(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記起伏調査工程では、前記無人航空機に搭載された高度センサを使って取得した海抜高度または該無人航空機の離陸地点からの相対高度、および、前記無人航空機から下方に向けられた測距センサまたは撮影手段を使って取得した対地高度に基づいて、地表または地物の高さを測定することを特徴とする請求項1に記載の無人航空機の飛行高度設定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチコプターに代表される小型の無人航空機は、機体の飛行動作を制御するフライトコントローラとよばれる制御装置を備えている。市場に流通するフライトコントローラ製品の中には、オートパイロット機能を備えているものがある。オートパイロット機能とは、無人航空機の姿勢や飛行位置を自動的に維持したり、操縦者が作成した飛行計画に基づいて無人航空機を自律的に飛行させたりする機能である。一般的なオートパイロットの飛行計画には、機体の離着陸地点や飛行ルートの経緯度、高度、速度、機首の方位角などを指定することができる。その他、空撮に特化した一部のフライトコントローラでは、カメラによる撮影の開始・終了、PTZなどを指定可能なものもある。
【0005】
このようなフライトコントローラは、飛行中の飛行高度を制御するため、気圧センサや、レーザ・超音波による測距センサ、または、カメラを使った画像認識手段を備えている。
【0006】
気圧センサを使った制御では、対地高度ではなく気圧高度に基づいて飛行高度が決定されるため、地表や地物の標高は考慮されない。そのため、例えば山肌の傾斜に沿って無人航空機を飛行させるためには、事前に山肌の起伏を調査して、飛行経路上の飛行高度を逐次手動で指定しなければならない。ここで、地図の等高線を参照して飛行高度を指定しようとする場合、地図の等高線では大まかな標高しか知ることができないため、例えば無人航空機と山肌との距離を5mに維持しながら飛行させるような飛行計画を作成することはできない。一方、山肌の詳細な測量を事前に行う場合には、作業が大掛かりになり、コスト面での問題が生じることとなる。さらに、測量データは年月の経過とともに陳腐化するため、測量データに要求される精度によっては、短い期間で測量を繰り返す必要がある。
【0007】
測距センサや画像認識手段によれば、その場その場における地表や地物との相対距離に基づいて飛行高度を制御することができる。一方、例えば樹木が林立した領域の上を飛行させる場合、相対距離が狭い範囲で乱高下するため、飛行高度が安定しないという問題がある。
【0008】
また、上記いずれの高度制御手段を用いた場合でも、飛行経路の前方に障害物があったときにこれを迂回させるためには、他の方策を講じる必要がある。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、地表または地物の起伏や傾斜に応じて飛行計画の飛行高度を効率的に設定可能な飛行高度設定方法および無人航空機システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の無人航空機の飛行高度設定方法は、無人航空機を飛行させ、地表または地物の高さを測定する起伏調査工程と、前記無人航空機を自律飛行させる経路の指定を含む設定データである飛行計画の作成時に、前記起伏調査工程で測定した地表または地物の高さに基づいて該飛行計画の経路上の
飛行高度を設定する高度設定工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
起伏調査工程において、無人航空機を飛行させて地表または地物の高さを測定することにより、そのときの実際の地形に基づいて飛行高度を設定することが可能となる。そして、本発明の高度設定工程では、起伏調査工程の測定結果に基づいて飛行計画の飛行高度が自動設定されるため、好適な飛行高度を操縦者が計算して入力する手間が省かれる。また、本発明では、高度設定工程で作成した飛行計画に基づいて無人航空機を自律飛行させ、無人航空機に何らかの作業を行わせることを想定しているが、その作業に先立って、無人航空機を地表または地物の高さの測定にも利用することで、別途測量機器等を用意して測量を行う必要がない。そのため、本発明の方法では、測量作業の手間やコストの問題、年月の経過による測量データの陳腐化の問題は生じない。さらに、地図等では把握することができない数m単位の小さな起伏や傾斜を現場で取得することができるため、より実際に即した飛行高度を設定することができる。
【0012】
また、前記起伏調査工程では、前記無人航空機に搭載された高度センサを使って取得した海抜高度または該無人航空機の離陸地点からの相対高度、および、前記無人航空機から下方に向けられた測距センサまたは撮影手段を使って取得した対地高度に基づいて、地表または地物の高さを測定することが好ましい。
【0013】
