特許第6555939号(P6555939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6555939
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】信号処理装置及びレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20190729BHJP
   G01S 7/32 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   G01S7/292 200
   G01S7/32 250
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-118253(P2015-118253)
(22)【出願日】2015年6月11日
(65)【公開番号】特開2017-3454(P2017-3454A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】特許業務法人ワンディーIPパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中井 唯人
【審査官】 山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−006069(JP,A)
【文献】 特開2015−072185(JP,A)
【文献】 特公平03−002433(JP,B2)
【文献】 特開2011−053028(JP,A)
【文献】 特開2013−113819(JP,A)
【文献】 特開2007−212234(JP,A)
【文献】 特開2002−156444(JP,A)
【文献】 特開2012−037306(JP,A)
【文献】 特開2007−212332(JP,A)
【文献】 米国特許第06356510(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面内を所定周期で回転しながら送受信を繰り返すアンテナにより、第1方向、及び該第1方向に交差する第2方向、の双方に沿って並ぶ各位置から得らえるレーダエコーデータをアナログ−デジタル変換して受信信号を出力するA/D変換器と、
前記受信信号から、I成分とQ成分の2つの成分からなる複素データを生成する直交検波部と、
前記第1方向の同一位置にあり、前記第2方向に沿って並ぶ複数の前記複素データをフーリエ変換して周波数スペクトルを生成するフーリエ変換部と、
前記第1方向に沿った位置毎に生成した前記周波数スペクトルから振幅レベルの最大値をそれぞれ抽出し、前記最大値を有する最大振幅複素データを出力する最大振幅ベクトル選択部と、
前記最大振幅複素データの位相を、前記第1方向に沿う方向において該最大振幅複素データの位置に近接する他の複素データの位相の逆位相分だけ回転させ、前記最大振幅複素データのQ成分を除去してI成分からなるQ成分除去複素データを出力するQ成分除去部と、
前記Q成分除去複素データの振幅に基づいてエコー画像データを生成するエコー画像データ生成部と、
を備えていることを特徴とする、信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置において、
前記エコー画像データ生成部は、あるスキャン時におけるエコー画像データを、他のスキャン時におけるエコー画像データに基づいて生成することを特徴とする、信号処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の信号処理装置において、
前記他の複素データは、前記第1方向に沿う方向において前記最大振幅複素データの位置に隣接していることを特徴とする、信号処理装置。
【請求項4】
送信波を送波する送波部と、
前記送信波の反射波から得られる受信波を受波する受波部と、
前記受信波から得られる前記レーダエコーデータを処理する、請求項2または請求項3のいずれか1項に記載の信号処理装置と、
前記信号処理装置のQ成分除去部によって抽出されたI成分に基づいて生成されたエコー画像データに基づいて生成されたエコー画像を表示する表示装置と、
を備えていることを特徴とする、レーダ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のレーダ装置において、
前記第1方向は、前記送信波が送信される方向であるレンジ方向であり、
前記第2方向は、前記送波部及び前記受波部が回転する方向である方位方向であることを特徴とする、レーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置において、
前記信号処理装置は、それぞれが各前記方位方向に対応して得られる複素データ系列であって複数の前記複素データで構成される前記複素データ系列のうち、前記方位方向に連続する所定数の前記複素データ系列を処理することを特徴とする、レーダ装置。
