムである。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)及びポリクロロプレン(CR)が挙げられる。ジエン系ゴムには、共役ジエン系モノマーと芳香族ビニル系モノマーとの共重合が含まれる。この共重合体の具体例としては、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体(S−SBR)及び乳化重合スチレン−ブタジエン共重合体(E−SBR)が挙げられる。キャップ層30に特に適したポリマーは、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体である。
【0029】
キャップ層30のゴム組成物は、主たる補強剤として、シリカを含んでいる。このキャップ層30を備えたタイヤ2の転がり抵抗は、小さい。シリカは、タイヤ2の低燃費性能に寄与する。低燃費性能とキャップ層30の強度との観点から、シリカの量は、基材ゴム100質量部に対して40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上が特に好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0030】
キャップ層30のゴム組成物は、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカ及びコロイダルシリカを含みうる。シリカの窒素吸着比表面積(BET)は150m
2/g以上が好ましく、175m
2/g以上が特に好ましい。入手容易なシリカの窒素吸着比表面積は、250m
2/g以下である。
【0031】
キャップ層30のゴム組成物は、シリカと共に、シランカップリング剤を含んでいる。このカップリング剤により、ゴム分子とシリカとの間の堅固な結合が達成されると推測される。このカップリング剤により、シリカと他のシリカとの間の堅固な結合が達成されると推測される。
【0032】
キャップ層30のゴム組成物が、他の補強剤として、少量のカーボンブラックを含んでもよい。カーボンブラックは、トレッド4の耐摩耗性に寄与する。少量のカーボンブラックは、シリカによる低燃費性能を大幅には阻害しない。カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
【0033】
キャップ層30のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0034】
ベース層32は、半径方向において、キャップ層30の内側に位置している。ベース層32は、キャップ層30と接合されている。ベース層32は、バンド18に積層されている。
【0035】
このタイヤ2では、ベース層32は導電性である。本発明において導電性とは、当該部材の体積固有抵抗が1.0×10
8Ω・cm未満であることを意味する。特には、導電性の部材の体積固有抵抗は、1.0×10
7Ω・cm以下である。
【0036】
ベース層32は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、ベース層32にも用いられうる。ベース層32に特に適したポリマーは、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体である。
【0037】
ベース層32のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。カーボンブラックは、導電性物質である。ゴム組成物が、主たる補強剤としてカーボンブラックを含むことで、ベース層32の導電性が達成されている。導電性の観点から、カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、65質量部以上が特に好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0038】
ベース層32のゴム組成物は、カーボンブラックとして、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックを含みうる。カーボンブラックの吸油量は5cm
3/100g以上300cm
3/100g以下が好ましい。
【0039】
ベース層32のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0040】
このタイヤ2では、トレッド4は貫通部34をさらに備えている。貫通部34は、キャップ層30及びベース層32を貫通している。貫通部34の一端は、トレッド面26の一部をなしている。貫通部34の他端は、バンド18と接触している。貫通部34の半径方向内側部分は、ベース層32と接合されている。貫通部34の半径方向外側部分は、キャップ層30と接合されている。貫通部34は、周方向に延在している。換言すれば、貫通部34は環状である。タイヤ2が、環状ではなく、周方向において互いに離間した複数の貫通部34を備えてもよい。貫通部34は、導電性である。
【0041】
貫通部34は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、貫通部34にも用いられうる。貫通部34に特に適したポリマーは、天然ゴム及びポリブタジエンである。
【0042】
貫通部34のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層32に関して前述されたカーボンブラックが、貫通部34にも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0043】