無人航空機が高度センサと、測距センサまたは撮影手段と、を備え、離陸地点からの相対高度または海抜高度から対地高度を減算することで飛行経路上の地表または地物の高さを算出可能であることにより、地表または地物の高さを容易に特定することが可能となる。さらに、これら二つの高度を使って無人航空機の飛行中の飛行高度を制御することにより、飛行高度の制御精度を向上させることもできる。
【0014】
また、本発明の無人航空機の飛行高度設定方法は、前記無人航空機を自律飛行させる経路を、その経路上の地表または地物の高さに対して余裕をもたせた飛行高度で指定した飛行計画を作成する仮経路設定工程をさらに含み、前記起伏調査工程では、前記仮経路設定工程で作成された前記飛行計画により前記無人航空機を自律飛行させ、該飛行計画の経路上の地表または地物の高さを測定することが好ましい。
【0015】
起伏調査工程の測定結果を高度設定工程で利用するためには、高度設定工程で指定する経路の地表または地物の高さが測定されている必要がある。つまり、起伏調査工程では、高度設定工程で指定する予定の経路を通るように機体を飛行させる必要があり、これを手動操縦で行うためには熟練した操縦技能が必要である。また、テレメトリデータの経緯度値を手元の管理装置で確認しながら操縦する方法も考えられるが、効率のよい方法とはいえない。そこで、飛行高度に余裕をもたせた飛行計画を作成し、その飛行計画を使って自律飛行で起伏調査工程を行うことにより、より効率的に、高度設定工程で指定する経路上の地表または地物の高さを測定することが可能となる。
【0016】
また、前記仮経路設定工程で作成される前記飛行計画、および、前記高度設定工程で作成される前記飛行計画は、経緯度上の経路が略同一であることが好ましい。
【0017】
仮経路設定工程で作成される飛行計画の経路、すなわち起伏調査工程において無人航空機を飛行させる経路の経緯度と、高度設定工程で指定される経路の経緯度とが略同一であることにより、起伏調査工程の測定範囲を実際に必要となる範囲だけに絞り込むことができる。これにより起伏調査工程が効率化されるとともに、高度設定工程における自動設定可能範囲の網羅率を高めることができる。
【0018】
また、本発明の無人航空機の飛行高度設定方法は、前記無人航空機が維持すべき対地高度である目標距離を指定する目標距離設定工程をさらに含み、前記高度設定工程では、前記起伏調査工程で測定した地表または地物の高さに前記目標距離を加えた高さを前記飛行計画の経路上の飛行高度として自動的に設定することが好ましい。
【0019】
地表または地物と無人航空機との目標距離を無人航空機の作業目的に応じて適宜指定することにより、本発明の方法を広範な用途に適用することが可能となる。
【0020】
また、本発明の無人航空機の飛行高度設定方法は、前記高度設定工程で作成した前記飛行計画により前記無人航空機を自律飛行させ、該飛行計画の経路上の地表または地物の高さを測定する起伏再調査工程と、前記起伏再調査工程で測定した地表または地物の高さに前記目標距離を加えた高さを前記飛行計画の経路上の飛行高度として自動的に設定する高度再設定工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0021】
起伏調査工程の測定精度によっては、一度の測定だけでは十分な精度の飛行高度を設定することができない場合もある。そこで、高度設定工程で作成された飛行計画を使って再度、地表または地物の高さを測定することにより、最初の測定結果よりも高精度な測定結果を得ることができる。そして、その測定結果に基づいて飛行計画を作成することにより、より理想的な飛行高度を設定することが可能となる。
【0022】
また、前記高度設定工程で作成される前記飛行計画には、傾斜面に沿った経路が指定されることが好ましい。
【0023】
本発明によれば、一般的なフライトコントローラ製品では困難な、傾斜面に沿った自律飛行を容易に実現することができる。
【0024】
また、上記課題を解決するため、本発明の無人航空機システムは、無人航空機と、前記無人航空機を自律飛行させる経路の指定を含む設定データである飛行計画を作成する管理装置と、を備え、前記無人航空機または前記管理装置は、前記飛行計画に基づいて前記無人航空機を自律飛行させる自律飛行制御手段と、前記無人航空機を飛行させた経路の地表または地物の高さを算出する起伏取得手段と、を有し、前記管理装置は、前記飛行計画の作成時に、前記起伏取得手段で算出した地表または地物の高さに基づいて、前記飛行計画の経路上の飛行高度を自動的に設定する高度設定手段を有することを特徴とする。
【0025】
