(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高分子樹脂成形体に特定方向の延伸処理を施した場合、あるいは溶融状態の高分子樹脂の成形に際して、特定方向の圧力の付与を伴なう成形処理を行った場合に得られる高分子樹脂成形体が複屈折性を示すことは既に知られている。例えば、キャストフィルムを延伸する方法によって製造された光学フィルム、あるいは射出成形によって製造された光学レンズに代表される光学材料用の高分子樹脂成形体は一般に複屈折性を示す。
【0003】
特許文献1には、高分子樹脂成形体に現れる複屈折性を抑制する方法として、高分子樹脂中に針状炭酸ストロンチウム粒子を分散させて、高分子樹脂の結合鎖の配向により生じる複屈折性を、針状炭酸ストロンチウム粒子の配向により生じる複屈折性で相殺させる方法が記載されている。但し、高分子樹脂成形体中に針状炭酸ストロンチウム粒子のような固体粒子を分散させる方法では、その固体粒子の存在によって、成形体の透明性が低下する恐れがある。この文献には、高分子樹脂の透明性を維持するために、針状炭酸ストロンチウム粒子の平均長さを500nm以下にすることが有利であり、特に200nm以下であれば高分子樹脂の透明性が殆ど損なわれない旨の記載がある。
【0004】
なお、上記文献の実施例には、針状炭酸ストロンチウム粒子が分散されたフィルムの製造方法として、針状炭酸ストロンチウム粒子(平均粒子径400nm)をテトラヒドロフラン中に分散させ、得られた分散液に高分子樹脂を加えて溶解させることによって調製した高分子樹脂溶液をガラス板の上に層状に塗布し、その高分子樹脂溶液層の溶媒を蒸発させてフィルムとした後、そのフィルムを延伸する方法が記載されている。この方法を用いて、針状炭酸ストロンチウム粒子が分散されたフィルムを製造するには、高分子樹脂の溶媒に針状炭酸ストロンチウム粒子を均一に分散させることが必要となる。
【0005】
特許文献2には、塩化メチレンのような有機溶媒への分散性が高い炭酸ストロンチウム粉末として、炭酸ストロンチウム微粒子の表面を予め、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤で処理する方法が記載されている。この文献の実施例には、電子顕微鏡画像から測定された、平均アスペクト比が2.70で、長径の平均長さが110nmの針状炭酸ストロンチウム粉末が記載されている。そしてその針状炭酸ストロンチウム粉末を塩化メチレンに分散させた分散液は、平均粒子径が170nmであったと記載されている。
【0006】
特許文献3には、炭酸ストロンチウム微粉末が記載されているが、この炭酸ストロンチウム微粉末は、平均アスペクト比が2.0以下の球状粒子からなる微粉末である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
針状炭酸ストロンチウム粒子を分散状態で含有する光学材料用高分子樹脂組成物の成形体(光学部品)は、高い透明性を示すことが要求される。高分子樹脂組成物の透明性を高めるためには、高分子樹脂に分散させる針状炭酸ストロンチウム粒子として微細な針状炭酸ストロンチウム粒子を用いる必要がある。しかしながら、これまでに、高分子樹脂に分散させて成形した場合に充分な透明性を示す成形体を与えることのできる微細な針状炭酸ストロンチウム粒子は知られておらず、また特に、高分子樹脂に分散させて成形した場合において、充分な透明性を示す成形体を与えることのできる微細でかつ分散性が高い針状炭酸ストロンチウム粒子は知られていない。
【0009】
従って、本発明の目的は、高分子樹脂に分散させて成形した場合において、充分な透明性を示す成形体を与えることのできる微細な針状炭酸ストロンチウム粒子を提供することにあり、特に、高分子樹脂に分散させて成形した場合において、充分な透明性を示す成形体を与えることのできる微細でかつ分散性が高い針状炭酸ストロンチウム粒子を提供することにある。
【0010】
本発明はまた、高分子樹脂を溶液状態として成形するに際して用いる有機溶媒、特に疎水性有機溶媒、に高い分散性で安定に分散させることができる微細な針状炭酸ストロンチウム粉末を提供することにあり、さらに微細な針状炭酸ストロンチウム粒子の大部分が一次粒子の状態で有機溶媒に分散されている針状炭酸ストロンチウム粒子分散液を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者(本発明者)は、特許文献3に記載されている球状炭酸ストロンチウム微粒子の製造工程で採用されている水溶液中での水酸化ストロンチウムの二酸化炭素による炭酸化の条件を変更することにより針状炭酸ストロンチウム微粒子が生成すること、そして生成した針状炭酸ストロンチウム微粒子を高温での熟成工程に供することにより、一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、アスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム微粒子を製造することができることを見出した。
【0012】
