(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)不飽和ポリエステル樹脂、(b)アクリル樹脂、(c)スチレン−ジエン共重合体、(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維、及び(e)無機充填材を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、
(a)成分100質量部に対して、(b)成分及び(c)成分の合計が10質量部〜20質量部、(d)成分が30質量部〜55質量部、及び(e)成分が300質量部〜550質量部であり、且つ(b)成分と(c)成分との質量比が1:2〜2:1であり、
前記(a)不飽和ポリエステル樹脂は不飽和ポリエステル及び架橋剤を含み、前記(a)不飽和ポリエステル樹脂における前記架橋剤の配合量は25質量%〜85質量%であり、
前記(e)無機充填材の平均粒子径は0.5μm〜30μmである
ことを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
前記(c)スチレン−ジエン共重合体が、SBS系熱可塑性エラストマー及びSIS系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、成形時の流動性は高いものの、水酸化アルミニウムを含有しているため、耐熱性に優れた硬化物を得ることができない。
また、特許文献2の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、ランプリフレクター用基材の製造に用いられるものであるため、電気・電子部品の封入材料に適した流動性を有していない。実際、特許文献2の不飽和ポリエステル樹脂組成物を電気・電子部品の封入に用いると、成形時の流動性が十分でないため、電気・電子部品を確実に封入することができない。
このように従来の不飽和ポリエステル樹脂組成物では、電気・電子部品の封入に要求される成形時の流動性と硬化物の耐熱性とが両立されていないのが実情である。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、成形時の流動性が高いと共に、成形収縮率が小さく且つ耐熱性に優れた硬化物を与える不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、上記の特性を有する不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品が堅固に封入硬化された封入モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−ジエン共重合体、繊維長が5mm以下のガラス繊維、及び無機充填材を特定の割合で組み合わせることで、電気・電子部品の封入材料に適した特性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]である。
[1](a)不飽和ポリエステル樹脂、(b)アクリル樹脂、(c)スチレン−ジエン共重合体、(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維、及び(e)無機充填材を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物であって、
(a)成分100質量部に対して、(b)成分及び(c)成分の合計が10質量部〜20質量部、(d)成分が30質量部〜55質量部、及び(e)成分が300質量部〜550質量部であり、且つ(b)成分と(c)成分との質量比が1:2〜2:1であることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【0010】
[2]前記(c)スチレン−ジエン共重合体が、SBS系熱可塑性エラストマー及びSIS系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
[3]前記(e)無機充填材が炭酸カルシウムであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
[4]電気・電子部品の封入に用いられることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一つに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
[5]前記電気・電子部品が、モータ構成部品であることを特徴とする[4]に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物。
[6][1]〜[5]のいずれか一つに記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品を封入硬化してなることを特徴とする封入モータ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形時の流動性が高いと共に、成形収縮率が小さく且つ耐熱性に優れた硬化物を与える不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記の特性を有する不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品が堅固に封入硬化された封入モータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(a)不飽和ポリエステル樹脂、(b)アクリル樹脂、(c)スチレン−ジエン共重合体、(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維、及び(e)無機充填材を含む。本発明において好ましい不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(a)成分〜(e)成分から本質的になる。ここで、本明細書において「本質的になる」とは、(a)成分〜(e)成分を必須成分として含み、本発明の効果を阻害しない範囲において必須成分以外の任意成分を含むことができることを意味する。
【0013】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられる(a)不飽和ポリエステル樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。(a)不飽和ポリエステル樹脂は、一般に、多価アルコールと不飽和多塩基酸及び任意の飽和多塩基酸とのエステル化反応による縮合生成物(不飽和ポリエステル)を、架橋剤(「反応性希釈剤」ともいう。)に溶解したものである。このような不飽和ポリエステル樹脂は、当該技術分野において一般に公知であり、例えば、「ポリエステル樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1988年発行)、「塗料用語辞典」(色材協会編、1993年発行)などに記載されている。
【0014】
