【実施例1】
【0022】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、挿入層および空隙の平面図、
図1(c)および
図1(d)は、
図1(a)のA−A断面図である。
図1(c)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図1(d)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
【0023】
図1(a)および
図1(c)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aは例えばCr(クロム)膜であり、上層12bは例えばRu(ルテニウム)膜である。
【0024】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bを備えている。下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に挿入層28および29が設けられている。挿入層28および29は積層方向に接している。挿入層28は絶縁層または導電層等の固体物質が充満する物質層である。挿入層29は、空気層である。なお、下部電極12側の挿入層を挿入層28とし、上部電極16側の挿入層を挿入層29とする。
【0025】
圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aは例えばRu膜であり、上層16bは例えばCr膜である。上部電極16および下部電極12は、少なくとも一部が空隙30の上に設けられ、積層方向に対向する。
【0026】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0027】
図1(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0028】
図1(d)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図1(c)と同じであり説明を省略する。
【0029】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0030】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12の下層12aを膜厚が100nmのCr膜、上層12bを膜厚が200nmのRu膜とする。圧電膜14を膜厚が1200nmのAlN膜とする。挿入層28を膜厚が150nmのSiO
2(酸化シリコン)膜とする。挿入層29を膜厚が150nmの空気層とする。挿入層28および29は、圧電膜14の膜厚方向の中心に設けられている。上部電極16の下層16aを膜厚が230nmのRu膜、上層16bを膜厚が50nmのCr膜とする。周波数調整膜24を膜厚が50nmの酸化シリコン膜とする。質量負荷膜20を膜厚が120nmのTi膜とする。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0031】
図1(b)に示すように、挿入層28は、共振領域50内の外周領域52aに設けられ中央領域54aに設けられていない。挿入層29は、共振領域50内の外周領域52bに設けられ中央領域54bに設けられていない。外周領域52aおよび52bは、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域52aおよび52bは、例えば帯状およびリング状である。中央領域54aおよび54bは、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入層28の内輪郭62と挿入層29の内輪郭69の位置は異なる。
【0032】
特許文献2に記載されているように、挿入層28のヤング率は圧電膜14より小さいことが好ましい。密度がほぼ同じであれば、ヤング率は音響インピーダンスと相関することから、挿入層28の音響インピーダンスは圧電膜14より小さいことが好ましい。これにより、Q値を向上できる。さらに、挿入層28の音響インピーダンスを圧電膜14より小さくするため、圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とする場合、挿入層28は、Al膜、Au(金)膜、Cu(銅)膜、Ti膜、Pt(白金)膜、Ta(タンタル)膜、Cr膜または酸化シリコン膜であることが好ましい。特に、ヤング率の観点から挿入層28は、Al膜または酸化シリコン膜であることが好ましい。
【0033】
挿入層28および29は、いずれも空気層でもよく、一方が空気層でもよい。挿入層28および29は、いずれも物質層でもよく、一方が物質層でもよい。
【0034】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl、Ti、Cu、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta、Pt、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。例えば、上部電極16の下層16aをRu、上層16bをMoとしてもよい。
【0035】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2族の元素と4族の元素との2つの元素、または2族と5族との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2族の元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4族の元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5族の元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、B(ボロン)を含んでもよい。
