特許第6555328号(P6555328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6555328繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555328
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20190729BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190729BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C08L63/00 A
   C08K3/36
   C08J5/24CFC
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-228347(P2017-228347)
(22)【出願日】2017年11月28日
(65)【公開番号】特開2019-99600(P2019-99600A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2018年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】岩田 充宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友裕
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−149237(JP,A)
【文献】 特開2017−149887(JP,A)
【文献】 特開2015−157958(JP,A)
【文献】 特開2013−155330(JP,A)
【文献】 特開平11−043534(JP,A)
【文献】 特開平11−043546(JP,A)
【文献】 特開2006−291092(JP,A)
【文献】 特開平06−025445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃の粘度が6000mPa・s以下であるN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)60〜85質量部と、25℃の粘度が20000mPa・s以下である液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)15〜40質量部とから構成されるエポキシ樹脂成分100質量部に対して、
熱可塑性樹脂(C)を8〜15質量部、
平均粒子径が1000nm以下のエラストマー微粒子(D)を2〜10質量部、および
平均粒子径が1000nm以下のシリカ微粒子(E)を0.5〜2.5質量部
含有してなる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
70℃の粘度が200Pa・s以下であり、かつ硬化過程での最低粘度が1Pa・s以上の請求項1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(C)がポリエーテルサルホンである請求項1または2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(C)を前記(A)成分および/または前記(B)成分に溶解してなる請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エラストマー微粒子(D)がコアシェル型微粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
硬化剤(F)をさらに含み、前記硬化剤(F)が、ジアミノジフェニルスルホンである請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物をマトリックスとし、それを強化繊維に含浸させてなる、プリプレグ。
【請求項8】
請求項7に記載のプリプレグの加熱硬化体である、繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機等に適用される炭素繊維やガラス繊維強化複合材料用マトリックス樹脂としては、従来よりエポキシ樹脂が最も主流であり、機体構造の多くに用いられている。例えば特許文献1には、[A]エポキシ樹脂100質量部、[B]熱可塑性樹脂5〜80質量部、[C]ジアミノジフェニルスルフォン20〜50質量部、[D]平均粒子径が1〜1000nmの無機微粒子0.01〜30質量部を必須成分として含む樹脂組成物が開示され、特許文献2には、[A]エポキシ樹脂、[B]硬化剤、[C]添加剤を含み、[C]が平均径40nm以下の一次粒子からなる無機物を含み、かつ特定の貯蔵剛性率を有する繊維強化複合材料用樹脂組成物が開示されている。
【0003】
しかし、前記のような従来技術の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、耐熱性および靱性を両立できないという問題点があり、航空機等のような厳しい条件下で用いられる部材としては、所望の耐久性が満たされないという課題があった。なお、一般的に高い耐熱性を付与する樹脂を用いると、靱性が低下し、両方の性質は二律背反の関係にあることが知られている。
一方、プリプレグの形成の際の該樹脂組成物には、含浸時および硬化時のそれぞれに適した粘度特性が存在する。例えば、含浸時は低温条件(樹脂の熱履歴を悪化させない程度の温度および時間)で粘度が低下し、優れた作業性(含浸性)を示し、硬化時は強化繊維から過度に樹脂流出せず、かつ積層時に空隙が埋まる程度に樹脂流出する樹脂流出性を有することが求められる。しかし、従来技術の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、これらの粘度特性を十分に満足することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−242459号公報
