(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、プリンタに使用される用紙には単票用紙と連続帳票用紙(以後単に連続用紙と記す)とがある。単票用紙は1枚の用紙であり、カットシートフィーダによって1枚ずつプリンタに送られる。連続用紙は連続印刷が可能な長い用紙であり、1枚1枚切り離せるように等間隔でミシン目が入っており、印刷前にはミシン目の部分で折り畳まれて積み重ねられて束になっている。印刷時には束になった連続用紙はプリンタの脇に置かれ、一番上の連続用紙をプリンタにセットすると、連続用紙は束から1枚ずつ展開されてプリンタに供給される。連続用紙の両側には、連続用紙をプリンタ内で移動させるための送り孔(スプロケット孔)が等間隔で連続して開けられている。
【0003】
一方、連続用紙に印刷を行うプリンタ側には、連続用紙に開けられた送り孔の幾つかに噛み合うトラクタフィーダ(以後単にトラクタと記す)と呼ばれる紙送り装置(搬送装置)が設けられている。トラクタは、連続用紙に設けられた送り孔の間隔に等しい間隔で突設された突起(ピン)を備えるホイールまたはベルトを備えており、連続用紙はトラクタのピンが送り孔に挿通されることによってプリンタの印刷部に運ばれる。連続用紙は、このようにトラクタによって確実、且つ正確に把持され、安定して用紙を搬送することができるので、請求書等の信頼性が求められる分野では主流になっており、今後も高い需要が見込まれる。
【0004】
図1は、連続用紙Pに印刷を行う比較技術のプリンタPTにおける連続用紙Pの搬送経路Rを、プリンタPTの本体5に設けられている前扉6とカバー7を開いて示す斜視図である。プリンタPTの本体5には、給紙部1、印刷装置2、ブラシ3、及び排紙部4がある。折り畳まれて積み重ねられた連続用紙の束PPは給紙部1の下の床に置かれ、展開されながら連続用紙の束PPから引き出された連続用紙Pは給紙部1に供給される。連続用紙Pは給紙部1にあるトラクタで印刷装置2に送られ、印刷が終了した連続用紙Pは搬送経路Rの最終段で再び折り畳まれて排紙部4に積み重ねられる。排紙部4は本体5に対して昇降可能であり、積み重ねられる連続用紙Pの量が増えると排紙部4は下降する。また、
図2は、
図1に示したプリンタPTの給紙部1の部分を拡大して示す部分斜視図である。給紙部1には、連続用紙Pを印刷装置2に送るトラクタ10がある。
【0005】
ここで、
図1、
図2に
図3及び
図4を併用して、プリンタPTにおける連続用紙Pの搬送経路Rについて説明する。
図3は、
図1に示したプリンタPTにおける連続用紙Pの搬送経路Rに設けられた搬送装置であるトラクタ10と、印刷装置2の位置を示す説明図である。トラクタ10には、連続用紙Pの搬送時に連続用紙Pがトラクタ10から外れないようにする蓋部材15が設けられている。プリンタPTがインクジェットプリンタの場合、印刷装置2は複数個のインクヘッドである(以後印刷装置2はインクヘッド2と記すことがある)。
【0006】
ラインプリンタでは、印刷装置は連続用紙Pの幅方向に沿って設けられた1つの大きなラインヘッドであったが、比較技術のインクジェットプリンタでは、複数のインクヘッド2で連続用紙Pの上の印刷領域を分担して印刷する。このため、インクジェットプリンタには、複数のインクヘッド2が2列に並んで設けられている。例えば、連続用紙Pの印刷領域を4つのインクヘッド2で印刷する場合は、インクヘッド2は2つずつ2列に並んで設けられている。
図3に示した連続用紙Pの搬送経路Rには、印刷装置2として、2列に配置されたインクヘッド2が描かれている。また、連続用紙Pの搬送経路Rには、連続用紙Pの移動経路Rを定めるために複数のローラ8が設けられている。
【0007】
図4は、
図3に示した搬送経路Rに設けられているトラクタ10に、連続用紙Pをセットする状態を説明する斜視図である。連続用紙Pには幅方向(用紙が連続する方向に対して垂直な方向)に、所定間隔でミシン目PMが設けられており、使用前の連続用紙Pはミシン目PMで折り畳まれて積み重ねられ、積み重ねられた連続用紙の束PPとなっている。また、連続用紙Pの両サイドには、連続用紙Pをトラクタ10で搬送するための送り孔(スプロケット孔)PHが等間隔で開けられている。
