特許第6555414号(P6555414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555414
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】データ処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
   G01N30/86 H
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-514012(P2018-514012)
(86)(22)【出願日】2016年4月27日
(86)【国際出願番号】JP2016063155
(87)【国際公開番号】WO2017187547
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 慎司
(72)【発明者】
【氏名】小澤 弘明
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−310070(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0226445(US,A1)
【文献】 KOCH Alain,WEBER Jean-Victor,Baseline Correction of Spectra in Fourier Transform Infrared: Interactive Drawing with Bezier Curves,APPLIED SPECTROSCOPY,1998年,Volume 52,Number 7,970-973
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメータに対する強度の変化を表すグラフのデータからピークの開始点及び終了点を検出し、
前記開始点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第1基準線と、前記終了点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第2基準線と、該開始点と該終了点を結ぶ直線である第3基準線とを定め、該第1基準線、該第2基準線、及び該第3基準線で囲まれた三角形内にある1以上の中間制御点を定め、
前記開始点、前記1以上の中間制御点、及び前記終了点をパラメータ軸の順に制御点とする該開始点と該終了点の間のベジェ曲線を作成して前記ピークのベースラインとする
ことを特徴とするデータ処理方法。
【請求項2】
前記中間制御点が前記第1基準線と前記第2基準線の交点であることを特徴とする請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項3】
前記中間制御点が第1基準線と第2基準線の交点とは異なる点であって、前記パラメータの値が該交点と同じである点であることを特徴とする請求項1に記載のデータ処理方法。
【請求項4】
パラメータに対する強度の変化を表すグラフのデータからピークの開始点及び終了点を検出するピーク検出部と、
前記開始点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第1基準線と、前記終了点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第2基準線と、該開始点と該終了点を結ぶ直線である第3基準線とを定め、該第1基準線、該第2基準線、及び該第3基準線で囲まれた三角形内にある1以上の中間制御点を定める中間制御点決定部と、
前記開始点、前記1以上の中間制御点、及び前記終了点をパラメータ軸の順に制御点とする該開始点と該終了点の間のベジェ曲線を作成して前記ピークのベースラインとするベースライン決定部
とを備えることを特徴とするデータ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばクロマトグラフで得られるクロマトグラムや、質量分析装置や分光装置等で得られるスペクトルのような、パラメータに対する強度の変化を表すグラフのデータを処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる成分を分析する装置の1つにクロマトグラフがある。クロマトグラフでは試料を移動相の流れに乗せてカラムに導入し、カラム内で試料中の各成分を時間的に分離した後、検出器で検出してクロマトグラムを作成する。そして、クロマトグラム上のピーク位置から各成分を同定し、ピーク高さや面積から当該成分の濃度を決定する(例えば特許文献1)。
【0003】
クロマトグラムには、試料に由来するピークに、ピークの有無に関わらず存在するベースラインが重畳する。クロマトグラムから試料の正確な情報を得るためには、ベースラインを除去してピークを検出する必要がある。以下、図9を用いて、クロマトグラムからベースラインを除去する方法の一例を説明する。
