特許第6555489号(P6555489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーズテック株式会社の特許一覧 ▶ 飛栄建設株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社石橋建築事務所の特許一覧 ▶ 有限会社近代設備設計事務所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555489
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】ガス交換装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 7/00 20060101AFI20190729BHJP
   B01D 46/52 20060101ALI20190729BHJP
   E04B 1/70 20060101ALI20190729BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20190729BHJP
   F24F 1/0073 20190101ALI20190729BHJP
   F24F 13/28 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   F24F7/00 A
   B01D46/52 Z
   E04B1/70 B
   F24F5/00 K
   F24F1/0073
   F24F13/28
【請求項の数】1
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-81064(P2017-81064)
(22)【出願日】2017年4月17日
(65)【公開番号】特開2018-179429(P2018-179429A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2018年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507139133
【氏名又は名称】シーズテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512311096
【氏名又は名称】飛栄建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512311100
【氏名又は名称】株式会社石橋建築事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】515055421
【氏名又は名称】有限会社近代設備設計事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 晃
(72)【発明者】
【氏名】江藤 月生
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸守
(72)【発明者】
【氏名】松田 順治
【審査官】 石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6292563(JP,B1)
【文献】 特開2007−174259(JP,A)
【文献】 特開2014−109432(JP,A)
【文献】 特開2015−111042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 7/00
B01D 46/52
E04B 1/70
F24F 1/0073
F24F 5/00
F24F 13/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの部屋を有し、上記部屋は内部に閉空間である生活および/または活動空間を有し、上記生活および/または活動空間の壁面に壁掛け式のエアコンディショナーが取り付けられ、上記エアコンディショナーの上部の吸入口に中性能フィルターを用いたプレフィルターが取り付けられ、上記エアコンディショナーの吹き出し口から上記生活および/または活動空間の内部に流出する気体の全部が、上記プレフィルターの吸入口へ還流するように構成されている建築物に設置されて使用されるガス交換装置であって、
少なくとも2つの気体吸入口と少なくとも2つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、
上記少なくとも2つの気体吸入口の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の1つと連通するとともに、上記少なくとも2つの気体吸入口の他の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の他の1つと連通し、
上記2つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を以てお互いに近接しながら隔てられるように構成され、
上記部屋を取り囲む外部空間から導入される空気が上記気体吸入口の1つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記外部空間へと送出される一方、上記生活および/または活動空間の内気が上記気体吸入口の他の1つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記生活および/または活動空間へ還流され、
上記膜が、下記(1)により求められる上記膜の面積Aの下限値Amin と、下記(2)により求められる上記膜の面積A’の下限値A’min とに対し、MAX(Amin ,A’min )以上の面積を有することを特徴とするガス交換装置。
(1)上記膜の面積をA、厚みをL、上記膜中の気体分子の拡散定数をDとした時、上記生活および/または活動空間に対し、法令またはその他の理由により要求される換気風量をFとするとき、A≧FL/Dを満たす上記膜の面積A。
(2)上記生活および/または活動空間の体積をV、上記膜の面積をA’、厚みをL、上記膜中の二酸化炭素の拡散定数をD’とした時、上記膜の面積A’は{(V/A’)/(D’/L)}でスケーリングさせて設定され、
上記生活および/または活動空間内部の二酸化炭素発生レートをB’、外部と平衡状態にあり上記生活および/または活動空間内部で二酸化炭素発生の無い時の二酸化炭素濃度をξO 、上記生活および/または活動空間内部における目標二酸化炭素濃度をξ(ξ<5000ppm)とした時、
を満たす上記膜の面積A’。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は建築物およびプレフィルターに関し、特に、例えば、人が就寝・寛ぎ・作業・労働等の日常の生活および/または活動を行う、家屋・ビルディング等の建築物に含まれる部屋およびその部屋の壁面に取り付けられたエアコンディショナーの吸気口に取り付けて好適なプレフィルターに関し、当該生活/活動空間の、建物全体に対する体積比率を下げることなく、内部の粉塵や菌などのダスト微粒子の数を一定以下に維持したり、外部からこれらの混入の無いクリーンエア(空気)環境を実現することができ、例えば、居住、静養、実験、製造・塗装作業、養護活動、医科/歯科治療等の場として用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
人類は現在、コンピュータ技術の発展に伴い、情報処理・通信環境に関しては、有史以来かつてない高度で便利な環境を実現し、いわば脳にとっては刺激的かつ申し分のない良好な場を実現していると言えようが、反面、体にとっての環境としては、汚染物質の増加や空気中の塵埃、感染性の細菌の浮遊等、現代社会は必ずしも良好な環境とは言い難い。
【0003】
今、居住空間の内部において酸素消費レートBで人が活動する(例えば、運動、就寝、或は簡易ガスコンロを焚いて鍋料理等を堪能する等の) 場合を考える。通常の人々が活動する部屋においては、建築基準法等の法令により、或る一定量の換気が義務付けられている。これは通常、部屋の内部に一定量の外気を導入することで達成されている。但し、障子で仕切られた部屋は、当該部屋への外気のメカニカルな導入はないものの、当該部屋とこれと隣接する部屋の2室で1室とみなすとの運用がなされている。この場合、現代科学に基づいての必要な障子面積などの定量的な評価がなされてきたとは必ずしも言い切れない。
【0004】
他方、クリーン環境としては、大規模な半導体製造用として従来から存在している。しかし、これは、プロユース、つまり工業用であり、一般住宅等に用いられるいわゆる民生用としては導入されていない。かつて計算機の世界で、ビジネス用大型コンピューターメインフレームと一線を画する形で、”Computer for the rest of us ”を掲げてパーソナルコンピューターが勃興したように、21世紀に入り、環境の重要性が益々高まる中、パーソナルコンピューターの“クリーン環境版”というものが現れても良い。事実、高性能化されて久しい大規模クリーンルームというまさに“メインフレーム”の対極にあるパーソナルクリーンスペースというのは、今後、純粋な民生用に限らず、病院や養護老人施設等の感染症のリスク回避が重要な場面で必ず重要になってくる。特に、PM2.5問題、花粉症対策、更には、喘息症状の緩和や細菌性肺炎の防止等の観点からも、生活空間の微生物存在(microbial)環境(マイクロビアル環境)も含めて空気環境を制御することは、このように今後益々重要となってくる。