【0008】
一方、トラクタ10の躯体(図示省略)には、内蔵モータで駆動される駆動輪11と従動輪12が設けられており、駆動輪11と従動輪12の間にはベルト13が掛け渡されている。そして、ベルト13には、連続用紙Pの送り孔PHに挿入されるピン14が、連続用紙Pの送り孔PHと同じ間隔で取り付けられている。ピン14を突設する位置は、ベルト13の側面でも外周面でも良い。
【0009】
連続用紙Pの送り孔PHは、連続用紙Pの両サイドに設けられているので、トラクタ10は連続用紙Pの送り孔PHの位置に合わせて2組設けられている。この場合、2組のトラクタ10において、駆動輪11の回転軸AX1及び従動輪12の回転軸AX2はそれぞれ同軸上にある。
図4に示す矢印Kは駆動輪11のモータの回転方向を示しており、連続用紙Pは送り孔PHにピン14を挿入すればトラクタ10によって自動的に搬送される。なお、
図4には
図3に示したブラシ3の図示は省略してある。
【0010】
図3に示すように、プリンタの脇に置かれた積み重ねられた連続用紙の束PPから、トラクタ10によって引き出された連続用紙Pは、まず、ブラシ3によって送り孔の周囲に付着する紙粉(連続用紙に送り孔を形成する時に出る屑)が除去される。トラクタ10を通過した連続用紙Pはインクヘッド2の下を通り、インクヘッド2によって印刷(印字)される。本例のプリンタPTはインクジェットプリンタであり、インクヘッド2は2列に配置されている。インクヘッド2で印刷された連続用紙Pは、複数のローラ8によって搬送経路Rを通って排紙部4に送られる。
【0011】
なお、プリンタに使用できる連続用紙は複数種類あり、送り孔の間隔はどれも同じであるが、連続用紙の幅とミシン目の間隔が異なるものがある。そこで、2組のトラクタ10は、駆動輪11の回転軸AX1及び従動輪12の回転軸AX2に沿って移動可能であり、トラクタ10の位置を連続用紙の幅に合わせることができるようになっている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本実施例では、連続用紙用プリンタとして、印刷装置にインクヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施例を説明するが、印刷装置の種類はインクヘッドに限定されるものではない。また、
図1〜
図5で説明した比較技術のプリンタPTと同じ構成部材については同じ符号を付して説明する。
【0019】
まず、
図6により、第1の実施例の連続用紙用プリンタPTにおける連続用紙Pの搬送経路Rと連続用紙Pから発生する紙粉PDの動きについて説明する。
図6は、
図1に示したプリンタPTに第1の実施例のトラクタ10Aが装着されている状態を示す説明図であり、トラクタ10Aの構造が模式的に示してある。トラクタ10Aの具体的な構造例については後述する。トラクタ10Aは、躯体19に内蔵モータで駆動される駆動輪11と従動輪12があり、駆動輪11と従動輪12の間にはベルト13が掛け渡されている。
【0020】
そして、ベルト13には、連続用紙Pの送り孔PHに挿入されるピン14が、連続用紙Pの送り孔PHと同じ間隔で取り付けられている。駆動輪11の回転によりベルト13が矢印Cで示す方向に回転し、連続用紙Pの送り孔PHに挿入されたピン14によって連続用紙Pが搬送される。トラクタ10Aから送り出された連続用紙Pは、印刷装置であるインクヘッド2に至り、インクヘッド2によって印刷が行われる。印刷が行われた連続用紙Pはローラ8によって後段の搬送経路Rに移動する。なお、
図6にはインクヘッド2は1列に並んだ状態が示されている。
【0021】
開示のトラクタ10Aには、連続用紙Pの搬送時に連続用紙Pがトラクタ10Aから外れないようにする蓋部材16がある。蓋部材16が
図5で説明した比較技術の蓋部材15と異なる点は、蓋部材16の連続用紙Pの移動方向の下流側の端部が延伸され、延伸部16Eが設けられている点である。本実施例では延伸部16Eの先端部16ETはインクヘッド2よりも前段側(連続用紙Pの送り方向の上流側)のインクヘッド2に隣接する箇所まで延長されている。また、インクヘッド2のヘッド吐出面2Aと連続用紙Pとの間の距離Lは、1.0〜1.5mm程度である。延伸部16Eの幅は、連続用紙Pに設けられている送り孔PHの上部を覆う幅であれば、特に限定されるものではない。
