特許第6555315号(P6555315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6555315HFO−1234ze(E)及びHFC−134を含有する冷媒組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555315
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】HFO−1234ze(E)及びHFC−134を含有する冷媒組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20190729BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C09K5/04 F
   C09K5/04 E
   C09K5/04 C
   C09K5/04 A
   F25B1/00 396Z
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-200590(P2017-200590)
(22)【出願日】2017年10月16日
(65)【公開番号】特開2019-73624(P2019-73624A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2018年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 瞬
(72)【発明者】
【氏名】加留部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水野 彰人
(72)【発明者】
【氏名】黒木 眸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】山田 康夫
(72)【発明者】
【氏名】高桑 達哉
(72)【発明者】
【氏名】四元 佑樹
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−517009(JP,A)
【文献】 特表2017−504744(JP,A)
【文献】 特表2017−503907(JP,A)
【文献】 特表2016−539208(JP,A)
【文献】 特開2016−065206(JP,A)
【文献】 特表2014−514423(JP,A)
【文献】 特表2011−520016(JP,A)
【文献】 特表2013−544896(JP,A)
【文献】 特表2008−524433(JP,A)
【文献】 特表2008−544072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒成分を含有する冷媒組成物であって、
冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機からなる群から選択される少なくとも1種の冷凍装置に使用され、
前記冷媒成分100重量%中HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量が99重量%以上であり、
HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量を100重量%として、
HFO-1234ze(E)を44〜64重量%含有し、
HFC-134を56〜36重量%含有する、冷媒組成物。
【請求項2】
冷媒成分を含有する冷媒組成物であって、
前記冷媒成分100重量%中HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分の合計量が99重量%以上であり、
前記第三成分が、HCFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1225ye(E)、HFO-1225ye(Z)、HFO-1225zc、HFC-227ca、HFC-227ea、HFC-236fa、HFC-236ea、HFC-245fa及びHFE-227meからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、
HFO-1234ze(E)、HFC-134及び前記第三成分の合計量を100重量%として、
HFO-1234ze(E)を44〜64重量%含有し、
HFC-134を24〜44重量%含有し、
前記第三成分を0.2重量%以上20重量%以下含有する、冷媒組成物。
【請求項3】
前記第三成分が、HCFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1225ye(E)、HFO-1225ye(Z)及びHFC-245faからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項に記載の冷媒組成物。
【請求項4】
トレーサー、相溶化剤、紫外線蛍光染料、安定剤及び重合禁止剤からなる群より選択される少なくとも1種の物質を含む、請求項1〜のいずれかに記載の冷媒組成物。
【請求項5】
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)を含む冷媒組成物の代替として用いられる、請求項1〜のいずれかに記載の冷媒組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の冷媒組成物を用いた冷凍方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の冷媒組成物を含む冷凍装置。
