特許第6555807号(P6555807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6555807酸素還元触媒の評価方法および選択方法並びに酸素還元触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555807
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】酸素還元触媒の評価方法および選択方法並びに酸素還元触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/18 20060101AFI20190729BHJP
   B01J 27/135 20060101ALI20190729BHJP
   G01N 31/10 20060101ALI20190729BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20190729BHJP
   H01M 4/86 20060101ALN20190729BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20190729BHJP
【FI】
   B01J23/18 M
   B01J27/135 M
   G01N31/10
   !H01M8/10
   !H01M4/86 Z
   !H01M4/90 X
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-136358(P2015-136358)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-18856(P2017-18856A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂口 俊
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 由美子
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 真幸
(72)【発明者】
【氏名】李 建燦
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 広輔
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/096022(WO,A1)
【文献】 特開2003−071297(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/028408(WO,A1)
【文献】 特開2004−275999(JP,A)
【文献】 特開2004−195439(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104607167(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
G01N 31/10
H01M 4/86−4/98
H01M 8/10
CA(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチル型もしくはアナターゼ型の結晶構造を持つチタン酸化物の酸素還元触媒の評価方法であって、
前記チタン酸化物は、
チタン元素の一部が他の元素に置換されており、
前記置換に由来する電子で占有された不純物準位を有し、
前記チタン酸化物の表面のチタン原子に酸素分子が吸着し、該酸素分子の2p軌道と酸素分子が吸着した前記チタン原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位を有し、
前記不純物準位と前記混成軌道の準位とをシミュレーション解析によって取得し、
前記不純物準位が前記混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなるほど触媒活性が高いと評価する
ことを特徴とする酸素還元触媒の評価方法。
【請求項2】
さらに前記チタン酸化物は、酸素元素の一部が他の元素に置換されており、
前記シミュレーション解析によって取得する不純物準位が、前記チタン元素の一部の他の元素への置換と前記酸素元素の一部の他の元素への置換とに由来する電子で占有された不純物準位である請求項1に記載の酸素還元触媒の評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の評価方法により、種々の置換元素について不純物準位と混成軌道の準位とを得、
前記置換元素の中から、不純物準位が混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなる置換元素を有する酸素還元触媒を選択する
酸素還元触媒の選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元触媒の評価方法および選択方法並びに酸素還元触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ニオブ、チタン、タンタルおよびジルコニウムからなる群から選択される少なくとも二種以上の遷移金属元素を含み、且つ白金を含まない金属酸化物材料からなる酸素還元触媒が開示されている。
