(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
調理器用トッププレートの表面に設けられた膜と鍋等の調理器具が擦れ、これらの膜が剥がれることがある。そのため、調理器用トッププレートの表面に設けられた膜には、耐擦傷性に優れることが要求される。特許文献1の調理器用トッププレートは、柱状構造を有するコーティング層を有するため、汚れの拭き取り性には優れているが、耐擦傷性が低く、膜が剥がれる場合がある。
【0005】
本発明の主な目的は、優れた耐擦傷性を有する調理器用トッププレート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る調理器用トッププレートは、基材と、前記基材の調理面に設けられ、単斜晶系酸化ジルコニウム結晶を含む保護膜と、を備え、前記保護膜は、X線回折測定において、前記単斜晶系酸化ジルコニウム結晶の(1 1 −1)結晶面による回折ピークが主ピークとして観察されることを特徴とする。
【0007】
上記の構成において、前記保護膜の膜密度が、5.96g/cm
3以上であることが好ましい。
【0008】
上記の構成において、前記基材の調理面と前記保護膜との間に設けられた第一の膜をさらに備えることが好ましい。
【0009】
上記の構成において、前記保護膜の上に設けられた第二の膜をさらに備えることが好ましい。
【0010】
上記の構成において、前記第二の膜は、前記調理器用トッププレートの動摩擦抵抗を低減する膜であることが好ましい。
【0011】
上記の構成において、前記基材は、低膨張透明結晶化ガラスであることが好ましい。
【0012】
本発明に係る調理器用トッププレートの製造方法は、基材と、前記基材の調理面に設けられ、単斜晶系の酸化ジルコニウム結晶を含む保護膜とを備えた調理器用トッププレートの製造方法であって、圧力が0.2Pa以下であるチャンバ中においてスパッタリング法により前記保護膜を形成することを特徴とする。
【0013】
上記の構成において、圧力が0.2Pa以下であるチャンバ中においてスパッタリング法によりジルコニウム膜を形成した後に、前記ジルコニウム膜を酸化させることにより前記保護膜を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた耐擦傷性を有する調理器用トッププレート及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0017】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものである。図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る調理器用トッププレートの模式的断面図である。
【0019】
図1に示される調理器用トッププレート1は、IH加熱調理器やガス加熱調理器等の加熱調理器の天板として使用され、調理器用トッププレート1の紙面上方側の面は、加熱調理時において、鍋等の調理器具と接触する調理面である。
【0020】
調理器用トッププレート1は、基材10と、保護膜11とを有する。
【0021】
基材10の材質は、特に限定されない。基材10は、例えば、各種ガラス、結晶化ガラス、セラミック、金属、樹脂等により構成される。これらの中でも、結晶化ガラスであることが好ましく、特に、耐熱性の高い低膨張透明結晶化ガラスであることが好ましい。
【0022】
基材10を構成する低膨張透明結晶化ガラスは、例えば、Li
2O−Al
2O
3−SiO
2系低膨張透明結晶化ガラスであることが好ましい。Li
2O−Al
2O
3−SiO
2系低膨張透明結晶化ガラスとしては、例えば、質量%表示で、SiO
2が63〜75%、Al
2O
3が15〜25%、Li
2Oが1〜5%、MgOが0〜4%、ZnOが0〜5%、TiO
2が0〜6%、ZrO
2が0〜3%、P
2O
5が0〜2%、Na
2Oが0〜2%、K
2Oが0〜2%の組成を有するガラスが好ましい。Li
2O−Al
2O
3−SiO
2系低膨張透明結晶化ガラスとして、例えば、日本電気硝子株式会社製ネオセラムN−0が挙げられる。ネオセラムN−0は、透明であり、赤外線透過特性や機械的強度に優れる。また、ネオセラムN−0は、熱膨張係数が0に近く、熱膨張、熱収縮が起こりにくいため、調理器用トッププレート1の基材10として好適である。
【0023】
基材10の形状寸法も特に限定されない。基材10は、例えば、板状であってもよいし、凹凸形状や湾曲状であってもよい。また、矩形であっても円形であってもよい。
【0024】
基材10の厚みは、例えば、1〜10mmとすることが好ましい。この厚みであれば、調理器用トッププレート1が十分な機械的強度を有し、かつ、調理器用トッププレート1の軽量化を図ることができる。基材10の厚みは、3〜8mmとすることがより好ましい。
【0025】
保護膜11は、基材10の紙面上方側の面(調理面)10xに設けられる。ここで、調理面とは、調理器具が載置される側の面をいう。保護膜11は、単斜晶系酸化ジルコニウム結晶を含む。保護膜11は、ジルコニウムに加え、他の金属を含んでいてもよい。保護膜11において、総金属原子の数に対する、ジルコニウム原子の数の比((ジルコニウム原子の数)/(総金属原子の数))は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、99%以上であることが特に好ましい。
