特許第6555861号(P6555861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6555861ふっ素を含有する配位性錯体又はその塩、ガス吸着材とその製法、これを用いたガス分離装置およびガス貯蔵装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555861
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】ふっ素を含有する配位性錯体又はその塩、ガス吸着材とその製法、これを用いたガス分離装置およびガス貯蔵装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 63/72 20060101AFI20190729BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20190729BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20190729BHJP
   B01D 53/02 20060101ALI20190729BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C07C63/72CSP
   B01J20/22 A
   B01J20/30
   B01D53/02
   F17C11/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-180688(P2014-180688)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-131793(P2015-131793A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2017年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-257037(P2013-257037)
(32)【優先日】2013年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】上代 洋
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 慎司
(72)【発明者】
【氏名】松田 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘志
(72)【発明者】
【氏名】北川 進
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−131792(JP,A)
【文献】 特開2014−166969(JP,A)
【文献】 特開2013−112660(JP,A)
【文献】 特表2008−540110(JP,A)
【文献】 PACHFULE, Pradip, et al.,Crystal Growth & Design,2011年,11(4),pp. 1215-1222
【文献】 JIANG, Hai-Long, et al.,CrystEngComm,2010年,12(11),pp. 3815-3819
【文献】 BERNINI, Maria C. , et al.,CrystEngComm,2012年,14(17),pp. 5493-5504
【文献】 BISWAS, Shyam, et al.,European Journal of Inorganic Chemistry,2013年,2013(12),pp. 2154-2160
【文献】 YANG, Qingyuan, et al.,Chemical Communications,2011年,47(34),pp. 9603-9605
【文献】 SCHOEDEL, Alexander, et al.,Journal of the American Chemical Society,2013年,135(38),pp. 14016-14019
【文献】 REN, Peng, et al.,Crystal Growth & Design,2008年,8(4),pp. 1097-1099
【文献】 SANTRA, Atanu, et al.,Inorganic Chemistry,2013年,52(13),pp. 7358-7366
【文献】 MA, Shengqian, et al.,Angewandte Chemie, International Edition,2007年,46(14),pp. 2458-2462
【文献】 YANG, Wenbin, et al.,Inorganic Chemistry,2009年,48(23),pp. 11067-11078
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
C07F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
[M] (I)
(式中、Mは2価の遷移金属イオンから選ばれる1種の金属イオンであり、Xは炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有するイソフタル酸またはテレフタル酸から選ばれる芳香族配位子である。)
で表される含ふっ素金属錯体であって、前記2価の遷移金属イオンに4個の前記芳香族配位子が配位してパドルホイール構造を形成しており、かつ、4個の前記芳香族配位子は、それぞれ、その2個のカルボキシル基のうち1個は前記2価の遷移金属イオンに配位し、他の1個のカルボキシル基は前記2価の遷移金属イオンに配位していない、含ふっ素金属錯体又はその塩。
【請求項2】
Mが、亜鉛イオン、コバルトイオン、銅イオン、ニッケルイオンから選ばれる、請求項1に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩。
【請求項3】
炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基が、CF,C,n−C,n−C,n−C11,n−C17,n−C1021から選ばれる、請求項1又は2に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩。
