特許第6555467号(P6555467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555467
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20190729BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20190729BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20190729BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20190729BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20190729BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190729BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20190729BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M4/66 A
   H01G11/60
   H01G11/62
   H01M10/052
   !H01M4/505
【請求項の数】10
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-47042(P2015-47042)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-167408(P2016-167408A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
(72)【発明者】
【氏名】河合 智之
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−146359(JP,A)
【文献】 特開2011−077051(JP,A)
【文献】 特開2011−216480(JP,A)
【文献】 中国特許第101882696(CN,B)
【文献】 特開2012−124026(JP,A)
【文献】 特開2009−129721(JP,A)
【文献】 特開2013−016456(JP,A)
【文献】 特開2010−073489(JP,A)
【文献】 特開2009−026514(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/049027(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01G 11/60
H01G 11/62
H01M 4/66
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、又は、下記一般式(1−2)で表されるエステルが、
アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとし、下記一般式(2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩に対し、
モル比1〜3で含まれ
下記一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、又は、下記一般式(1−2)で表されるエステルが、電解液に含まれる全溶媒に対して、50体積%以上で含まれることを特徴とする電解液を具備し、
反応電位がLi基準で4.5V以上である正極活物質を具備する、二次電池。
10OCOOR11 一般式(1−1)
12COOR13 一般式(1−2)
(R10、R11、R12、R13は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。
ただし、R10若しくはR11はb≧1若しくはg≧1、R12若しくはR13はb≧1若しくはg≧1を満たす。)
(R2121)(R22SO)N 一般式(2)
(R21は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
22は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R21とR22は、互いに結合して環を形成しても良い。
21は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R21又はR22と結合して環を形成しても良い。)
【請求項2】
前記R10、R11、R12、R13が以下のとおりである請求項1に記載の二次電池
(R10、R11、R12、R13は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるC、又は、環状アルキルを化学構造に含むCのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、f、gはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m−1=f+gを満たす。
ただし、R10若しくはR11はb≧1若しくはg≧1、R12若しくはR13はb≧1若しくはg≧1を満たす。)
【請求項3】
前記一般式(1−1)又は一般式(1−2)に関するnが1以上6以下の整数であり、mが3以上8以下の整数である請求項1又は2に記載の二次電池
【請求項4】
前記金属塩のアニオンの化学構造が下記一般式(2−1)で表される請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池
(R2322)(R24SO)N 一般式(2−1)
(R23、R24は、それぞれ独立に、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、R23とR24は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
22は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R23又はR24と結合して環を形成しても良い。)
【請求項5】
前記金属塩のアニオンの化学構造が下記一般式(2−2)で表される請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次電池
(R25SO)(R26SO)N 一般式(2−2)
(R25、R26は、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R25とR26は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
【請求項6】
前記一般式(2−1)関するnが0〜6の整数であり、前記一般式(2−1)のR23とR24結合して環を形成している場合にはnが1〜8の整数である請求項4に記載の二次電池
【請求項7】
記一般式(2−2)に関するnが0〜6の整数であり、前記一般式(2−2)のR25とR26が結合して環を形成している場合にはnが1〜8の整数である請求項5に記載の二次電池
【請求項8】
前記電解液の前記モル比が1.2〜2.5の範囲内である請求項1〜7のいずれか1項に記載の二次電池
【請求項9】
正極活物質としてスピネル構造の金属酸化物を具備する請求項1〜8のいずれか1項に記載の二次電池
【請求項10】
アルミニウム製の正極集電体を具備する請求項1〜9のいずれか1項に記載の二次電池
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池等の蓄電装置に用いられる電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、二次電池等の蓄電装置は、主な構成要素として、正極、負極及び電解液を備える。そして、電解液には、適切な電解質が適切な濃度範囲で添加されている。例えば、リチウムイオン二次電池の電解液には、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、CFSOLi、(CFSONLi等のリチウム塩が電解質として添加されるのが一般的であり、ここで、電解液におけるリチウム塩の濃度は、概ね1mol/Lとされるのが一般的である。
【0003】
また、電解液に用いられる有機溶媒には、電解質を好適に溶解させるために、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の環状カーボネートを約30体積%以上で混合して用いるのが一般的である。
【0004】
実際に、特許文献1には、エチレンカーボネートを体積比で33体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、LiPFを1mol/Lの濃度で含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。また、特許文献2には、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートを体積比で66体積%含む混合有機溶媒を用い、かつ、(CFSONLiを1mol/Lの濃度で含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【0005】
特許文献1〜2に記載のとおり、従来、リチウムイオン二次電池に用いられる電解液においては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートを約30体積%以上で含有する混合有機溶媒を用い、かつ、リチウム塩を概ね1mol/Lの濃度で含むことが技術常識となっていた。
【0006】
さて、産業界からは、蓄電装置の高出力化が求められている。蓄電装置の高出力化方法としては、例えば、正極活物質及び負極活物質を高容量なものに変更すること、電極を高密度とすること、デバイスの省容量化などが挙げられる。これらの方法については、多くの研究者により、改良が重ねられてきた。
【0007】
また、蓄電装置の高出力化方法として、高電位で蓄電装置を作動させることが挙げられる。しかしながら、現状の蓄電装置の作動電位は、蓄電装置の構成材料が耐え得る限界付近である。したがって、より高電位で蓄電装置を作動させるためには、構成材料の抜本的な改良が必要である。
【0008】
