特許第6555714号(P6555714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人電気通信大学の特許一覧

特許6555714蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置
<>
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000019
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000020
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000021
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000022
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000023
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000024
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000025
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000026
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000027
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000028
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000029
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000030
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000031
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000032
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000033
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000034
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000035
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000036
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000037
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000038
  • 特許6555714-蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置 図000039
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555714
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20190729BHJP
   G01R 31/36 20190101ALI20190729BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   H02J7/00 Y
   G01R31/36
   H01M10/48 P
【請求項の数】8
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-150389(P2015-150389)
(22)【出願日】2015年7月30日
(65)【公開番号】特開2017-34781(P2017-34781A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 晴久
(72)【発明者】
【氏名】川喜田 佑介
(72)【発明者】
【氏名】澤田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】横川 慎二
【審査官】 高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/140781(WO,A1)
【文献】 特開2008−275323(JP,A)
【文献】 特開2012−150086(JP,A)
【文献】 特開2003−256084(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0241377(US,A1)
【文献】 特開2015−059933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 − 7/12
H02J 7/34 − 7/36
H01M 10/42 −10/48
G01R 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一意な蓄電池IDを有し、充放電回数と、前記充放電回数のうち1回分の単位保存時間に相当する情報を記憶する蓄電池と、
前記蓄電池から前記蓄電池IDと前記充放電回数と前記単位保存時間に相当する情報を受信して蓄電池使用ログテーブルに記憶し、前記蓄電池使用ログテーブルから累積故障確率を算出する蓄電池情報サーバと、
前記蓄電池に接続され、前記蓄電池情報サーバから、前記累積故障確率と、前記蓄電池の最適交換時期を算出するための個別情報を受信し、前記累積故障確率から前記蓄電池の最適交換時期を算出する充放電制御装置と
よりなる蓄電池管理システム。
【請求項2】
前記充放電回数のうち1回分の単位保存時間に相当する情報は、
前記蓄電池の電流と、
前記蓄電池に充電器が接続されたか否かを示す充放電フラグ情報と、
前記蓄電池が満充電状態になったか否かを示す満充電フラグ情報と
を有する、請求項1に記載の蓄電池管理システム。
【請求項3】
前記蓄電池の最適交換時期を算出するための個別情報は、
前記蓄電池の前記充放電回数に対する前記保存時間の勾配を示す保存時間勾配情報と、
前記蓄電池が故障した際のコストを示す損失コストと、
前記蓄電池を交換する際のコストを示す交換コストと
を有する、請求項2に記載の蓄電池管理システム。
【請求項4】
前記蓄電池情報サーバは、前記充放電回数と前記保存時間の範囲で構成されるメッシュ毎に、稼働中の蓄電池の総計と使用終了又は故障した蓄電池の総計を算出した後、前記メッシュ毎に故障率を算出し、次に前記メッシュ毎に累積ハザード値を算出した後、前記メッシュ毎に累積故障確率を算出する、
請求項3に記載の蓄電池管理システム。
【請求項5】
前記蓄電池情報サーバは、前記蓄電池の充放電電流から容量の減少を観測し、尤度関数を最大化する最尤推定値を累積故障確率関数に代入することで、累積故障確率を算出する、
請求項3に記載の蓄電池管理システム。
【請求項6】
蓄電池を一意に識別するための蓄電池IDを格納する蓄電池IDフィールドと、前記蓄電池の電流を格納する電流フィールドと、前記蓄電池に充電器が接続されたか否かを示す充放電フラグフィールドと、前記蓄電池が満充電状態になったか否かを示す満充電フラグフィールドとを有する蓄電池使用ログテーブルと、
前記蓄電池使用ログテーブルから累積故障確率を算出する累積故障確率演算部と、
前記蓄電池に接続され、前記蓄電池の最適交換時期を算出するための個別情報と前記累積故障確率から前記蓄電池の最適交換時期を算出する充放電制御装置に、前記累積故障確率と、前記個別情報を送信する個別情報返信部と
を具備する蓄電池情報サーバ。
【請求項7】
蓄電池情報サーバから、蓄電池の最適交換時期を算出するための個別情報と、蓄電池の累積故障確率を受信して、最適交換時期を算出する蓄電池交換時期算出部と、
前記蓄電池交換時期算出部が算出した前記最適交換時期を使用者へ報知する警告報知部と、
前記蓄電池交換時期算出部が算出した前記最適交換時期が所定の閾値を超えた場合に、蓄電池に対する充電を停止するための充電停止制御信号を出力する入出力制御部と
を具備する、充放電制御装置。
【請求項8】
前記入出力制御部は、前記蓄電池情報サーバから最新の前記個別情報と前記累積故障確率を受信できない時は、前記蓄電池から前記個別情報と前記累積故障確率を受信して、前記蓄電池交換時期算出部に前記最適交換時期を算出させる、
請求項7に記載の充放電制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置に関する。