【請求項8】
請求項1〜に記載の冷媒組成物の冷媒としての使用。
【請求項9】
請求項1〜に記載の冷媒組成物及び冷凍機油を含有する、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HFO-1234ze(E)及びHFC-134を含有する冷媒組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エアコン、冷凍機、冷蔵庫等に使用される冷媒としては、HFC-134a(R-134a、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、CF3CH2F)、HFO-1234yf(R-1234yf、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、CF3CF=CH2)、HFO-1234ze(R-1234ze、E-又はZ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、CF3CH=CHF、)、HFC-227ea(R-227ea 1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、CF3CHFCF3)等のフッ素化炭化水素の混合物が用いられている。
【0003】
上記の物質は、単独又は組成物(混合物)として各種用途に使用されており、組成物としては、例えば、特許文献1及び2に示されるようなHFCとHFOとを混合してなる組成物が知られている。
【0004】
特許文献1には、HFO-1234yf及びHFC-134aの混合冷媒であるR513Aが開示されている。
【0005】
特許文献2には、HFO-1234ze及びHFC-227eaの混合冷媒であるR515Aが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-053566号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/029679号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機等の冷凍装置において使用可能な、HFO-1234ze(E)及びHFC-134を含有する冷媒組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、以下のHFO-1234ze(E)及びHFC-134を含有する冷媒組成物及びその使用に関する。
1.HFO-1234ze(E)及びHFC-134を含有する冷媒組成物であって、
冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機からなる群から選択される少なくとも1種の冷凍装置に使用する、冷媒組成物。
2.HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量を100重量%として、
HFO-1234ze(E)を1〜64重量%含有し、
HFC-134を36〜99重量%含有する、項1に記載の冷媒組成物。
3.HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量を100重量%として、
HFO-1234ze(E)を44〜64重量%含有し、
HFC-134を36〜56重量%含有する、項1又は2に記載の冷媒組成物。
4.HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分を含有する冷媒組成物であって、
前記第三成分が、HCFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1225ye(E)、HFO-1225ye(Z)、HFO-1225zc、HFC-227ca、HFC-227ea、HFC-236fa、HFC-236ea、HFC-245fa及びHFE-227meからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、冷媒組成物。
5.HFO-1234ze(E)、HFC-134及び前記第三成分の合計量を100重量%として、
前記第三成分を0.2重量%以上20重量%以下含有する、項4に記載の冷媒組成物。
6.前記第三成分が、HCFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1225ye(E)、HFO-1225ye(Z)及びHFC-245faからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、項4又は5に記載の冷媒組成物。
7.HFO-1234ze(E)、HFC-134及び前記第三成分の合計量を100重量%として、
HFO-1234ze(E)を44〜64重量%含有し、
HFC-134を24〜44重量%含有する、項4〜6のいずれかに記載の冷媒組成物。
8.トレーサー、相溶化剤、紫外線蛍光染料、安定剤及び重合禁止剤からなる群より選択される少なくとも1種の物質を含む、項1〜7のいずれかに記載の冷媒組成物。
