特許第6555737号(P6555737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555737
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】外断熱建物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20190729BHJP
   E04G 17/06 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   E04B1/76 500E
   E04G17/06 101A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-28859(P2015-28859)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2016-151130(P2016-151130A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】593151734
【氏名又は名称】ダイナガ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】玉井 修一
(72)【発明者】
【氏名】新里 誠一
【審査官】 村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−355303(JP,A)
【文献】 特開平10−131489(JP,A)
【文献】 特開平11−193588(JP,A)
【文献】 実開昭61−032409(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3186865(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3056515(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/76
E04B 2/86
E04G 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート壁の外側に、前記コンクリート壁に近い内側から順に断熱材と耐火性外壁材とタイル層とが配置されている建物の施工方法であって、
前記外壁材と断熱材とが接着されていると共にボルト挿通穴が空いている積層パネル、前記コンクリート壁の内面に重なる内型枠、前記積層パネルと内型枠との間隔を規制するセパレータ装置、前記積層パネルと内型枠とを自立姿勢に保持する内外のフレーム材を用意し、
前記セパレータ装置で間隔が規制された積層パネルと内型枠との内外両側に前記フレーム材を配置して、前記フレーム材に貫通して前記セパレータ装置にねじ込まれた内外の仮固定ボルトを使用して前記フレーム材を積層パネル及び内型枠に固定することにより、前記積層パネルと内型枠と内外フレーム材とを一体に保持する、
前記積層パネルと内型枠との間にコンクリートを打設する、
コンクリートが固まってから少なくとも外側のフレーム材及び仮固定ボルトを取り外す、
頭付き本固定ボルトの軸部を前記積層パネルのボルト挿通穴に挿通して前記セパレータ装置にねじ込むことにより、前記積層パネルを前記コンクリート壁に固定する、
前記外壁材の外面にタイルを貼る、
という工程を有する構成において
前記本固定ボルトは金属製であって前記仮固定ボルトと同じ外径であり、前記外壁材の外面に、前記本固定ボルトの頭が隠れる座繰り穴を空けている一方、
前記セパレータ装置は、金属製のスペーサボルトとその両端に設けた合成樹脂製の端部材とからなっており、前記端部材は、フランジを有さない中空筒状で、その内周に、前記スペーサボルト及び仮固定ボルト並びに本固定ボルトが螺合し得る雌ねじが一体に形成されており、
前記両端部材のうち外側に位置した一方の端部材の端面を前記積層パネルの内面に当接させることにより、前記一方の端部材の端面を前記コンクリート壁の外面と同一面に設定し、
更に、前記セパレータ装置における一方の端部材に前記本固定ボルトをねじ込むことにより、前記積層パネルが前記コンクリート壁の外面に押さえ保持されている、
外断熱建物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、外断熱のコンクリート製建物の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製建物の断熱手段は内断熱と外断熱とに大別される。いずれにしても、コンクリート壁の表面に断熱材を配置するものであり、同じ性能の断熱材を使用すると、断熱性能は外断熱が優れているのが一般的である。
