(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニルからなる群より選択される1種または2種以上のポリマーから形成されたベースフィルムの少なくとも一方の表面にフッ素原子が導入されてなる溶液製膜用支持フィルムであって、該フッ素原子を導入した表面、すなわち改質表面の、X線光電子分光法で測定したフッ素原子数/炭素原子数の比が、0.02以上、0.8以下であり、電解質膜の溶液製膜に用いられる溶液製膜用支持フィルム。
前記改質表面の、X線光電子分光法で測定した酸素原子数/炭素原子数の比が、0.10以上、0.60以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の溶液製膜用支持フィルム。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソード間のプロトン伝導体からなる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(以降、MEAと略称することがある。)を構成し、このMEAがセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。具体的には、アノード電極においては、触媒層で燃料ガスが反応してプロトン及び電子を生じ、電子は電極を経て外部回路に送られ、プロトンは電極電解質を介して電解質膜へと伝導する。一方、カソード電極では、触媒層で、酸化ガスと、電解質膜から伝導してきたプロトンと、外部回路から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。
【0004】
固体高分子型燃料電池ではエネルギー効率の一層の向上が要求されている。そのためには電極構造を工夫し、電極反応の反応活性点を増加させるとともに、電解質ポリマーを電極触媒層にも配合し、速やかに水素イオンが移動できるようにしている。発生した水素イオンを速やかに対極まで移動できるようにするためには、電極触媒層と電解質膜との接触が良く、また電解質膜自体の膜抵抗を低くする必要がある。そのためには膜厚はできるだけ薄い方が好ましい。
【0005】
このような電解質膜の製造方法は、周知のように溶融製膜法と溶液製膜法とがある。前者は、溶媒を使わずにフィルムを製造することができるが、加熱によりポリマーが変性するという問題がある。一方、後者は、溶液の製造設備や溶媒回収設備等の設備的な問題があるものの、製膜工程中の加熱温度が低くてもよく、ポリマーの変性の問題を回避することができる。また、溶液製膜法は、前者によるフィルムよりも平面性及び平滑性に優れた電解質膜を製造することができるという利点もある。
【0006】
溶液製膜方法は、原料となる有機化合物と溶媒とを含む溶液を支持フィルム上に流延して流延膜を形成した後、乾燥手段により乾燥させてフィルムとし、必要により薬液処理や洗浄処理を実施し、最終的に支持フィルムから製品フィルムを剥離する方法である。電解質膜の製造方法のみならず、光学用途等のポリマーフィルムの製造方法としても幅広く利用されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、有機ポリマーを基材上に塗布し乾燥する工程、および得られた有機ポリマーフィルムを基材から剥離せずに液処理する工程を含むことを特徴としている。支持フィルムとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが使用されている。また、特許文献2では、厚みムラやシワ、凹凸が生じにくい、特に極薄の高分子電解質膜の製造方法が提供されている。支持フィルムには同じくPETフィルムが使用されている。さらに、特許文献3では支持フィルムと少なくとも片面に離型性を有するフィルムを積層した基材フィルムが提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<溶液製膜用支持フィルム>
本発明の溶液製膜用支持フィルムのベースとなるベースフィルムは、フッ素原子の導入が可能であり、かつ安価であることから、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニルから選択される単独または2種以上のポリマーから形成されるものを用いるとよい。2種以上のポリマーからフィルムを形成する場合には、2種以上のブレンドポリマーからフィルムを形成してもよく、また各ポリマーから形成した層を積層した積層体としてもよい。コストの点からは1種のポリマーからなる単層フィルムを用いることが好ましい。