貫通部34のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0044】
それぞれのウィング6は、トレッド4の軸方向外側に位置している。ウィング6は、トレッド4とサイドウォール8との間に位置している。ウィング6は、トレッド4のキャップ層30及びベース層32並びにサイドウォール8のそれぞれと接合している。ウィング6は、導電性である。
【0045】
ウィング6は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、ウィング6にも用いられうる。ウィング6に特に適したポリマーは、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体である。
【0046】
ウィング6のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層32に関して前述されたカーボンブラックが、ウィング6にも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0047】
ウィング6のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0048】
それぞれのサイドウォール8は、ウィング6から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール8の半径方向外側部分は、トレッド4のベース層32及びウィング6と接合されている。このサイドウォール8の半径方向内側部分は、クリンチ10と接合されている。サイドウォール8は、カーカス14よりも軸方向外側に位置している。このサイドウォール8は、カーカス14の損傷を防止する。サイドウォール8は、非導電性である。
【0049】
サイドウォール8は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、サイドウォール8にも用いられうる。耐カット性及び耐候性の観点から、サイドウォール8に特に適したポリマーは、天然ゴム及びポリブタジエンである。
【0050】
サイドウォール8のゴム組成物は、主たる補強剤として、シリカを含んでいる。キャップ層30に関して前述されたシリカを、サイドウォール8は含みうる。このサイドウォール8を備えたタイヤ2の転がり抵抗は、小さい。シリカは、タイヤ2の低燃費性能に寄与する。低燃費性能とサイドウォール8の強度との観点から、シリカの量は、基材ゴム100質量部に対して35質量部以上が好ましく、45質量部以上が特に好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0051】
サイドウォール8のゴム組成物が、他の補強剤として、少量のカーボンブラックを含んでもよい。カーボンブラックは、サイドウォール8の強度に寄与する。少量のカーボンブラックは、シリカによる低燃費性能を大幅には阻害しない。カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
【0052】
サイドウォール8のゴム組成物は、シランカップリング剤を含んでいる。このゴム組成物はさらに、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0053】
それぞれのクリンチ10は、サイドウォール8から半径方向略内向きに延びている。クリンチ10は、軸方向において、ビード12及びカーカス14よりも外側に位置している。クリンチ10は、導電性である。クリンチ10は、リムのフランジ(図示されず)と当接する。フランジは、スチール又はアルミニウム合金からなる。従って、フランジは、導電性である。
【0054】
クリンチ10は、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、クリンチ10にも用いられうる。耐摩耗性の観点から、クリンチ10に特に適したポリマーは、天然ゴム及びポリブタジエンである。
【0055】
クリンチ10のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層32に関して前述されたカーボンブラックが、クリンチ10にも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0056】
クリンチ10のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0057】
それぞれのビード12は、クリンチ10の軸方向内側に位置している。ビード12は、コア36と、このコア36から半径方向外向きに延びるエイペックス38とを備えている。コア36はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス38は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス38は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0058】
カーカス14は、カーカスプライ40からなる。カーカスプライ40は、両側のビード12の間に架け渡されている。カーカスプライ40は、トレッド4及びサイドウォール8に沿っている。カーカスプライ40は、コア36の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、カーカスプライ40には、主部42と折り返し部44とが形成されている。
【0059】
このタイヤ2では、カーカス14は2枚以上のカーカスプライ40を有してもよい。軽量化の観点から、カーカス14は、図示されているように、1枚のカーカスプライ40で構成されるのが好ましい。