【請求項4】
有機溶媒分子や水分子が配位し、式(II)
[MLz] (II)
(式中、Mは2価の遷移金属イオンから選ばれる1種の金属イオンであり、Xは炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有するイソフタル酸またはテレフタル酸から選ばれる芳香族配位子である。Lは有機溶媒分子又は水分子である。zは0〜4であるが、0ではない。)
で表される含ふっ素金属錯体であって、前記2価の遷移金属イオンに4個の前記芳香族配位子が配位してパドルホイール構造を形成しており、かつ、4個の前記芳香族配位子は、それぞれ、その2個のカルボキシル基のうち1個は前記2価の遷移金属イオンに配位し、他の1個のカルボキシル基は前記2価の遷移金属イオンに配位していない、含ふっ素金属錯体又はその塩。
【請求項5】
Lが水分子である、請求項4に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩と、2価の遷移金属塩とを反応させてなるガス吸着材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩と、2価の遷移金属塩を反応させて、ガス吸着材を調製する方法。
【請求項8】
含ふっ素金属錯体又はその塩と、当該含ふっ素金属錯体又はその塩を構成する2価の遷移金属とは異なる金属の塩とを反応させる、請求項7に記載のガス吸着材を調製する方法。
【請求項9】
請求項6に記載のガス吸着材を用いるガス分離装置。
【請求項10】
請求項6に記載のガス吸着材を用いるガス貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配位性官能基を有する金属錯体及び本材料を原料にして調製したガス吸着材とガス吸着材しての利用ならびにこれを用いたガス分離装置およびガス貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス吸着材は、加圧貯蔵や液化貯蔵に比べて、低圧で大量のガスを貯蔵しうる特性を有する。このため、近年、ガス吸着材を用いたガス貯蔵装置やガス分離装置の開発が盛んである。ガス吸着材としては、活性炭やゼオライトなどが知られている。また最近は多孔性高分子金属錯体にガスを吸蔵させる方法も提案されている。
【0003】
多孔性高分子金属錯体(以下、本明細書ではPCP(Porous Coordination Polymer)ともいう。)は、金属イオンと有機配位子から得られる結晶性固体で、種々の金属イオン、有機配位子の組み合わせおよび高分子骨格構造の多様性から、様々なガス吸着特性を発現する可能性を秘めている。しかしながら、これらの従来提案されてきたガス吸着材は、ガス吸着量や作業性などの点で充分に満足できるものとはいえず、より優れた特性を有するガス吸着材の開発が所望されている。(特許文献1〜2、非特許文献1〜2)
【0004】
複数種の金属イオンを含有するPCPの例は極めて少なく、どのような原料をどのような条件で反応させれば良いかはほとんど知られていない。通常のPCP合成、すなわち、金属イオンと配位子を同時に反応させる一段反応では、二種類の金属イオンを使用してもどちらか一種類の金属イオンが取り込まれるか、あるいは金属イオンAからなるPCPと金属イオンBからなるPCPの混合物が生じるだけで、すなわち、二種類の金属イオンを含有するPCPを作ることは極めて困難である。
【0005】
最初の錯体の合成に使用した金属イオンとは別種の金属イオンを後段の反応で添加するなどして、複数種の金属イオンを含有した材料を調製することも可能になる。金属イオンは、PCPの物性、特にガス吸着性に対し、ガス分子との親和性による直接効果、PCPの細孔構造を通じた間接効果の両方で大きな影響を及ぼすため、複数種の金属イオンを含有した材料には、単独の金属イオンを含有した材料とは異なる物性が期待出来る。
【0006】
PCPは、合成の多くの場合、金属イオンと複数の配位点を有する配位子を反応させることで、高分子状のネットワークを有するPCPを合成する。一方で、高分子状ではない錯体を調製した後に、これに金属塩や配位子を加える手法でPCPを合成する方法が知られている。この手法によれば、従来の金属イオンと配位子を反応させる方法では調製出来なかったPCPを合成出来る可能性がある。(非特許文献3〜7)
(特許文献8〜12)
【0007】
前駆体を使用したPCP合成例は極めてすくなく、どのような原料をどのような条件で反応させれば良いかはほとんど知られていない。
【0008】
また、多孔体のガス吸着特性を制御するために、配位子にふっ素原子を導入する試みが行われているふっ素の材料への一般的な影響として、摺動性、撥水性などは知られているが、前述のふっ素を導入した多孔性高分子金属錯体の例では、ふっ素原子による水素の吸着特性の向上が述べられている。これらは、前記のふっ素原子が惹起する物性とは一致せず、またふっ素原子導入が水素の吸着特性を向上させる原理も詳しくは記載されておらず、すなわち、ふっ素原子の導入が多孔性高分子金属錯体のガス吸着特性にどのような影響を及ぼすかははっきりとはわかっていない。(非特許文献13〜16)
【0009】
含ふっ素配位子を使用したPCP及びガス吸着材の合成例は少なく、含ふっ素配位子が、前駆体を使用したPCPやガス吸着材の合成および複数種金属イオンを含有してPCPやガス吸着材の合成にどのように影響を及ぼすかは分かっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-109493号公報
【特許文献2】特許第4427236号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】北川進、集積型金属錯体、講談社サイエンティフィク、2001年214-218頁
【非特許文献2】Robsonら、Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 1460 ± 1494
【非特許文献3】Fereyら、Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 6285