【0026】
なお、保護膜11の厚みは、特に限定されない。保護膜11の厚みは、例えば、5nm〜1000nmであることが好ましい。この厚みであれば、優れた耐擦傷性を有し、かつ、保護膜11の剥離が発生しにくい。保護膜11の厚みは、100nm〜800nmであることがより好ましく、300nm〜500nmであることがさらに好ましい。
【0027】
保護膜11は、X線回折測定において、単斜晶系酸化ジルコニウム結晶の(1 1 −1)結晶面による回折ピークが、主ピークとして観察される。なお、主ピークとは、最も強度の高い回折ピークのことである。このため、以下の実施例及び比較例の結果からも分かるように、保護膜11は、耐擦傷性に優れている。
【0028】
より優れた耐擦傷性を得る観点からは、保護膜11の膜密度は、5.96g/cm
3以上であることが好ましく、6g/cm
3以上であることがより好ましい。
【0029】
一般に、スパッタリング法により成膜する場合において、成膜チャンバの圧力が低すぎると、安定して成膜することが困難となる。このため、通常は、成膜チャンバの圧力は0.3Pa以上とされている。本実施形態では、成膜チャンバの圧力を通常よりもあえて低くすることにより、単斜晶系の酸化ジルコニウム結晶の(1 1 −1)結晶面による回折ピークが、主ピークとして観察される保護膜11を形成することができる。
【0030】
この保護膜11は、例えば、圧力が0.2Pa以下であるチャンバ内においてスパッタリング法によりジルコニウム膜を形成した後に、そのジルコニウム膜を酸化させることにより形成することができる。この保護膜11は、例えば、圧力が0.2Pa以下であるチャンバ内において反応性スパッタリング法により成膜することによっても形成することができる。また、この保護膜11は、高周波電源などを用いて酸化ジルコニウムを直接スパッタリングして形成することもできる。
【0031】
スパッタリング法による成膜を行うチャンバ内の圧力は、0.15Pa以下であることが好ましく、0.1Pa以下であることがより好ましい。もっとも、スパッタリング法による成膜を行うチャンバ内の圧力が低すぎると、保護膜11を安定して形成することが困難となる。従って、スパッタリング法による成膜を行うチャンバ内の圧力は、0.01Pa以上であることが好ましく、0.05Pa以上であることがより好ましい。
【0032】
以下、本発明の好ましい実施形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0033】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係る調理器用トッププレートの一部分の模式的断面図である。
【0034】
第1の実施形態では、保護膜11が基材10の調理面10xに直接設けられる例について説明した。一方、本実施形態では、保護膜11は、相対的に屈折率が高い高屈折率膜12Hと、相対的に屈折率が低い低屈折率膜12Lとが交互に積層された多層膜により構成された第一の膜12が、基材10の調理面10xと保護膜11との間に設けられている。
【0035】
高屈折率膜12Hは、酸化ジルコニウム膜により構成されていてもよいし、他の組成の膜により構成されていてもよい。高屈折率膜12Hは、例えば、チタン、ニオブ、ランタン、イットリウム、タングステン等の金属のうちの少なくとも一種を含む金属酸化物により構成されていてもよい。
【0036】
低屈折率膜12Lは、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等により構成することができる。
【0037】
第一の膜12を構成する高屈折率膜12H及び低屈折率膜12Lの膜数は、調理器用トッププレート1aに要求される特性等に応じて適宜決定することができる。通常、第一の膜12を構成する高屈折率膜12H及び低屈折率膜12Lの膜数の合計は、2〜100程度である。
【0038】
第一の膜12は、例えば、調理器用トッププレート1aの表面反射率が低くなるように構成された反射抑制膜であってもよい。また、第一の膜12は、例えば、調理器用トッププレート1aの表面反射率が高くなるように構成された反射膜であってもよい。
【0039】
(第3の実施形態)
図3は、第3の実施形態に係る調理器用トッププレートの一部分の模式的断面図である。
【0040】
第1及び第2の実施形態では、保護膜11が調理器用トッププレートの表層を構成している例について説明した。但し、本発明は、これに限定されない。
【0041】
例えば、
図3に示されるように、調理器用トッププレート1bは、保護膜11の上に設けられた第二の膜13をさらに備えていてもよい。
【0042】
第二の膜13は、例えば、調理器用トッププレート1bの動摩擦係数を低減する膜であってもよい。そのような第二の膜13を設けることにより、調理器用トッププレート1bの動摩擦係数を低減でき、耐擦傷性をさらに向上することができる。
【0043】
第二の膜13の具体例としては、フッ素系撥水撥油剤、シリコーン系撥水剤等からなる膜が挙げられる。これらの中でも、フッ素系撥水撥油剤であることが好ましい。
【0044】
第二の膜13の厚みは、例えば、1nm〜200nm程度とすることができる。この厚みであれば、調理器用トッププレート1bの動摩擦係数を十分に低減できる。第二の膜13の厚みは、3nm〜100nm程度であることが好ましい。