【0060】
このタイヤ2では、折り返し部44の端46はエイペックス38の外端48よりも半径方向内側に位置している。詳細には、ビードベースラインからの半径方向高さが15〜25mmの範囲に、折り返し部44の端46が位置している。このタイヤ2のカーカスプライ40は「LTU」構造を有している。この折り返し部44の端46がエイペックス38の外端48よりも半径方向外側に位置してもよい。この折り返し部44の端46がこのタイヤ2の最大幅位置(
図1中の符号Pw)よりも半径方向外側に位置してもよい。折り返し部44の長さは、タイヤ2の質量に影響する。軽量化の観点から、
図1に示された「LTU」構造を有するカーカスプライ40が好ましい。
【0061】
図示されていないが、カーカスプライ40は並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス14はラジアル構造を有する。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0062】
このタイヤ2では、カーカスプライ40のトッピングゴムは導電性である。このトッピングゴムは、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、トッピングゴムにも用いられうる。トッピングゴムに特に適したポリマーは、天然ゴムである。
【0063】
トッピングゴムのゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層32に関して前述されたカーボンブラックが、カーカスプライ40のトッピングゴムにも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0064】
トッピングゴムのゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0065】
ベルト16は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト16は、カーカス14と積層されている。ベルト16は、カーカス14を補強する。ベルト16は、内側層50及び外側層52からなる。
図1から明らかなように、軸方向において、内側層50の幅は外側層52の幅よりも若干大きい。図示されていないが、内側層50及び外側層52のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の一般的な絶対値は、10°以上35°以下である。内側層50のコードの赤道面に対する傾斜方向は、外側層52のコードの赤道面に対する傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。ベルト16の軸方向幅は、タイヤ2の最大幅の0.7倍以上が好ましい。ベルト16が、3以上の層を備えてもよい。
【0066】
ベルト16のトッピングゴムは、導電性である。このトッピングゴムは、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、トッピングゴムにも用いられうる。トッピングゴムに特に適したポリマーは、天然ゴムである。
【0067】
トッピングゴムのゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層32に関して前述されたカーボンブラックが、ベルト16のトッピングゴムにも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0068】
トッピングゴムのゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0069】
バンド18は、ベルト16の半径方向外側に位置している。軸方向において、バンド18の幅はベルト16の幅と同等である。図示されていないが、このバンド18は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド18は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。このコードによりベルト16が拘束されるので、ベルト16のリフティングが抑制される。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0070】
バンド18のトッピングゴムは、導電性である。このトッピングゴムは、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。キャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、トッピングゴムにも用いられうる。トッピングゴムに特に適したポリマーは、天然ゴムである。
【0071】
トッピングゴムのゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ベース層32に関して前述されたカーボンブラックが、バンド18のトッピングゴムにも用いられうる。導電性の観点から、カーボンブラックの量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0072】
トッピングゴムのゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0073】
ベルト16及びバンド18は、補強層を構成している。ベルト16のみから、補強層が構成されてもよい。バンド18のみから、補強層が構成されてもよい。
【0074】