【0005】
このような背景の下で本発明者は、少なくとも1つの部屋を有し、その部屋は内部に閉空間である居住および/または作業空間を有し、その部屋には、その居住および/または作業空間の内部に気体が送り出されるように吹き出し口が設けられたファン・フィルターユニットが設けられ、上記吹き出し口から上記居住および/または作業空間の内部に流出する気体の全部が、上記ファン・フィルターユニットの吸入口へ還流するように構成され、上記部屋の壁に上記居住および/または作業空間の外部へ気体を排気するための開口が設けられている高清浄部屋システムあるいは建築物において、部屋の内面の少なくとも一部を、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜(ガス交換膜)をその一部に含む壁により構成することで、上記部屋内部の気体分子が、部屋を取り囲む外部空間と部屋内部空間との間で上記膜を介して濃度勾配により交換されるようにした(特許文献1−3)。この場合、居住および/または作業空間の体積をV、壁の有する膜中の酸素の拡散定数をD、膜の厚みをLとした時、部屋は、体積Vと膜の面積Aとを、{(V/A)/(D/L)}でスケーリングさせて設計が行われたものである。そして、居住および/または作業空間内部の酸素消費レートをB、外部と平衡状態にあり上記居住および/または作業空間内部で酸素消費の無い時の酸素体積をVO2、上記居住および/または作業空間内における目標酸素濃度をη(η>0.18)とした時、上記膜の面積Aが、
【数0】
を満たすように設定されている。この高清浄部屋システムあるいは建築物によれば、見た目・外観的には、通常の部屋と全く異ならない、日頃の生活空間そのものを体積比率を下げることなく、そのまま例えばクラス100以上の清浄空間として実現することができるとともに、居住および/または作業空間内における酸素濃度を法令により要求されるレベルにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5329720号
【特許文献2】特許第5839426号
【特許文献3】特許第5839429号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者によるその後の研究により、上記のガス交換膜に必要な面積Aは、部屋の内部の構成等によっては、二酸化炭素のガス交換に関しては必ずしも十分ではない場合があり得ることが判明した。コントロールの対象となるガスの分圧の小数点以下の桁数が当該ガス種により異なるためである。このため、部屋の内部の二酸化炭素その他の濃度を法令またはその他の理由により要求されるレベルに維持することが必要とされるが、これまで、具体的な提案はなされていないのが実情である。
【0008】
一方、エアコンディショナーは天井に設置されるタイプのものもあるが、部屋の壁面に設置する壁掛け式のものも多く使用されている。
【0009】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、壁掛け式のエアコンディショナーの空気循環能力を最大限活用することにより、新たな換気の概念に基づき、現代建築の標準フォーマットともマッチングを取りながら、日頃の生活および/または活動空間そのものを、例えばそのままクラス100以上の清浄空間として実現することができるとともに、酸素濃度に加えて二酸化炭素その他の濃度も法令またはその他の理由により要求されるレベルに維持することができ、例えば、日本国内の病院、公共施設、一般家庭はもとより、大気環境が必ずしも良好であるとは言い難い海外の学校等に用いて好適な建築物およびそのような建築物の部屋の壁掛け式のエアコンディショナーの吸入口に取り付けて好適なプレフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明は、
少なくとも1つの部屋を有し、
上記部屋は内部に閉空間である生活および/または活動空間を有し、
上記生活および/または活動空間には、壁面に壁掛け式のエアコンディショナーが取り付けられ、上記エアコンディショナーの上部の吸気口に中性能フィルターからなるプレフィルターが取り付けられ、上記エアコンディショナーの送風口から上記生活および/または活動空間の内部に流出する気体の全部が、上記プレフィルターの上記吸気口へ還流するように構成されており、
少なくとも1つのガス交換装置を有し、
上記ガス交換装置は、
少なくとも2つの気体吸入口と少なくとも2つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、
上記少なくとも2つの気体吸入口の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の1つと連通するとともに、上記少なくとも2つの気体吸入口の他の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の他の1つと連通し、
上記2つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を以てお互いに近接しながら隔てられるように構成され、
上記部屋を取り囲む外部空間から導入される空気が上記気体吸入口の1つから上記ガス交換装置の上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記外部空間へと送出される一方、上記生活および/または活動空間の内気が上記気体吸入口の他の1つから上記ガス交換装置の上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記生活および/または活動空間へ還流され、
上記膜は、上記生活および/または活動空間の体積をV、上記膜の面積をA’、厚みをL、上記膜中の二酸化酸素の拡散定数をD’とした時、{(V/A’)/(D’/L)}でスケーリングさせて設定された面積A’を有し、
上記生活および/または活動空間内部の二酸化炭素発生レートをB’、外部と平衡状態にあり上記生活および/または活動空間内部で二酸化炭素発生の無い時の二酸化炭素濃度をξO 、上記生活および/または活動空間内部における目標二酸化炭素濃度をξ(ξ<5000ppm)とした時、上記膜の面積A’が、
を満たすように設定されている建築物である。
【0011】
また、この発明は、
少なくとも1つの部屋を有し、
上記部屋は内部に閉空間である生活および/または活動空間を有し、
上記生活および/または活動空間には、壁面に壁掛け式のエアコンディショナーが取り付けられ、上記エアコンディショナーの上部の吸気口に中性能フィルターからなるプレフィルターが取り付けられ、上記エアコンディショナーの送風口から上記生活および/または活動空間の内部に流出する気体の全部が、上記プレフィルターの上記吸気口へ還流するように構成されており、
少なくとも1つのガス交換装置を有し、
上記ガス交換装置は、
少なくとも2つの気体吸入口と少なくとも2つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、
上記少なくとも2つの気体吸入口の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の1つと連通するとともに、上記少なくとも2つの気体吸入口の他の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の他の1つと連通し、
上記2つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を以てお互いに近接しながら隔てられるように構成され、
上記部屋を取り囲む外部空間から導入される空気が上記気体吸入口の1つから上記ガス交換装置の上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記外部空間へと送出される一方、上記生活および/または活動空間の内気が上記気体吸入口の他の1つから上記ガス交換装置の上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記生活および/または活動空間へ還流され、
上記膜が、下記(1)により求められる上記膜の面積Aの下限値Amin と、下記(2)により求められる上記膜の面積A’の下限値A’min とに対し、MAX(Amin ,A’min )以上の面積を有する建築物である。
(1)上記膜の面積をA、厚みをL、上記膜中の気体分子の拡散定数をDとした時、上記生活および/または活動空間に対し、法令またはその他の理由により要求される換気風量をFとするとき、A≧FL/Dを満たす上記膜の面積A。
(2)上記生活および/または活動空間の体積をV、上記膜の面積をA’、厚みをL、上記膜中の二酸化炭素の拡散定数をD’とした時、上記膜の面積A’は{(V/A’)/(D’/L)}でスケーリングさせて設定され、
上記生活および/または活動空間内部の二酸化炭素発生レートをB’、外部と平衡状態にあり上記生活および/または活動空間内部で二酸化炭素発生の無い時の二酸化炭素濃度をξO 、上記生活および/または活動空間内部における目標二酸化炭素濃度をξ(ξ<5000ppm)とした時、