【非特許文献4】Eddaoudi ら、J. AM. CHEM. SOC. 2008, 130, 1560
【非特許文献5】Eddaoudi ら、Angew. Chem. Int. Ed.2007,46,3278
【非特許文献6】Yaghiら、Angew. Chem. Int. Ed.Engl., 2006,45, 2528-2533
【非特許文献7】Rosseinskyら、Science (2007) 315, 977
【非特許文献8】Dincaら、Chem. Sci., 2012,3, 2110
【非特許文献9】北川ら、Inorg.Chem.2005,44,133
【非特許文献10】北川ら、J. Am. Chem. Soc..2008,130,4475
【非特許文献11】Loyeら、Inorg.Chem.(00)1943
【非特許文献12】Fereyら、Angew. Chem. Int. Ed.Engl., 2007,46, 5877
【非特許文献13】Omaryら、J. Am. Chem. Soc., 2007,129, 15454
【非特許文献14】Omaryら、Angew. Chem. Int. Ed.2009,48,2500
【非特許文献15】Liら、J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, 1308
【非特許文献16】Fereyら、J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 1127-1136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、多孔性高分子金属錯体(PCP)に限らないガス吸着材を合成するために用いることができる、配位性官能基(配位点)を有する含ふっ素金属錯体、及びこれを用いた優れた特性を有するガス吸着材を提供することである。また本発明は、前記特性を有するガス吸着材を内部に収容してなるガス貯蔵装置およびガス分離装置を併せて提供することを目的とする。
本発明の金属錯体は、後述するように(例えば、段落[0031]参照)、配位に関与していない配位性官能基(カルボキシル基)を有している。本明細書では配位に関与していない配位性官能基(カルボキシル基)を有している状態を「配位点を有する」と呼ぶ。従って、本発明の金属錯体を「配位点を有する含ふっ素金属錯体」又は「配位点を有する金属錯体」と呼ぶこともある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前述のような問題点を解決すべく、鋭意研究を積み重ねた結果、パーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有する芳香族配位子と、2価の遷移金属イオンを反応させる際に、溶媒に水を含有させることで、遷移金属イオンへの配位には関与しない配位性のカルボキシル基を有する含ふっ素錯体(すなわち、配位点を有する含ふっ素錯体)が合成でき、さらに本錯体に金属イオンを添加して反応させることでガス吸着特性を有する材料が調製できる事を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、2価の遷移金属イオンとパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有する芳香族配位子を水共存下で反応させて得られる、配位点を有する含ふっ素金属錯体であり、本材料を使用して調製したガス吸着材料およびガス吸着材料としての利用及び本ガス吸着材を内部に収容してなるガス貯蔵装置およびガス分離装置に関する発明である。
【0015】
すなわち本発明は下記にある。
(1)下記式(I)
[M] (I)
(式中、Mは2価の遷移金属イオンから選ばれる1種の金属イオンであり、Xは炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有するイソフタル酸またはテレフタル酸から選ばれる芳香族配位子である。)
で表される含ふっ素金属錯体であって、前記2価の遷移金属イオンに4個の前記芳香族配位子が配位してパドルホイール構造を形成しており、かつ、4個の前記芳香族配位子は、それぞれ、その2個のカルボキシル基のうち1個は前記2価の遷移金属イオンに配位し、他の1個のカルボキシル基は前記2価の遷移金属イオンに配位していない、含ふっ素金属錯体又はその塩。
【0016】
(2)Mが、亜鉛イオン、コバルトイオン、銅イオン、ニッケルイオンから選ばれる、上記(1)に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩。
【0018】
)炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基が、CF,C,n−C,n−C,n−C11,n−C17,n−C1021から選ばれる、上記(1)又は(2)に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩。
【0019】
(4)有機溶媒分子や水分子が配位し、式(II)
[MLz] (II)
(式中、Mは2価の遷移金属イオンから選ばれる1種の金属イオンであり、Xは炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有するイソフタル酸またはテレフタル酸から選ばれる芳香族配位子である。Lは有機溶媒分子又は水分子である。zは0〜4であるが、0ではない。)
で表される含ふっ素金属錯体であって、前記2価の遷移金属イオンに4個の前記芳香族配位子が配位してパドルホイール構造を形成しており、かつ、4個の前記芳香族配位子は、それぞれ、その2個のカルボキシル基のうち1個は前記2価の遷移金属イオンに配位し、他の1個のカルボキシル基は前記2価の遷移金属イオンに配位していない、含ふっ素金属錯体又はその塩。
【0020】
)Lが水分子である、上記()に記載の含ふっ素金属錯体又はその塩。
【0021】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の含ふっ素金属錯体又はその塩と、2価の遷移金属塩とを反応させてなるガス吸着材。
【0022】
)上記(1)〜()のいずれかに記載の含ふっ素金属錯体又はその塩と、2価の遷移金属塩を反応させて、ガス吸着材を調製する方法。