【0022】
第1の実施例の連続用紙用プリンタPTは、トラクタ10Aによる連続用紙Pの移動方向におけるトラクタ10Aとインクヘッド2との間に配置された複数のブロア17を備える。複数のブロア17は、蓋部材16の延伸部16Eに取り付けられている。ブロア17は本出願に係るプリンタの送風装置の一例である。各ブロア17は、搬送経路R上に位置する連続用紙Pの送り孔PHに向けて風Wを噴出するように連続用紙Pの上方に配置されている。連続用紙Pの上面に対向する各ブロア17の底面には、風Wの噴出口を形成するノズル17Nが設けられている。各ブロア17のノズル17Nから噴出された風Wは連続用紙Pの送り孔PHを通り抜けて連続用紙Pの下方に流れる。そのため、送り孔PHの内壁面に残留する紙粉は、ブロア17からの風Wによって内壁面から剥がされて連続用紙Pの下方に運ばれる。各ブロア17は蓋部材16に取り付けられているので、連続用紙Pの幅が変更されても、各ブロア17は常に連続用紙Pの送り孔PHの真上に位置するようになっている。また、蓋部材16は連続用紙Pの上面に近接して配置されているので、各ブロア17を蓋部材16に取り付けることによって、各ブロア17からの風Wを拡散させることなく効率よく送り孔PHに向けて噴出することができる。各ブロア17のノズル17Nの先端から連続用紙Pの上面までの距離xは例えば5.0mmである。
【0023】
第1の実施例の連続用紙用プリンタPTは、搬送経路R上の連続用紙Pを挟んで複数のブロア17と反対側に設けられた、上部が開いた箱型の容器20を更に備える。容器20は、ブロア17の風Wによって送り孔PHを通って連続用紙Pの下方に運ばれた紙粉を収容し、貯めて置くものである。ブロア17及び容器20の周囲の空間はプリンタPTの筐体及び他の構造部によって密閉されている。そのため、ブロア17から噴射された風WがプリンタPTの外部の気流の影響を受けることはないので、送り孔PHに残留する紙粉は周囲に拡散せずに風Wによって確実に容器20まで運ばれる。
【0024】
図7は
図6に示したブロア17を矢印A方向に見た矢視図である。
図7では蓋部材16の延伸部16Eを省略している。
図7に示したプリンタPTは、連続用紙Pの送り孔PHの各列に対応する2つのブロア17を備え、各列に対応する2つのブロア17は、トラクタ(不図示)による連続用紙Pの搬送方向に沿って配列されている。ただし、プリンタPTは、送り孔PHの各列に対応する1つのブロア17のみを備えてもよいし、各列に対応する3つ以上のブロア17を備えてもよい。送り孔PHの各列に対応する2つ以上のブロア17は、同じ列中の異なる送り孔PHに向けて送風するように配置される。
【0025】
これにより、連続用紙Pがトラクタによって搬送される間に、個々の送り孔PHが2つ以上のブロア17からの送風を順に受けるので、個々の送り孔PHの内壁面に残留する紙粉を確実に除去することができる。送り孔PHの各列に対応する2つ以上のブロア17を使用する代わりに、連続用紙Pの搬送方向に沿って配列された2つ以上のノズル17Nを有する1つのブロア17を使用してもよい。なお、連続用紙Pの搬送方向に沿った容器20の開口部200の寸法Mは、各列に対応する2つのブロア17のノズル17N間の距離Nよりも十分に大きくされる(
図6も参照)。そして、連続用紙Pの幅方向に沿った開口部200の寸法Fは、連続用紙Pの幅Gよりも十分に大きくされる。これにより、容器20はブロア17の送風によって連続用紙Pの下方に運ばれた紙粉を漏れなく収容することができる。
【0026】
図8は、
図6に示したトラクタ10Aを矢印A方向に見た矢視図である。
図8では、蓋部材16に取り付けられたブロア17を省略している。
図8に示したプリンタPTの給紙部1には、連続用紙Pの両側にある送り孔に対応する位置にトラクタ10Aが設けられている。トラクタ10Aにあるピン14が連続用紙Pにある送り孔PHに挿入される。また、プリンタPTには連続用紙Pに印刷を行うインクヘッド2が、連続用紙Pの印刷領域に複数設けられているが、