【0003】
また、内断熱にしても外断熱にしても、断熱材を後加工で取り付ける場合と、断熱材が壁材に一体化された積層パネルを型枠として、コンクリートの打設によって一体化させる場合とがある。そして、外断熱において、型枠を兼用する化粧用の表面板に断熱材を予め貼り付けておく工法が、特許文献1に開示されている。このように壁材としての化粧板をコンクリート打設のための型枠に兼用すると、施工に要する手間やコストを大幅に低減できる利点がある。
【0004】
他方、外断熱の一つの問題は耐火性能の保持であるが、特許文献1の表面板として例示されている繊維入りのセメント板は耐火性であるため、防火性能に優れている。また、特許文献1では特殊な金具を使用しているが、表面板は金具によってコンクリート壁に押さえ保持されているため、火災に際して断熱材が溶損しても表面板が離反することはなくて、火災時の安全性にも優れていると云える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−163343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、建物の外壁としては、窯業系やセメント系の壁材(サイディング)を使用したり、コンクリート壁の打ちっ放しにしたり、タイルを貼ったりすることが行われている。特許文献1はセメント系の壁材(表面材)を使用した例であるが、表面材を残存型枠として使用すると、工事中に表面材が傷つく可能性も高いため、工事に慎重を要するという問題がある。
【0007】
他方、コンクリート製の建物では外面にタイルを貼ることは広く行われており、そこで、コンクリート製建物において外断熱としつつ外面をタイル貼りすることが考えられる。その手段として、特許文献1の表面材をタイルに置き換えることが考えられるが、この場合は、断熱材の表面にモルタル層を形成するなどせねばならないため、工事に多大の手間がかかるのみでなく、断熱材が溶損するとタイルが落下するため、防火性・耐火性の問題もある。
【0008】
また、コンクリートの打設に際して断熱材を起立姿勢に保持するための型枠が必要になるため、施工の手間とコストが相当に嵩むことは否めない。
【0009】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、外断熱方式でタイル貼りされたコンクリート製建物の施工方法において、耐火性・防火性に優れて施工コストもできるだけ抑制できる工法を提供せんとするものである。また、本願は、施工方法に関連した部材や壁の構造などに関する改良も含んでおり、これらの改良も目的たり得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、コンクリート壁の外側に、前記コンクリート壁に近い内側から順に断熱材と耐火性外壁材とタイル層とが配置されている建物の施工方法であり、この施工方法には、
「前記外壁材と断熱材とが接着されていると共にボルト挿通穴が空いている積層パネル、前記コンクリート壁の内面に重なる内型枠、前記積層パネルと内型枠との間隔を規制するセパレータ装置、前記積層パネルと内型枠とを自立姿勢に保持する内外のフレーム材が使用される。
【0011】
更に本願発明では、
(1).前記セパレータ装置で間隔が規制された積層パネルと内型枠との内外両側に前記フレーム材を配置して、前記フレーム材に貫通して前記セパレータ装置にねじ込まれた内外の仮固定ボルトを使用して前記フレーム材を積層パネル及び内型枠に固定することにより、前記積層パネルと内型枠と内外フレーム材とを一体に保持する、
(2).前記積層パネルと内型枠との間にコンクリートを打設する、
(3).コンクリートが固まってから少なくとも外側のフレーム材及び仮固定ボルトを取り外す、
(4).頭付き本固定ボルトの軸部を前記積層パネルのボルト挿通穴に挿通して前記セパレータ装置にねじ込むことにより、前記積層パネルを前記コンクリート壁に固定する、
(5).前記外壁材の外面にタイルを貼る、
という基本構成を有している。
【0012】
更に本願発明は、上記基本構成に加えて、
「前記本固定ボルトは金属製であって前記仮固定ボルトと同じ外径であり、前記外壁材の外面に、前記本固定ボルトの頭が隠れる座繰り穴を空けている一方、