9.1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)を含む冷媒組成物の代替として用いられる、項1〜8のいずれかに記載の冷媒組成物。
10.項1〜9のいずれかに記載の冷媒組成物を用いた冷凍方法。
11.項1〜9のいずれかに記載の冷媒組成物を含む冷凍装置。
12.項1〜9に記載の冷媒組成物の冷媒としての使用。
13.項1〜9に記載の冷媒組成物及び冷凍機油を含有する、組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、HFO-1234ze(E)及びHFC-134を含有する冷媒組成物であって、ASHRAE不燃であり、冷凍能力が大きく、且つ、HFC-134aと比較してGWPが低く、エネルギー消費効率(COP)が同等であるという効果が得られ、冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機からなる群から選択される少なくとも1種の冷凍装置に好適に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.冷媒組成物
本発明の冷媒組成物は、冷媒成分としてHFO-1234ze(E)及びHFC-134を含有し、ASHRAE不燃であり、冷凍能力が大きく、且つ、HFC-134aと比較してGWPが低く、エネルギー消費効率(COP)が同等であるという特性を有する。
【0011】
また、本発明の冷媒組成物は、冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機からなる群から選択される少なくとも1種の冷凍装置に好適に使用可能であり、冷媒のGWPが低いことから、冷媒漏洩時の直接的な温室効果ガス排出による直接的な地球温暖化影響が小さく、且つ、COPが高い。よって、運転時の電力使用により排出する間接的な地球温暖化影響も小さくすることができるため、トータルでの地球温暖化影響を低減できるという特性を有する。
【0012】
本発明は、第一の形態〜第四の形態に大別される。以下にそれぞれの形態について詳細に記載する。なお、本発明の第一の形態〜第四の形態で使用する冷媒成分〔HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分〕については、以下の表1に定義される。
【0013】
【表1】
【0014】
第一の形態
本発明の第一の形態について詳細に記載する。
【0015】
本発明の第一の形態の冷媒組成物(以下、第一の形態の欄において「本発明の冷媒組成物」とも称する)は、HFO-1234ze(E)及びHFC-134を含有する冷媒組成物であって、冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機からなる群から選択される少なくとも1種の冷凍装置に使用する。
【0016】
本発明の冷媒組成物は、ASHRAE不燃であり、冷凍能力が大きく、且つ、HFC-134aと比較してGWPが低く、エネルギー消費効率(COP)が同等であるという性能を兼ね備える。
【0017】
本発明の冷媒組成物は、HFC-134aのGWPと比較してGWPを低くすることによって、地球温暖化の観点から他の汎用冷媒と比べて顕著に環境負荷を抑えることができる。また、GWPについては600以下とすることにより、環境負荷をより顕著に抑えることができるため、好ましい。
【0018】
本発明の冷媒組成物は、HFC-134aのCOPと同等であることによって、エネルギー消費効率の点で優れる。具体的には、本発明の冷媒組成物は、HFC-134aに対するCOPについては98%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、101%以上がさらに好ましい。本発明の冷媒組成物は、COPが当該範囲内にあることにより、R513Aに対して代替可能な優位性を有する。
【0019】
本発明の冷媒組成物は、HFC-134aに対する冷凍能力が、HFC-134aに対して代替可能な冷凍能力であればよく、具体的にはHFC-134aに対して75%以上であることが好ましく、78%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。本発明の冷媒組成物は、冷凍能力が上記範囲内にあることにより、R515A及びR1234zeに対して代替可能な優位性を有する。
【0020】
また、本発明の冷媒組成物は、R513Aと比較して、GWPが低く、且つ、COPが高い。さらに、本発明の冷媒組成物は、R515Aと比較して、冷凍能力が高い。加えて、本発明の冷媒組成物は、単体のR-1234zeと比較して、不燃であり、且つ、冷凍能力が高い。
【0021】
本発明の冷媒組成物において、HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量を100重量%として、HFO-1234ze(E)を1〜64重量%含有し、HFC-134を36〜99重量%含有することが好ましい。
【0022】
本発明の冷媒組成物は、HFO-1234ze(E)及びHFC-134を当該範囲内で含有することにより、HFC-134aと比較してGWPが低く、COPが同等であり、冷凍能力が大きく、且つ、HFC-134aと同様にASHRAE不燃という性能を兼ね備える。ASHRAE不燃であることにより、可燃性冷媒に比して安全性が高く使用可能範囲が広い。
