【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0020】
本実施例で用いた計算の条件を以下にまとめる。
(分子シミュレーション解析用のソフトウェア)
本計算には、第一原理電子状態計算ソフトウェアであるAccelrys社製Dmol
3 version 6.1を用いた。
【0021】
(触媒表面モデル)
触媒表面モデルとして、ルチル型酸化チタン(110)面のスラブモデル(本発明では「酸化チタンスラブモデル」と言うことがある)を用いた。酸化チタンスラブモデルは、(4unit x 2unit)の大きさの面を持ち、深さ方向に4層とし、3次元周期境界条件を課した。下層の2層の原子をルチル型酸化チタンの結晶位置に固定し計算を行った。例えば
図1を用いて説明すると、図の中での上面が触媒表面であり、酸素分子は触媒表面のチタン原子に吸着し、吸着酸素分子となる。
【0022】
(計算条件)
spin polarized density functional theoryを基にしており、汎関数はGGA−RPBEを用いた。各原子に対して、Effective Core Potentialsを与え、計算基底関数はDNPを用い、K点のサンプリングはΓ点のみで行った。 状態密度(以下DOSと記す)および部分状態密度(以下PDOSと記す)の計算において、電子で占有されていない軌道の数は、フェルミ準位からエネルギー準位の浅くなる方へ12個で計算した。
【0023】
(構造決定工程)
本実施例で利用した酸化チタンスラブモデル構造および物理量は以下の構造決定工程と呼ぶ4つの工程それぞれより得た。
【0024】
構造決定工程(1)
酸素分子が吸着していない、酸化チタンスラブモデルで、チタン元素の一部が他の元素に置換されている構造あるいは、さらに酸素元素の一部が他の元素に置換されている構造を初期構造とし、構造最適化を実行し、最適化された構造を得た。該最適化された構造のDOSを所得した。該DOSにおけるフェルミ準位を不純物準位として所得した。
【0025】
構造決定工程(2)
構造決定工程(1)で得られた構造の触媒表面に、酸素分子を近づけた構造を初期構造とし、構造最適化を実行し、最適化された構造を得た。該最適化された構造のDOSおよび吸着酸素分子のPDOSを所得した。吸着酸素分子の2pπ
*軌道および吸着されているTi原子の3dz
2、および吸着酸素分子の2pπ
*および吸着されているTi原子の3dyzであることが確認された軌道の準位を、吸着酸素分子の酸素分子の2p軌道と吸着されているTi原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位として取得した。なお、前記混成軌道の準位が複数取得できる場合は吸着酸素分子の2pπ
*および吸着されているTi原子の3dyzであることが確認された軌道の準位を採用した。軌道の由来は、分子軌道図から確認できる。さらに、また前記最適化された構造の全エネルギーの値を所得した。
【0026】
構造決定工程(3)
構造決定工程(2)で得られた構造の吸着酸素分子の酸素間距離を伸ばした構造を初期構造とし、構造最適化を実行し、酸素原子間距離とTi−O間の距離を比較したときに、酸素原子間距離のほうが長い最適化された構造を得た。
【0027】
構造決定工程(4)
構造決定工程(2)および(3)で得られたそれぞれの最適化された構造を酸素分子解離反応の始状態および終状態とし、LST/QST法を実行し、構造決定工程(2)で得られた最適化された構造と構造決定工程(3)で得られた最適化された構造を結ぶ遷移状態の構造を得た。該遷移状態の構造の全エネルギーの値を所得した。該全エネルギーの値から構造決定工程(2)で得られた全エネルギーの値を差し引き、それを酸素結合解離の活性化障壁とした。
【0028】
(活性化障壁)
構造決定工程(4)で得られる活性化障壁は酸素解離の活性化障壁である。触媒能の高い酸素還元触媒を得るべく、活性化障壁が小さくなる置換元素を選択する。
【0029】
実施例1−1:
前記構造決定工程(1)から(2)を実行し、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が1.56、6.25、25、50%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を得た。上記酸化チタンスラブモデルの構造を
図1から
図4に示した。
図1の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から4層目に1個存在する。
図2の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から3および4層目に4個存在する。
図3の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から3および4層目に16個存在する。
図4の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から3および4層目に32個存在する。上記酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位及びそれらの差を表1にまとめた。
【0030】
比較例1−1:
前記構造決定工程(1)から(4)を実行し、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が1.56、6.25、25、50%である酸化チタンスラブモデルでの、酸素結合解離の活性化障壁を得た。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例1−1と同じである。これらの酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を表1にまとめた。
【0031】
実施例1−2
前記構造決定工程(1)から(2)を実行し、チタン元素の一部がSbあるいはBi元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を得た。上記酸化チタンスラブモデルの構造を