【0004】
まず、クロマトグラムからピークトップ91を検出する(図9(a))。ピークトップ91は、例えばクロマトグラムの高さが所定値以上であって、一次微分の値が0である位置とする。操作者が目視でピークトップ91を定めたうえで、マウス等の入力デバイスを用いて該位置91を指定するようにしてもよい。続いて、ピークトップ91よりも保持時間が短い所からピークの開始点92を検出すると共に、ピークトップ91よりも保持時間が長い所からピークの終了点93を検出する(同図)。開始点92は、例えば二次微分が正であって一次微分が正の所定値以上になる位置や、操作者が目視で定めて入力デバイスで指定した位置とする。同様に、終了点93は、二次微分が正であって一次微分が負の所定値以下(絶対値では所定値以上)になる位置や、操作者が目視で定めて入力デバイスで指定した位置とする。
【0005】
このように定めたピークの開始点92及び終了点93から、例えば以下のようにベースラインを決定する。まず、ピークとピークの間や両端といった、ピークが存在しない保持時間におけるクロマトグラムは、クロマトグラムそのものを部分ベースライン941とする(図9(b))。ピークの部分では、開始点92と終了点93を直線で結んだものを部分ベースライン942とする(同図)。こうして得られた部分ベースライン941及び942を合わせて、クロマトグラム全体のベースライン94とする。このベースライン94をクロマトグラムから差し引くことにより、試料の成分に応じたクロマトグラムのピークが決定され(図9(c))、決定されたピークにつき、位置、幅、高さといった特徴量が求められる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07-098270号公報
【特許文献2】特開2015-049136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の方法では、ベースライン94は、クロマトグラムのピークが存在しないところでは曲線(クロマトグラムそのもの)であって、クロマトグラムのピークが存在する開始点92と終了点93の間だけが直線となるため、開始点92及び終了点93において前後が滑らかに繋がらず不自然である。そのため、ベースライン94を差し引いたクロマトグラムも、開始点92及び終了点93において前後が滑らかに繋がらなくなってしまう。
【0008】
ここまではクロマトグラムについて説明したが、クロマトグラフと組み合わせて用いられる質量分析装置で得られるマススペクトルや分光装置で得られる光のスペクトル等においても同様の問題が生じる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ピークの開始点及び終了点の前後で滑らかに繋がるようにベースラインを決定することができるデータ処理方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るデータ処理方法は、
パラメータに対する強度の変化を表すグラフのデータからピークの開始点及び終了点を検出し、
前記開始点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第1基準線と、前記終了点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第2基準線と、該開始点と該終了点を結ぶ直線である第3基準線とを定め、該第1基準線、該第2基準線、及び該第3基準線で囲まれた三角形内にある1以上の中間制御点を定め、
前記開始点、前記1以上の中間制御点、及び前記終了点をパラメータ軸の順に制御点とする該開始点と該終了点の間のベジェ曲線を作成して前記ピークのベースラインとする
ことを特徴とする。
【0011】
ここで、パラメータとは例えばクロマトグラフの場合の時間、光スペクトルの場合の波長、質量電荷比スペクトルの場合の質量電荷比のことを指し、通常、グラフにおいてパラメータは横軸、強度は縦軸として表現される。以下、グラフにおけるパラメータ軸を横軸、強度軸を縦軸とも表現する。
【0012】
ベジェ曲線は一般に、開始点及び終了点を含む3以上の制御点を指定することにより定まり、該開始点及び該終了点においてそれらと隣接制御点とを結ぶ直線と同じ傾きの接線を有する曲線である。本発明では、クロマトグラム又はスペクトルのピークの開始点及び終了点をベジェ曲線の制御点の開始点及び終了点として用い、それら開始点、1以上の中間制御点及び終了点から成る3以上の制御点をパラメータ軸の順に用いて作成されるベジェ曲線をピーク(開始点と終了点の間のグラフ)のベースラインとする。これにより、ピークのベースラインは開始点及び終了点においてピーク外のベースラインと傾きが近くなり、ピークの開始点及び終了点の前後でベースラインが滑らかに繋がる。