【0018】
本発明の溶液製膜用支持フィルムは、上記ベースフィルムの少なくとも一方の表面にフッ素原子を導入したものである。本発明において、表面改質とは、ベースフィルムの表面に存在する炭素に結合した水素原子の一部をフッ素の原子に置き換えることを指すものとする。表面改質を行った際には、さらに水酸基やカルボン酸基、スルホン酸基などの導入が伴っていてもよい。水酸基やカルボン酸基、スルホン酸基の導入により、ベースフィルムの表面の接触角を下げることができ、溶液製膜時のポリマー溶液の塗布性(濡れ性)をポリマー溶液の組成や性質により制御可能となる。なお、本明細書において、このフッ素原子を導入した表面を指して単に「改質表面」ということがある。
【0019】
表面改質は、フィルムの片面のみに行われていてもよいし両面とも行われていてもよいが、コストの点からは片面のみ改質することが好ましい。また、製膜のためのポリマー溶液を塗布する部分のみに、局所的にフッ素化されてなるものであってもよい。
【0020】
本発明のフィルムは、フッ素原子を導入した改質表面の、X線光電子分光法で測定したフッ素原子数/炭素原子数の比が、0.02以上、0.8以下である。改質表面のフッ素原子数/炭素原子数の比が0.02以上であることで、改質表面から意図的に製膜後のフィルムを剥離する際の剥離性が良好となり、剥離工程で皺や横筋などが入りにくく、高い表面品位のフィルムを得ることができる。一方、フッ素原子数/炭素原子数の比が0.8以下であれば、フィルムの製造工程に酸処理工程や水洗工程などの湿潤工程時がある場合でも、これらの工程中におけるポリマー皮膜の早期剥離が防止できる。ここでの早期剥離とは意図せず製造工程中に溶液製膜用支持フィルムから製品フィルムの一部が剥離または浮いてしまう現象で、製造工程中にポリマー皮膜に皺が発生したり破損したりする原因となる。なお、これらの観点から、改質表面のフッ素原子数/炭素原子数の比は、0.03以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましい。また0.5以下であることが好ましく、0.27以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明のフィルムは、フッ素原子を導入した改質表面の、X線光電子分光法で測定した酸素原子数/炭素原子数の比が、0.10以上0.60以下であることが好ましい。酸素原子数/炭素原子数の比が0.10以上であることで、溶液製膜用支持フィルムとして用いた場合に改質表面へのポリマー溶液の塗布性(濡れ性)が良好となる。また、酸素原子数/炭素原子数の比が0.60以下であることで、改質表面から意図的に製膜後のフィルムを剥離する際の剥離性が良好となる。例えば、ポリエチレンテレフタレートをベースフィルムに使用する場合、改質表面の酸素原子数/炭素原子数の比が、0.40以上0.50以下が、濡れ性と剥離性のバランスの観点から好ましい。
【0022】
X線光電子分光法では、超高真空中においた試料表面に軟X線を照射し、表面から放出される光電子をアナライザーで検出する。超高真空下で試料表面にX線を照射すると、光電効果により表面から光電子が真空中に放出される。その光電子の運動エネルギーを観測すると、その表面の元素組成や化学状態に関する情報を得ることができる。
E
b=hν−E
kin−φ
sp(式1)
式1のE
bは束縛電子の結合エネルギー、hνは軟X線のエネルギー、E
kinは光電子の運動エネルギー、φは分光器の仕事関数となる。ここで束縛電子の結合エネルギー(E
b)は元素固有のものとなる。よって光電子のエネルギースペクトルを解析すれば、物質表面に存在する元素の同定が可能となる。光電子が物質中を進むことができる長さ(平均自由行程)が数nmであることから、本分析手法における検出深さは数nmとなる。すなわち、本発明において、改質表面のフッ素原子数/炭素原子数の比および酸素原子数/炭素原子数の比は表面より数nmの深さの原子数比である。
【0023】
X線光電子分光法では物質中の束縛電子の結合エネルギー値から表面の原子情報が、また各ピークのエネルギーシフトから価数や結合状態に関する情報が得られる。さらにピーク面積比を用いて原子数の比を求めることができる。本発明で用いたX線光電子分光法の測定条件は下記のとおりである。
【0024】
装置:Quantera SXM(米国PHI 社製)
励起X 線:monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6 eV)
X 線径:100μm(分析領域:100μmφ)