図2、
図5に示した。
図5の酸化チタンスラブモデルでは、Bi元素が触媒表面から3および4層目に4個存在する。これらの酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を表2にまとめた。
【0032】
実施例1−3
前記構造決定工程(1)から(2)を実行し、チタン元素の一部がSb元素とBi元素に置換され、そのチタン元素の置換割合が6.25%であり、かつ酸素元素の一部がフッ素元素と塩素元素に置換され、その酸素元素の置換割合が3.125%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を得た。該酸化チタンスラブモデルの構造を
図6に示した。
図6の酸化チタンスラブモデルでは、Sb、Bi、フッ素および塩素元素は触媒表面から3および4層目にそれぞれ2個ずつ存在する。これらの酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を表2にまとめた。
【0033】
比較例1−2:
前記構造決定工程(1)から(4)を実行しチタン元素の一部がSb元素あるいはBi元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの、酸素結合解離の活性化障壁を得た。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例1−2と同じである。これらの酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を表2にまとめた。
【0034】
比較例1−3:
前記構造決定工程(1)から(4)を実行し、チタン元素の一部がSbとBi元素に置換され、そのチタン原素の置換割合が6.25%であり、かつ酸素元素の一部がフッ素と塩素元素に置換され、その酸素元素の置換割合が3.125%である酸化チタンスラブモデルでの、酸素結合解離の活性化障壁を得た。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例1−3と同じである。これらの酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を表2にまとめた。
【0035】
比較例2:
チタン元素の一部が他の元素に置換されていない酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を、構造決定工程(1)から(4)を実行し、得た。その結果を表1にまとめた。該酸化チタンスラブモデルの構造を
図7に示した。
【0036】
実施例2:
チタン元素の一部がOs元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位および混成軌道の準位を、構造決定工程(1)から(2)を実行し、得た。その結果を表2にまとめた。該酸化チタンスラブモデルの構造を
図8に示した。
【0037】
比較例3:
チタン元素の一部がOs元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を、構造決定工程(1)から(4)を実行し、得た。その結果を表2にまとめた。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例2と同じである。
【0038】
なお、実施例1−1,1−2,1−3及び2で不純物準位及び混成軌道の準位を得るための計算時間は、それぞれ比較例1−1,1−2,1−3及び3で活性化障壁を得るための計算時間に比べ、いずれも約1/4であった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表2にまとめた、実施例1−2および実施例2の不純物準位および混成軌道準位を比較することにより、本特許における触媒選択法に基づくとOsが置換している酸化チタンよりもSbおよびBiが置換している酸化チタンが良い触媒として選択される。実際に表2にまとめられた酸素解離活性化障壁の計算結果を比較すると、Osが置換している酸化チタンよりもSbおよびBiが置換している酸化チタンが良い触媒であることが確認できる。表2の結果として、元素置換に由来する不純物準位が吸着酸素分子の2p軌道と吸着酸素分子が吸着したチタン原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなる置換元素として、Sb、BiおよびSb,Bi,フッ素および塩素の組み合わせが選択された。
【0042】
なお、活性化障壁の計算は、構造決定工程(3)で示した通り、遷移状態の構造を決定する必要があり、この計算時間は構造決定工程(1)などで得られる最適化された構造を決定するための計算時間と比較し、非常に多くの時間が必要であることが一般的に知られている。本特許における選択法より非常に短時間で、活性の高い酸素還元触媒を与える置換元素を選択することができる。
【0043】
表1よりチタン元素の一部がSb元素に置換された酸化チタンスラブモデルでは、酸素結合解離の活性化障壁が減少していることが見て取れる。またチタン元素の置換割合が高くなるほど、触媒能の高い酸素還元触媒となることが確認できる。
実施例1−2および比較例2を比較すると、チタン元素の一部がSbあるいはBi元素で置換された酸化チタンスラブモデルでは酸素結合解離の活性化障壁が減少していることが見て取れる。また、さらに酸素元素の一部がハロゲン元素に置換されている酸化チタンスラブモデルにおいては、さらに触媒能の高い酸素還元触媒となることが確認できる。
【0044】
したがって上記結果より、As,SbおよびBi、さらにそれらにハロゲンを置換したチタン酸化物は、吸着酸素分子の2p軌道と吸着酸素分子が吸着したチタン原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位よりも不純物準位の軌道のエネルギーが浅く、酸素還元能が高いと考えられる。