【0023】
)含ふっ素金属錯体又はその塩と、当該含ふっ素金属錯体又はその塩を構成する2価の遷移金属とは異なる金属の塩とを反応させる、上記()に記載のガス吸着材を調製する方法。
【0024】
)上記()に記載のガス吸着材を用いるガス分離装置。
【0025】
10)上記()に記載のガス吸着材を用いるガス貯蔵装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明の含ふっ素金属錯体を用いてガス吸着材を調製することができる。本発明の含ふっ素金属錯体から調製される吸着材は、多量のガスを吸着、放出し、かつ、ガスの選択的吸着を行う材料を調製することが可能である。また本発明の含ふっ素金属錯体から調製されるガス吸着材料を内部に収容してなるガス貯蔵装置およびガス分離装置を製造することが可能になる。
【0027】
本発明の含ふっ素金属錯体から調製される吸着材は、また例えば、圧力スイング吸着方式(以下「PSA方式」と略記)のガス分離装置として使用すれば、非常に効率良いガス分離が可能である。また、圧力変化に要する時間を短縮でき、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与しうるため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0028】
本発明の含ふっ素金属錯体から調製される吸着材の他の用途としては、ガス貯蔵装置が挙げられる。本発明のガス吸着材をガス貯蔵装置(業務用ガスタンク、民生用ガスタンク、車両用燃料タンクなど)に適用した場合には、搬送中や保存中の圧力を劇的に低減させることが可能である。搬送時や保存中のガス圧力を減少させ得ることに起因する効果としては、形状自由度の向上がまず挙げられる。従来のガス貯蔵装置においては、保存中の圧力を維持しなくてはガス吸着量を高く維持できない。しかしながら、本発明のガス貯蔵装置においては、圧力を低下させても充分なガス吸着量を維持できる。
【0029】
ガス分離装置やガス貯蔵装置に適用する場合における、容器形状や容器材質、ガスバルブの種類などに関しては、特に特別の装置を用いなくてもよく、ガス分離装置やガス貯蔵装置に用いられているものを用いることが可能である。ただし、各種装置の改良を排除するものではなく、いかなる装置を用いたとしても、本発明の含ふっ素金属錯体から調製される吸着材を用いている限りにおいて、本発明の技術的範囲に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の含ふっ素金属錯体の構造を示す。
図2】本発明の含ふっ素金属錯体に水分子が配位した構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、下記式(I)
[M] (I)
(式中、Mは2価の遷移金属イオンから選ばれる1種の金属イオンであり、Xは炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有する芳香族配位子である。)
で表される含ふっ素金属錯体であって、2価の遷移金属イオンに4個の芳香族配位子が配位してパドルホイール構造を形成しており、かつ、4個の芳香族配位子は、ぞれぞれ、その2個のカルボキシル基のうち1個は2価の遷移金属イオンに配位し、他の1個のカルボキシル基は2価の遷移金属イオンに配位していない、含ふっ素金属錯体又はその塩を提供する。
【0032】
本発明の含ふっ素金属錯体を、図1を参照し、銅イオンと5位にC基を有するイソフタル酸誘導体から得られた含ふっ素錯体を用いて説明する。なお、図1,2において、炭素原子は白色、2価の遷移金属イオンの代表例としての銅イオンは黒色、酸素原子は濃い灰色、ふっ素原子は薄い灰色で示すが、水素原子は簡単のために省略されている。2個の銅イオンが4個の配位子の4個のカルボキシル基に配位され、いわゆるパドルホイール型の錯体を形成している。各イソフタル酸型配位子の2個のカルボキシル基の内1個は、銅イオンに配位しているが、もう一個のカルボキシル基は配位に関与しておらず、新たに金属イオンを添加した場合にはさらなる錯形成反応に関与する事が出来る。通常であれば、この空いたカルボキシル基と銅イオンが反応して高分子化したPCPが得られるが、本発明で合成に用いる配位子はパーフルオロアルキル基を有しており、また反応溶媒には水が含まれているため、疎水性、親水性のバランスからPCPではなく、配位点を有する含ふっ素錯体が得られると推定される。また、本発明の含ふっ素金属錯体の配位点を成すカルボキシル基は塩を成していることができる。
【0033】
図2に、図1に示した含ふっ素金属錯体のパドルホイール構造の銅イオンの上下にそれぞれ水分子(図2でも水素原子は省略されているので、酸素原子だけが示されている)が配位している構造を示す。本発明の含ふっ素金属錯体は、反応溶媒に水を含有させて反応させることで得られるので、合成時に得られる含ふっ素金属錯体には銅イオンに水分子が配位して得られることが多い。この銅イオンに配位している水分子は、容易に脱離する。
【0034】
また、本発明の含ふっ素金属錯体は、金属イオンに合成に使用した溶媒中の水分子のほか、有機溶媒分子、あるいは空気中の水分子が配位し、たとえば式(II)
[MLz] (II)
(式中、Mは2価の遷移金属イオンから選ばれる1種の金属イオンであり、Xは炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有する芳香族配位子である。Lは、後述のような合成に使用した有機溶媒分子や空気中の水分子である。zは0〜4の範囲内であるが0ではない。)であるような複合錯体に変化する場合がある。なお、式(II)において、上記の如く、Lは合成時に溶媒中に含有される水分子であることも可能である。zは固体又は溶液状態で存在する本発明の含ふっ素金属錯体における配位子Lの平均の含有量を表す数値である。式(II)で表される含ふっ素金属錯体の構造も、図2に示す構造と同様である。
【0035】
しかし、これらの複合錯体中の上記Lで表される配位性の分子は、金属イオンに弱く結合しているだけであり、ガス吸着材として利用する際の減圧乾燥などの前処理によって除かれ、元の式(I)で表される錯体に戻ることができる。そのため、式(II)で表されるような錯体であっても、本質的には本発明の含ふっ素金属錯体と同一物と見なすことができる。