図8には両側の2つのインクヘッド2のみを示してある。蓋部材16は、トラクタ10Aの躯体19にヒンジ軸18によって取り付けられており、通常はピン14を覆っているが、連続用紙Pの付け替え時等にはヒンジ軸18を中心にして回転できるようになっている。
【0027】
ここで、第1の実施例のプリンタにおけるトラクタの具体的な構造例を説明する。
図9は、第1の実施例のプリンタPTの給紙部1に、具体例のトラクタ10Aが設けられている状態を示す部分斜視図である。この図から、プリンタPTには合計5つのインクヘッド2が設けられていることが分かる。トラクタ10Aに取り付けられた蓋部材16のインクヘッド2側には、矢印A9で表される連続用紙の搬送方向の下流側に伸びる延伸部16Eが設けられている。蓋部材16の延伸部16Eには、連続用紙の送り孔に向けて送風するブロア17が取り付けられている。
【0028】
図10は、開示の第1の実施例のプリンタPTで使用するトラクタ10Aを示す部分斜視図である。第1の実施例では、トラクタ10Aに設けられた蓋部材16は、カバー部16Cと、延伸部16Eとを含む。カバー部16Cは、トラクタ10Aの躯体19に設けられたヒンジ軸18によって開閉可能であり、トラクタ10Aにあるベルトとピン(不図示)を覆っている。トラクタ10Aへの連続用紙(不図示)の付け替え時には、使用者によってカバー部16Cが開けられる。延伸部16Eは、カバー部16Cに隣接してトラクタ10Aとインクヘッド(不図示)との間の領域に設けられており、2個のブロア17が取り付けられている。延伸部16Eの下方には容器20が配置されている。容器20の開口部200には、連続用紙の付け替え時に用紙先端が容器20内に侵入するのを防止するメッシュ部材20Mが取り付けられている。容器20は本体5から取り外し可能である。或いは、容器20は、その内部に溜まった紙粉を取り出すための開閉可能な取り出し口を有してもよい。
【0029】
図11は、
図10に示したブロア17の1つを底面側から見た斜視図である。ノズル17Nから噴出される風Wは、ノズル17Nを出た後も広がらない指向性を備える風であり、例えば渦流風である。
図12は、
図11に示したブロア17を矢印Y方向に見た側面図である。ノズル17Nを除いたブロア17の外形寸法は例えば20mm×20mm×1.85mmである。ノズル17Nは、連続用紙Pの送り孔PHの直径d2よりも小さい内径d1を有する(
図7も参照)。これにより、ノズル17Nから噴出した風Wが送り孔PHを通過しやすくなるので、送り孔PHの内壁面に残留する紙粉を確実に除去することができる。ノズル17Nの内径d1は例えば0.8mmである。連続用紙Pの送り孔PHの直径d2は例えば4.0mmである。
【0030】
また、ブロア17が発生する風Wの風量は例えば1L/minであり、ブロア17が噴出する風Wの静圧は例えば1900Paである。ブロア17は、トラクタ10Aによる連続用紙Pの搬送中に常に風Wを噴出する。或いは、ブロア17は、各送り孔PHの中心部分がノズル17Nの軸線17Aの延長線上に位置する瞬間のみ風Wを噴出してもよい。
図11及び
図12に示したブロア17は小型であり静音性が高い。特に、ブロア17が発生する騒音は、プリンタPTに含まれるモータ等の駆動装置が発生する騒音よりも遥かに小さいので、ブロア17が原因でプリンタPT全体の静音性が低下することはない。更に、ブロア17は小型であるので、蓋部材16にブロア17を取り付けたことが原因で蓋部材16の自由な開閉が妨げられることはない(
図8を参照)。
【0031】
図13は、第1の実施例のプリンタPTにおける、連続用紙Pの搬送経路Rに設けられたトラクタ10Aと、インクヘッド2の具体的な位置の関係を示す説明図である。プリンタPTの脇に置かれた連続用紙の束PPから、トラクタ10Aによって引き出された連続用紙Pは、ブラシ3によって送り孔の周囲に付着する紙粉が除去される。トラクタ10Aを通過した連続用紙Pはインクヘッド2の下を通り、インクヘッド2によって印刷される。インクヘッド2は複数あり、2列に並んでいる。インクヘッド2で印刷された連続用紙Pは、複数のローラ8によって搬送経路Rを通って排紙部4に送られる。
【0032】