【0023】
本発明の冷媒組成物は、HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量を100重量%として、HFO-1234ze(E)を44〜64重量%含有し、HFC-134を36〜56重量%含有することがより好ましい。
【0024】
本発明の冷媒組成物は、HFO-1234ze(E)及びHFC-134を当該範囲内で含有することにより、GWPが500以下となり、HFC-134aと比較してCOPが同等であり、冷凍能力が大きく、且つ、HFC-134aと同様にASHRAE不燃という性能を兼ね備える。
【0025】
本発明の冷媒組成物は冷媒組成物100重量%中HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量が95重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の冷媒組成物は、HFO-1234ze(E)及びHFC-134のみから成る組成物であってもよく、実質的にHFO-1234ze(E)及びHFC-134から成る組成物であってもよい。
【0027】
本発明の冷媒組成物は、冷媒成分(冷媒機能を有する物質)を含み、冷媒成分100重量%中HFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量が95重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の冷媒組成物は、冷媒成分(冷媒機能を有する物質)を含み、HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分のみから成る組成物であってもよい。
【0029】
さらに、本発明の冷媒組成物は、冷媒成分(冷媒機能を有する物質)を含み、実質的にHFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分から成る組成物であってもよい。
【0030】
本発明の冷媒組成物において、温度グライドは2℃以下が好ましく、1℃以下であればより好ましく、0.5℃以下であればさらに好ましい。温度グライドが2℃よりも大きい場合には、蒸発器の効率が悪化するおそれがある。
【0031】
本発明の冷媒組成物において、圧縮機吐出温度は80℃以下が好ましく、70℃以下であればより好ましい。圧縮機吐出温度が80℃よりも高い場合には、冷凍機油の分解や焼き付きが起こる可能性がある。
【0032】
第二の形態
本発明の第二の形態について詳細に記載する。
【0033】
本発明の第二の形態の冷媒組成物(以下、第二の形態の欄において「本発明の冷媒組成物」とも称する)は、HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分を含有する冷媒組成物であって、前記第三成分が、HCFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1336mzz(Z)、HFO-1225ye(E)、HFO-1225ye(Z)、HFO-1225zc、HFC-227ca、HFC-227ea、HFC-236fa、HFC-236ea、HFC-245fa及びHFE-227meからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0034】
本発明の冷媒組成物は、HFO-1234ze(E)及びHFC-134に加えて、第三成分を含有することによって、ASHRAE不燃であり、冷凍能力が大きく、且つ、HFC-134aと比較してGWPが低く、COPが同等であるという性能を兼ね備える。
【0035】
本発明の冷媒組成物は、HFC-134aのGWPと比較してGWPを低くすることによって、地球温暖化の観点から他の汎用冷媒と比べて顕著に環境負荷を抑えることができる。また、GWPについては500以下とすることにより、環境負荷をより顕著に抑えることができるため、好ましい。
【0036】
本発明の冷媒組成物は、HFC-134aのCOPと同等であることによって、エネルギー消費効率の点で優れる。具体的には、本発明の冷媒組成物は、HFC-134aに対するCOPについては98%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、101%以上がさらに好ましい。本発明の冷媒組成物は、COPが当該範囲内にあることにより、R513Aに対して代替可能な優位性を有する。
【0037】
本発明の冷媒組成物は、HFC-134aに対する冷凍能力が、HFC-134aに対して代替可能な冷凍能力であればよく、具体的にはHFC-134aに対して75%以上であることが好ましく、78%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。本発明の冷媒組成物は、冷凍能力が上記範囲内にあることにより、R515A及びR1234zeに対して代替可能な優位性を有する。
【0038】
また、本発明の冷媒組成物は、R513Aと比較して、GWPが低く、且つ、COPが高い。さらに、本発明の冷媒組成物は、R515Aと比較して、冷凍能力が高い。加えて、本発明の冷媒組成物は、単体のR-1234zeと比較して、不燃であり、且つ、冷凍能力が高い。
【0039】