【0036】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間(下層16aと上層16bとの間)以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0037】
図2は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の共振領域付近の平面図である。
図2は、共振領域、挿入層、空隙および圧電膜の位置関係を示す。
図3(a)および
図3(b)は、
図2のA−A断面図である。
図3(a)は、例えばラダー型フィルタの直列共振器を、
図3(b)は例えばラダー型フィルタの並列共振器を示している。
図3(a)および
図3(b)において空隙30はドーム状であるが、空隙30の上面を簡略化して平面で図示している。また、
図3(a)および
図3(b)では、わかり易くするため長さの比率が必ずしも
図2と同じではない。以降の図も同様である。
【0038】
図1(a)から
図3(b)において、共振領域50の外側の輪郭である外輪郭60、挿入層28の内側の輪郭である内輪郭62、挿入層29の内輪郭69、空隙30の外輪郭64、上部圧電膜14bの端面66および下部圧電膜14aの端面68(
図3(a)および
図3(b)では図示を省略)を図示している。共振領域50を囲む領域のうち、上部電極16を共振領域50から引き出す引き出し領域70と、共振領域50を囲む領域のうち引き出し領域70以外の領域72を図示している。
【0039】
なお、各膜において、端面が膜厚方向に傾斜または湾曲している場合、外輪郭は傾斜または湾曲した端面のうち最も外側であり、内輪郭は傾斜または湾曲した端面のうち最も内側である。端面と輪郭が略一致するとは、傾斜または湾曲した端面の少なくとも一部が輪郭と略一致していればよい。端面が輪郭の外側(または内側)に位置するとは、傾斜または湾曲した端面の少なくとも一部が輪郭の外側(または内側)に位置していればよい。また、略一致するとは、例えば製造工程におけるばらつき、製造工程における合わせ精度程度に一致するとのことである。
【0040】
引き出し領域70においては、下部電極12の外輪郭が共振領域50の外輪郭60となる。領域72においては、上部電極16の外輪郭が共振領域50の外輪郭60となる。引き出し領域70において、共振領域50の外輪郭60と空隙30の外輪郭64は略一致している。領域72において、空隙30の外輪郭64は共振領域50の外輪郭60より外側に位置している。挿入層29の内輪郭69は共振領域50の外輪郭60の内側に位置している。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。
【0041】
図4(a)から
図5(b)は、実施例1の直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図4(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO、Ge(ゲルマニウム)またはSiO
2(酸化シリコン)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0042】
図4(b)に示すように、下部電極12および基板10上に下部圧電膜14aを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。下部圧電膜14a上に挿入層28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。その後、挿入層28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入層28は、リフトオフ法により形成してもよい。挿入層28上に犠牲層39を形成する。犠牲層39の材料および形成方法は犠牲層38と同じであり説明を省略する。
【0043】
図4(c)に示すように、上部圧電膜14b、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。下部圧電膜14aおよび上部圧電膜14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0044】
なお、
図1(d)に示す並列共振器においては、上部電極16の下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、上部電極16の上層16bを形成する。
【0045】
周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。
【0046】
図5(a)に示すように、圧電膜14をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。エッチング技術として、ウェットエッチング法を用いてもよいし、ドライエッチング法を用いてもよい。下部圧電膜14aをエッチングするマスクの少なくとも一部に挿入層28および29を用いてもよい。挿入層28および29をマスクとして下部圧電膜14aをエッチングすることにより、下部圧電膜14aと挿入層28の輪郭を略一致できる。
【0047】
図5(b)に示すように、孔部35および導入路33(
図1(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。このとき、犠牲層39もエッチング液にさらされる。これにより、犠牲層38および39が除去される。犠牲層38および39をエッチングする媒体としては、犠牲層38および39以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図1(c)、
