特許第6555712号(P6555712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 新潟大学の特許一覧

<>
  • 特許6555712-平面振動計測装置及び平面振動計測方法 図000003
  • 特許6555712-平面振動計測装置及び平面振動計測方法 図000004
  • 特許6555712-平面振動計測装置及び平面振動計測方法 図000005
  • 特許6555712-平面振動計測装置及び平面振動計測方法 図000006
  • 特許6555712-平面振動計測装置及び平面振動計測方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555712
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】平面振動計測装置及び平面振動計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
   G01H9/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-116904(P2015-116904)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-3397(P2017-3397A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度,独立行政法人科学技術振興機構,研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム フィージビリティスタディステージ 探索タイプ「生体内3次元振動分布の可視化へ向けた多波長光ホログラフィック・トモグラフィー装置の開発」に係る委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(74)【代理人】
【識別番号】100174931
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】崔 森悦
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−170334(JP,A)
【文献】 特開平10−221159(JP,A)
【文献】 特開2008−128911(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/172020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 9/00
G01B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数で振動する測定物体の平面振動を計測する平面振動計測装置であって、
光を出射する光源と
振動部が取り付けられ、当該振動部により第2周波数で振動する参照ミラーと、
受光素子と、
制御部と、
前記光源が出射する光を分岐し、前記測定物体の方向と、前記参照ミラーの方向にそれぞれ出射する分岐部と、
前記測定物体から反射された光と、前記参照ミラーから反射された光とを統合して前記受光素子に出射する統合部と、
を備え、
前記第1周波数は、前記受光素子のフレームレートよりも大きく、前記測定物体の平面上で2次元的分布を有し、
前記第2周波数は前記第1周波数と異なり、前記第1周波数と前記第2周波数との差は、前記受光素子のフレームレートより小さく、
前記受光素子は、前記統合部により統合された光に基づく干渉画像を生成し、
前記制御部は、前記干渉画像に基づいて、前記測定物体の平面上の周波数分布、位相分布、及び振幅分布を求める、
平面振動計測装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記干渉画像の時間波形から得られる0次強度分布画像及び1次強度分布画像に基づいて得られる各画像の分布の比と、
式:R01=J(Z)J(Z)/J(Z)J(Z
(Zは前記測定物体の位相変調の振幅、Zは前記参照ミラーの位相変調の振幅、J及びJは第1種ベッセル関数)
とを比較することで、前記測定物体の平面上の振幅分布を求め、且つ、
前記制御部は、前記干渉画像の時間波形から得られる1次強度分布画像から、前記測定物体の平面上の周波数分布及び位相分布を求める
請求項1に記載の平面振動計測装置。
【請求項3】
前記受光素子はCCDカメラである、請求項1又は2に記載の平面振動計測装置。
【請求項4】
第1周波数で振動する測定物体の平面振動を計測する平面振動計測方法であって、