【0013】
前記中間制御点はいずれも前記三角形内にあることから、開始点とそれに隣接する制御点とを結ぶ線分の傾きは、第1基準線の傾きと同じか又はそれ以下となる。これにより、作成されたベジェ曲線の開始点における接線の傾きは、第1基準線の傾きと同じか又はそれよりも小さくなる。終了点においても同様である。
【0014】
前記中間制御点は、1個のみであってもよいし、複数個であってもよい。中間制御点を1個のみとする場合の一例として、第1基準線と第2基準線の交点を中間制御点とする場合が挙げられる。この中間制御点によれば、開始点及び終了点において、得られるベジェ曲線が前述の回帰直線と同じ傾きを有することからベースラインがより滑らかに繋がる。
【0015】
あるいは、第1基準線と第2基準線の交点とは異なる点であって、前記パラメータの値が該交点と同じである(すなわち該交点と前記第3基準線の間にある)点を中間制御点とすることもできる。この方法は、開始点又は終了点において求めた回帰直線の傾きが過大である場合に有益である。
【0016】
通常、第1基準線と第2基準線の傾きの正負が互いに逆になることから、第1基準線と第2基準線の交点のパラメータ軸(横軸)方向の位置は開始点と終了点の間に存在する。しかし、処理対象のピークの近傍に別のピークが存在したりドリフトが大きい場合、第1基準線と第2基準線の傾きの正負が同じになる場合がある。その場合には、第1基準線と第2基準線の交点の横軸方向の位置が開始点−終了点の外になる。このような交点をピークのベースラインを決定するためのベジェ曲線の制御点として用いることは適切ではない。そこでこのような場合には、横軸方向の位置が開始点から見て終了点側にある第1基準線上の点である第1中間制御点と、横軸方向の位置が第1中間制御点と終了点の間にある第2基準線上の点である第2中間制御点という2個の制御点を定め、開始点、該第1中間制御点、第2中間制御点及び終了点を制御点として前記ベジェ曲線を作成することが望ましい。ここで第1基準線と第2基準線の傾きが共に正である場合には、第1中間制御点は前記三角形内にあるものの、第2中間制御点は前記三角形外にある。また、第1基準線と第2基準線の傾きが共に負である場合には、第2中間制御点は前記三角形内にあるものの、第1中間制御点は前記三角形外にある。従って、この例では前記中間制御点(すなわち、開始点及び終了点以外で前記三角形内にある制御点)は1個のみである。
【0017】
前記三角形内にある中間制御点を2個(開始点と終了点を含めて制御点を4個)用いる例として、開始点と前記交点の間の第1基準線上に第1中間制御点を、前記交点と終了点の間の第2基準線上に第2中間制御点を定めることが挙げられる。開始点及び終了点のそれぞれにおいて、得られるベジェ曲線が前述の回帰直線と同じ傾きを有することからベースラインがより滑らかに繋がる。あるいは、開始点と前記交点の間の第1基準線上の点と第3基準線の間にある点を第1中間制御点とし、前記交点と終了点の間の第2基準線上の点と第3基準線の間にある点を第2中間制御点としてもよい。いずれの場合にも、第1中間制御点を開始点の隣接制御点、第2中間制御点を終了点の隣接制御点としてベジェ曲線を作成する。
【0018】
さらには、第1中間制御点と第2中間制御点の間に1以上の中間制御点を定めることで、3個以上の中間制御点(開始点と終了点を含めて5個以上の制御点)を用いてベジェ曲線を作成してもよい。
【0019】
本発明に係るデータ処理装置は、
パラメータに対する強度の変化を表すグラフのデータからピークの開始点及び終了点を検出するピーク検出部と、
前記開始点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第1基準線と、前記終了点を含む所定の範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第2基準線と、該開始点と該終了点を結ぶ直線である第3基準線とを定め、該第1基準線、該第2基準線、及び該第3基準線で囲まれた三角形内にある1以上の中間制御点を定める中間制御点決定部と、
前記開始点、前記1以上の中間制御点、及び前記終了点をパラメータ軸の順に制御点とする該開始点と該終了点の間のベジェ曲線を作成して前記ピークのベースラインとするベースライン決定部
とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ピークの開始点及び終了点の前後で滑らかに繋がるようにベースラインを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るデータ処理装置の一実施形態を示す概略構成図。
図2】本発明に係るデータ処理方法における基本的な動作を示すフローチャート。