図1(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。犠牲層39が除去され、空気層である挿入層29が形成される。以上により、
図1(a)および
図1(c)に示した直列共振器S、および
図1(a)および
図1(d)に示した並列共振器Pが作製される。
【0048】
実施例1においては、挿入層28および29の内輪郭62および69の位置が異なる。これにより、共振領域50から漏れる弾性波が内輪郭62と69との2箇所で反射または減衰させる。このため、弾性波エネルギーの損失が小さくQ値が向上する。
【0049】
(実施例1の変形例1)
図6(a)から
図6(c)は、実施例1の変形例1から3に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図6(a)に示すように、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。挿入層28および29の端面は傾斜している。また、上部圧電膜14bは空隙30の外輪郭64の外側まで延びていてもよい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例1のように、挿入層28および29の少なくとも一方の端面が傾斜(つまりテーパ状である)していてもよい。これにより、上部圧電膜14bのクラック等を抑制できる。挿入層28および29の端面と下部圧電膜14aの上面とのなす角θは30°以下が好ましい。
【0050】
(実施例1の変形例2)
図6(b)に示すように、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層28は挿入層29の内側に位置し、挿入層28と29は平面方向に接している。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例2のように、挿入層28と29は平面方向において接していてもよい。内側の挿入層28が空気層であり、外側の挿入層29が物質層でもよい。
【0051】
(実施例1の変形例3)
図6(c)に示すように、挿入層28は空気層であり、挿入層29は物質層である。挿入層29の内輪郭69が挿入層28の内輪郭62の内側に位置する。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例3のように、下側の挿入層28が空気層で上側の挿入層29が物質層でもよい。
【0052】
(実施例1の変形例4)
図7(a)は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図7(a)に示すように、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層29の内輪郭69は挿入層28の内輪郭62の内側に位置している。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例3および4のように、上側の挿入層29の内輪郭69が上側の挿入層28の内輪郭62の内側に位置していてもよい。
【0053】
(実施例1の変形例5)
図7(b)および
図7(c)は、実施例1の変形例5に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図7(b)に示すように、挿入層28および29はともに物質層である。
図7(c)に示すように、挿入層28および29はともに空気層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例5のように、挿入層28および29は同じ材料の物質層でもよいし空気層でもよい。挿入層28および29が共に物質層のとき、挿入層28と29は異なる材料層でもよい。
【0054】
(実施例1の変形例6)
図8(a)から
図9(a)は、実施例1の変形例6に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図8(a)に示すように、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。挿入層28と29との間に中間圧電膜14cが設けられている。圧電膜14は、下部圧電膜14a、中間圧電膜14cおよび上部圧電膜14bを有する。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0055】
図8(b)に示すように、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層29の内輪郭69は挿入層28の内輪郭62の内側に位置している。挿入層28と29との間に中間圧電膜14cが設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0056】
図8(c)に示すように、挿入層28は空気層であり、挿入層29は物質層である。挿入層29の内輪郭69は挿入層28の内輪郭62の内側に位置している。挿入層28と29との間に中間圧電膜14cが設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0057】
図9(a)に示すように、挿入層28は空気層であり、挿入層29は物質層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。挿入層28と29との間に中間圧電膜14cが設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例6のように、挿入層28と29は中間圧電膜14cを介し離間していてもよい。
【0058】
(実施例1の変形例7)
図9(b)および