本発明の無人航空機システムは、地表または地物の高さを算出する起伏取得手段を有することにより、無人航空機を飛行させる実際の地形に基づいて飛行高度を設定することができる。そして、起伏取得手段の算出結果に基づいて高度設定手段が飛行計画の飛行高度を自動的に設定することにより、好適な飛行高度を操縦者が計算して入力する手間が省かれる。また、本発明では、高度設定手段により飛行高度が設定された飛行計画を使って無人航空機を自律飛行させ、無人航空機に何らかの作業を行わせることを想定しているが、その作業に先立って、無人航空機を地表または地物の高さの測定にも利用することで、別途測量機器等を用意して測量を行う必要がない。そのため、本発明の無人航空機システムでは、測量作業の手間やコストの問題、年月の経過による測量データの陳腐化の問題は生じない。さらに、地図等では把握することができない数m単位の小さな起伏や傾斜を現場で取得することができるため、より実際に即した飛行高度を指定することができる。
【0026】
また、前記無人航空機は、海抜高度または離陸地点からの相対高度を取得する高度センサと、地表または地物との距離を測定可能な情報を取得する距離情報取得手段と、を有し、前記無人航空機または前記管理装置は、前記距離情報取得手段で取得した情報から前記無人航空機の対地高度を算出する距離測定手段を有し、前記起伏取得手段は、前記高度センサで取得した海抜高度または離陸地点からの相対高度と、前記距離測定手段で取得した対地高度とに基づいて、地表または地物の高さを算出することが好ましい。
【0027】
高度センサと距離測定手段とを備え、離陸地点からの相対高度または海抜高度から対地高度を減算することで飛行経路上の地表または地物の高さを算出可能であることにより、地表または地物の高さを容易に特定することが可能となる。
【0028】
また、前記管理装置は、前記無人航空機が維持すべき対地高度である目標距離を記憶する目標距離保持部を有し、前記高度設定手段は、地表または地物の高さに前記目標距離を加えた高さを前記飛行計画の経路上の飛行高度として自動的に設定することが好ましい。
【0029】
地表または地物と無人航空機との目標距離を無人航空機の作業目的に応じて適宜指定することにより、本発明の無人航空機システムを幅広い用途に柔軟に適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明の飛行高度設定方法および無人航空機システムによれば、地表または地物の起伏や傾斜に対して無人航空機の飛行高度を効率的に設定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[実施形態概要]
以下、本発明の実施形態(以下、「本例」ともいう。)について説明する。本実施形態は、小型の無人回転翼航空機であるマルチコプター10および管理装置60からなる無人航空機システムSを使って、山麓の傾斜面に造成された果樹園に農薬を散布する作業の例である。
【0033】
図1は、無人航空機システムSを使った農薬散布作業の様子を示す模式図である。本例の農薬散布作業では、マルチコプター10は、予め指定された経路rに沿って、地表である山肌や地物である果樹(以下、これらを総称して「果樹等g」という。)の上を所定の飛行高度aで自律飛行し、農薬を散布する。
【0034】
[機能構成]
(マルチコプターの機能構成)
図2はマルチコプター10の機能構成を示すブロック図である。マルチコプター10は、主に、制御部であるフライトコントローラ11、操縦者が携行する管理装置60から制御信号を受信し、また、管理装置60とデータの送受信を行う通信装置12、固定ピッチのプロペラが装着されたブラシレスモータである複数のロータ13、これらロータ13の駆動回路であるESC131(Electric Speed Controller)、機体下方の果樹等gを撮影する撮影手段であるカメラ40、および、これらに電力を供給するバッテリー19により構成されている。
【0035】
フライトコントローラ11はマイクロコントローラである制御装置20を備えている。制御装置20は、中央処理装置であるCPU21、RAMやROM・フラッシュメモリなどの記憶装置からなるメモリ22、および、ESC131を介して各ロータ13の回転数を制御するPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)コントローラ23を有している。
【0036】
フライトコントローラ11はさらに、IMU31(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)、GPSアンテナ32、気圧センサ33、および電子コンパス34を含む飛行制御センサ群30を有しており、これらは制御装置20に接続されている。
【0037】