光電子脱出角度:45 °(試料表面に対する検出器の傾き)
スムージング:9 points smoothing
横軸補正:C1s ピークメインピークを284.6 eV に合わせた。
【0025】
また、改質表面は、水の接触角(θ)が35°以上、75°以下であることが好ましい。接触角が35°以上であれば溶液製膜用支持フィルムから意図的にポリマー皮膜を剥離する際の剥離性が良好となる。接触角が75°以下であれば、ポリマー溶液などを塗布する際に、塗布ムラが発生しにくく表面品位の良好なポリマー皮膜が得られる。接触角は固体の液体による濡れを表す最も直感的な尺度である。本発明では液滴法で測定した値を採用した。具体的には、JIS R3257に準拠して実施した。ガラスの代わりに本発明の溶液製膜用支持フィルムの改質表面に水を滴下し、改質表面と形成した液滴との接触点における液滴の接線と、改質表面とのなす角度を測定した。
【0026】
本発明の溶液製膜用支持フィルムの厚みは製造する電解質膜の厚みや製造装置により適宜決定でき、特に制限はないが、5μm〜500μmがハンドリングの観点から好ましい。また、生産性、コストや乾燥時の変形などの低減効果より50μm〜200μmの厚みがより好ましい。
【0027】
<溶液製膜用支持フィルムの製造方法>
本発明の溶液製膜用支持フィルムの製造方法は特に限定されず、公知の様々な方法を用いることができる。例えば、フッ素ガスによる直接フッ素化反応のほか、高原子価金属フッ化物によるフッ素化、ハロゲン交換反応を主体とした間接フッ素化、電解法によるフッ素化などが挙げられる(有機合成化学 第31巻 第6号(1973)441頁〜454頁)。これらの中でも、量産性、導入量の制御性の観点から、ベースフィルムをフッ素ガスと接触させることによる直接フッ素化反応が好ましく適用できる。
【0028】
フッ素ガスによるフッ素原子の導入量の制御は、フッ素ガスを含む気体中のフッ素ガス濃度、フッ素ガスを含む気体の温度や圧力、フィルムを連続的に処理する場合におけるフィルムの搬送速度などを調整することにより、使用する機器や設備に応じて当業者は適宜実験的に決定することができる。連続溶液製膜の支持フィルムなど量産性が必要な用途には、コスト、品質安定性の観点から、ベースフィルムを連続的に搬送しながらフッ素ガスと接触させることにより表面改質を行うことが好ましい。
【0029】
図1に、フィルムを連続的に搬送しながらフッ素ガスと接触させる装置の一例を概念図として示す。フィルム基材6を巻出し部4から巻き取り部5に連続的に搬送しながら、ガス供給口1とガス排出口2を備えたフッ素ガス接触室3で表面改質を実施する。支持ロール7はフッ素ガスの漏洩を最小限にとどめるよう構成される。また、支持ロール7にヒーターやクーラントを内蔵することで、フッ素化反応における温調が可能となる。
【0030】
<電解質膜の製造方法>
以下、本発明の溶液製膜用支持フィルムを用いた電解質膜の製造方法について説明する。本発明の溶液製膜用支持フィルムは、
工程1:電解質ポリマー溶液を支持フィルムの改質表面に塗布する工程;
工程2:工程1で塗布した電解質ポリマー溶液から溶媒を除去し、電解質ポリマー皮膜を改質表面上に形成する工程;
工程3:工程2で得た電解質ポリマー皮膜を、支持フィルムごと酸性溶液、塩基性溶液、水および有機溶媒からなる群より選択される一種以上の液体に接触させる工程;
工程4:支持フィルムから工程3で得た電解質ポリマー皮膜を剥離する工程;
を有する電解質膜の製造方法における支持フィルムとして好適に用いることができる。ここで、「電解質ポリマー」には、後の処理により電解質となる電解質前駆体ポリマーも含まれるものとする。
【0031】
上記工程3などの湿潤工程では、支持フィルムから電解質ポリマー皮膜が早期剥離すると電解質膜が破れたり皺が発生したりする。本発明の溶液製膜用支持フィルムを支持フィルムとして使用すると、このような早期剥離をすることなく製造可能となる。
【0032】
上記電解質膜の製造方法は、酸性基密度が1.0mmol/g以上の電解質膜を連続的に作製する際に好適である。これは、支持フィルムから剥離せず酸性溶液等に接触させることで、膨潤による膜の破断や乾燥時の皺や表面欠陥を防止できるためである。酸性基密度が1.5mmol/g以上、3.5mmol/g以下の電解質膜を連続的に製造する場合には、上記製造方法は特に好適である。
【0033】