前記セパレータ装置は、金属製のスペーサボルトとその両端に設けた合成樹脂製の端部材とからなっており、前記端部材は、フランジを有さない中空筒状で、その内周に、前記スペーサボルト及び仮固定ボルト並びに本固定ボルトが螺合し得る雌ねじが一体に形成されており、
前記両端部材のうち外側に位置した一方の端部材の端面を前記積層パネルの内面に当接させることにより、前記一方の端部材の端面を前記コンクリート壁の外面と同一面に設定し、
更に、前記セパレータ装置における一方の端部材に前記本固定ボルトをねじ込むことにより、前記積層パネルが前記コンクリート壁の外面に押さえ保持されている」
という構成を有している。
【0013】
【0014】
【0015】
なお、本願発明において、断熱材として発泡樹脂を使用する場合、これに、白蟻の侵入を阻止する防蟻剤を混入させることも可能である。この場合、防蟻剤としては、安全性と効果との両立の点からチアメトキサムが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本願各発明では、外壁材と断熱材とからなる積層パネルが型枠を兼用しているため、施工の手間とコストとを大きく抑制できる。また、外壁材は耐火性でしかも外面にはタイルが貼られるため、防火性性能に優れている。
【0017】
また、特許文献1では表面材(外壁材)が露出しているため、隣り合った表面材にずれがあると見た目が非常に悪くなるが、本願発明では外壁材はタイルで覆われているため、隣り合った外壁材の間に多少のずれ(上下方向や左右方向のずれ、或いは厚さ方向のずれ)があっても目立つことはなくて、美しい仕上がりを実現できる。
【0018】
更に、外壁材はタイルで覆われるため、工事中に外壁材が多少傷ついても特段の問題は生じない。このため、外壁材を慎重な取り扱うことは不要であり、それだけ工事の手間を抑制することができる。
【0019】
そして、外壁材は本固定ボルトによってコンクリート壁に固定されているため、火災に際して断熱材が溶損しても外壁材が脱落することはない。このため、火災が起きた場合の安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1実施形態の施工途中の状態を示す斜視図である。
図2】(A)は図1の部分正面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
図3】第1実施形態を示す図で、(A)はコンクリート打設工程の図、(B)はフレーム材を除去した後の図、(C)は外壁材をねじ止めした状態の図である。
図4】(A)はタイルを貼った後の断面図、(B)は(A)のB−B視正面図である。
図5】ねじ止めしない箇所の処理方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1).第1実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は施工途中の状態を示しており、壁の要素として、外型枠を兼用する積層パネル1と、内型枠を兼用する内壁材2を備えている。積層パネル1と内壁材2とは、セパレータ装置3によって所定の間隔に保持されている。積層パネル1と内壁材2とは、いずれも縦長の長方形になっている。
【0022】
積層パネル1は、外側に位置した外壁材4と内側に位置した断熱材5とを接着して構成されており、外壁材4の外面には、縦長フレーム材6の群が重なっており、縦長フレーム材6の群に外側から横長フレーム材7の群が重なっている。内壁材2の内側にも、縦長フレーム材6と横長フレーム材7との群が配置されている。縦長フレーム材6,7はC形のチャンネル材を使用しているが、丸パイプや角パイプなども使用できる。
【0023】
外壁材4は、窯業系やセメント系の板材、珪酸カルシウム板など耐火性不燃材が使用されている。断熱材4は、例えば、発泡ポリスチレンや発泡スチロールなどの発泡樹脂が使用される。勿論、グラスウールのような無機質のものも使用可能である。断熱材4は、外壁材4よりも厚くなっている。内壁材2は、例えば、珪酸カルシウム板のような不燃材が使用できるが、コンパネのような木質板や、ALC板なども使用可能である。
【0024】
図2に示すように、セパレータ装置3は、水平姿勢スペーサボルト9と、これに両側からねじ込まれた一対の端部材10とで構成されており、端部材10に、縦横のフレーム材6、7の交叉部に貫通した仮固定用ボルト11が外側からねじ込まれている。従って、端部材10は、フランジを持たない中空筒状に形成されていて、内周には、両端に開口した状態で雌ねじが一体に形成されている。スペーサボルト9はスチールやステンレスのような金属製であり、端部材10は樹脂製である。