IMU31は、主に3軸加速度センサおよび3軸角速度センサにより構成されている。GPSアンテナ32は、正確には航法衛星システム(NSS:Navigation Satellite System)の受信器である。GPSアンテナ32は、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)または地域航法衛星システム(RNSS:Regional Navigational Satellite System)から現在の経緯度値および時刻情報を取得する。気圧センサ33は飛行高度を測定する高度センサの一態様である。気圧センサ33は、検出した気圧値を海抜高度またはマルチコプター10の離陸地点からの相対高度に変換することでマルチコプター10の飛行高度を特定する。なお、本発明の高度センサは気圧センサ33に限られず、例えばGPSアンテナ32でジオイドからの標高を取得することも可能である。電子コンパス34は機首の方位角を測定する方位センサの一態様である。本例の電子コンパス34には3軸地磁気センサが用いられている。制御装置20は、これら飛行制御センサ群30により、機体の傾きや回転のほか、飛行中の経緯度、高度、および機首の方位角を含む自機の位置情報を取得することが可能とされている。
【0038】
制御装置20は、マルチコプター10の飛行時における姿勢や基本的な飛行動作を制御するプログラムである飛行制御プログラム221を有している。飛行制御プログラム221は、飛行制御センサ群30から取得した情報を基に個々のロータ13の回転数を調節し、機体の姿勢や位置の乱れを補正しながらマルチコプター10を飛行させる。
【0039】
本例の制御装置20はさらに、マルチコプター10の自律飛行制御手段である自律飛行プログラム222を有している。自律飛行プログラム222は、マルチコプター10を飛行させる経路rや高度a、速度などの設定データである飛行計画223に基づいてマルチコプター10を自律的に飛行させるプログラムである。なお、本発明でいう「経路r」とは、水平面上(経緯度上)の飛行経路を意味している。自律飛行プログラム222は、操縦者(管理装置60)からの実行指示や所定の時刻などを開始条件として、マルチコプター10を飛行計画223に基づいて自律的に飛行させる。本例ではこのような自律飛行を指して「オートパイロット」という。本例では基本的に、マルチコプター10をオートパイロットで飛行させることを想定しているが、操縦者が管理装置60を使って手動で操縦することも可能である。また、本例ではマルチコプター10に自律飛行制御手段が搭載されているが、管理装置60が自律飛行制御手段を備え、無線通信により遠隔からマルチコプター10を操縦することでオートパイロットを行うことも可能である。
【0040】
カメラ40はマルチコプター10の飛行中に機体下方の静止画像を一定の距離間隔で連続撮影(連写)する。カメラ40で撮影された各画像には、その撮影位置におけるマルチコプター10の経緯度および飛行高度の情報が付加される。これらの付加情報は、マルチコプター10のGPSアンテナ32および気圧センサ33で得られた情報である。上記各画像は、マルチコプター10の進行方向において、カメラ40の画角内に収められる果樹等gの像の一部が重なる間隔で撮影されている。これら各画像は、後述する管理装置60の画像認識プログラム721で解析されることにより、その撮影位置におけるマルチコプター10(カメラ40)と果樹等gとの距離(対地高度)が算出される。すなわち、本例のカメラ40は、マルチコプター10と果樹等gとの距離を測定可能な情報を取得する距離情報取得手段である。なお、本例のカメラ40は、撮影した画像およびその付加情報をカメラ40が備えるSDメモリカードなどのメモリ41に記録する構成とされているが、通信装置12を介してこれをリアルタイムに管理装置60に送信する構成としてもよい。また、本例では距離情報取得手段としてカメラ40が採用されているが、本発明の距離情報取得手段は、無人航空機と地表または地物との距離を測定可能な情報を取得する手段であればよく、カメラ40のほか、レーザ測距センサなどの光学式測距センサ、または超音波センサなどを採用することもできる。
【0041】
(管理装置の機能構成)
図3は管理装置60の機能構成を示すブロック図である。管理装置60は、マルチコプター10の各種設定、状態監視、および操縦を行う端末であり、無人航空機分野において一般にGCS(Ground Control Station)と呼ばれている装置である。
【0042】
管理装置60は、主に、中央処理装置であるCPU61、RAMやROM・フラッシュメモリなどの記憶装置からなるメモリ62、マルチコプター10と無線通信を行う通信装置63、各種情報を操縦者に視覚的に表示するモニタ64、操縦者からの入力を受け付ける入力装置65、および、これらに電力を供給するバッテリー69を備えている。
【0043】
通信装置63は、マルチコプター10と制御信号やデータの送受信を行うことが可能であれば、その具体的な通信方式やプロトコルは問わない。例えば、マルチコプター10への飛行計画223のアップロードやマルチコプター10からのテレメトリデータの受信はWi−Fi(Wireless Fidelity)により双方向通信で行い、手動操縦時の操縦信号はPCM(pulse code modulation:パルス符号変調)信号を2.4GHz帯の周波数ホッピング方式で送信する構成などが考えられる。その他、マルチコプター10および管理装置60がその通信装置12,63として、3GやLTE(Long Term Evolution)、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)などの移動体通信網への接続モジュールを備える構成としてもよい。こうすることにより操縦者は、移動体通信網のサービスエリア内であればどこからでもマルチコプター10を制御することが可能となる。また、本例のマルチコプター10および管理装置60は必ずしも無線で通信する必要はなく、有線接続で通信を行う構成としてもよい。