連続用紙Pは、ブラシ3によって送り孔の周囲に付着する紙粉が除去されるが、除去される紙粉は送り孔の周囲の表面に付着する紙粉に過ぎず、送り孔の内壁部に残留する紙粉はブラシ3によっては完全に除去できない。送り孔の内壁部に残留する紙粉は、連続用紙Pの送り孔にトラクタ10Aのピンが下側から挿通された時に、ピンによって送り孔から押し出され、連続用紙Pの表面の送り孔の周辺に付着する。また、連続用紙Pの送り孔からピンが引き抜かれる時に、送り孔にまだ残留する紙粉はピンで連続用紙Pの下側に引き出される。
【0033】
図3で説明した比較技術の搬送経路Rでは、トラクタ10で連続用紙Pの表面の送り孔の周辺に付着した紙粉が連続用紙Pによって運ばれ、インクヘッド2のインク吐出口に付着すると、インクヘッド2による印刷不良が発生することがあった。これに対して、第1の実施例のトラクタ10Aでは、その躯体19に図示を省略したヒンジ軸で取り付けられている蓋部材16には、カバー部16C及び延伸部16Eが含まれる。カバー部16Cはベルト13の上部を覆っており、延伸部16Eには2つのブロア17が取り付けられている(
図10も参照)。また、紙粉受け20が連続用紙Pを挟んでブロア17に対応する部位に設けられている。
【0034】
従って、連続用紙Pの送り孔の内壁面に残留する紙粉は、連続用紙Pが延伸部16Eの下を通過する間に、ブロア17からの風により送り孔の内壁面から剥がされ、連続用紙Pの下方に位置する紙粉受け20に集められる。この結果、紙粉が連続用紙Pによってインクヘッド2の下部まで運ばれる可能性は低くなるので、インクヘッド2のインク吐出口に紙粉が付着する可能性は低くなる。このように、第1の実施例の連続用紙用プリンタPTでは、連続用紙Pの送り孔に残留する紙粉がブロア17の送風によって送り孔から確実に除去されるので、印刷不良が発生し難くなる。
【0035】
以下の表1は、所定の枚数のランニングテストを実施した後に出力した印刷物に含まれていた不良箇所の個数を示している。具体的に言うと、以下の表1は、印刷物に含まれていたドット抜けの個数を目視で確認した結果を、
図1〜
図5等に示した比較技術のプリンタ及び第1の実施例のプリンタのそれぞれについて示している。表1に示したドット抜けの個数は2回のランニングテストの平均値である。表1から分かるように、比較技術のプリンタでは、2000枚印刷後に既にドット抜けが発生しており、それ以降も1個〜2.5個のドット抜けが発生している。他方、第1の実施例のプリンタでは、10000枚印刷後もドット抜けは一切確認されなかった。
【表1】
【0036】
続いて、本出願の第2の実施例について説明する。
図14は、第2の実施例のプリンタPTにおける、連続用紙Pの搬送経路Rに設けられたトラクタ10Bと、インクヘッド2の具体的な位置の関係を示す説明図である。開示のトラクタ10Bには、連続用紙Pの搬送時に連続用紙Pがトラクタ10Bから外れないようにする蓋部材160がある。蓋部材160が
図5等で説明した比較技術の蓋部材15と異なる点は、蓋部材160の連続用紙Pの移動方向の下流側の端部が延伸され、第1延伸部16E1が設けられている点である。
【0037】
また、本実施例の蓋部材160が
図13等で説明した第1の実施例の蓋部材16と異なる点は、第1延伸部16E1の連続用紙Pの移動方向の下流側の端部が更に延伸され、第2延伸部16E2が設けられている点である。本実施例では第2延伸部16E2の先端部16ETがインクヘッド2よりも後段側(連続用紙Pの送り方向の下流側)まで延長されているが、第2延伸部16E2の先端部16ETは少なくともインクヘッド2の直下の位置まで延伸すれば良い。本実施例ではインクヘッド2のヘッド吐出面2Aと連続用紙Pとの間の距離Lが1.5〜2.0mm程度であるので、延伸部16Eの厚さDは1mm以下とすれば良い。更に、第2延伸部16E2の幅は、連続用紙Pに設けられている送り孔の上部は覆うが、インクヘッド2による連続用紙Pの印刷領域には重ならない幅であれば、特に限定されるものではない。
【0038】
図14を参照すると、プリンタPTの脇に置かれた連続用紙の束PPから、トラクタ10Bによって引き出された連続用紙Pは、ブラシ3によって送り孔の周囲に付着する紙粉が除去される。トラクタ10Bを通過した連続用紙Pはインクヘッド2の下を通り、インクヘッド2によって印刷される。インクヘッド2は複数あり、2列に並んでいる。インクヘッド2で印刷された連続用紙Pは、複数のローラ8によって搬送経路Rを通って排紙部4に送られる。