本発明者はさらに、上記の一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、アスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム微粒子を水性媒体に分散させた分散液を、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤の存在下にて、周速が10〜60m/秒の範囲の速度にて回転している回転体に接触させて、該分散液に剪断力を付与することにより、該界面活性剤が表面に付着した針状炭酸ストロンチウム粒子の分散液を調製し、その分散液を乾燥して微細な針状炭酸ストロンチウム粉末を製造したところ、このような処理方法により界面活性剤を粒子表面に付着させた微細な針状炭酸ストロンチウム粉末は、有機溶媒、特に疎水性有機溶媒、への分散性が高く、従って針状炭酸ストロンチウムが高度な分散状態で分散している有機溶媒分散液の調製に極めて有用であることを見出した。
【0013】
上記の針状炭酸ストロンチウム有機溶媒分散液の高度の分散状態は、下記のいずれか、もしくは双方の方法を利用して容易に確認できる。
(1)分散液中の動的光散乱法により測定される針状炭酸ストロンチウム粒子のD
50が5〜50nmの範囲にあり、かつD
90が100nmを超えることがない。
(2)針状炭酸ストロンチウム粒子が、0.5〜8.0質量%の範囲の濃度にて有機溶媒に分散されていて、波長600nmの光の透過率が60%以上である。
【0014】
本発明者はさらに、上記の微細な針状炭酸ストロンチウム粒子を有機溶媒に分散させて得た分散液を添加した高分子樹脂組成物から成形された成形体において、その針状炭酸ストロンチウム粒子が高度な分散状態で良好に配向されることも見出した。
【0015】
従って、本発明は、針状炭酸ストロンチウム粒子の集合体であって、該集合体を構成する針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、そしてアスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム粉末にある。
【0016】
本発明はまた、針状炭酸ストロンチウム粒子の集合体であって、該集合体を構成する針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、そしてアスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある炭酸ストロンチウム粉末を水性媒体に分散させた分散液を、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤の存在下にて、周速が10〜60m/秒の範囲の速度にて回転している回転体に接触させて、該分散液に剪断力を付与することにより、該界面活性剤が表面に付着した針状炭酸ストロンチウム粒子の分散液を調製する工程、そして該工程で得られた分散液を乾燥する工程を含む、針状炭酸ストロンチウム粒子の集合体であって、該集合体中の針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲そしてアスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にあり、針状炭酸ストロンチウム粒子の表面に、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤が付着している針状炭酸ストロンチウム粉末の製造方法にもある。
【0017】
本発明はさらに、一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、そしてアスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム粉末が有機溶媒に分散されている針状炭酸ストロンチウム粒子分散液であって、該分散液中の動的光散乱法により測定される針状炭酸ストロンチウム粒子のD
50が5〜50nmの範囲にあり、かつD
90が100nmを超えることがない針状炭酸ストロンチウム粒子分散液にもある。
【0018】
本発明はさらに、一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、そしてアスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム粉末が0.5〜8.0質量%の範囲の濃度にて有機溶媒に分散されている針状炭酸ストロンチウム粒子分散液であって、波長600nmの光の透過率が60%以上である針状炭酸ストロンチウム粒子分散液にもある。
【0019】
本発明はさらに、針状炭酸ストロンチウム粒子の集合体であって、該集合体を構成する針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲そしてアスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム粒子が高分子樹脂に分散されてなる高分子樹脂組成物にもある。
【0020】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末の好ましい態様は次の通りである。