例えば、特許文献3には、電解質としてLiPF、有機溶媒としてフルオロエーテル及びエチレンカーボネート若しくはプロピレンカーボネートを用いた特定の濃度の電解液が記載されており、当該電解液を具備する二次電池が4.5Vとの高電位条件で作動させた場合に優れた容量維持率を示したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−149477号公報
【特許文献2】特開2013−134922号公報
【特許文献3】国際公開第2012/011507号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、高電位で使用可能な、新たな電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来の技術常識にとらわれることなく、数多くの試行錯誤を重ねながら鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、特定の化学構造の有機溶媒に、特定の化学構造の金属塩が、著しく高い濃度で溶解し得ることを知見した。さらに、本発明者は、特定の化学構造の有機溶媒が、特定の化学構造の金属塩に対し、特定のモル比で存在する電解液が、高電位で作動する二次電池等の蓄電装置に好適に使用できることを知見した。これらの知見に基づき、本発明者は、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の電解液は、
下記一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、下記一般式(1−2)で表されるエステル、又は、下記一般式(1−3)で表されるリン酸エステルが、
アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとし、下記一般式(2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩に対し、
モル比1〜3で含まれること特徴とする。
【0013】
10OCOOR11 一般式(1−1)
12COOR13 一般式(1−2)
OP(OR14)(OR15)(OR16) 一般式(1−3)
(R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。
ただし、R10若しくはR11はb≧1若しくはg≧1、R12若しくはR13はb≧1若しくはg≧1、R14、R15若しくはR16はb≧1若しくはg≧1を満たす。)
【0014】
(R2121)(R22SO)N 一般式(2)
(R21は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
22は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R21とR22は、互いに結合して環を形成しても良い。
21は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R21又はR22と結合して環を形成しても良い。)
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規な電解液は、二次電池等の蓄電装置の電解液として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例Iのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、50サイクル時、及び、100サイクル時の充放電曲線を重ねて示したグラフである。
図2】実施例IIのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、10サイクル時、20サイクル時、及び、50サイクル時の充放電曲線を重ねて示したグラフである。
図3】実施例IIIのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、10サイクル時、20サイクル時、及び、50サイクル時の充放電曲線を重ねて示したグラフである。
図4】比較例Iのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、10サイクル時、及び、20サイクル時の充放電曲線を重ねて示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0018】
本発明の電解液は、
下記一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、下記一般式(1−2)で表されるエステル、又は、下記一般式(1−3)で表されるリン酸エステルが、
アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルミニウムをカチオンとし、下記一般式(2)で表される化学構造をアニオンとする金属塩に対し、
モル比1〜3で含まれること特徴とする。
【0019】
10OCOOR11 一般式(1−1)
12COOR13 一般式(1−2)
OP(OR14)(OR15)(OR16) 一般式(1−3)
(R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるCClBr、又は、環状アルキルを化学構造に含むCClBrのいずれかから選択される。nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、c、d、e、f、g、h、i、jはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e、2m−1=f+g+h+i+jを満たす。
ただし、R10若しくはR11はb≧1若しくはg≧1、R12若しくはR13はb≧1若しくはg≧1、R14、R15若しくはR16はb≧1若しくはg≧1を満たす。)
【0020】
(R2121)(R22SO)N 一般式(2)
(R21は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
22は、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R21とR22は、互いに結合して環を形成しても良い。
21は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R21又はR22と結合して環を形成しても良い。)
【0021】
通常の電解液では、多数の溶媒分子中に、少量の電解質が点在している状態である。この状態においては、電解質と配位している溶媒とともに、電解質と非配位の溶媒が多数存在する。
【0022】
本発明の電解液では、一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、一般式(1−2)で表されるエステル、又は、一般式(1−3)で表されるリン酸エステル(以下、これらの溶媒をまとめて「本発明の有機溶媒」ということがある。)が、金属塩に対し、モル比1〜3で含まれる。本発明の電解液においては、一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、一般式(1−2)で表されるエステル、又は、一般式(1−3)で表されるリン酸エステルのほぼすべてが、金属塩と配位している状態(以下、この状態を「クラスター」ということがある。)にあると考えられる。
【0023】
本発明の有機溶媒は、いずれも化学構造にフッ素を有している。フッ素を有する点で、電解液の高電位に対する耐性が向上していると考えられる。加えて、電解液をより難燃性にしていると考えられる。
【0024】
また、本発明の有機溶媒は、いずれもO−C=O若しくはO−P=Oなる化学構造を有している。かかる化学構造が有する酸素の非共有電子対が、前記金属塩との好適な配位状態を実現させていると考えられる。
【0025】
また、本発明の電解液において、上記金属塩の上記一般式(2)の化学構造には、SOが含まれている。後に詳細に説明するように、この化学構造が、高電位に対する電解液の劣化防止に寄与していると考えられる。
【0026】
一般式(1−1)、一般式(1−2)又は一般式(1−3)において、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に、鎖状アルキルであるC、又は、環状アルキルを化学構造に含むCのいずれかから選択されるのが好ましい。ここで、nは1以上の整数、mは3以上の整数、a、b、f、gはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b、2m−1=f+gを満たす。
【0027】
一般式(1−1)、一般式(1−2)又は一般式(1−3)において、R10若しくはR11はb≧2若しくはg≧2、R12若しくはR13はb≧2若しくはg≧2、R14、R15若しくはR16はb≧2若しくはg≧2を満たすのが好ましい。
【0028】
一般式(1−1)、一般式(1−2)又は一般式(1−3)に関するnは、1〜6の整数であるのが好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜2の整数が特に好ましい。mは3〜8の整数が好ましく、4〜7の整数がより好ましく、5〜6の整数が特に好ましい。
【0029】
本発明の有機溶媒のうちでは、一般式(1−1)で表される鎖状カーボネートが好ましい。
【0030】
一般式(1−1)で表される鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、フルオロメチルジフルオロメチルカーボネート、フルオロメチルトリフルオロメチルカーボネート、ジフルオロメチルトリフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート、フルオロエチルエチルカーボネート、トリフルオロエチルエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートが特に好ましい。
【0031】
