【0011】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
先に、本明細書における用語法は、特に説明がない場合であっても、以下による。
(1)金属というときは、金属元素単体のみならず、複数の金属元素を含む合金、金属間化合物を含むことがある。
(2)ある単体の金属元素に言及する場合、完全に純粋に当該金属元素のみからなる物質だけを意味するものではなく、微かな他の物質を含む場合もあわせて意味する。すなわち、当該金属元素の性質にほとんど影響を与えない微量の不純物を含むものを除外する意味ではないことは勿論、たとえば、「Sn合金母相」という場合、Snの結晶中の原子の一部が他の元素、例えばCu、Ni、Ge、Sb、Ga、Si、Ti、Al に置き換わっているものを包含する。
(3)エント゛タキシャル接合とは、金属・合金となる物質中に他(金属間化合物)の物質を析出させた、対象となる物質間との結晶格子レベルでの接合状態にて結晶粒を構成する構造(例えば合金間、金属間、金属間化合物間)である。
(4)エピタキシャル接合とは、下地の金属または合金体(例えば電極)界面上に結晶成長が行われ、下地の結晶面と、Sn合金母相及び/または金属間化合物結晶とが結晶面同士で接合している状態を意味する。
【0015】
溶融金属を減圧化で冷却固化させる過程は、本発明の金属粒子の結晶構造を形成するために重要である。
例えば次のような条件が挙げられる。
皿形回転ディスク4:内径60mm、深さ3mmの皿形ディスクを用い、毎分8万〜10万回転とする。
粒状化室1:9×10
-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15〜50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10
−1Pa以下とする。
これら条件により製造された金属粒子の粒径は、例えば直径20μm以下であり、典型的には2μm〜15μmである。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0023】
実施例1
原材料として8Cu・92Snを用い、
図3に示す製造装置により、直径約3〜13μmの金属粒子を製造した。
その際、以下の条件を採用した。
皿形回転ディスク4:内径60mm、深さ3mmの皿形ディスクを用い、毎分8万〜10万回転とした。
粒状化室1:9×10
-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15〜50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10
−1Pa以下とした。
【0024】
図1は、実施例で得られた本発明の金属粒子の断面STEM-EDS Mapping SEM像である。
図1から、本発明の金属粒子が金属間化合物結晶とSn合金母相とを含むことが観察される。
【0025】
図2Aは、金属粒子中の各場所での透過型電子回折パターンである。
図2Aには、金属粒子(a)におけるSn合金母相(b)、金属間化合物結晶(d)およびSn合金母相−金属間化合物結晶界面(c)の透過型電子回折パターンを示している。
図2A(d)から、該金属間化合物結晶が、単斜晶の結晶構造を有することが確認された。
図2Bは、実施例で得られた金属粒子(a)中の単斜晶の金属間化合物結晶が、Sn合金母相とエンドタキシャル接合している状態を示す、金属粒子断面の電子顕微鏡写真(TEM像)である。
図2Bの(b)から、SnおよびCuを含む単斜晶の金属間化合物結晶が、Sn合金母相とエンドタキシャル接合していることが観察された。なお、エンドタキシャル接合とは、金属粒子の生成時、Sn合金母相中に金属間化合物が析出し、両者が結晶格子レベルで接合している状態を意味する。なお、
図2Bの(c)は、Sn合金母相−金属間化合物結晶界面の透過型電子回折パターンを示している。
図2Aの透過型電子回折パターンおよび
図2Bの電子顕微鏡写真(TEM像)は、常温(室温)で観察されたものである。
【0026】
次に、得られた金属粒子を圧接してシートを作成し、当該シートを用い、350℃の高温保持試験(HTS)を行ったところ、試験開始時から約100時間までは、シェア強度が約60MPaから約80MPaまで上昇し、100時間超の時間領域では、ほぼ60MPaで安定するという試験結果が得られた。
また、(-40〜200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、約200サイクルを超えたあたりから、全サイクル(1000サイクル)に渡って、シェア強度が約50MPaで安定するという試験結果が得られた。
【0027】
なお、比較例として、従来のSnAgCu系接合材(粒径5μmの粉末はんだ材料)の断面STEM-EDS Mapping SEM像を
図4に示す。
図4(a)〜(d)によれば、従来のSnAgCu系接合材は、金属間化合物が存在せず、単一金属の元素が分散していることが確認された。したがって、本発明のように金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造をもつことも当然確認されない。また金属マトリクスのSn−Cu合金が高温動作領域で安定相として金属間化合物結晶構造をもたないことも確認された。このような従来のSnAgCu系接合材では、本発明の金属粒子のような耐熱性および強度を到底得ることができない。
【0028】
また、得られた金属粒子70質量部と、SiをコートしたCu粉末30質量部とを均一に混合し、乾粉圧延し、プレシート化した(50μm厚)。
【0029】
上記シートを金属体としてのCu電極間に挟み溶解接合を行った。上記本発明の金属粒子を用い、Snのもつ融点(231.9℃)で初期融解させ、接合構造部を形成した。なお、接合構造部の凝固後の再溶融温度は、Snよりも高融点であるCu
xSn
yのもつ融点(Cu
3Sn:約676℃、Cu
6Sn
5:約435℃)によって支配される。したがって、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合構造部を形成し得る。接合構造部におけるこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子のための電気配線及び導電性接合材として有効であった。
【0030】
図5Aおよび
図5Bは、前記で得られたCu電極と接合構造部との界面のTEM像である。
図5Aおよび
図5Bから、Sn合金母相が、Cu電極とエピタキシャル接合していることが認められた。
図5Bにおいて、左下側および右側のTEM像から、接合構造部のSn合金母相(淡色部)は、Cu電極(濃色部)とエピタキシャル接合していることが認められた。なお
図5Bの左上側の図は、Sn合金母相の透過型電子回折パターンである。
【0031】
なお、本発明における電極は、Sn、Cu、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属、合金体または金属間化合物であることができ、これら各種物質と、Sn合金母相とは、エピタキシャル接合を形成することができる。
【0032】
以上、添付図面を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。