1)針状炭酸ストロンチウム粒子の表面に、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤が付着している。
2)上記の界面活性剤に含まれる親水性基がポリオキシアルキレン基であって、疎水性基がアルキル基もしくはアリール基であり、そして水中でアニオンを形成する基がカルボン酸基、硫酸基及びリン酸基からなる群より選ばれる酸基である。
3)下記の(1)と(2)の内のいずれか、もしくは双方の条件を満たす:
(1)1gの針状炭酸ストロンチウム粉末と99gの塩化メチレンとの混合物を超音波分散処理した後、孔径1μmのメンブランフィルターを用いて濾過することにより得られる針状炭酸ストロンチウム粉末分散液を測定試料として動的光散乱法により測定される針状炭酸ストロンチウム粒子のD
50が5〜50nmの範囲にあり、かつD
90が100nmを超えることがない;
(2)1gの針状炭酸ストロンチウム粉末と99gの塩化メチレンとの混合物を超音波分散処理した後、孔径1μmのメンブランフィルターを用いて濾過することにより得られる針状炭酸ストロンチウム粉末分散液の波長600nmの光の透過率が60%以上である。
【0021】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粒子分散液の好ましい態様は次の通りである。
1)針状炭酸ストロンチウム粒子の表面に、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤が付着している。
2)D
50が針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径の1.5倍以下である。
3)有機溶媒が疎水性有機溶媒である。
【0022】
本発明の高分子樹脂組成物の好ましい態様は次の通りである。
1)針状炭酸ストロンチウム粒子が、その表面に親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤が付着している。
2)高分子樹脂組成物が光学用途に用いる樹脂成形体の製造用である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末を用いることによって、微細な針状炭酸ストロンチウム粒子が一次粒子もしくはそれに近い微粒子の状態で有機溶媒中に分散している針状炭酸ストロンチウム分散液を容易に製造することができる。また、本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末及び針状炭酸ストロンチウム粒子分散液を用いることによって、微細な針状炭酸ストロンチウム粒子が一次粒子もしくはそれに近い微粒子の状態で高分子樹脂中に分散している樹脂組成物を工業的に有利に製造することができる。この高分子樹脂組成物は、微細な針状炭酸ストロンチウム粒子が一次粒子もしくはそれに近い微粒子の状態で高分子樹脂中に分散しているので、その高分子樹脂組成物を用いて製造した高分子樹脂成形体は高い透明性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は針状炭酸ストロンチウム粒子の集合体であって、該集合体を構成する針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、そしてアスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム粉末にある。
【0026】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末を構成する針状炭酸ストロンチウム粒子は、水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液を撹拌しながら、水酸基とカルボキシル基とをそれぞれ少なくとも1個、かつ合計で少なくとも3個有する有機酸(特に、DL−酒石酸)の存在下にて、該水溶液もしくは水性懸濁液に二酸化炭素ガスを導入して、水酸化ストロンチウムを炭酸化させることによって、炭酸ストロンチウム微粒子の水性分散液を得て、必要に応じて、該水性分散液を、一般に60℃以上、好ましくは60〜100℃、特に好ましくは70〜100℃の温度に加熱して熟成させ、生成したアスペクト比が2以下の球状炭酸ストロンチウム微粒子を長軸方向に粒子成長させることよって製造することができる。
【0027】
水酸化ストロンチウムの水溶液もしくは水性懸濁液は、水酸化ストロンチウムの濃度が一般に1〜20質量%の範囲であり、好ましくは2〜15質量%の範囲、より好ましくは3〜8質量%の範囲である。有機酸は、カルボキシル基の数が1個又は2個で、かつそれらの合計が3〜6個であることが好ましい。有機酸の好ましい例としては、酒石酸、リンゴ酸及びグルコン酸を挙げることができる。有機酸の使用量は、水酸化ストロンチウム100質量部に対して一般に0.1〜20質量部の範囲、好ましくは1〜10質量部の範囲である。二酸化炭素ガスの流量は、水酸化ストロンチウム1gに対して一般に0.5〜200mL/分の範囲であり、好ましくは0.5〜100mL/分の範囲である。生成するアスペクト比が2以下の球状炭酸ストロンチウム微粒子は、BET比表面積が20〜180m