を満たす上記膜の面積A’。
【0012】
ここで、膜の面積Aの下限値Amin はA≧FL/Dの右辺、膜の面積A’の下限値A’min は式(18)を満たす最小値である。また、MAX(Amin ,A’min )は、Amin とA’min との大きい方を意味する。
【0013】
この建築物の発明においては、好適には、ガス交換装置は、上記生活および/または活動空間の内気が上記気体吸入口の他の1つから上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記生活および/または活動空間へ還流される風量fが上記Fに対し、
f≧F
を満たすように設定される。
【0014】
また、この発明は、
少なくとも1つの部屋を有し、
上記部屋は内部に閉空間である生活および/または活動空間を有し、
上記生活および/または活動空間には、壁面に壁掛け式のエアコンディショナーが取り付けられており、
少なくとも1つのガス交換装置を有し、
上記ガス交換装置は、
少なくとも2つの気体吸入口と少なくとも2つの気体吐出口とを有する、閉空間を構成する箱状構造体を有し、
上記少なくとも2つの気体吸入口の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の1つと連通するとともに、上記少なくとも2つの気体吸入口の他の1つが、上記少なくとも2つの気体吐出口の他の1つと連通し、
上記2つの連通路は、おのおの独立流路を形成しつつも、ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜を以てお互いに近接しながら隔てられるように構成され、
上記部屋を取り囲む外部空間から導入される空気が上記気体吸入口の1つから上記ガス交換装置の上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記外部空間へと送出される一方、上記生活および/または活動空間の内気が上記気体吸入口の他の1つから上記ガス交換装置の上記箱状構造体に導入され、この気体吸入口と連通する上記気体吐出口から上記生活および/または活動空間へ還流され、
上記膜は、上記生活および/または活動空間の体積をV、上記膜の面積をA’、厚みをL、上記膜中の二酸化酸素の拡散定数をD’とした時、{(V/A’)/(D’/L)}でスケーリングさせて設定された面積A’を有し、
上記生活および/または活動空間内部の二酸化炭素発生レートをB’、外部と平衡状態にあり上記生活および/または活動空間内部で二酸化炭素発生の無い時の二酸化炭素濃度をξO 、上記生活および/または活動空間内部における目標二酸化炭素濃度をξ(ξ<5000ppm)とした時、上記膜の面積A’が、
を満たすように設定されている建築物
の上記エアコンディショナーの上部の吸気口に取り付けられるプレフィルターであって、
上記プレフィルターは中性能フィルターからなり、
上記プレフィルターが上記エアコンディショナーの上記吸気口に取り付けられた時、上記エアコンディショナーの送風口から上記生活および/または活動空間の内部に流出する気体の全部が、上記プレフィルターの上記吸気口へ還流するように構成されることを特徴とするものである。
【0015】
ここで、上記の各発明におけるガス交換装置は、好適には、部屋を構成する壁と生活および/または活動空間との間の空間、具体的には、例えば、屋根裏や部屋の側壁に設けられた二重壁の内部に設置されるが、設置場所はこれに限定されるものではなく、必要に応じて選ばれる。
【0016】
部屋とは、閉空間を構成する包囲体によって構成されるものであり、具体的には、例えば、建築物の一室等が挙げられる。建築物としては、例えば、戸建住宅、アパート、マンション、ビルディング、病院、映画館、養護施設、学校、保育園、幼稚園、体育館、工場、塗装ルーム、漆塗り部屋等、人間活動を支えるあらゆる室が挙げられる。また、部屋は、例えば、内部空間を有する移動体内部の部屋などにも適用でき、かかる移動体としては、例えば、自動車、なかんずく救急車、飛行機、旅客列車、旅客バス、ヨット船室、客船等が挙げられる。
【0017】
上記の建築物においては、生活および/または活動空間の内部と外部との間において、空気の気流としての出入りが無いが、生活および/または活動空間と外界との界面の少なくとも一部が上記膜によって隔てられていることにより、生活および/または活動空間に直接の気体の出入りがあるのと等価な、内部気体のリフレッシュ能力を有する。ここで、空気の気流としての出入りが無いというのは、例えば、この建築物の稼動中に、当該生活および/または活動空間に関する気流がイン、アウトともに厳密にゼロであることを意味するが、このことに限定されるものではなく、例えば、生活および/または活動空間の100%循環フィードバックされる空気流量よりはるかに少ない流量の清浄空気流を出し入れすることも含む。また、生活および/または活動空間の内部と外部との間において正味の空気の流れが無いというのは、例えば、部屋の内の外が等圧であることを含む。
【0018】
生活および/または活動空間とは、例えば、内部で人が就寝・寛ぎ・作業・労働等の日常生活/活動を行う空間であり、居住、静養、実験、製造・塗装作業、養護活動、医科/歯科治療等の場として用いて好適なものである。
【0019】
ダスト微粒子を通さず、気体分子は通す膜(ガス交換膜)は、この膜によって隔てられる空間の間においてダスト微粒子を通さず気体分子を通すことができる膜であれば、基本的には限定されないが、例えば、ダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜の隔てる空間の圧力差が0であっても、膜の両側の空気を構成する気体成分の分圧に差があるときには、この膜を介して気体分子が交換され得るものであることが好ましい。ここで、「ダスト微粒子は通さず」とは、ダスト微粒子を完全に(100%)通さない場合のほか、ダスト微粒子を厳密に100%は通さない場合も含む(以下同様)。具体的には、一般に使用される古来よりの障子紙の他、中性能フィルター、HEPAフィルター、ULPAフィルター等が挙げられる。より詳細には、ダスト微粒子の阻止率(透過率)は100%(0%)ならずとも、粒径10μm以上の粒子に対しては、少なくとも90%以上(10%以下)、望ましくは99%(1%)以下である。ダスト微粒子を通さず気体分子は通す膜の素材は、必要に応じて選ばれるが、例えば、防塵フィルター素材、障子紙、不織布、ポリエステルまたはアクリル系等の合成繊維や、パルプ、レーヨン等のセルロース系繊維が用いられる。
【0020】
プレフィルターに用いられる中性能フィルターは、特に限定されないが、例えば、粒径10μm以上の粒子に対する捕集効率γが60%以上98%以下である。このような中性能フィルターは、表面積をできるだけ大きくするために、好適には、障子紙等の平面状のフィルター材が繰り返し折り曲げられた、すなわち山折り谷折りされた形状を有するが、これに限定されるものではない。
【0021】
この発明におけるA≧FL/Dなる不等式および式(18)の導出方法を説明する。
【0022】
今、ある体積Vをもつ生活および/または活動空間(人間が生活・活動する空間)を考える。建築基準法等に則って風量Fにて換気がなされているとする。この気流により、この空間内の空気は十分早くかき回され、双方の内部で空気を構成するガス分子は十分早く均一化すると考えてよく、この時、この部屋内部では空間座標依存性を無視することができる。この部屋で、酸素消費量B(m3 /s)の活動がなされているとする。時刻tにおける部屋内部の酸素濃度をη(t)とし、外界の酸素濃度(=部屋内部で酸素消費の無い時の酸素濃度)をηo とすると、時刻t+δtにおける酸素の体積Vη(t+δt)は、時刻tにおける酸素体積Vη(t)を使って
【数1】
と記すことができる。この式(1)の第2項は、時間区間(t、t+δt)の間の酸素消費に伴う酸素体積の減少、第3項はその間に風量Fの換気を通じて外界のフレッシュエア(酸素濃度η0 を有する)が入ってくることによる酸素体積の増加、第4項は(上述の風量Fの外気給気に伴い)同量の内気(その酸素濃度はη(t)であることに注意)がその間に排出されることによる酸素体積の減少を示す。右辺第一項を左辺に移項して両辺をδtで除することにより、微分方程式:
【数2】
が得られる。初期条件として、時刻t=0で室内の酸素濃度は外界のそれと等しいことから、η(0)=η0 が成り立つので、微分方程式(2)の解は、
【数3】
と求まる。十分時間がたつと系は定常状態に達し、式(3)の指数関数部がゼロになることから、或はまた、式(2)の左辺がゼロとなることから解るように、内部の酸素濃度は一定値
【数4】
に収束する。
【0023】
他方、体積Vをもつ生活および/または活動空間を、外界との気流のやりとりのない孤立系として成立させると、この生活および/または活動空間を閉空間として定義する“外界との境界面”を横切る空気流がゼロとなる。即ち、上述の部屋に流れ込む風量(=部屋から流れ出る風量)Fはゼロである。その代わり、当該境界面の一部にガス交換能力を有する膜を用いて隔壁を形成する。この膜の面積をA,厚みをL,この膜を通過する気体分子の拡散定数をDとする。この孤立閉空間をなす部屋において、上記と同じく単位時間あたりB(m3 /s)にて酸素を消費せしめるとすると、アボガドロ数をN0 、系の置かれた圧力(〜1気圧)における1モルあたりの気体体積をC、上記隔壁(ガス交換膜)の面積をA、隔壁を通して包囲体の内部に入ってくる酸素のフラックスをjとすると、時刻t+δtにおける酸素の体積Vη(t+δt)は、時刻tにおける酸素体積Vη(t)を使って