図9(c)は、実施例1の変形例7に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9(b)に示すように、挿入層28および29は物質層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。挿入層28と29との間に中間圧電膜14cが設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0059】
図9(c)に示すように、挿入層28および29は物質層である。挿入層29の内輪郭69は挿入層28の内輪郭62の内側に位置している。挿入層28と29との間に中間圧電膜14cが設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例7のように、挿入層28および29はいずれも物質層または空気層のときに、挿入層28と29は中間圧電膜14cを介し離間していてもよい。
【0060】
(実施例1の変形例8)
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例8に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図10(a)から
図10(c)に示すように、下部電極12の引き出し領域において上部圧電膜14bの端面66は空隙30の外輪郭64の内側かつ共振領域50の外側に位置している。その他の構成は実施例1の変形例1から3と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例8では、共振領域50から横方向に漏洩する弾性波が挿入層28の内輪郭62、挿入層29の内輪郭69に加え、上部圧電膜14bの端面66で反射または減衰される。このため、弾性波エネルギーの損失が小さくQ値がより向上する。
【0061】
(実施例1の変形例9)
図11(a)から
図11(c)は、実施例1の変形例9に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図11(a)から
図11(c)に示すように、上部電極16の引き出し領域において上部圧電膜14bの端面66は共振領域50の外輪郭60に略一致し、かつ空隙30の外輪郭64の内側に位置している。上部電極16は配線22に接続されている。その他の構成は実施例1の変形例8と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例9では、上部電極16の引き出し領域においても、共振領域50から横方向に漏洩する弾性波が挿入層28の内輪郭62、挿入層29の内輪郭69に加え、上部圧電膜14bの端面66で反射または減衰される。このため、弾性波エネルギーの損失が小さくQ値がより向上する。
【0062】
(実施例1の変形例10)
図12(a)から
図12(c)は、実施例1の変形例10に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図12(a)から
図12(c)に示すように、上部電極16の引き出し領域において挿入層29が設けられていない。その他の構成は実施例1の変形例8と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例10のように、挿入層28および29の少なくとも一方は、中央領域を囲む外周領域の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0063】
(実施例1の変形例11)
図13(a)から
図14(a)は、実施例1の変形例11に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図13(a)に示すように、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。挿入層28は下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に設けられている。挿入層29は圧電膜14と上部電極16との間に設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0064】
図13(b)に示すように、挿入層28は空気層であり、挿入層29は物質層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の外側に位置している。挿入層28は下部電極12と圧電膜14との間に設けられている。挿入層29は下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0065】
図13(c)に示すように、挿入層28は空気層であり、挿入層29は物質層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の内側に位置している。挿入層28は下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に設けられている。挿入層29は圧電膜14と上部電極16との間に設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0066】
図14(a)に示すように、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層28の内輪郭62は挿入層29の内輪郭69の外側に位置している。挿入層28は下部電極12と圧電膜14との間に設けられている。挿入層29は下部圧電膜14aと上部圧電膜14bとの間に設けられている。上部圧電膜14bは、空隙30の外輪郭64の外側まで延びている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例11のように、挿入層28および29の少なくとも一方は、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に設けられていてもよい。