一般式(1−2)で表されるエステルとしては、フルオロ酢酸メチル、フルオロ酢酸エチル、ジフルオロ酢酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、酢酸2−フルオロエチル、酢酸2,2−ジフルオロエチル、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、フルオロ酢酸2−フルオロエチル、フルオロ酢酸2,2−ジフルオロエチル、フルオロ酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、ジフルオロ酢酸2−フルオロエチル、ジフルオロ酢酸2,2−ジフルオロエチル、ジフルオロ酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、トリフルオロ酢酸2−フルオロエチル、トリフルオロ酢酸2,2−ジフルオロエチル、トリフルオロ酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロプロピオン酸エチル、ジフルオロプロピオン酸メチル、ジフルオロプロピオン酸エチル、トリフルオロプロピオン酸メチル、トリフルオロプロピオン酸エチル、テトラフルオロプロピオン酸メチル、テトラフルオロプロピオン酸エチル、ペンタフルオロプロピオン酸メチル、ペンタフルオロプロピオン酸エチル、プロピオン酸2−フルオロエチル、プロピオン酸2,2−ジフルオロエチル、プロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチル、フルオロプロピオン酸2−フルオロエチル、フルオロプロピオン酸2,2−ジフルオロエチル、フルオロプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチル、ジフルオロプロピオン酸2−フルオロエチル、ジフルオロプロピオン酸2,2−ジフルオロエチル、ジフルオロプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチル、トリフルオロプロピオン酸2−フルオロエチル、トリフルオロプロピオン酸2,2−ジフルオロエチル、トリフルオロプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチル、テトラフルオロプロピオン酸2−フルオロエチル、テトラフルオロプロピオン酸2,2−ジフルオロエチル、テトラフルオロプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチル、ペンタフルオロプロピオン酸2−フルオロエチル、ペンタフルオロプロピオン酸2,2−ジフルオロエチル、ペンタフルオロプロピオン酸2,2,2−トリフルオロエチルが特に好ましい。
【0032】
一般式(1−3)で表されるリン酸エステルとしては、リン酸ジメチル2−フルオロエチルエステル、リン酸ジメチル2,2−ジフルオロエチルエステル、リン酸ジメチル2,2,2−トリフルオロエチルエステル、リン酸ジエチル2−フルオロエチルエステル、リン酸ジエチル2,2−ジフルオロエチルエステル、リン酸ジエチル2,2,2−トリフルオロエチルエステル、リン酸メチルビス(2−フルオロエチル)エステル、リン酸メチルビス(2,2−ジフルオロエチル)エステル、リン酸メチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステル、リン酸エチルビス(2−フルオロエチル)エステル、リン酸エチルビス(2,2−ジフルオロエチル)エステル、リン酸エチルビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステル、リン酸トリス(2−フルオロエチル)エステル、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)エステル、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルが特に好ましい。
【0033】
以上で説明した一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、一般式(1−2)で表されるエステル、一般式(1−3)で表されるリン酸エステルは、それぞれ単独で電解液に用いても良いし、複数を併用しても良い。
【0034】
本発明の電解液における金属塩のカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、及びアルミニウムを挙げることができる。金属塩のカチオンは、電解液を使用する電池の電荷担体と同一の金属イオンであるのが好ましい。例えば、本発明の電解液をリチウムイオン二次電池用の電解液として使用するのであれば、金属塩のカチオンはリチウムが好ましい。
【0035】
上記一般式(2)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言について説明する。例えば「置換基で置換されていても良いアルキル基」であれば、アルキル基の水素の一つ若しくは複数が置換基で置換されているアルキル基、又は、特段の置換基を有さないアルキル基を意味する。
【0036】
「置換基で置換されていても良い」との文言における置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、不飽和シクロアルキル基、芳香族基、複素環基、ハロゲン、OH、SH、CN、SCN、OCN、ニトロ基、アルコキシ基、不飽和アルコキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよい。また置換基が2つ以上ある場合、置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0037】
前記金属塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(2−1)で表される化学構造が好ましい。
【0038】
(R2322)(R24SO)N 一般式(2−1)
(R23、R24は、それぞれ独立に、CClBr(CN)(SCN)(OCN)である。
n、a、b、c、d、e、f、g、hはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
また、R23とR24は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+e+f+g+hを満たす。
22は、SO、C=O、C=S、RP=O、RP=S、S=O、Si=Oから選択される。
、Rは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基、置換基で置換されていても良い複素環基、置換基で置換されていても良いアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和アルコキシ基、置換基で置換されていても良いチオアルコキシ基、置換基で置換されていても良い不飽和チオアルコキシ基、OH、SH、CN、SCN、OCNから選択される。
また、R、Rは、R23又はR24と結合して環を形成しても良い。)
【0039】
上記一般式(2−1)で表される化学構造における、「置換基で置換されていても良い」との文言の意味は、上記一般式(2)で説明したのと同義である。
【0040】
上記一般式(2−1)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(2−1)で表される化学構造の、R23とR24が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
【0041】
前記金属塩のアニオンの化学構造は、下記一般式(2−2)で表されるものがさらに好ましい。
【0042】
(R25SO)(R26SO)N 一般式(2−2)
(R25、R26は、それぞれ独立に、CClBrである。
n、a、b、c、d、eはそれぞれ独立に0以上の整数であり、2n+1=a+b+c+d+eを満たす。
また、R25とR26は、互いに結合して環を形成しても良く、その場合は、2n=a+b+c+d+eを満たす。)
【0043】
上記一般式(2−2)で表される化学構造において、nは0〜6の整数が好ましく、0〜4の整数がより好ましく、0〜2の整数が特に好ましい。なお、上記一般式(2−2)で表される化学構造の、R25とR26が結合して環を形成している場合には、nは1〜8の整数が好ましく、1〜7の整数がより好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。
【0044】
また、上記一般式(2−2)で表される化学構造において、aが0のもの、cが0のもの、dが0のもの、eが0のものが好ましい。
【0045】
金属塩は、(CFSONLi(以下、「LiTFSA」ということがある。)、(FSONLi(以下、「LiFSA」ということがある。)、(CSONLi、FSO(CFSO)NLi、(SOCFCFSO)NLi、(SOCFCFCFSO)NLi、FSO(CHSO)NLi、FSO(CSO)NLi、又はFSO(CSO)NLiが特に好ましい。
【0046】
本発明の金属塩は、以上で説明したカチオンとアニオンをそれぞれ適切な数で組み合わせたものを採用すれば良い。本発明の電解液における金属塩は1種類を採用しても良いし、複数種を併用しても良い。
【0047】
本発明の電解液には、上記金属塩以外に、蓄電装置の電解液に使用可能である他の電解質が含まれていてもよい。本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全電解質に対し、上記金属塩が50質量%以上で含まれるのが好ましく、70質量%以上で含まれるのがより好ましく、90質量%以上で含まれるのがさらに好ましい。
【0048】
本発明の電解液は、一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、一般式(1−2)で表されるエステル、又は、一般式(1−3)で表されるリン酸エステルが前記金属塩に対しモル比1〜3で含まれる。上記モル比は、1.2〜2.5の範囲内がより好ましい。なお、従来の電解液は、有機溶媒と電解質とのモル比が概ね10程度である。
【0049】
本発明の電解液は、その振動分光スペクトルにおいて、本発明の有機溶媒由来のピーク強度につき、当該本発明の有機溶媒本来のピークの強度をIoとし、本発明の有機溶媒本来のピークがシフトしたピーク(以下、「シフトピーク」ということがある。)の強度をIsとした場合、Is>Ioとなって観察される場合がある。
【0050】
ここで、「有機溶媒本来のピーク」とは、有機溶媒のみを振動分光測定した場合のピーク位置(波数)に、観察されるピークを意味する。有機溶媒本来のピークの強度Ioの値と、シフトピークの強度Isの値は、振動分光スペクトルにおける各ピークのベースラインからの高さ又は面積である。