【特許文献2】特許第3648743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、優れた耐熱性および靱性を有するとともに、含浸時は低温条件(樹脂の熱履歴を悪化させない程度の温度および時間)で粘度が低下し、優れた作業性を示し、かつ硬化時は強化繊維から過度に樹脂流出せず、かつ積層時に空隙が埋まる程度に樹脂流出する樹脂流出性を有する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
また本発明の別の目的は、耐熱性、靭性に優れるとともに、室温での作業性に優れるプリプレグを提供することにある。
また本発明の別の目的は、耐熱性、靭性に優れ、様々な用途に適用し得る繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、特定の物性を有する2種類のエポキシ樹脂成分を採用し、さらに熱可塑性樹脂、特定粒子径のエラストマー微粒子およびシリカ微粒子を特定量でもって配合することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0007】
1.50℃の粘度が6000mPa・s以下であるN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)60〜85質量部と、25℃の粘度が20000mPa・s以下である液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)15〜40質量部とから構成されるエポキシ樹脂成分100質量部に対して、
熱可塑性樹脂(C)を8〜15質量部、
平均粒子径が1000nm以下のエラストマー微粒子(D)を2〜10質量部、および
平均粒子径が1000nm以下のシリカ微粒子(E)を0.5〜2.5質量部
含有してなる繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
2.70℃の粘度が200Pa・s以下であり、かつ硬化過程での最低粘度が1Pa・s以上の前記1に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
3.前記熱可塑性樹脂(C)がポリエーテルサルホンである前記1または2に記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
4.前記熱可塑性樹脂(C)を前記(A)成分および/または前記(B)成分に溶解してなる前記1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
5.前記エラストマー微粒子(D)がコアシェル型微粒子である前記1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
6.硬化剤(F)をさらに含み、前記硬化剤(F)が、ジアミノジフェニルスルホンである前記1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物。
7.前記1〜6のいずれかに記載の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物をマトリックスとし、それを強化繊維に含浸させてなる、プリプレグ。
8.前記7に記載のプリプレグの加熱硬化体である、繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、50℃の粘度が6000mPa・s以下であるN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)と、25℃の粘度が20000mPa・s以下である液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)と、熱可塑性樹脂(C)と、平均粒子径が1000nm以下のエラストマー微粒子(D)と、平均粒子径が1000nm以下のシリカ微粒子(E)とを特定の範囲でもって配合しているので、従来技術では二律背反の関係とされていた耐熱性および靱性を向上でき、また、含浸時は低温条件(樹脂の熱履歴を悪化させない程度の温度および時間)で粘度が低下し、優れた作業性を示し、かつ硬化時は強化繊維から過度に樹脂流出せず、かつ積層時に空隙が埋まる程度に樹脂流出する樹脂流出性を有する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することができる。
また本発明のプリプレグは、前記繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物をマトリックスとし、それを強化繊維に含浸させてなるものであるので、耐熱性、靭性に優れるとともに、室温での作業性に優れる。
また本発明の繊維強化複合材料は、前記プリプレグの加熱硬化体であることから、耐熱性、靭性に優れ、様々な用途に適用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)、熱可塑性樹脂(C)、エラストマー微粒子(D)、およびシリカ微粒子(E)を含有してなる。以下、各成分について説明する。
【0010】
N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)
本発明で使用されるN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)(以下、(A)成分と言うことがある)は、50℃の粘度が6000mPa・s以下であることが必要である。(A)成分の50℃の粘度が6000mPa・sを超えると、耐熱性、靱性および前記粘度特性を同時に満たすことができない。(A)成分の50℃の粘度は、3000〜6000mPa・sであるのが好ましい。なお、本発明で言う粘度とは、所定の温度条件下においてE型粘度計等の回転粘度計を用いて測定された値である。