【請求項7】
請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の信号処理装置において、
前記第1方向の同一位置にあり、前記第2方向に沿って並ぶ複数の位置に対応する前記複素データを記憶するスィープバッファを備えることを特徴とする、レーダ装置。
【請求項8】
請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の信号処理装置において、
直近のスキャン時に得られた各位置の前記エコー画像データのレベルと、1つ前のスキャン時に得られた、対応する位置のエコー画像データのレベルとを比較する比較決定部を備え、
前記比較決定部は、
直近のスキャン時に得られたエコー画像データのレベルが、1つ前のスキャン時に得られた、対応する位置のエコー画像データのレベル以上の場合には、直近のスキャン時に得られたエコー画像データのレベルをそのまま使用してエコー画像を生成し、
直近のスキャン時に得られたエコー画像データのレベルが、1つ前のスキャン時に得られた、対応する位置のエコー画像データのレベル未満の場合には、1つ前のスキャン時に得られた所定位置のエコー画像データのレベル、直近のスキャン時に得られた所定位置のエコー画像データのレベル、及び予め定められた按分比率に基づいて、新たなエコー画像データを生成することを特徴とする、レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の複素データを処理する信号処理装置、及びこの信号処理装置を備えたレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている典型的なコヒーレント積分では、レーダ受信信号から切り取った複素データ列がDFT(離散フーリエ変換)される。DFTでは、同一周波数成分ごとに入力データが積分され、周波数スペクトルが生成される。そして、このようにして生成された周波数スペクトルの最大値が出力される。これにより、周波数(位相変化量)がほぼ一定な信号領域の電力を維持しつつ、周波数(位相変化量)がランダムなノイズ領域の電力を低減できるため、S/N比(Signal to Noise ratio)を改善することができる。例えば、特許文献1の図2のドップラ処理部におけるCFAR部を省略した構成により、コヒーレント積分を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−6069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した典型的なコヒーレント積分では、DFTされる複素データ列のデータの数によってS/Nの改善度が決定される。しかしながら、このデータ点数の上限値は、当該コヒーレント積分が行われる装置の特性等によって制約されるため、所望のS/Nの改善度を得ることができない場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、S/Nの改善度が向上した信号処理装置、及びこの信号処理装置を備えたレーダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係る信号処理装置は、第1方向、及び該第1方向に交差する第2方向、の双方に沿って並ぶ各位置から得らえるエコーデータが、複素データとして複数入力され、前記第2方向に沿って並ぶ複数の前記複素データをフーリエ変換して、前記第1方向に沿った位置毎に周波数スペクトルを生成するフーリエ変換部と、前記周波数スペクトルの振幅の最大値を抽出するとともに、前記周波数スペクトルのうち前記最大値を有する点の複素ベクトルを、最大振幅ベクトルとして選択する最大振幅ベクトル選択部と、前記最大振幅ベクトルの位相を、前記第1方向に沿う方向において該最大振幅ベクトルの位置に近接する他の複素ベクトルの位相に基づいて回転させる位相回転部と、前記位相回転部によって位相が回転させられた前記最大振幅ベクトルのQ成分を除去してI成分を抽出するQ成分除去部と、を備えている。
【0007】
(2)好ましくは、前記位相回転部は、前記他の複素ベクトルの逆位相分、前記最大振幅ベクトルの位相を回転させる。
【0008】
(3)好ましくは、前記他の複素ベクトルは、前記第1方向に沿う方向において前記最大振幅ベクトルの位置に隣接している。
【0009】
(4)好ましくは、前記信号処理装置は、表示装置に表示されるエコー画像の基となるエコー画像データを前記I成分に基づいて生成するエコー画像データ生成部を更に備え、前記エコー画像データ生成部は、あるスキャン時におけるエコー画像データを、他のスキャン時におけるエコー画像データに基づいて生成する。
【0010】