【0044】
管理装置60には、マルチコプター10の飛行計画223を作成する飛行計画作成プログラム71がインストールされている。操縦者は、飛行計画作成プログラム71を使って地図データ73を参照しながら飛行計画223を作成し、これをマルチコプター10にアップロードすることができる。
【0045】
管理装置60のメモリ62にはさらに、カメラ40のメモリ41に記録された画像を解析して、マルチコプター10(カメラ40)がその画像を撮影したの位置と、その下方に存在する果樹等gとの距離(対地高度)を算出する画像認識プログラム721が登録されている。画像認識プログラム721は、本発明の距離測定手段の一態様である。
【0046】
本例の画像認識プログラム721は、本発明の起伏取得手段の一態様である高度マッピングプログラム72のサブプログラムである。高度マッピングプログラム72は、各画像に付加された飛行高度情報と、画像認識プログラム721で測定した対地高度とに基づいて、マルチコプター10がその画像を撮影した位置における果樹等gの高さを算出する。そして、高度マッピングプログラム72は、各画像に付加された経緯度情報に基づいて、地図データ73上に果樹等gの高さをマッピングする。
【0047】
そして、飛行計画作成プログラム71は、そのサブプログラムとして、飛行計画223の飛行高度を自動設定する高度設定プログラム711を有している。高度設定プログラム711は、本発明の高度設定手段の一態様である。高度設定プログラム711は、地図データ73にマッピングされた果樹等gの高さ情報に基づいて、操縦者が指定した経路rの飛行高度aを自動的に設定する。なお、詳細は後述するが、本例における果樹等gの「高さ」とは、マルチコプター10の離陸地点からの相対的な高度差を意味している。ただしこれは、果樹等gの高さを測定するときと農薬を散布するときのマルチコプター10の離陸地点が同じであることを前提とした方法である。果樹等gの高さを測定するときと農薬を散布するときのマルチコプター10の離陸地点が異なる場合には、測定した果樹等gの高さを海抜高度に換算したり、気圧値に換算したりすればよい。
【0048】
また、管理装置60のメモリ62には、農薬の散布時にマルチコプター10が維持すべき果樹等gとの距離(対地高度)である目標距離iが登録されている。目標距離iは操縦者により指定された距離である。すなわち、管理装置60のメモリ62は本発明の目標距離保持部の一態様である。
【0049】
管理装置60には、一般的なノート型パソコンやタブレットコンピュータを好適に用いることができる。
図3に示す主要構成が一装置に集約されており、また持ち運びも容易だからである。一方、本発明の管理装置60は、高度設定手段を備え、飛行計画を作成可能であれば、その物理的な形態は問わない。例えば
図3に示す各構成を有する別々の装置を組み合わせて管理装置60としてもよい。また、本例ではマルチコプター10と管理装置60が別々の装置として構成されているが、マルチコプター10自体に管理装置60の機能を搭載した構成としてもよい。その場合、操縦者は、ノート型パソコンやタブレットコンピュータを使ってマルチコプター10内の管理装置60にアクセスすればよい。
【0050】
[飛行高度設定方法]
(手順概要)
以下、本例の飛行高度設定方法について説明する。
図4は、飛行計画223を作成する流れを示すフローチャートである。本例の飛行高度設定方法は、主に、仮経路設定工程S10、起伏調査工程S20、目標距離設定工程S30、および高度設定工程S40からなり、必要に応じて、これに、起伏再調査工程S60、および高度再設定工程S70が加えられる。
【0051】
(仮経路設定工程および起伏調査工程)
図5は、経路rの一部を抜き出した側面視断面図であり、仮経路設定工程S10および起伏調査工程S20を説明する模式図である。仮経路設定工程S10では、経路r上の果樹等gの高さに対して余裕をもたせた飛行高度aを指定した飛行計画223
(仮飛行計画)を作成する。そして、起伏調査工程S20では、この飛行計画223でマルチコプター10を自律飛行させ、経路r上の果樹等gの高さを測定する。ここで、「余裕をもたせた飛行高度a」は、操縦者の目視や地図の等高線などからおおまかに決定すればよい。本例の場合、離陸地点からの相対高度で15mを超える高さを指定すればよい。
【0052】