特許文献2には、固体高分子型燃料電池の正極として用いる酸素還元電極用の電極触媒として、ZrCNを酸化して得られ、ZrCNとZrOが検出され、かつ、イオン化ポテンシャルが5.0〜6.0eVである触媒が開示されている。さらに明細書内には、酸素欠陥の増加によってイオン化ポテンシャルが低下することが記述されている。また表面に酸素欠陥のある状態を作ることが、酸素還元触媒能の向上には必要であると考えられると記述されている。つまり、イオン化ポテンシャルは酸素欠陥の存在の指標として用いられている。
また非特許文献1には酸素欠陥が酸化チタンに生じることにより酸素分子が表面に吸着するようになることが指摘されている。
【0003】
このように従来の金属酸化物を用いた燃料電池触媒の研究の方向性は、酸化物内に酸素欠陥を生成することにより触媒の性能を向上させるものであった。その点から、元素の置換をしたとしても、どれだけ酸素欠陥を作るかという観点での評価や選択の範囲にとどまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−46913号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/060777号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed. 2006, 45, 2897
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ルチル型もしくはアナターゼ型の結晶構造を持ち、チタン元素の一部が他の元素に置換されたチタン酸化物の酸素還元触媒についての評価方法と前記他の元素の選択方法および触媒活性の高い酸素還元触媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を含む。
【0008】
[1] ルチル型もしくはアナターゼ型の結晶構造を持つチタン酸化物の酸素還元触媒の評価方法であって、
前記チタン酸化物は、
チタン元素の一部が他の元素に置換されており、
前記置換に由来する電子で占有された不純物準位を有し、
前記チタン酸化物の表面のチタン原子に酸素分子が吸着し、該酸素分子の2p軌道と酸素分子が吸着した前記チタン原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位を有し、
前記不純物準位と前記混成軌道の準位とをシミュレーション解析によって取得し、
前記不純物準位が前記混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなるほど触媒活性が高いと評価する
ことを特徴とする酸素還元触媒の評価方法。
[2] さらに前記チタン酸化物は、酸素元素の一部が他の元素に置換されており、
前記シミュレーション解析によって取得する不純物準位が、前記チタン元素の一部の他の元素への置換と前記酸素元素の一部の他の元素への置換とに由来する電子で占有された不純物準位である前項に記載[1]の酸素還元触媒の評価方法。
[3] 前項[1]または[2]に記載の評価方法により、種々の置換元素について不純物準位と混成軌道の準位とを得、
前記置換元素の中から、不純物準位が混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなる置換元素を有する酸素還元触媒を選択する
酸素還元触媒の選択方法。
[4] ルチル型もしくはアナターゼ型の結晶構造を持つチタン酸化物の酸素還元触媒であって、
前記酸化物のチタン元素の一部がAs,SbおよびBiからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素で置換されている
ことを特徴とする酸素還元触媒。
[5] さらに、前記酸化物の酸素元素の一部がハロゲン元素に置換されている前項[4]に記載の酸素還元触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、チタン元素の一部が他の元素に置換されたチタン酸化物の酸素還元触媒を効率的に評価および前記他の元素の選択をすることができ、触媒活性の高い酸素還元触媒を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】酸素分子が吸着している、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が1.56%である酸化チタンスラブモデル。
図2】酸素分子が吸着している、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデル。
図3】酸素分子が吸着している、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が25%である酸化チタンスラブモデル。
図4】酸素分子が吸着している、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が50%である酸化チタンスラブモデル。
図5】酸素分子が吸着している、チタン元素の一部がBi元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデル。
図6】酸素分子が吸着している、チタン元素の一部がSbとBi元素に置換され、そのチタン原素の置換割合が6.25%であり、かつ酸素元素の一部がフッ素と塩素元素に置換され、その酸素元素の置換割合が3.125%である酸化チタンスラブモデル。
図7】酸素分子が吸着している、チタン元素が他の元素に置換されていない酸化チタンスラブモデル。
