(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555715
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】リンパ浮腫モニタ装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/05 20060101AFI20190729BHJP
【FI】
A61B5/05 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-153743(P2015-153743)
(22)【出願日】2015年8月3日
(65)【公開番号】特開2017-29487(P2017-29487A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(72)【発明者】
【氏名】武居 昌宏
【審査官】
佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/002992(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/077838(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/047859(WO,A1)
【文献】
特開2008−206875(JP,A)
【文献】
特開2002−335978(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0190655(US,A1)
【文献】
中国実用新案第203354542(CN,U)
【文献】
特開2013−233357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の腕又は足の周囲に配置される複数の電極を備えた電極バンドと、
アルブミン特有の緩和周波数に関する電気的特性を測定する計測手段、前記計測手段が測定した電気的特性に基づき早期リンパ浮腫を検出するリンパ浮腫推測手段と、を備えた情報処理装置と、を有するリンパ浮腫モニタ装置。
【請求項2】
前記計測手段が測定する電気的特性は、インピーダンス、レジスタンス、リアクタンス、キャパシタンス、アドミタンス、コンダクタンス、サセプタンス及び位相の少なくともいずれかである請求項1記載のリンパ浮腫モニタ装置。
【請求項3】
前記情報処理装置は、前記使用者の腕又は足の断面形状を推測する断面形状推測手段を備えている請求項1記載のリンパ浮腫モニタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ浮腫モニタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の日本では、乳がん罹患者は年間約7万人、子宮がん罹患者は約2万人にも達し、これらがん罹患者に対してはリンパ節郭清を伴う外科手術が一般的な治療方法である。
【0003】
ところが、この外科手術の結果として患者のリンパ管が閉塞し、アルブミンが細胞間質に溜り、上腕や下肢部が以上に膨れてしまうリンパ浮腫が発生してしまう場合がある。
【0004】
現状の医療技術ではリンパ浮腫の発生を根絶することは困難であり、リンパドレナージというマッサージを用いることでリンパ浮腫の進行を遅延させるのがリンパ浮腫に対する現実的な対処法となっている。
【0005】
したがって、患者、看護師及び医者が、患者の上腕や下肢部の「どこにおいて」、「どれだけ」リンパ浮腫が進行しているのかといった情報をリアルタイムで把握することは非常に重要である。
【0006】
上記リンパ浮腫の進行状態の把握に関しては、例えば、下記特許文献1に、上腕と下肢に8個程度の電極を配置し、電極間でインピーダンスを計測し、特定の換算式によってリンパ浮腫の程度を判断する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−233357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、水分量を計測するにすぎず、一見して判断できる中後期のリンパ浮腫であればリンパ浮腫の程度を判断することができるが、一見して判断できない初期の段階についても判断することは容易ではない。
【0009】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、リンパ浮腫の状態を推測することのできるリンパ浮腫モニタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の一観点に係るリンパ浮腫モニタ装置は、使用者の腕又は足の周囲に配置される複数の電極を備えた電極バンドと、アルブミン量に基づく複数の電極間の電気的特性を測定する計測手段、計測手段が測定した電気的特性に基づきリンパ浮腫の状態を推測するリンパ浮腫推測手段と、を備えた情報処理装置と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本観点において、限定されるわけではないが、計測手段が測定する電気的特性は、インピーダンス、レジスタンス、リアクタンス、キャパシタンス、アドミタンス、コンダクタンス、サセプタンス及び位相の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0012】