【0039】
連続用紙Pは、ブラシ3によって送り孔の周囲に付着する紙粉が除去されるが、除去される紙粉は送り孔の周囲の表面に付着する紙粉に過ぎず、送り孔の内壁部に残留する紙粉はブラシ3によっては完全に除去できない。送り孔の内壁部に残留する紙粉は、連続用紙Pの送り孔にトラクタ10Bのピンが下側から挿通された時に、ピンによって送り孔から押し出され、連続用紙Pの表面の送り孔の周辺に付着する。また、連続用紙Pの送り孔からピンが引き抜かれる時に、送り孔にまだ残留する紙粉は連続用紙Pの下側に引き出される。
図3で説明した比較技術の搬送経路Rでは、トラクタ10で連続用紙Pの送り孔から排出された紙粉は連続用紙Pによって運ばれ、インクヘッド2のインク吐出口に付着すると、インクヘッド2による印刷不良が発生することがあった。
【0040】
これに対して、第2の実施例のトラクタ10Bでは、その躯体19に図示を省略したヒンジ軸で取り付けられている蓋部材160には、蓋部材160の後段側(連続用紙Pの搬送方向の下流側)に第1延伸部16E1及び第2延伸部16E2が設けられている。第1延伸部16E1には2つのブロア17が取り付けられている。第2延伸部16E2は連続用紙Pの送り孔の上部を覆っており、第2延伸部16E2の先端部16ETはインクヘッド2のヘッド吐出面2Aまで伸びている。このため、仮に、連続用紙Pの送り孔から排出された紙粉の一部がブロア17によって除去されずに連続用紙Pによってインクヘッド2の下部まで運ばれたとしても、その紙粉のインクヘッド2への移動は第2延伸部16E2によって防止される。この結果、トラクタ10Bにより連続用紙Pの送り孔から排出された紙粉がインクヘッド2のインク吐出口に付着する可能性が非常に低くなる。
【0041】
このように、第2の実施例の連続用紙用プリンタでは、連続用紙の送り孔に残留する紙粉がブロアによって送り孔から除去される。更に、送り孔から排出されて連続用紙の上に残った紙粉も第2延伸部によって阻害されるのでインクヘッドには移動することができない。従って、第2の実施例の連続用紙用プリンタによれば、連続用紙の送り孔に残留する紙粉がインクヘッドに付着する可能性が更に低くなるので、インクヘッドによる印刷不良が更に発生し難くなる。
【0042】
図14に示した連続用紙Pの搬送経路Rの具体例では、給紙部1にあるトラクタ10Bが、プリンタPTの設置面に対して平行ではなく上向きに傾斜している。従って、この状態で蓋部材160を、トラクタ10Bの躯体19の上面の延長線上に真っ直ぐ伸ばして第2延伸部16E2を形成すると、第2延伸部16E2がインクヘッド2に当接してしまう。
【0043】
そこで、第2の実施例では、第2延伸部16E2の材質を蓋部材160に比して柔軟な部材(可撓性部材)で形成している。そして、第2延伸部16E2が重力によって湾曲するように第1延伸部16E1に取り付け、第2延伸部16E2がインクヘッド2に当接しないようにしている。なお、第2延伸部16E2の先端部16ETは連続用紙Pに当接しても、第2延伸部16E2は柔軟であるので、連続用紙Pの移動には特に問題が生じない。また、第2延伸部16E2を形成する部材としては、可撓性を備える合成樹脂、アルミ板、バネ部材等が考えられる。第2延伸部16E2は、第1延伸部16E1とは別に形成されて第1延伸部16E1に取り付けられる。ただし、第2延伸部16E2は第1延伸部16E1と一体に形成されてもよい。
【0044】
図15は、開示の第2の実施例のプリンタPTで使用するトラクタ10Bを示す部分斜視図である。第2の実施例では、トラクタ10Bに設けられた蓋部材160は、カバー部16Cと、第1延伸部16E1と、第2延伸部16E2とを含む。カバー部16Cは、トラクタ10Bの躯体19に設けられたヒンジ軸18によって開閉可能であり、トラクタ10Bにあるベルトとピン(不図示)を覆っている。第1延伸部E1は、カバー部16Cに隣接してトラクタ10Bとインクヘッド(不図示)との間の領域に設けられており、2個のブロア17が取り付けられている。第2延伸部16E2は、第1延伸部16E1からインクヘッド側に延伸されて設けられ、第2延伸部16E2の先端部16ETはインクヘッドの底面(ヘッド吐出面)の下まで伸びている。