【0051】
前述したように、本発明の電解液においては、本発明の有機溶媒のほぼすべてが、金属塩と配位してクラスターを形成していると考えられる。
【0052】
クラスターを形成している有機溶媒と、クラスターの形成に関与していない有機溶媒とは、それぞれの存在環境が異なる。そのため、振動分光測定において、クラスターを形成している有機溶媒由来のピークは、クラスターの形成に関与していない有機溶媒由来のピーク(すなわち有機溶媒本来のピーク)の観察される波数から、高波数側又は低波数側にシフトして観察される。つまり、シフトピークはクラスターを形成している有機溶媒のピークに相当する。
【0053】
振動分光スペクトルとしては、IRスペクトル又はラマンスペクトルを挙げることができる。IRスペクトルの測定方法としては、ヌジョール法、液膜法などの透過測定方法、ATR法などの反射測定方法を挙げることができる。IRスペクトル又はラマンスペクトルのいずれを選択するかについては、本発明の電解液の振動分光スペクトルにおいて、IsとIoの関係を判断しやすいスペクトルの方を選択すれば良い。なお、振動分光測定は、大気中の水分の影響を軽減又は無視できる条件で行うのがよい。例えば、ドライルーム、グローブボックスなどの低湿度又は無湿度条件下でIR測定を行うこと、又は、電解液を密閉容器に入れたままの状態でラマン測定を行うのがよい。
【0054】
有機溶媒の波数とその帰属につき、公知のデータを参考としてもよい。参考文献として、日本分光学会測定法シリーズ17 ラマン分光法、濱口宏夫、平川暁子、学会出版センター、231〜249頁を挙げる。また、コンピュータを用いた計算でも、Io及びIsの算出に有用と考えられる鎖状カーボネートの波数と、鎖状カーボネートと金属塩が配位した場合の波数シフトを予測することができる。例えば、Gaussian09(登録商標、ガウシアン社)を用い、密度汎関数をB3LYP、基底関数を6−311G++(d,p)として計算すればよい。当業者は、公知のデータ、コンピュータでの計算結果を参考にして、有機溶媒のピークを選定し、Io及びIsを算出することができる。
【0055】
また、本発明の電解液を振動分光測定に供し得られる振動分光スペクトルチャートにおいて、上記一般式(2)で表される化学構造に由来するピークが低波数側又は高波数側にシフトするのが観察される場合がある。振動分光スペクトルとしては、IRスペクトル又はラマンスペクトルを挙げることができる。
【0056】
本発明の電解液は高濃度で金属塩を含むため、金属塩を構成するカチオンとアニオンとが強く相互作用して、金属塩がCIP(Contact ion pairs)状態やAGG(aggregate)状態を主に形成していると推察される。そして、かかる状態の変化が振動分光スペクトルチャートにおける上記一般式(2)で表される化学構造に由来するピークのシフトとして観察される。
【0057】
本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩の存在割合が高いといえる。そうすると、本発明の電解液は、従来の電解液と比較して、金属塩と有機溶媒の存在環境が異なっているといえる。そのため、本発明の電解液を用いた二次電池等の蓄電装置においては、電解液中の金属イオン輸送速度の向上、電極と電解液の界面における反応速度の向上、二次電池のハイレート充放電時に起こる電解液の金属塩濃度の偏在の緩和、電極界面における電解液の保液性の向上、電極界面で電解液が不足するいわゆる液枯れ状態の抑制、電気二重層の容量増大などが期待できる。さらに、本発明の電解液においては、電解液に含まれる有機溶媒の蒸気圧が低くなる。その結果として、本発明の電解液からの有機溶媒の揮発が低減できる。
【0058】
本発明の電解液は金属塩のカチオンを高濃度で含有する。このため、本発明の電解液中において、隣り合うカチオン間の距離は極めて近い。そして、二次電池の充放電時にリチウムイオン等のカチオンが正極と負極との間を移動する際には、移動先の電極に直近のカチオンが先ず当該電極に供給される。そして、供給された当該カチオンがあった場所には、当該カチオンに隣り合う他のカチオンが移動する。つまり、本発明の電解液中においては、隣り合うカチオンが供給対象となる電極に向けて順番に一つずつ位置を変えるという、ドミノ倒し様の現象が生じていると予想される。このため、充放電時の電解液中カチオンの移動距離は短く、その分だけカチオンの移動速度が高いと考えられる。このことに起因して、本発明の電解液は高粘度であってもイオン伝導性を有すると考えられる。
また後述の通り、本発明の電解液を具備する二次電池は、電極/電解液界面に、低抵抗かつカチオン含有率の高いSEI皮膜を金属塩由来物で形成することで、電極/電解液界面において可逆的かつ高速な反応を可能にすると考えられる。
【0059】
また、本発明の電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の他の溶媒を加えてもよい。例えば、本発明の電解液に、当該電解液で必須とする溶媒よりも分解しやすい溶媒が含有していても、その量が一定程度であれば、当該溶媒の分解の頻度は高くない。そのため、そのような本発明の電解液を具備する二次電池は、高電位条件下であっても、安定に作動し得る。
【0060】
他の溶媒を具体的に例示すると、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル、マロノニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロピラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル等のエーテル類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、イソプロピルイソシアネート、n−プロピルイソシアネート、クロロメチルイソシアネート等のイソシアネート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸ビニル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート等のエステル類、グリシジルメチルエーテル、エポキシブタン、2−エチルオキシラン等のエポキシ類、オキサゾール、2−エチルオキサゾール、オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン等のオキサゾール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、ジメチルスルホン、スルホラン等のスルホン類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等のニトロ類、フラン、フルフラール等のフラン類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等の環状エステル類、チオフェン、ピリジン等の芳香族複素環類、テトラヒドロ−4−ピロン、1−メチルピロリジン、N−メチルモルフォリン等の複素環類、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類を挙げることができる。
【0061】
本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全溶媒に対し、一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、一般式(1−2)で表されるエステル、又は、一般式(1−3)で表されるリン酸エステルが、例えば50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上、80体積%以上、90体積%以上、又は95体積%以上で含まれるのが好ましい。また、本発明の電解液には、本発明の電解液に含まれる全溶媒に対し、一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、一般式(1−2)で表されるエステル、又は、一般式(1−3)で表されるリン酸エステルが、例えば50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、又は95モル%以上で含まれるのが好ましい。
【0062】
本発明の電解液に、炭化水素からなる有機溶媒を加えると、電解液の粘度が低くなるとの効果を期待できる。
【0063】
上記炭化水素からなる有機溶媒としては、具体的にベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1−メチルナフタレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンを例示することができる。
【0064】
また、本発明の電解液には、難燃性の溶媒を加えることができる。難燃性の溶媒を本発明の電解液に加えることにより、本発明の電解液の安全度をさらに高めることができる。難燃性の溶媒としては、四塩化炭素、テトラクロロエタン、ハイドロフルオロエーテルなどのハロゲン系溶媒、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどのリン酸誘導体を例示することができる。
【0065】
本発明の電解液をポリマーや無機フィラーと混合し混合物とすると、当該混合物が電解液を封じ込め、擬似固体電解質となる。擬似固体電解質を電池の電解液として用いることで、電池における電解液の液漏れを抑制することができる。
【0066】
上記ポリマーとしては、リチウムイオン二次電池などの電池に使用されるポリマーや一般的な化学架橋したポリマーを採用することができる。特に、ポリフッ化ビニリデンやポリヘキサフルオロプロピレンなど電解液を吸収しゲル化し得るポリマーや、ポリエチレンオキシドなどのポリマーにイオン導電性基を導入したものが好適である。
【0067】
具体的なポリマーとしては、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリグリシドール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリクロトン酸、ポリアンゲリカ酸、カルボキシメチルセルロースなどのポリカルボン酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、無水マレイン酸とグリコール類を共重合した不飽和ポリエステル、置換基を有するポリエチレンオキシド誘導体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を例示できる。また、上記ポリマーとして、上記具体的なポリマーを構成する二種類以上のモノマーを共重合させた共重合体を選択しても良い。