(A)成分は、市販されているものの中から、前記粘度範囲を有するものを適宜選択することができ、例えば新日鉄住金化学株式会社製YH−404(50℃の粘度=3600〜5000mPa・s)、ハンツマン社製MY−721(50℃の粘度=3000〜6000mPa・s)、常州市科特殊高分子材料有限公司社製商品名SKE-3(50℃の粘度=3500〜5500mPa・s)、等が挙げられる。
【0011】
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)
本発明で使用される液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)(以下、(B)成分と言うことがある)は、25℃の粘度が20000mPa・s以下であることが必要である。(B)成分の25℃の粘度が20000mPa・sを超えると、耐熱性、靱性および前記粘度特性を同時に満たすことができない。(B)成分の25℃の粘度は、18000mPa・s以下であるのが好ましく、16000mPa・s以下であるのがさらに好ましい。
(B)成分は、市販されているものの中から、前記粘度範囲を有するものを適宜選択することができ、例えば新日鉄住金化学株式会社製YD−128(25℃の粘度=11000〜15000mPa・s)、新日鐵住金化学株式会社製商品名YD-127(25℃の粘度=8000〜15000mPa・s)、三菱ケミカル株式会社製商品名jER 828(25℃の粘度=12000〜15000mPa・s)、等が挙げられる。
【0012】
熱可塑性樹脂(C)
本発明で使用される熱可塑性樹脂(C)(以下、(C)成分と言うことがある)は、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリイミド、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン6、ナイロン12、非晶性ナイロンなどのポリアミド、アラミド、アリレート、ポリエステルカーボネート、フェノキシ樹脂等が挙げられる。中でも、耐熱性、靱性および前記粘度特性をさらに高める得るという観点から、ポリエーテルサルホン(PES)が好ましい。
【0013】
エラストマー微粒子(D)
本発明で使用されるエラストマー微粒子(D)(以下、(D)成分と言うことがある)は、平均粒子径が1000nm以下であることが必要である。(D)成分の平均粒子径が1000nmを超えると、耐熱性、靱性および前記粘度特性を同時に満たすことができない。(D)成分の平均粒子径は、500nm以下であるのが好ましく、300nm以下であるのがさらに好ましい。なお本発明における平均粒子径とは、電子顕微鏡、レーザー顕微鏡等を用いて測定した円相当径の平均値をいい、例えば、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置LA−300(堀場製作所社製)、レーザー顕微鏡VK−8710(キーエンス社製)などで測定することができる。
(D)成分としては、公知のコアシェル型微粒子が好適であり、例えば架橋されたゴム状ポリマーを主成分とする粒子状コア成分の表面に、コア成分とは異種のシェル成分ポリマーをグラフト重合した粒子であることができる。
コア成分としては、例えばブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、NBR、SBR、IR、EPR等が挙げられる。
シェル成分としては、例えばアクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマー、芳香族系ビニルモノマー等から選択されたモノマーを重合させた重合体が挙げられる。
(D)成分は市販されているものの中から、前記平均粒子径を有するものを適宜選択することができ、例えば株式会社カネカ製MX−154(エポキシ樹脂/コアシェルゴム粒子マスターバッチ;ブタジエン系コアシェルゴム粒子を40質量%含む;平均粒子径=100〜200nm)、株式会社カネカ製商品名MX−125(エポキシ樹脂/コアシェルゴム粒子マスターバッチ;SBR系コアシェルゴム粒子を25質量%含む;平均粒子径=100〜200nm)等が挙げられる。
【0014】
シリカ微粒子(E)
本発明で使用されるシリカ微粒子(E)(以下、(E)成分と言うことがある)は、平均粒子径が1000nm以下であることが必要である。(E)成分の平均粒子径が1000nmを超えると、耐熱性、靱性および前記粘度特性を同時に満たすことができない。
(E)成分の平均粒子径は、5〜100nmであることが好ましく、50nm以下であるのがさらに好ましい。
シリカ微粒子としては、親水性のシリカ微粒子が好ましく、沈殿法シリカ、ゲル法シリカ、熱分解法シリカ、溶融シリカのような非晶質合成シリカ;結晶合成シリカ;天然シリカ等が挙げられる。
シリカ微粒子の形状は特に制限されない。例えば、球状、粒状、不規則形状(不規則な形状を有するもの、不定形のもの)のものが挙げられる。耐熱性、靱性および前記粘度特性を同時に満たすという観点から、球状、粒状および不規則形状であるのが好ましい。
(E)成分は市販されているものの中から、前記平均粒子径を有するものを適宜選択することができ、例えばキャボット社製CAB-O-SIL M5(親水性ヒュームドシリカ)、日本アエロジル社製商品名AEROSIL 200(平均粒子径12nm)等が挙げられる。
【0015】
(F)硬化剤
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物には、公知の各種硬化剤(F)(以下、(F)成分と言うことがある)が使用可能である。(F)成分としては、例えば、アミン、酸無水物、ノボラック樹脂、フェノール、メルカプタン、ルイス酸アミン錯体、オニウム塩、及びイミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性が向上するという観点から、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(3,3′−DDS)、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン(4,4′−DDS)のようなジアミノジフェニルスルホンが好ましい。