不飽和ポリエステルの合成に用いられる多価アルコールとしては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。多価アルコールの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(「ネオペンチルグリコール」とも称される)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ノナンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、2,2−ジ(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(「水素化ビスフェノールA」とも称される)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの成分は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
【0015】
不飽和ポリエステルの合成に用いられる不飽和多塩基酸としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。不飽和多塩基酸の例としては、α、β−不飽和多価カルボン酸及びその誘導体が挙げられる。α、β−不飽和多価カルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸などが挙げられる。また、α、β−不飽和多価カルボン酸の誘導体の例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水クロロマレイン酸などの酸無水物、上記不飽和多価カルボン酸の低級アルキルエステルなどが挙げられる。これらの成分は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
【0016】
不飽和ポリエステルの合成に用いられる飽和多塩基酸としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。飽和多塩基酸の例としては、琥珀酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸(例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸など)、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、クロレンディック酸、ヘット酸、テトラブロモフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水琥珀酸、無水クロレンディク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ジメチルオルソフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルテレフタレートなどが挙げられる。これらの成分は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
【0017】
不飽和ポリエステルは、上記のような原料を用いて公知の方法で合成することができる。この合成における各種条件は、使用する原料やその量に応じて適宜設定する必要があるが、一般的に、窒素ガスなどの不活性ガス気流中、140℃〜230℃の温度にて加圧又は減圧下でエステル化させればよい。このエステル化反応では、必要に応じてエステル化触媒を使用することができる。触媒の例としては、酢酸マンガン、ジブチル錫オキサイド、シュウ酸第一錫、酢酸亜鉛、及び酢酸コバルトなどの公知の触媒が挙げられる。これらの触媒は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
【0018】
不飽和ポリエステルの重量平均分子量(MW)は、特に限定されないが、好ましくは3,000〜50,000、より好ましくは5,000〜30,000である。なお、本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(昭和電工株式会社製Shodex GPC−101)を用いて下記条件にて常温(23℃)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた値のことを意味する。
カラム:昭和電工製LF−804
カラム温度:40℃
試料:共重合体の0.2質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1mL/分
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI−71S
【0019】
(a)不飽和ポリエステル樹脂に用いられる架橋剤としては、不飽和ポリエステルと重合可能なエチレン性二重結合を有しているものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。架橋剤の例としては、スチレンモノマー、ジアリルフタレートモノマー、ジアリルフタレートプレポリマー、メタクリル酸メチル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
(a)不飽和ポリエステル樹脂における架橋剤の配合量は、特に限定されないが、作業性、重合性、成形体の収縮性及び量調整の自由度の観点から、好ましくは25質量%〜85質量%、より好ましくは30質量%〜80質量%、最も好ましくは40質量%〜70質量%である。
なお、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物に特定の特性を付与する観点から、本発明の効果を阻害しない範囲において、(a)不飽和ポリエステル樹脂の一部をビニルエステル樹脂としてもよい。
【0020】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられる(b)アクリル樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。その中でも本発明において好ましい(b)アクリル樹脂は、アクリルモノマーを主成分とする単独重合体又は共重合体である。アクリルモノマーの例としては、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレートなどのアクリル酸エステル類;メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、プロピルメタアクリレート、ブチルメタアクリレートなどのメタクリル酸エステル類などが挙げられる。
【0021】
(b)アクリル樹脂は、アクリルモノマーを重合させることによって製造することができる。重合条件は、特に限定されず、使用するアクリルモノマーの種類及びその量に応じて適宜設定すればよい。