【0036】
本発明の含ふっ素金属錯体を形成するのに用いる金属イオンは2価の遷移金属イオンである。2価の遷移金属イオンは、上記の配位構造を安定的に形成する。2価の遷移金属イオンの具体例としては、コバルトイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、銅イオンが挙げられる。得られた含ふっ素金属錯体の化学的安定性の観点から、銅イオン、亜鉛イオンが好ましい。収率の点から銅イオンが特に好ましい。
【0037】
本発明の含ふっ素金属錯体を形成するパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個を有する二座の芳香族配位子に関して説明する。本2座配位子は、テレフタル酸の様な直線状でも、イソフタル酸の様な屈曲型の配位子でもよい。テレフタル酸の様な直線状配位子としては、2位にふっ素原子を含有する側鎖を有する物でも、2位及び5位にふっ素原子を含有する側鎖を有する物でもよい。イソフタル酸の様な屈曲型の配位子としては、5位にふっ素原子を含有する側鎖を有するイソフタル酸型配位子を挙げられる。
【0038】
これらの配位子のパーフルオロアルキル基としては、直鎖状または枝分かれのある炭素数1から10であるパーフルオロアルキル基であればよいが、特にガス分離特性が優れる点で、CF,C,n−C,n−C,n−C11,n−C17,n−C1021基が好ましい。ベンゼン環へのパーフルオロアルキル基の導入方法としては、たとえば、柴崎ら、Chem. Asian J. 2006, 1, 314 - 321を参照することができる。
【0039】
式(I)又は(II)で表される本発明の含ふっ素金属錯体は、2価の遷移金属イオンとパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有する芳香族配位子とを、水を含有する溶媒中で混合することで製造できる。
【0040】
含ふっ素化合物は、疎水性が高く、水溶媒とは親和性が低いため、パーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個含有する芳香族配位子を水共存下で2価の遷移金属イオンと反応させると、芳香族配位子の一方のカルボキシル基のみが2価の遷移金属イオンと反応し(疎水部)、これの周囲にもう一方のカルボキシル基が突き出た(親水部)錯体が形成されると考えられる。このようなカルボキシル基を2個含有する芳香族配位子を2価の遷移金属イオンと反応させる条件は、典型的なPCPの合成条件であり、通常は、カルボキシル基は2個ともが反応してしまうが、本発明の反応では、前述のように、カルボキシル基1個は反応せずに存在し、これが吸着能を有する材料の調製に重要な働き有する。このような現象が生じるのは、疎水性のふっ素含有基、親水性のカルボキシル基、水を含んだ溶媒などの特殊な条件で反応を行うためと考えられる。
【0041】
水とともに用いることができる溶媒として、アルコール類などのプロトン系溶媒とジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒の混合溶媒を利用すると、良好な結果が得られる。アルコール類などのプロトン系溶媒及びジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒は2価の遷移金属塩をよく溶解し、さらに2価の遷移金属イオンや対イオンに配位結合や水素結合することで2価の遷移金属塩を安定化し、配位子との急速な反応を抑制することで、副反応を抑制する。アルコール類の例としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなどの脂肪族系1価アルコール及びエチレングリコールなどの脂肪族系2価アルコールを例示できる。安価でかつ2価の遷移金属塩の溶解性が高いという点でメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコールが好ましい。またこれらのアルコール類は単独で用いてもよいし、複数を混合使用してもよい。アミド系溶媒の例としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジブチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが例示出来る。2価の遷移金属塩の溶解性が高いという点で、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドが好ましい。
【0042】
アルコール類とアミド系溶媒の混合比率は99:1〜1:99(体積比)で任意である。配位子、金属塩の両方の溶解性が高まり、副生成物の発生を抑制出来るという点で、混合比率は90:10〜10:90(体積比)、反応を加速できるという観点から80:20〜20:80(体積比)が好ましい。
【0043】
有機溶媒として前記のアルコール類とアミド系溶媒の混合溶媒に別種の有機溶媒を混合して使用することもできる。アルコール類とアミド系溶媒からなる混合溶媒の別種の有機溶媒に対する混合比率は、30%以上にすることが、金属塩および配位子の溶解性を向上させる観点から好ましい。
【0044】
本発明の含ふっ素金属錯体を製造するためには、いずれの溶媒を用いる場合にも、反応の際に水を含有している事が重要である。水の含有量は、1Vol%〜100Vol%であるが、含ふっ素金属錯体を収率よく合成するためには20〜100Vol%、さらには40〜100Vol%が好ましい。この水の添加により、PCPが形成されるのが阻害され、空いたカルボキシル基を有する含ふっ素金属錯体が形成される。
【0045】
2価の遷移金属イオンを供給する原料としては、2価の遷移金属塩を用いることができる。本発明の方法で使用する2価の遷移金属塩の代表例である銅鉛塩としては、2価の銅イオンを含有している塩類であればよいが、溶媒への溶解性が高いという点で、硝酸銅、酢酸銅、硫酸銅、ぎ酸銅、塩化銅、臭化銅、ほうふっ化銅が好ましく、反応性が高いという点で、硝酸銅、硫酸銅、ほうふっ化銅が特に好ましい。
【0046】