【0016】
(配合割合)
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、(A)成分60〜85質量部と、(B)成分15〜40質量部とから構成されるエポキシ樹脂成分100質量部に対して、
(C)成分を8〜15質量部、
(D)成分を2〜10質量部、および
(E)成分を0.5〜2.5質量部
含有してなる。
エポキシ樹脂成分100質量部中、(A)成分の配合割合が60質量部未満である(B成分が40質量部を超える)と耐熱性が悪化し、85質量部を超える(B成分が15質量部未満である)と硬化物が脆くなる。
(C)成分が8質量部未満であると靱性が悪化し、15質量部を超えると含浸時における低粘度を維持できなくなり、作業性が悪化する。
(D)成分が2質量部未満であると靱性が悪化し、10質量部を超えると弾性率が悪化する。
(E)成分が0.5質量部未満であると配合量が少なすぎて本発明の効果が奏されず、2.5質量部を超えると硬化過程での最低粘度が上昇し、作業性が悪化する。
【0017】
(A)成分は耐熱性を向上させるが、硬化物を脆くするという問題がある。また、(B)成分の配合量が多くなると耐熱性が低下する。(C)成分は靱性及び樹脂の流れ性を改善するが、多量に配合すると粘度が上昇し、作業性を悪化させる。(D)成分は靱性を向上させるが、多量に配合すると硬化物の弾性率を悪化させる。(E)成分は樹脂の流れ性の制御に有効であるが、多量に配合すると粘度(チクソ性)が上昇し、作業性が悪化してしまう。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物では、前記のような各成分における負の特性を補いつつ、各成分の長所を最大限に活用することを可能にしている。すなわち、(A)成分の粘度および(B)成分の粘度並びに(A)成分および(B)成分の比率を前記特定範囲としていることから、耐熱性を損なわずに脆さも低減し、かつ、(C)、(D)および(E)成分の配合量を狭い特定範囲に設定していることから、前記粘度特性を向上させている。このような配合設計により、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、従来技術では二律背反の関係とされていた耐熱性および靱性を向上させ、また、含浸時は低粘度を維持して優れた作業性を示し、かつ硬化時は強化繊維から過度に樹脂流出せず、かつ積層時に空隙が埋まる程度に樹脂流出する樹脂流出性を有する。
【0018】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、溶剤、難燃剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、(A)〜(E)成分並びにその他の成分を任意の順番または同時に混練することにより調製することができるが、本発明の効果が向上するという観点から、(C)成分を(A)成分および/または(B)成分に溶解した後に、その他の成分を加え、混練する工程を経ることが好ましい。
【0020】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、70℃の粘度が200Pa・s以下であり、かつ硬化過程での最低粘度が1Pa・s以上の範囲となり得る。
70℃の粘度が200Pa・s以下であることにより、均一な樹脂薄膜の成形が容易となる。また、硬化過程での最低粘度が1Pa・s以上であることにより、強化繊維からの樹脂組成物の流出を防止できる。なおここで言う硬化過程とは、例えば樹脂組成物を金型中で180〜200℃で1〜2時間程度静置して樹脂組成物が硬化していく過程を指す。
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物における70℃の粘度は、50〜200Pa・sであることが好ましく、硬化過程での最低粘度は1〜10Pa・sであることが好ましい。
【0021】
本発明のプリプレグは、本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物をマトリックスとし、それをガラス繊維、クオーツ繊維、カーボン繊維のような強化繊維に含浸させてなるものである。これらの強化繊維の形態は、特に制限されず、ロービング、ロービングを一方向に引きそろえたもの、織物、不織布、編物、チュールなどが挙げられる。
【0022】
本発明のプリプレグ中の、強化繊維の含有量は、得られる繊維強化複合材料の機械的性質の観点から、20〜60質量%であるのが好ましい。
【0023】
本発明のプリプレグは、その製造方法について特に制限されない。例えば、溶剤を使用するディッピング法、無溶剤法であるホットメルト法が挙げられる。
【0024】
また本発明の繊維強化複合材料は、該プリプレグを加熱硬化させることにより得られる。
本発明の繊維強化複合材料は、その用途について特に制限されない。例えば、レドーム、フェアリング、フラップ、リーディングエッジ、フロアパネル、プロペラ、胴体などの航空機部品;オートバイフレーム、カウル、フェンダー等の二輪車部品;ドア、ボンネット、テールゲート、サイドフェンダー、側面パネル、フェンダー、エネルギー吸収部材、トランクリッド、ハードップ、サイドミラーカバー、スポイラー、ディフューザー、スキーキャリアー、エンジンシリンダーカバー、エンジンフード、シャシー、エアースポイラー、プロペラシャフト等の自動車部品;先頭車両ノーズ、ルーフ、サイドパネル、ドア、台車カバー、側スカートなどの車輌用外板;荷物棚、座席等の鉄道車輌部品;インテリア、ウイングトラックにおけるウイングのインナーパネル、アウターパネル、ルーフ、フロアー等、自動車や単車に装着するサイドスカートなどのエアロパーツ;ノートパソコン、携帯電話等の筐体用途;X線カセッテ、天板等のメディカル用途;フラットスピーカーパネル、スピーカーコーン等の音響製品用途;ゴルフヘッド、フェースプレート、スノーボード、サーフィンボード、プロテクター等のスポーツ用品用途;板バネ、風車ブレード、エレベーター(籠パネル、ドア)のような一般産業用途が挙げられる。