2/gの範囲にあることが好ましく、40〜180m
2/gの範囲にあることがより好ましく、60〜180m
2/gの範囲にあることが特に好ましい。なお、球状炭酸ストロンチウム微粒子は、真球状である必要はなく、長球状、角が丸まった立方体状や直方体状であってもよい。なお、球状炭酸ストロンチウム微粒子の製造方法は、国際公開第2011/052680号に記載されている。
【0028】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末は、針状炭酸ストロンチウム粒子の表面に、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤が付着していることが好ましい。
【0029】
上記の界面活性剤に含まれる親水性基がポリオキシアルキレン基であって、疎水性基がアルキル基もしくはアリール基であり、そして水中でアニオンを形成する基がカルボン酸基、硫酸基及びリン酸基からなる群より選ばれる酸基であることが好ましい。
【0030】
上記の界面活性剤の親水性基は、炭素原子数が1〜4のオキシアルキレン基を含むポリオキシアルキレン基であることが好ましい。疎水性基は、アルキル基もしくはアリール基であることが好ましい。アルキル基及びアリール基は置換基を有していてもよい。アルキル基は、炭素原子数が一般に3〜30の範囲、好ましくは10〜18の範囲にある。アリール基は炭素原子数が一般に6〜30の範囲にある。水中でアニオンを形成する基はカルボン酸基(−COOH)、硫酸基(−OSO
3H)及びリン酸基(−OPO(OH)
2、−OPO(OH)O−)からなる群より選ばれる酸基であることが好ましい。これらの酸基の水素原子は、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属イオン又はアンモニウムで置換されていてもよい。
【0031】
アニオンを形成する基がカルボン酸基である界面活性剤は、下記の式(I)で表される化合物であることが好ましい。
【0033】
式(I)において、R
1は、置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基を表し、E
1は炭素原子数が1〜4の範囲にあるアルキレン基を表し、aは、1〜20の範囲、好ましくは2〜6の範囲の数を表す。R
1は、炭素原子数が10以上、好ましくは10〜18の範囲にあるアルキル基であることが好ましい。
【0034】
アニオンを形成する基がリン酸基である界面活性剤は、下記の式(II)もしくは式(III)で表される化合物の単体あるいは式(II)もしくは式(III)で表される化合物の混合物であることが好ましい。
【0036】
式(II)において、R
2は置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基を表し、E
2は炭素原子数が1〜4の範囲にあるアルキレン基を表し、bは1〜20の範囲、好ましくは2〜6の範囲の数を表す。R
2は、炭素原子数が10以上、好ましくは10〜18の範囲にあるアルキル基であることが好ましい。
【0038】
式(III)において、R
3は置換もしくは無置換のアルキル基または置換もしくは無置換のアリール基を表し、E
3は炭素原子数が1〜4の範囲にあるアルキレン基を表し、cは1〜20の範囲、好ましくは2〜6の範囲の数を表す。R
3は、炭素原子数が10以上、好ましくは10〜18の範囲にあるアルキル基であることが好ましい。
【0039】
また、界面活性剤としては、国際公開第2012/111692号(特許文献2)に記載されている化合物を用いることができる。
【0040】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末を構成する針状炭酸ストロンチウム粒子の表面への、前記の界面活性剤の付着は、炭酸ストロンチウム粉末を水性媒体に分散させた分散液を、前記の界面活性剤の存在下にて、周速が10〜60m/秒の範囲の速度にて回転している回転体に接触させて、該分散液に剪断力を付与することにより、界面活性剤が表面に付着した針状炭酸ストロンチウム粒子の分散液を調製する工程を利用して行うことが好ましい。このようにして得られた界面活性剤が表面に付着した針状炭酸ストロンチウム粒子の分散液を乾燥することにより乾燥状態の針状炭酸ストロンチウム粉末を得ることができる。
【0041】
分散液に存在させる界面活性剤の量は、水性媒体中の針状炭酸ストロンチウム粒子100質量部に対して、一般に1〜50質量部の範囲、好ましくは5〜40質量部の範囲である。
【0042】
上記の針状炭酸ストロンチウム粉末の製造方法では、界面活性剤の存在下、分散液に周速が10〜60m/秒の範囲の高い速度にて回転している回転体によって強い剪断力を付与することによって、針状炭酸ストロンチウム粒子を一次粒子として水性媒体中に分散させて、該一次粒子と該界面活性剤とを接触させる。回転体の周速は、20〜50m/秒の範囲にあることが好ましく、30〜40m/秒の範囲にあることが更に好ましい。分散液に強い剪断力を与えることができる分散装置としては、エム・テクニック株式会社から販売されているクレアミックスを挙げることができる。