また、(b)アクリル樹脂として、市販品を用いることもできる。市販品の例としては、東亞合成株式会社製の「ARUFON(商標)シリーズ」、三菱レイヨン株式会社製の「ダイヤナール(商標)シリーズ」、旭化成ケミカルズ株式会社製の「デルペット(商標)シリーズ」などが挙げられる。具体的には、東亞合成株式会社製のARUFON(商標)UH−3910、UC−3920、三菱レイヨン株式会社製のダイヤナール(商標)BR−50、BR−52、BR−60、BR−73、BR−77、BR−83、BR−96、BR−113、MB−2389、MB−7033、BR−2389、積水化学工業株式会社製のテクノポリマーMB、日本ゼオン株式会社製のF320、旭化成ケミカルズ株式会社製のデルペット(商標)560F、60N及び80NBなどを用いることができる。
【0022】
(b)アクリル樹脂の重量平均分子量(MW)は、特に限定されないが、好ましくは3,000〜1,000,000、より好ましくは10,000〜500,000である。
また、(b)アクリル樹脂は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられる(c)スチレン−ジエン共重合体としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。その中でも本発明において好ましい(c)スチレン−ジエン共重合体は、成形収縮率の観点から、ハードセグメントとしてポリスチレン及びソフトセグメントとしてポリブタジエンを有するSBS系熱可塑性エラストマー、又はハードセグメントとしてポリスチレン及びソフトセグメントとしてポリイソプレンを有するSIS系熱可塑性エラストマーである。
(c)スチレン−ジエン共重合体を構成する繰り返し単位(ポリスチレン部分及びジエンポリマー部分)の配列様式は、特に限定されず、リニアタイプ及びラジアルタイプのいずれであってもよい。
(c)スチレン−ジエン共重合体におけるポリスチレン部分とジエンポリマー部分との割合は、特に限定されないが、ポリスチレン部分が全体の10質量%〜50質量%であることが好ましい。ポリスチレン部分の割合が10質量%未満又は50質量%を超えると、所望の成形収縮率を有する硬化物が得られないことがある。
【0024】
上記のような特徴を有する(c)スチレン−ジエン共重合体は市販されている。市販品の例としては、旭化成ケミカルズ株式会社製の「タフプレン(商標)シリーズ」及び「アサプレン(商標)シリーズ」、JSR株式会社製の「JSR SISシリーズ」、日本ゼオン株式会社製の「Nipol(商標)シリーズ」などが挙げられる。具体的には、旭化成ケミカルズ株式会社製のタフプレン(商標)A、125、126S、T−411、T−432、T−437、T−438、T−439、JSR株式会社製のJSR SIS5002、SIS5200、SIS5250、SIS5405、SIS5505、日本ゼオン株式会社製のNipol(商標)1502、1723及び1739などを用いることができる。
【0025】
(c)スチレン−ジエン共重合体の重量平均分子量(MW)は、特に限定されないが、好ましくは10,000〜1,000,000、より好ましくは100,000〜800,000である。
また、(c)スチレン−ジエン共重合体は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(b)アクリル樹脂及び(c)スチレン−ジエン共重合体の配合割合は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、(b)アクリル樹脂及び(c)スチレン−ジエン共重合体の合計が10質量部〜20質量部、好ましくは11質量部〜19質量部、より好ましくは12質量部〜18質量部である。(b)アクリル樹脂及び(c)スチレン−ジエン共重合体の合計が10質量部未満であると、成形収縮率が低下する。一方、(b)アクリル樹脂及び(c)スチレン−ジエン共重合体の合計が20質量部を超えると、成形時の流動性及び硬化物の耐熱性が低下する。
【0027】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(b)アクリル樹脂と(c)スチレン−ジエン共重合体との割合は、1:2〜2:1、好ましくは1:1.8〜1.8:1、より好ましくは1:1.5〜1.5:1である。(c)スチレン−ジエン共重合体に対する(b)アクリル樹脂の割合が高過ぎると、成形時の流動性及び成形収縮率が低下する。一方、(b)アクリル樹脂に対する(c)スチレン−ジエン共重合体の割合が高過ぎると、硬化物の耐熱性が低下する。
【0028】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられる(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。ガラス繊維の例としては、ガラスチョップドストランド、ミルドガラスファイバーなどが挙げられる。ガラス繊維の繊維長が5mmを超えると、成形時の流動性が低下する。ガラス繊維の繊維長は、好ましくは3mm以下、より好ましくは1.5mm以下である。また、ガラス繊維の繊維径は、好ましくは3μm〜25μmである。
【0029】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維の配合割合は、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して30質量部〜55質量部、好ましくは32質量部〜53質量部、より好ましくは35質量部〜50質量部である。(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維の配合割合が30質量部未満であると、硬化物の耐熱性が低下する。一方、d)繊維長が5mm以下のガラス繊維の配合割合が55質量部を超えると、成形時の流動性が低下する。
【0030】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられる(e)無機充填材としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。本発明において好ましい(e)無機充填材は、耐熱性の低下の原因となる水酸化アルミニウム以外の無機充填材である。(e)無機充填材の例としては、炭酸カルシウム、球状又は不定形アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ホウ素、炭化チタン、ホウ化チタン、クレー、マイカなどが挙げられる。これらは、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。また、これらの中でも、成形時の流動性及び硬化物の耐熱性の観点から、炭酸カルシウムが好ましい。
【0031】
(e)無機充填材の平均粒子径は、特に限定されないが、成形時の流動性の観点から、好ましくは0.5μm〜30μm、より好ましくは1μm〜20μmである。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法、コールターカウンター法などにより測定される平均粒子径を意味するが、レーザー回折・散乱法により測定される平均粒子径であることが好ましい。また、レーザー回折・散乱法、コールターカウンター法などにより測定される平均粒子径とは、これらの方法によって得られた粒度分布(数分布)における積算値50%での粒子径を意味する。
