(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
《本発明の実施形態の説明》
本発明者らは、マグネシウム又はマグネシウム基合金から構成される基材と樹脂成形体との接合性を高めるべく、鋭意検討を行った。その結果、詳しい理由は定かではないが、基材と樹脂成形体との間に特定の元素を特定の量含む防食層を介在させると共に、樹脂成形体が特定の組織を有する樹脂又は特定の成分の一方を含むことで、防食層を介した基材と樹脂成形体との接合性を高められるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づくものである。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
(1)実施形態に係る複合部材は、マグネシウム又はマグネシウム基合金から構成される基材と、基材上に形成され、Siの含有量が3質量%以上10質量%以下の防食層と、防食層上に形成され、結晶性樹脂又はエラストマーの一方を含む樹脂成形体とを備える。
【0012】
上記の構成によれば、防食層を介した基材と樹脂成形体との接合性に優れる。防食層がSiを特定量含有し、樹脂成形体が結晶性樹脂又はエラストマーの一方を含むことで接合性に優れる理由は定かではないが、以下の点が考えられる。
【0013】
単体で存在するSiは価電子(最外殻電子)を4つ持つため、水素、酸素、有機化合物、無機化合物など様々な物質と結合し易いと考えられる。
【0014】
樹脂成形体が結晶性樹脂を含むことで、防食層と密着させ易いからだと考えられる。結晶性樹脂を含む樹脂成形体の形成は、樹脂が固化する際に樹脂が結晶化することで行われる。その樹脂の結晶化により樹脂の固化速度が非結晶の樹脂の固化速度に比べて遅いことで、防食層と密着した状態で樹脂を固化できる。特に、防食層に凹凸が形成されている場合には、その凹部に入り込んで樹脂を固化させられる。また、樹脂成形体がエラストマーを含むことで、重合反応で硬化する前に弾性があるため、防食層と密着した状態とすることができる。
【0015】
(2)上記複合部材の一形態として、結晶性樹脂が、ポリフェニレンスルフィド又はポリブチレンテレフタレートのいずれかであることが挙げられる。
【0016】
上記の構成によれば、防食層との親和性に優れるため、防食層を介した基材と樹脂成形体との接合性に優れる。
【0017】
(3)上記複合部材の一形態として、エラストマーが、シリコーンゴムであることが挙げられる。
【0018】
上記の構成によれば、防食層との親和性に優れるため、防食層を介した基材と樹脂成形体との接合性に優れる。
【0019】
(4)上記複合部材の一形態として、防食層と樹脂成形体との接合強度が15MPa以上であることが挙げられる。
【0020】
上記の構成によれば、接合強度が高く、防食層を介した基材と樹脂成形体との接合性に優れる。この接合強度の測定手法は、後述する。
【0021】
(5)上記複合部材の一形態として、樹脂成形体のJIS K 6256−2(2013)による剥離強さが2N/mm以上であることが挙げられる。
【0022】
上記の構成によれば、剥離強さが高く、防食層を介した基材と樹脂成形体との接合性に優れる。
【0023】
(6)上記複合部材の一形態として、基材が、AZ系合金で構成されることが挙げられる。
【0024】
上記の構成によれば、耐食性に優れる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる。
【0025】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0026】
〔実施形態1〕
図1を参照して実施形態1に係る複合部材1を説明する。複合部材1は、マグネシウム又はマグネシウム基合金から構成される基材(以下、Mg基材2と呼ぶ)と、このMg基材2上に形成される防食層3と、この防食層3上に形成される樹脂成形体4とを備える。この複合部材1の主たる特徴とするところは、防食層3が特定の元素を特定の量含む点と、樹脂成形体4が特定の組織の樹脂又は特定の成分の一方を含む点とにある。以下、各構成を詳細に説明する。
【0027】
[Mg基材]
Mg基材2は、Mg元素を主体とする金属で構成される。ここでいう主体とは、基材を構成する元素のうち質量割合で最も含有量の多い元素を言う。この金属としては、純Mgを用いてもよいし、Mg基合金を用いてもよい。
【0028】