【数5】
が成り立つ。ここでも(後段にて述べるように100%循環フィードバック系を部屋内に構築すると、エアコンディショナーにより発生する空気流により、生活および/または活動空間での空気は十分早くかき回されるため、空気を構成するガス分子は生活および/または活動空間内部で十分早く均一化するので)生活および/または活動空間内部では空間座標依存性を良い近似で無視することができることを用いた。
【0024】
式(5)の右辺第3項は、上記ガス交換膜の両側(即ち生活および/または活動空間内部と外界との間)での酸素濃度差(濃度勾配)のために流入してくる酸素分子の数である(空気流としてではなく、分子の拡散として酸素が生活および/または活動空間内部に入ってくるのであり、上述の式(1)〜(4)で記述される現象とは全く性質を異にする)。式(5)において、jは
【数6】
で与えられる。ただし、φは生活および/または活動空間の内部の単位体積当たりの酸素分子数、Dはガス交換膜中の酸素の拡散定数で、ガス交換膜に垂直な方向をx軸としたとき、∇はこのx軸方向の微分演算子である。生活および/または活動空間の体積をV、ガス交換膜の厚みをLとすると、Lは、生活および/または活動空間の寸法に比べ3桁以上程度小さく、極めて薄いと見なせるので、数式(5)は、
【数7】
と良い精度で近似することが出来る。η0 は、式(1)、式(2)におけるのと同様に、外界の酸素濃度であり、通常20.9%程度である。式(7)より、微分方程式
【数8】
が導かれる。数式(8)の厳密解は、
【数9】
と求まる。ここでは十分時間がたった後の定常状態に対応する解に興味があるので、式(8)の左辺=0とおくと、時刻tにおける酸素濃度は
【数10】
と求まる(式(9)でt→∞とした場合に一致する)。
【0025】
ここで、建築基準法等に従って風量Fで換気して、室内の酸素濃度を担保する方法と、障子紙などのガス交換膜としての機能をもつ膜を生活および/または活動空間の一部に用いることで外界から(酸素が濃度勾配を緩和する方向にガス交換膜内を拡散することを利用して)酸素を室内(包囲体内)に供給する場合の2つを比較することができる。即ち、式(2)と式(8)[ 或は、式(4)と式(10)] を比べると、
【数11】
と同定することで、建築基準法等に従って風量Fで換気して、室内の酸素濃度を担保する方法と、障子紙などの面積A、厚みL、分子拡散定数Dを持つガス交換膜を室内と外界の境界の一部に用いることが、等価であることが示された。これは空気中の窒素は生命体の維持活動には基本的にバイスタンダーであることによる。従来のノンゼロ風量換気が”全血献血”に相当するところ、本発明の手法は、”成分献血”に相当すると考えると理解しやすい。日本古来の障子の有効性が、今、厳密に定量性を以って理解される。次元解析を行うと風量Fは[m3 /s]の次元をもち、AD/Lは、次元[(m2 ・m3 /s)/m]=[m3 /s]であり、まさに風量の次元をもつことから、等価性が裏付けられる。即ち、建築基準法等に従って風量Fで換気して、室内の酸素濃度を担保する方法は、式(11)を満たすA,D,Lを有するガス交換膜をして気密性を持つ生活および/または活動空間と外界との境界に用いることで、同等の酸素交換能を担保することができる。この境界・界面は、一枚のガス交換膜(必要に応じてこれをGas Exchange Membrane:GEMと呼ぶ)であってもよいし、多数枚を集積して、各膜面の両側を内気と外気が層状に流れるようにした一体物、即ちガス交換装置(必要に応じてこれをGas Exchange Box :G×Bと呼ぶ)でもよい。これらにより、メカニカルな駆動力に基づく換気ではなく、濃度勾配が存在するところに生じる拡散を通じて、気密性の高い生活および/または活動空間内部への必要なガス成分(例えば酸素)の外界からの供給、あるいは、或る閉空間内部からの不必要ガス成分(例えば二酸化炭素)の外界への排出を行うことを可能とする(当該閉空間の一部として構成する定量的面積を有するところの)ガス交換膜を与えることができる。エネルギー等分配則が成り立つため、当該ガス交換膜中の各気体分子の拡散定数は、当該分子の質量のスクエアルート(の逆数)に従うのみであるので、例えば、二酸化炭素と酸素では桁数に違いはなく、前係数にいくらかの差がある程度である(共に、〜10-52 /sのオーダーである)。
【0026】
続いて、生活および/または活動空間の内部で燃焼が生じる場合の酸素消費と二酸化炭素発生を考える。単純に炭素が燃える場合は、
【化1】
糖系の燃焼では最終的に
【化2】
となり、酸素消費と二酸化炭素発生はほぼ1:1であるということができる。この炭素系化合物の燃焼にともなう二酸化炭素の濃度ξ(t)の変化は、燃焼に伴い濃度が上昇する方向であり、内部の濃度が高まると外界に放出されるので、二酸化炭素発生レートをB’(m3 /s)、外界の二酸化炭素濃度をξo 、ガス交換膜面積をA’、上記ガス交換膜における二酸化炭素の拡散定数をD’として
【数12】
が成立する。これより
【数13】
が得られる。この方程式の解は、時刻t=0で、内部と外界で二酸化炭素濃度が平衡状態にある場合は、ξ(0)=ξo より
【数14】
となる。十分時間がたった時は、二酸化炭素濃度は、
【数15】
に収束するが、時刻t=0で、内部の二酸化炭素濃度が式(15)より大きな或る値Coである場合は、式(13)の解は
【数16】
となる。
【0027】
生活および/または活動空間内の二酸化炭素濃度が当初外界と平衡状態の状況から出発し、生活および/または活動空間内部で人が活動する場合を考えよう。生活および/または活動空間内の二酸化炭素濃度は、法規制よりある一定値ξmax を超え無いよう求められている。これを勘案して、ターゲットとする二酸化炭素濃度ξ(ξ<ξmax )を、式(15)より
【数17】
である必要があり、これを満たすべくガス交換膜の面積A’は
【数18】
であれば、生活および/または活動空間内部の二酸化炭素濃度は、法規制値を超えることがなく、内部で活動する人間の安全が保たれる。
【0028】
今、生活および/または活動空間内部にて人間がある一定の活動をする際に、これを超えないようにと目標とする二酸化炭素濃度をξ(ξ<ξmax を満たす)とすると、式(18)より、二酸化炭素発生量が小さいほど、ガス交換膜が薄いほど、また、二酸化炭素分子の拡散定数が大きいガス交換膜であるほど、その必要面積Aは小さくてよいとの指針が得られる。これを変形して
【数19】
が得られる。左辺の分子は、生活および/または活動空間の形(生活および/または活動空間のアスペクト比)のみで決まり、分母はガス交換膜の性質のみで決まる。そして、互いより峻別された分子と分母、両者の比であるところの左辺が応答の時定数を決める。式(19)より、この応答時間は、二酸化炭素の発生レートが大きい時ほど、小さくある(即ち、早く応答する)必要があることがわかる。式(19)の左辺の量について同じ値を与える(V,A‘,D’, L)の組は、各々の値が異なっていても、生活および/または活動空間としては同じ応答時間を有する。このスケーリング則により、任意の生活および/または活動空間に対し、高清浄システムを設計できる。
【0029】
遵守すべき二酸化炭素濃度を与えるいくつかのスタンダードがある。例えば、建築物環境衛生管理基準では1000ppm以下、学校環境衛生基準では1500ppm以下であることが望ましいとされるが、例えば学校の実際の教室では、状況によって、2500ppm〜3000ppmになることも報告されている(生命にはかかわらないが、ぼーっとしたり、集中力が弱まることが指摘されている)。衛生的な限界値は、5000ppmとされている。酸素の場合、20.9%の標準濃度に対し、望ましくは20%台であることが求められるが、健康上・活動上の問題を引き起こさない値としては、18.5%という値が与えられている。従って、上記の基準濃度を満たすようにガス交換膜面積を定めるには、二酸化炭素に対して順守するには、酸素に対しての時に比べ約一桁大きい面積を必要とすることが、式(18)の不等式における濃度変数の組み込まれ方からわかる。このため、ガス交換能力を高めるには、後述の図3図6に示すようなガス交換膜の多数枚スタック構造をコアとして、これに室内気体(内気)と外気を、ガス交換膜を介して、気流としては直接混じらぬよう、しかし、濃度勾配による拡散によってガス成分自体は交換できるよう設定することが、特に、二酸化炭素の室内から室外への排出において、効果的であることがわかる。空気中の酸素と二酸化炭素の拡散定数は、各々、約1.7×10-52 /s、約1.6×10-52 /sである。拡散のみにて、数mオーダーの大きさの生活および/または活動空間の濃度を一定にするには、数十時間程度要してしまうので現実的でない。効率的にガス交換を行い、この後、すみやかに生活および/または活動空間内のガス濃度を平準化するには、ガス交換装置にファンを2基設置して、外気の流れと、ガス交換後室内に還流する内気の流れを有意に生じさせることが好ましい。風量は生活および/または活動空間の大きさに応じて、一般的には0.1〜数百m3 /分に設定される。