本発明の冷媒組成物において、温度グライドは2℃以下が好ましく、1℃以下であればより好ましく、0.5℃以下であればさらに好ましい。温度グライドが2℃よりも大きい場合には、蒸発器の効率が悪化するおそれがある。
【0040】
本発明の冷媒組成物において、圧縮機吐出温度は80℃以下が好ましく、70℃以下であればより好ましい。圧縮機吐出温度が80℃よりも高い場合には、冷凍機油の分解や焼き付きが起こる可能性がある。
【0041】
本発明の冷媒組成物において、高COPと不燃の両立の観点から、HFO-1234ze(E)、HFC-134及び前記第三成分の合計量を100重量%として、前記第三成分を0.2重量%以上20重量%以下含有することが好ましく、0.2重量%以上8.0重量%以下含有することがより好ましく、0.2重量%以上3.0重量%以下含有することがさらに好ましい。
【0042】
本発明の冷媒組成物において、低GWP化と不燃の両立の観点から、前記第三成分が、HCFO-1233zd(E)、HCFO-1224yd(Z)、HFO-1234ze(Z)、HFO-1336mzz(E)、HFO-1225ye(E)、HFO-1225ye(Z)及びHFC-245faからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0043】
本発明の冷媒組成物において、HFO-1234ze(E)、HFC-134及び前記第三成分の合計量を100重量%として、HFO-1234ze(E)を44〜64重量%含有し、HFC-134を24〜44重量%含有することが好ましい。
【0044】
本発明の冷媒組成物は冷媒組成物100重量%中HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分の合計量が95重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。
【0045】
また、本発明の冷媒組成物は、HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分のみから成る組成物であってもよく、実質的にHFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分から成る組成物であってもよい。
【0046】
本発明の冷媒組成物は、冷媒成分(冷媒機能を有する物質)を含み、冷媒成分100重量%中HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分の合計量が95重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明の冷媒組成物は、冷媒成分(冷媒機能を有する物質)を含み、HFO-1234ze(E)、HFC-134、第三成分のみから成る組成物であってもよい。
【0048】
さらに、本発明の冷媒組成物は、冷媒成分(冷媒機能を有する物質)を含み、実質的にHFO-1234ze(E)、HFC-134、第三成分から成る組成物であってもよい。
【0049】
第一及び第二の形態の冷媒組成物における任意の添加剤
本発明の第一及び第二の形態の冷媒組成物(以下、任意の添加剤の欄において「本発明の冷媒組成物」とも称する)は、種々の添加剤を目的に応じて適宜含むことができる。
【0050】
本発明の冷媒組成物は、一種以上のトレーサーをさらに含むことができる。トレーサーは、本発明の冷媒組成物が希釈、汚染、その他何らかの変更があった場合、その変更を追跡できるように検出可能な含有量で本発明の冷媒組成物に添加される。トレーサーとしては、特に限定されず、ハイドロフルオロカーボン、重水素化炭化水素、重水素化ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、フルオロエーテル、臭素化化合物、ヨウ素化化合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、亜酸化窒素(N2O)等が好ましく、ハイドロフルオロカーボン又はフルオロエーテルが特に好ましい。
【0051】
本発明の冷媒組成物において、トレーサーの含有量が、冷媒組成物100重量%中0.01〜5重量%であることが好ましい。
【0052】
本発明の冷媒組成物は、相溶化剤をさらに含むことができる。相溶化剤の種類は特に限定されず、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、アミド、ニトリル、ケトン、クロロカーボン、エステル、ラクトン、アリールエーテル、フルオロエーテルおよび1,1,1-トリフルオロアルカン等が好ましく、ポリオキシアルキレングリコールエーテルが特に好ましい。
【0053】
本発明の冷媒組成物において、相溶化剤の含有量が、冷媒組成物100重量%中0.01〜5重量%であることが好ましい。
【0054】
本発明の冷媒組成物は、一種以上の紫外線蛍光染料をさらに含むことができる。紫外線蛍光染料としては、特に限定されず、ナフタルイミド、クマリン、アントラセン、フェナントレン、キサンテン、チオキサンテン、ナフトキサンテン及びフルオレセイン、並びにこれらの誘導体が好ましく、ナフタルイミド及びクマリンのいずれか又は両方が特に好ましい。
【0055】
本発明の冷媒組成物において、紫外線蛍光染料の含有量が、冷媒組成物100重量%中0.01〜5重量%であることが好ましい。
【0056】
本発明の冷媒組成物は、必要に応じて、安定剤、重合禁止剤等をさらに含むことができる。