図8】酸素分子が吸着している、チタン元素の一部がOs元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデル。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ルチル型もしくはアナターゼ型の結晶構造を持ち、チタン元素の一部が他の元素に置換されたチタン酸化物の酸素還元触媒の評価方法および前記他の元素の選択方法並びに酸素還元触媒を含む。
【0012】
(評価方法)
本発明の評価方法は、ルチル型もしくはアナターゼ型の結晶構造を持つチタン酸化物の酸素還元触媒の評価方法であって、前記チタン酸化物は、チタン元素の一部が他の元素に置換されており、前記置換に由来する電子で占有された不純物準位を有し、前記チタン酸化物の表面のチタン原子に酸素分子が吸着し、該酸素分子の2p軌道と前記チタン原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位を有し、前記不純物準位と前記混成軌道準位とをシミュレーション解析によって取得し、前記不純物準位が前記混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなるほど触媒活性が高いと評価する。
さらに前記チタン酸化物の酸素元素の一部が他の元素に置換されている場合、前記シミュレーション解析によって取得する不純物準位は、前記チタン元素の一部の他の元素への置換と前記酸素元素の一部の他の元素への置換とに由来する電子で占有された不純物準位とする。
【0013】
上記シミュレーション解析は、例えば、第一原理計算を行うシミュレーションソフトを用いて実施することができる。より具体的には市販のシミュレーションソフトとしてVASP, Dmol, CASTEP等が挙げられる。
【0014】
なお、本明細書内では「不純物準位が混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなる」ことを、「不純物準位が混成軌道の準位よりも浅くなる」と言うことがある。
【0015】
(選択方法)
本発明の選択方法は、前記評価方法により、種々の置換元素について不純物準位と混成軌道の準位とを得、前記置換元素の中から、不純物準位が混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きく置換元素を有する酸素還元触媒を選択する。これにより、活性の高い酸素還元触媒を選択することができる。
【0016】
前記選択方法により、活性の高い酸化還元触媒が得られる理論原理を記述する。不純物準位が混成軌道の準位よりも浅い場合、不純物準位から混成軌道に電子が移動する。この現象はチタン酸化物から酸素分子へのバックドネーションの機構となる。この混成軌道は酸素分子の反結合性軌道2pπが含まれているので、混成軌道への電子の移動は、酸素の結合解離を易化する。ゆえに、前記選択方法により、活性の高い酸素還元触媒を選択することができる。
【0017】
(酸素還元触媒)
本発明の酸素還元触媒は、ルチル型もしくはアナターゼ型の結晶構造を持つチタン酸化物の酸素還元触媒であって、前記酸化物のチタン元素の一部がAs,SbおよびBiからなる群より選ばれる少なくとも一種置換されている。酸素還元能の観点から、より好ましくは、前記置換する元素がSb, Biであり、さらに好ましくは、Sbである。
さらに、酸素還元能の観点から、好ましくは前記酸化物の酸素元素の一部がハロゲン元素に置換されている。より好ましくは、前記ハロゲン元素がフッ素, 塩素である。これら酸素還元能は表1でも示され、酸素結合解離の活性化障壁が、酸素還元能の指標であり、酸素結合解離の活性化障壁がアンチモン置換、ビスマス置換そしてアンチモン・ビスマス・フッ素・塩素の同時置換の順に減少しており、これらは全て酸素元素が置換されていない酸化チタンスラブモデルでの活性化障壁より低くなっている。
【0018】
本発明では、酸素還元能の観点から、酸素還元触媒中の置換元素の置換割合は、0.1原子%より大きいことが好ましく、3原子%以上であることがより好ましく、結晶構造が変化しない範囲で高含有率であることがさらに好ましい。なお、本発明において、置換元素の置換割合とは、置換原子の数/(チタン原子の数+置換原子の数)で求め、酸素元素が置換される場合には、置換原子の数/(酸素原子の数+置換原子の数)で求める。また、前記結晶構造の変化には、格子定数が変化することを含めない。前記結晶構造は、X線回折により確認することができる。
【実施例】
【0019】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0020】
本実施例で用いた計算の条件を以下にまとめる。
(分子シミュレーション解析用のソフトウェア)
本計算には、第一原理電子状態計算ソフトウェアであるAccelrys社製Dmol version 6.1を用いた。
【0021】
(触媒表面モデル)
触媒表面モデルとして、ルチル型酸化チタン(110)面のスラブモデル(本発明では「酸化チタンスラブモデル」と言うことがある)を用いた。酸化チタンスラブモデルは、(4unit x 2unit)の大きさの面を持ち、深さ方向に4層とし、3次元周期境界条件を課した。下層の2層の原子をルチル型酸化チタンの結晶位置に固定し計算を行った。例えば図1を用いて説明すると、図の中での上面が触媒表面であり、酸素分子は触媒表面のチタン原子に吸着し、吸着酸素分子となる。
【0022】
(計算条件)