インナーライナー20は、カーカス14の内側に位置している。インナーライナー20は、カーカス14の内面に接合されている。インナーライナー20は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー20の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0075】
それぞれのチェーファー22は、ビード12の近傍に位置している。タイヤ2がリムに組み込まれると、このチェーファー22がリムと当接する。この当接により、ビード12の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー22は、布とこの布に含浸した架橋ゴムとからなる。
【0076】
それぞれのスキン層24は、サイドウォール8よりも軸方向外側に位置している。スキン層24は、サイドウォール8に沿ってウィング6から半径方向内向きに延在している。このタイヤ2では、スキン層24は導電性である。
【0077】
このタイヤ2では、スキン層24は塗料を用いて形成される。詳細には、塗料を塗布し、これを乾燥させることにより、スキン層24は形成される。
【0078】
塗料は、基材ゴムを含んでいる。好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)及びポリクロロプレン(CR)が挙げられる。ジエン系ゴムには、共役ジエン系モノマーと芳香族ビニル系モノマーとの共重合が含まれる。この共重合体の具体例としては、溶液重合スチレン−ブタジエン共重合体(S−SBR)及び乳化重合スチレン−ブタジエン共重合体(E−SBR)が挙げられる。スキン層24に特に適したポリマーは、天然ゴムである。
【0079】
塗料は、導電性の粉末を含んでいる。好ましい導電性の粉末は、カーボンブラックである。カーボンブラックの具体例としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックが挙げられる。スキン層24に特に適したカーボンブラックは、ファーネスブラックである。ファーネスブラックとして、FEF、GPF、HAF、ISAF及びSAFが例示される。スキン層24に特に適したファーネスブラックは、FEFである。
【0080】
このタイヤ2では、導電性の粉末の好ましい配合量は基材ゴム100質量部に対して45質量部以上100質量部以下である。この配合量が45質量部以上に設定されることにより、スキン層24は導電性を発揮する。このスキン層24は、電気を通しやすい。この配合量が100質量部以下に設定されることにより、スキン層24の柔軟性が維持される。このスキン層24は、割れにくい。
【0081】
塗料は、溶剤を含んでいる。この溶剤の種類と量とが調整されて、塗料の粘度が調節される。溶剤の具体例としては、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブタノール、セロソルブ、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート、n−ブチル酢酸塩、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、ベンゼン、トルエン及びキシレンが挙げられる。ナフサ又は灯油が、溶剤として用いられてもよい。塗料における溶剤の比率は、20質量%以上70質量%以下が好ましい。
【0082】
塗料は、硫黄及び加硫促進剤を含みうる。この塗料が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0083】
このタイヤ2では、スキン層24のための塗料は好ましくは次のようにして得られる。ロール等の混練機を用いて、基材ゴム及び導電性の粉末が混合される。これにより、塗料のためのゴム組成物が得られる。必要により、この混合工程において、硫黄、加硫促進剤等の薬品も混合される。ゴム組成物は、溶剤に混ぜ合わされる。これにより、基材ゴム、導電性の粉末及び溶剤を含む塗料が得られる。基材ゴム及び導電性の粉末を直接溶剤に投入しこれらを混ぜ合わせることにより、この塗料が形成されてもよい。
【0084】
このタイヤ2は、次のようにして製造される。図示されていないが、フォーマーのドラム上で、トレッド4、サイドウォール8等の部材が組み合わされ、予備成形体が準備される。予備成形体の外面のうち、ウィング6からクリンチ10までのゾーンに、塗料が塗布される。塗料は、乾燥させられる。塗料の溶剤が揮発するので、この乾燥によりゴム組成物からなる塗膜が形成される。これにより、ローカバーが得られる。ローカバーは、未架橋のタイヤ2である。
【0085】
この製造方法では、塗料の塗布方法に制限はない。この製造方法では、この塗料が、ウィング6からクリンチ10までのゾーンにスプレーで塗布されてもよい。この塗料が、ロールコーティングによりこのゾーンに塗布されてもよい。
【0086】
この製造方法では、ローカバーはモールド(図示されず)に投入される。このとき、ブラダーはローカバーの内側に位置する。ブラダーにガスが充填されると、ブラダーは膨張する。これにより、ローカバーは変形する。モールドが締められ、ブラダーの内圧が高められる。なお、ブラダーに代えて中子が用いられてもよい。中子は、トロイダル状の外面を備える。この外面は、空気が充填されその内圧が正規内圧の5%に保持された状態にあるタイヤ2の内面の形状に近似される。
【0087】
モールドが締められると、ローカバーはモールドとブラダーとに挟まれて加圧される。ローカバーは、モールド及びブラダーからの熱伝導により、加熱される。加圧と加熱とにより、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴム組成物が架橋反応を起こし、