より詳細には、リチウムイオン電池やリチウムポリマー電池、またナトリウム・硫黄電池等、エネルギー密度が高く、事故発生時における被害が大きい二次電池を、計算機の情報処理によって有効寿命まで安全に使用するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、移動体のエネルギー供給源として、体積及び重量に比してエネルギー密度が高いリチウムイオン電池やリチウムポリマー電池が広く使用されている。また、エネルギー問題は喫緊の課題であり、リチウムイオン電池は定置型の蓄電池としても普及が拡大している。
なお、これ以降、リチウムイオン電池をLIBと略す。
【0003】
LIBやリチウムポリマー電池、また産業用定置型蓄電池として採用されているナトリウム・硫黄電池等の、エネルギー密度が高い二次電池は、鉛蓄電池等のエネルギー密度の低い蓄電池と比べると、発火等の事故を引き起こす可能性が高い。また、発火事故を引き起こした場合に生じる損害が大きく、またこの損害によって生じる被害額も高い傾向がある。
【0004】
特許文献1には、蓄電池の製造時期や製造ライン等で性能にばらつきがある場合でも、異常診断を精度良く行えるようにする、二次電池の異常診断装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-59933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、エネルギー密度が高い二次電池は、事故率が高く、また被害額も高額になりがちである。このため、従来、これらの二次電池はできる限り事故を起こさないように、使用期限や充放電回数制限に大きめのマージンを持たせている。しかし、このことは「まだ使える」二次電池を破棄してしまうこととなり、非効率である。
したがって、二次電池の寿命をできる限り正確に予測して、事故を未然に防ぎつつ、二次電池を正しく使い切ることが、好ましい。
【0007】
本発明はかかる課題を解決し、二次電池の寿命をできる限り正確に予測して、事故を未然に防ぎつつ、二次電池を正しく使い切ることを目指す、蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の蓄電池管理システムは、一意な蓄電池IDを有し、充放電回数と、充放電回数1回分の単位保存時間に相当する情報を記憶する蓄電池と、蓄電池から蓄電池IDと充放電回数と単位保存時間に相当する情報を受信して蓄電池使用ログテーブルに記憶し、蓄電池使用ログテーブルから累積故障確率を算出する蓄電池情報サーバとを具備する。充放電制御装置は、蓄電池に接続され、蓄電池情報サーバから、累積故障確率と、蓄電池の最適交換時期を算出するための個別情報を受信し、累積故障確率から蓄電池の最適交換時期を算出する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、二次電池の寿命をできる限り正確に予測して、事故を未然に防ぎつつ、二次電池を正しく使い切る事を目指す、蓄電池管理システム、蓄電池情報サーバ及び充放電制御装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る蓄電池管理システムの概略図である。
図2】LIBのハードウェア構成を示すブロック図である。
図3】LIB情報処理部のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】LIB情報処理部のソフトウェア機能を示すブロック図である。
図5】充放電制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図6】充放電制御装置のソフトウェア機能を示すブロック図である。
図7】携帯型無線端末のハードウェア構成を示すブロック図である。
図8】LIB情報サーバのハードウェア構成を示すブロック図である。
図9】LIB情報サーバのソフトウェア機能を示すブロック図である。
図10】LIB情報サーバとLIB情報処理部が有するテーブルのフィールド構成を示す図である。
図11】LIB情報処理部と携帯型無線端末、そしてLIB情報サーバとの通信の流れを示すタイムチャートである。
図12】LIB情報処理部と充放電制御装置との通信の流れを示すタイムチャートである。
図13】LIBの充放電回数と累積故障確率の、予想される三次元グラフである。
図14】LIBの充放電フラグと、バッテリセルの状態と、セルモジュール内部のFETスイッチのゲートの状態と、LIBの電流を示すタイムチャートである。
図15】LIBの充放電回数と保存時間の推移の一例を示すグラフである。
図16】LIBの充放電回数及び保存時間の推移に対する、累積故障確率のグラフである。
図17】LIBの期待損失コスト又は交換コストに関するグラフである。
図18】LIBの充放電回数と保存時間の推移の一例を示すグラフである。
図19】LIBの充放電回数及び保存時間の推移に対する、累積故障確率のグラフである。
図20】LIBの期待損失コスト又は交換コストに関するグラフである。
図21】充放電回数と保存時間範囲の平面における、故障率と、累積ハザード値の関係を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態(以下。「本実施形態」という)の概要を説明する。
本実施形態に係る蓄電池管理システムは、LIBと、LIBが装着されて使用されるLIB使用設備と、インターネットに接続されているLIB情報サーバと、LIBとLIB情報サーバとの間に介在して、LIBとLIB情報サーバとの通信を確立する携帯型無線端末等の通信部よりなる。
LIBには、一意なLIBIDを付与されたマイコンよりなるLIB情報処理部が内蔵されている。LIB情報処理部は、LIB情報サーバにLIB使用ログを送信し、LIB情報サーバから累積故障確率テーブルと、LIBの最適交換時期を算出するための個別情報を受信する。
LIB使用設備に組み込まれている充放電制御装置は、LIBから累積故障確率テーブルと個別情報を受信すると、LIBの最適交換時期を計算して、表示部等に最適交換時期を表示する。また、交換時期に至ったと判断したら、充電器を制御して、LIBに対する充電を禁止する。
【0012】
LIB情報サーバは、LIBIDを有する全ての同一モデルのLIBからログを収集して、LIB使用ログテーブルに記録する。そして、LIB使用ログテーブルに基づいて、累積故障確率曲面を計算し、累積故障確率テーブルに記録する。
累積故障確率曲面は、LIBの充放電回数と、保存時間をパラメータに持つ曲面である。
この累積故障確率曲面を計算するために、LIBに内蔵されるLIB情報処理部は、LIBの充放電回数を計数するための充放電フラグと、保存時間を計算するために必要な電流と満充電フラグを内部のログに記憶する。
なお、保存時間とは、LIBが完全充電状態になってから能動的な充放電が行われない状態が継続した際の時間を指す。保存時間は充放電回数と共にLIBの寿命に大きく関係する要素である。この保存時間に関する詳細な説明は後述する。
【0013】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る蓄電池管理システム101の概略図である。
図1中、LIB使用設備102とは、LIB103を使用する装置や設備を一般化したものである。LIB使用設備102には、電気自動車、旅客機、家屋等、LIB103を使用するあらゆる対象が該当する。
商用交流電源104には充電器105が接続され、この充電器105を通じて、LIB使用設備102に装着されたLIB103に電力が供給される。LIB103には負荷106が接続され、LIB103は負荷106に電力を供給する。
充電器105は充放電制御装置107によってオン・オフ制御される。なお、充電器105を制御する代わりに、充電器105とLIB103との間にスイッチを設け、このスイッチを制御する構成にしてもよい。
充放電制御装置107は、LIB103の最適交換時期を表示部108に表示する。また、充放電制御装置107は、LIB103の寿命が尽きて、所定の危険状態に至ったと判定した場合には、充電器105を強制的にオフ制御する機能を有する。
【0014】
LIB103は充放電制御装置107と例えばBLE(Bluetooth(登録商標)Low Energy)等の近距離無線通信でLIB103の寿命予測の計算に必要な情報を送受信する。また、LIB103は充放電制御装置107と通信を行う際、必ず充放電制御装置107から機器IDを受信する。
携帯型無線端末109は、LIB103に近接すると、LIB103に内蔵されるLIB情報処理部と通信を確立する。また、携帯型無線端末109は、アクセスポイント110を通じてインターネット111に接続されているLIB情報サーバ112と通信を確立する。
LIB103は携帯型無線端末109と近距離無線通信にて通信し、携帯型無線端末109を通じてLIB情報サーバ112にログテーブルを送信する。また、LIB103はLIB情報サーバ112からLIB103の寿命予測の計算に必要な情報を受信する。この時、携帯型無線端末109は、LIB103に対してプロキシサーバ(アプリケーションゲートウェイ、L7スイッチ)として振る舞い、常時IPリーチャブルでないLIB103とLIB情報サーバ112との通信を確立する。