本発明の方法で使用する亜鉛塩としては、2価の亜鉛イオンを含有している塩類であればよいが、溶媒への溶解性が高いという点で、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、ぎ酸亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛が好ましく、反応性が高いという点で、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛が特に好ましい。
【0047】
本発明の方法で使用するコバルト塩としては、2価のコバルトイオンを含有している塩類であればよいが、溶媒への溶解性が高いという点で、硝酸コバルト、酢酸コバルト、硫酸コバルト、ぎ酸コバルト、塩化コバルト、臭化コバルトが好ましく、反応性が高いという点で、硝酸コバルト、硫酸コバルトが特に好ましい。
【0048】
本発明の方法で使用するニッケル塩としては、2価のニッケルイオンを含有している塩類であればよいが、溶媒への溶解性が高いという点で、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、ぎ酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケルが好ましく、反応性が高いという点で、硝酸ニッケル、硫酸ニッケルが特に好ましい。
【0049】
本発明の含ふっ素金属錯体を製造するために用いるパーフルオロアルキル基を少なくとも1個以上及びカルボキシル基を2個を有する二座の芳香族配位子としては、上記の二座の芳香族配位子を用いることができる。
【0050】
本発明の含ふっ素金属錯体を製造する方法では、反応促進剤として塩基を添加することも可能である。塩基は、配位子のカルボキシル基を陰イオンに変換する事で、反応を加速すると推定される。塩基としてはたとえば無機塩基として水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが例示できる。有機塩基としては、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ピリジン、2,6−ルチジンなどが例示出来る。反応加速性が高いという点で、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、およびピリジンが好ましい。添加量としては、使用するイソフタル酸の総モルに対し、反応の加速効果が顕著であるという点で好ましくは0.1〜6.0モル、副反応少ないという点でさらに好ましくは0.5から4.0モルである。
【0051】
本発明の含ふっ素金属錯体を製造する方法では、反応制御剤として有機酸を添加することも可能である。有機酸は、配位子のカルボキシル基の酸としての解離を制御することで、反応が適切に進む事を制御していると考えられる。脂肪族の有機酸としては、酢酸、プロピオン酸などの1価の酸、シュウ酸、マロン酸などの2価の酸、ビシクロ[2,2,2」-オクタン-1,4-ジカルボン酸などの環状カルボン酸が挙げられる。芳香族の有機酸としては、安息香酸、4−メチル安息香酸などの1価の酸が挙げられる。これらの内、溶解性が高く、2価の遷移金属イオンに配位が強すぎない酢酸、安息香酸、ビシクロ[2,2,2」-オクタン-1,4-ジカルボン酸が好ましい。添加量としては、使用する配位子の総モルに対し、反応の効果が顕著であるという点で好ましくは0.1〜12.0モル、副反応が少ないという点でさらに好ましくは0.5から8.0モルである。
【0052】
2価の遷移金属塩の溶液と配位子を反応させるに当たり、2価の遷移金属塩と配位子を容器に装填した後、溶媒を添加する方法以外に、2価の遷移金属塩、配位子をそれぞれ別個に溶液として調製した後、これらの溶液を混合してもよい。溶液の混合方法は、2価の遷移金属塩溶液に配位子溶液を添加しても、その逆でもよい。また、2価の遷移金属塩溶液と配位子溶液を、積層した後に自然拡散による方法で混合してもよい。混合法としては、必ずしも溶液で行う必要はなく、例えば、2価の遷移金属塩溶液に固体の配位子を投入し、同時に溶媒を入れる方法や、反応容器に2価の遷移金属塩を装填した後に、配位子の固体または溶液を注入し、さらに2価の遷移金属塩を溶かすための溶液を注入するなど、最終的に反応が実質的に溶媒中で起こる方法であれば、種々の方法が可能である。ただし、2価の遷移金属塩の溶液と配位子の溶液を滴下混合する方法が、工業的には最も操作が簡便であり、好ましい。いずれの方法に於いても、反応溶液を調製した後に静置することで、配位子と2価の遷移金属イオンの反応を適切な速度に保つことが好ましい。
【0053】
用いる溶液の濃度は、2価の遷移金属塩溶液では10μmol/L〜4mol/Lが好ましく、100μmol/L〜2mol/Lであることがより好ましい。配位子の有機溶液は10μmol/L〜3mol/Lが好ましく、100μmol/L〜2mol/Lであることがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的物は得られるが、製造効率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では、吸着能が低下するおそれがある。
【0054】
本発明の反応で用いられる2価の遷移金属塩と配位子の混合比率は、2価の遷移金属:配位子の比が1:5〜5:1のモル比が好ましく、1:3〜3:3のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では、目的物の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して、目的物の取り出しが困難となる恐れがある。
【0055】
反応は通常のガラスライニングのSUS製の反応容器および機械式攪拌機を使用して行うことができる。反応終了後は、本発明の含ふっ素金属錯体は結晶性固体であるため、濾過、乾燥を行うことで目的物質と原料の分離を行い、純度の高い目的物質を製造することが可能である。
【0056】
上記の反応により、本発明の含ふっ素金属錯体が得られているかどうかは、単結晶X線結晶解析により得られた反射を解析することで確認することが出来る。上記の反応により得られた含ふっ素金属錯体を用いて調製されたガス吸着材のガス吸着能は、市販のガス吸着装置を用いて測定が可能である。