【0025】
スペーサボルト9には端部材10に重なるフランジ12が形成されており、このため、積層パネル1と内壁材2との間隔は一定に保持されている。
【0026】
外壁材4及び断熱材4には、仮固定用ボルト11が挿通するボルト挿通穴13,14を空けている。この場合、外壁材4のボルト挿通穴13の箇所に、ある程度の深さの座繰り穴15が外向きに開口した状態で形成されている。仮固定用ボルト11には、横長フレーム材7の内面に当接するナット16が外側からねじ込まれており、ナット16と端部材10とにより、積層パネル1とフレーム材6,7とが挟み固定されている。内壁材2とフレーム材6,7も、端部材10とナット16とで挟み固定されている。
【0027】
壁の施工手順を図3,4に示している。すなわち、図3に示すように、上記のような手段で積層パネル1と内壁材2とを所定姿勢に保持して、その状態でコンクリートを打設して固まらせることによってコンクリート壁17を形成し、次いで、図3(B)のとおりフレーム材6,7を取り外し、次いで、図3(C)のとおり、積層パネル1のボルト挿通穴13,14に挿通した頭付きの本固定ボルト18を端部材10にねじ込むことにより、積層パネル1をコンクリート壁17に押さえ保持し、次いで、図4に示すように、外壁材4の外面にタイル19の群を貼っていく。図では省略しているが、積層パネル1と内壁材2との間には鉄筋の群が配置されている。
【0028】
本固定ボルト18の頭は、外壁材4に形成した座繰り穴15の内部に納まっている。従って、ボルト18の頭は外壁材4の外側に露出しておらず、タイル19を貼るに際してボルト18の頭が邪魔になることはない。なお、タイル19を貼るに際して、座繰り穴15はモルタルで埋められる。
【0029】
(2).まとめ
以上の構成において、積層パネル1が外型枠を兼用しているため、施工の手間とコストとを大きく抑制できる。しかも、外壁材4は耐火不燃材であって外面にはタイル19が貼られるため、防火性性能に優れている。また、コンクリート壁17と断熱材4とは接着されており、しかも、外壁材4は本固定ボルト18でコンクリート壁17に保持されているため、仮に火災に逢って断熱材4が溶損しても外壁材4が落下することはなくて、火災時の安全性にも優れている。
【0030】
また、隣り合った外壁材4が面方向や厚さ方向に多少ずれていても、タイル19を貼るとずれは全く判らないため、美しい仕上がりを実現できる。更に、外壁材4はタイル19で覆われるため、工事中に多少傷ついても問題はない。このため、外壁材4を慎重に取り扱うことは不要であり、それだけ工事の手間を抑制することができる。
【0031】
本実施形態のように、セパレータ装置3の要素として樹脂製の端部材10を使用すると、樹脂は金属に比べて熱電導性が悪くて断熱性に優れているため、本固定ボルト18からスペーサボルト9への伝熱を抑制して断熱性能を向上できる利点がある。
【0032】
積層パネル1には多数のボルト挿通穴13,14が空いているが、必要とする本固定ボルト18の本数がボルト挿通穴13,14の数より少ないことも想定される。この場合は、本固定ボルト18を挿通する必要がないボルト挿通穴13,14は、図5に示すように、ガンで注入した樹脂系等の充填剤(コーキング剤)20で塞いだらよい。充填剤20の代わりに、断熱材5と同じ素材よりなる棒状体を嵌め込むことも可能である。或いは、モルタルで塞いでもよい。
【0033】
また、図3(C)のように本固定ボルト18をねじ込むに際しては、ボルト挿通穴13,14に図5のような充填剤20を適宜量注入しておいて、本固定ボルト18とボルト挿通穴13,14との間の隙間を埋めておくのも好ましい。なお、本固定ボルト18のねじ込みやタイル19の貼り工程は、内側のフレーム材6,7を取り付けた状態で行うことも可能である。端部材10は、コンクリート壁17に対して回転不能に保持されるように、外周面にリブや溝を形成しておいてもよい。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明は、実際にコンクリート製建物の工法に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 外型枠を兼用する積層パネル
2 内型枠を兼用する内壁材
3 セパレータ装置
4 外壁材
5 断熱材
6,7 フレーム材
9 セパレータ装置を構成するスペーサボルト
10 セパレータ装置を構成する端部材
11 仮固定ボルト
13,14 ボルト挿通穴
15 座繰り穴
17 コンクリート壁
18 本固定ボルト
図1
図2
図3
図4
図5