光を出射する光源と、振動部が取り付けられ当該振動部により第2周波数で振動する参照ミラーと、受光素子と、制御部と、前記光源が出射する光を分岐し前記測定物体の方向と前記参照ミラーの方向にそれぞれ出射する分岐部と、前記測定物体から反射された光と前記参照ミラーから反射された光とを統合して前記受光素子に出射する統合部と、を備え、前記第1周波数は、前記受光素子のフレームレートよりも大きく、前記測定物体の平面上で2次元的分布を有する平面振動計測装置を準備するステップと、
前記第2周波数は前記第1周波数と異なり、前記第1周波数と前記第2周波数との差を、前記受光素子のフレームレートより小さくするステップと、
前記受光素子が、前記統合部により統合された光に基づく干渉画像を生成するステップと、
前記制御部が、前記干渉画像に基づいて、前記測定物体の平面上の周波数分布、位相分布、及び振幅分布を求めるステップと、
を含む平面振動計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動する物体の表面または内部の段層面の振動周波数、位相及び振幅の2次元分布を同時に計測できる平面振動計測装置及び平面振動計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体や工業製品、または、生体試料などの微弱で高速な振動を計測するために、従来からレーザドップラー振動計測装置が用いられている(例えば、特許文献1参照)。これらのレーザドップラー振動計測装置は、光学干渉計と組み合わせて光コヒーレンストモグラフィー計測(ドップラーOCT)などに応用されている(例えば、特許文献2参照)。そして、近年の生体計測における光非接触計測技術へのニーズの拡大とともに、これらのドップラーOCTは大いに注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−33014号公報
【特許文献2】特開2014−178338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のレーザドップラー振動計測装置やドップラーOCTは、ある一つの計測点の変位、流速、振動を計測するため、広い面積を有する測定面の同時測定が困難である。大きな物体の振動計測においては、空間的なプローブ走査が欠かせないが、数kHzから数百kHzの高速な振動を受光するためにはフォトディテクターなどが必要で、物体平面の分布を一括で取得できるCCDカメラ等の撮像素子を使用することが困難であるためである。
【0005】
本発明は、前記の現状に鑑み開発されたもので、広い面積を有する測定物体(物体平面)について、空間的走査を必要とせず、CCDカメラ等の撮像素子を備える光学干渉計を用いて、振動面の2次元的な周波数、位相、振幅の分布を一括で求めることができる平面振動計測装置及び平面振動計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の平面振動計測装置は、第1周波数で振動する測定物体の平面振動を計測する平面振動計測装置であって、光を出射する光源と、振動部が取り付けられ、当該振動部により第2周波数で振動する参照ミラーと、受光素子と、制御部と、前記光源が出射する光を分岐し、前記測定物体の方向と、前記参照ミラーの方向にそれぞれ出射する分岐部と、前記測定物体から反射された光と、前記参照ミラーから反射された光とを統合して前記受光素子に出射する統合部と、を備え、前記第1周波数は、前記受光素子のフレームレートよりも大きく、前記測定物体の平面上で2次元的分布を有し、前記第2周波数は前記第1周波数と異なり、前記第1周波数と前記第2周波数との差は、前記受光素子のフレームレートより小さく、前記受光素子は、前記統合部により統合された光に基づく干渉画像を生成し、前記制御部は、前記干渉画像に基づいて、前記測定物体の平面上の周波数分布、位相分布、及び振幅分布を求めることを特徴とする。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明の平面振動計測方法は、第1周波数で振動する測定物体の平面振動を計測する平面振動計測方法であって、光を出射する光源と、第1周波数で振動する測定物体と、振動部が取り付けられ当該振動部により第2周波数で振動する参照ミラーと、受光素子と、制御部と、前記光源が出射する光を分岐し前記測定物体の方向と前記参照ミラーの方向にそれぞれ出射する分岐部と、前記測定物体から反射された光と前記参照ミラーから反射された光とを統合して前記受光素子に出射する統合部と、を備え、前記第1周波数は、前記受光素子のフレームレートよりも大きく、前記測