【0043】
分散液の乾燥は、スプレードライヤ及びドラムドライヤなどの乾燥機を用いた公知の乾燥方法によって行なうことができる。分散液を乾燥する工程の前に、分散液から径が1μm以上の凝集物を除去してもよい。
【0044】
上記の方法によって得られる針状炭酸ストロンチウム粉末は、一次粒子の表面に、親水性基と疎水性基とを含み、更に水中でアニオンを形成する基を有する界面活性剤が付着している。一次粒子の表面に界面活性剤が付着していることは、FT−IR(フーリエ変換赤外分光法)によって確認することができる。
【0045】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末、特に前記の界面活性剤が表面に付着している炭酸ストロンチウム粒子を含む針状炭酸ストロンチウム粉末は、下記の(1)と(2)の内のいずれかの条件を満たすことが好ましく、(1)と(2)の条件を共に満たすことが特に好ましい。
(1)1gの針状炭酸ストロンチウム粉末と99gの塩化メチレンとの混合物を超音波分散処理した後、孔径1μmのメンブランフィルターを用いて濾過することにより得られる針状炭酸ストロンチウム粉末分散液を測定試料として動的光散乱法により測定される針状炭酸ストロンチウム粒子のD
50が5〜50nmの範囲にあり、かつD
90が100nmを超えることがない;
(2)1gの針状炭酸ストロンチウム粉末と99gの塩化メチレンとの混合物を超音波分散処理した後、孔径1μmのメンブランフィルターを用いて濾過することにより得られる針状炭酸ストロンチウム粉末分散液の波長600nmの光の透過率が60%以上(好ましくは、70%以上、さらに好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上)である。
なお、D
50は篩下積算分率が50%となる粒子径を意味し、D
90は篩下積算分率が90%となる粒径を意味する。
【0046】
上記の(1)の条件において、動的光散乱法とは、分散液に光を照射したときに、有機溶媒中でブラウン運動をしている針状炭酸ストロンチウム粒子によって散乱されることによって生じる散乱光の強度の揺らぎから針状炭酸ストロンチウム粒子の粒子径を測定する方法である。この動的光散乱法によって測定される針状炭酸ストロンチウム粒子の粒子径は、体積基準の粒子径であり、針状炭酸ストロンチウム粒子が凝集粒子を形成している場合には凝集粒子の粒子径を含む粒子径である。なお、動的光散乱法では、針状炭酸ストロンチウム粒子の短径と長径が測定されるため、D
50は針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径よりも小さな値を示すことがある。D
50は、針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径に対して一般に1.5倍以下、好ましくは0.8〜1.4倍の範囲にある。
【0047】
上記の(2)の条件において、光の透過率は、分散液の有機溶媒の光透過率を基準とした値である。光の透過率は、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。光透過率の上限は、一般に100%である。針状炭酸ストロンチウム粒子の濃度は、分散液全体を基準とした値である。濃度は、好ましくは0.8〜7.0質量%の範囲である。
【0048】
本発明の針状炭酸ストロンチウム微粒子分散液は、一次粒子の平均長径が5〜50nmの範囲にあり、アスペクト比の平均が2.2〜5.0の範囲にある針状炭酸ストロンチウム粒子が有機溶媒に分散されてなる分散液である。有機溶媒としては、特に、高分子樹脂溶液の製造用の溶剤として使用される疎水性の有機溶媒を用いることができる。疎水性有機溶媒の例としては、炭化水素及びハロゲン化炭化水素を挙げることができる。炭化水素の例としてはシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレンを挙げることができる。ハロゲン化炭化水素の例としては塩化メチレン、クロロホルム及び四塩化炭素を挙げることができる。
【0049】
有機溶媒に分散されている針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の平均長径は、分散液から取り出した針状炭酸ストロンチウム粒子の電子顕微鏡画像の測定により確認することができる。一次粒子とは、粉体、凝集体を構成する粒子で、分子間の結合を破壊することなく存在する最小単位の粒子を意味する。一次粒子のアスペクト比(長径/短径)の平均は、2.2〜5.0の範囲、特に好ましくは2.2〜4.0の範囲にある。
【0050】
本発明の針状炭酸ストロンチウム粒子分散液は、本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末と有機溶媒とを混合し、次いで得られた混合物を分散処理する工程を含む方法によって製造することができる。分散処理方法としては、超音波処理、撹拌処理などの方法を用いることができる。分散処理の後、分散液から径が1μm以上の凝集物を除去してもよい。
【0051】
次に、本発明の針状炭酸ストロンチウム粉末が高分子樹脂に分散されてなる高分子樹脂組成物について説明する。