上記の中でも、本発明の繊維強化複合材料は、耐熱性、靭性に優れることから、航空機用部品、例えばフラップのような二次構造用部材に使用するのが特に好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0026】
下記例では、以下の材料を使用した。
N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)
新日鉄住金化学株式会社製YH−404(50℃の粘度=3600〜5000mPa・s)
【0027】
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)
新日鉄住金化学株式会社製YD−128(25℃の粘度=10000〜15000mPa・s)
【0028】
熱可塑性樹脂(C)
ポリエーテルサルホン(住友化学株式会社製PES5003P)
【0029】
エラストマー微粒子(D)
株式会社カネカ製MX−154(エポキシ樹脂/コアシェルゴム粒子マスターバッチ;ブタジエン系コアシェルゴム粒子を40質量%含む;平均粒子径=100〜200nm)。なお、下記表1では、コアシェルゴム粒子の量そのものを記載した。また上記株式会社カネカ製MX−154に含まれるエポキシ樹脂は、本発明における「液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)」に相当する。したがって、株式会社カネカ製MX−154に含まれるエポキシ樹脂の量は、下記表1における「液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)」の配合量中に算入した。
【0030】
シリカ微粒子(E)
日本アエロジル社製商品名AEROSIL 200(平均粒子径12nm)
【0031】
硬化剤(F)
4,4′−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化工業株式会社製SEIKACURE-S)
【0032】
下記表1に示す配合割合(質量部)にしたがい、各材料をニーダーを用いて混練し、各種樹脂組成物を調製した。
【0033】
得られた各種繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物に対し、以下の項目を評価した。
【0034】
(1)70℃の粘度(200Pa・s以下である場合に、強化繊維含浸時における作業性が良好であると判断する)
(2)硬化過程での最低粘度(1Pa・s以上である場合に、硬化過程における樹脂組成物の強化繊維からの過度の流出を防止でき、10Pa・s以下である場合に積層時の空隙が埋まる程度に樹脂流出する樹脂流出性を有すると判断する。)
(3)ガラス転移温度:昇温速度10℃/分による熱機械分析(TMA分析)により求めた(180℃以上である場合に、耐熱性が良好であると判断する)。
(4)引張弾性率:ASTM D638により調べた(8.5GPa以上である場合に、引張弾性率が良好であると判断する)。
(5)引張伸び:ASTM D638により調べた(10000μ以上である場合に、引張伸びが良好であると判断する)。
【0035】
結果を表1に併せて示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1の結果から、実施例の本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、、50℃の粘度が6000mPa・s以下であるN,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂(A)と、25℃の粘度が20000mPa・s以下である液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(B)と、熱可塑性樹脂(C)と、平均粒子径が1000nm以下のエラストマー微粒子(D)と、平均粒子径が1000nm以下のシリカ微粒子(E)とを特定の範囲でもって配合しているので、従来技術では二律背反の関係とされていた耐熱性および靱性を向上させ、また、優れた粘度特性を実現している。
これに対し、比較例1は、(B)成分を配合していないため、引張伸び(靱性)が実施例と比べ劣る結果となった。
比較例2は、(A)成分および(B)成分の配合割合が本発明で規定する範囲外であるため、耐熱性が実施例に比べ劣る結果となった。
比較例3は、(D)成分および(E)成分を配合していないため、硬化過程での最低粘度が低くなり、粘度特性の悪化が見込まれた。
比較例4は、(D)成分の配合量が本発明で規定する上限を超え、また(E)成分を配合していないので、引張弾性率が悪化した。
比較例5は、(D)成分を配合せず、また(E)成分の配合量が本発明で規定する上限を超えているため、70℃の粘度が上昇し、粘度特性の悪化が見込まれた。
比較例6は、(C)成分の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、70℃の粘度が上昇し、粘度特性の悪化が見込まれた。
比較例7は、(A)成分の粘度が本発明で規定する上限を超えているので、70℃の粘度が上昇し、粘度特性の悪化が見込まれた。ただし、比較例7の(A)成分は、新日鐵住金化学社製商品名YH-434、50℃の粘度=8000〜15000mPa・sを使用した。
比較例8は、(D)成分の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、引張弾性率が悪化した。
比較例9は、(E)成分の配合量が本発明で規定する上限を超えているので70℃の粘度が上昇し、粘度特性の悪化が見込まれた。