特許第6556042号(P6556042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556042
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】受信装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/30 20100101AFI20190729BHJP
【FI】
   G01S19/30
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-240268(P2015-240268)
(22)【出願日】2015年12月9日
(65)【公開番号】特開2017-106803(P2017-106803A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄司 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 孝芳
(72)【発明者】
【氏名】原田 諭
【審査官】 ▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/088529(WO,A1)
【文献】 特開2001−186115(JP,A)
【文献】 特開2001−186113(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0281735(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 − G01S 5/14
G01S 19/00 − G01S 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星から送信される衛星信号に基づいて測位演算を行う受信装置であって、
前記衛星信号とレプリカ信号との位相差を算出する位相誤差算出部と、
前記位相差とオフセット値とに基づき、前記レプリカ信号を前記衛星信号に追従させるためのフィードバック量を算出するフィードバック量演算処理部と、
前記フィードバック量に基づき、前回生成した前記レプリカ信号に対して位相をずらした前記レプリカ信号を生成する位相同期処理部と、
前記位相同期処理部が生成した前記レプリカ信号に基づき、前記測位衛星までの距離を算出する測位演算処理部と、
前回算出された前記位相差から直近に算出された前記位相差への変化量が、+90度を超えている場合は前記オフセット値に180度を加算し、−90度未満である場合は前記オフセット値から180度を減算することで、前記オフセット値を補正する、位相差変化量検出部と、
を有する、受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の受信装置において、
前記位相同期処理部にクロック信号を入力する基準クロック部をさらに有し、
前記位相同期処理部は、前記クロック信号に基づいて、前記レプリカ信号を生成し、生成した前記レプリカ信号と、前記衛星信号との相関値を算出する、
受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景として、特開2013−246017号公報(特許文献1)がある。特許文献1には、「衛星信号を利用した測位システムとしては、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された受信装置に利用されている。GPSでは、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から受信装置までの擬似距離等の情報に基づいて受信装置の位置座標と時計誤差とを求める位置計算を行う。」と記載されている。
【0003】
GPS衛星から送信される衛星信号は、拡散符号の一種であるPRN(Pseudo Random Noise)コードを用いたCDMA(Code Division Multiple Access)方式でスペクトラム拡散されている。また、GPS衛星の位置を計算するために必要な軌跡情報などを含む航法メッセージは、PRNコードでBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調することで搬送されている。そして、航法メッセージは、衛星信号と同形式のレプリカ信号を発生させ、レプリカ信号の位相を変化させながら、衛星信号を含む受信信号との相関値を測定することで得られる。
【0004】
非特許文献1には、相関値の虚部と、相関値の実部とに基づき、衛星信号とレプリカ信号との位相差を算出する技術が記載されている。
【0005】
また、GPS衛星信号から送信される衛星信号は、微弱であるため、相関演算を行うことで得られる相関値が微小となり、相関値のピークの検出が困難になる場合がある。そのため、相関演算を行うことで得られた相関値を所定時間に亘って積算する手法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−246017号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rishija Misra、"Code and Carrier Tracking Loops for GPS C/A Code″、[online]、2001年6月1日、[平成27年10月20日検索]、インターネット<URL:http://ijopaasat.in/yahoo_site_admin/assets/docs/1_IJPAST-73-V6N1.57215201.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1と、非特許文献1とに記載されている技術では、例えば、半周期を超えて衛星信号とレプリカ信号との位相差が生じた場合であっても、半周期の範囲内でレプリカ信号を衛星信号へと追従させる。そのため、半周期を超えて衛星信号とレプリカ信号との位相差が生じた場合に、レプリカ信号の位相を、追従させるべき方向とは逆の方向に変化させてしまう。そして、フィードバックによりかけるバイアスが本来かけるべき方向とは反対にかかることで、レプリカ信号の衛星信号への追従性が低下する可能性があった。