【0015】
本実施形態に係る蓄電池管理システム101は、単一種類のLIB103のみを取り扱う。例えば、汎用リチウムイオン電池モジュールのALM−12V7が本実施形態で取り扱われる対象となる。異なる種類のLIB103を扱う場合は、後述するLIB情報サーバ112に設けられているLIB使用ログテーブルを分ける必要がある。
【0016】
[LIB103のハードウェア構成]
図2は、LIB103のハードウェア構成を示すブロック図である。
点線枠で囲まれている部分はセルモジュール201である。セルモジュール201は、バッテリセル202と、FETスイッチ203と、セル保護IC204よりなる。
バッテリセル202の正極と負極にはセル保護IC204が接続されており、セル保護IC204はバッテリセル202の電圧で稼働する。セル保護IC204は、内部に図示しないコンパレータを内蔵し、バッテリセル202が過充電状態になったことを検出すると、バッテリセル202の負極側に接続されているFETスイッチ203のゲート電圧を落として、FETスイッチ203をオフ制御する。FETスイッチ203はNチャネル型MOSFETよりなる。セル保護IC204は例えばセイコーインスツル株式会社のS−8250A等が利用可能である。
【0017】
LIB103内部では、必要な電圧を得るためにセルモジュール201が直列接続される。
各々のセルモジュール201の正極側端子は、全てセル電圧測定部205に接続される。セル電圧測定部205は各セルモジュール201の端子間電圧を測定して、A/D変換する。そして、各セルモジュール201の端子間電圧データをLIB情報処理部206に出力する。セル電圧測定部205は例えばリニアテクノロジー株式会社のLTC6801等が利用可能である。
セル保護IC204から出力されるFETスイッチ203のゲート制御信号は、バッファ207を通じてORゲート208に入力される。バッファ207は、セルモジュール201毎に異なる電位差を吸収するために設けられている。このゲート制御信号は、セル保護IC204の内部に存在する、図示しない過充電検出用コンパレータの判定結果に基づく制御信号である。LIB103の充電状態が推移して、FETスイッチ203がオフ状態になると、LIB103が満充電になったことを意味する。このとき、LIB情報処理部206に入力されるORゲート208の出力信号は、実質的に満充電の検出と等しくなる。すなわち、ORゲート208からの出力信号は、蓄電池が満充電状態になったか否かを示す満充電フラグ情報ともいえる。
【0018】
直列接続される複数のセルモジュール201の最上部の正極側には、充電器105及び負荷106と接続される正極側端子209が接続される。
直列接続される複数のセルモジュール201の最下部の負極側端子には、シャント抵抗R210を通じて充電器105及び負荷106と接続される負極側端子211が接続される。
電流検出器として動作するシャント抵抗R210の両端にはオペアンプ212の非反転入力端子と反転入力端子がそれぞれ接続され、オペアンプ212は電流検出信号をLIB情報処理部206へ出力する。
【0019】
また、バッテリセル202には各々のバッテリセル202自身の温度を検出するためのセル温度センサ213が設けられており、このセル温度センサ213の出力信号がLIB情報処理部206に入力される。更に、セル温度センサ213とは別にLIB103内部の雰囲気温度を検出するための雰囲気温度センサ214が設けられており、この雰囲気温度センサ214の出力信号もLIB情報処理部206に入力される。
LIB103には、正極側端子209と負極側端子211の他に、充電器105との接続を検出するか、または充電器105が動作しているか否かを検出するための充電器接続検出端子215が設けられており、LIB情報処理部206に接続される。すなわち、充電器接続検出端子215からLIB情報処理部206に入力される信号は、LIB103が充電状態であるか又は放電状態であるかを示す(蓄電池に充電器が接続されたか否かを示す)、充放電フラグ情報でもある。
【0020】
LIB情報処理部206は、マイコンよりなる蓄電池情報処理部であり、セル電圧、電流、セル温度、雰囲気温度、充放電状態、満充電状態を常時検出し、日時情報と共に内蔵の不揮発性ストレージにログ記録する。そして、近距離無線通信部216を通じて、LIB情報サーバ112にログテーブルを送信する。また、LIB103は近距離無線通信部216を通じてLIB情報サーバ112からLIB103の寿命予測の計算に必要な情報を受信して、不揮発性ストレージに記憶する。
LIB情報処理部206は、LIB103の寿命予測の計算に必要な情報を、近距離無線通信部216を通じて充放電制御装置107に送信する。
【0021】
[LIB情報処理部206のハードウェア構成]
図3は、LIB情報処理部206のハードウェア構成を示すブロック図である。
LIB情報処理部206は、バス301に接続された、周知のCPU302、ROM303、RAM304、フラッシュメモリ等の不揮発性ストレージ305を備える。
バス301には更に、現在日時情報を出力するリアルタイムクロック(以下「RTC」と略す)306と、A/D変換器307と、シリアル・インターフェース(以下「シリアルI/F」と略す)308と、近距離無線通信部309が接続されている。
【0022】
A/D変換器307には、セル温度信号を出力する複数のセル温度センサ213、雰囲気温度信号を出力する雰囲気温度センサ214、電流検出信号を出力するオペアンプ212が接続される。
シリアルI/F308には、セル電圧データを出力するセル電圧測定部205、充放電状態を示す信号を出力する充電器接続検出端子215、満充電を示す信号を出力するORゲート208の出力端子が接続される。なお、図2ではORゲート208をハードウェアとして記述しているが、LIB情報処理部206のソフトウェア機能として実装してもよい。すなわち、バッファ207を介したセルモジュール201毎のFETスイッチ203のゲート信号を全てLIB情報処理部206のシリアルI/F308に入力させる。LIB情報処理部206は全てのセルモジュール201のゲート信号をチェックして、一つでもオフ状態になった線があれば、LIB103が満充電状態であると判断する。
【0023】
[LIB情報処理部206のソフトウェア機能]
図4は、LIB情報処理部206のソフトウェア機能を示すブロック図である。
A/D変換器307からセル温度データ、雰囲気温度データ及び電流データが出力され、シリアルI/F308を通じてセル電圧データ、充放電フラグ及び満充電フラグが得られる。これらのデータは、RTC306が出力する現在日時情報と共に、不揮発性ストレージ305に記憶される。そして、LIB103を一意に識別するためのLIBID401と共に、入出力制御部402を通じて不揮発性ストレージ305に設けられるログテーブル403に記録される。ログテーブル403は近距離無線通信部309を通じてLIB情報サーバ112へ送信される。保存時間算出部404はログテーブル403を読み込み、充放電回数に対する保存時間を算出して、保存時間テーブル405に記録する。
【0024】
一方、近距離無線通信部309を通じてLIB情報サーバ112から受信した累積故障確率テーブル406と個別情報407は、不揮発性ストレージ305に記憶される。そして、累積故障確率テーブル406、個別情報407、保存時間テーブル405及びログテーブル403に記憶されている最新のセル温度データ及び雰囲気温度データが、近距離無線通信部309を通じて充放電制御装置107へ送信される。
【0025】
LIB情報処理部206において必要な条件は、不揮発性ストレージ305が最低一回分の充放電におけるログをログテーブル403に記憶できるに十分な記憶容量を有することと、ログテーブル403から保存時間を算出するために必要な加減算程度の整数演算機能を有することと、LIB103の運用に支障のない低消費電力であることである。複雑な浮動小数点演算計算を高速に行うような演算能力は必要とされない。したがって、組み込み用途の低価格なマイコンが利用可能である。また、今日、フラッシュメモリは大容量化及び低価格化が進んでおり、LIB情報処理部206の用途に適している。
【0026】
[充放電制御装置107のハードウェア構成]
図5は、充放電制御装置107のハードウェア構成を示すブロック図である。
充放電制御装置107は、バス501に接続された、周知のCPU502、ROM503、RAM504、そしてLIB103と近距離無線通信を行うための近距離無線通信部505を備える。
バス501には更に、警告報知部510とシリアルI/F511が接続されている。警告報知部510は、表示部506、及び/又はLED等の発光素子507、及び/又はD/A変換器508とスピーカ509等から構成される。シリアルI/F511の先には充電器105又は図示しない充放電制御スイッチが接続されており、充放電制御装置107は、LIB103が交換寿命に至ったと判断した場合にシリアルI/F511から充電停止制御信号を出力して、充電の禁止を強制的に行う。