(5)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係るレーダ装置は、送信波を送波する送波部と、前記送信波の反射波から得られる受信波を受波する受波部と、前記受信波から得られる前記エコーデータを処理する上述したいずれかの信号処理装置と、前記信号処理装置のQ成分除去部によって抽出されたI成分に基づいて生成されたエコー画像データに基づいて生成されたエコー画像を表示する表示装置と、を備えている。
【0011】
(6)好ましくは、前記第1方向は、前記送信波が送信される方向であるレンジ方向であり、前記第2方向は、前記送波部及び前記受波部が回転する方向である方位方向である。
【0012】
(7)更に好ましくは、前記信号処理装置は、それぞれが各前記方位方向に対応して得られる複素データ系列であって複数の前記複素データで構成される前記複素データ系列のうち、前記方位方向に連続する所定数の前記複素データ系列を処理する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、S/Nの改善度が向上した信号処理装置、及びこの信号処理装置を備えたレーダ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図2図1に示すQ成分除去処理部の構成を示すブロック図である。
図3】スイープバッファ部によって記憶される複素データ系列の概念を説明するための模式図である。
図4】フーリエ変換部によって生成された周波数スペクトルの一例を示す図であって、(A)は、対象物標が含まれる領域(物標領域)のエコー信号から得られるデータに基づいて生成された周波数スペクトル、(B)は、対象物標が存在しない領域(ノイズ領域)のエコー信号から得られるデータに基づいて生成された周波数スペクトル、である。
図5図1に示す操作・表示装置に表示されるエコー画像の一例を示す図である。
図6】従来から知られているレーダ装置の操作・表示装置に表示されるエコー画像の一例を示す図であって、図5に示すレーダ画像の比較対象としての図である。
図7】レンジ方向に近接する複数の最大振幅ベクトルをIQ座標上に表示した図であり、(A)は物標領域に含まれる複数の最大振幅ベクトルを示す図、(B)はノイズ領域に含まれる複数の最大振幅ベクトルを示す図、である。
図8】位相回転前後での最大振幅ベクトルを示す図であって、(A)は、位相回転前の最大振幅ベクトルを当該最大振幅ベクトルの1つ前のレンジビンの最大振幅ベクトルとともに示す図であり、(B)は、位相回転後の最大振幅ベクトルである。
図9】変形例に係るレーダ装置のQ成分除去処理部の構成を示すブロック図である。
図10】変形例に係るレーダ装置の表示装置に表示されるエコー画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る信号処理装置10を有するレーダ装置1の構成を示すブロック図である。レーダ装置1は、例えばパルス圧縮レーダであり、パルス幅の長い電波を送信波として送波するとともに、その送信波の反射波(受信波)から得られた受信信号を解析することで、物標の位置や速度を検出することができる。なお、本発明は、パルス圧縮レーダに限られず、その他のレーダ(例えばマグネトロンレーダ)に適用することもできる。以下、本実施形態のレーダ装置1の構成について説明する。
【0016】
図1に示すように、レーダ装置1は、アンテナ2(レーダアンテナ)と、送受信装置3と、信号処理装置10と、表示装置4と、を備える。
【0017】
アンテナ2は、送信波としてのマイクロ波を送波するとともに、その送信波が物標で反射して帰来する反射波を、受信波として受波するように構成されている。すなわち、アンテナ2は、送信波を送波する送波部、及び受信波を受波する受波部の双方の機能を果たす。アンテナ2は、平面内を所定周期で回転しながら送受信を繰り返している。これにより、レーダ装置1は自船周囲の全方位の物標を検出できるようになっている。
【0018】
なお、以下の説明では、マイクロ波を送波してから次のマイクロ波を送波するまでの動作を「スイープ」という。また、マイクロ波の送受波を行いながらアンテナを360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。
【0019】
送受信装置3は、送信信号発生器5と、局部発振器6と、送信機7と、送受切替器8と、周波数変換器9と、を備える。
【0020】
送信信号発生器5は、アンテナ2から送波される所定の波形のマイクロ波の基となる送信信号を発生する。局部発振器6は、送信信号発生器5が発生した送信信号を所定の帯域に変換するための局発信号を生成する。送信機7は、局発信号によって送信信号の周波数帯域を変換し、周波数帯域が変換された送信信号を送受切替器8へ出力する。
【0021】
送受切替器8は、アンテナ2に対する信号の送信と受信とを切り替えるためのものである。具体的には、送受切替器8は、送信信号をアンテナ2へ送信するときは、送信機7が出力する送信信号をアンテナ2へ出力する。一方、送受切替器8は、受信信号をアンテナから受信するときは、アンテナ2が受信した受信信号を周波数変換器9へ出力する。