【0057】
本発明の含ふっ素金属錯体の配位点はカルボキシル基からなるので、カルボキシル基の水素原子が金属イオンによって置換された塩を形成できることは明らかである(以下では、そうした塩を含めて、単に「(配位点を有する)含ふっ素金属錯体」という。)。
【0058】
本発明の含ふっ素金属錯体を原料に用いた吸着材の調製は、以下のように行う事が出来る。
【0059】
含ふっ素金属錯体に、金属塩を添加し、溶媒中で加熱を行い、反応後に得られた固体を濾過する。
【0060】
金属塩は、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、コバルトなどの遷移金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、その他、アルミニウム、スカンジウムなどの2価以上の金属のイオンが利用出来る。金属イオンの種類は、含ふっ素金属錯体に含まれている金属イオンと同一であっても異なっていても良い。
【0061】
金属塩は、目的の金属イオンを含有している塩類であればよいが、溶媒への溶解性が高いという点で、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、ぎ酸塩、塩化塩、臭化塩、ほうふっ化塩などが好ましく、反応性が高いという点で、硝酸塩、硫酸塩、ほうふっ化塩が特に好ましい。
【0062】
含ふっ素金属錯体と反応させてガス吸着材を形成するのに好ましい金属イオンとしては、2価の遷移金属イオンが挙げられる。2価の遷移金属イオンは、本発明の含ふっ素金属錯体と同様の配位構造を安定的に形成するので、本発明の含ふっ素金属錯体と反応させて吸着材を調製することを容易にする。2価の遷移金属イオンの具体例としてはコバルトイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン、銅イオンが挙げられる。得られた含ふっ素金属錯体の化学的安定性の観点から、銅イオン、亜鉛イオンが好ましい。収率の点から銅イオンが特に好ましい。
【0063】
含ふっ素金属錯体と反応に使用する金属塩のモル比は、10:1〜1:10がこのましく,収率が高いという観点から3:1〜1:3であることがより好ましい。
【0064】
特に、本発明の含ふっ素金属錯体と反応させてガス吸着材を形成する際に用いる金属イオンとして、含ふっ素金属錯体に含まれる2価の遷移金属イオンとは異なる2価の遷移金属イオンを用いることで、得られるガス吸着材(本発明において得られるガス吸着材はPCPとは限らないが、PCPであり得る。)が、本発明の含ふっ素金属錯体を形成するために用いた配位子(例えば、イソフタル酸誘導体やテレフタル酸誘導体など)と各種の他の2価の遷移金属イオンとから直接に得られるガス吸着材(PCP)とは異なるガス吸着材(PCP)である可能が提供されることは、本発明の含ふっ素金属錯体の特異な効果である。具体的には、第一の2価の遷移金属イオンを用いた含ふっ素金属錯体と第二の2価の遷移金属イオンを反応させて、第一の2価の遷移金属イオンと第二の2価の遷移金属イオンが特定の割合で(たとえば1:1で)、また規則的な順序で(たとえば交互に)、配置されたPCPを形成できる可能性がある。
【0065】
本発明の含ふっ素金属錯体と2価の遷移金属塩を反応させて吸着材を調製する方法で使用する2価の遷移金属塩は、本発明の含ふっ素金属錯体の合成の際に用いたものと同様であることができ、本発明の含ふっ素金属錯体の合成に関連して上記した記述が参照される。
【0066】
本発明の含ふっ素金属錯体と遷移金属イオンとを反応させてガス吸着材を形成する際に用いる溶媒には、本発明の含ふっ素金属錯体の製造に用いるのと同様の有機溶媒を用いることができる。このガス吸着材の製造では、溶媒として有機溶媒のほか、水を含んでもよく、水を含む場合は溶媒中1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0067】
反応促進剤として、塩基や有機酸を添加することも可能である。本発明の吸着材を調製する方法において使用することができる塩基や有機酸も、本発明の含ふっ素金属錯体の合成の際に用いた塩基や有機酸と同様であることができ、本発明の含ふっ素金属錯体の合成に関連して上記した記述が参照される。
【0068】
本発明の吸着材を調製するために、本発明の含ふっ素金属錯体と金属イオンを反応(混合)させる方法も、本発明の含ふっ素金属錯体の合成の際と同様であることができ、本発明の含ふっ素金属錯体の合成に関連して上記した方法を用いることができる。
いずれの反応(混合)方法に於いても、反応溶液を調製した後に静置することで、含ふっ素金属錯体と金属イオンの反応を適切な速度に保つことが好ましい場合がある。ここで、静置する温度は、−40℃〜180℃、副生成物の発生が抑制できるという点で、−20℃〜150℃が好ましい。静置する時間は、1時間〜3ヶ月、さらには副生成物が少ないという点で4時間〜2ヶ月であることが好ましい。
【0069】
本発明の吸着材を調製するために用いる溶液の濃度も、本発明の含ふっ素金属錯体の合成の際と同様であることができる。
【0070】
本発明の吸着材を調製する反応は通常のガラスライニングのSUS製の反応容器および機械式攪拌機を使用して行うことができる。反応終了後は、本発明の含ふっ素金属錯体から調製される吸着材は結晶性固体であるため、濾過、乾燥を行うことで目的物質と原料の分離を行い、純度の高い目的物質を製造することが可能である。
【0071】
上記の反応により得られたガス吸着材のガス吸着能は、市販のガス吸着装置を用いて測定が可能である。
【0072】
本発明の含ふっ素金属錯体は、含ふっ素基という極めて疎水性が高い部位と、カルボキシル基という極めて親水性が高い部位を分子内に持つ錯体である。このような錯体を収率よく合成するためには、配位子上のカルボキシル基すべてが2価の遷移金属イオンと反応してPCP に成ることを抑制する必要があり、このために、溶媒に含まれる水が重要な働きをしていると推定される。しかし、本発明は理論に拘束されるものではなく、本発明の含ふっ素金属錯体の特性もこの理論によって制限されるものではない。
【実施例】
【0073】
本発明の配位点を有する含ふっ素金属錯体の調製方法は種々の条件があり、一義的に決定できるものではないが、ここでは実施例に基づき説明する。