【0027】
警告報知部510は、LIB使用設備102の使用者に対し、LIB103の交換時期が近いことを示す警告を発する。警告は、LCD等の表示部506における表示や、LED等の発光素子507による点滅発光や、スピーカ509を通じて音声ガイダンス等を発する等、様々な手段を採用できる。勿論、図5では図示していないが、充放電制御装置107がインターネット111の常時接続環境を備えているか、あるいは近距離無線通信部505を通じて、使用者の携帯型無線端末109に対してメッセージを送信することも警告報知部510の機能として採用できる。
【0028】
[充放電制御装置107のソフトウェア機能]
図6は、充放電制御装置107のソフトウェア機能を示すブロック図である。
入出力制御部601は近距離無線通信部505を通じて、LIB情報処理部206にROM503に記憶されている機器ID602を送信する。
また、入出力制御部601はLIB情報処理部206から近距離無線通信部505を通じて受信した、累積故障確率テーブル406と個別情報407、そして保存時間テーブル405と、ログテーブル403に記憶されている最新のセル温度データ及び雰囲気温度データよりなる温度データ603を、それぞれRAM504内に保存する。
【0029】
LIB交換時期算出部604は、累積故障確率テーブル406、個別情報407、保存時間テーブル405及び温度データ603を用いて、LIB103の予測寿命と最適交換時期を計算する、蓄電池交換時期算出部である。
そして入出力制御部601は、LIB103の交換時期の目安となる残り充放電回数と残り保存時間の何れかが個別情報407に含まれる警告用閾値を下回った際に、警告報知部510を駆動する。
また、入出力制御部601は、LIB103の交換時期の目安となる残り充放電回数と残り保存時間の何れかが個別情報407に含まれる使用禁止用閾値を下回った際に、充電停止制御信号を出力して、LIB103に対する充電を禁止する。
【0030】
[携帯型無線端末109のハードウェア構成]
図7は、携帯型無線端末109のハードウェア構成を示すブロック図である。
携帯型無線端末109は、バス701に接続された、周知のCPU702、ROM703、RAM704、LCD等よりなる表示部705、及び表示部705の上に設けられて静電式位置検出装置よりなる操作部706を備える。携帯型無線端末109は更に、アクセスポイント110を通じてインターネット111に接続するための無線通信部707、LIB103等と近距離無線通信を行うための近距離無線通信部708、及びフラッシュメモリ等の不揮発性ストレージ709を備える。表示部705と操作部706は周知のタッチパネルディスプレイ710を構成する。
【0031】
[LIB情報サーバ112のハードウェア構成]
図8は、LIB情報サーバ112のハードウェア構成を示すブロック図である。
LIB情報サーバ112は、バス801に接続された、周知のCPU802、ROM803、RAM804、ハードディスク装置やフラッシュメモリ等の不揮発性ストレージ805、インターネット111に接続するためのNIC806を備える、蓄電池情報サーバである。
【0032】
[LIB情報サーバ112のソフトウェア機能]
図9は、LIB情報サーバ112のソフトウェア機能を示すブロック図である。
webサーバプログラム901は、クライアントである携帯型無線端末109から送信される要求を受信して、その要求に応じてHTML(Hyper Text Markup Language)文書や任意のファイル等を携帯型無線端末109に返信する。また、webサーバプログラム901は、要求内容に該当するcgi(Common Gateway Interface)あるいはアプレット等のプログラムを起動して、その実行結果を携帯型無線端末109に送信する。
【0033】
ログ記録処理部902は、携帯型無線端末109から受信したログテーブル403を、LIB使用ログテーブル903に記録すると共に、必要に応じてLIB諸元テーブル904を更新する。そして、ログ記録処理部902は、個別情報返信部905に携帯型無線端末109から受信した機器ID602を引き渡して個別情報返信部905を起動する。
【0034】
個別情報返信部905は、ログ記録処理部902から引き渡された機器ID602を基に、用途マスタ906を参照して、機器ID602に対応する保存時間勾配関数、損失コスト関数、交換コスト関数、警告用閾値、及び使用禁止用閾値を読み込み、これらを累積故障確率テーブル406と共に携帯型無線端末109へ返信する。なお、これ以降、機器ID602に対応する保存時間勾配関数、損失コスト関数、交換コスト関数、警告用閾値及び使用禁止用閾値を包含して、個別情報407と呼ぶ。なお、この個別情報407は、LIB情報サーバ112から携帯型無線端末109を経由してLIB情報処理部206に格納され、その後、LIB103の寿命予測演算のために充放電制御装置107へ送信される情報である。
【0035】
累積故障確率演算部907は、携帯型無線端末109との通信とは無関係に実行され、LIB使用ログテーブル903を読み込み、累積故障確率を算出して、累積故障確率テーブル406に記録する。累積故障確率は、LIB使用ログテーブル903が更新される毎に更新されることが理想であるが、演算量が膨大であるため、累積故障確率演算部907は所定の時間間隔で定期的に実行されることが望ましい。
【0036】
[テーブルのフィールド構成]
図10は、LIB情報サーバ112とLIB情報処理部206が有するテーブルのフィールド構成を示す図である。図10中、LIB使用ログテーブル903、LIB諸元テーブル904、用途マスタ906、累積故障確率テーブル406は、LIB情報サーバ112に存在する。ログテーブル403と保存時間テーブル405は、LIB情報処理部206に存在する。
【0037】
LIB使用ログテーブル903は、LIBIDフィールド、機器IDフィールド、日時フィールド、セル電圧フィールド、電流フィールド、雰囲気温度フィールド、セル温度フィールド、充放電フラグフィールド、及び満充電フラグフィールドよりなる蓄電池使用ログテーブルである。
LIBIDフィールドには、LIB103を一意に識別するためのLIBIDが格納される。
機器IDフィールドには、充放電制御装置107に付され、LIB使用設備102の種類を示す情報である機器ID602が格納される。
日時フィールドには、これ以降のセル電圧等のフィールドの情報を取得した日時情報が格納される。
セル電圧フィールドには、LIB103内部の各バッテリセル202の電圧データが格納される。
【0038】
電流フィールドには、LIB103の電流データが格納される。
雰囲気温度フィールドには、LIB103の雰囲気温度データが格納される。
セル温度フィールドには、LIB103内部の各バッテリセル202のセル温度データが格納される。
充放電フラグフィールドには、LIB103が充電状態であるか又は放電状態であるかを示す充放電フラグが格納される。
満充電フラグフィールドには、LIB103が満充電状態であるか否かを示す満充電フラグが格納される。
【0039】
LIB諸元テーブル904は、LIBIDフィールド、機器IDフィールド、使用状態フラグフィールド、故障の有無フラグフィールド、及び使用終了又は故障日時フィールドよりなる。
LIBIDフィールドと機器IDフィールドは、LIB使用ログテーブル903の同名フィールドと同じである。
使用状態フラグフィールドには、LIBIDフィールドに記録されているLIBIDのLIB103が、現在使用中であるか、又は使用を終了したかを示す使用状態フラグが格納される。
故障の有無フラグフィールドには、LIBIDフィールドに記録されているLIBIDのLIB103が、故障したか否かを示す故障の有無フラグが格納される。
使用終了又は故障日時フィールドには、LIBIDフィールドに記録されているLIBIDのLIB103が、使用を終了したか、又は故障した場合における日時情報が格納される。
【0040】
LIB諸元テーブル904の使用状態フラグフィールドが使用中を示す場合、このレコードに係るLIB103は現在使用中の個体(LIB)である。このレコードの故障の有無フラグフィールドは必ず「故障なし」になる。そして、使用終了又は故障日時フィールドには「NULL」又は「UTC1970年1月1日0時0分」等の有効な日時情報ではない情報が格納される。
LIB諸元テーブル904の使用状態フラグフィールドが使用終了を示し、かつ故障の有無フラグフィールドが故障なしを示す場合、このレコードに係るLIB103は故障せずに使用終了した個体である。このレコードの使用終了又は故障日時フィールドには、使用終了日時が格納される。
LIB諸元テーブル904の使用状態フラグフィールドが使用終了を示し、かつ故障の有無フラグフィールドが故障ありを示す場合、このレコードに係るLIB103は故障により使用終了した個体である。このレコードの使用終了又は故障日時フィールドには、故障日時が格納される。
【0041】