【0068】
上記ポリマーとして、多糖類も好適である。具体的な多糖類として、グリコーゲン、セルロース、キチン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、アミロペクチン、キシログルカン、アミロースを例示できる。また、これら多糖類を含む材料を上記ポリマーとして採用してもよく、当該材料として、アガロースなどの多糖類を含む寒天を例示することができる。
【0069】
上記無機フィラーとしては、酸化物や窒化物などの無機セラミックスが好ましい。
【0070】
無機セラミックスはその表面に親水性及び疎水性の官能基を有している。そのため、当該官能基が電解液を引き付けることにより、無機セラミックス内に伝導性通路が形成され得る。さらに、電解液に分散した無機セラミックスは前記官能基により無機セラミックス同士のネットワークを形成し、電解液を封じ込める役割を果たし得る。無機セラミックスのこのような機能により、電池における電解液の液漏れをさらに好適に抑制することができる。無機セラミックスの上記機能を好適に発揮するために、無機セラミックスは粒子形状のものが好ましく、特にその粒子径がナノ水準のものが好ましい。
【0071】
無機セラミックスの種類としては、一般的なアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、リチウムリン酸塩などを挙げることができる。また、無機セラミックス自体にリチウム伝導性があるものでも良く、具体的には、LiN、LiI、LiI−LiN−LiOH、LiI−LiS−P、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiO−B、LiO−V−SiO、LiO−B−P、LiO−B−ZnO、LiO−Al−TiO−SiO−P、LiTi(PO、Li−βAl、LiTaOを例示することができる。
【0072】
無機フィラーとしてガラスセラミックスを採用してもよい。ガラスセラミックスはイオン性液体を封じ込めることができるので、本発明の電解液に対しても同様の効果を期待できる。ガラスセラミックスとしては、xLiS−(1−x)Pで表される化合物、並びに、当該化合物のSの一部を他の元素で置換したもの、及び、当該化合物のPの一部をゲルマニウムに置換したものを例示できる。
【0073】
また、本発明の電解液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、公知の添加剤を加えてもよい。
【0074】
本発明の電解液の製造方法を説明する。本発明の電解液は従来の電解液と比較して金属塩の含有量が多いため、固体(粉体)の金属塩に有機溶媒を加える製造方法では凝集体が得られてしまい、溶液状態の電解液を製造するのが困難である。よって、本発明の電解液の製造方法においては、有機溶媒に対し金属塩を徐々に加え、かつ、電解液の溶液状態を維持しながら製造することが好ましい。
【0075】
金属塩と有機溶媒の種類に因り、本発明の電解液は、従来考えられてきた飽和溶解度を超えて金属塩が有機溶媒に溶解している液体を包含する。そのような本発明の電解液の製造方法は、本発明の有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する第1溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、前記第1電解液に前記金属塩を加え、前記金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する第2溶解工程と、撹拌及び/又は加温条件下、前記第2電解液に前記金属塩を加え、前記金属塩を溶解し、第3電解液を調製する第3溶解工程を含む。
【0076】
ここで、上記「過飽和状態」とは、撹拌及び/又は加温条件を解除した場合、又は、振動等の結晶核生成エネルギーを与えた場合に、電解液から金属塩結晶が析出する状態のことを意味する。第2電解液は「過飽和状態」であり、第1電解液及び第3電解液は「過飽和状態」でない。
【0077】
換言すると、本発明の電解液の上記製造方法は、熱力学的に安定な液体状態であり従来の金属塩濃度を包含する第1電解液を経て、熱力学的に不安定な液体状態の第2電解液を経由し、そして、熱力学的に安定な新たな液体状態の第3電解液、すなわち本発明の電解液となる。
【0078】
安定な液体状態の第3電解液は通常の条件で液体状態を保つことから、第3電解液においては、例えば、リチウム塩1分子に対し本発明の有機溶媒2分子で構成されこれらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターがリチウム塩の結晶化を阻害していると推定される。
【0079】
第1溶解工程は、本発明の有機溶媒と金属塩とを混合し、金属塩を溶解して、第1電解液を調製する工程である。
【0080】
第1溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下で行われるのが好ましい。ミキサー等の撹拌器を伴った撹拌装置で第1溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良いし、撹拌子と撹拌子を動作させる装置(スターラー)を用いて第1溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良い。撹拌速度については適宜設定すればよい。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。金属塩の溶解時には溶解熱が発生するので、熱に不安定な金属塩を用いる場合には、溶液温度が金属塩の分解温度に達しないように温度条件を厳密に制御することが好ましい。また、あらかじめ、冷却しておいた有機溶媒を使用しても良いし、第1溶解工程を冷却条件下で行ってもよい。本発明の有機溶媒と金属塩とを混合するためには、本発明の有機溶媒に対し金属塩を加えても良いし、金属塩に対し本発明の有機溶媒を加えても良い。金属塩の溶解熱の発生を考慮すると、熱に不安定な金属塩を用いる場合には、本発明の有機溶媒に対し金属塩を徐々に加える方法が好ましい。
【0081】
第1溶解工程と第2溶解工程は連続して実施しても良いし、第1溶解工程で得た第1電解液を一旦保管(静置)しておき、一定時間経過した後に、第2溶解工程を実施しても良い。
【0082】
第2溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第1電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、過飽和状態の第2電解液を調製する工程である。
【0083】
第2溶解工程は、熱力学的に不安定な過飽和状態の第2電解液を調製するため、撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。ミキサー等の撹拌器を伴った撹拌装置で第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良いし、撹拌子と撹拌子を動作させる装置(スターラー)を用いて第2溶解工程を行うことにより、撹拌条件下としても良い。加温条件については、ウォーターバス又はオイルバスなどの恒温槽で適宜制御するのが好ましい。もちろん、撹拌機能と加温機能を併せ持つ装置又はシステムを用いて第2溶解工程を行うことが特に好ましい。なお、本発明の電解液の製造方法でいう加温とは、対象物を常温(25℃)以上の温度に温めることを指す。加温温度は30℃以上であるのがより好ましく、35℃以上であるのがさらに好ましい。
【0084】
第2溶解工程において、加えた金属塩が十分に溶解しない場合には、撹拌速度の増加及び/又はさらなる加温を実施する。また、加えた金属塩が十分に溶解しない場合には、第2溶解工程の電解液に本発明の有機溶媒を少量加えて、金属塩の溶解を促してもよい。さらに、第2溶解工程を加圧条件下としても良い。
【0085】
第2溶解工程で得た第2電解液を一旦静置すると金属塩の結晶が析出してしまうので、第2溶解工程と第3溶解工程は連続して実施するのが好ましい。
【0086】
第3溶解工程は、撹拌及び/又は加温条件下、第2電解液に金属塩を加え、金属塩を溶解し、第3電解液を調製する工程である。第3溶解工程では、過飽和状態の第2電解液に金属塩を加え、溶解する必要があるので、第2溶解工程と同様に撹拌及び/又は加温条件下で行うことが必須である。具体的な撹拌及び/又は加温条件は、第2溶解工程の条件と同様である。第2溶解工程と同様に、加えた金属塩が十分に溶解しない場合には、撹拌速度の増加及び/又はさらなる加温を実施する。また、加えた金属塩が十分に溶解しない場合には、電解液に本発明の有機溶媒を少量加えて、金属塩の溶解を促してもよい。さらに、第3溶解工程を加圧条件下としても良い。
【0087】
第1溶解工程、第2溶解工程及び第3溶解工程を通じて加えた本発明の有機溶媒と金属塩とのモル比が所定の値となれば、第3電解液(本発明の電解液)の製造が終了する。撹拌及び/又は加温条件を解除しても、本発明の電解液から金属塩結晶は析出しない。これらの事情からみて、本発明の電解液は、例えば、リチウム塩1分子に対し本発明の有機溶媒1〜3分子からなり、これらの分子間の強い配位結合によって安定化されたクラスターを形成していると推定される。
【0088】
なお、本発明の電解液を製造するにあたり、金属塩と有機溶媒の種類に因り、各溶解工程での処理温度において、上記過飽和状態を経由しない場合であっても、上記第1〜3溶解工程で述べた具体的な溶解手段を用いて本発明の電解液を適宜製造することができる。
【0089】
また、所定の量の本発明の有機溶媒及び金属塩をあらかじめ混合し、超音波振動下、高速撹拌下、強いせん断力での撹拌下、及び/又は、本発明の有機溶媒の還流条件下などの加熱下にて、金属塩の溶解を完了させて、本発明の電解液を製造してもよい。
【0090】
以上説明した本発明の電解液は、電池などの蓄電装置の電解液として好適に使用される。特に、キャパシタや二次電池の電解液として使用されるのが好ましく、中でもリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタの電解液として使用されるのが好ましい。以下、本発明の電解液を具備する二次電池を「本発明の二次電池」といい、本発明の電解液を具備するリチウムイオン二次電池を「本発明のリチウムイオン二次電池」ということがある。