【0045】
このように、トラクタ10Bにある蓋部材160に第2延伸部16E2を更に設けたことにより、連続用紙Pの送り孔から発生する紙粉は、第2延伸部16E2により上方への移動ができず、下方に落下する。この結果、トラクタ10Bで連続用紙Pの送り孔から発生した紙粉は、仮にブロア17によって除去されずにインクヘッド2の方向に運ばれたとしても、第2延伸部16E2に遮られるのでヘッド吐出面2Aには付着し難くなる。
【0046】
図16は、第2の実施例のプリンタPTのトラクタ10Bを示す、
図8に対応する概略図である。
図16では、蓋部材160に取り付けられたブロア17を省略している。
図16に示したプリンタPTの給紙部1には、連続用紙Pの両側にある送り孔PHに対応する位置にトラクタ10Bが設けられている。トラクタ10Bにあるピン14が連続用紙Pにある送り孔PHに挿入される。また、プリンタPTには連続用紙Pに印刷を行うインクヘッド2が、連続用紙Pの印刷領域に複数設けられているが、
図16には両側の2つのインクヘッド2のみを示してある。蓋部材160は、トラクタ10Bの躯体19にヒンジ軸18によって取り付けられており、通常はピン14を覆っているが、連続用紙Pの付け替え時等にはヒンジ軸18を中心にして回転できるようになっている。
【0047】
図5で説明した比較技術のトラクタ10に設けられている蓋部材15は、トラクタ10のベルト13と同程度の長さであるので、連続用紙Pの付け替え時に蓋部材15を開けてもインクヘッド2には当接しない。また、第1の実施例のトラクタ10Aに設けられている蓋部材16の延伸部16Eは、インクヘッド2よりも前段側(連続用紙Pの送り方向の上流側)で終端している。このため、連続用紙Pの付け替え時に蓋部材16を開けてもインクヘッド2には当接しない(
図6及び
図8を参照)。しかし、開示のトラクタ10Bでは、第2延伸部16E2がインクヘッド2の下まで伸びているので、ヒンジ軸18を中心にして蓋部材160が回転すると、蓋部材160はインクヘッド2のヘッド吐出面2Aに当接してしまう(
図14を参照)。そこで、開示のプリンタPTには後述する昇降機構が設けられており、連続用紙Pの付け替え時には予め昇降機構によって複数のインクヘッド2は蓋部材160と干渉しない位置まで同時に引き上げられる。
【0048】
ここで、第2の実施例のプリンタにおけるトラクタの具体的な構造例を説明する。
図17は、比較技術のプリンタPTのトラクタ10が設けられた給紙部1を示す部分斜視図である。トラクタ10には、ベルト長と同程度の蓋部材15が取り付けられている。前述のように、蓋部材15はトラクタ10のみを覆っているので、連続用紙の付け替え時に蓋部材15を開いてもトラクタ10の後段に位置するインクヘッド2には当接しない。
【0049】
図18は、第2の実施例のプリンタPTの給紙部1に、具体例のトラクタ10Bが設けられている状態を示す部分斜視図であり、蓋部材160は閉じているが、インクヘッド2は上昇した状態を示している。トラクタ10Bの蓋部材160が開いた時には、複数のインクヘッド2は第2延伸部16E2に当接しないように、
図18に示す位置まで連動して上昇する。トラクタ10Bに取り付けられた蓋部材160のインクヘッド2側には、ブロア17が取り付けられている第1延伸部16E1が設けられている。そして、第1延伸部16E1のインクヘッド2側には、インクヘッド2の下方まで伸びる第2延伸部16E2が更に設けられている。開示の第2延伸部16E2の幅は、第1延伸部16E1の幅よりも狭く形成されている。第2延伸部16E2は、インクヘッド2の印刷領域には重ならないようになっている。
【0050】
図18に示す矢印Vは、インクヘッド2の昇降方向を示しており、第2延伸部16E2の形状を示すために、
図18ではインクヘッド2は上昇した位置にあるが、
図19にインクヘッド2が印刷位置まで下降した状態を示す。インクヘッド2は昇降装置9によって、矢印Vで示す方向に移動することができる。ここで、インクヘッド2を昇降させる昇降装置9の構造を
図20を用いて説明する。
【0051】
図20は、