用途マスタ906は、機器IDフィールド、用途フィールド、保存時間勾配関数フィールド、損失コスト関数フィールド、交換コスト関数フィールド、警告用閾値フィールド、及び使用禁止用閾値フィールドよりなる。
機器IDフィールドは、LIB使用ログテーブル903の同名フィールドと同じである。
用途フィールドには、このレコードに係る機器ID602の機器における用途が記述される。例えば、電気自動車、航空機、家屋等の、LIB使用設備102に関する情報である。
【0042】
保存時間勾配関数フィールドには、このレコードに係る機器ID602の機器における、充放電回数に対する保存時間の勾配を示す関数が格納される。すなわち、保存時間勾配関数は、保存時間の勾配を示す保存時間勾配情報ともいえる。
損失コスト関数フィールドには、このレコードに係る機器ID602の機器において、LIB103を運用するにあたって必要なコスト、すなわち発火事故等を引き起こした際に発生するであろうと想定される損害を含む損失コストの計算式が格納される。最も単純な計算式は、一期間あたりの運用額と損害額の加算である。
交換コスト関数フィールドには、このレコードに係る機器ID602の機器において、LIB103を交換した際に発生するであろうと想定されるコストの計算式が格納される。一番単純な計算式は、LIB103の販売額と、輸送代金と、交換手数料等の加算である。
【0043】
警告用閾値フィールドには、このレコードに係る機器ID602の機器において、LIB103の交換時期の目安となる残り充放電回数と残り保存時間の何れかが所定の値を下回った際に警告報知部510を駆動するための閾値が格納される。
使用禁止用閾値フィールドには、このレコードに係る機器ID602の機器において、LIB103の交換時期の目安となる残り充放電回数と残り保存時間の何れかが所定の値を下回った際に充電停止制御信号を出力して、LIB103に対する充電を禁止するための閾値が格納される。
【0044】
LIB103の用途によって、損失コストは大きく異なる。したがって、損失コストが高額になる機器にLIB103を使用する際には、充放電制御装置107は十分なマージンを以って使用者に警告を行い、また十分なマージンを以って使用禁止処理を行うことが望ましい。このため、用途に応じて警告用閾値及び使用禁止用閾値を異ならせるべく、用途マスタ906には警告用閾値フィールドと使用禁止用閾値フィールドを設けている。
【0045】
累積故障確率テーブル406は、充放電回数フィールド、保存時間範囲フィールド、及び累積故障確率フィールドよりなる。
充放電回数フィールドには、LIB103の充放電回数が格納される。すなわち、1から始まる自然数が格納される。
保存時間範囲フィールドには、LIB103の保存時間の範囲が格納される。
累積故障確率フィールドには、LIB103の充放電回数と保存時間における累積故障確率が格納される。
【0046】
ログテーブル403は、日時フィールド、セル電圧フィールド、電流フィールド、雰囲気温度フィールド、セル温度フィールド、充放電フラグフィールド、及び満充電フラグフィールドよりなる。このログテーブル403は、LIB使用ログテーブル903から、LIBIDフィールドと機器IDフィールドとを除外したものと等しい。すなわち、LIB使用ログテーブル903は、複数のLIB103のログテーブル403の集合体である。
【0047】
保存時間テーブル405は、充放電回数フィールド及び保存時間フィールドよりなる。
充放電回数フィールドは、累積故障確率テーブル406の同名フィールドと同じである。
保存時間テーブル405は、充放電回数フィールドの値における保存時間が格納される。なお、保存時間はLIB103の使用開始から現在に至る迄の累積時間である。
【0048】
[動作の流れ]
図11は、LIB情報処理部206、携帯型無線端末109、及びLIB情報サーバ112との通信の流れを示すタイムチャートである。
始めにLIB情報処理部206は、自身をBLEのペリフェラルモードに設定して(S1101)、携帯型無線端末109、すなわちBLEのセントラルから応答が来るまで、アドバタイジングパケットを一定時間間隔で送信し続ける(S1102及びS1103)。
携帯型無線端末109は、LIB情報処理部206から送信されたアドバタイジングパケット(S1104)を受信すると(S1105)、コネクション確立開始要求をLIB情報処理部206へ送信する(S1106)。
【0049】
携帯型無線端末109からコネクション確立開始要求を受信したら、LIB情報処理部206は携帯型無線端末109との通信を確立する(S1107)。同様に、携帯型無線端末109もLIB情報処理部206との通信を確立する(S1108)。
携帯型無線端末109との通信を確立したら、LIB情報処理部206は次にログテーブル403を携帯型無線端末109へ送信する(S1109)。携帯型無線端末109はプロキシ機能によって、LIB情報処理部206から受信したログテーブル403をLIB情報サーバ112へ転送する(S1110)。
【0050】
LIB情報サーバ112は携帯型無線端末109からログテーブル403を受信すると(S1111)、ログ記録処理部902を起動する。ログ記録処理部902は、携帯型無線端末109からログテーブル403と共に受信したLIBIDと機器ID602を基に、携帯型無線端末109から受信したログテーブル403をLIB使用ログテーブル903に追記する(S1112)。そして、ログ記録処理部902は個別情報返信部905を起動する。個別情報返信部905は、個別情報407を携帯型無線端末109へ送信する(S1113)。携帯型無線端末109はプロキシ機能によって、LIB情報サーバ112から受信した個別情報407をLIB情報処理部206へ転送する(S1114)。
【0051】
LIB情報処理部206は、携帯型無線端末109から個別情報407を受信すると(S1115)、携帯型無線端末109との接続を切断するための、コネクション切断要求を携帯型無線端末109へ送信する(S1116)。携帯型無線端末109は、LIB情報処理部206からコネクション切断要求を受信すると(S1117)、コネクションの切断を開始するメッセージをLIB情報処理部206へ送信する(S1118)。LIB情報処理部206は、携帯型無線端末109からコネクションの切断を開始するメッセージを受信すると、コネクションの切断を完了する(S1119)。
【0052】
図12は、LIB情報処理部206と充放電制御装置107との通信の流れを示すタイムチャートである。図11のステップS1119の続きになる。
充放電制御装置107は、常時BLEのペリフェラルモードであるので、アドバタイジングパケットを一定時間間隔で送信し続ける(S1201、S1202)。
図11のステップS1119にて、携帯型無線端末109を介したLIB情報サーバ112との通信を終えたLIB情報処理部206は、自身をBLEのペリフェラルモードからセントラルモードへ転換する(S1203)。
そしてLIB情報処理部206は、ペリフェラルモードからセントラルモードへ転換してすぐに、自身の身近に存在する充放電制御装置107から送信されるアドバタイジングパケットを受信すると(S1205、S1206)、コネクションを確立する(S1207、S1208、S1209)。ステップS1205からS1209迄のコネクション確立の手順は図11のステップS1104からS1108と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0053】
コネクション確立後、LIB情報処理部206は充放電制御装置107に対して機器ID602を要求する(S1210)。充放電制御装置107は、LIB情報処理部206から受信した機器ID602の要求に呼応して、LIB情報処理部206へ機器ID602を送信する(S1211)。LIB情報処理部206は、充放電制御装置107から送信された機器ID602を受信して、RAM又は不揮発性ストレージ709に保存する(S1212)。
次に、機器ID602を受信したLIB情報処理部206は、充放電制御装置107に対して個別情報407を送信する(S1213)。
充放電制御装置107は、LIB情報処理部206から個別情報407を受信すると(S1214)、LIB交換時期算出部604を起動して、最適交換時期を計算する(S1215)。そして、計算した最適交換時期を表示部705に表示する(S1216)。
また、最適交換時期が使用禁止用閾値を下回った場合は、安全確保のため、充電停止制御信号を出力して、LIB103に対する充電禁止処理を行う(S1217)。
【0054】
[寿命予測の仕組み]
本実施形態に係る蓄電池管理システム101は、同一仕様のLIB103から使用状態に関するログを収集して、LIB103の寿命分布推定し、それに基づいて個々のLIB103の寿命を予測する。使用に伴う劣化によって決まるLIB103の寿命に関わるストレスには様々なものが考えられるが、一般的に、最も直接的に劣化に関わると考えられる要素は、充放電回数と保存時間である。
【0055】