また、製造する電解質膜の厚みが薄い場合も、酸性基密度の大小に関わらず、上記電解質膜の製造方法を用いることが好ましい。電解質ポリマー皮膜単独では液体膨潤時の機械的強度が低下し製造時の膜の破断が発生しやすくなり、乾燥時に皺が入り表面欠陥が発生しやすくなるので、電解質膜を支持フィルムから剥離した後に酸性溶液との接触等の湿潤工程を行う方法では、これらの現象を防止するための搬送系が高価になる傾向にあるためである。具体的には、乾燥時で厚み30μm以下の電解質膜を製造する場合は、電解質膜または電解質膜前駆体を剥離することなく酸性溶液との接触を行なう必要性が特に高くなり、厚み20μm以下の場合には一層高くなる。
【0034】
また、電解質膜に触媒層を転写する工程、または触媒インクを塗布する工程や、触媒付き電極基材を加熱プレス等で電解質膜と貼り合わせる工程の際には、支持フィルムから電解質膜を剥離する工程が含まれる。支持フィルムと電解質膜の密着性が強すぎると上手く剥離できず、皺や膜破れが発生してしまうことがある。しかし、本発明の溶液製膜用支持フィルムを支持フィルムとして使用すると、電解質膜を剥離する際の剥離性が良く、皺や膜破れなどの欠陥を少なくすることができる。
【0035】
上記のような製造方法により好適に製造される電解質膜の例としては、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレンなどの、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマー、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン性基を有するパーフルオロ系イオン伝導性ポリマーが挙げられる。
【0036】
ここでのイオン性基は、スルホン酸基(−SO
2(OH))、硫酸基(−OSO
2(OH))、スルホンイミド基(−SO
2NHSO
2R(Rは有機基を表す。))、ホスホン酸基(−PO(OH)
2)、リン酸基(−OPO(OH)
2)、カルボン酸基(−CO(OH))およびこれらの金属塩からなる群より選択される一種以上を好ましく採用することができる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基のいずれかを有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0037】
溶液製膜時は、製膜装置の材質による不純物の混入や、加熱によるイオン性基の分解を軽減するために、これらのイオン性基は金属塩として導入しておくことが好ましく、この場合、製膜後に酸性溶液と接触させることで、金属塩をプロトンに置換してイオン性基に変換することができる。金属塩を形成する金属は、イオン性基と塩を形成しうるものであればよい。価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。
【0038】
電解質膜へのイオン性基の導入は、重合後のポリマーにイオン性基の金属塩または誘導体を導入する方法で行ってもよく、あるいはモノマーにイオン性基の金属塩を導入後、該モノマーを重合する方法で行っても構わない。
【0039】
また、電解質前駆体ポリマーを用いる場合、電解質前駆体ポリマーは加水分解性基を含有してもよい。ここでの加水分解性基とは、少なくとも一部を後の工程で除去または変性することを目的に一次的に導入される置換基をいい、例えば溶液製膜過程での結晶化を阻害するため、溶解性を高めるための加水分解性基を導入し、製膜後に加水分解する態様が挙げられる。
【0040】
加水分解性基を含有する電解質前駆体ポリマーを用いた電解質膜の製造方法としては、例えば結晶性のポリエーテルケトンのケトン部位にアセタールまたはケタール部位で保護し、立体障害により結晶性を崩し溶媒に可溶化することが挙げられる。この、ポリエーテルケトンの芳香環の一部にイオン性基を導入した加水分解性基とイオン性基を含有する電解質とすることにより、電解質前駆体ポリマー溶液の作製と基材への塗工が容易になり、加水分解性基を酸処理で加水分解しケトン結合に戻すことにより、耐水性、耐溶剤性の優れた電解質膜を得ることができる。また、加水分解性基は加熱、電子線などで除去することも可能である。なお、本発明と同じ思想で、可溶性を付与するために加水分解性基以外の保護基を採用しても差し支えない。電解質膜の連続生産性の観点から加水分解性基が最も好ましい。加水分解性基の具体例としては、特開2006−561103号公報等に記載のものが挙げられる。
【0041】
溶液製膜で使用する溶剤は電解質ポリマーを溶解または分散できれば特に制限なく適宜実験的に選択できる。例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられ、単独でも二種以上の混合物でもよい。