【0057】
安定剤としては、特に限定されず、(i)ニトロメタン、ニトロエタン等の脂肪族ニトロ化合物、ニトロベンゼン、ニトロスチレン等の芳香族ニトロ化合物、(ii)1,4-ジオキサン等のエーテル類、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルアミン、ジフェニルアミン等のアミン類、ブチルヒドロキシキシレン、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。安定剤は、単独で又は2種以上を組み合わせであることができる。
【0058】
本発明の冷媒組成物において、安定剤の含有量が、冷媒組成物100重量%中0.01〜5重量%であることが好ましい。
【0059】
重合禁止剤としては、特に限定されず、例えば、4-メトキシ-1-ナフトール、ヒドロキノン、ヒドロキノンメチルエーテル、ジメチル-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0060】
本発明の冷媒組成物において、重合禁止剤の含有量が、冷媒組成物100重量%中0.01〜5%であることが好ましい。
【0061】
2.組成物
本発明の組成物は、前述の冷媒組成物(任意の添加剤を含み得る)及び冷凍機油を含有する。
【0062】
冷凍機油としては、特に限定されず、一般に用いられる冷凍機油の中から適宜選択することができる。例えば、本発明の冷媒組成物との相溶性、安定性等を向上する作用等の点でより優れている冷凍機油を適宜選択することができる。
【0063】
本発明の冷媒組成物及び組成物の安定性の評価方法は、特に限定されず、一般的に用いられる手法で評価することができる。そのような手法の一例として、ASHRAE標準97-2007にしたがって遊離フッ素イオンの量を指標として評価する方法等が挙げられる。その他にも、全酸価(total acid number)を指標として評価する方法等も挙げられる。この方法は、例えば、ASTM D 974-06にしたがって行うことができる。
【0064】
冷凍機油の種類は、より具体的には、例えば、ポリアルキレングリコール(PAG)、ポリオールエステル(POE)及びポリビニルエーテル(PVE)からなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。
【0065】
冷凍機油は、例えば、40℃における動粘度が5〜400 cStであるものを用いることができる。動粘度がこの範囲内にあると、潤滑の点で好ましい。
【0066】
本明細書において、冷凍機油の含有量は、前記冷媒成分[HFO-1234ze(E)、HFC-134及び第三成分]及び前記冷凍機油の2成分からなる単位を冷媒混合物と称し、当該冷媒混合物100重量%中、通常、2〜50重量%であることができる。
【0067】
第三の形態
本発明の第三の形態について詳細に記載する。
【0068】
冷媒組成物の用途・使用(use)
本発明の第一の形態及び第二の形態の冷媒組成物(以下、第三の形態の欄において「本発明の冷媒組成物」とも称する)は、種々の冷凍装置(refrigerator)において使用することができる。具体的には、本発明の冷媒組成物は、冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機からなる群から選択される少なくとも1種の冷凍装置(refrigerator)としての使用に適している。
【0069】
なお、本明細書において冷凍装置(refrigerator)とは、広義には、物あるいは空間の熱を奪い去ることにより、周囲の外気よりも低い温度にし、かつこの低温を維持する装置全般のことをいう。言い換えれば、広義には、冷凍装置は温度の低い方から高い方へ熱を移動させるために、外部からエネルギーを得て仕事を行いエネルギー変換する変換装置のことをいう。
【0070】
本発明において冷凍装置には、特に限定されないが、例えば、冷蔵庫、冷凍庫、冷水機、製氷機、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、冷凍冷蔵ユニット、冷凍冷蔵倉庫用冷凍機、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機等が含まれる。
【0071】
本発明において、用語「チラー(チリングユニット)」は、冷媒を収容した冷凍機、並びに水又は不凍液等を循環させる回路を含み、冷却器を通して熱交換を行うシステムを指す。
【0072】
また、本発明において、用語「ターボ冷凍機」は、大型チラー冷凍機の一種であって、蒸発器にて液体の冷媒に熱交換を行わせ、蒸発した冷媒ガスを遠心式圧縮機が吸い込み、断熱圧縮された冷媒ガスを凝縮器で冷却して液化させ、さらに膨張弁を通過させて断熱膨張させた後、蒸発機に再び液体の冷媒として供給する冷凍サイクルからなる冷凍機を指す。なお、用語「大型チラー冷凍機」は、チラーの一種であって、建物単位での空調を目的とした大型空調機を指す。
【0073】
冷凍装置としては、特に限定されないが、蒸気圧縮冷凍機、蒸気噴射冷凍機及び空気サイクル冷凍機等が幅広く挙げられる。代表的なものとして、蒸気圧縮冷凍機が挙げられる。
【0074】
本発明の冷媒組成物を使用できる冷凍装置は業務用(工業用、実験用及び運送用等を含む)に好ましく用いられる。
【0075】