図1に示されたタイヤ2が得られる。この加硫工程において、塗膜からスキン層24が形成される。
【0088】
このタイヤ2では、サイドウォール8の損失正接(tanδ)は0.08以下である。このサイドウォール8は、低い損失正接を有している。このサイドウォール8では、発熱が抑えられる。このサイドウォール8は、転がり抵抗の低減に寄与する。損失正接は低いほど好ましいので、この損失正接の下限は設定されない。
【0089】
本発明では、サイドウォール8の損失正接は「JIS K 6394」の規定に準拠して測定される。測定条件は、以下の通りである。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0090】
このタイヤ2では、貫通部34、トレッド4のベース層32、ウィング6及びクリンチ10は導電性である。図示されているように、このタイヤ2では、ウィング6はトレッド4のベース層32に接合されており、このベース層32は貫通部34に接合されている。この貫通部34の一端は、路面と接触する。そして、前述したように、クリンチ10はリムのフランジと接触する。
【0091】
前述したように、サイドウォール8は非導電性である。このタイヤ2では、導電性のスキン層24がサイドウォール8の軸方向外側においてウィング6とクリンチ10との間を架け渡している。このタイヤ2では、ウィング6からクリンチ10に至るゾーンにおいて、スキン層24が主な導電経路として機能する。このタイヤ2では、静電気が放電されやすい。前述したように、このタイヤ2では、サイドウォール8が転がり抵抗の低減に寄与する。本発明によれば、小さな転がり抵抗を有し、静電気が放電されやすい空気入りタイヤ2が得られる。
【0092】
このタイヤ2では、導電性のキャップ層30がトレッド4に採用されてもよい。この場合、貫通部34は不要である。
【0093】
このタイヤ2では、スキン層24の体積固有抵抗は1×10
6Ω・cm未満である。このスキン層24は、導電性に優れる。このスキン層24は、静電気の放電に効果的に寄与する。この観点から、このスキン層24の体積固有抵抗は1×10
5Ω・cm以下が好ましい。スキン層24の体積固有抵抗は低いほど好ましいので、この体積固有抵抗の下限は設定されない。
【0094】
本発明では、スキン層24の体積固有抵抗は、JIS−K 6271に規定の二重リング電極法に準拠して、その温度が25℃とされた条件下で測定される。測定には、スキン層24の塗料のためのゴム組成物を温度が170℃である金型内で30分保持することにより得られるシート(厚さ=2mm)が用いられる。
【0095】
前述したように、このタイヤ2のスキン層24は、塗料を塗布しこの塗料を乾燥することにより形成される。このようにして形成されたスキン層24は薄い。薄いスキン層24は、タイヤ2の質量を大きく増加させない。このタイヤ2では、質量が適切に維持される上に、スキン層24による転がり抵抗への影響が効果的に抑えられる。
【0096】
このタイヤ2では、スキン層24の厚さは0.1mm以上0.3mm以下が好ましい。この厚さが0.1mm以上に設定されることにより、スキン層24が導電経路として十分に機能する。この厚さが0.3mm以下に設定されることにより、スキン層24による質量への影響が効果的に抑えられる。なお、このスキン層24の厚さは、予備成形体に塗料を塗布して得た塗膜の厚さで表される。この塗膜の厚さは、塗布してから25℃で1時間以上経過した後に計測される。
【0097】
図2には、
図1のタイヤ2の、II−II線に沿った断面が示されている。
図2において、上下方向がタイヤ2の周方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の半径方向である。この
図1におけるII−II線は、このタイヤ2の最大幅を示す位置Pwを通り軸方向に延びる直線である。
【0098】
図2において、両矢印taはサイドウォール8の厚さを表している。本願においては、この厚さtaは、カーカス14の軸方向外側部分のうち、スキン層24を除いた部分の厚さで表される。詳細には、この厚さtaはカーカス14の外面からサイドウォール8とスキン層24との境界までの長さにより表される。
【0099】
このタイヤ2では、好ましくは、厚さtaは2.5mm以上3mm以下である。このタイヤ2では、スキン層24が薄いので、十分な厚みを有するサイドウォール8を採用できる。このタイヤ2では、サイドウォール8は低発熱のゴムからなる。このタイヤ2では、サイドウォール8により転がり抵抗が効果的に低減される。
【0100】
図3には、タイヤ2と共に、リム54及び電気抵抗測定装置56が示されている。この装置56は、絶縁板58、金属板60、軸62及び抵抗計64を備えている。絶縁板58の電気抵抗は、1.0×10
12Ω以上である。金属板60の表面は、研磨されている。この金属板60の電気抵抗は、10Ω以下である。この装置56が用いられ、ISO16392規格に準拠して、タイヤ2の電気抵抗Rtが測定される。測定前に、タイヤ2の表面に付着した汚れ及び離型剤が除去される。このタイヤ2は、十分に乾燥させられる。このタイヤ2が、アルミニウム合金製のリム54に組み込まれる。組み込みのとき、タイヤ2とリム54との接触部に、潤滑剤として石けん水が塗布される。このタイヤ2に、内圧が230kPaとなるように、空気が充填される。このタイヤ2及びリム54が、試験室で3時間保持される。試験室の、温度は25℃であり、湿度は50%である。このタイヤ2及びリム54が、軸62に取り付けられる。このタイヤ2及びリム54に、2.66kNの荷重が0.5分間負荷されてから、この荷重が開放される。このタイヤ2及びリム54に、再度2.66kNの荷重が0.5分間負荷されてから、この荷重が開放される。さらに、このタイヤ2及びリム54に、2.66kNの荷重が2.0分間負荷されてから、この荷重が開放される。その後、軸62と金属板60との間に、100Vの電圧が印可される。印可が開始されてから5分経過後の、軸62と金属板60との間の電気抵抗が、抵抗計64で測定される。測定は、タイヤ2の周方向に沿って90°刻みの4カ所で行われる。得られた4つの電気抵抗のうちの最大値が、このタイヤ2の電気抵抗Rtである。