図3】クロマトグラムのピークの1つにおける開始点、終了点及びそれら2点に基づいて定めた中間制御点から成る制御点、並びにそれら制御点から作成したベジェ曲線であるベースラインを示す概略図。
図4】中間制御点を定める方法の別の例を示す概略図。
図5】本発明に係るデータ処理方法の一実施形態におけるステップS4の具体的な動作の例を示すフローチャート。
図6】本発明に係るデータ処理方法の一実施形態におけるステップS5及びS7の具体的な動作の例を示すフローチャート。
図7】中間制御点を定める方法の別の例を示す概略図。
図8】中間制御点を定める方法の別の例を示す概略図。
図9】従来のクロマトグラムにおけるベースラインの決定方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1図8を用いて、本発明に係るデータ処理方法及び装置の実施形態を説明する。
本実施形態のデータ処理装置10は、データ記録部1、表示装置2及び入力装置3と共に用いられる。データ記録部1は、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフ等が有する検出器によって測定時に得られたデータを記録する装置であり、ハードディスクやメモリ等から成る。データ記録部1は、図1に示した例ではデータ処理装置10の外に設けているが、データ処理装置10内に設けてもよい。表示装置2は、データ処理装置10によるデータ処理中の情報やデータ処理の結果を表示するディスプレイである。入力装置3は、ユーザが必要な情報をデータ処理装置10に入力するための装置であって、キーボードやマウス等から成る。
【0023】
データ処理装置10は、クロマトグラム作成部11、ピーク検出部12、中間制御点決定部13、ベースライン決定部14及びベースライン差引後クロマトグラム作成部15を有する。これら各部は、実際にはコンピュータのCPUやメモリ等のハードウエア、及びソフトウエアにより具現化されている。以下、図2のフローチャート、並びに図3及び図4のクロマトグラムのピークの概略図を用いて、本発明に係るデータ処理方法の一実施形態を説明すると共に、データ処理装置10の各部の機能を説明する。
【0024】
まず、クロマトグラム作成部11は、データ記録部1からデータを取得して、従来と同様の方法によりクロマトグラムを作成する(ステップS1)。スペクトルについて処理を行う場合には、クロマトグラムを作成する操作は不要であり、データ記録部1からデータを取得するだけでよい。
【0025】
次に、ピーク検出部12は、クロマトグラム作成部11で作成されたクロマトグラムからピークを検出する(ステップS2)。ピークの検出は、従来と同様の方法で行えばよい(例えば特許文献2参照)。
【0026】
続いて、中間制御点決定部13は、ピーク検出部12で検出されたピークの区間におけるベースラインを決定するために用いるベジェ曲線の制御点のうち、開始点及び終了点以外の中間制御点を以下のように決定する(図3参照)。
【0027】
まず、ピーク検出部12で検出されたピーク21から、開始点211及び終了点212を求める(ステップS3)。
【0028】
次に、開始点211から所定の範囲である第1範囲221内にあるデータから求められる回帰直線である第1基準線231と、終了点212から所定の範囲である第2範囲222内にあるデータから求められる回帰直線である第2基準線232を求める(ステップS4)。図3に示したクロマトグラム20の例では、第1範囲221では開始点211からピーク21の外側に、第2範囲222では終了点212からピーク21の外側に、それぞれ設定したが、これらの範囲を開始点211や終了点212を挟んでピーク21の外側と内側に跨って定めてもよいし、ピーク21の内側に定めてもよい。
【0029】
そして、第1基準線231と第2基準線232の交点を中間制御点213と決定する(ステップS5)。図3の例では第1基準線231と第2基準線232の交点を中間制御点213としたが、中間制御点は、第1基準線231、第2基準線232、及び開始点211と終了点212を結ぶ直線である第3基準線233で囲まれた三角形内にあればよい。図4に示したクロマトグラム20Aの例では、ピーク21Aの開始点211Aから求めた第1基準線231Aと終了点212Aから求めた第2基準線232Aとの交点25からパラメータ軸(クロマトグラムでは保持時間の横軸)に垂線26を下ろし、該垂線26上の点を中間制御点213Aとした。
【0030】
クロマトグラムに複数のピークが存在する場合には、以上のステップS3〜S5の操作を他のピークに対しても行う。そのため、ステップS6では、ステップS2で検出された全てのピークに対して中間制御点の決定が完了しているか確認し、YESの(完了している)場合にはステップS7に移り、NOの場合にはステップS3に戻る。
【0031】