【0052】
高分子樹脂組成物の製造方法としては、本発明の針状炭酸ストロンチウム粒子分散液に、高分子樹脂を加えて、分散液に高分子樹脂を溶解させることにより、針状炭酸ストロンチウム粒子分散高分子樹脂溶液を調製し、この溶液を基板上に塗布して、塗布層を形成し、該塗布層を乾燥して、溶媒を除去することによって製造する方法が挙げられる。高分子樹脂溶液を基板上に塗布する方法の例としては、スピンコート法、ロールコート法を挙げることができる。針状炭酸ストロンチウム粒子分散高分子樹脂溶液は、針状炭酸ストロンチウム粉末、高分子樹脂そして溶媒を同時に混合して調製してもよく、針状炭酸ストロンチウム粉末と高分子樹脂の溶液とを混合して調製してもよい。また、このようにして製造した高分子樹脂組成物を、成形機を用いて形成してもよい。成形機の例としては、射出成形機及び押出成形機を挙げることができる。
【0053】
高分子樹脂の例としては、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びセルロースエステル樹脂を挙げることができる。高分子樹脂組成物に含まれる針状炭酸ストロンチウム粉末の量は、高分子樹脂組成物を基準として一般に0.1〜40質量%、好ましくは1〜25質量%の範囲である。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
(1)針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液の製造方法
水温10℃の純水3Lに水酸化ストロンチウム八水和物(関東化学製、鹿特級)366gを投入し、混合して濃度5.6質量%の水酸化ストロンチウム水性分散液を調製した。この水酸化ストロンチウム水性分散液にDL−酒石酸(和光純薬製、試薬特級)を14.2g(水酸化ストロンチウム1gに対して0.039g)加えて撹拌して、DL−酒石酸を水性分散液に溶解させた。次いで、水酸化ストロンチウム水性分散液の液温を10℃に維持しつつ、撹拌を続けながら、該水性分散液に二酸化炭素ガスを0.5L/分の流量(水酸化ストロンチウム1gに対して2.9mL/分の流量)にて、該水性分散液のpHが7になるまで吹き込んで、針状炭酸ストロンチウム粒子を生成させた後、さらに30分間撹拌を続けて、針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液を得た。得られた針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液を95℃の温度にて12時間加熱処理して針状炭酸ストロンチウム粒子を針状に成長させ、その後、室温まで放冷して、針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液を製造した。
【0055】
得られた針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液の一部を分取し、乾燥して針状炭酸ストロンチウム粒子を得た。この針状炭酸ストロンチウム粒子の表面をオスミウムにてコーティングし、その針状炭酸ストロンチウム粒子の電子顕微鏡画像をFE−SEM(電解放射型走査型電子顕微鏡)を用いて撮影し、得られた電子顕微鏡画像から1000個の針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子の長径と短径を測定した。その結果、一次粒子の平均長径は35nmで、平均アスペクト比は2.3であった。
【0056】
(2)針状炭酸ストロンチウム粉末の製造方法
容量が500mLのビーカーに、上記(1)で製造した針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液300mLと、界面活性剤として下記式にて表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸4.5gとを投入し、スターラーを用いて5分間撹拌して混合した。
【0057】
【化4】
【0058】
上記のようにして調製したポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸含有針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液を、クレアミックス(エム・テクニック(株)製)に投入して、チラー設定温度が4℃、撹拌羽根の回転速度が20000rpm(周速:30m/秒)の条件にて15分間撹拌処理した。撹拌処理後の分散液を130℃に加熱した鉄板の表面に吹き付けて、鉄板の表面に付着したスラリーの水分を揮発させ、鉄板の表面に残存している粉末を削ぎ取って、針状炭酸ストロンチウム粉末を製造した。
【0059】
[実施例2]
界面活性剤として下記式にて表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして針状炭酸ストロンチウム粉末を製造した。
【0060】
【化5】
【0061】
[実施例3]
界面活性剤として下記式にて表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして針状炭酸ストロンチウム粉末を製造した。
