(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555171
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】分光器及びこれに用いられるリテーナ
(51)【国際特許分類】
G01J 3/18 20060101AFI20190729BHJP
G01J 3/02 20060101ALI20190729BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/02 Z
G02B5/18
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-65424(P2016-65424)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-181159(P2017-181159A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】北脇 正章
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−242280(JP,A)
【文献】
特開平8−271335(JP,A)
【文献】
特開平8−129114(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/147504(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0273707(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0181128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00−3/52
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹状のトロイダル形状からなる回折格子面を有する回折格子と、
前記回折格子面に対応する形状からなる凸状の当接面を端面に有し、前記当接面が前記回折格子面に当接するように固定される円筒状のリテーナと、
前記リテーナが挿入される開口が形成された筐体とを備えることを特徴とする分光器。
【請求項2】
前記当接面は、前記リテーナの軸線を中心に90°間隔で4つ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の分光器。
【請求項3】
前記回折格子面は、第1軸における曲率半径と、前記第1軸に直交する第2軸における曲率半径とが異なるトロイダル形状からなり、
前記4つの当接面のうちの2つは、前記第1軸上に前記軸線を挟んで形成され、残りの2つは、前記第2軸上に前記軸線を挟んで形成されていることを特徴とする請求項2に記載の分光器。
【請求項4】
凹状のトロイダル形状からなる回折格子面を有する回折格子に固定されるリテーナであって、
前記回折格子面に対応する形状からなる凸状の当接面を端面に有する円筒状に形成され、前記当接面が前記回折格子面に当接するように固定されるとともに、当該リテーナを回転可能に保持するための摺接面が外周面に形成されていることを特徴とするリテーナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹状のトロイダル形状からなる回折格子面を有する回折格子が備えられた分光器及びこれに用いられるリテーナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回折格子の一例として、例えば凹状の回折格子面を有し、当該回折格子面で光を反射させることにより各波長の光に分光することができる反射型の回折格子が知られている。回折格子面には、一定方向に沿って平行に延びる複数の溝が形成されている。この種の回折格子には、回折格子面が球面形状からなるものや、トロイダル形状からなるものがある(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
図4Aは、球面形状の回折格子面101を有する回折格子100について説明するための概略斜視図である。球面形状の回折格子面101では、回折格子面101内のいずれの方向に沿った軸についても曲率半径が一定となる。例えば、回折格子面101において互いに直交する二軸A11,A12について、それぞれの軸A11,A12における曲率半径は同一の値となる。
【0004】
図4Bは、トロイダル形状の回折格子面201を有する回折格子200について説明するための概略斜視図である。トロイダル形状の回折格子面201では、
図4Aに示すような球面形状の回折格子面101とは異なり、回折格子面201内の軸の方向に応じて曲率半径が異なる。例えば、回折格子面201において互いに直交する二軸A21,A22について、それぞれの軸A21,A22における曲率半径は異なる値となる。
【0005】