【0022】
周波数変換器9は、局部発振器6が生成した局発信号を用いて、受信信号をベースバンド(基底帯域)に変換する。周波数変換器9が変換した受信信号は、信号処理装置10へ出力される。
【0023】
信号処理装置10は、A/D変換器11と、直交検波部12と、パルス圧縮部13と、Q成分除去処理部14と、を備えている。
【0024】
A/D変換器11は、受信信号をアナログ信号からデジタル信号へ変換する。A/D変換器11によってデジタル信号へ変換された受信信号は、直交検波部12によって2つに分岐され、一方の信号の位相が90°ずらされる。これにより、直交検波部12は、1つの受信信号からI信号とQ信号との2つの信号を生成している。
【0025】
パルス圧縮部13は、このIQ信号を取り込み、パルス幅を圧縮する。これにより、出力が弱いマイクロ波であっても、マグネトロンレーダと同程度の強度の受信信号を得ることができる。
【0026】
図2は、図1に示すQ成分除去処理部14の構成を示すブロック図である。Q成分除去処理部14は、スイープバッファ部15と、フーリエ変換部16と、絶対値出力部17と、最大振幅ベクトル選択部18と、位相回転部19と、Q成分除去部20と、対数変換部21と、を有している。
【0027】
図3は、スイープバッファ部15によって記憶される複素データ系列Z(n=1,2,…)の概念を説明するための模式図である。図3では、1つのセルが1つの複素データに対応している。スイープバッファ部15は、特定の方位(例えば、信号処理対象となる物標の中心部分の方位)を中心とする所定スイープ数の複素データ系列(図3に示す例の場合、16スイープの複素データ系列Z)を記憶する。
【0028】
フーリエ変換部16は、スイープバッファ部15で記憶されている複素データ系列ZをレンジRの番号毎に、すなわち、レーダ装置1を基準とした距離毎にDFT(離散フーリエ変換)し、周波数スペクトルを生成する。
【0029】
図4は、フーリエ変換部16によって生成された周波数スペクトルの一例を示す図であって、(A)は、対象物標が含まれる領域(物標領域)のエコー信号から得られるデータに基づいて生成された周波数スペクトル、(B)は、対象物標が存在しない領域(ノイズ領域)のエコー信号から得られるデータに基づいて生成された周波数スペクトル、である。
【0030】
図4(A)を参照して、物標領域からのエコーデータによって得られる複素データ(レーダ装置を基準とした距離位置が同じ複素データ)は、周波数が概ね同じである。よって、物標領域に含まれる各複素データが積分された周波数スペクトルは、図4(A)に示すように、特定の周波数成分に大きなピークを有する周波数スペクトルとなる。
【0031】
これに対して、図4(B)を参照して、ノイズ領域からのエコーデータによって得られる複素データ(レーダ装置を基準とした距離位置が同じ複素データ)は、ノイズによるものであり、周波数が互いに大きく異なる。よって、当該領域に含まれる各複素データが積分された周波数スペクトルは、図4(B)に示すように、特定の周波数成分に大きなピークを有さず、規則性のないスペクトルとなる。
【0032】
絶対値出力部17は、全ての周波数スペクトル(レンジ番号毎に生成される周波数スペクトル)における各周波数の振幅レベルを抽出し、その振幅レベルを出力する。
【0033】
最大振幅ベクトル選択部18は、各周波数スペクトルにおいて振幅レベルの最大値を検出し、その最大値を有する複素ベクトルを、最大振幅ベクトルとして選択する。
【0034】
位相回転部19は、レンジビン号毎に選択された最大振幅ベクトルの位相を回転する。具体的には、位相回転部19は、位相を回転すべき最大振幅ベクトルよりも1つ前のレンジビンの最大振幅ベクトルの逆位相を算出し、その位相で最大振幅ベクトルを回転する。
【0035】
Q成分除去部20は、位相回転部19によって位相回転された最大振幅ベクトルのQ成分を除去し、I成分のみを出力する。このI成分は、対数変換部21によって対数に変換され、エコー画像データとして生成される。表示装置4には、これらのエコー画像データに基づいて生成される表示画像が表示される。
【0036】
図5は、表示装置4に表示されるエコー画像の一例を示す図である。また、図6は、従来から知られているレーダ装置の表示装置に表示されるエコー画像の一例を示す図である。従来から知られているレーダ装置では、本実施形態に係るレーダ装置1のような信号処理(位相回転部19及びQ成分除去部20によって行われる処理)が行われていない。
【0037】
表示装置4では、各位置から受信されたエコー信号のエコー強度に応じた色調が表示される。具体的には、例えば一例として、物標のエコー強度に応じて、緑、黄、赤、の色調が表示される。なお、図5及び図6に示す例では、物標のエコー強度がドットの密度によって示されていて、密度が高いドットが付された範囲はエコー強度が高い位置を示しており、密度が低いドットが付された範囲はエコー強度が低い位置を示している。