定物体の平面上で2次元的分布を有する平面振動計測装置を準備するステップと前記第2周波数は前記第1周波数と異なり、前記第1周波数と前記第2周波数との差を、前記受光素子のフレームレートより小さくするステップと、前記受光素子が、前記統合部により統合された光に基づく干渉画像を生成するステップと、前記制御部が、前記干渉画像に基づいて、前記測定物体の平面上の周波数分布、位相分布、及び振幅分布を求めるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、広い面積を有する測定物体について、空間的走査を必要とせず、CCDカメラ等の撮像素子を備える光学干渉計を用いて、振動面の2次元的な周波数、位相、振幅の分布を一括で求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る平面振動計測装置図の構成例を示す図である。
図2】干渉画像の時間波形から得られた、(a)0次強度分布画像、(b)0次強度分布の2次元FFT画像、(c)周波数フィルタリングされた0次強度分布のFFT画像、(d)画像処理後の0次強度分布画像を示す図である。
図3】干渉画像の時間波形から得られた、(a)1次強度分布画像、(b)1次強度分布の2次元FFT画像、(c)周波数フィルタリングされた1次強度分布のFFT画像、(d)画像処理後の1次強度分布画像を示す図である。
図4】R01のプロット線を示す図である。
図5】実験によって得られた測定物体における(a)振幅分布、(b)周波数分布、(c)位相分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る平面振動計測装置100は、空間系で構成された光学干渉計を含み、光源1と、コリメータ2と、ビームスプリッタ3と、測定物体4と、第1ピエゾ素子5と、参照ミラー6と、第2ピエゾ素子7と、レンズ系8と、受光素子9と、コンピュータ10とを備える。また、コンピュータ10は、フレーム取得部11と、制御部12と、D/A変換部13と、を備える。
【0012】
光源1は、本例では、ピーク波長を650nmとするコヒーレント光を出射する半導体レーザで構成される。コリメータ2は、光源1から入射する光を平行光線として出射する。ビームスプリッタ3は、コリメータ2から入射する光を分岐し、一部を透過して測定物体4の方向に出射し、残りを反射して参照ミラー6の方向に出射する分岐部として機能する。
【0013】
測定物体(測定表面)4は、本例ではサンプルとして直径15mmの平面ミラーで構成される。なお、実際の測定にあたっては、測定対象とする測定物体が取り付けられる。測定物体4は、ビームスプリッタ3から入射する光を表面で反射する。
【0014】
また、本例では平面ミラー4には第1ピエゾ素子5が取り付けられている。第1ピエゾ素子5は、制御部12からの信号によってD/A変換部13から送信される電圧信号に応じて、所定の周波数の振動、本例では1kHzの正弦波状の振動を平面ミラー4に発生させる。なお、本例は検証実験であるため、測定物体4の振動を再現するために第1ピエゾ素子5を用いたが、測定物体4として振動物体を用いる際には、第1ピエゾ素子5は不要である。
【0015】
参照ミラー6は、ビームスプリッタ3から入射する光を反射する。また、参照ミラー6には、第2ピエゾ素子7が取り付けられている。第2ピエゾ素子7は、制御部12からの信号によってD/A変換部13から送信される電圧信号に応じて、測定物体4の振動とは僅かに異なる周波数の振動、本例では1.0044kHzの正弦波状の振動を参照ミラー6に発生させる振動部として機能する。
【0016】
測定物体4から反射された光及び参照ミラー6から反射された光は、再びビームスプリッタ3に入射し、共にレンズ系8の方向に出射する。
【0017】
レンズ系8は、ビームスプリッタ3から入射する光を集光して受光素子9に出射するためのものであり、複数のレンズから構成される。なお、図1には2つのレンズを図示しているが、2つには限定されない。上述の通り、ビームスプリッタ3及びレンズ系8は全体として、測定物体4から反射された光と、参照ミラー6から反射された光とを統合して受光素子9に出射する統合部として機能する。
【0018】
受光素子9は、市販の従来型CCDカメラ(フレームレートが約30Hzから約60Hz)、本例ではフレームレートが35.2HzのCCDカメラで構成される。受光素子9は、レンズ系8から入射する光を電気信号に変換し干渉画像として取得する。ここで、受光素子9で得られる干渉画像は、参照ミラー6と測定物体4との周波数差に等しい周期、即ち本例では4.4Hzの周期で変化する。なお、この干渉画像の時間変化の高調波成分は、CCDのフレームレートによるローパスフィルタの作用によって平均化されるため、観測されない。受光素子9は、取得した干渉画像をフレーム取得部11に出力する。