【0009】
本発明の目的は、レプリカ信号の衛星信号への追従性を向上可能にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0011】
本発明の一実施の形態の受信装置は、測位衛星から送信される衛星信号に基づいて測位演算を行う受信装置であって、前記衛星信号とレプリカ信号との位相差を算出する位相誤差算出部を有する。また、前記位相差とオフセット値とに基づき、前記レプリカ信号を前記衛星信号に追従させるためのフィードバック量を算出するフィードバック量演算処理部を有する。また、前記フィードバック量に基づき、前回生成した前記レプリカ信号に対して位相をずらした前記レプリカ信号を生成する位相同期処理部を有する。また、前記位相同期処理部が生成した前記レプリカ信号に基づき、前記測位衛星までの距離を算出する測位演算処理部を有する。また、前回算出された前記位相差から直近に算出された前記位相差への変化量が、所定値以上または所定値以下である場合は、前記オフセット値を補正する、位相差変化量検出部を有する。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0013】
本発明の代表的な実施の形態によれば、レプリカ信号の衛星信号への追従性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態における、受信装置の構成例の概要を示す図である。
図2】フィードバック量を算出する処理を実現するためのプログラムのソースコードの一例を示す図である。
図3】本発明の一実施の形態における、全体処理の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
<全体構成>
図1は、本発明の一実施の形態における、受信装置10の構成例の概要を示す図である。受信装置10は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信装置である。GNSS衛星は対応するGNSS衛星に関する衛星軌道情報や時計の補正値などのGPS衛星の位置を計算するために必要な軌跡情報が含まれる航法メッセージを、GNSS受信装置へ送信する。また、航法メッセージは、C/Aコードによりスペクトラム拡散され、L1帯(1575.42MHz)を利用してGNSS受信装置へ送信される。
【0017】
図1に示されるように、測位衛星から送信される衛星信号に基づいて測位演算を行う受信装置10は、アンテナ101と、RF受信回路部(受信回路部)102と、ソフトウェア演算部103と、測位演算処理部109とを有する。
【0018】
アンテナ101は、GNSSアンテナなどである。
【0019】
RF受信回路部102は、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する。RF受信回路部102は、受信した衛星信号をデジタル信号へ変換する。そして、RF受信回路部102は、デジタル信号に変換した後の衛星信号を、位相同期処理部104に入力する。
【0020】
ソフトウェア演算部103は、位相同期処理部104と、基準クロック部105と、位相誤差算出部106と、位相差変化量検出部107と、フィードバック量演算処理部108とを有する。
【0021】
基準クロック部105は、クロック信号を生成し、生成したクロック信号を位相同期処理部104に入力する。
【0022】
位相同期処理部104は、基準クロック部105から入力されたクロック信号に基づいて、レプリカ信号を生成し、生成したレプリカ信号(衛星信号とデータの並びが同一である信号)と、衛星信号との相関値を算出する。
【0023】
位相同期処理部104は、衛星信号のレプリカ信号の位相を衛星信号に追従させるためのフィードバック量に基づき、ずらすことによって、衛星信号の位相に対するレプリカ信号の位相を同期させる。すなわち、位相同期処理部104は、フィードバック量演算処理部108から入力されるフィードバック量に基づき、前回生成したレプリカ信号に対して位相をずらしたレプリカ信号を生成する。また、位相同期処理部104は、生成したレプリカ信号を測位演算処理部109へ入力する。
【0024】
位相誤差算出部106は、衛星信号とレプリカ信号との位相差(位相角)を算出する。位相誤差算出部106は、算出した位相差を、位相差変化量検出部107およびフィードバック量演算処理部108に入力する。
【0025】
位相差変化量検出部107は、前回算出された位相差から直近に算出された位相差への変化量を検出する。そして、位相差変化量検出部107は、検出した変化量が、所定値以上または所定値以下である場合は、フィードバック量を調整するためのオフセット値(初期値は「0」)を補正する。そして、位相差変化量検出部107は、補正した後のオフセット値を、フィードバック量演算処理部108に入力する。一方、検出した変化量が所定の範囲内である場合は、位相差変化量検出部107は、オフセット値を補正しない。例えば、位相差変化量検出部107は、変化量が半周期(1/2π(90度)または−1/2π(−90度))を超えている場合に、いわゆる周回遅れが発生していると判定し、オフセット値を補正する。例えば、変化量が1/2π(90度)を超えている場合、位相差変化量検出部107は、オフセット値にπ(180度)を加算する。また、変化量が1/2π(90度)未満である場合、位相差変化量検出部107は、オフセット値からにπ(180度)を減算する。
【0026】
位相差変化量検出部107により検出される変化量が所定の範囲内の場合は、フィードバック量演算処理部108は、位相誤差算出部106が算出した位相差と、オフセット値とに基づき、フィードバック量を算出する。
【0027】