【0032】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における(e)無機充填材の配合割合は、成形時の流動性と硬化物の耐熱性とを両立させる観点から、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して300質量部〜550質量部、好ましくは330質量部〜420質量部、より好ましくは350質量部〜450質量部である。(e)無機充填材の配合割合が3
00質量部未満であると、硬化物の耐熱性が低下する。一方、(e)無機充填材の配合割合が550質量部を超えると、成形時の流動性が低下する。
【0033】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、各種物性を改良する観点から、硬化剤、離型剤、増粘剤、顔料などの任意成分を必要に応じて含有することができる。
硬化剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の熱重合開始剤を用いることができる。硬化剤の例としては、t−ブチルパーオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1,−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。これらの成分は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
【0034】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における硬化剤の配合割合は、特に限定されないが、(a)不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して好ましくは0.1質量部〜10質量部、より好ましくは2質量部〜6質量部である。硬化剤の配合量が0.1質量部未満であると、硬化時間が長くなるか、又は十分に硬化しないことがある。一方、硬化剤の配合量が10質量部を超えると、貯蔵安定性が低下してしまうことがある。
【0035】
離型剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。離型剤の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、カルナバワックスなどが挙げられる。これらの成分は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における離型剤の配合割合は、特に限定されず、使用する離型剤の種類に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜調整すればよい。
【0036】
増粘剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。増粘剤の例としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、イソシアネート化合物などが挙げられる。これらの成分は、単独の成分又は2種以上の成分を組み合わせて用いることができる。
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物における増粘剤の配合割合は、特に限定されず、使用する増粘剤の種類に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜調整すればよい。
【0037】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、上記のような所定量の各成分を、常法により配合・混練することにより製造することができる。例えば、所定量の各成分をニーダ等に投入して混合することにより不飽和ポリエステル樹脂組成物を得ることができる。また、均質な不飽和ポリエステル樹脂組成物を製造する観点からは、(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維を除いた各成分を双碗型ニーダにて混練した後、(d)繊維長が5mm以下のガラス繊維を加えて更に混練することが好ましい。
上記のようにして得られる本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、成形時の流動性が高いと共に、成形収縮率が小さく且つ耐熱性に優れた硬化物を与えることができるため、各種用途において用いることができる。その中でも、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、電気・電子部品、特に、コイル、回転子、固定子、軸受などのモータ構成部品の封入材料に最適である。本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品を封入硬化することにより、堅固に封入硬化された封入モータを得ることができる。
【0038】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を電気・電子部品の封入材料として用いる場合、電気・電子部品の封入方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物で電気・電子部品を封入成形した後、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化させればよい。封入成形は、電気・電子部品が収容された型内に、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形などの各種成形方法によって本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物を導入して成形すればよい。また、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物の硬化は、所定の温度に加熱することによって行うことができる。硬化条件は、本発明の不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いる成分の種類に応じて適宜設定すればよいが、一般的に、硬化温度が110℃〜180℃、硬化時間が1分〜30分、成形圧力が2MPa〜10MPaである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
下記の実施例及び比較例で作製した不飽和ポリエステル樹脂組成物及びその硬化物における各種物性は、次のようにして評価した。
【0040】
(1)成形収縮率
JIS K6911に規定される収縮円盤を、成形温度150℃、成形圧力10MPa、成形時間3分で圧縮成形を行うことによって作製し、JIS K6911に準じて成形収縮率を算出した。