回折格子100,200は、例えば円筒状のリテーナ103,203を介して、所定の取付位置に固定される。リテーナ103,203は、その端面131,231が回折格子面101,201に接着されて固定される。回折格子面101,201への入射光は、リテーナ103,203内を通って回折格子面101,201に入射し、回折格子面101,201で反射することにより分光された光は、リテーナ103,203内を通って検出器へと導かれる。
【0006】
図4Aのように、回折格子面101が球面形状である場合には、リテーナ103における円形状の端面131全体が回折格子面101に当接する。回折格子100は、その軸線L100を中心にして、リテーナ103に対して如何なる回転角度であっても、リテーナ103の端面131全体が回折格子面101に当接することとなる。したがって、軸線L100を中心にして回折格子100を回転させ、回折格子面101の溝方向を調整した上で、リテーナ103の端面131を回折格子面101に押し当てて固定することができる。
【0007】
一方、
図4Bのように、回折格子面201がトロイダル形状である場合には、リテーナ203における円形状の端面231全体を回折格子面201に当接させることができない。具体的には、リテーナ203の端面231の2点のみが回折格子面201に当接することになるため、当該端面231を回折格子面201に安定して固定することが難しい。そのため、回折格子200がリテーナ203に対して傾いた状態で固定され、所望の波長に分光できなくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−242280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本願発明者は、
図4Bのように回折格子面201がトロイダル形状である場合に、リテーナ203の端面231を回折格子面201に対応する形状からなる凸状の当接面とすることを考えた。すなわち、リテーナ203の端面231を平坦な円形状に形成するのではなく、トロイダル形状の回折格子面201に対応するような起伏を設けることにより、端面231を回折格子面201に安定して固定することができる。
【0010】
しかしながら、このような構成では、
図4Aのような回折格子面101が球面形状の場合とは異なり、回折格子200の軸線L200を中心にして、リテーナ203に対して回折格子200を回転させることができない。そのため、軸線L200を中心にして回折格子200を回転させ、回折格子面201の溝方向を調整した上で、リテーナ203の端面231を回折格子面201に押し当てて固定するといったことができない。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、回折格子を安定して固定することができるとともに、回折格子面の溝方向を調整することが可能な分光器及びこれに用いられるリテーナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る分光器は、回折格子と、円筒状のリテーナと、筐体とを備える。前記回折格子は、凹状のトロイダル形状からなる回折格子面を有する。前記リテーナは、前記回折格子面に対応する形状からなる凸状の当接面を端面に有し、前記当接面が前記回折格子面に当接するように固定される。前記筐体には、前記リテーナが挿入される開口が形成されている。
【0013】
このような構成によれば、回折格子が凹状のトロイダル形状からなる回折格子面を有し、リテーナが回折格子面に対応する形状からなる凸状の当接面を端面に有するため、この当接面を回折格子面に当接するように固定することにより、回折格子を安定して固定することができる。また、円筒状のリテーナが筐体に形成された開口内に挿入されるため、リテーナを開口内で回転させることにより回折格子面の溝方向を調整することが可能である。
【0014】
前記当接面は、前記リテーナの軸線を中心に90°間隔で4つ形成されていてもよい。
【0015】
このような構成によれば、リテーナの軸線を中心に90°間隔で4つ形成された当接面が回折格子面に当接するように固定されるため、回折格子がリテーナに対して何れの方向にも傾きにくく、回折格子をより安定して固定することができる。
【0016】
前記回折格子面は、第1軸における曲率半径と、前記第1軸に直交する第2軸における曲率半径とが異なるトロイダル形状からなるものであってもよい。この場合、前記4つの当接面のうちの2つは、前記第1軸上に前記軸線を挟んで形成され、残りの2つは、前記第2軸上に前記軸線を挟んで形成されていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、回折格子面のトロイダル形状における第1軸上に軸線を挟んで2つ、第2軸上に軸線を挟んで2つの当接面が形成されている。トロイダル形状からなる回折格子面は、第1軸上及び第2軸上における精度が、他の領域と比べて高いため、この精度の高い領域で各当接面を回折格子面に当接させることにより、回折格子をより安定して固定することができる。
【0018】