ステップS7では、ベースライン決定部14は、パラメータ軸の順に開始点211を1番目の制御点、中間制御点213を2番目の制御点、終了点212を3番目(最後)の制御点とするベジェ曲線を求め、このベジェ曲線を当該開始点211と終了点212の間の部分ベースライン24(図3参照)とする。図4の例においても同様に、開始点211A、終了点212A及び中間制御点213Aを制御点とするベジェ曲線を、ピーク21Aの区間における部分ベースライン24Aとする。ベースライン決定部14は上記と同様の操作を他のピークの開始点と終了点の間においても行う。以上の操作を経て、ベースライン決定部14は、各ピークの開始点と終了点の間では上記方法で求めたベジェ曲線をベースラインとし、それ以外の区間ではクロマトグラムの曲線をベースラインと決定する。
【0032】
ベースライン差引後クロマトグラム作成部15は、ベースライン決定部14で決定されたベースラインをクロマトグラムから差し引くことにより、ベースライン差引後クロマトグラムを作成し(ステップS8)、表示装置2のディスプレイに表示する。以上により、本実施形態のデータ処理方法の動作が終了する。
【0033】
本実施形態のデータ処理方法によれば、ピーク21の開始点211及び終了点212の前後で滑らかに繋がるようにベースラインを決定することができる。
【0034】
次に、図5及び図6、並びに前述の図3を用いて、本実施形態のデータ処理方法におけるステップS4、S5及びS7における具体的な動作の例を説明する。ここでは、クロマトグラムのピークが1個のみであるものとしてステップS6の説明を省略するが、クロマトグラムのピークが複数個であってステップS6を実行する場合においても、個々のピークに対して以下と同様の動作を実行することができる。
【0035】
まず、ステップS3までの動作を実行し、ステップS4−1において、第1範囲221の始点の保持時間をls、終点の保持時間をleと定義すると共に、第2範囲222の始点の保持時間をrs、終点の保持時間をreと定義する(図3参照)。ここでは、ピークの開始点211を第1範囲221の終点(保持時間le)とし、ピークの終了点212を第2範囲222の始点(保持時間rs)とする。すなわち、第1範囲221及び第2範囲222はいずれもピークの外側に設定する。この段階では、第1範囲221の始点の保持時間ls及び第2範囲222の終点の保持時間reは任意の値としておけばよい。
【0036】
次に、自然数nの値を1に設定する(ステップS4−2)。nは、以下のステップS4−3〜S4−5までの操作を所定の最大数nmaxまで実行した時に当該操作を打ち切るために設定している。
【0037】
続いて、第1範囲221(保持時間ls〜leの間)内のクロマトグラムのデータから回帰直線を求める(ステップS4−3)。そして、第1範囲221内における回帰直線とクロマトグラムの残差平方和が所定の閾値以上であるか判定する(ステップS4−4)。
【0038】
この残差平方和が所定の閾値以上(ステップS4−4でYES)である場合には、求めた回帰直線が第1基準線としては適切ではない可能性がある。この場合、まずステップS4−5において、nが最大数nmaxに達しているかを確認する。nが最大数nmaxに達している(ステップS4−5でYESである)場合にはステップS4−7に移り、ステップS4−3で求めた回帰直線を第1基準線231と決定する。一方、nが最大数nmaxに達していない(ステップS4−5でNOである)場合には、nの値を1だけ加算すると共に、第1範囲221の始点の保持時間lsを「le-(le-ls)/2」の値に置き換え(ステップS4−6)たうえで、ステップS4−3に戻る。ステップS4−6での置き換え後の第1範囲221の保持時間の長さは、置き換え前の1/2となっている。
【0039】
前記残差平方和が所定の閾値未満(ステップS4−4でNO)である場合には、そのままステップS4−7に移り、ステップS4−3で求めた回帰直線を第1基準線231と決定する。
【0040】
ステップS4−7の後、第2範囲222についてもステップS4−2〜S4−7と同様の操作を行い(図5では当該操作をまとめてステップS4−8とし、詳細を省略する)、第2基準線232を決定する。
【0041】
ステップS4−8の後、ステップS5−1に移る(図6)。ステップS5−1では、ピークの開始点211をベジェ曲線の最初の制御点と決定する。続いて、ステップS5−2において、第1基準線231と第2基準線232の交点を求める。
【0042】
そして、ステップS5−3において、該交点の保持時間が開始点211の保持時間と終了点212の保持時間の間にあるか判定する。この判定がYESの場合には、ステップS5−4において、ピークの開始点と終了点を結ぶ第3基準線233を求める。そしてステップS5−5において、前記交点からパラメータ軸に下ろした垂線のうち該交点と第3基準線233の間の線分上にある点(該交点であってもよい)を2番目の制御点(中間制御点213)と決定する。