充放電回数とは、その名の通り、充放電の回数である。LIB103は充放電の繰り返しによる劣化に伴って容量が低下し、要求される容量を満足することが出来なくなる。この現象をサイクル劣化と呼ぶ。
先にも簡単に説明したが、保存時間とは、LIB103が完全充電状態になってから能動的に使われない状態、又は消費電流が微小な状態が継続した際の時間を指す。LIB103はこの保存時間の累計が長くなるほど容量が低下し、要求される容量を満足出来なくなる。この現象を保存劣化と呼ぶ。
以上の、LIB103のサイクル劣化と保存劣化については、例えば次の論文に詳しい。<https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol13_4/vol13_4_062jp.pdf>
【0056】
累積故障確率は、ある時間tまでに故障が発生する確率である。累積故障確率は寿命の分布の確率密度関数を0からある時間tまで積分したものに一致し、0から1までの範囲を取る。また、一般には時間を単位とする寿命の分布が議論されるが、航空機における「飛行時間」と「離着陸回数」などの複数の時間尺度の寄与を考慮すべき寿命の場合には、多変量の同時寿命分布における累積故障確率を用いることが提案されている。発明者らは、LIB103の寿命予測に、この累積故障確率を導入することで、正確な寿命予測を目指すことを考えた。
図13は、LIB103の充放電回数および保存時間に対する累積故障確率の三次元グラフである。この曲面を表す関数が累積故障確率の母関数となる。この関数の母数の推定値をLIB情報サーバ112に集積された情報から推定することにより、寿命予測や意思決定を行う。
【0057】
LIB103の動作状態から充放電回数を取得することは、充電器105のオン・オフ或は充電器105の接続の有無を計数すればよいので、比較的簡単である。問題はLIB103の動作状態から保存時間を取得することである。
【0058】
図14は、LIB103の充放電フラグ、バッテリセル202の状態、セルモジュール201内部のFETスイッチ203のゲートの状態、及びLIB103の電流を示すタイムチャートである。なお、図14中、電流については概念的な記載である。
図14中、S1401は充放電フラグを示すタイムチャートであり、S1402はセルの状態を示すタイムチャートである。
【0059】
通常、LIB103の充電器105は、CC−CV充電(Constant Current, Constant Voltage)を行う。充電器105は、LIB103の端子間電圧が所定の電圧に到達する迄は、定電流充電を行う(T1からT2)。そして、LIB103が所定の電圧に到達したら、定電圧充電に切り替える(T2からT3)。その後、LIB103の電圧が過充電状態を示す電圧に達したら、充電器105がLIB103の充電を停止する。但し、充電器105には充電停止機能がないものもあるが、問題にはならない。これは、セル保護IC204が過充電状態を検出して充電を停止する機能を備えているためである。
【0060】
セル保護IC204内には図示されていないコンパレータが内蔵されており、バッテリセル202が過充電状態を示す電圧に達した時点で、FETスイッチ203がオフ制御される。すなわち、充電完了状態になると同時に、FETスイッチ203はオフ状態になる(T3からT4)。
充電器105がLIB103から切断された後、LIB103から負荷106に所定の電流が流れる迄の間は、保存時間となる(T4からT5)。
【0061】
ここで、保存時間を考察するに当たり、電気自動車を例に、LIB103の運用を考える。
<a>昼間、電気自動車が運転されている時、LIB103は負荷106に接続されているが、充電器105には接続されていない。
<b>夜間、電気自動車は充電器105に接続される。
<c>しかし、夜間のある時点でLIB103は満充電に至る。この時、LIB103に充電器105は接続されたままの状態である。
セル保護IC204は、内部のコンパレータがセル端子間電圧と閾値を比較して、過充電状態に至ったと判断したら、FETスイッチ203をオフ制御する。
<d>再び昼間になり、電気自動車は充電器との接続が遮断される。そして<a>から再度使用のループを循環する。
【0062】
以上の考察より、「LIB103に充電器105が接続されているけれども充電は行われておらず、また負荷106にも接続されていない。」という状態が、<c>で発生することが判る。
充電器105がLIB103に接続されているか否かを示す充放電フラグだけでは、保存時間を正確に把握することができない。
この、<c>の状態を把握するには、FETスイッチ203のゲートをモニタして、オフ状態になったら満充電になったと判断する機能が必要である。これが、図2のORゲート208であり、図10のLIB使用ログテーブル903における満充電フラグフィールドである。
【0063】
すなわち、本実施形態の蓄電池管理システム101には、充電器105の接続の有無と、満充電状態を検出する機能を、LIB103に内蔵するマイコンであるLIB情報処理部206に持たせることが必要である。そのため、LIB情報処理部206は、セル保護IC204から出力されるFETスイッチ203のゲート制御信号をモニタし、これを満充電フラグとしてログ記録する。
図14の場合、時点T3からT4の間が、満充電フラグとして検出すべき期間である。そして、時点T3からT5迄の間が、保存時間として検出すべき期間である。
【0064】
[最適交換時期の仕組み]
LIB情報サーバ112が累積故障確率曲面を推定することができれば、個々のLIB103における累積故障確率曲線を推定し、更にそこから最適交換時期を求めることが可能になる。
図15は、LIB103の充放電回数と保存時間の推移の一例を示すグラフである。
あるLIB103が常時同じLIB使用設備102に装着されて、一定の使用状態である場合、充放電回数と保存時間の関係は概ね理想的な原点を通る一次関数となることが期待できる。つまり、充放電回数の増加に対して保存時間の増加が概ね一定となる、いわゆる比例関係にあると考えることができる。
【0065】
図15のグラフは、図13の累積故障確率曲面を真上から見下ろした状態と考えることができる。つまり、図13の累積故障確率曲面を、図15の直線で上から切ると、図15に係るLIB103の、累積故障確率曲線を得ることができる。
図16は、LIB103の充放電回数及び保存時間の推移に対する、累積故障確率のグラフである。すなわち、図13の累積故障確率曲面を、図15の直線で上から切って、横から見た状態の図である。
【0066】
累積故障確率に損失コストを乗じると、期待損失コストを求めることができる。
例えば、あるLIB使用設備102でLIB103が発火事故を起こしたとして、その際に生じる損失コストが100万円であったとする。すると、LIB103を使用し続けて、ある時点で累積故障確率が0.5になったら、その時点における期待損失コストは、100万円×0.5=50万円となる。なお、ここでは使用し続ける際に生じる運用コストは無視しうるものとしたが、これを考慮する必要がある際には、上記の機体損失コストに使用期間にわたる運用コストを加算すれば良い。
一方、LIB103を交換した際に生じるコストを交換コストとし、これが10万円であったとする。すると、期待損失コストが10万円になった時点で交換することが、LIB103の最適交換時期となる。
【0067】
図17は、LIB103の期待損失コスト又は交換コストに関するグラフである。この図17のグラフは、図16の累積故障確率曲線に損失コストを乗じた期待損失コストを示す曲線と、LIB103を交換した際に生じる交換コストを示す直線よりなるグラフである。交換コストを示す直線は閾値でもあり、曲線と直線の交点がLIB103の最適交換時期である。
【0068】
汎用のLIB103は、同一のLIB103を様々なLIB使用設備102で使用できる。つまり、中古のLIB103を別のLIB使用設備102で流用することも可能である。例えば、航空機で使用していたLIB103は、その損害額が高額なため、極めて早期に最適交換時期に至ってしまうが、家屋用途ではまだまだ十分使用可能である等の状況が考えられる。LIB103に一意なLIBID401を付与して、その使用状態をLIB情報サーバ112にてログ記録し、用途に応じた期待損失コスト及び交換コストを充放電制御装置107に提示することで、LIB103の生産時点から使用終了に至る迄、LIB情報サーバ112が把握し、資源の有効利用を促進することができる。
【0069】
図18は、LIB103の充放電回数と保存時間の推移の一例を示すグラフである。図18に示すグラフの、図15のグラフとの相違点は、時点T1801において、LIB103の用途が変更されて、傾きが変化している点である。
図19は、LIB103の充放電回数及び保存時間の推移に対する、累積故障確率のグラフである。すなわち、図13の累積故障確率曲面を、図18の直線で上から切って、横から見た状態の図である。図16のグラフと比べると、曲線の傾きが急峻になっていることが判る。