本発明に係るリテーナは、凹状のトロイダル形状からなる回折格子面を有する回折格子に固定されるリテーナであって、前記回折格子面に対応する形状からなる凸状の当接面を端面に有する円筒状に形成され、前記当接面が前記回折格子面に当接するように固定されるとともに、当該リテーナを回転可能に保持するための摺接面が外周面に形成されている。
【0019】
このような構成によれば、凹状のトロイダル形状からなる回折格子面に対して、回折格子面に対応する形状からなる凸状の当接面を端面に有するリテーナが、その当接面を回折格子面に当接させた状態で固定されるため、回折格子を安定して固定することができる。また、リテーナの外周面に形成されている摺接面により、リテーナを回転可能に保持することができるため、リテーナを回転させるだけで回折格子面の溝方向を容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、凹状のトロイダル形状からなる回折格子面に対して、回折格子面に対応する形状からなる凸状の当接面を当接するようにリテーナを固定することにより、回折格子を安定して固定することができる。また、本発明によれば、リテーナを回転させることにより回折格子面の溝方向を調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分光器の構成例を示す概略断面図である。
【
図4A】球面形状の回折格子面を有する回折格子について説明するための概略斜視図である。
【
図4B】トロイダル形状の回折格子面を有する回折格子について説明するための概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る分光器1の構成例を示す概略断面図である。この分光器1は、例えば筐体2、入射スリット3、リテーナ4、回折格子5及び検出器6の他、図示しない各種ミラーなどを備えたポリクロメータである。
【0023】
筐体2は、遮光性を有する中空状の部材であり、入射スリット3を通過した光のみが内部に入射する。筐体2には、リテーナ4を介して回折格子5が外側から取り付けられている。また、筐体2の内部には、検出器6が収容されている。
【0024】
リテーナ4は、円筒状の部材であり、筐体2に形成されている開口21に挿入された状態で取り付けられる。開口21の内周面は、リテーナ4の外径とほぼ同一の内径を有している。リテーナ4の一方の端部における外周面は、摺接面41を構成しており、この摺接面41が開口21の内周面に摺接するようにリテーナ4を回転させることにより、リテーナ4を回転可能に保持することができる。
【0025】
リテーナ4の他方の端部における外周面には、径方向外側に突出する円環状の突出部42が形成されている。リテーナ4が開口21に挿入された状態では、突出部42が開口21の周縁部に当接する。これにより、突出部42は、リテーナ4が筐体2内に入り込まないようにするためのストッパとして機能するようになっている。
【0026】
回折格子5は、凹状の回折格子面51を有している。回折格子面51には、一定方向に沿って平行に延びる複数の溝(図示せず)が形成されている。回折格子5は、その回折格子面51がリテーナ4に対向するようにして、リテーナ4に取り付けられる。リテーナ4及び回折格子5の各中心軸線は、同一の軸線L上に位置している。
【0027】
リテーナ4の突出部42側の端面は、回折格子面51に当接する当接面43を構成している。回折格子5は、回折格子面51の周縁部が当接面43に当接するようにしてリテーナ4に固定されることにより、回折格子面51の中央部がリテーナ4内を介して筐体2の内部に対向している。
【0028】
本実施形態では、回折格子5の回折格子面51がトロイダル形状となっている。すなわち、回折格子面201における互いに直交する二軸について、それぞれの軸における曲率半径が異なる値となっている。例えば、回折格子面201において軸線Lを通る上下方向D1の軸(第1軸)と、回折格子面201において軸線Lを通る幅方向D2の軸(第2軸)とが、互いに直交しており、各軸における曲率半径が異なる値となっている。
【0029】
入射スリット3を通過して筐体2内に入射した光は、例えばコリメートミラー(図示せず)により平行光とされた後、リテーナ4内を通って回折格子5の回折格子面51で反射する。これにより、入射光が波長ごとの光に分光され、各波長の光がフォーカスミラー(図示せず)により検出器6に集光される。
【0030】
検出器6は、例えばフォトダイオードアレイにより構成されており、回折格子5から入射する各波長の受光強度に応じた信号を出力する。したがって、検出器6からの出力信号をデータ処理部(図示せず)で処理することにより、各波長のスペクトル分布を得ることができる。
【0031】
図2は、リテーナ4の構成例を示す正面図である。また、
図3は、リテーナ4の構成例を示す側面図である。以下では、
図1〜
図3を参照して、リテーナ4の具体的構成について説明する。
【0032】
この例では、当接面43がリテーナ4の突出部42側の端面全体に形成されているのではなく、当該端面に対して部分的に複数形成されている。具体的には、軸線Lを中心に90°間隔で4つの当接面43が形成されている。各当接面43は、平坦面ではなく、凸状の湾曲面により形成されている。