粉末X線回折測定には、ブルカーAX(株)社製粉末X線装置DISCOVER D8 with GADDSを用いた。
【0074】
実施例1
硝酸銅3水和物0.01ミリモル、5−ペンタタフルオロエチルイソフタル酸(5位にノルマルCF基を有するイソフタル酸)0.01ミリモル、水5mLをテフロン(登録商標)製の耐圧容器に入れ、150℃で2日間加熱した。
【0075】
得られた単結晶を大気に暴露させないようにパラトンにてコーティングした後、(株)リガク社製単結晶測定装置(極微小結晶用単結晶構造解析装置VariMax、MoK・線(λ=0.71069Å))にて測定し(照射時間8秒、d=45ミリ、2θ=−20,温度=−180℃)、得られた回折像を解析ソフトウエア、リガク(株)製解析ソフトウエア「CrystalStructure」を使用して解析した結果、図1に示すような含ふっ素金属錯体が得られている事が分かった(a=11.6112(18), b=11.6857(17), c=17.521(3); α=91.993(2), β=101.470(3), γ=90.664(3); 空間群=P1)。
【0076】
(含ふっ素金属錯体からの吸着材の調製)
上記と同様の方法で得られた固体200mg、硝酸亜鉛3水和物1.0ミリモル、ジメチルホルムアミド7mL、エタノール7mLをテフロン(登録商標)製の耐圧容器に入れれ、120℃24時間反応させた。得られた固体を濾過し、エタノールで洗浄し、室温で真空乾燥し、156mgの青緑色固体を得た。蛍光X線により分析を行った結果、銅イオンと亜鉛イオンがほぼ等量含有されていた。
【0077】
実施例2
硝酸亜鉛3水和物0.01ミリモル、5−ヘプタデカフルオロオクチルイソフタル酸(5位にノルマルC8F17基を有するイソフタル酸)0.01ミリモル、エタノール/水(混合体積比1/1)5mLをテフロン(登録商標)製の耐圧容器に入れ、150℃で2日間加熱した。得られた単結晶からX線回折分析により、図1に示すと同様の含ふっ素金属錯体が得られている事が分かった。(a=12.2633(9), b=10.9835(7), c=16.635(6); α=92.587(4), β=103.522(6), γ=88.376(7); 空間群=P1)
【0078】
(含ふっ素金属錯体からの吸着材の調製)
上記と同様の方法で得られた固体200mg、硝酸銅3水和物1.0ミリモル、ジメチルホルムアミド7mL、エタノール7mLをテフロン(登録商標)製の耐圧容器にいれ、120℃24時間反応させた。得られた固体を濾過し、エタノールで洗浄し、室温で真空乾燥し、156mgの青緑色固体を得た。蛍光X線により分析を行った結果、亜鉛イオンと銅イオンがほぼ等量含有されていた。
【0079】
実施例3
硝酸銅3水和物0.01ミリモル、5−トリフルオロメチルイソフタル酸(5位にノルマルCF3基を有するイソフタル酸)0.01ミリモル、メタノール/水(混合体積比1/1)5mL、水酸化リチウム0.01ミリモルをテフロン(登録商標)製の耐圧容器に入れ、室温で1日間加熱した。得られた単結晶からX線回折分析により、図1に示すと同様の含ふっ素金属錯体が得られている事が分かった(a=13.2572(8), b=13.6356(7), c=17.7465(7); α=91.885(9), β=102.454(3), γ=92.745(9); 空間群=P1)
【0080】
(含ふっ素金属錯体からの吸着材の調製)
上記と同様の方法で得られた固体200mg、硝酸亜鉛3水和物1.0ミリモル、ジメチルホルムアミド7mL、エタノール7mLをテフロン(登録商標)製の耐圧容器にいれ、120℃24時間反応させた。得られた固体を濾過し、エタノールで洗浄し、室温で真空乾燥し、156mgの青緑色固体を得た。蛍光X線により分析を行った結果、銅イオンと亜鉛イオンがほぼ等量含有されていた。
【0081】
実施例4
硝酸ニッケル3水和物0.01ミリモル、5−ウンデカフルオロペンタテレフタル酸(5位にC5F11基を有するテレフタル酸)0.01ミリモル、水5mLをテフロン(登録商標)製の耐圧容器に入れ、150℃で2日間加熱した。得られた単結晶からX線回折分析により、イソフタル酸がテレフタル酸に替わる以外は図1に示すと同様の含ふっ素金属錯体が得られている事が分かった。(a=13.3445(4), b=12.2754(7), c=17.976(4); α=91.987(7), β=102.634(8), γ=92.048(3); 空間群=P1)。
【0082】
(含ふっ素金属錯体からの吸着材の調製)
上記と同様の方法で得られた固体200mg、硝酸銅3水和物1.0ミリモル、ジメチルホルムアミド7mL、エタノール7mLをテフロン(登録商標)製の耐圧容器にいれ、120℃24時間反応させた。得られた固体を濾過し、エタノールで洗浄し、室温で真空乾燥し、156mgの青緑色固体を得た。蛍光X線により分析を行った結果、ニッケルイオンと銅イオンがほぼ等量含有されていた。
【0083】
比較例1
実施例1と同様の方法で、ただし、金属塩としてさらに硝酸亜鉛3水和物0.01ミリモルを共存させて反応を行った。蛍光X線により分析を行った結果、銅イオンと亜鉛イオンがおよそ3:1の比率で含有されていた。
【0084】
<ガス吸着の結果>
得られた固体のガス吸着性をBET自動吸着装置(日本ベル株式会社製ベルミニII)をもちいて評価した(測定温度:二酸化炭素は195K、および273K、酸素及び窒素は77K)。測定に先立って試料を423Kで6時間真空乾燥して、微量残存している可能性がある溶媒分子などを除去した。
【0085】
表1に、実施例1〜4で得られた含ふっ素金属錯体から調製した吸着材のガス吸着特性吸を示す。
【0086】
いずれも窒素は殆ど吸着しない一方、二酸化炭素と酸素を良く吸蔵し、また室温での二酸化炭素吸着量が比較的多い事からガス分離、貯蔵材として利用可能であることが判った。
【0087】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の含ふっ素金属錯体は、配位子の整列によって形成される多数の微細孔が物質内部に存在する。この多孔性を生かして二酸化炭素や特に酸素などのふっ素原子と親和性を有するガスの特異的な吸着が可能であり、これらのガスの分離、貯蔵に好適に使用出来る。
図1
図2