【0101】
電気抵抗Rtは、1.0×10
8Ω未満が好ましい。電気抵抗Rtが1.0×10
8Ω未満であるタイヤ2では、静電気が帯電しにくい。この観点から、電気抵抗Rtは1.0×10
7Ω以下がより好ましく、1.0×10
6Ω以下が特に好ましい。
【0102】
前述したように、サイドウォール8は主たる補強剤としてシリカを含んでいる。サイドウォール8は、変色しやすい。このタイヤ2では、黒色のスキン層24がサイドウォール8を覆っている。このスキン層24は、タイヤ2の外観品質の向上に寄与する。
【0103】
本発明では、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。このタイヤ2が乗用車用である場合は、内圧が180kPaの状態で、寸法及び角度が測定される。本明細書において正規荷重とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。後述するタイヤも同様である。
【0104】
図4には、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤ66の一部が示されている。
図4において、上下方向がタイヤ66の半径方向であり、左右方向がタイヤ66の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ66の周方向である。
図4において、一点鎖線CLはタイヤ66の赤道面を表わす。このタイヤ66の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0105】
このタイヤ66は、トレッド68、一対のウィング70、一対のサイドウォール72、一対のクリンチ74、一対のビード76、カーカス78、ベルト80、バンド82、インナーライナー84、一対のチェーファー86及び一対のスキン層88を備えている。このタイヤ66のサイドウォール72及びスキン層88以外は、
図1に示されたタイヤ2の構成と同等の構成を有している。
【0106】
このタイヤ66では、サイドウォール72の損失正接は0.08以下である。このサイドウォール72は、低い損失正接を有している。このサイドウォール72では、発熱が抑えられる。このサイドウォール72は、転がり抵抗の低減に寄与する。なお、このサイドウォール72の損失正接は、
図1に示されたタイヤ2のサイドウォール8の損失正接と同様にして計測される。
【0107】
このタイヤ66では、サイドウォール72は非導電性であり、スキン層88は導電性である。このタイヤ66では、導電性のスキン層88がサイドウォール72の軸方向外側においてウィング70とクリンチ74との間を架け渡している。このタイヤ66では、ウィング70からクリンチ74に至るゾーンにおいて、スキン層88が主な導電経路として機能する。このタイヤ66では、静電気が放電されやすい。前述したように、このタイヤ66では、サイドウォール72が転がり抵抗の低減に寄与する。本発明によれば、小さな転がり抵抗を有し、静電気が放電されやすい空気入りタイヤ66が得られる。
【0108】
このタイヤ66では、スキン層88の体積固有抵抗は1×10
6Ω・cm未満である。このスキン層88は、導電性に優れる。このスキン層88は、静電気の放電に効果的に寄与する。この観点から、このスキン層88の体積固有抵抗は1×10
5Ω・cm以下が好ましい。なお、このスキン層88の体積固有抵抗は、
図1に示されたタイヤ2のスキン層24の体積固有抵抗と同様にして計測される。
【0109】
このタイヤ66では、ISO16392規格に準拠して測定された電気抵抗Rtは1.0×10
8Ω未満が好ましい。電気抵抗Rtが1.0×10
8Ω未満であるタイヤ66では、静電気が帯電しにくい。この観点から、電気抵抗Rtは1.0×10
7Ω以下がより好ましく、1.0×10
6Ω以下が特に好ましい。なお、この電気抵抗Rtは、
図1に示されたタイヤ2の電気抵抗Rtと同様にして計測される。
【0110】
このタイヤ66では、スキン層88は、塗料からではなく、ゴム組成物が架橋されることによって成形されている。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。
図1に示されたタイヤ2のキャップ層30に関して前述されたジエン系ゴムが、スキン層88にも用いられうる。スキン層88に特に適したポリマーは、天然ゴム及びポリブタジエンである。
【0111】
スキン層88のゴム組成物は、主たる補強剤として、カーボンブラックを含んでいる。ゴム組成物が、主たる補強剤としてカーボンブラックを含むことで、スキン層88の導電性が達成されている。導電性の観点から、カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して45質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、65質量部以上が特に好ましい。この量は、100質量部以下が好ましい。
【0112】
スキン層88のゴム組成物は、カーボンブラックとして、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックを含みうる。カーボンブラックの吸油量は5cm