【0042】
また、電解質ポリマー溶液の粘度調整にメタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、などの各種低沸点溶剤も混合して使用できる。
【0043】
電解質ポリマー溶液の塗工方法としては公知の方法が採用でき、ナイフコート、ダイレクトロールコート(コンマコート)、グラビアコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、リバースコート、スクリーン印刷などの手法が適用でき、連続塗工はダイコートや、コンマコートが好適である。
【0044】
本発明の支持フィルム上に塗布されたポリマー皮膜からの溶媒の蒸発は、加熱、熱風、赤外線ヒーター等の公知の方法が選択できる。溶媒の乾燥時間や温度、風速、風向など適宜実験的に決めることができる。
【0045】
また、湿潤工程として酸性溶液と電解質前駆体ポリマーからなるポリマー皮膜を接触させる工程を有する場合、酸性溶液としては通常公知の溶液が使用でき、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸など無機酸の水溶液が好適である。特に生産性や作業性の観点から硫酸が好ましい。酸性溶液の濃度、温度は適宜実験的に決定できるが、作業性、生産性の観点からく、濃度は0.1%〜30%の水溶液が好ましく、1%〜20%がさらに好ましい。温度は、室温〜80℃の範囲で処理時間の短縮のためには40℃以上が好ましい。
【0046】
酸性溶液とポリマー皮膜を接触させる方法としては、支持フィルムとポリマー皮膜を連続的に剥離しながら酸性溶液槽に導く方法や、枚葉に切断し、専用の枠に固定しバッチ式で酸性溶液槽に浸漬する方法が挙げられる。
【0047】
酸性溶液とポリマー皮膜を接触させる工程の後、遊離酸の洗浄工程、液滴除去工程、を有するが、これらも公知の方法が採用でき、遊離酸の洗浄は、水槽への浸漬、シャワーなどを組み合わせ、洗浄液がpH6〜8となるまで洗浄する事が好ましい。
【0048】
液滴除去工程は圧空等の気体を吹き付ける方法や、布やスポンジロールや不織布ロールで液滴を吸収したり、該ロールに減圧ポンプ等を組み合わせて吸引したりする方法が好ましい。
【0049】
液滴除去後の乾燥工程は主に電解質膜の水分をコントロールする目的で実施し、乾燥条件等は後の工程の要求により適宜実験的に決定される。皺や反り、破れ等が発生しない条件が好ましい。特に皺防止としては、枠張りや、テンターおよびサクションロールなどで膜を固定する方法が挙げられ、乾燥による膜の収縮を防ぐことができる。連続処理では、テンターおよびサクションロールが好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によりポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とした溶液製膜用支持フィルムについて実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニルの表面改質も本実施例に準じて作製できる。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0051】
(1)フィルム表面のフッ素原子数/炭素原子数の比(F/C比)
本発明では、X線光電子分光法で測定した値を採用する。光電子が物質中を進むことができる長さ(平均自由行程)が数nm であることから、本分析手法における検出深さは数nm となり、本発明のフッ素原子数/炭素原子数の比は表面より数nmの深さの原子比であり、炭素原子基準で(C/C=1)表した。X線光電子分光法の測定条件の一例を下記する。なお、酸素原子数/炭素原子数の比(O/C比)も同方法で取得できる。
【0052】
装置:Quantera SXM(米国PHI 社製)
励起X 線:monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6 eV)
X 線径:100μm(分析領域:100μmφ)
光電子脱出角度:45 °(試料表面に対する検出器の傾き)
スムージング:9 points smoothing
横軸補正:C1s ピークメインピークを284.6 eV に合わせた。
【0053】
(2)水の接触角
水に対する接触角は、JIS−R3257(1999)に準拠した方法で測定した。
【0054】
(3)濡れ性評価