【0091】
一般に、二次電池における負極及び正極の表面には、皮膜が生成することが知られている。当該皮膜はSEI(Solid Electrolyte Interphase)とも呼ばれ、電解液の還元・酸化分解物等で構成される。例えば、特開2007−19027号公報には、SEI皮膜について記載されている。
【0092】
負極表面及び正極表面のSEI皮膜は、リチウムイオン等の電荷担体の通過を許容する。また、負極・正極表面のSEI皮膜は、負極・正極表面と電解液との間に存在し、電解液の更なる還元・酸化分解を抑制すると考えられている。特に黒鉛やSi系の負極活物質を用いた低電位負極や4.5V以上で作動する高電位正極には、SEI皮膜の存在が必須と考えられている。
【0093】
SEI皮膜が存在することで電解液の継続的な分解が抑制されれば、充放電サイクル経過後の二次電池の充放電特性を向上させ得ると考えられる。しかし、その一方で、従来の二次電池において、負極表面及び正極表面のSEI皮膜は必ずしも電池特性の向上に寄与するとはいえなかった。
【0094】
本発明の電解液において、上記金属塩の上記一般式(2)の化学構造には、SOが含まれている。そして、本発明の電解液が二次電池の電解液として用いられた際には、二次電池の充放電により上記金属塩の一部が分解して、二次電池の正極及び/又は負極の表面にS及びO含有皮膜を形成すると推定される。S及びO含有皮膜はS=O構造を有すると推定される。当該皮膜により電極が被覆されるため、電極及び電解液の劣化が抑制され、その結果、二次電池の耐久性が向上すると考えられる。
【0095】
本発明の電解液においては、従来の電解液に比べて、カチオンとアニオンとが近くに存在し、アニオンはカチオンからの静電的な影響を強く受けることで従来の電解液に比べ負極上で還元分解され易くなると考えられる。また、従来に比べ溶媒の大部分が金属塩と配位状態を取ることで溶媒は酸化分解されにくく、正極上で相対的にアニオンが酸化分解され易くなると考えられる。さらに、従来の電解液を用いた従来の二次電池においては、電解液に含まれるエチレンカーボネート等の環状カーボネートが還元分解されて生成する分解生成物によって、SEI皮膜が構成されていた。しかし、上述したように、本発明の二次電池に含まれる本発明の電解液においては、それぞれ負極、正極上でアニオンが還元分解されやすく、また、従来の電解液に比べ高濃度に金属塩を含有するために電解液中のアニオン濃度が高い。このため、本発明の二次電池におけるSEI皮膜、つまりS及びO含有皮膜には、従来の電解液を用いた従来の二次電池のSEI皮膜よりも、アニオンに由来するものが多く含まれると考えられる。また、本発明の二次電池においては、エチレンカーボネート等の環状カーボネートを用いることなく、SEI皮膜を形成することができる。
【0096】
また、本発明の二次電池におけるS及びO含有皮膜は充放電に伴って状態変化する場合がある。例えば、充放電の状態に因り、S及びO含有皮膜の厚さや当該皮膜内の元素の割合が可逆的に変化する場合がある。このため、本発明の二次電池におけるS及びO含有皮膜には、上述したアニオンの分解物に由来し皮膜中に定着する部分と、充放電に伴って可逆的に増減する部分とが存在すると考えられる。
【0097】
なお、S及びO含有皮膜は電解液の分解物に由来すると考えられるため、S及びO含有皮膜の大部分又は全ては二次電池の初回充放電以降に生成すると考えられる。つまり、本発明の二次電池は、使用時において、負極の表面及び/又は正極の表面にS及びO含有皮膜を有する。S及びO含有皮膜の構成成分は、電解液に含まれる成分や電極の組成等に応じて異なる場合があると考えられる。また、当該S及びO含有皮膜において、S及びOの含有割合は特に限定されない。さらに、S及びO含有皮膜に含まれるS及びO以外の成分及び量は特に限定されない。S及びO含有皮膜は、主に本発明の電解液に含まれる金属塩のアニオンに由来すると考えられるため、当該金属塩のアニオンに由来する成分をその他の成分よりも多く含むのが好ましい。
【0098】
S及びO含有皮膜は負極表面にのみ形成されても良いし、正極表面にのみ形成されても良い。S及びO含有皮膜は負極表面及び正極表面の両方に形成されるのが好ましい。
【0099】
本発明の二次電池は電極にS及びO含有皮膜を有し、当該S及びO含有皮膜はS=O構造を有するとともに多くのカチオンを含むと考えられる。そして、S及びO含有皮膜に含まれるカチオンは電極に優先的に供給されると考えられる。よって、本発明の二次電池においては、電極近傍に豊富なカチオン源を有するため、この点においても、カチオンの輸送速度が向上すると考えられる。したがって、本発明の二次電池においては、本発明の電解液と電極のS及びO含有皮膜との協働によって、優れた電池特性が発揮されると考えられる。
【0100】
以下に、上記本発明の電解液を具備する本発明のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0101】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る負極活物質を有する負極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する正極と、金属塩としてリチウム塩を採用した本発明の電解液を備える。
【0102】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。ケイ素などを負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となるが、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積の膨張及び収縮が顕著となるとの問題が生じる恐れがあるため、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属などの他の元素を組み合わせたものを負極活物質として採用するのも好適である。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、又は、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0103】
より具体的な負極活物質として、G/D比が3.5以上の黒鉛を例示できる。G/D比とは、ラマンスペクトルにおけるG−bandとD−bandのピークの比である。黒鉛のラマンスペクトルにおいては、G−bandが1590cm−1付近に、D−bandが1350cm−1付近にそれぞれピークとして観察される。G−bandはグラファイト構造に由来し、D−bandは欠陥に由来する。したがって、G−bandとD−bandの比であるG/D比が高いほど欠陥が少なく結晶性の高い黒鉛であることを意味する。以下、G/D比が3.5以上の黒鉛を高結晶性黒鉛、G/D比が3.5未満の黒鉛を低結晶性黒鉛と呼ぶことがある。
【0104】
高結晶性黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも採用できる。形状による分類法では、鱗片状黒鉛、球状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などを採用できる。また黒鉛の表面を炭素材料などで被覆したコート付き黒鉛も採用できる。
【0105】
具体的な負極活物質として、結晶子サイズが20nm以下、好ましくは5nm以下の炭素材料を例示できる。結晶子サイズが大きいほど、原子がある規則に従い周期的かつ正確に配列している炭素材料であることを意味する。一方、結晶子サイズが20nm以下の炭素材料は、原子の周期性、及び配列の正確性に乏しい状態にあるといえる。例えば炭素材料が黒鉛であれば、黒鉛結晶の大きさが20nm以下であるか、歪み、欠陥、不純物等の影響によって黒鉛を構成する原子の配列の規則性が乏しい状態となることで、結晶子サイズは20nm以下になる。
【0106】
結晶子サイズが20nm以下の炭素材料としては、難黒鉛化性炭素、いわゆるハードカーボンや、易黒鉛化性炭素、いわゆるソフトカーボンが代表的である。
【0107】
炭素材料の結晶子サイズを測定するには、CuKα線をX線源とするX線回折法を用いればよい。当該X線回折法により、回折角2θ=20度〜30度に検出される回折ピークの半値幅と回折角を基に、次のシェラーの式を用いて、結晶子サイズを算出できる。
【0108】
L=0.94 λ /(βcosθ)
ここで、
L:結晶子の大きさ
λ:入射X線波長(1.54Å)
β:ピークの半値幅(ラジアン)
θ:回折角
【0109】
具体的な負極活物質として、ケイ素を含む材料を例示できる。より具体的には、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiO(0.3≦x≦1.6)を例示できる。SiOにおけるSi相は、リチウムイオンを吸蔵及び放出でき、二次電池の充放電に伴って体積変化する。ケイ素酸化物相はSi相に比べて充放電に伴う体積変化が少ない。つまり、負極活物質としてのSiOは、Si相により高容量を実現するとともに、ケイ素酸化物相を有することにより負極活物質全体の体積変化を抑制する。なお、xが下限値未満であると、Siの比率が過大になるため、充放電時の体積変化が大きくなりすぎて二次電池のサイクル特性が低下する。一方、xが上限値を超えると、Si比率が過小になってエネルギー密度が低下する。xの範囲は0.5≦x≦1.5であるのがより好ましく、0.7≦x≦1.2であるのがさらに好ましい。
なお、上記したSiOにおいては、リチウムイオン二次電池の充放電時にリチウムとSi相のケイ素とによる合金化反応が生じると考えられている。そして、この合金化反応がリチウムイオン二次電池の充放電に寄与すると考えられている。後述するスズを含む負極活物質についても、同様に、スズとリチウムとの合金化反応によって充放電できると考えられている。
【0110】
具体的な負極活物質として、スズを含む材料を例示できる。より具体的には、Sn単体、Cu−SnやCo−Snなどのスズ合金、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物を例示できる。アモルファススズ酸化物としてはSnB0.40.63.1を例示でき、スズケイ素酸化物としてはSnSiOを例示できる。
【0111】