以下、上記各工程についてより具体的に説明する。操縦者はまず、管理装置60の飛行計画作成プログラム71を起動し、地図データ73上で経路rを指定する。そして、経路rにおいて果樹等gの一番高い部分を目視で確認し、経路r全体の飛行高度aを20mに設定する。
【0053】
ここで、本例の飛行計画223で設定される飛行高度aは、マルチコプター10の気圧センサ33で得られる気圧高度をマルチコプター10の離陸地点からの相対高度に変換したものである。本例では説明の便宜上、1hPaの高度差を10mとして扱う。この後の起伏調査工程S20では、マルチコプター10は果樹等gの最も低い位置から離陸する。
図5に示すように、果樹等gの最も低い位置の気圧値は1002.0hPaである。通常、この気圧値(1002.0hPa)は海抜100m前後の標高を示すものであるが、本例のマルチコプター10は、この気圧値(1002.0hPa)を飛行高度aの基準値(飛行高度a:0m)とする。
【0054】
その後、操縦者は管理装置60から飛行計画223をマルチコプター10にアップロードし(S21)、マルチコプター10をオートパイロットで自律飛行させ、その経路r上の果樹等gをカメラ40で撮影する(S22)。
【0055】
マルチコプター10が経路rの自律飛行を終えると、操縦者は、マルチコプター10からカメラ40のメモリ41内の画像およびその付加情報を管理装置60にダウンロードする(S23)。そして、管理装置60の高度マッピングプログラム72でこれらの画像およびその付加情報を解析し、地図データ73上に果樹等gの高さをマッピングする(S24)。
【0056】
果樹等gのうち、起伏調査工程S20においてカメラ40で撮影され、その高さが測定される部分は、
図5の太線で示した部分である。ここで、果樹等gの最も低い位置は、マルチコプター10の飛行高度aが20m(1000.0hPa)となる位置から撮影した距離d1が20mである。そのため、果樹等gの最も低い位置の高さh1は0mとして扱われる。そして、果樹等gの最も高い位置は、飛行高度20mから撮影した距離d2が5mである。そのため、果樹等gの最も高い位置の高さh2は15mとして扱われる。このようにして経路r上の果樹等gの高さが測定される。
【0057】
なお、
図5の直線x1−x2は、経路r上の果樹等gの高さを直線近似した線である。直線x1−x2から、果樹等gの高さはx1からx2に向かって高くなる傾向にあり、x2からx1に向かって低くなる傾向にあることが分かる。この直線x1−x2は、この後の高度設定工程S40において、経路r上の果樹等gの高さ情報を加工するときに使用される。
【0058】
このように、本例の無人航空機システムSおよび飛行高度設定方法では、マルチコプター10が気圧センサ33およびカメラ40を備え、マルチコプター10の飛行高度aから対地高度を減算することで飛行経路r上の果樹等gの高さが算出できる。これにより、果樹等gの高さを容易に測定することが可能とされている。
【0059】
本例では、農薬の散布作業に先立ち、マルチコプター10を果樹等gの高さの測定にも利用している。そのため、別途測量機器等を用意して果樹等gの高さを測量する必要がない。よって、本例の方法によれば、測量作業の手間やコストの問題、年月の経過による測量データの陳腐化の問題は生じない。さらに、地図等では把握することができない数m単位の小さな起伏や傾斜を現場で取得することができるため、より実際に即した飛行高度aを設定することが可能とされている。
【0060】
なお、本例の仮経路設定工程S10は必須の工程ではなく、省略することもできる。その場合、起伏調査工程S20では、操縦者がマルチコプター10を手動で操縦して果樹等gの高さを取得すればよい。ただし、起伏調査工程S20の測定結果をこの後の高度設定工程S40で利用するためには、高度設定工程S40で指定する経路rの果樹等gの高さが測定されている必要がある。つまり、起伏調査工程S20では、高度設定工程S40で指定する経路rを通るように機体を飛行させる必要がある。これを手動操縦で行うためには熟練した操縦技能が求められる。また、テレメトリデータの経緯度値を手元の管理装置60で確認しながら操縦することも可能ではあるが、効率のよい方法とはいえない。
【0061】
本例では、飛行高度aに余裕をもたせた飛行計画223を仮経路設定工程S10で作成し、起伏調査工程S20自体をオートパイロットで行うことにより、高度設定工程S40で指定する経路rに沿った果樹等gの高さを効率的に測定することが可能とされている。また、地図データ73にマッピングされている経緯度情報と、GPSアンテナ32が検出する経緯度値との間には誤差が生じる。起伏調査工程S20をオートパイロットで行うことにより、農薬散布作業を行う前にこの誤差の程度を把握し、調整することができる。
【0062】
(目標距離設定工程)
目標距離設定工程S30では、マルチコプター10が農薬を散布するときに維持すべき果樹等gとの距離である目標距離iを指定する。本例では目標距離iを5mとする。マルチコプター10の作業目的に応じた目標距離iを操縦者が適宜指定可能であることにより、本例の無人航空機システムSおよび飛行高度設定方法を幅広い用途に柔軟に適用することが可能とされている。