本発明の冷媒組成物は、特に、チラー(チリングユニット)、ターボ冷凍機及びスクリュー冷凍機としての使用に適している。
【0076】
本発明の冷媒組成物は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)を含む冷媒組成物の代替として用いられることができる。具体的には、HFC-134aを用いて冷凍サイクルを運転する工程を含む冷凍方法において、HFC-134aの代わりに本発明の冷媒組成物を用いることができる。
【0077】
また、本発明の冷媒組成物は、冷媒成分として1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)のみを含む冷媒組成物の代替として用いられることができる。
【0078】
本発明の冷媒組成物は、当該冷媒組成物におけるHFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量を100重量%として、HFO-1234ze(E)を1〜64重量%含有し、HFC-134を36〜99重量%含有する冷媒としての使用に適している。
【0079】
また、本発明の冷媒組成物は、当該冷媒組成物におけるHFO-1234ze(E)及びHFC-134の合計量を100重量%として、HFO-1234ze(E)を44〜64重量%含有し、HFC-134を36〜56重量%含有する冷媒としての使用に適している。
【0080】
第四の形態
本発明の第四の形態について詳細に記載する。
【0081】
冷凍方法
本発明の冷凍方法は、本発明の第一の形態及び第二の形態の冷媒組成物(以下、第四の形態の欄において「本発明の冷媒組成物」とも称する)を用いて冷凍サイクルを運転する工程を含む、方法である。
【0082】
冷凍サイクルとしては、主に蒸気圧縮式、蒸気噴射式及び吸収式等が挙げられる。本発明の冷媒組成物は、特に限定されないが、蒸気圧縮式冷凍サイクルにおける用途に適している。
【0083】
蒸気圧縮式冷凍サイクルとは、冷媒を、(1)気体状態で圧縮機で圧縮し、(2)凝縮器で冷却して圧力が高い液体状態に変え、(3)膨張弁で圧力を下げ、さらに(4)蒸発器において低温で気化させて気化熱により熱を奪い取る、という一連のサイクルからなる。気体状態の冷媒を圧縮する方式によりターボ(遠心式)、レシプロ、ツインスクリュー、シングルスクリュー及びスクロール圧縮機等に分類することができ、熱容量、圧縮比及び大きさにより選択することができる。本発明の冷媒組成物は、特に限定されないが、大型チラー冷凍機、特にターボ(遠心式)圧縮機に用いられる冷媒に適している。
【実施例】
【0084】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0085】
実施例1〜11及び比較例1〜4
各実施例及び比較例の組成物のGWPは、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)第4次報告書の値に基づいて評価した。
【0086】
また、各実施例及び比較例の組成物のCOP及び冷凍能力は、National Institute of Science and Technology(NIST)、Reference Fluid Thermodynamic and Transport Properties Database(Refprop 9.0)を用いて、下記条件で冷媒及び混合冷媒の冷凍サイクル理論計算を実施することにより求めた。
蒸発温度 0℃
凝縮温度 45℃
過熱温度 5K
過冷却温度 0K
圧縮機効率 70%
【0087】
また、これらの結果をもとに算出したGWP、COP、冷凍能力を表1及び2に示す。なお、COP及び冷凍能力については、R134aに対する割合を示す。
【0088】
成績係数(COP)は、次式により求めた。
COP =(冷凍能力又は暖房能力)/消費電力量
各実施例及び比較例の組成物の燃焼性は、米国ASHRAE34-2013規格に従って評価した。
【0089】
燃焼の状態が目視及び録画撮影できるように内容積12リットルの球形ガラスフラスコを使用し、燃焼により過大な圧力が発生した際には上部のふたからガスが開放される。着火方法は底部から1/3の高さに保持された電極からの放電により発生させる。
【0090】
<試験条件>
試験容器:280 mmφ球形(内容積:12リットル)
試験温度:60℃±3℃
圧力:101.3 kPa±0.7 kPa
水分:乾燥空気1 gにつき0.0088g ± 0.0005g
組成物/空気混合比:1 vol.%刻み±0.2 vol.%
組成物混合:±0.1 重量%
点火方法:交流放電、電圧 15kV、電流30mA、ネオン変圧器
電極間隔:6.4 mm (1/4 inch)
スパーク:0.4 秒±0.05 秒
判定基準:着火点を中心に90度以上火炎が広がった場合=可燃(伝播)
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
実施例1〜11はASHRAE不燃であり、冷凍能力が大きく、低GWPであり、且つ、高COPであった。
【0094】
比較例1(R513A)はGWPが600以上であり、R-134aに対するCOPが96%であった。
【0095】
比較例2(R515A)はR-134aに対するCOPが99%であり、R-134aに対する冷凍能力が73%であった。
【0096】
比較例3(R1234ze)及び4は可燃であった。