上記したケイ素を含む材料、及び、スズを含む材料は、炭素材料と複合化して負極活物質とすることが好ましい。複合化に因り、特にケイ素及び/又はスズの構造が安定し、負極の耐久性が向上する。上記複合化は、既知の方法で行なえば良い。複合化に用いられる炭素材料としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等を採用すればよい。黒鉛は、天然黒鉛でもよく、人造黒鉛でもよい。
【0112】
具体的な負極活物質として、Li4+xTi5+y12(−1≦x≦4、−1≦y≦1))などのスピネル構造のチタン酸リチウム、LiTiなどのラムスデライト構造のチタン酸リチウムが例示できる。
【0113】
具体的な負極活物質として、長軸/短軸の値が1〜5、好ましくは1〜3である黒鉛を例示できる。ここで、長軸とは、黒鉛の粒子の最も長い箇所の長さを意味する。短軸とは、前記長軸に対する直交方向のうち最も長い箇所の長さを意味する。当該黒鉛には、球状黒鉛やメソカーボンマイクロビーズが該当する。球状黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素などの炭素材料であって、形状が球状又はほぼ球状であるものをいう。
【0114】
球状黒鉛は、黒鉛を比較的破砕力の小さい衝撃式粉砕機で粉砕して薄片とし、当該薄片を圧縮球状化して得られる。衝撃式粉砕機としては、例えばハンマーミルやピンミルを例示できる。上記ミルのハンマー又はピンの外周線速度を50〜200m/秒程度として、上記作業を行うことが好ましい。上記ミルに対する黒鉛の供給や排出は、空気等の気流に同伴させて行うことが好ましい。
【0115】
黒鉛は、BET比表面積が0.5〜15m/gの範囲のものが好ましい。BET比表面積が大きすぎると黒鉛と電解液との副反応が加速する場合があり、BET比表面積が小さすぎると黒鉛の反応抵抗が大きくなる場合がある。
【0116】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。
【0117】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0118】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0119】
負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。
【0120】
結着剤は活物質及び導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。
【0121】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
【0122】
また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。中でも、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸などの分子中にカルボキシル基を含むポリマー、又は、ポリ(p−スチレンスルホン酸)などのスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0123】
ポリアクリル酸、あるいはアクリル酸とビニルスルホン酸との共重合体など、カルボキシル基及び/又はスルホ基を多く含むポリマーは水溶性となる。親水基を有するポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましく、化学構造でいうと、一分子中に複数のカルボキシル基及び/又はスルホ基を含むポリマーが好ましい。
【0124】
分子中にカルボキシル基を含むポリマーは、例えば、酸モノマーを重合する方法や、ポリマーにカルボキシル基を付与する方法などで製造することができる。酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル安息香酸、クロトン酸、ペンテン酸、アンジェリカ酸、チグリン酸など分子中に一つのカルボキシル基をもつ酸モノマー、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、フマル酸、マレイン酸、2−ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など分子内に二つ以上のカルボキシル基をもつ酸モノマーなどが例示される。
【0125】
上記の酸モノマーから選ばれる二種以上の酸モノマーを重合してなる共重合ポリマーを結着剤として用いてもよい。
【0126】
また、例えば特開2013−065493号公報に記載されたような、アクリル酸とイタコン酸との共重合体のカルボキシル基どうしが縮合して形成された酸無水物基を分子中に含んでいるポリマーを結着剤として用いることも好ましい。一分子中にカルボキシル基を二つ以上有する酸性度の高いモノマー由来の構造が結着剤にあることにより、充電時に電解液分解反応が起こる前にリチウムイオンなどを結着剤がトラップし易くなると考えられている。さらに、当該ポリマーは、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸に比べてモノマーあたりのカルボキシル基が多いため、酸性度が高まるものの、所定量のカルボキシル基が酸無水物基に変化しているため、酸性度が高まりすぎることもない。そのため、当該ポリマーを結着剤として用いた負極をもつ二次電池は、初期効率が向上し、入出力特性が向上する。
【0127】
負極活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0128】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、及び各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。負極活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、負極活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると負極活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0129】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る正極活物質を有する。正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。正極の集電体は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はなく、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。
【0130】
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
【0131】
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、AL−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
【0132】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
【0133】
集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0134】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0135】
正極の結着剤及び導電助剤は負極で説明したものを同様の配合割合で採用すればよい。
【0136】
正極活物質としては、層状化合物のLiNiCoMn(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)、LiMnOを挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn等のスピネル構造の金属酸化物、及びスピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、電荷担体(例えば充放電に寄与するリチウムイオン)を含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウム等の電荷担体を含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予め電荷担体を添加しておく必要がある。電荷担体は、イオンの状態で添加しても良いし、金属等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、電荷担体がリチウムである場合には、リチウム箔を正極及び/又は負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。
【0137】
具体的な正極活物質として、スピネル構造のLixyMn2-y4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素、0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。より具体的には、LiMn、LiNi0.5Mn1.5を例示できる。
【0138】
具体的な正極活物質として、層状岩塩構造をもつLiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.75Co0.1Mn0.15、LiMnO、LiNiO、及びLiCoOを例示できる。他の具体的な正極活物質として、LiMnO−LiCoOを例示できる。
【0139】
具体的な正極活物質として、LiFePO、LiFeSiO、LiCoPO、LiCoPO、LiMnPO、LiMnSiO、LiCoPOFを例示できる。
【0140】
これら正極活物質のうち、Li/Li電極基準で4.5V以上の反応電位を示すものが好ましい。ここで、「反応電位」とは、充放電により正極活物質が酸化還元反応を生じる電位をいう。この反応電位は、Li/Li電極を基準とする。反応電位には、多少幅がある場合があるが、本明細書において「反応電位」は幅がある反応電位の中の平均値をいう。反応電位が複数段ある場合には、複数段の反応電位の中の平均値をいう。反応電位がLi/Li電極基準で4.5V以上である正極活物質としては、例えば、LiNi0.5Mn1.5などのスピネル構造の金属酸化物であるLixyMn2-y4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素、0<x≦2.2、0≦y≦1)、LiCoPO、LiCoPOF、LiMnO−LiMO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)、LiMnSiOなどが挙げられる。