3/100g以上300cm
3/100g以下が好ましい。
【0113】
スキン層88のゴム組成物は、硫黄及び加硫促進剤を含んでいる。このゴム組成物が、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛等を含んでもよい。
【0114】
このタイヤ66は、次のようにして製造される。スキン層88のためのゴム組成物が準備される。このゴム組成物をシーティングし、シート状のスキン層88が形成される。シート状のスキン層88は、フォーマー(図示されず)に供給される。フォーマーのドラム上では、トレッド68、サイドウォール72等の部材が組み合わされる。前述されたシート状のスキン層88がサイドウォール72に積層され、ローカバーが得られる。ローカバーは、
図1に示されたタイヤ2の製造方法と同様にして、加圧及び加熱される。これにより、
図4に示されたタイヤ66が得られる。
【0115】
ゴム組成物のスコーチタイムt5は、ゴム組成物の流動性の指標として用いられる。短いスコーチタイムt5は、ゴム組成物の架橋が進みやすく流動しにくいことを意味する。長いスコーチタイムt5は、ゴム組成物の架橋が進みにくく流動しやすいことを意味する。なお、このスコーチタイムt5は、JIS−K6300−1「未加硫ゴム−物理特性−第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準拠して測定される。この測定のための条件は、以下の通りである。
装置=島津製作所社製の商品名「ムーニービスコメーターSMV200」
ローター=L型
試験温度=150±1℃
【0116】
スコーチタイムt5の測定では、前述された装置(図示されず)のダイを開けて、ゴム組成物からなる試験片が投入される。投入後、ダイは閉じられる。この測定では、1分間の予熱後、装置のローターが回転し、ムーニー粘度の計測が開始される。これにより、ダイを閉じてから、最低粘度Vmより5M(ムーニー)上昇するまでの時間が得られる。この時間が、スコーチタイムt5である。本願においては、試験温度は150℃に設定される。したがってこの計測により得られるスコーチタイムt5は、ゴム組成物の150℃におけるスコーチタイムt5である。
【0117】
従来のタイヤでは、モールドに当接するゴム部材のためのゴム組成物の、150℃におけるスコーチタイムt5は、15分以上に設定される。これに対して本発明のタイヤ66では、スキン層88のゴム組成物の、150℃におけるスコーチタイムt5は、15分未満に設定される。このタイヤ66では、スコーチタイムt5が短いゴム組成物がスキン層88に採用されている。このタイヤ66の製造方法では、加硫工程におけるモールドの温度を従来よりも低い温度で設定することができる。低温加硫は、架橋反応を伴うゴム組成物の流動により生じる歪みを効果的に抑えうる。この製造方法では、歪みの小さなタイヤ66が得られる。この製造方法は、タイヤ66の転がり抵抗の一層の低減に寄与する。しかもスコーチタイムt5が短いので、低温加硫を採用しても、スピューの成長が効果的に抑えられる。このタイヤ66は、良好な外観を有する。このタイヤ66では、低い転がり抵抗及び良好な外観の観点から、150℃におけるスコーチタイムt5は8分以下が好ましい。ゴム組成物の流動性の確保の観点から、150℃におけるスコーチタイムt5は3分以上が好ましい。
【0118】
図5には、
図4のタイヤ66の、V−V線に沿った断面が示されている。
図5において、上下方向がタイヤ66の周方向であり、左右方向がタイヤ66の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ66の半径方向である。この
図4におけるV−V線は、このタイヤ66の最大幅を示す位置Pwを通り軸方向に延びる直線である。
【0119】
図5において、両矢印tsはスキン層88の厚さを表している。このタイヤ66では、スキン層88が導電経路として機能するとの観点から、厚さtsは0.5mm以上が好ましい。スキン層88による転がり抵抗への影響が抑えられるとの観点から、この厚さtsは1.2mm以下が好ましい。
【0120】
図5において、両矢印tbはこのタイヤ66のカーカス78よりも外側部分の厚さを表している。この厚さtbは、カーカス78の外面からこのタイヤ66の外面までの長さにより表される。このタイヤ66では、サイドウォール72の部分が適度な剛性を有し、カーカス78の損傷が防止されるとの観点から、厚さtaは2.5mm以上が好ましい。タイヤ66の質量が適切に維持されるとの観点から、この厚さtaは3mm以下が好ましい。なお、この厚さtbは、
図1に示されたタイヤ66におけるサイドウォール72の厚さtaに相当する。
【実施例】
【0121】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0122】
[実験1]
[実施例1]
図1に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、155/65R14である。スキン層は、塗料をスプレーで塗布して形成した。この塗料は、ゴム組成物を溶剤に混ぜ合わせることにより調整した。このゴム組成物の組成は、下記の表1の通りである。溶剤には、メチルエチルケトンが用いられた。塗膜の厚さは、0.3mmであった。このスキン層の体積固有抵抗は、0.1×10
6Ω・cmであった。サイドウォールの損失正接(tanδ)は、0.07であった。このサイドウォールの体積固有抵抗は、1×10
10Ω・cmであった。サイドウォールの厚さtaは、3.0mmであった。このタイヤの製作では、モールドの温度は175℃に設定された。