ここで、成形収縮率は、電気・電子部品の形状及び過酷な環境下での使用などを考慮すると、−0.03%〜0.03%の範囲であることが望ましい。
【0041】
(2)耐熱性
耐熱性は、加熱処理前の硬化物の曲げ強度に対する加熱処理後の硬化物の曲げ強度の保持率(以下、「強度保持率」と略す。)によって評価した。
曲げ強度は、成形温度140℃、成形圧力10MPa、成形時間3分で圧縮成形を行うことによって試験片(80mm×10mm×4mm)を作製し、JIS K6911に準じて曲げ強度を測定した。
試験片の加熱処理は、乾燥機において、210℃で1000時間加熱することによって行った。
ここで、強度保持率は、過酷な環境下での使用を考慮すると、70%以上であることが望ましい。
【0042】
(3)流動性
台形断面の渦巻き曲線状の溝(溝幅:上底6mm、下底8mm、厚み2mm、長さ120cm)が設けられたスパイラルフロー試験用金型を70tトランスファー成形機に取り付け、成形温度(金型温度)140℃、注入圧力5MPa、硬化時間130秒、注入量50gの条件で不飽和ポリエステル樹脂組成物を注入し、スパイラルフロー長さ(SF値)を測定した。
ここで、SF値は、電気・電子部品の形状を考慮すると、70cm以上であることが望ましい。
【0043】
(4)総合評価
上記(1)〜(3)の評価において、上記の全ての評価基準を達成したものを○、いずれかの評価基準を達成できなかったものを×として表した。
【0044】
<(a)不飽和ポリエステル樹脂の合成>
温度計、攪拌機、窒素ガス導入管及び還流冷却器を備えた四口フラスコに、100モルのフマル酸、80モルのプロピレングリコール及び20モルの水素化ビスフェノールAを入れ、窒素気流下で加熱撹拌しながら200℃まで昇温して、常法に従いエステル化反応を行なうことによって不飽和ポリエステルを得た。その後、不飽和ポリエステルにスチレンモノマーを添加して不飽和ポリエステル樹脂を得た。ここで、スチレンモノマーは、不飽和ポリエステル樹脂中で50質量%となるように添加した。また、不飽和ポリエステルの重量平均分子量(MW)を上記の条件にて測定したところ、12,000であった。
【0045】
<その他の成分>
(b)アクリル樹脂には、三菱レイヨン社製ダイヤナール(商標)BR−77(MW:65,000)を用いた。
(c)スチレン−ジエン共重合体には、ハードセグメントとしてポリスチレン及びソフトセグメントとしてポリブタジエンを有するSBS系熱可塑性エラストマー(旭化成ケミカルズ株式会社製アサプレン(商標)T−411、MW:430,000、SBS系熱可塑性エラストマー中のポリスチレン部分の割合30質量%)を用いた。
(d)ガラス繊維には、繊維径が13μm、繊維長が3mm、6mm又は9mmのガラスチョップドストランドを用いた。
(e)無機充填材には、炭酸カルシウム(平均粒子径1.9μm)又はアルミナ(平均粒子径0.9μm)を用いた。
【0046】
<実施例1〜6及び比較例1〜12の不飽和ポリエステル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合割合で上記の各成分を仕込み、双碗型ニーダを用いて混練することによって不飽和ポリエステル樹脂組成物を得た。なお、表1の配合割合の単位は、質量部である。また、使用した不飽和ポリエステル樹脂中のスチレンモノマーの含有量は50質量%である。
このようにして得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物について、上記(1)〜(4)の評価を行った。その結果を表1及び2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1に示されているように、実施例1〜6の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、成形収縮率が小さいと共に強度保持率及びSF値が大きく、良好な総合評価を得ることができた。
これに対して、表2に示されているように、比較例1の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(b)成分及び(c)成分の合計量が少なすぎたため、成形収縮率が大きくなった。比較例2の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(d)成分の含有量が多すぎたため、SF値が小さくなった。比較例3の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(b)成分と(c)成分との質量比が所定の範囲になかったため、成形収縮率が大きくなった。比較例4の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(d)成分の含有量が少なすぎたため、強度保持率が小さくなった。比較例5の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(e)成分の含有量が少なすぎたため、成形収縮率が大きくなると共に強度保持率が小さくなった。比較例6の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(b)成分及び(c)成分の合計量が多すぎたため、成形収縮率が大きくなると共に強度保持率及びSF値が小さくなった。比較例7の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(b)成分及び(c)成分の合計量が多すぎ、且つ(b)成分と(c)成分との質量比が所定の範囲になかったため、成形収縮率が大きくなると共に強度保持率及びSF値が小さくなった。比較例8の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(b)成分と(c)成分との質量比が所定の範囲になかったため、成形収縮率が大きくなると共に強度保持率が小さくなった。比較例9及び10の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(d)成分の繊維長が長すぎたため、SF値が小さくなった。比較例11の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(b)成分と(c)成分との質量比が所定の範囲になく、且つ(d)成分の繊維長が長すぎたため、SF値が小さくなった。比較例12の不飽和ポリエステル樹脂組成物は、(e)成分の含有量が多すぎたため、SF値が小さくなった。
【0050】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、成形時の流動性が高いと共に、成形収縮率が小さく且つ耐熱性に優れた硬化物を与える不飽和ポリエステル樹脂組成物を提供することができる。また、このような特徴を有する不飽和ポリエステル樹脂組成物でモータ構成部品を封入硬化することにより、モータ構成部品が堅固に封入された封入モータを提供することができる。
【0051】
なお、本国際出願は、2014年10月20日に出願した日本国特許出願第2014−213739号に基づく優先権を主張するものであり、この日本国特許出願の全内容を本国際出願に援用する。