【0141】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を含む活物質層形成用組成物を調製し、この組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0142】
リチウムイオン二次電池には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0143】
正極及び負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体及び負極の集電体から外部に通ずる正極端子及び負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に本発明の電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0144】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0145】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0146】
上記の本発明のリチウムイオン二次電池の説明における、負極活物質若しくは正極活物質の一部若しくは全部、又は、負極活物質及び正極活物質の一部若しくは全部を、分極性電極材料として用いられる活性炭などに置き換えて、本発明の電解液を具備する本発明のキャパシタとしてもよい。本発明のキャパシタとしては、電気二重層キャパシタや、リチウムイオンキャパシタなどのハイブリッドキャパシタを例示できる。本発明のキャパシタの説明については、上記の本発明のリチウムイオン二次電池の説明における「リチウムイオン二次電池」を「キャパシタ」に適宜適切に読み替えれば良い。
【0147】
以上、本発明の電解液の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0148】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0149】
(実施例1−1)
一般式(1−1)で表される鎖状カーボネートである2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートに金属塩である(FSONLiを還流条件下で溶解させて、実施例1−1の電解液を製造した。実施例1−1の電解液においては、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートが、(FSONLiに対し、モル比1.5で含まれる。
【0150】
(実施例1−2)
一般式(1−1)で表される鎖状カーボネートである2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートとフッ素化されていない鎖状カーボネートであるジメチルカーボネートの混合溶媒に金属塩である(FSONLiを還流条件下で溶解させて、実施例1−2の電解液を製造した。実施例1−2の電解液においては、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートをあわせたものが、(FSONLiに対し、モル比1.6で含まれており、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートが(FSONLiに対しモル比1.3で含まれる。
【0151】
(実施例1−3)
一般式(1−1)で表される鎖状カーボネートである2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートとフッ素化されていない鎖状カーボネートであるエチルメチルカーボネートの混合溶媒に金属塩である(FSONLiを還流条件下で溶解させて、実施例1−3の電解液を製造した。実施例1−3の電解液においては、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートをあわせたものが、(FSONLiに対し、モル比1.6で含まれており、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートが(FSONLiに対しモル比1.3で含まれる。
【0152】
(比較例1−1)
フッ素置換したエチレンカーボネート3体積部並びに低粘度溶媒としてエチルメチルカーボネート及びフッ素化した鎖状化合物の混合液7体積部を混合した混合溶媒に、電解質であるLiPFを溶解させて、LiPFの濃度が1.0mol/Lである比較例1−1の電解液を製造した。比較例1−1の電解液においては、上記混合溶媒がLiPFに対し、概ねモル比10で含まれる。なお、上記フッ素化した鎖状化合物は、一般式(1−1)で表される鎖状カーボネート、一般式(1−2)で表されるエステル、一般式(1−3)で表されるリン酸エステルのいずれにも該当しない、常温で液体の化合物である。
【0153】
(実施例I)
実施例1−1の電解液を用いた実施例Iのリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
【0154】
正極活物質であるスピネル構造のLiNi0.5Mn1.589質量部、導電助剤であるアセチレンブラック8質量部、及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン3質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリーを作製した。正極集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去した。その後、このアルミニウム箔をプレスし接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で120℃、6時間加熱乾燥して、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を得た。これを正極とした。
【0155】
負極活物質である黒鉛98質量部、並びに結着剤であるスチレンブタジエンゴム1質量部及びカルボキシメチルセルロース1質量部を混合した。この混合物を適量のイオン交換水に分散させて、スラリーを作製した。負極集電体として厚み20μmの銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥して水を除去し、その後、銅箔をプレスし、接合物を得た。得られた接合物を真空乾燥機で100℃、6時間加熱乾燥して、負極活物質層が形成された銅箔を得た。これを負極とした。
【0156】
セパレータとして、厚さ20μmのセルロース製不織布を準備した。
【0157】
正極と負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに実施例1−1の電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例Iのリチウムイオン二次電池とした。
【0158】
(実施例II)
電解液として実施例1−2の電解液を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、実施例IIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0159】
(実施例III)
電解液として実施例1−3の電解液を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、実施例IIIのリチウムイオン二次電池を得た。
【0160】
(比較例I)
電解液として比較例1−1の電解液を用いた以外は、実施例Iと同様の方法で、比較例Iのリチウムイオン二次電池を得た。
【0161】
(評価例I:容量維持率)
実施例I〜III、比較例Iのリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で、容量維持率を評価した。
各リチウムイオン二次電池について、室温、3.0V〜4.9V(vs.Li基準)の範囲でCC充放電を繰り返した。初回充放電時の放電容量、各サイクル時の放電容量を測定した。そして、初回充放電時の各リチウムイオン二次電池の容量を100%として、特定のサイクル時の各リチウムイオン二次電池の容量維持率(%)を算出した。結果を表1に示す。また、図1に、実施例Iのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、50サイクル時、及び、100サイクル時の充放電曲線を重ねて示す。図2に、実施例IIのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、10サイクル時、20サイクル時、及び、50サイクル時の充放電曲線を重ねて示す。図3に、実施例IIIのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、10サイクル時、20サイクル時、及び、50サイクル時の充放電曲線を重ねて示す。図4に、比較例Iのリチウムイオン二次電池における、初回充放電時、10サイクル時、及び、20サイクル時の充放電曲線を重ねて示す。
【0162】
【表1】
【0163】
表1中、実施例IIと実施例IIIの「有機溶媒モル数/金属塩又は電解質モル数」の数値のうち、括弧内の数値は、「2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネートのモル数/(FSONLiのモル数」の値である。
【0164】
実施例I〜IIIのリチウムイオン二次電池は、比較例Iのリチウムイオン二次電池と比較して、著しく優れた容量維持率を示した。また、図1〜3に示すように、実施例I〜IIIのリチウムイオン二次電池においては、サイクルを重ねても、充放電曲線の変動がほとんど観察されなかった。本発明の電解液を具備するリチウムイオン二次電池は、電圧4.5V以上での充放電サイクルに対して、著しく優れた耐久性を示すことが裏付けられた。
図1
図2
図3
図4