【0033】
凸状の各当接面43は、回折格子5の回折格子面51に対応する形状からなる。具体的には、軸線Lを通る上下方向D1の軸A1と、軸線Lを通る幅方向D2の軸A2とが、互いに直交しており、各軸A1,A2における曲率半径が異なる値となっている。
【0034】
軸A1上にある2つの当接面43(第1当接面43A)は、回折格子面51の第1軸上(軸線Lを通る上下方向D1の軸上)に軸線Lを挟んで形成されている。2つの第1当接面43Aは、
図2に示す正面視において、それぞれ軸A2に対して平行に延びている。また、2つの第1当接面43Aは、軸A2に対して平行な方向に沿って凸状に湾曲しており、その曲率半径は、回折格子面201の第2軸(軸線Lを通る幅方向D2の軸)における曲率半径と同一である。
【0035】
一方、軸A2上にある2つの当接面43(第2当接面43B)は、回折格子面51の第2軸上(軸線Lを通る幅方向D2の軸上)に軸線Lを挟んで形成されている。2つの第2当接面43Bは、
図2に示す正面視において、それぞれ軸A1に対して平行に延びている。また、2つの第2当接面43Bは、軸A1に対して平行な方向に沿って凸状に湾曲しており、その曲率半径は、回折格子面201の第1軸(軸線Lを通る上下方向D1の軸)における曲率半径と同一である。
【0036】
上記のような4つの当接面43(第1当接面43A及び第2当接面43B)が、それぞれ回折格子面51に当接するようにして、回折格子5がリテーナ4に固定される。具体的には、リテーナ4の突出部42と回折格子5の周縁部とが、接着剤などを用いて結合されることにより、リテーナ4及び回折格子5が同一の軸線L上で互いに回転しないように固定される。
【0037】
このように、本実施形態では、
図1に示すように、回折格子5が凹状のトロイダル形状からなる回折格子面51を有し、リテーナ4が回折格子面51に対応する形状からなる凸状の当接面43を端面に有する。したがって、リテーナ4の当接面43を回折格子面51に当接するように固定することにより、回折格子5を安定して固定することができる。
【0038】
また、円筒状のリテーナ4が筐体2に形成された開口21内に挿入されるため、リテーナ4を開口21内で回転させることにより回折格子面51の溝方向を調整することが可能である。より具体的には、リテーナ4の外周面に形成されている摺接面41により、リテーナ4を回転可能に保持することができるため、リテーナ4を回転させるだけで回折格子面51の溝方向を容易に調整することができる。リテーナ4を開口21内で回転させて回折格子面51の溝方向を調整した後、接着剤などを用いて筐体2にリテーナ4を結合させることにより、回折格子面51の溝方向を固定することができる。
【0039】
特に、本実施形態では、
図2に示すように、軸線Lを中心に90°間隔で4つの当接面43(第1当接面43A及び第2当接面43B)が形成されている。これらの4つの当接面43が回折格子面51に当接するように固定されるため、回折格子5がリテーナ4に対して何れの方向にも傾きにくく、回折格子5をより安定して固定することができる。
【0040】
さらに、本実施形態では、回折格子面51のトロイダル形状における第1軸上(軸線Lを通る上下方向D1の軸上)に軸線Lを挟んで2つの第1当接面43Aが形成され、第2軸上(軸線Lを通る幅方向D2の軸上)に軸線Lを挟んで2つの第2当接面43Bが形成されている。
【0041】
トロイダル形状からなる回折格子面51を形成する際には、第1軸又は第2軸の一方の軸に沿って回折格子5の表面を切削した後、他方の軸に沿って回折格子5の表面を再度切削することとなる。そのため、第1軸上及び第2軸上における切削精度が、他の領域における切削精度と比べて高くなる傾向がある。したがって、本実施形態のように、精度の高い領域(第1軸上及び第2軸上)で各当接面43を回折格子面51に当接させることにより、回折格子5をより安定して固定することができる。
【0042】
以上の実施形態では、当接面43が軸線Lを中心に90°間隔で4つ形成された構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、当接面43が3つ以下、又は、5つ以上形成された構成であってもよい。例えば、リテーナ4の端面全体が、回折格子面51に対応する形状からなる凸状の起伏を有している場合には、1つの当接面43全体を回折格子面51に当接させることも可能である。
【0043】
筐体2は、検出器6を収容するような構成に限らず、他の部材を収容するものであってもよい。また、リテーナ4は、筐体2以外の他の部材に形成された開口に挿入され、当該開口に対して摺接面41を摺接させながら回転可能な構成であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 分光器
2 筐体
3 入射スリット
4 リテーナ
5 回折格子
6 検出器
21 開口
41 摺接面
42 突出部
43 当接面
51 回折格子面