Mg基合金には、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不可避的不純物)が挙げられる。特に、添加元素に少なくともAlを含有するMg−Al系合金とすることが好ましい。Alの含有量が多いほど、耐食性に優れる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる傾向にある。従って、本発明では、Alを3質量%以上含有することがより好ましく、特に、7.3質量%以上、更には、8質量%以上含有すると一層好ましい。但し、Alの含有量が12質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、上限は12質量%とする。Alの含有量は、特に11質量%以下、更に、8.3質量%〜9.5質量%が好ましい。
【0029】
Al以外の添加元素には、Zn、Mn、Si、Be、Ca、Sr、Y、Cu、Ag、Sn、Ni、Au、Li、Zr、Ce及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択された1種以上の元素が挙げられる。このような元素を含む場合、その含有量は、合計で0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。これら添加元素のうち、Si、Sn、Y、Ce、Ca、及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有すると、耐熱性、難燃性に優れる。希土類元素を含有する場合、その合計含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yを含有する場合、その含有量は0.5質量%以上が好ましい。不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
【0030】
Mg−Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金、Mn:0.05質量%〜0.5質量%)、AS系合金(Mg−Al−Si系合金、Si:0.3質量%〜4.0質量%)、Mg−Al−RE(希土類元素)系合金、AX系合金(Mg−Al−Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AZX系合金(Mg−Al−Zn−Ca系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%、Ca:0.1質量%〜4.0質量%)、AJ系合金(Mg−Al−Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。中でもAZ系合金である、AZ10,AZ31,AZ61,AZ63,AZ80,AZ81,AZ91が好ましく、特に、AZ91合金(Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg−Al系合金)は、他のAZ系合金に比べても、比強度が高く、耐食性、機械的特性に優れて好ましい。
【0031】
Mg基材2は、双ロールやダイカストなどの鋳造によって作製された鋳造材、その鋳造材に圧延を施した圧延材、この圧延材に更に熱処理やレベラー加工、研磨加工などを施した加工材、これら圧延材や加工材にさらに塑性加工が施された塑性加工材などが挙げられる。Mg基材2は、上記圧延前に、溶体化処理を施してもよい。Mg基材2の形状や厚みは、例えば、その後の成形品によって適宜必要サイズにカットするなどして選択するとよい。
【0032】
[防食層]
防食層3は、Mg基材2の直上に形成されてMg基材2の酸化を抑制する。防食層3の構成材料は、主に酸化物、水酸化物、或いは塩からなる。この酸化物としては、例えば、酸化マグネシウムや酸化ジルコニウムが挙げられ、水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウムが挙げられ、塩としては、例えば、リン酸カルシウム系、リン酸マンガン系、リン酸マグネシウム系などのリン酸塩が挙げられる。防食層3は、これら酸化物、水酸化物、或いは塩を含むことで、Mg基材の酸化を抑制できる。防食層3は、後述する化成処理や陽極酸化処理、後処理により形成される。そのため、防食層3には、化成処理や陽極酸化処理、後処理などで使用する処理液の成分やその酸化物、水酸化物、或いは塩が含まれる。
【0033】
防食層3は、上記酸化物、水酸化物、或いは塩に加えて、ケイ素(Si)を含有する。防食層3にSiが含有されていると、Mg基材2と防食層3との密着性に優れ、防食層3と後述する樹脂成形体4との密着性に優れる。そのため、Mg基材2から防食層3が、防食層3から樹脂成形体4がそれぞれ剥離し難くなる。防食層3に含まれるSiの含有量は、3質量%以上が挙げられる。この防食層3に含まれるSiの含有量は、5質量%以上が好ましく、更には7質量%以上が好ましい。Siの含有量の上限は、実用上10質量%程度が好ましい。
【0034】
防食層3の構成元素及びその含有量は、蛍光X線分析(XRF:X−ray Fluorescence Analysis)により求めることができる。