図20は、LIB103の期待損失コスト又は交換コストに関するグラフである。図20のグラフは、図19の累積故障確率曲線に損失コストを乗じた期待損失コストを示す曲線と、LIB103を交換した際に生じる交換コストを示す直線よりなるグラフである。図17と比べて、最適交換時期の充放電回数は少なくなっていることが判る。
【0070】
充放電回数と保存時間の推移は、必ずしも直線であるとは限らない。例えば、先に説明した電気自動車を例に考えると、毎日決まった時間にLIB103の充電を開始し、決まった時間にLIB103の充電を止めて放電を開始したとして、LIB103は充放電を行う毎に劣化し、その容量は低下する。容量が低下すると、保存時間が長くなる。また、LIB103の使用回数が増加するに連れ、LIB103の充放電回数も増加する。すると、LIB103の劣化が更に促進されることとなる。つまり、LIB103を使用し続けることで、一日当たりの保存時間が増大し、これによりLIB103の劣化が加速する。このような利用状況では、LIB103の充放電回数に対する保存時間の推移は、二次関数のような非線形のカーブを描くものと思われる。
図10の用途マスタ906の保存時間勾配関数フィールドには、このようなLIB103の用途における充放電回数に対する保存時間の推移の平均値を近似する近似関数が格納される。
【0071】
図12に示した、LIB103と充放電制御装置107との双方向通信を実行する時点は、図11に示した、LIB103が携帯型無線端末109を通じてLIB情報サーバ112との双方向通信が可能になった時点以外にも必要である。一つは、LIB103の充放電回数がインクリメントされた時点である。もう一つは、直前のLIB103と充放電制御装置107との双方向通信の時点から、保存時間の増分が所定の値を超えた時点である。つまり、充放電制御装置107において最適交換時期の再計算が必要になった時点である。この場合、必ずしもLIB103の近傍に携帯型無線端末109が存在して、LIB情報サーバ112との双方向通信が可能になっているとは限らない。インターネット111に接続されていない状況においても、充放電制御装置107はLIB103の最適交換時期の再計算を行い、然るべき処理を遂行する必要がある。
【0072】
本実施形態に係る蓄電池管理システム101は、LIB103がLIB情報サーバ112との通信ができない状況においても、充放電制御装置107がLIB103の最適交換時期を再計算できるように構成されている。LIB情報処理部206は、自らが記憶しているログテーブル403に基づいて、図15図18にあるような、充放電回数に対する保存時間の傾きを算出できる。そして、LIB情報処理部206はLIB情報サーバ112から受信した累積故障確率テーブル406を記憶している。これらの情報があれば、充放電制御装置107はLIB103の最適交換時期を再計算できる。
【0073】
[計算に因る、累積故障確率の求め方]
LIB使用ログテーブル903からの累積故障確率曲面の推定や、故障判定条件を決定することを目的として、容量劣化量とストレスとの関係を、アイリングモデルを用いて説明する。
繰り返し充放電試験によって直接観測される容量劣化量ΔC[%]のストレス依存性は、充放電回数による劣化と、保存時間による劣化が独立事象であるとするならば、以下のような式で示される。
【0074】
【数1】
【0075】
ここで、Cは容量の観測値、Cは初期容量、Aは定数、fは充放電回数、
tは(累積)保存時間、n,nはべき係数、Eは活性化エネルギー[eV]、
kはボルツマン定数[8.62×10-5;eV/K]、Tは絶対温度[K]を示す。
(1)式を両辺対数変換すると、以下の線形式が得られる。
【0076】
【数2】
【0077】
複数の温度と保存時間の組み合わせで実施した充放電試験から得られる劣化量データのセットについて、(2)式に関する重回帰分析を行うことによって各変数の有意性の検定や、パラメータの推定を行うことが出来る。
また、電圧や別の要素の影響を考慮する際には、(1)式にそれらを考慮する指数関数項を追加し、重回帰分析の変数選択の検討を行ってそれらの有意性を検討する。
(1)式のアイリングモデルは、故障の平均的な挙動を説明する確定論的なモデルである。これを、比例ハザードモデルを用いて寿命分布へ拡張する。
比例ハザードモデルは、寿命tに対する故障率関数h(t|x)を変数分離形の乗法で表すもので、一般に以下の(3)式で表される。
【0078】
【数3】
【0079】
ここで、xは共変量ベクトル、βは偏回帰係数ベクトルである。
本件では、タイムスケールとして充放電回数、保存時間の2つを考慮するため、(3)式を拡張してタイムスケール項としてのベースラインハザードh(t|x)とそれ以外のストレス項を分離する。
【0080】
【数4】
【0081】
(1)式より、温度の影響の項は指数関数の乗法の形になる。β=−E、x=1/kTとすれば、前節の重回帰分析の結果より指数関数項が導かれる。温度以外の項についても、有意となった変数は同様に(4)式の指数関数項に導入する。
寿命分布を知るには、ベースラインハザードh(t,f)がわかれば良い。すなわち、(1)式の指数関数項を用いて基準条件(使用温度最大値など)に変換した劣化量ΔCTMAXが故障判定値の劣化量ΔCTHを超えているか否かで故障、未故障を判定する。判定された時点(t,f)を含む領域の故障率は、後述するノンパラメトリックな方法で求めることが可能である。
【0082】
2変量の累積故障確率関数F(t,f)として、以下の(5)式で示される2変量ワイブル分布を仮定する。
【0083】
【数5】
【0084】
前記の(1)式のように、保存時間と充放電回数の劣化に独立を仮定した場合にはδ=1となり、以下の(6)式となる。
【0085】
【数6】
【0086】
(6)式の分布の同時確率密度関数は以下のようになる。
【0087】
【数7】
【0088】
(6)式および(7)式を用いて、尤度関数Lは以下のように示される。
【0089】
【数8】
【0090】
ここで、dは故障と判定(ΔCTMAX≧ΔCTH)されたLIB103の個数、uは未故障と判定(ΔCTMAX<ΔCTH)されたLIB103の個数であり、d+uが総LIB数である。(8)式を最大化するパラメータが最尤推定値となり、これを(6)式に与えることによって、累積故障確率曲面が示される。
【0091】
[ノンパラメトリックな方法による累積故障確率の推定法]
前述の累積故障確率の推定法は、比較的少量のLIB使用ログテーブル903を用いた統計的推定に依るものである。しかし、LIB使用ログテーブル903に記憶されるLIB103の個数が膨大になると、統計的推定を用いずに、直接的に累積故障確率曲面を求めることができる。なお、これ以降の説明中、カウンタ変数iとjは、1から始まる自然数である。
<1>先ず、LIB使用ログテーブル903に記憶されている全てのLIB103について、充放電回数を計数する。充放電回数の「1回」は、「充電してから放電」を1回分とする。
LIB使用ログテーブル903から、以下のフィールドよりなる中間テーブルを作成する。
【0092】
【表1】
【0093】
中間テーブルは、LIB使用ログテーブル903から、セル電圧フィールド、雰囲気温度フィールド、セル温度フィールドを除外し、充放電回数フィールドを加えたものである。
【0094】
<2>次に、中間テーブルの、充放電フラグが「充電」から「放電」に転換した時点から、電流が所定の閾値未満の状態を維持している期間と、満充電フラグが「満充電」を指している期間を加算して、単位保存時間とする。中間テーブルに単位保存時間フィールドを追加する。
【0095】
【表2】
【0096】
<3>この中間テーブルから、最終的な充放電回数を取り出し、単位保存時間を累積加算して保存時間とした、中間ファイルを作成する。更に、LIB諸元テーブル904の使用状態フラグを参照して、生死フラグを追加する。
【0097】
【表3】
【0098】
生死フラグが「生存中」を示している場合、充放電回数は、現時点の充放電回数を意味し、累積保存時間は、現時点のトータルの保存時間を意味する。
生死フラグが「使用終了又は故障」を示している場合、充放電回数は、使用終了又は故障時点の充放電回数を意味し、累積保存時間は、使用終了又は故障時点のトータルの保存時間を意味する。
【0099】
<4>次に、保存時間を所定の時間幅で区切り、生死状況テーブルを作成する。この生死状況テーブルに、中間ファイルの数を格納する。
【0100】
【表4】
【0101】
<5>生死状況テーブルの、要素毎の故障率を算出する。
生死状況テーブルの、充放電回数i回目、保存時間範囲j番目の死亡数を、充放電回数i回目以降、保存時間範囲j番目以降の全ての生存数及び死亡数で割ったものが、充放電回数i回目、保存時間範囲j番目の故障率の推定値である。
iとjを1から順にインクリメントして、生死状況テーブルの全要素の故障率を推定する。
こうして算出した故障率の推定値を、故障率テーブルに格納する。
【0102】
【表5】
【0103】
<6>次に、故障率テーブルの、要素毎の累積ハザード値を推定する。