【0063】
(高度設定工程)
高度設定工程S40では、高度設定プログラム711が、地図データ73にマッピングされた果樹等gの高さに目標距離iを加えた高さを、その位置における経路rの飛行高度aとして自動設定する。これにより、好適な飛行高度aを操縦者が計算して入力する手間が省かれている。
【0064】
なお、本例では、仮経路設定工程S10で指定された経路rと、高度設定工程S40で指定される経路rは同一である。これら経路rが同一であることにより、起伏調査工程S20の測定範囲が、農薬散布作業において実際に必要となる範囲だけに絞り込まれている。これにより起伏調査工程S20が効率化されるとともに、高度設定工程S40による自動設定可能範囲の網羅率が高められている。
【0065】
ここで、例えば地表や地物の高さが経路r上で連続的に滑らかに変化していれば、単に果樹等gの高さに目標距離iを加えたものを飛行高度aとすればよい。しかし、本例のように狭い範囲内で果樹等gの高さが大きく複雑に変化している場合、単に果樹等gの高さに目標距離iを加えただけでは、マルチコプター10の飛行高度aが不安定になるという問題がある。例えば、
図5の破線で囲んだ部分g1では、果樹等gの高さが乱高下している。単に果樹等gの高さに目標距離iを加えた飛行高度aを飛行させる場合、この部分g1では下降と上昇をほぼ垂直に立て続けに行うことになる。
【0066】
図6および
図7は、地図データ73にマッピングされた果樹等gの高さ情報の加工例を示す模式図である。
図6は、
図5の一部を抜き出した部分拡大図であり、果樹等gの高さが経路rの進行方向に向かって高くなる傾向にあるときの、果樹等gの高さ情報の加工方法を説明する図である。
図7は、
図5の果樹等gの高さ情報を加工した後で飛行高度aを自動設定した様子を示す図である。
【0067】
図6および
図7の例では、ウェイポイントwaからウェイポイントwbに向かう経路rが操縦者により指定されている。なお、ここでいう「ウェイポイント」とは、経路rの中継点である。飛行計画作成プログラム71は、操縦者が地図データ73上で指定したウェイポイントをその指定順に結ぶように経路rを設定する。
【0068】
図5を使って説明したように、ウェイポイントwaからウェイポイントwbに向かう方向、つまりx1からx2に向かう方向は、果樹等gの高さが高くなる傾向にある。この区間においては、マルチコプター10の飛行高度aを下げる操作は、その効果よりも弊害の方が大きいと考えられる。なぜならば、果樹等gの高さに沿ってマルチコプター10の飛行高度aを下げるとその直後に急上昇させなければならなくなり、また、果樹等gとの衝突のおそれもあるからである。
【0069】
そこで、本例の高度設定プログラム711は、
図6に示すように、地図データ73にマッピングされた果樹等gの高さ情報を加工する。具体的には、高度設定プログラム711は、まず、ウェイポイントwa側からウェイポイントwb側に向かって果樹等gの高さを走査する。そして、果樹等gの高さがそれ以前の果樹等gの高さよりも低くなったときには、その部分の高さを、それ以前の最大の高さに置き換える(破線g’)。この処理により、ウェイポイントwaからウェイポイントwbの果樹等gの高さ情報は、
図5の太線で示される状態から、
図7の太線で示される状態に加工される。そして、高度設定プログラム711は、加工後の果樹等gの高さに対して目標距離iを加算し、経路rの飛行高度aを設定する。なお、高度設定プログラム711が飛行高度aの中継点a1を設定する間隔はその用途において求められる精度に応じて適宜調節することができる。
【0070】
また、
図6および
図7の進行方向とは逆方向、すなわち、ウェイポイントwbからウェイポイントwaに向かう経路は、
図5の直線x1−x2で示されるように、果樹等gの高さが低くなる傾向にある。この区間においても、マルチコプター10の飛行高度aを下げた直後に急上昇させるという操作にはあまり意味がないと考えられる。よって、この場合も、果樹等gの高さ情報を、
図7の状態にしてから目標距離iを加算することが望ましい。
【0071】
以上のことから、本例の高度設定プログラム711は、操縦者が指定した各ウェイポイント間の果樹等gの高さを直線近似し、これらウェイポイント間において、果樹等gの高さが低い方から高い方に向かって
図6に示す処理を行う。これにより、経路r全体における不要な高低差が省かれ、マルチコプター10の飛行動作がより安定する。
【0072】
そして、高度設定工程S40を経て作成された飛行計画223の高度が操縦者からみて妥当なものであれば(S50:Y)、その飛行計画223をマルチコプター10にアップロードし、農薬散布の準備にとりかかる。
【0073】