【0038】
図5及び図6において符号Bで示されるエコー像は、所定物標のエコーを示している。そして、このエコー像のS/Nは、従来のレーダ装置では21.9dBであったのに対し、本実施形態に係るレーダ装置1では25.7dBであった。すなわち、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、従来のレーダ装置よりもS/Nを改善することができた。
【0039】
ここで、本実施形態に係るレーダ装置1によってS/Nが改善される理由について説明する。
【0040】
図7は、レンジ方向(第1方向、R方向)に近接する複数の最大振幅ベクトルをIQ座標上に表示した図であり、図7(A)は物標領域に含まれる複数の最大振幅ベクトルを示す図、図7(B)はノイズ領域に含まれる複数の最大振幅ベクトルを示す図、である。また、図8は、位相回転前後での最大振幅ベクトルを示す図であって、図8(A)は、位相回転前の最大振幅ベクトルを当該最大振幅ベクトルの1つ前のレンジビンの最大振幅ベクトルとともに示す図であり、図8(B)は、位相回転後の最大振幅ベクトルである。
【0041】
図7(A)を参照して、物標領域では、レンジ方向に近接する複数の最大振幅ベクトルの位相は概ね同じである。よって、図8に示すように、物標領域において、ある最大振幅ベクトルVの位相θを、1つ前のレンジビンの最大振幅ベクトルVn−1の位相θn−1の逆位相−θn−1分だけ回転させると、位相回転後の最大振幅ベクトルVn_ARの位相(θ−θn−1)は、概ね0になる。物標領域において、このように位相回転後の最大振幅ベクトルVn_ARのQ成分を除去してI成分を抽出することによりエコー画像データを生成すると、当該最大振幅ベクトルの振幅のレベルと概ね同じレベルの信号を得ることができる。
【0042】
一方、図7(B)を参照して、ノイズ領域では、レンジ方向に隣接する2つの最大振幅ベクトルの位相は、互いに対してランダムである。よって、ノイズ領域において、ある最大振幅ベクトルの位相を、1つ前のレンジビンの最大振幅ベクトルの位相の逆位相分だけ回転させても、位相回転後の最大振幅ベクトルの位相は、回転前の最大振幅ベクトルの位相と同じく、ランダムである。ノイズ領域において、このように位相を回転させた最大振幅ベクトルのQ成分を除去してI成分を抽出することによりエコー画像データを生成すると、当該最大振幅ベクトルの振幅のレベルよりも小さいレベルの信号を得ることができる。
【0043】
すなわち、本実施形態に係るレーダ装置1のように、位相回転部19及びQ成分除去部20での処理を行うことで、物標領域においては従来と同程度のレベルのエコー画像データが得られる一方、ノイズ領域においては従来よりも低いレベルのエコー画像データが得られる。これにより、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、従来よりもS/Nを改善することができる。
【0044】
[効果]
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置1の信号処理装置10では、複数の複素データをフーリエ変換することにより得られた周波数スペクトルの最大値を抽出し、その最大値を有する最大振幅ベクトルを、該最大振幅ベクトルの位置に近接する他の複素ベクトル(本実施形態の場合、最大振幅ベクトル)の位相に基づいて回転させている。そして、レーダ装置1では、その位相回転後の最大振幅ベクトルのQ成分が除去されたエコー画像データによって、エコー画像が生成される。このようにしてエコー画像データを生成することにより、物標領域におけるエコー画像データについては、従来と同様の強度を維持しつつ、ノイズ領域におけるエコー画像データについては、従来と比べて信号レベルを低減することができる。
【0045】
従って、信号処理装置10では、S/Nの改善度を向上できる。
【0046】
また、信号処理装置10では、所定の最大振幅ベクトルに近接する他の複素ベクトルの逆位相分、該最大振幅ベクトルの位相を回転させている。
【0047】
物標領域に含まれる各最大振幅ベクトルは、互いに位相が概ね同じであるため、該物標領域に含まれる他の複素ベクトルの逆位相分、最大振幅ベクトルの位相を回転させることで、位相回転後の最大振幅ベクトルのI成分を、当該最大振幅ベクトルの振幅と概ね同じにすることができる。
【0048】
一方、ノイズ領域に含まれる各最大振幅ベクトルは、互いに位相がランダムであるため、該ノイズ領域に含まれる他の複素ベクトルの逆位相分、最大振幅ベクトルの位相を回転させても、位相回転後の最大振幅ベクトルの位相は、位相回転前と同様、ランダムである。すなわち、ノイズ領域においては、位相回転後の最大振幅ベクトルのI成分を、最大振幅ベクトルの振幅よりも小さくすることができる。従って、信号処理装置10では、S/Nの改善度を更に向上できる。