また本観点において、限定されるわけではないが、情報処理装置は、前記使用者の腕又は足の断面形状を推測する断面形状推測手段を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上、本発明により、リンパ浮腫の状態を推測することのできるリンパ浮腫モニタ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係るリンパ浮腫モニタ装置の構成概略を示す図である。
【
図2】実施形態に係るリンパ浮腫モニタ装置の気のブロックを示す図である。
【
図3】実施形態に係る電極バンドの概略を示す図である。
【
図4】実施形態に係るリンパ浮腫も似た装置の他の一例を示す図である。
【
図5】実際に装着した場合における電極バンドの形状のイメージを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本実施形態に係るリンパ浮腫モニタ装置(以下「本装置」ともいう。)1の概略を示す図であり、
図2はこの機能ブロックを示す図である。本図で示すように、本装置1は、使用者の腕又は足の周囲に配置される複数の電極21を備えた電極バンド2と、アルブミン量に基づく複数の電極2間の電気的特性を測定する計測手段31、計測手段が測定した電気的特性に基づきリンパ浮腫の状態を推測するリンパ浮腫推測手段32と、を備えた情報処理装置3と、を有する。
【0017】
本実施形態における電極バンド2は、上記のとおり、使用者の腕又は足の周囲に配置されるものである。より具体的には、電極バンド2は、複数の電極21と、この複数の電極が配置されるバンド22と、この電極に接続される複数の導線23と、この複数の導線23を束ねるケーブル24と、を備えて構成される。
図3に、この概略を示しておく。
【0018】
本実施形態においてバンド22は、上記のとおり複数の電極21を配置することのできるものであって、バンド22を使用者の腕又は脚に巻きつけることで、複数の電極21を患者の使用者の腕又は脚の周囲に配置させることができるものとなっている。
【0019】
本実施形態においてバンド22は、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば布、ゴム、皮等の柔軟性のある素材で構成されていることは好ましい一例である。ただし、後述の記載からも明らかなように、使用者の腕又は脚の断面形状を推定する際、電気的特性の推測を容易にする観点から、バンドは絶縁性の部材によって構成されていることが好ましい。
【0020】
本実施形態において複数の電極21は、上記のとおりバンド22に配置されている。複数の電極21の材質は、導電性である限りにおいて限定されるわけではないが、例えば銅、
アルミニウム、金、銀等の金属であることが好ましい。
【0021】
また本実施形態において複数の電極21の形状は、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではなく、丸、楕円、多角形、不定形であってもよいが、例えば四角形、更には板状であることは好ましい一例である。また、本実施形態において、複数の電極21の形状はいずれも同じ形であることが好ましい。
【0022】
また本実施形態において、複数の導線23は、この複数の電極22それぞれに接続され、さらに後述の計測手段31に接続されるものである。この材質としては、導電性を有する限りにおいて特に制限されるわけではなく、銅やアルミニウムなどの金属の線を用いることができる。なお、複数の導線23は、可撓性を備えたプラスチック等の絶縁物によって被覆されていることが好ましい。このようにすることで電極21において感知される電気的信号を良好に伝達することが可能となる。
【0023】
また本実施形態では、複数の導線23を束ねたケーブル24を備えている。ケーブル24を設けることで、線を簡略化し、複数の導線23によって複数の導線が絡み合うことを防止する。またこのケーブル24は、複数の導線23をまとめた上で、さらに可撓性を備えたプラスチック等の絶縁物によって被覆されていることが好ましい。
【0024】