内気が通る領域のガス交換膜の面間隔(幅)および外気が通る領域のガス交換膜の面間隔(幅)は必要に応じて選ばれる。例えば、内気が通る領域のガス交換膜の面間隔を、ガス交換に要する時間が短くなるように小さく調整し、外気が通る領域のガス交換膜の面間隔はそれより大きく設定することができる。このようなガス交換膜の面間隔の非対称な設定では、ガス交換後の成分濃度を、体積比を通じて、局所的に外気の濃度に近づける効果が期待される。上記のファン風量が十分大きい場合は、対称的に面間隔を設定することも、内気・外気対称的にファンを設定できるということで、系の全体としての対称性、安定性の面で有力である。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、生活および/または活動空間内部と外界との間の気体の交換をすることがなくても(内外の気流の交換の風量F=0でも)、気体分子の拡散を通じて、実効的に風量Fで換気するのと同等の効果を得ることができる。即ち、法令の定める気体濃度またはその他の理由により決められる気体濃度を最低限守るためのガス交換膜の面積を定量的に与えることができる。これに、エアコンディショナーの空気循環能力を用いた100%循環フィードバックシステムを併用することで、清浄度の高い室内を、気体環境を、部屋内部で活動する人々(作業者、勉学に励む生徒たち等)の安心・安全を担保しつつ、実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1の実施の形態による建築物を示す断面図である。
図2】第1の実施の形態による建築物の部屋の生活等空間の壁面に取り付けられたエアコンディショナーおよびその吸気口に取り付けられたプレフィルターを示す斜視図である。
図3】第1の実施の形態による建築物に使用されるガス交換装置が有する箱状構造体の一例を示す上面図である。
図4】第1の実施の形態による建築物に使用されるガス交換装置が有する箱状構造体の一例を示す正面図である。
図5】第1の実施の形態による建築物に使用されるガス交換装置が有する箱状構造体の一例を示す側面図である。
図6図3の6−6線に沿っての断面図である。
図7】第1の実施の形態による建築物に使用されるガス交換装置の一例を示す正面図および側面図である。
図8】第2の実施の形態による建築物を示す断面図である。
図9】第2の実施の形態による建築物の部屋の生活等空間の内部から互いに交差する2つの壁面を見た斜視図である。
図10】第2の実施の形態による建築物の部屋の生活等空間の1つの壁面の裏側のスペースにガス交換装置300が収納されている様子を示す斜視図である。
図11】第2の実施の形態による建築物の部屋の生活等空間の内部から互いに交差する2つの壁面を見た斜視図である。
図12】第2の実施の形態による建築物に使用されるガス交換装置の一例を示す正面図、左側面図および右側面図である。
図13】実施例1において作製したガス交換装置を示す図面代用写真である。
図14】実施例2において作製したガス交換装置を示す図面代用写真である。
図15】実施例2による建築物の部屋の生活等空間を示す図面代用写真である。
図16図15に示す生活等空間の1つの障子の裏側の空間に図14に示すガス交換装置が設置されている様子を示す図面代用写真である。
図17】実施例2において室内でガスコンロを燃焼させた時の酸素濃度および二酸化炭素濃度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図18】実施例3において作製したプレフィルターを示す図面代用写真である。
図19】実施例3において作製したプレフィルターを従来の通常の部屋の壁面に取り付けられたエアコンディショナーの吸気口に取り付けた状態を示す図面代用写真である。
図20】従来の通常の部屋の壁面に取り付けられたエアコンディショナーおよびその吸気口に取り付けられたプレフィルターを用いて部屋を清浄化した時のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図21】プレフィルターに用いられる中性能フィルターの寿命の実証結果を示す略線図である。
図22】実施例3においてエアコンディショナーを低風量に設定して運転した時のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図23】実施例3においてエアコンディショナーを低風量に設定して稼働させた時の粒径別のダスト微粒子粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図24】実施例3においてエアコンディショナーを中風量に設定して運転した時のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図25】実施例3においてエアコンディショナーを中風量に設定して稼働させた時の粒径別のダスト微粒子粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図26】実施例3においてエアコンディショナーを高風量に設定して運転した時のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図27】実施例3においてエアコンディショナーを高風量に設定して稼働させた時の粒径別のダスト微粒子粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図28】実施例4において図18に示すプレフィルターを従来の通常の部屋の壁面に取り付けられたエアコンディショナーの吸気口に取り付けた状態を示す図面代用写真である。
図29】実施例4においてエアコンディショナーを運転した時のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図30】実施例5において市販の中性能フィルターをプレフィルターとして従来の通常の部屋の壁面に取り付けられたエアコンディショナーの吸気口に取り付けた状態を示す図面代用写真である。
図31】実施例5において用いた市販の中性能フィルターを示す図面代用写真である。
図32】実施例5においてエアコンディショナーを運転した時のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
図33】実施例6において市販の中性能フィルターをプレフィルターとして従来の通常の部屋の壁面に取り付けられたエアコンディショナーの吸気口に取り付けた状態を示す図面代用写真である。
図34】実施例6において用いた市販の中性能フィルターを示す図面代用写真である。
図35】実施例6においてエアコンディショナーを運転した時のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。
【0033】
〈1.第1の実施の形態〉
図1は第1の実施の形態による建築物を示す。建築物は一般的には複数の部屋を有するが、図1には1つの部屋のみ示されている。図1に示すように、この建築物は、給気口10および排気口20の部分を除いて、気密性の高い部屋100を有する。部屋100は閉空間を形成している。部屋100の形状は必要に応じて決められるが、例えば、長方形の平面形状を有する直方体形状、長方形の平面形状の一角の長方形の領域を切除した凹六角形(あるいはL字型)の平面形状を有するもの、U字型の平面形状を有するもの、これらの内壁の一部または全部を曲面にしたもの等である。この閉空間を構成する部分空間として生活および/または活動空間(以下、「生活等空間」という)101と天井裏102とを有する。天井裏102は、2重天井によって形成される内部空間である。この2重天井は、部屋100の頂面103と、この頂面103の下方にこの頂面103から一定距離を置いて互いに対向するようにして設けられた天井壁104とによって構成されている。言い換えると、生活等空間101と天井裏102とは、天井壁104によって隔てられている。生活等空間101は、1人または複数人がその中で居住したり、作業、集会等をしたりする空間であり、そのために必要な広さを有する。部屋には窓や人の出入りのためのドアが取り付けられているがそれらの図示および説明は省略している。
【0034】
生活等空間101の側壁106の壁面に壁掛け式のエアコンディショナー200が取り付けられている。このエアコンディショナー200の上部の吸気口に、中性能フィルターからなる直方体形状のプレフィルター250が取り付けられている。図2に、壁面に取り付けられたエアコンディショナー200およびその上のプレフィルター250の斜視図を示す。プレフィルター250は、底面および上面が開口した箱250aの内部に、障子紙等のフィルター材250bを繰り返し折り曲げることにより山折り谷折りされたものが収納されたものである。図2には、一例として、箱250aの内部が仕切り板250cにより4つの空間に分けられ、それぞれの空間に山折り谷折りされた障子紙等のフィルター材250bが同じ向きで収納されている場合が示されているが、これに限定されるものではなく、フィルター材250bの形態や設置の仕方は必要に応じて選ばれる。プレフィルター250の上面には、好適には、大きなダストがフィルター材250bに落ちないようにするために、通風コンダクタンスをあまり減少させない程度の大きさ、個数および配置で開口が形成されたメッシュ状のカバーが取り付けられる。そして、生活等空間101内の空気がプレフィルター250の上面からプレフィルター250の内部に吸い込まれ、フィルター材250bにより濾過されて清浄化された空気が吸気口からエアコンディショナー200の内部に入り、下部の送風口から生活等空間101内に吹き出されるようになっている。この際、生活等空間101の内部では、エアコンディショナー200の送風口から送出される空気は、その全部がプレフィルター250の上面に還流される。即ち、100%循環フィードバックシステムが構成されている。