一方、起伏調査工程S20の測定精度が不十分な場合には、画像認識プログラム721、高度マッピングプログラム72、または高度設定プログラム711がアラートや警告をモニタ64に表示するようにしてもよい。同様に、急上昇や急降下の程度が所定の閾値を超える箇所がある場合には、その箇所について迂回を提案するようにしてもよい。
【0074】
(起伏再調査工程および高度再設定工程)
上でも述べたように、起伏調査工程S20の測定精度によっては、一度の測定だけでは十分な精度の飛行高度aを設定することができない場合もある(S50:N)。その場合、高度設定工程S40で作成された飛行計画223を使って、果樹等gの高さを再度測定することにより、最初の測定結果よりも高精度な測定結果を得ることができる。
【0075】
起伏再調査工程S60では、高度設定工程S40で作成した飛行計画223によりマルチコプター10を自律飛行させ、飛行計画223の経路r上の果樹等gの高さを測定する。その手順は最初の起伏調査工程S20に準ずるものである。
【0076】
操縦者は管理装置60から飛行計画223をマルチコプター10にアップロードし(S61)、マルチコプター10をオートパイロットで自律飛行させ、経路r上の果樹等gをカメラ40で撮影する(S62)。
【0077】
マルチコプター10が経路rの自律飛行を終えると、操縦者は、マルチコプター10からカメラ40のメモリ41内の画像およびその付加情報を管理装置60にダウンロードする(S63)。そして、管理装置60の高度マッピングプログラム72でこれらの画像およびその付加情報を解析し、地図データ73上に果樹等gの高さをマッピングする(S64)。
【0078】
高度再設定工程S70の手順は高度設定工程S40に準ずるものである。高度設定プログラム711は、起伏再調査工程S60で測定され、地図データ73にマッピングされた高さ情報に基づいて、経路rの飛行高度aを自動的に設定する。
【0079】
そして、高度再設定工程S70を経て作成された飛行計画223の高度が操縦者からみて妥当なものであれば(S50:Y)、その飛行計画223をマルチコプター10にアップロードし、農薬散布の準備にとりかかる。この時点でも飛行高度aの精度が十分でない場合には、起伏再調査工程S60および高度再設定工程S70を再度繰り返せばよい。
【0080】
このように、本例の無人航空機システムSおよび飛行高度設定方法によれば、一般的なフライトコントローラ製品では困難な、地形の起伏や傾斜面に沿った自律飛行を、効率的に実現することができる。
【0081】
[他の用途への応用例]
図8は、本例の無人航空機システムSを他の用途に応用した例を示す模式図である。
図8は、無人航空機システムSを使って鉄塔90に架設された送電線91のたるみに沿ってマルチコプター10を飛行させながら、送電線91を側方から撮影する作業例である。
【0082】
架空電線路の送電線や配電線には、電線や鉄塔・電柱の保護を目的として、所定の弛度(たるみ)が設けられている。そのため、例えば電線の損傷を点検するために、無人航空機を電線に沿って飛行させながら、電線をその側方から撮影しようとする場合、電線のたるみに合わせて無人航空機の飛行高度を調整する必要がある。このような飛行を手動で行う場合、操縦者には高度な操縦技能が求められ、作業可能な人員の確保が問題となる。
【0083】
以下、無人航空機システムSを使った送電線91の撮影手順を説明する。仮経路設定工程S10では、送電線91に沿って送電線91の真上をマルチコプター10に飛行させる飛行計画223を作成する。起伏調査工程S20では、送電線91を真上からカメラ40で撮影し、送電線91の各位置における高さを測定する。目標距離設定工程S30では目標距離iを0mに設定する。高度設定工程S40では、測定した送電線91の高さを加工せずに飛行高度aを自動設定する(送電線91の高さの測定精度が不十分なときは、起伏再調査工程S60および高度再設定工程S70を繰り返す)。そして、高度設定工程S40を経て作成された飛行計画223の経路rを、送電線91の撮影に好適な距離だけ手動で移動させる。そして、カメラ40を送電線91の方に向け、マルチコプター10を自律飛行させる。なお、自律飛行プログラム222がカメラ40のON/OFF、PTZ操作などに対応している場合には、飛行計画223でカメラ40の向きを制御してもよい。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。例えば、本発明の飛行高度設定方法および無人航空機システムに使用可能な無人航空機はマルチコプター10には限られず、無人であることを条件として、ヘリコプターや固定翼機、さらにはVTOL機(Vertical Take-Off and Landing:垂直離着陸機)を使用することもできる。また、本発明の飛行高度設定方法および無人航空機システムの用途は農薬散布や電線撮影には限られず、地表や地物の高さに沿った飛行高度の制御が求められる用途であればあらゆる用途に適用可能である。また、本発明でいう「地表または地物」は天然物には限られず、床面、階段、または床に設置された什器など、屋内外の人工物も含まれる。