【0067】
(実施例1の変形例12)
図14(b)から
図15(b)は、実施例1の変形例12に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図14(b)から
図15(b)に示すように、挿入層28および29の外輪郭63が圧電膜14の端面の内側に位置する。その他の構成は
図13(a)、
図13(b)、
図8(c)および
図9(b)と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例12のように、挿入層28および29の少なくとも一方の外輪郭63は圧電膜14の端面の内側に位置してもよい。挿入層28および29の少なくとも一方の外輪郭63は共振領域50の外輪郭60と略一致してもよい。
【0068】
(実施例1の変形例13)
図16(a)および
図16(b)は、実施例1のそれぞれ変形例13および14の圧電薄膜共振器の断面図である。
図16(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。挿入層28および29の外輪郭63は、共振領域50の外輪郭60に略一致する。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。
【0069】
(実施例1の変形例14)
図16(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。挿入層28および29の外輪郭63は、共振領域50の外輪郭60に略一致する。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0070】
実施例1およびその変形例1から12において、実施例1の変形例13と同様に空隙30を形成してもよく、実施例1の変形例14と同様に空隙30の代わりに音響反射膜31を形成してもよい。
【0071】
実施例1および変形例1から13のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例14のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。
【0072】
実施例1およびその変形例において、引き出し領域70において、空隙30または音響反射膜31の外輪郭64が共振領域50の外輪郭60に略一致する例を説明したが、空隙30または音響反射膜31の外輪郭64が共振領域50の外輪郭60の外側に位置してもよい。また、共振領域50が楕円形状の例を説明したが、他の形状でもよい。例えば、共振領域50は、四角形または五角形等の多角形でもよい。
【0073】
実施例1およびその変形例において、挿入層28および29の内輪郭62および69の位置が共振特性に及ぼす影響について、2次元の有限要素法を用いシミュレーションした。シミュレーションに用いた各材料および膜厚は以下である。
下部電極12の下層12a:膜厚が100nmのCr膜
下部電極12の上層12b:膜厚が200nmのRu膜
下部圧電膜14a:膜厚が630nmのAlN膜
上部圧電膜14b:膜厚が630nmのAlN膜
挿入層28:膜厚が150nmの酸化シリコン膜または空気層
挿入層29:膜厚が150nmの酸化シリコン膜または空気層
上部電極16の下層16a:膜厚が230nmのRu膜
上部電極16の上層16b:なし
共振領域50の幅W0(共振領域の中心から外輪郭までの距離):42μm
共振領域50と下部圧電膜14aとの距離W3:8μm
空隙30と共振領域50の距離W4:13μm
共振領域の中心をミラー条件としてシミュレーションした。
【0074】
シミュレーションは、比較例のサンプルとして、サンプルAからC、実施例のサンプルとして、サンプルDからFについて行なった。サンプルAおよびBは挿入層が1つの例である。サンプルCは挿入層が2層であり、2つの挿入層の内輪郭の位置が略一致する例である。サンプルDからFは、挿入層が2層であり、2つの挿入層の内輪郭の位置が異なる例である。
【0075】
図17(a)から
図17(c)は、比較例であるサンプルAからCの断面図である。
図17(a)から
図17(c)に示すように、サンプルAでは、挿入層28は物質層であり、酸化シリコン膜である。挿入層28の挿入幅W1は2.3μmである。サンプルBでは、挿入層28は空気層である。挿入層28の挿入幅W1は2.3μmである。サンプルCでは、挿入層28は物質層であり、挿入層29は空気層である。挿入層28と29が接して設けられている。挿入層28および29の挿入幅W1およびW2は2.3μmである。共振領域の中心をミラー条件48とした。
【0076】
図18(a)から
図18(c)は、実施例であるサンプルDからFの断面図である。
図18(a)に示すように、サンプルDでは、挿入層28は物質層であり、酸化シリコン膜である。挿入層29は空気層である。挿入層28の挿入幅W1は2.3μmであり、挿入層29の挿入幅W2は1.6μmである。
図18(b)に示すように、サンプルEでは、挿入層28および29は空気層である。挿入層28の挿入幅W1は2.3μmであり、挿入層29の挿入幅W2は1.1μmである。
図18(c)に示すように、サンプルFでは、挿入層28は物質層であり挿入層29は空気層である。挿入層28の挿入幅W1は0.6μmであり、挿入層29の挿入幅W2は2.3μmである。なお、サンプルDからFの小さい方の挿入幅W1またはW2は、後述するように最も反共振周波数におけるQ値の大きい挿入幅近傍とした。
【0077】
図19は、サンプルAからFにおける反共振周波数のQ値および電気機械結合係数k
2を示す図である。
図19に示すように、サンプルAのように、挿入層28を物質層とすると、反共振周波数におけるQ値および電気機械結合係数k