【0035】
一方、天井壁104の上にガス交換装置300が設置されている。天井壁104には、ガス交換装置300の内気回収口301および還流口302に対応する部分にそれぞれ開口104c、104dが設けられている。また、ガス交換装置300の外気導入口303は、必要に応じてダクトを介して、部屋100の側壁105に設けられた給気口10に接続され、排出口304は、必要に応じてダクトを介して、側壁106に設けられた排気口20に接続されている。また、ガス交換装置300の内気回収口301は、必要に応じてダクトを介して、天井壁104に設けられた開口104cに接続され、還流口302は、必要に応じてダクトを介して、天井壁104に設けられた開口104dに接続されている。ガス交換装置300の内部のガス交換部には少なくとも一枚のガス交換膜310が設けられている。そして、生活等空間101の内気が天井壁104に設けられた開口104cおよびガス交換装置300の内気回収口301を介してガス交換部のガス交換膜310で隔てられた一方の空間に導入されるとともに、側壁105に設けられた給気口10およびガス交換装置300の外気導入口303を介してガス交換部のガス交換膜310で隔てられた上記の他方の空間に導入され、外気中の酸素がこのガス交換膜310を透過して上記の一方の空間に導入されるとともに、上記の一方の空間に導入された内気中の二酸化炭素がこのガス交換膜310を酸素と逆方向に透過して上記の他方の空間に導入される。こうして外気から酸素が供給された内気はガス交換装置300の還流口302から生活等空間101に還流される。また、内気から二酸化炭素が供給された外気はガス交換装置300の排出口304および側壁106に設けられた排気口20から外部に排出される。
【0036】
ガス交換装置300は、具体的には例えば次のように構成される。図3図6はガス交換装置300の内部のガス交換部350の構成の一例を示す。ここで、図3図6はそれぞれガス交換部350の上面図、正面図、側面図および図3の6−6線断面図である。また、図7AおよびBはそれぞれガス交換装置300の正面図および側面図である。
【0037】
図3図6に示すように、ガス交換部350は次のように構成されている。即ち、正方形状の平板351の一方の面に互いに対向する二辺に沿って設けられた長方形断面の高さh1 の二本のスペーサS1 上にガス交換膜310が張られ、その上に、スペーサS1 と直交する互いに対向する二辺に対応する部分に設けられた長方形断面の高さh2 のスペーサS2 上にガス交換膜310が張られたものが積層され、その上に、高さh1 のスペーサS1 上にガス交換膜310が張られたものが積層され、同様にして、スペーサS2 上にガス交換膜310が張られたものとスペーサS1 上にガス交換膜310が張られたものとが交互に繰り返し積層され、最後のスペーサS1 上にガス交換膜310が張られたものの上に、平板351と同じ形状の平板352の一方の面に互いに対向する二辺に沿って設けられた長方形断面の高さh2 の二本のスペーサS2 がスペーサS2 を下にして設けられている。この例では、合計19枚のガス交換膜310が設けられている。このガス交換部350に含まれるガス交換膜310の総面積は式(18)を満たすように、あるいはA≧FL/Dを満たすように、あるいはMAX(Amin ,A’min )以上に決められる。ガス交換膜310は通常極めて薄いので、その厚さを無視すると、スペーサS2 で隔てられた二枚のガス交換膜310の間の間隔はほぼh2 、スペーサS1 で隔てられた二枚のガス交換膜310の間の間隔はほぼh1 である。スペーサS2 で隔てられた二枚のガス交換膜310の間の空間は内気が通される空間であり、スペーサS1 で隔てられた二枚のガス交換膜310の間の空間は外気が通される空間である。この外気と内気の流れる向きはほぼ直交する。h1 、h2 は必要に応じて選ばれるが、ガス交換膜310を介して内気の二酸化炭素と外気の酸素との交換を効率的に行うためには、内気の導入量に対し外気の導入量を相対的に大きくするのが望ましいために一般的にはh1 ≧h2 とされ、好適にはh1 >h2 とされる。図3図6に示すガス交換部350ではh1 >h2 の場合が示されている。具体的には、例えばh1 ≒(2〜7)×h2 に選ばれる。一例を挙げると、h1 =25mm、h2 =5mmである。また、h1 とh2 とが等しくない場合は、図4のガス交換部350の形状を、h1 とh2 との比に従って、外気と内気の通風コンダクタンスをそろえる方向にアスペクト比を設定した長方形とすることが好ましい。
【0038】
図7AおよびBに示すように、ガス交換装置300は、本体が正十二面体状の包囲体360を有する。包囲体360の両面は正十二面体の底面および上底面から一方向に広がっており、包囲体360の1つの稜線361を通る一辺が他の辺に比べて十分に長い九角形状になっている。この包囲体360の両面の稜線361を通る長い辺には、この両面に対して垂直に突出し、かつ包囲体360の長い辺に沿って延びる細長い支持部362、363が設けられている。ガス交換装置300を固定する際には、これらの支持部362、363の複数箇所に設けられた孔(図示せず)にボルトを通して設置部に固定するようになっている。この包囲体360の内部に箱状のガス交換部350が収納されている。ガス交換部350の両側面の平板351、352は包囲体360の両面とほぼ接触しているとともに、ガス交換部350の角の稜線351〜354はそれぞれ包囲体360の稜線361、364〜366と一致するようになっているため、ガス交換部350は包囲体360の中で殆ど動かないように収納されている。ガス交換装置300を固定する状態ではガス交換膜310は鉛直方向になることから、互いに対向する2枚のガス交換膜310の間の空間に塵埃などが入ってきても自然に落下するため、ガス交換膜310表面上に塵埃が滞留して目詰まりが生じることによるガス交換能の劣化を防止することができる。
【0039】
包囲体360の4つの側面367〜370にはそれぞれ円筒状の外気導入口303、還流口302、排出口304および内気回収口301が設けられている。この場合、外気導入口303から導入される外気は、スペーサS1 で隔てられた二枚のガス交換膜310の間の空間を通った後、排出口304から排出される。また、内気回収口301から導入される内気は、スペーサS2 で隔てられた二枚のガス交換膜310の間の空間を通った後、還流口302から排出される。
【0040】
この第1の実施の形態によれば、ガス交換部350に含まれるガス交換膜310の総面積A’が式(18)を満たすように決められているため、酸素濃度に加えて二酸化炭素濃度も法令またはその他の理由により要求されるレベルに維持することができる。また、壁面に壁掛け式のエアコンディショナー200が取り付けられた一般的な部屋100でありながら、エアコンディショナー200の吸気口に中性能フィルターであるプレフィルター250を取り付けるだけで、100%循環フィードバックシステムにより、生活等空間101を例えばクラス100以上の清浄度の清浄空間とすることができる。さらに、プレフィルター250は中性能フィルターであるため、長期間使用しても目詰まりが生じにくく寿命が極めて長いことから、交換頻度を著しく減少させることができる。この建築物は、例えば、日本国内の病院、公共施設、一般家庭はもとより、大気環境が必ずしも良好であるとは言い難い海外の学校等に用いて好適なものである。
【0041】
〈2.第2の実施の形態〉
図8は第2の実施の形態による建築物を示す。第1の実施の形態と同様に、図8には1つの部屋のみ示されている。図8に示すように、この建築物は、給気口10および排気口20の部分を除いて、気密性の高い部屋100を有する。第1の実施の形態と同様に、生活等空間101の側壁105に壁掛け式のエアコンディショナー200が取り付けられ、このエアコンディショナー200の上部の吸気口に、中性能フィルターからなる直方体形状のプレフィルター250が取り付けられている。図9は生活等空間101の内部から互いに交差する2つの壁面101a、101bを見た図である。図9に示すように、これらの壁面101a、101bに障子401、402が取り付けられている。障子401、402の障子紙に相当するものとしてガス交換膜310が用いられている。第1の実施の形態と異なり、ガス交換装置300は、天井壁104の上ではなく、障子401の裏側のスペースに設置されている。図10は障子401の片側半分を開けた状態、図11は障子401を閉めた状態を示す。図10に示すように、ガス交換装置300は、天井壁104、部屋100の側壁106、障子401および台500とに囲まれた空間の台500上に設置されている。
【0042】