【0123】
【表1】
【0124】
表1に示された各成分の詳細は次の通りである。
1) 基材ゴム:天然ゴム(RSS#3)
2) カーボンブラック(FEF):三菱化学社製の商品名「ダイアブラックE」
3) オイル:出光興産社製の商品名「ダイアナプロセスオイルAH」
4) タックレジン:ストラクトール社製の商品名「ストラクトール40MS」
5) ステアリン酸:日本油脂社製の商品名「ビーズステアリン酸椿」
6) 亜鉛華:三井金属工業社製の商品名「亜鉛華1号」
7) 硫黄:(株)軽井沢製錬所社製の商品名「粉末硫黄」
8) 加硫促進剤:大内新興化学工業社製の商品名「ノクセラーCZ」
【0125】
[実施例2−4]
スキン層のための塗膜の厚さを下記の表2の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−4のタイヤを得た。
【0126】
[比較例1]
比較例1は、従来のタイヤである。この比較例1には、スキン層は設けられていない。この比較例1には、従来のサイドウォールが採用されている。このサイドウォールは、導電性である。このサイドウォールの体積固有抵抗は、1×10
6Ω・cmであった。このサイドウォールの損失正接は、0.12であった。
【0127】
[比較例2]
スキン層のゴム組成物を準備して、これをサイドウォールと共に押し出すことで、スキン層及びサイドウォールの複合体を成形した。実施例1のサイドウォール及びスキン層をこの複合体に置き換えた以外は、この実施例1と同様にして比較例2のタイヤを得た。この比較例2では、スキン層の厚さは1.5mmであった。この厚さが、表1の塗膜厚さの欄に記載されている。スキン層の体積固有抵抗は、1×10
6Ω・cmであった。この比較例1では、サイドウォールの厚さtaは、1.5mmであった。
【0128】
[転がり抵抗係数(RRC)]
転がり抵抗試験機を用い、下記の測定条件で転がり抵抗係数(RRC)を測定した。
使用リム:14×4.5−J(アルミニウム合金製)
内圧:230kPa
荷重:2.66kN
速度:80km/h
この結果が、比較例1を100とした指数で、下記の表2−3に示されている。数値が小さいほど好ましい。
【0129】
[電気抵抗]
図3に示された方法にて、タイヤの電気抵抗Rtを測定した。この結果が、下記の表2−3に示されている。数値が小さいほど導電性に優れる。なお、電気抵抗Rtが1.0×10
8Ω未満である場合が合格である。
【0130】
[タイヤの質量]
タイヤの質量を計測した。この結果が、比較例1を100とした指数で、下記の表2−3に示されている。数値が小さいほど好ましい。なお、この数値が105未満である場合が合格である。
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【0133】
表2−3に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【0134】
[実験2]
[実施例5]
図4に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、155/65R14である。スキン層は、ゴム組成物を用いて形成した。このゴム組成物の150℃におけるスコーチタイムt5は、6分であった。スキン層の厚さts0.8mmであった。スキン層の体積固有抵抗は、0.1×10
6Ω・cmであった。サイドウォールの損失正接(tanδ)は、0.07であった。このサイドウォールの体積固有抵抗は、1×10
10Ω・cmであった。このタイヤの厚さtbは、3.0mmであった。このタイヤの製作では、モールドの温度は165℃に設定された。この実験2のモールドの温度は、実験1のそれよりも低い。
【0135】
[比較例3]
スキン層を設けなかった他は実施例5と同様にして、比較例3のタイヤを得た。このサイドウォールの150℃におけるスコーチタイムt5は、15分であった。
【0136】
[比較例4]
スキン層の体積固有抵抗を下記の表4の通りとした他は実施例5と同様にして、比較例4のタイヤを得た。
【0137】
[実施例6−9]
スキン層のスコーチタイムt5を下記の表5の通りとした他は実施例5と同様にして、実施例6−9のタイヤを得た。
【0138】
[実施例10−13]
スキン層の厚さtsを下記の表6の通りとした他は実施例5と同様にして、実施例10−13のタイヤを得た。
【0139】
[外観]
試作タイヤの外観を目視で観察し、エア噛み不良の有無を確認した。この結果が下記の表4−6に示されている。この表には、エア噛み不良が確認された場合が「NG」で、このエア噛み不良が確認されなかった場合が「G」で表されている。
【0140】
[スピュー]
試作タイヤの表面に形成されたスピューの長さ(以下、スピュー長)を計測した。この結果が、下記の表4−6に示されている。スピュー長が短いほど好ましい。なお、スピュー長が8mm以下である場合が良品と判断される。
【0141】
[転がり抵抗係数(RRC)]
実験1と同様にして転がり抵抗係数(RRC)を測定した。この結果が、比較例3を100とした指数で、下記の表4−6に示されている。数値が小さいほど好ましい。なお、この数値が103以下である場合が合格である。
【0142】
[電気抵抗]
実験1と同様にしてタイヤの電気抵抗Rtを測定した。この結果が、下記の表4−6に示されている。数値が小さいほど導電性に優れる。なお、電気抵抗Rtが1.0×10
8Ω未満である場合が合格である。
【0143】
【表4】
【0144】
【表5】
【0145】
【表6】
【0146】
表4−6に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。