2が十分大きくはない。サンプルBのように、挿入層28を空気層とすると、k
2は大きくなるがQ値は小さくなる。サンプルCのように、挿入層28および29をそれぞれ物質層および空気層としても挿入層28および29の内輪郭62および69が略一致していると、Q値およびk
2はサンプルBと同程度である。このように、比較例では、Q値とk
2の両方を向上させることは難しい。
【0078】
サンプルDでは、Q値をサンプルAと同程度で、サンプルBおよびCより大きくできる。k
2をサンプルBおよびCと同程度で、サンプルAより大きくできる。サンプルEおよびFでは、Q値およびk
2ともサンプルBおよびCより大きくできる。
【0079】
サンプルDにおいて、挿入層28の挿入幅W1を2.3μmとし、挿入層29の挿入幅W2を変化させ、反共振周波数におけるQ値および電気機械結合係数k
2をシミュレーションした。サンプルEにおいて、挿入層28の挿入幅W1を2.3μmとし、挿入層29の挿入幅W2を変化させ、Q値およびk
2をシミュレーションした。サンプルFにおいて、挿入層29の挿入幅W2を2.3μmとし、挿入層28の挿入幅W1を変化させ、Q値およびk
2をシミュレーションした。挿入幅W1およびW2のうち大きい方は横方向に伝搬する弾性波の波長の1/4程度とする。これにより、横方向に伝搬する弾性波を反射または減衰することができる。
【0080】
図20(a)から
図20(c)は、サンプルDからFにおける挿入幅に対するQ値およびk
2を示す図である。黒丸は反共振周波数におけるQ値のシミュレーション値であり、実線は近似曲線である。白丸は電気機械結合係数k
2のシミュレーション値であり、破線は近似曲線である。
【0081】
図20(a)において、W2=0のときはサンプルAに相当する。W2=2.3μmのときはサンプルCに対応する。サンプルDにおいては、挿入幅W2が大きくなるとk
2はサンプルAから次第に大きくなる。Q値は、挿入幅W2に依存する。Q値は、いずれの挿入幅W2においても、サンプルCより大きい。挿入幅W2を最適化するとQ値およびk
2をともに大きくできる。
【0082】
図20(b)において、W2=0のときはサンプルBに相当する。サンプルEにおいては、挿入幅W2によらずk
2がサンプルBより大きい。Q値が挿入幅W2に依存するが、ほとんどの挿入幅W2においてサンプルBのQ値より大きい。挿入幅W2を最適化するとk
2はサンプルBおよびCと同程度でQ値をサンプルBより大きくできる。
【0083】
図20(c)において、W1=0のときはサンプルBに相当する。W1=2.3μmのときはサンプルCに対応する。サンプルFにおいては、挿入幅W1によらずk
2がサンプルBより大きい。Q値が挿入幅W1に依存するが、いずれの挿入幅W2においてもQ値はサンプルBおよびCより大きい。挿入幅W2を最適化するとk
2はサンプルBおよびCと同程度でQ値をサンプルBより大きくできる。
【0084】
サンプルDからFのように、複数の挿入層28および29の内輪郭62および69の位置を互いに異ならせる。これにより、サンプルAおよびBのように挿入層が1層の場合、またはサンプルCのように挿入層が複数層で内輪郭が略一致する場合に比べ、同じk
2でもQ値を向上できる。これは、共振領域50から圧電膜14内を横方向に伝搬する弾性波が、内輪郭62および69の複数個所において反射または減衰するためと考えられる。これにより、弾性波のエネルギーが共振領域50の外に漏洩することが抑制できる。よって、損失が抑制されQ値が向上する。複数の挿入層28および29の材料および/または挿入幅を調整することで所望のQ値およびk
2とすることができる。
【0085】
複数の挿入層28および29は、物質層と空気層のように音響インピーダンスが異なる。これにより、サンプルDおよびFのように、挿入層28および29が同じ音響インピーダンスであるサンプルEに比べ、Q値を向上できる。これは以下の理由によると考えられる。サンプルDの挿入層29の内輪郭69およびサンプルFの挿入層28の内輪郭62において、積層膜の音響インピーダンスが大きく変化する。このため、横方向に伝搬する弾性波をより反射または減衰できる。よって、Q値が向上する。複数の挿入層28および29の少なくとも2層は、いずれも物質層であり、互いに音響インピーダンスが異なっていてもよい。
【0086】
サンプルDとFとを比較すると、サンプルDがQ値が大きい。このように、音響インピーダンスが大きい挿入層28の内輪郭62を最も内側とすることが好ましい。
【0087】
また、複数の挿入層28および29は、物質層と空気層のように誘電率が異なる。サンプルEの
図20(b)のように、例えば空気層のように誘電率が低い挿入層の挿入幅を大きくすると電気機械結合係数k
2が大きくなる。これは、挿入層の誘電率が高いと、縦振動の共振に寄与しない静電容量が増えてしまうためである。そこで、複数の挿入層28および29の誘電率を異ならせることで、Q値とk
2を所望の値に調整できる。よりk
2を向上されるため、複数の挿入層28および29の少なくとも1つは空気層であることが好ましい。さらにk
2を向上させるため、最も内輪郭が内側に位置する挿入層は空気層であることが好ましい。複数の挿入層28および29の少なくとも2層は、いずれも物質層であり、互いに比誘電率が異なっていてもよい。
【0088】
よりQ値を向上させるためには、サンプルDのように、最も内輪郭が内側に位置する挿入層は物質層であり、最も内輪郭が外側に位置する挿入層は空気層であることが好ましい。
【0089】
複数の挿入層28および29は同じ材料であってもよい。複数の挿入層28および29は接していてもよいし、圧電膜14の一部を挟み離間していてもよい。複数の挿入層28および29の少なくとも1つは、圧電膜14内に挿入されていてもよいし、圧電膜14と下部電極12との間または圧電膜14と上部電極16との間に挿入されていてもよい。