spin polarized density functional theoryを基にしており、汎関数はGGA−RPBEを用いた。各原子に対して、Effective Core Potentialsを与え、計算基底関数はDNPを用い、K点のサンプリングはΓ点のみで行った。 状態密度(以下DOSと記す)および部分状態密度(以下PDOSと記す)の計算において、電子で占有されていない軌道の数は、フェルミ準位からエネルギー準位の浅くなる方へ12個で計算した。
【0023】
(構造決定工程)
本実施例で利用した酸化チタンスラブモデル構造および物理量は以下の構造決定工程と呼ぶ4つの工程それぞれより得た。
【0024】
構造決定工程(1)
酸素分子が吸着していない、酸化チタンスラブモデルで、チタン元素の一部が他の元素に置換されている構造あるいは、さらに酸素元素の一部が他の元素に置換されている構造を初期構造とし、構造最適化を実行し、最適化された構造を得た。該最適化された構造のDOSを所得した。該DOSにおけるフェルミ準位を不純物準位として所得した。
【0025】
構造決定工程(2)
構造決定工程(1)で得られた構造の触媒表面に、酸素分子を近づけた構造を初期構造とし、構造最適化を実行し、最適化された構造を得た。該最適化された構造のDOSおよび吸着酸素分子のPDOSを所得した。吸着酸素分子の2pπ軌道および吸着されているTi原子の3dz、および吸着酸素分子の2pπおよび吸着されているTi原子の3dyzであることが確認された軌道の準位を、吸着酸素分子の酸素分子の2p軌道と吸着されているTi原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位として取得した。なお、前記混成軌道の準位が複数取得できる場合は吸着酸素分子の2pπおよび吸着されているTi原子の3dyzであることが確認された軌道の準位を採用した。軌道の由来は、分子軌道図から確認できる。さらに、また前記最適化された構造の全エネルギーの値を所得した。
【0026】
構造決定工程(3)
構造決定工程(2)で得られた構造の吸着酸素分子の酸素間距離を伸ばした構造を初期構造とし、構造最適化を実行し、酸素原子間距離とTi−O間の距離を比較したときに、酸素原子間距離のほうが長い最適化された構造を得た。
【0027】
構造決定工程(4)
構造決定工程(2)および(3)で得られたそれぞれの最適化された構造を酸素分子解離反応の始状態および終状態とし、LST/QST法を実行し、構造決定工程(2)で得られた最適化された構造と構造決定工程(3)で得られた最適化された構造を結ぶ遷移状態の構造を得た。該遷移状態の構造の全エネルギーの値を所得した。該全エネルギーの値から構造決定工程(2)で得られた全エネルギーの値を差し引き、それを酸素結合解離の活性化障壁とした。
【0028】
(活性化障壁)
構造決定工程(4)で得られる活性化障壁は酸素解離の活性化障壁である。触媒能の高い酸素還元触媒を得るべく、活性化障壁が小さくなる置換元素を選択する。
【0029】
実施例1−1:
前記構造決定工程(1)から(2)を実行し、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が1.56、6.25、25、50%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を得た。上記酸化チタンスラブモデルの構造を図1から図4に示した。図1の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から4層目に1個存在する。図2の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から3および4層目に4個存在する。図3の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から3および4層目に16個存在する。図4の酸化チタンスラブモデルでは、Sb元素が触媒表面から3および4層目に32個存在する。上記酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位及びそれらの差を表1にまとめた。
【0030】
比較例1−1:
前記構造決定工程(1)から(4)を実行し、チタン元素の一部がSb元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が1.56、6.25、25、50%である酸化チタンスラブモデルでの、酸素結合解離の活性化障壁を得た。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例1−1と同じである。これらの酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を表1にまとめた。
【0031】
実施例1−2
前記構造決定工程(1)から(2)を実行し、チタン元素の一部がSbあるいはBi元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を得た。上記酸化チタンスラブモデルの構造を図2図5に示した。図5の酸化チタンスラブモデルでは、Bi元素が触媒表面から3および4層目に4個存在する。これらの酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を表2にまとめた。
【0032】
実施例1−3