ガス交換装置300は、具体的には、例えば図12A、BおよびCに示すように構成される。ここで、図12A、BおよびCはそれぞれガス交換装置300の正面図、左側面図および右側面図である。図12A、BおよびCに示すように、ガス交換装置300は、正四角柱状の包囲体360を有する。この包囲体360の内部に図3図6に示すガス交換部350が包囲体360に対して45°回転した状態で収納されている。より詳細には、ガス交換部350は、その4つの稜線が包囲体360の各側面の二等分線上で内接した状態で包囲体360に収納されている。包囲体360の1つの側面にはそれぞれ円筒状の外気導入口303および還流口302が設けられ、この側面に対向するもう1つの側面にはそれぞれ円筒状の排出口304および内気回収口301が設けられている。
【0043】
図10に示すように、ガス交換装置300は、内気回収口301、還流口302、外気導入口303および排出口304が設けられていない1つの側面を下にして、台500上に固定された2つの支持部材501、502上にL字金具(図示せず)で固定されている。そして、ガス交換装置300の内気回収口301、還流口302、外気導入口303および排出口304にそれぞれダクト601、602、603、604の一端が接続され、その他端は上方に延びて天井壁104を貫通し、天井裏102を通ってそれぞれ、天井壁104に設けられた開口104c、天井壁104に設けられた開口104d、側壁105に設けられた給気口10および側壁106に設けられた排気口20に接続されている。ガス交換装置300を固定する状態ではガス交換膜310は鉛直方向になることから、互いに対向する2枚のガス交換膜310の間の空間に塵埃などが入ってきても自然に落下するため、ガス交換膜310表面上に塵埃が滞留して目詰まりが生じることによるガス交換能の劣化を防止することができる。
【0044】
障子401の裏側にある、ガス交換装置300が設けられた空間には、図示省略したダクトを通して外気を導入することができるようになっている。このため、このガス交換装置300が設けられた空間と生活等空間101との間で障子401の障子紙自身をガス交換膜310としてガス交換を行うことができるようになっている。図示は省略するが、障子402の裏側にも同様な空間が設けられており、この空間に図示省略したダクトを通して外気を導入することができるようになっている。これらの空間は互いに分離されている。
【0045】
この建築物の上記以外の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0046】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
実施例1では、第1の実施の形態による建築物において用いられるガス交換装置300を実際に作製した例について説明する。
【0048】
図13A〜Eはこのガス交換装置300を示す写真である。ここで、図13A〜Eはそれぞれこのガス交換装置300の主として側面を撮影した写真、上面を撮影した写真、上面および側面を撮影した写真ならびに側面を撮影した写真である。包囲体368は鉄製、平板351、352およびスペーサS1 、S2 は木製である。ガス交換装置300のガス交換部350のガス交換膜310の間隔h1 =25mm、h2 =5mmに設定した。つまり、外気が通る通路の両面のガス交換膜310の間隔と内気が通る通路の両面のガス交換膜310の間隔とを非対称に設定した。ガス交換部350のサイズは60cm×60cm×30cm、ガス交換膜310のサイズは58cm×58cm、ガス交換膜310の枚数は図3図6に示す例と同様に19枚である。ガス交換装置300(G×B) のガス交換膜310の総面積は約6.4m2 である。
【0049】
(実施例2)
実施例2は第2の実施の形態に対応するものである。
【0050】
図14は実施例2において作製したガス交換装置300を示す写真である。ただし、図14では、ガス交換装置300の正面の板を取り外し、内部のガス交換部350が見えるようにしている。平板351、352およびスペーサS1 、S2 は木製である。ガス交換装置300のガス交換部350のガス交換膜310の間隔h1 =h2 =10mmに設定した。つまり、外気が通る通路の両面のガス交換膜310の間隔と内気が通る通路の両面のガス交換膜310の間隔とを対称に設定した。ガス交換部350のサイズは31cm×31cm×30cm、ガス交換膜310のサイズは30cm×30cm、ガス交換膜310の枚数は29枚である。ガス交換装置300(G×B) のガス交換膜310の総面積は約2.6m2 である。但し、ここでは、壁掛け式のエアコンディショナーの代わりに、生活等空間101の天井壁104の上に設置されたファン・フィルターユニットを用いた。天井壁104には、このファン・フィルターユニットの空気吸込口および空気吹出口に対応する部分にそれぞれ開口が対になって設けられている。そして、生活等空間101内の空気がファン・フィルターユニットの空気吸込口に対応する部分に設けられた開口から吸い込まれ、ファン・フィルターユニットの空気吸込口に入り、ファン・フィルターユニットによって清浄化された空気が全量、空気吹出口から生活等空間101内に吹き出されるようになっている。ファン・フィルターユニットの流量は約20m3 /分とした。部屋100の生活等空間101の体積は約70m3 である。障子401、402のガス交換膜310の面積は約3.3m2 である。
【0051】
図15は実施例2において使用した生活等空間101を内部から撮影した写真である。この生活等空間101の広さは約17畳である。図16図15に示す生活等空間101の1つの障子401の裏側の空間に図14に示すガス交換装置300が設置されている様子を示す写真である。
【0052】
生活等空間101内で卓上ガスコンロを燃焼させたときの酸素濃度および二酸化炭素濃度の変化を測定した結果をそれぞれ図17AおよびBに示す。図17Bは、内外で気流の交換のない(上の議論においてF=0) の生活等空間101内において、ブタンのカセットガスコンロを全開で燃焼させて一旦二酸化炭素濃度を上昇させ、その後、ガス交換装置300を稼働させた際の二酸化炭素濃度の変化を見たものである。酸素濃度はOxyman Plus OM-25MP01 (泰栄エンジニアリング)、二酸化炭素濃度はデータロガーMC-383SD(SATOTECH)を用いて測定した。ブタンの燃焼は
【化3】
で記述される。これよりB’〜0.6Bと考えればよいことがわかる。燃焼により酸素が20.9%から19.9%まで、約0.01(即ち10000ppm)減少する時には、二酸化炭素は、式(20)より、
【数20】
増加することが予測される。実際、図17AおよびBにおいて時刻12:30に、酸素が19.8%まで減少したとき、二酸化炭素は、初期値約400ppmから約6800ppmまで増加しており、式(20)からの予測とよく一致する結果が得られる。図17Aでは、酸素濃度と二酸化炭素濃度とにきれいな対称的な時間変化がみられることから、両者の濃度変化の時定数はほぼ同じであり、ガス交換膜310中の酸素と二酸化炭素の拡散定数もほぼ等しいことが見て取れる。時刻11:15までは、図9の向かって右手の障子402のガス交換膜310(GEM2)(面積約3.3m2 )を動作させ、時刻11:15より、向かって左手の障子401のガス交換膜310(GEM1)(面積約3.3m2 )も加わった。時刻11:45に1本目のブタンガス燃料が切れたので、2本目のブタンガス燃料を用い、ガスコンロを同じく全開で燃焼させた。満タンのブタンガス燃料であるので、直後、二酸化炭素濃度は増加する。この燃焼条件ではブタンガス燃料は、約80分で空になる(ブタン250gが燃焼し尽す)ことがわかる。単位時間当たりの燃焼量から式(2)をもとに計算すると、これは約31人分の酸素消費量に相当する。この人数は、図8に示す部屋100の生活等空間101には入りきれない大人数であるが、酸素濃度は19.8%と(ひとつの安全の目安である)18.5%以上の値をキープしている。時刻12:30にガス交換装置300(G×B) (総面積約2.6m2 )を稼動させると、その濃度は減少に転じた(この振る舞いは上記の式(16)できれいに記述される)。ガス交換膜310の近傍の気体流速の大きいガス交換装置300がガス交換膜310より有利であることが示された。時刻14:00において、二酸化炭素濃度は約4800ppmと衛生的な限界値は下回っているが、この17畳ほどの広さの生活等空間101に31名が入ることは滅多にあることではないと判断されるが、この人数がこの部屋に長期滞在することは好ましくないことが示唆される。人数を数名(建築物環境衛生管理基準遵守には4名、学校環境衛生基準遵守には8名)に絞れば、障子401、402を用いた100%循環フィードバックシステムおよびガス交換装置300を備えた部屋100の生活等空間101にて(室内外の間におけるバルクの気体[air mass]の交換によるところの換気風量はゼロであっても)長時間安心・安全に滞在できることもわかる。時刻13:10に3本目のブタンガス燃料に切り替えたが、二酸化炭素の減少傾向は続き、ガス交換装置300の効果が確認できる。図17AおよびBを比較すると、この生活等空間101では、この中でガス交換膜310を用いた100%循環フィードバックシステムおよびガス交換装置300を稼働させると、生活等空間101内の酸素濃度の低下に歯止めがかかり、同時に、二酸化炭素濃度の上昇を抑えることがわかる。ガス交換が効率的に働いていることが実証された。
【0053】