【0035】
防食層3の厚みは、100nm以上が好ましい。この厚みが100nm以上であれば、Mg基材2の表面を直接保護して耐食性を確保できる。この厚みは、10μm以下が好ましい。この厚みが10μm以下であれば、不必要に防食層3の厚みが厚すぎない。この厚みは、特に0.5μm以上5μm以下が好ましい。この厚みの測定は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による断面観察で行える。具体的には、任意の断面において複数箇所(例えば5箇所以上)で厚みを測定し、その平均値を防食層3の厚みとする。
【0036】
[樹脂成形体]
樹脂成形体4は、複合部材1の用途に応じて適宜選択でき、特に限定されない。樹脂成形体4は、防食層3の直上に形成され、例えば、Mg基材2の補強用、他の部材(例えば、Alやその合金など)をMg基材2に又は他の部材にMg基材2を組み合わせるための組立用、他の部材との間の電気絶縁をするための絶縁用、或いは、他の部材との間をシールする封止用とすることが挙げられる。具体的には、リブ、ボス、ピン、パッキン等が挙げられる。樹脂成形体4の形状は、複合部材1の用途に応じて適宜選択できる。
【0037】
樹脂成形体4の構成材料は、結晶性樹脂又はエラストマーの一方を含む。結晶性樹脂の種類は、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂などが挙げられる。
【0038】
エラストマーの種類としては、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーの両方が挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマーなどが挙げられる。熱硬化性エラストマーとしては、例えば、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0039】
[機械的特性]
複合部材1は、樹脂成形体4の結晶性樹脂の材質によるが、防食層3を介したMg基材2と樹脂成形体4との接合強度が15MPa以上、又は剥離強さが2N/mm超のいずれかを満たすことが好ましい。例えば、樹脂成形体4の結晶性樹脂がPPSやPBTなど延性の低い樹脂で構成される場合、接合強度が上記範囲を満たすことが好ましく、シリコーンゴムなど延性の高い樹脂で構成される場合、剥離強さが上記範囲を満たすことが好ましい。接合強度は、詳しくは後述する試験例1で
図2を参照して説明する。剥離強さは、「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−接着性の求め方−第2部:剛板との90°剥離強さ JIS K 6256−2(2013)」に準拠する。この接合強度は、18MPa以上がより好ましく、特に20MPa以上が好ましく、この剥離強さは、3N/mm以上がより好ましく、特に4N/mm以上が好ましい。
【0040】
[複合部材の製造方法]
複合部材の製造は、Mg基材2を準備するMg基材準備工程、Mg基材2上に防食層3を形成する防食層形成工程、防食層3上に樹脂成形体4を直接接合する樹脂成形体形成工程、を順に経て行える。
【0041】
(Mg基材準備工程)
Mg基材2の準備は、純Mgや上述の組成を有するMg基合金の鋳造材を作製し、その鋳造材に圧延を施すことで用意してもよいし、予め同様に製造された純MgやMg基合金の圧延材を購入するなどして用意してもよい。前者の場合、例えば、WO/2006/003899や特開2007−98470号公報に記載の製造方法など、公知の方法により製造できる。ここで用意した純MgやMg基合金の圧延材に上述したようにレベラー加工、研磨加工、塑性加工など種々の加工を適宜施して用意してもよい。
【0042】
(防食層形成工程)
防食層3の形成は、化成処理や陽極酸化処理を施した後、これらの処理液の種類にもよるが後処理を施すことで行える。即ち、化成処理や陽極酸化処理の処理液にSiを含まない場合には後処理を施し、処理液にSiを含む場合には後処理を施さなくてよい。
【0043】
化成処理や陽極酸化処理は公知の手法により行える。化成処理液や陽極酸化処理液には、「JIS H 8651(2011) マグネシウム及びマグネシウム合金の化成皮膜及び陽極酸化皮膜」に規定されるもの、その他、市販のものを利用できる。
【0044】
後処理は、防食層3にSiを含有させる。後処理を施すことで、防食層3に樹脂成形体4をより一層密着性よく形成できる。後処理は、防食層3におけるSiの含有量が上述した範囲、即ち3質量%以上10質量%以下となるように行うことが好ましい。Siを含有する防食層3とするには、例えば、ケイ酸ナトリウムなどSiを含有する後処理液を使用することが挙げられる。
【0045】