【0045】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0046】
(実施例1)
カルーセル型のスパッタリング装置により、チャンバ内を回転する結晶化ガラス基板(日本電気硝子株式会社社製OA−10G)の上に、ジルコニウムの金属ターゲットを用いて、ジルコニウム膜を形成するスパッタ領域と、そのジルコニウム膜を酸素ラジカルにより酸化する酸化領域とを交互に通過させる、いわゆるRAS法により、厚さが500nmである保護膜を下記の成膜条件で形成した。
【0047】
(ジルコニウム膜の形成条件)
チャンバ内の圧力:0.12Pa
供給ガス:アルゴンガス(流量:100cc/分)
成膜時の電力:5.5kW
(ジルコニウム膜の酸化条件)
供給ガス:酸素ガス(流量:40cc/分)
酸化時の電力:4.5kW
図4に、実施例1において形成した保護膜のX線回折チャートを示す。
図4に示されるX線回折チャートから、実施例1において形成した保護膜は、単斜晶系酸化ジルコニウム結晶を主として含有していることが分かる。また、実施例1において形成した保護膜においては、単斜晶系酸化ジルコニウム結晶の(1 1 −1)結晶面による回折ピークが主ピークとして観察されることが分かる。
【0048】
(比較例1)
ジルコニウム膜の形成条件を以下の条件としたこと以外は、実施例1と同様にして膜付部材を作製した。
【0049】
(ジルコニウム膜の形成条件)
チャンバ内の圧力:0.3Pa
供給ガス:アルゴンガス(流量:300cc/分)
成膜時の電力:5.5kW
(ジルコニウム膜の酸化条件)
供給ガス:酸素ガス(流量:120cc/分)
酸化時の電力:4.5kW
図5に、比較例1において形成した保護膜のX線回折チャートを示す。なお、実施例1及び比較例1におけるX線回折測定は、X線回折装置((株)リガク製 SmartLab)を用いて行なった。光源としては、回転対陰極式X線源(Cu−Kα線,出力45kV−200mA)を用いた。光学系は人工格子放物面多層膜ミラーと平行スリットアナライザーを使用した平行ビーム光学系とした。走査範囲2θ=10〜80°、走査ステップ0.01°とし、2θ−ωスキャンモードにより測定した。
【0050】
図5に示されるX線回折チャートから、比較例1において形成した保護膜は、単斜晶系酸化ジルコニウム結晶を主として含有しているものの、単斜晶系酸化ジルコニウム結晶の(1 1 −1)結晶面による回折ピークが主ピークとして観察されないことが分かる。
【0051】
実施例1のX線回折チャートと比較例1のX線回折チャートとを比較すると、実施例1において形成した保護膜の回折チャートの方が、ライトストーン社のICDD PDFデータベース内の単斜晶系酸化ジルコニウム結晶の回折パターンと形状の類似度が高いことが分かる。このPDFデータベース内の単斜晶系酸化ジルコニウム結晶(Baddeleyite)の回折パターンは、粉末にして測定されたものであるため、実施例1において形成した保護膜の方が、比較例1において形成した保護膜よりも配向性が低いものと考えられる。
【0052】
(評価1)
上記X線回折測定と同様の条件で、鏡面反射X線強度を測定し、鏡面反射X線強度と入射X強度の比からX線反射率を求めてX線反射率曲線を得た。得られたX線反射率曲線を薄膜総合解析ソフトウェア ((株)リガク製 GlobalFit)で解析し、保護膜の膜密度を求めた。その結果、実施例1において形成した保護膜の膜密度は6.05g/cm
3、比較例1において形成した保護膜の膜密度は5.95g/cm
3となった。
【0053】
(評価2)
実施例1及び比較例1のそれぞれにおいて作製した保護膜を、2000gの加重を付与して、10mm□のボンスター スチールウール(#0000)を以下の条件で往復させた。100回往復させる毎に表面状態を光学顕微鏡で100倍に拡大して観察し、保護膜の表面に、擦傷痕が確認されたときの往復回数を求めた。その結果、実施例1において形成した保護膜は、5000回往復させた時に擦傷痕が確認され、比較例1において形成した保護膜は、100回往復させた時に擦傷痕が確認された。
【0054】
(評価条件)
速度:40mm/分
ストローク:40mm
【0055】
これらの結果から、単斜晶系の酸化ジルコニウム結晶の(1 1 −1)結晶面による回折ピークが主ピークとして観察される保護膜は、優れた耐擦傷性を有することが分かる。
【0056】
(実施例2)
実施例1で作製した保護膜の上を洗浄機で洗浄し、大気圧プラズマ装置で処理を行い、その後、スプレー装置を使用してフッ素含有有機ケイ素化合物溶液(ダイキン工業社製 オプツールDSX):0.1質量%、3M社製Novec7200:99.9質量%)を塗布した。塗布条件は、結晶化ガラス基板の搬送速度3mm/秒、塗布量10ml/分、エアー流量40l/分、スプレーノズル往復速度800ml/秒、スプレーノズル−結晶化ガラス基板間距離20mmの条件である。フッ素含有有機ケイ素化合物溶液を塗布した後、クリーンオーブンを使用して150℃で60分間加熱し、塗布面をアルコールに浸したワイパーで拭き取ることで、フッ素系撥水撥油剤からなる第二の膜を形成した。
【0057】
実施例2において作製した第二の膜を、評価2と同様の方法により評価した。その結果、5000回往復させても擦傷痕が確認されなかった。