前記構造決定工程(1)から(2)を実行し、チタン元素の一部がSb元素とBi元素に置換され、そのチタン元素の置換割合が6.25%であり、かつ酸素元素の一部がフッ素元素と塩素元素に置換され、その酸素元素の置換割合が3.125%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を得た。該酸化チタンスラブモデルの構造を図6に示した。図6の酸化チタンスラブモデルでは、Sb、Bi、フッ素および塩素元素は触媒表面から3および4層目にそれぞれ2個ずつ存在する。これらの酸化チタンスラブモデルでの不純物準位、混成軌道の準位を表2にまとめた。
【0033】
比較例1−2:
前記構造決定工程(1)から(4)を実行しチタン元素の一部がSb元素あるいはBi元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの、酸素結合解離の活性化障壁を得た。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例1−2と同じである。これらの酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を表2にまとめた。
【0034】
比較例1−3:
前記構造決定工程(1)から(4)を実行し、チタン元素の一部がSbとBi元素に置換され、そのチタン原素の置換割合が6.25%であり、かつ酸素元素の一部がフッ素と塩素元素に置換され、その酸素元素の置換割合が3.125%である酸化チタンスラブモデルでの、酸素結合解離の活性化障壁を得た。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例1−3と同じである。これらの酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を表2にまとめた。
【0035】
比較例2:
チタン元素の一部が他の元素に置換されていない酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を、構造決定工程(1)から(4)を実行し、得た。その結果を表1にまとめた。該酸化チタンスラブモデルの構造を図7に示した。
【0036】
実施例2:
チタン元素の一部がOs元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの不純物準位および混成軌道の準位を、構造決定工程(1)から(2)を実行し、得た。その結果を表2にまとめた。該酸化チタンスラブモデルの構造を図8に示した。
【0037】
比較例3:
チタン元素の一部がOs元素に置換されており、かつそのチタン元素の置換割合が6.25%である酸化チタンスラブモデルでの酸素結合解離の活性化障壁を、構造決定工程(1)から(4)を実行し、得た。その結果を表2にまとめた。本比較例で用いた酸化チタンスラブモデルは実施例2と同じである。
【0038】
なお、実施例1−1,1−2,1−3及び2で不純物準位及び混成軌道の準位を得るための計算時間は、それぞれ比較例1−1,1−2,1−3及び3で活性化障壁を得るための計算時間に比べ、いずれも約1/4であった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表2にまとめた、実施例1−2および実施例2の不純物準位および混成軌道準位を比較することにより、本特許における触媒選択法に基づくとOsが置換している酸化チタンよりもSbおよびBiが置換している酸化チタンが良い触媒として選択される。実際に表2にまとめられた酸素解離活性化障壁の計算結果を比較すると、Osが置換している酸化チタンよりもSbおよびBiが置換している酸化チタンが良い触媒であることが確認できる。表2の結果として、元素置換に由来する不純物準位が吸着酸素分子の2p軌道と吸着酸素分子が吸着したチタン原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位よりもエネルギー準位が高く、かつ前記不純物準位と前記混成軌道の準位の差が大きくなる置換元素として、Sb、BiおよびSb,Bi,フッ素および塩素の組み合わせが選択された。
【0042】
なお、活性化障壁の計算は、構造決定工程(3)で示した通り、遷移状態の構造を決定する必要があり、この計算時間は構造決定工程(1)などで得られる最適化された構造を決定するための計算時間と比較し、非常に多くの時間が必要であることが一般的に知られている。本特許における選択法より非常に短時間で、活性の高い酸素還元触媒を与える置換元素を選択することができる。
【0043】
表1よりチタン元素の一部がSb元素に置換された酸化チタンスラブモデルでは、酸素結合解離の活性化障壁が減少していることが見て取れる。またチタン元素の置換割合が高くなるほど、触媒能の高い酸素還元触媒となることが確認できる。
実施例1−2および比較例2を比較すると、チタン元素の一部がSbあるいはBi元素で置換された酸化チタンスラブモデルでは酸素結合解離の活性化障壁が減少していることが見て取れる。また、さらに酸素元素の一部がハロゲン元素に置換されている酸化チタンスラブモデルにおいては、さらに触媒能の高い酸素還元触媒となることが確認できる。
【0044】
したがって上記結果より、As,SbおよびBi、さらにそれらにハロゲンを置換したチタン酸化物は、吸着酸素分子の2p軌道と吸着酸素分子が吸着したチタン原子の3d軌道により作られる新しい混成軌道の準位よりも不純物準位の軌道のエネルギーが浅く、酸素還元能が高いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、元素の置換により得られる活性の高い酸素還元触媒が得られ、燃料電池等に好ましく利用することできる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8