図18に示したトラクタ10Bの躯体19にヒンジ軸18で取り付けられた蓋部材160が開かれ、インクヘッド2が蓋部材160の第2延伸部16E2に当接しない位置まで移動した状態を示すものである。インクヘッド2は4個あり、2個ずつ2列に並んでヘッド固定板21に取り付けられている。ヘッド固定板21は昇降モータ22を備える昇降装置9により昇降することができる。また、プリンタPTには、インクヘッド2の乾き防止キャップ24が設けられており、乾き防止キャップ24はプリンタPTの印刷動作時にはヘッド固定板21の後ろ側に隠れている。乾き防止キャップ24は、連続用紙の取り替え等によってインクヘッド2が昇降装置9により上昇した時に、図示を省略した駆動機構によってインクヘッド2の直下に移動し、インクヘッド2のインク噴出口を塞いでインクの乾きを防止する。
【0052】
以上、本出願を特にその好ましい実施の形態を参照して詳細に説明した。本出願の容易な理解のために、本出願の具体的な形態を以下に付記する。
【0053】
(付記1) 送り孔付の連続用紙に印刷を行うプリンタであって、
前記送り孔に挿通されるピンと、前記ピンの移動機構とを含み、前記ピンを移動させて前記連続用紙を搬送する搬送装置と、
前記連続用紙の搬送方向における前記搬送装置の後段に設けられ、前記連続用紙に印刷を行う印刷装置と、
前記連続用紙の搬送方向における前記搬送装置と前記印刷装置との間に設けられ、前記連続用紙の送り孔に向けて風を噴出する送風装置と、を備えるプリンタ。
【0054】
(付記2) 前記搬送装置は、前記ピンの先端に対向して配置され、前記連続用紙の前記ピンからの外れを防止する蓋部材をさらに含み、
前記送風装置は、前記搬送装置の前記蓋部材に取り付けられている、付記1に記載のプリンタ。
(付記3) 前記連続用紙を挟んで前記送風装置と反対側に設けられ、前記送風装置が噴出した風により前記送り孔を通って運ばれた前記連続用紙の紙粉を受ける容器をさらに備える、付記1または2に記載のプリンタ。
(付記4) 前記容器は、前記送風装置に対向する開口部と、前記開口部に取り付けられ、前記開口部から前記容器内部への用紙先端の侵入を防止するメッシュ部材と、を有する、付記3に記載のプリンタ。
(付記5) 前記送り孔に向けて風を噴出する前記送風装置のノズルは、前記送り孔の直径よりも小さい内径を有する、付記1〜4のいずれかに記載のプリンタ。
【0055】
(付記6) 前記送風装置は、前記搬送装置が前記連続用紙を搬送する間は常に風を噴出し続ける、付記1〜5のいずれかに記載のプリンタ。
(付記7) 前記送風装置は、風が噴出されるノズルの軸線の延長線上に前記送り孔の中央部が位置する瞬間のみ風を噴出する、付記1〜5のいずれかに記載のプリンタ。
(付記8) 前記送風装置は、前記連続用紙の搬送方向に沿って配列され、前記連続用紙の異なる送り孔に向けて風を噴出する複数のノズルを有する、付記1〜7のいずれかに記載のプリンタ。
【0056】
(付記9) 前記送風装置は、それぞれが1つのノズルを有する複数のブロアから形成されている、付記8に記載のプリンタ。
(付記10) 前記送風装置は、複数のノズルを有する1つのブロアから形成されている、付記8に記載のプリンタ。
(付記11) 前記蓋部材は、前記ピンを覆うカバー部と、前記カバー部から前記連続用紙の搬送方向の下流側に延伸する延伸部と、を含み、
前記送風装置は、前記蓋部材の前記延伸部に取り付けられている、付記2に記載のプリンタ。
【0057】
(付記12) 前記搬送装置は、前記延伸部から前記連続用紙の搬送方向の下流側にさらに延伸し、少なくとも前記印刷装置の直下位置に到達する他の延伸部をさらに含む、付記11に記載のプリンタ。
(付記13) 前記搬送装置は、その躯体に、駆動輪、従動輪及び前記駆動輪と前記従動輪との間に掛け渡されたベルトが設けられたトラクタであり、前記ピンは前記ベルトに突設されている付記1〜12のいずれかに記載のプリンタ。
(付記14) 前記送り孔は前記連続用紙の両側に設けられており、
2組設けられた前記トラクタの前記駆動輪の回転軸と前記従動輪の回転軸は、それぞれ同軸上にある付記13に記載のプリンタ。
(付記15) 前記印刷装置がインクジェットヘッドである付記1〜14のいずれかに記載のプリンタ。