位相差変化量検出部107により検出される変化量が所定値以上または所定値以下である場合は、フィードバック量演算処理部108は、位相誤差算出部106が算出した位相差と、位相差変化量検出部107により増加または減少されることで補正された後のオフセット値とに基づき、フィードバック量を算出する。
【0028】
測位演算処理部109は、位相同期処理部104が生成したレプリカ信号に基づき、測位衛星までの距離を算出する。
【0029】
図2は、フィードバック量を算出する処理を実現するためのプログラムのソースコードの一例を示す図である。
【0030】
まず、相関値の実部(図2中、real)と相関値の虚部(図2中、imag)とに基づき、位相差(図2中、tanValue)が算出される。
【0031】
次に、前回算出した位相差(図2中、lastTanValue)から、直近に算出された位相差を減算することで算出された変化量が、「0.25(90度)」を超えるか否かが判定される。変化量が、「0.25」を超える場合、オフセット値(図2中、tanOffset)の値に「0.5(180度)」が加算される。また、変化量が、「−0.25(−90度)」未満である場合、オフセット値から「0.5」が減算される。これによって、オフセット値が補正される。なお、オフセット値には、初期値として、「0」が設定されている。
【0032】
一方、変化量が、所定の範囲(「−0.25」以上〜「0.25」以下)内である場合、オフセット値は補正されない。
【0033】
次に、オフセット値(補正されたオフセット値または、補正されていないオフセット値)に、直近に算出された位相差が加算されることで、フィードバック量(図2中、err)が算出される。最後に、前回算出された位相差として、直近に算出された位相差が設定される。
【0034】
<全体処理>
図3は、本発明の一実施の形態における、全体処理の概要を示す図である。
【0035】
まず、S301にて、位相同期処理部104が、フィードバック量演算処理部108から入力されるフィードバック量に基づき、レプリカ信号を生成する。
【0036】
次に、S302にて、位相同期処理部104が、受信回路部102から入力される衛星信号と、レプリカ信号の周波数とに基づき、相関値を算出する。位相同期処理部104は、算出した相関値を、位相誤差算出部106に入力する。
【0037】
次に、S303にて、位相誤差算出部106が、レプリカ信号の位相と、衛星信号の位相との位相差を算出する。位相誤差算出部106は、算出した位相差を位相差変化量検出部107およびフィードバック量演算処理部108に入力する。
【0038】
次に、S304にて、位相差変化量検出部107は、これまでに2回以上、位相差が入力されたか否かを判定する。位相差変化量検出部107が、2回以上、位相差が入力されたと判定する場合(S304−Yes)、S307へ進む。一方、位相差変化量検出部107が、2回以上、位相差が入力されていないと判定する場合(S304−No)、S305へ進む。
【0039】
次に、S305にて、位相差変化量検出部107は、S303にて入力された位相差を、フィードバック量演算処理部108に入力する。
【0040】
次に、S306にて、フィードバック量演算処理部108は、S305にて入力された位相差にオフセット値を加算した値をフィードバック量として算出する。また、フィードバック量演算処理部108は、算出したフィードバック量を位相同期処理部104へ入力する。S306の次は、S301へ戻る。
【0041】
S304にてYesだった場合、S307にて、位相差変化量検出部107は、前回算出された位相差から直近に算出された位相差への変化量を算出する。位相差変化量検出部107は、算出した変化量をフィードバック量演算処理部108に入力する。
【0042】
次に、S308にて、フィードバック量演算処理部108は、S306にて入力された変化量に基づき、周回遅れが発生し、オフセット値の補正が必要か否かを判定する。詳細には、フィードバック量演算処理部108は、S307にて入力された変化量が、「0.25」を超える場合、または「−0.25」未満である場合に、周回遅れが発生したと判定する。S308にて、フィードバック量演算処理部108が、周回遅れが発生していないと判定する場合(S308−No)、S310へ進む。一方、S308にて、フィードバック量演算処理部108が、周回遅れが発生したと判定する場合(S308−Yes)、S309へ進む。
【0043】
次に、S309にて、フィードバック量演算処理部108は、オフセット値を補正する。詳細には、変化量が「0.25」を超える場合、フィードバック量演算処理部108は、オフセット値に「0.5」を加算する。また、変化量が「−0.25」未満である場合に、フィードバック量演算処理部108は、オフセット値から「0.5」を減算する。
【0044】
次に、S310にて、フィードバック量演算処理部108は、オフセット値に、S305にて入力された位相差を加算した値を、フィードバック量として算出する。そして、フィードバック量演算処理部108は、算出したフィードバック量を、位相同期処理部104に入力する。S310の次は、S301に戻る。
【0045】
<本実施の形態の効果>
以上説明した本実施の形態における受信装置10によれば、位相差変化量検出部107が、前回算出された位相差から直近に算出された位相差への変化量が、所定値以上または所定値以下である場合にオフセット値を補正することで、適切なフィードバック量を算出でき、レプリカ信号の衛星信号への追従性が向上する。そして、位相差が虚数軸を超えるような場合にも、位相を追従させることが可能となり、周波数安定性が向上する。さらに、周波数引き込み範囲が、−250Hz〜250Hzまで拡大する。
【0046】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0047】
10…受信装置、102…RF受信回路部、103…ソフトウェア演算部、109…測位演算処理部。
図1
図2
図3