【0019】
フレーム取得部11は、受光素子9から受信する干渉画像を取得し、記憶する。
【0020】
制御部12は、不揮発性の記憶部と、これに格納される制御プログラムを実行するプロセッサとを有するマイクロコンピュータ等で構成され、各部の動作を制御する。制御部12は、具体的には、上述した通り、測定物体4及び参照ミラー6の振動を発生させるための信号をD/A変換部13に出力する他、フレーム取得部11が取得した干渉画像に後述する処理を施し、測定物体4の振幅分布、周波数分布、及び位相分布を求めることができる。
【0021】
参照ミラー6と測定物体4とをそれぞれ周波数f、f、位相変調の振幅Z、Zで振動させた場合、受光素子9上で計測される干渉信号は、以下の(式1)で与えられる。
【数1】
ここで、参照ミラー6と測定物体4との周波数の差(ビート周波数)が4.4Hzであり、受光素子のフレームレートである35.2Hzよりも小さいので、(式1)の高次成分はほとんど検出されず、以下の(式2及び3)で表される0次の成分及び1次の成分が検出される。
(式2) |A+BJ(Z)J(Z)cos(α)|
(式3) |BJ(Z)J(Z)cos(α)|cos(2π|f−f|+|ψ−ψ|)
ここで、J及びJは、第1種ベッセル関数である。
【0022】
図2(a)及び図3(a)に、本実施形態に係る平面振動計測装置100による測定で得られた干渉画像の時間波形から得られた0次強度分布画像と1次強度分布画像とをそれぞれ示す。これらの分布には、空間キャリア成分と直流成分が含まれるので、2次元高速フーリエ変換(FFT)の後、フィルタリング処理を施した。図2(b)及び図3(b)に、0次強度分布の2次元FFT画像と1次強度分布の2次元FFT画像とをそれぞれ示す。これらの周波数成分のうち、0次強度分布については空間キャリア成分(J(Z)J(Z))を取り出してcos(α)を分離した分布を得て、1次強度成分については直流成分のみを取り出すことで(J(Z)J(Z))に比例する分布を得る。その結果を、図2(c)及び図3(c)に示す。このように画像フィルタ処理されたFFT画像を逆FFT変換によって復元した。復元された0次及び1次の強度分布画像をそれぞれ図2(d)及び図3(d)に示す。復元した分布は共通の干渉振幅成分Bを含んでいるので、両者の比を計算することにより、振幅成分を除去でき、尚且つZ分布も知ることができる。その際、Zについては既知である必要がある。
【0023】
ここで、図4は、
(式4)R01=J(Z)J(Z)/J(Z)J(Z
のプロット線を示す。上述の処理により得られた図2(d)及び図3(d)の分布の比を計算し、図4のプロット線との比較を行うことで、Z分布を得た。ここで、Zは実験前に既知の値である。
【0024】
が2.4以下の範囲においては、R01と実験値の比との比較によって一意的にZが得られる。得られたZ分布を図5(a)に示す。また、周波数分布は1次分布の周波数値から得られ、図5(b)に示す結果となった。さらに、位相分布は1次分布の位相値から求められ、その位相値は、1次分布の実数値と虚数値の比の逆正接で計算できる。求めた位相分布を図5(c)に示す。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係る平面振動計測装置100によると、広い面積を有する測定物体について、従来のCCDカメラ等の撮像素子を備える光学干渉計を用いて、振動面の2次元的な周波数、位相、振幅の分布を一括で求めることができる。
【0026】
従って、従来のレーザドップラー計では空間的なプローブ走査が必要であった大規模な測定物体についても、一括で高速にフルフィールドの振動計測を行うことができる。その結果、計測時間の短縮化が図れ、同期制御などの制御装置の簡略化が可能となる。さらに、平面の振動計測の効率化と可視化における横方向(x軸−y軸)の画像分解能の著しい向上を期待できる。また本発明は、光断層撮像装置などの生体計測機器への導入が容易である。
【0027】
本発明を諸図面や実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 光源
2 コリメータ
3 ビームスプリッタ
4 測定物体(平面ミラー)
5 第1ピエゾ素子
6 参照ミラー
7 第2ピエゾ素子
8 レンズ系
9 受光素子
10 コンピュータ
11 フレーム取得部
12 制御部
13 D/A変換部
100 平面振動計測装置
図1
図2
図3
図4
図5