【0043】
一方、ステップS5−3においてNOと判定した場合には、前記交点を制御点の決定に用いることは不適当であり、ステップS5−6において他の方法(その一例は図7を用いて後述)により制御点を1又は複数個決定する。
【0044】
ステップS5−5又はステップS5−6の後、終了点212を最後の制御点と決定する(ステップS5−7)。
【0045】
次に、ステップS7−1において、ステップS5で求めた3点(又はそれ以上)の制御点に基づき、ピークの開始点と終了点までのサンプリング点数の2倍の点数(1/2のサンプリング間隔)でベジェ曲線を作成する。こうして作成したベジェ曲線につき、ステップS7−2において、線形補間を用いてクロマトグラムと同じサンプリング点数(間隔)に変更し、当該変更後のベジェ曲線をベースラインと決定する。このようにクロマトグラムとベースラインのサンプリング点数(間隔)を合わせることで、次のステップS8におけるクロマトグラムからのベースラインの差し引きが容易になる。この後、ステップS8の操作を前述のように行うことで、一連の動作が終了する。
【0046】
本発明は上記実施形態には限定されない。
例えば、図7に示すようにクロマトグラム20Bのピーク21Bがドリフトの影響を受けている場合には、ピーク21Bの開始点211Bから所定範囲内にあるデータから求められる回帰直線である第1基準線231Bと、ピーク21Bの終了点212Bについて同様に求められる第2基準線232Bの交点がピークの範囲から大きく外れてしまうことがある。このようにピーク21Bの範囲から大きく外れた交点に基づいて中間制御点を求めることは適切ではないため、その代わりに、開始点211Bの近傍の、第1基準線231B〜第3基準線(図を見易くするために図示省略)で囲まれた三角形内に中間制御点を定めるとよい。図7の例では、開始点211Bと終了点212Bの距離(rs-le)の1/10だけ開始点211Bからパラメータ軸方向の終了点212B側にずれたところの第1基準線231B上に第1中間制御点213Bを定める。この第1中間制御点213Bと開始点211B及び終了点212Bだけでは、終了点212B寄りのベジェ曲線をうまく決定することができないため、図7の例ではさらに、距離(rs-le)の1/10だけ終了点212Bからパラメータ軸方向の開始点211B側にずれたところの第2基準線232B上に、第2中間制御点214Bを定める。なお、この第2中間制御点214Bは前記三角形内にはない。これら開始点211B、第1中間制御点213B、第2中間制御点214B及び終了点212Bをこの順に制御点とするベジェ曲線を作成し、当該ベジェ曲線をピーク21Bの区間の部分ベースライン24Bと決定することができる。
【0047】
また、例えば図8に示すように、第1基準線〜第3基準線で囲まれた三角形内に中間制御点を2個以上設定してもよい。図8の例では、図4と同じクロマトグラム20Aのピーク21Aにおいて、開始点211Aから時間δtだけ終了点212A寄りの第1基準線231A上に第1中間制御点213Cを設定し、終了点212Aから時間δtだけ開始点211A寄りの第2基準線232A上に第2中間制御点214Cを設定している。これら第1中間制御点213C及び第2中間制御点214Cはいずれも、第1基準線231A、第2基準線232A及び第3基準線233Aで囲まれる三角形の中(線上)に配置されている。そして、開始点211A、第1中間制御点213C、第2中間制御点214C及び終了点212Aをこの順に制御点とするベジェ曲線を作成し、当該ベジェ曲線をピーク21Aの区間の部分ベースライン24Cと決定することができる。さらには、図8の例において、第1中間制御点213Cと第2中間制御点214Cの間であって前記三角形内にさらに1又は複数個の中間制御点を設けてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…データ記録部
2…表示装置
3…入力装置
10…データ処理装置
11…クロマトグラム作成部
12…ピーク検出部
13…中間制御点決定部
14…ベースライン決定部
15…ベースライン差引後クロマトグラム作成部
20、20A、20B…クロマトグラム
21、21A、21B…ピーク
211、211A、211B、92…開始点
212、212A、212B、93…終了点
213、213A…中間制御点
213B、213C…第1中間制御点
214B、214C…第2中間制御点
221…第1範囲
222…第2範囲
231、231A、231B…第1基準線
232、232A、232B…第2基準線
233、233A…第3基準線
24、24A、24B、24C、941、942…部分ベースライン
25…第1基準線と第2基準線の交点
26…交点25からパラメータ軸への垂線
91…ピークトップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9