【0049】
また、信号処理装置10では、最大振幅ベクトルを、1つ前のレンジビンの複素ベクトル(具体的には、最大振幅ベクトル)の位相の逆位相分、回転させている。隣接するレンジビンの位相差は、物標領域における他の複素ベクトルに対する位相差よりも小さいと考えられる。よって、最大振幅ベクトルを1つ前のレンジビンの複素ベクトルの位相の逆位相分、回転させることにより、位相回転後の最大振幅ベクトルのI成分を、当該最大振幅ベクトルの振幅により近づけることができる。これにより、S/Nの改善度をより一層向上できる。
【0050】
また、レーダ装置1によれば、S/Nの改善度を向上できる信号処理装置を備えたレーダ装置を提供できる。
【0051】
また、レーダ装置1では、複数の複素データ列をレンジ毎に処理することにより、レンジ毎に周波数スペクトルを生成することができる。
【0052】
また、レーダ装置1では、レーダ装置1を中心とした水平方向の360°の範囲における各方位に対応して得られた複数の複素データ系列のうち、方位方向(第2方向、θ方向)に連続する所定数の複素データ系列Z(本実施形態の場合、n=1,2,…,16)を処理している。これにより、それらの複数の複素データ系列Zに含まれる物標のエコーのS/Nを適切に改善することができる。
【0053】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0054】
(1)図9は、変形例に係るレーダ装置のQ成分除去処理部14aの構成を示すブロック図である。本変形例に係るQ成分除去処理部14aは、上記実施形態に係るQ成分除去処理部14が有する各構成要素の他に、図9に示すように、比較決定部22(エコー画像データ生成部)を有している。
【0055】
比較決定部22は、直近のスキャン時に得られた各位置のエコー画像データのレベルと、1つ前のスキャン時に得られた、対応する位置のエコー画像データのレベルとを比較する。そして、比較決定部22は、直近のスキャン時に得られたエコー画像データのレベルが、1つ前のスキャン時に得られた、対応する位置のエコー画像データのレベル以上の場合には、直近のスキャン時に得られたエコー画像データのレベルをそのまま使用してエコー画像を生成する。
【0056】
一方、直近のスキャン時に得られたエコー画像データのレベルが、1つ前のスキャン時に得られた、対応する位置のエコー画像データのレベル未満の場合には、比較決定部22は、以下の式(1)に基づいてエコー画像データを補正し、新たなエコー画像データを生成する。エコー画像は、当該補正後のエコー画像データに基づいて生成される。
【0057】
[数1]
αSpre+(1−α)S=S’ …(1)
【0058】
但し、式(1)において、αは所定の定数であって、0<α<1を満たす値である。また、Spreは、1つ前のスキャン時に得られた所定位置のエコー画像データのレベル、Sは、直近のスキャン時に得られた所定位置のエコー画像データのレベル、S’は補正後のエコー画像信号のレベル、である。
【0059】
図10は、本変形例に係るレーダ装置の表示装置に表示されるエコー画像の一例を示す図である。
【0060】
上述した実施形態に係るレーダ装置1の表示装置4に表示されるエコー画像は、図5に示すように、陸地部分のエコーCに多数の隙間(エコー強度が極端に小さい部分)が生じており、違和感がある画像となっている。
【0061】
これに対して、本変形例に係るレーダ装置の表示装置に表示されるエコー画像は、図10に示すように、符号Dで示すノイズのようなエコー像が発生するものの、陸地部分のエコーCの隙間が低減され、違和感のない画像となっている。
【0062】
以上のように、本変形例に係るレーダ装置によれば、直近のスキャン時に得られたエコー画像の信号を、他のスキャン時に得られたエコー画像の信号に基づいて生成しているため(すなわち、スキャン相関処理を行っているため)、エコー画像の違和感を低減することができる。
【0063】
(2)上述した実施形態に係るレーダ装置1において、いわゆるゼロ詰め法を用いることにより、周波数スペクトルの分解能を改善してもよい。これにより、ピーク周波数をより正確に算出することができるため、S/Nの改善をより適切に行うことができる。
【0064】
(3)上述した実施形態では、方位方向(θ方向)に並ぶ複数の複素データを対象としてフーリエ変換を行ったが、これに限らず、距離方向(R方向)に並ぶ複数の複素データを対象としてフーリエ変換を行ってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 レーダ装置
10 信号処理装置
16 フーリエ変換部
18 最大振幅ベクトル選択部
19 位相回転部
20 Q成分除去部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10