また本実施形態における、情報処理装置3は、上記電極バンド2に接続され、電気的特性を計測し、リンパ浮腫の状態を推測することのできるものである。より具体的には、上記のとおり、アルブミン量に基づく複数の電極2間の電気的特性を測定する計測手段31、計測手段が測定した電気的特性に基づきリンパ浮腫の状態を推測するリンパ浮腫推測手段32と、を備えている。なお、本実施形態において、電気的特性としては、限定されるわけではないがインピーダンスであることが好ましい。
【0025】
また本実施形態において、計測手段31は、上記のとおりアルブミン量に基づく複数の電極2間の電気的特性を測定することのできるものである。より具体的には、本計測手段31は、複数の電極を用いた多点のインピーダンス測定を行い、その結果を出力する。なおこのため、計測手段31には、所望の電極に対し任意に電気的信号を出力するための電源及びその結果の電圧、電流を計測するための計測器及びこれらを制御する制御器とを備えている。
【0026】
また、本実施形態において、リンパ浮腫推測手段32は、上記のとおり、計測手段が測定した電気的特性に基づきリンパ浮腫の状態を推測する手段である。具体的には、早期リンパ浮腫に特有な細胞間質に滞留したアルブミン特有の緩和周波数に関しインピーダンス測定を行い、どこにどれだけの量のアルブミンが存在するのかを推測することができる。
【0027】
本実施形態において、より具体的なリンパ浮腫の推測方法としては、特に限定されるわけではないが、例えば特許第5674006号明細書に記載の方法をアルブミン特有な緩和周波数に適用することで対応することができる。この結果、本実施形態では、どこにどれだけの量のアルブミンが存在しているのかを確認することができる。特に本装置ではアルブミン特有の緩和周波数を用いることで、血液中のクレアチニン等の他のタンパク、白血球などの他の血球、及びイオンには応答しないため、より精度よく計測することができる。
【0028】
また、本実施形態において、リンパ浮腫推測手段32は、推測したリンパ浮腫の推測値に基づき、リンパ浮腫の状態を判定し、その状態を表示させる機能を備えていることも好ましい。例えば、リンパ浮腫にはいたっていない場合、早期のリンパ浮腫の段階にある場合、すでに一見してリンパ浮腫といえる場合等の段階に分けて表示させること、またはこれらを数値的に表現する機能を備えていることが好ましい。このようにすることでより使用しやすくなるといった利点がある。
【0029】
また本実施形態では、データ送受信手段33を備えていることが好ましい。データ送受信手段33を備えることで、インターネット等外部のネットワークを通じてデータを出力し、その結果を外部のパソコン等の情報処理装置3によりモニタリングすることが可能となるとともに、その分本装置の構成を簡略化することができる。例えば上記のリンパ浮腫推測手段32は、データ送受信手段33により省略可能となる。この場合の機能ブロック図を
図4に示しておく。
【0030】
また本実施形態において情報処理装置3は、使用者の腕又は足の断面形状を推測する断面形状推測手段を備えていることが好ましい。断面形状推測手段を備えることで、リンパ浮腫の状態をより正確に推測することが可能となる。理想的に人間の腕は円形状の断面であることが好ましいが実際は円形状ではなく、その形状は例えば
図5で示すようにくぼみを備えた楕円のような形状となっている場合もあり、しかもこの形状は測定する腕の位置、日時によっても異なってくる。このような場合に、円形状であると推定した上で測定を行った場合、誤差が生じてしまうといった課題がある。
【0031】
そこで、本実施形態では、断面形状推測手段を備えている。これにより、断面形状を推測し、測定対象となるアルブミンの分布をより正確に把握することができる。この具体的な手法としては特に限定されるわけではないが、例えば、電極バンド2に誘電体22を用い、この上に、複数の電極21のいずれかが配置された場合、電気的特性を判断しその電極は一回り以上巻かれた後の電極であると判断する手段であることが好ましい(図中の点線内参照)。このようにすることで、まず、周囲の長さ、使用する電極を判断し、精度を高めることができるようになる。この場合のイメージは上記図に示したとおりである。また、形状については、例えば、電極バンド2の周方向に線状又は板状の圧電素子を複数配置し、この圧電素子の変形に応じて検出される出力に応じてその変形量を算出し、その形状を推測することとしてもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、アルブミン量の解析のための一例として電気的特性としてインピーダンスを用いて説明したが、同様の解析を行うことができる限りにおいてレジスタンス、リアクタンス、キャパシタンス、アドミタンス、コンダクタンス、サセプタンス及び位相の少なくともいずれかを計測することとしてもよい。
【0033】
以上、本実施形態により、リンパ浮腫の状態を推測することのできるリンパ浮腫モニタ装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、リンパ浮腫モニタ装置として産業上の利用可能性がある。