後処理液の温度は、後処理液の種類によるが、例えば、75℃以上沸点未満が挙げられる。そうすれば、後処理を促進し易い。後処理液の温度は、80℃以上100℃以下が好ましい。後処理を施す時間は、後処理液の種類や温度にもよるが、3分以上が挙げられる。そうすれば、Siを3質量%以上含有する防食層3を形成し易い。後処理を施す時間は、5分以上とすることができ、この処理時間の上限は特に設けないが、例えば10分程度とすることができる。
【0046】
(樹脂成形体形成工程)
樹脂成形体4の接合手法としては、例えば、射出成形が挙げられる。射出成形は、防食層3が形成されたMg基材2を金型に配置し、その金型内に未固化の樹脂成形体の構成材料を注入し、樹脂を固化させることで防食層3と樹脂成形体4とを接合して一体化する。射出成形は、樹脂成形体4の形状に自由度を持たせ易い上に、生産性を高め易い。
【0047】
射出成形する場合、上記金型の温度を高くすることが好ましい。そうすれば、射出された樹脂成形体の構成材料の金型内での流れ性を高められる。金型の温度は、例えば、130℃以上170℃以下程度が挙げられる。射出圧は、100MPa以上300MPa以下が挙げられ、150MPa以上250MPa以下が好ましい。
【0048】
《作用効果》
上述の複合部材1によれば、防食層3がSiを所定量含むと共に、樹脂成形体4が結晶性樹脂又はエラストマーの一方を含むことで、防食層3を介したMg基材2と樹脂成形体4との接合性に優れる。
【0049】
《試験例》
Mg基材と防食層と樹脂成形体とを備える複合部材を作製し、基材と樹脂成形体との接合性の指標として、試験例1では接合強度を評価し、試験例2では剥離強さを評価する。
【0050】
〔試験例1〕
図2に示す複合部材の試験片10を作製する。その作製は、Mg基材20の準備、Mg基材20上に防食層30を形成、防食層30上に樹脂成形体40を直接接合、の順に経ることで行う。
【0051】
[基材準備]
Mg基材20は、Mg−9.0質量%Al−1.0質量%Znを含有するAZ91相当の組成を持つMg合金圧延板を使用する。Mg合金圧延板のサイズは、長さ:100mm×幅:50mm×厚み:0.7mmとする。
【0052】
[防食層形成工程]
Mg基材20の直上に、以下に示す条件で防食層30を形成する。
【0053】
(試料No.1−1〜1−3)
試料No.1−1〜1−3の防食層30の形成は、前処理として、脱脂、エッチング、脱スマットを順に施した後、化成処理を順に経ることで行う。
脱脂:15%グランダファイナーMG−15SX(ミリオン化学株式会社製)+0.5%グランダファイナー添加剤(ミリオン化学株式会社製)、70℃±3℃、5分〜10分
エッチング:グランダファイナーMG−104SX(ミリオン化学株式会社製)、60℃±2℃、1分
脱スマット:グランダファイナーMG−15S(ミリオン化学株式会社製)、60℃、10分
化成処理:グランダーMC−1000(ミリオン化学株式会社製)、35℃、1分
【0054】
(試料No.2−1〜2−3)
試料No.2−1〜2−3の防食層30の形成は、試料No.1−1〜1−3と同様の前処理及び化成処理を施した後、後処理を経ることで行う。
後処理:10%Na
4SiO
4+2%界面活性剤を200ml/lとした希釈水溶液の攪拌下、80℃、5分
乾燥:110℃、30分
【0055】
(試料No.3−1〜3−3)
試料No.3−1〜No.3−3の防食層30の形成は、陽極酸化処理、後処理、を順に経ることで行う。陽極酸化処理液には、リン酸系水溶液を利用する。後処理は、試料No.2−1〜2−3と同じである。
【0056】
(試料No.4−1〜4−3)
試料No.4−1〜4−3の防食層30の形成は、陽極酸化処理液をジルコニウム系水溶液とする点を除き、試料No.3−1〜3−3と同様にして行う。
【0057】
(試料No.5−1〜5−3)
上記試料No.5−1〜5−3の防食層30の形成は、陽極酸化処理液を20%ケイ酸系水溶液とする点と、陽極酸化処理の後に後処理工程を施さない点とを除いて、試料No.3−1〜3−3と同様にして行う。ここでは、陽極酸化処理の電圧を150V、時間を5分とする。
【0058】
各試料の防食層30の厚みと、防食層30に含まれるSiの含有量とを測定する。防食層30の厚みの測定は、SEMによる断面観察により行い、Siの含有量の測定は、XRFで分析することで行う。その測定結果を表1に示す。
【0059】
[樹脂成形体形成工程]
各試料の防食層30の直上に、樹脂成形体40を形成する。試料No.1−1,2−1,3−1,4−1,5−1の樹脂成形体40は、結晶性のPBT樹脂(ジュラネックス(登録商標)930HL:ポリプラスチック株式会社製)とし、試料No.1−2,2−2,3−2,4−2,5−2の樹脂成形体40は、結晶性のPPS樹脂(V141L1:出光化学製)とし、試料No.1−3,2−3,3−3,4−3,5−3の樹脂成形体40は、非結晶性のアクリル樹脂(LG35:住友化学株式会社製)とする。