故障率テーブルの、充放電回数i回目、保存時間範囲j番目の故障率と、充放電回数i回目以前、保存時間範囲j番目以前の全ての故障率を合算したものが、充放電回数i回目、保存時間範囲j番目の累積ハザード値である。
iとjを1から順にインクリメントして、故障率テーブルの全要素の累積ハザード値を推定する。
こうして算出した累積ハザード値の推定値を、累積ハザード値テーブルに格納する。
【0104】
【表6】
【0105】
<7>最後に、累積ハザード値テーブルの各要素に格納されている累積ハザード値Hについて、累積故障確率の推定値をF=1-exp(-H)より算出し、累積故障確率テーブル406に格納する。
【0106】
【表7】
【0107】
図21は、充放電回数と保存時間範囲の平面における、故障率の推定と、累積ハザード値の推定の関係を説明する概念図である。
図21において、今、ターゲットとする区画P2102の故障率(ハザードレート)は、区画P2102で観測されたLIB103の故障数を、区画P2101以降に対応する全ての区画に属するLIB103の全数(故障又は使用停止したLIBの数+稼働中のLIBの数)で割った数になる。
次に、区画P2102の累積ハザード値は、区画範囲P2103に対応する全ての区画の故障率を合計した値になる。
こうして求められた累積ハザード値から、累積故障確率F=1-exp(-H)を区画毎に算出することで、累積故障確率テーブル406が完成する。
【0108】
以上に記した計算方法で求めた累積故障確率テーブル406は、図13に示す累積故障確率曲面を形成する。データ数が比較的少数の場合には前述の統計的手法により、累積故障確率の分布関数を求めて曲面を推定する必要があるが、十分に数の大きいビッグデータの場合には、テーブルそのものが累積故障確率曲面を表現する。この累積故障確率曲面は、LIB103のリスク判定モデルと呼ぶこともできる。LIB103が故障するリスクを判定するための、LIB103の寿命を一般化したモデルである。
【0109】
上記の実施形態には、以下に示す応用例が可能である。
(1)ビッグデータから累積故障確率を求める手順において、LIB103の動作環境における温度を考慮していなかったが、保存時間を標準温度における保存時間に変換することで、より精緻な故障予測を実現することができる。
寿命τ(h)と温度T(K)の関係は、下記のアレニウスモデルによく従う。
【0110】
【数9】
【0111】
上記(9)式において、Eは活性化エネルギー(eV)、kはボルツマン定数[8.62×10-5;eV/K]である。活性化エネルギーは対象となる現象の特有の値で、理論的に求めるか、もしくは実験的に求める。殆どの場合は後者である。
このモデルを用いて、異なる二つの温度(T,T)の下での寿命(τ,τ)の変換係数(加速係数α)は、以下のように求める。
【0112】
【数10】
【0113】
この加速係数を用いれば、保存時間を求める手順において、任意の温度における保存時間の長さを予め想定する標準温度に変換する事が可能である。なお、ここでいう標準温度とは、デバイスの信頼性保証の観点で設定する。一般的に、デバイスの信頼性保証は動作保証温度の上限で行う。例えば、ALM−12Vの場合は58℃となっているので、この温度を採用する。
そして、充放電制御装置107において、累積故障確率曲面から標準温度のもとでの余寿命予測を行った後、想定される使われ方における温度に対して上式を用いた逆変換を行えば、より精緻な余寿命予測を実現できる。
【0114】
(2)本実施形態の蓄電池管理システム101では、LIB103は能動的な充電禁止を行わない構成であったが、充放電制御装置107が担当する、最適交換時期の計算と、安全確保のための充電禁止処理を、LIB103内部に設けてもよい。半導体素子の低価格化が進む、及び/又は社会システムにおけるLIB103のリサイクル事業が発展すれば、実現が可能である。
【0115】
(3)LIB使用設備102が家屋等の建造物では、インターネット111の常時接続環境が整っていることが多い。この場合、充放電制御装置107にインターネット111とのネットワーク接続機能を持たせ、携帯型無線端末109の機能を兼用することもできる。
【0116】
(4)上述の実施形態では、LIB情報サーバ112が算出した累積故障確率テーブル406をそのままLIB103のLIB情報処理部206、そして充放電制御装置107に複写していたが、充放電制御装置107に必要な累積故障確率の情報は、累積故障確率テーブル406の全てではない。LIB103の寿命予測に必要な累積故障確率の情報は、現時点から未来の累積故障確率の情報である。したがって、過去の累積故障確率の情報は不要であるので、LIB情報サーバ112は累積故障確率テーブル406から現時点以前の累積故障確率のレコードを間引いて、LIB情報処理部206へ送信することができる。
【0117】
(5)上述の実施形態では、LIBの蓄電池管理システム101を説明したが、管理対象とする蓄電池はLIBに限られない。リチウムポリマー電池、またナトリウム・硫黄電池等、エネルギー密度が高い二次電池なら、本実施形態に係る蓄電池管理システム101にて管理することが可能である。
【0118】
本実施形態においては、蓄電池管理システム101を開示した。
本実施形態に係る蓄電池管理システム101は、LIB103に一意なLIBID401を付与して、LIB103の稼働状態をログテーブル403に記録し、LIB情報サーバ112にてLIB使用ログテーブル903に集約する。そして、膨大なLIB使用ログテーブル903を基に累積故障確率を算出して、累積故障確率テーブル406を作成する。充放電制御装置107は、LIB情報サーバ112からLIB103を経由して受信した累積故障確率テーブル406、保存時間勾配関数、損失コスト関数、交換コスト関数、警告用閾値、及び使用禁止用閾値を基に、LIB103の最適交換時期を算出する。そして、必要に応じて使用者にLIB103の交換時期が近いことを警告し、また必要に応じてLIB103に対する充電を禁止する。
このように、ビッグデータに基づきLIB103のリスク判定モデルを形成し、LIB103の寿命予測を正確なものとすることで、資源の有効利用を促進することができる。
【0119】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
例えば、上記した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることは可能であり、更にはある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行するためのソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の揮発性あるいは不揮発性のストレージ、または、ICカード、光ディスク等の記録媒体に保持することができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0120】
101…蓄電池管理システム、102…LIB使用設備、103…LIB、104…商用交流電源、105…充電器、106…負荷、107…充放電制御装置、108…表示部、109…携帯型無線端末、110…アクセスポイント、111…インターネット、112…LIB情報サーバ、201…セルモジュール、202…バッテリセル、203…FETスイッチ、204…セル保護IC、205…セル電圧測定部、206…LIB情報処理部、207…バッファ、208…ORゲート、209…正極側端子、R210…シャント抵抗、211…負極側端子、212…オペアンプ、213…セル温度センサ、214…雰囲気温度センサ、215…充電器接続検出端子、216…近距離無線通信部、301…バス、302…CPU、303…ROM、304…RAM、305…不揮発性ストレージ、306…RTC、307…A/D変換器、308…シリアル・インターフェース、309…近距離無線通信部、401…LIBID、402…入出力制御部、403…ログテーブル、404…保存時間算出部、405…保存時間テーブル、406…累積故障確率テーブル、407…個別情報、501…バス、502…CPU、503…ROM、504…RAM、505…近距離無線通信部、506…表示部、507…発光素子、508…D/A変換器、509…スピーカ、510…警告報知部、601…入出力制御部、602…機器ID、603…温度データ、604…LIB交換時期算出部、701…バス、702…CPU、703…ROM、704…RAM、705…表示部、706…操作部、707…無線通信部、708…近距離無線通信部、709…不揮発性ストレージ、710…タッチパネルディスプレイ、801…バス、802…CPU、803…ROM、804…RAM、805…不揮発性ストレージ、806…NIC、901…webサーバプログラム、902…ログ記録処理部、903…LIB使用ログテーブル、904…LIB諸元テーブル、905…個別情報返信部、906…用途マスタ、907…累積故障確率演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21