20重量%のスルホン化ポリエーテルケトンの前駆体(特開2006−561103号公報等参考)とN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなるポリマー溶液を溶液製膜用支持フィルム上に流延塗布し乾燥前の塗布膜の表面品位を目視観察で評価した。
【0055】
(4)耐早期剥離性評価
上記の濡れ性を評価後、100℃で乾燥し、湿潤工程として60℃の10重量%硫酸水溶液に10分間浸漬し、ついで純水に30分浸漬し、溶液製膜用支持フィルム上からポリマー皮膜の剥離の有無を目視観察で評価した。
【0056】
(5)易剥離性評価
上記耐早期剥離性を評価後、80℃で水分を乾燥し、溶液製膜用支持フィルム上からポリマー皮膜を手動で剥離し、はぎ取ったポリマー皮膜の皺の状態を目視観察で評価した。
【0057】
[実施例1]
PETフィルム (東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)−T60、厚み125μm)をフッ素ガスおよび空気供給口と排気口を備えた20Lのステンレス製圧力容器に入れ、窒素ガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージした後、フッ素/ 空気=10/90(体積比)混合ガスを流速10ml/ m i nで吹き込み10分間反応させた。引き続き窒素ガスを流速100ml/minで吹き込んで1時間パージしてから容器を開封し、溶液製膜用支持フィルムAを得た。
【0058】
溶液製膜用支持フィルムAの処理面のフッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0059】
[実施例2、3、4、5、比較例1]
実施例1の、フッ素/ 空気混合ガスの比率または吹き込み時間を変えて製造し、溶液製膜用支持フィルムB〜Fを得た。これらのフッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0060】
[実施例6]
搬送速度制御が可能なロール状のフィルムの巻出し部と、巻き取り部を有し、その間にフッ素および空気ガス供給口と排気口を備えたフッ素ガスとの接触室を有する連続フッ素表面処理装置を用い、搬送速度1m/minでフッ素ガスとの接触室にフッ素/空気=30/70(体積比)混合ガス10ml/minで吹き込みながら連続的にPETフィルム (東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)−T60、厚み125μm)の表面改質を実施し、溶液製膜用支持フィルムGの連続処理膜を得た。溶液製膜用支持フィルムGの処理面のフッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0061】
[比較例2]
実施例6においてPETフィルム (東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)−T60、厚み125μm)をポリテトラフルオロエチレンフィルムに変更した以外は同様に実施した。フッ素原子数/炭素原子数の比、酸素原子数/炭素原子数の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。の比と水の接触角および濡れ性、耐早期剥離性、易剥離性を表1にまとめた。
【0062】
[溶液製膜用支持フィルムの使用例]
20重量%のスルホン化ポリエーテルケトンの前駆体(特開2006−561103号公報等参考)とN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなるポリマー溶液をスリットダイコーターで連続的に溶液製膜用支持フィルムGの表面改質面上に流延塗布し、150℃の熱風乾燥炉で溶媒を除去して、厚み12μmのスルホン化ポリエーテルケトンの前駆体の皮膜を溶液製膜用支持フィルムGの上に形成した。このときポリマー溶液の濡れ性は良好ではじき等の欠陥がなく、乾燥時にスルホン化ポリエーテルケトンの前駆体の皮膜の早期剥離も見られなかった。
【0063】
次にスルホン化ポリエーテルケトンの前駆体皮膜を溶液製膜用支持フィルムGごと連続的に60℃の10重量%の硫酸水溶液に30分間浸漬し、純水で洗浄液が中性になるまで繰り返し洗浄し、80℃で10分乾燥した。このとき、スルホン化ポリエーテルケトン皮膜は溶液製膜用支持フィルムGから早期剥離せず、皺や膜の破損がなく良好な表面品位であった。
【0064】
溶液製膜用支持フィルムAからスルホン化ポリエーテルケトン電解質膜を手動で剥離する際、容易に剥離でき、皺などの表面欠陥の少ない厚み10μmのスルホン化ポリエーテルケトン電解質膜が得られた。
【0065】
【表1】