図2に示すように、樹脂成形体40の長さ・幅・厚みは、Mg基材20と同等とする。樹脂成形体40の形成は、Mg基材20との接合(重複)領域x(長さ方向に沿った方向の長さ)が5mmとなるようにMg基材20の一端側に射出成形することで行う。そうしてMg基材20と樹脂成形体40とが防食層30を介して一体に接合された試験片10を作製する。各試料の樹脂成形体40の形成条件は、以下の通りである。
【0060】
(試料No.1−1〜1−3、2−1〜2−3、3−1〜3−3、4−1〜4−4、5−1〜5−5)
〈形成条件〉
金型温度:150℃±20℃
射出圧 :200MPa
保圧時間:3秒〜10秒
冷却時間:20秒〜30秒
【0061】
[接合性評価試験]
(接合強度)
各試料の試験片10において、
図2の白抜き矢印に示すように、Mg基材20と樹脂成形体40とを長さ方向に沿って互いが離れる方向へ引張り、Mg基材20と樹脂成形体40とが分離するのに要する接合強度(MPa)を測定する。その結果を表1に示す。
【0063】
表1に示すように、Siを3質量%以上10質量%以下含む防食層を備え、結晶性樹脂を含む樹脂成形体をこの防食層を介してMg基材と接合した試料No.2−1,2−2,3−1,3−2,4−1,4−2,5−1,5−2は、接合強度が15MPa以上、更には18MPa以上であり、防食層を介したMg基材と樹脂成形体との接合性に優れることが分かる。この試料No.2−1,2−2,3−1,3−2,4−1,4−2,5−1,5−2は、結晶性樹脂を含む樹脂成形体をSiを所定量含まない防食層を介してMg基材と接合した試料No.1−1,1−2、非結晶性樹脂を含む樹脂成形体をSiを所定量含まない防食層を介してMg基材と接合した試料No.1−3、非結晶性樹脂を含む樹脂成形体をSiを所定量含む防食層を介してMg基材と接合した試料No.2−3,3−3,4−3,5−3と比較して、接合性に優れることが分かる。
【0064】
《試験例2》
試験例2では、試験例1の試料No.1−1,2−1,3−1,4−1,5−1のそれぞれと同様の防食層を備えるMg基材に対し、これらの試料とは材質の異なる樹脂成形体を接合した複合部材(試験片)の試料No.10−1,20−1,30−1,40−1,50−1を作製し、剥離強さを測定する。各試料の樹脂成形体の材質は、表2に示すエラストマーとする。剥離強さの測定は、後述するJIS規格に準拠する。各試料の樹脂成形体の形成条件は、以下の通りである。
【0065】
(試料No.10−1、20−1、30−1、40−1、50−1)
〈形成条件〉
金型温度:150℃±20℃
射出圧 :10MPa
保圧時間:3秒〜10秒
冷却時間:20秒〜30秒
【0066】
[接合性評価試験]
(剥離強さ)
各試料における剥離強さの測定は、「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−接着性の求め方−第2部:剛板との90°剥離強さ JIS K 6256−2(2013)」に準拠する。剥離強さ(N/mm)の測定結果を、表2に示す。
【0068】
表2に示すように、Siを3質量%以上10質量%以下含む防食層を備え、エラストマーを含む樹脂成形体をこの防食層を介してMg基材と接合した試料No.20−1,30−1,40−1,50−1は、剥離強さが2N/mm以上、更には3N/mm以上、4N/mm以上であり、防食層を介したMg基材と樹脂成形体との接合性に優れることが分かる。この試料No.20−1,30−1,40−1,50−1は、エラストマーを含む樹脂成形体をSiを所定量含まない防食層を介してMg基材と接合した試料No.10−1と比較して、接合性に優れることが分かる。
【0069】
上記の試験例ではAZ91相当のMg合金を基材とし、所定の防食層が結晶性樹脂又はエラストマーの一方を含む樹脂成形体に対して高い密着性を有することを確認した。この試験例の結果から、AZ系のMg合金以外の金属を基材に利用することが期待できる。防食層は、一般に純MgやMg合金に対して十分な密着性を有するため、基材が純MgやAZ系以外のMg合金であっても、Siを所定量含む防食層と特定の樹脂成形体との接合性には実質的に影響しないと考えられるからである。さらには純MgやMg合金以外の金属を基材とすることも期待できる。例えば、基材をアルミニウム又はアルミニウム基合金で構成することもできる。即ち、複合部材は、アルミニウム又はアルミニウム合金から構成されるAl基材と、Al基材上に形成され、Siを3質量%以上10質量%以下含む防食層と、防食層上に形成され、結晶性樹脂又はエラストマーの一方を含む樹脂成形体とを備えることとしてもよい。この場合でも、防食層を介した基材と樹脂成形体との接合性に優れる。