【0062】
【化6】
【0063】
[比較例1]
クレアミックスの代わりにホモミキサーを使用して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸を含有する針状炭酸ストロンチウム粒子水性分散液を4000rpm(周速:7.85m/秒)の条件にて1時間撹拌処理したこと以外は、実施例3と同様にして針状炭酸ストロンチウム粉末を製造した。
【0064】
[塩化メチレン中での針状炭酸ストロンチウム粉末の分散性の評価]
実施例1〜3及び比較例1にて製造した針状炭酸ストロンチウム粉末の塩化メチレン中での分散性を、下記の方法により測定した分散液の粒度分布と光透過率とから評価した。その結果を、下記の表1に示す。
【0065】
(1)針状炭酸ストロンチウム粉末分散液の粒度分布の測定方法
試料の針状炭酸ストロンチウム粉末1gと塩化メチレン99gとを混合して得た混合物を、超音波バスに入れて超音波にて30秒間分散処理し、分散処理後の混合物を孔径が1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過して濃度1質量%の分散液を調製した。得られた分散液の粒度分布を、動的光散乱式粒度分布測定装置(ナノトラックUPA−150、日機装(株)製)を用いて測定した。表1には、粒度分布から求めたD
50とD
90の粒子径を記載した。
【0066】
(2)針状炭酸ストロンチウム粉末分散液の光透過率の測定方法
試料の針状炭酸ストロンチウム粉末1gと塩化メチレン99gとを混合し、次いで得られた混合物を、超音波バスに入れて超音波にて30秒間分散処理し、分散処理後の混合物を孔径が1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過して濃度1質量%の分散液を調製した。得られた分散液を角型セル(光路長:10mm)に入れ、分光光度計を用いて波長600nmの光の透過率を測定した。同様に濃度3質量%の分散液と濃度5質量%の分散液とを調製して、それぞれの分散液の光の透過率を測定した。なお、分散液の光透過率は塩化メチレンの光透過率を基準とした値である。測定は5回行ない、その平均値を表1に記載した。
なお、メンブレンフィルターを用いてろ過した後の混合物(分散液)に含まれる粒子の量が、ろ過前の混合物に含まれる粒子の量よりも10質量%以上減少していた場合、即ちメンブレンフィルターに10質量%以上の粒子が補足された場合は、炭酸ストロンチウム粒子の分散不良として分散液の光透過率の測定は行なわなかった。
【0067】
【表1】
【0068】
表1の結果から、実施例1〜3にて製造した針状炭酸ストロンチウム粉末は、比較例1にて製造した針状炭酸ストロンチウム粉末と比較して塩化メチレン中で顕著に高い分散性を示すことが分かる。
【0069】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
針状炭酸ストロンチウム粉末0.48gとシクロヘキサン30mLとを混合し、得た混合物を、超音波バスに入れて超音波にて30秒間分散処理し、分散処理後の混合物を孔径が1μmのメンブレンフィルターを用いてろ過して針状炭酸ストロンチウム粉末分散液を調製した。得られた針状炭酸ストロンチウム粉末分散液にポリカーボネート樹脂6gを加え、ミックスロータを用いて2時間撹拌して、分散液にポリカーボネート樹脂を溶解させた。得られた針状炭酸ストロンチウム粒子分散ポリカーボネート溶液を、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散処理し、次いで脱泡機(あわとり錬太郎、(株)シンキー製)を用いて脱泡処理した。脱泡処理した溶液を、ガラス板上に塗布して塗布層を形成し、次いで、ガラス板上の塗布層を自然乾燥させて、塗布層中のシクロヘキサンを除去してポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
【0070】
[ポリカーボネート樹脂中での針状炭酸ストロンチウム粉末の分散性の評価]
実施例1及び比較例1にて製造した針状炭酸ストロンチウム粉末を用いて、上記の方法により針状炭酸ストロンチウム粒子が分散されたポリカーボネート樹脂組成物を製造し、そのポリカーボネート樹脂組成物から作成した試験片(成形体)の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察した。
図1に実施例1にて製造した針状炭酸ストロンチウム粉末が分散されたポリカーボネート樹脂組成物の断面のTEM写真を、
図2に比較例1にて製造した針状炭酸ストロンチウム粉末が分散されたポリカーボネート樹脂組成物の断面のTEM写真を示す。
図1のTEM写真から、本発明に従う針状炭酸ストロンチウム粉末が分散されているポリカーボネ−ト樹脂組成物の成形体は、微細な針状炭酸ストロンチウム粒子が一次粒子もしくはそれに近い微粒子の状態で高分子樹脂中に分散していることが分かる。これに対して、
図2のポリカーボネート樹脂組成物の成形体は、針状炭酸ストロンチウム粒子の一次粒子が不規則な方向に配向して集合した凝集粒子を形成していることが分かる。