(実施例3)
図18に示すように、幅約20cm、長さ約80cmの箱が仕切り板により4つの空間に分けられ、それぞれの空間に山折り谷折りされたフィルター材が収納されたプレフィルター250を作製した。ここでは、フィルター材として、その作業性の良さから、アサヒペン障子紙No.5641を用いた。ダスト微粒子密度が高い従来の一般的な部屋の壁面に取り付けられた通常の壁掛け式のエアコンディショナーの上部の吸気口に図18に示すプレフィルターを取り付けた例を図19に示す。ただし、エアコンディショナーとしては株式会社日立製作所製のRAS−KJ22B(W)を使用した。エアコンディショナーの上部とプレフィルターとの間はテープで目張りした。
【0054】
図19に示す部屋で、吸気口にプレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200を運転した時の部屋内のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を図20に示す。図20に示すように、プレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200の運転開始前、部屋はUS 209D クラス12万と塵埃が多かったのに対し、運転開始後、ダスト微粒子密度が急速に減少し始め、10時間経過後には、US 209D クラス4000と、約1/30までダスト微粒子密度が減少する。即ち、プレフィルター250に用いた中性能フィルターは捕集効率γが決して高いものではないにもかかわらず、既に述べた式(5)に従って良好な清浄度を達成できることが分かる。プレフィルター250の素材を、捕集効率γがより1に近く、かつ、圧力損失が低く風量が稼げるものとすることにより、式(5)に従って、格段に良好な清浄度を、より短時間に実現することが可能である。
【0055】
ここで、プレフィルター250として用いられる中性能フィルターの寿命の評価を行った結果について説明する。構造をなす面の全てがガス交換膜よりなるテント状構造体を作製し、これをマンションの寝室の床に設置し、床に敷かれた敷布団の上で被験者が就寝した。テント内部の床にファン・フィルターユニットおよびダストカウンター(粒子数計測器)を設置した。ファン・フィルターユニットとしては、パナソニック株式会社製空気清浄機(F−PDH35)を用いた。この空気清浄機はγ=98%の中性能フィルターを用いたものである。この空気清浄機の連続運転によりテント内部を清浄化しながら、通常の生活リズムで被験者が就寝した。この空気清浄機を約4年間稼働させた後、ダストカウンターにより就寝中にテント内部のダスト微粒子数密度を計測した。その結果を図21に示す。図21に示すように、約4年間使用し続けた後でも、空気清浄機の動作特性は劣化していない。これは中性能フィルターは目詰まりが少ないことによるものである。
【0056】
次に、図19に示す部屋で、吸気口にプレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200の風量を低風量、中風量および高風量の3段階に変えて運転した時の部屋内のダスト微粒子密度の時間変化および各風量での粒径別のダスト微粒子数の減少の様子を調べる実験を行った結果について説明する。エアコンディショナー200を低風量、中風量および高風量で運転した時の部屋内のダスト微粒子密度の時間変化をそれぞれ図22図24および図26に示す。エアコンディショナー200を低風量、中風量および高風量で運転した時の部屋内の粒径別のダスト微粒子数の減少の様子をそれぞれ図23図25および図27に示す。図22図24および図26より、風量に関係なく、時間の経過とともに、粒径0.5μm以上の粒子数の総和は減少していることが分かる。また、図23図25および図27より、プレフィルター250のフィルター材として障子紙(アサヒペン障子紙No.5641)を用いているため、粒径10μm以上の粒子は良く捕集することができるものの、粒径がより小さくなると捕集効率γが低下する傾向を示すが、エアコンディショナー200の空気循環能力により部屋内の空気がプレフィルター250を繰り返し通って濾過されるため、粒径10μm未満の粒子も時間の経過とともに少しずつ捕集が進むことが分かる。
【0057】
(実施例4)
ダスト微粒子密度が高い従来の一般的な部屋の壁面に取り付けられた通常の壁掛け式のエアコンディショナーの上部の吸気口に図18に示すプレフィルターを取り付けた例を図28に示す。ただし、エアコンディショナーとしてはダイキン工業株式会社製のS25TTES−Wを使用した。エアコンディショナーの上部とプレフィルターとの間はテープで目張りした。
【0058】
吸気口にプレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200を運転した時の部屋内のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を図29に示す。図29に示すように、プレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200の運転開始前、部屋はUS 209D クラス10万と塵埃が多かったのに対し、運転開始後、ダスト微粒子密度が急速に減少し始め、4時間経過後には、US 209D クラス4000と、約1/25までダスト微粒子密度が減少する。
【0059】
(実施例5)
ダスト微粒子密度が高い従来の一般的な部屋の壁面に取り付けられた通常の壁掛け式のエアコンディショナーの上部の吸気口に市販の中性能フィルターをプレフィルター250として取り付けた例を図30に示す。ただし、エアコンディショナーとしてはダイキン工業株式会社製のS25TTES−Wを使用した。エアコンディショナーの上部とプレフィルターとの間はテープで目張りした。図31AおよびBにプレフィルター250として用いた市販の中性能フィルター(ダイキン工業株式会社製集塵フィルターKAFPO44A4)を撮影した写真を示す。
【0060】
吸気口にプレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200を運転した時の部屋内のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を図32に示す。図32に示すように、プレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200の運転開始前、部屋はUS 209D クラス10万と塵埃が多かったのに対し、運転開始後、ダスト微粒子密度が急速に減少し始め、50分経過後には、US 209D クラス1000と、約1/100までダスト微粒子密度が減少する。
【0061】
(実施例6)
ダスト微粒子密度が高い従来の一般的な部屋の壁面に取り付けられた通常の壁掛け式のエアコンディショナーの上部の吸気口に市販の中性能フィルターをプレフィルター250として取り付けた例を図33に示す。ただし、エアコンディショナーとしてはダイキン工業株式会社製のS25TTES−Wを使用した。エアコンディショナーの上部とプレフィルターとの間はテープで目張りした。図34AおよびBにプレフィルター250として用いた市販の中性能フィルター(シャープ株式会社製空気清浄機交換用フィルターFZ−Z51HF)を撮影した写真を示す。
【0062】
吸気口にプレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200を運転した時の部屋内のダスト微粒子密度の時間変化を測定した結果を図35に示す。図35に示すように、プレフィルター250を取り付けたエアコンディショナー200の運転開始前、部屋はUS 209D クラス3万と塵埃が多かったのに対し、運転開始後、ダスト微粒子密度が急速に減少し始め、1時間経過後には、US 209D クラス300と、約1/100までダスト微粒子密度が減少する。
【0063】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0064】
例えば、上述の実施の形態においては、例えば、酸素、二酸化炭素の例を挙げたが、これ以外に一酸化炭素COや硫化水素H2 Sなど、温泉地域等の地域性や、練炭を使った鍋料理など状況に沿った変形応用が可能である(上記二酸化炭素に対して用いたξ、ξ0 を、今注目するガス種についてのものと再定義すると、上記の式ならびに式変形自体はそのまま適用することができる。もちろん、通常の生活等空間101では、CO、H2 Sに対してはξ0 〜0とできる)。また、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いても良い。
【符号の説明】
【0065】
10…給気口、20…排気口、100…部屋、101…生活等空間、103…屋根、104…天井壁、104a、104b、104c、104d…開口、105、106…側壁、200…エアコンディショナー、250…プレフィルター、250a…箱、250b…仕切り板、250c…フィルター材、300…ガス交換装置、301…内気回収口、302…還流口、303…外気導入口、304…排出口、310…ガス交換膜、350…ガス交換部、360…包囲体、401、402…障子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35