特許第6556198号(P6556198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有限会社 ナプラの特許一覧

<>
  • 特許6556198-接合構造部 図000002
  • 特許6556198-接合構造部 図000003
  • 特許6556198-接合構造部 図000004
  • 特許6556198-接合構造部 図000005
  • 特許6556198-接合構造部 図000006
  • 特許6556198-接合構造部 図000007
  • 特許6556198-接合構造部 図000008
  • 特許6556198-接合構造部 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556198
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】接合構造部
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/26 20060101AFI20190729BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190729BHJP
   B22F 9/10 20060101ALI20190729BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   B23K35/26 310A
   B22F1/00 R
   B22F9/10
   C22C13/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-153952(P2017-153952)
(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公開番号】特開2019-25540(P2019-25540A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2018年2月26日
【審判番号】不服2018-12607(P2018-12607/J1)
【審判請求日】2018年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-143446(P2017-143446)
(32)【優先日】2017年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504034585
【氏名又は名称】有限会社 ナプラ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】関根 重信
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 亀ヶ谷 明久
【審判官】 板谷 一弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−141197(JP,A)
【文献】 特開2001−342549(JP,A)
【文献】 特開2013−143243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B22F 1/00-8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnおよびCuからなる金属間化合物結晶、並びに、SnおよびCuからなるSn合金母相を含み、金属体または合金体を接合する接合構造部であって、
前記金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有し、
前記Sn合金母相及び/または金属間化合物結晶が、前記金属体または合金体とエピタキシャル接合している、
ことを特徴とする接合構造部。
【請求項2】
前記金属間化合物結晶が単斜晶系、立方晶系または六方晶系である請求項に記載の接合構造部。
【請求項3】
前記Sn合金母相と前記金属体または合金体との接合が、エピタキシャル接合であることを特徴とする請求項またはに記載の接合構造部。
【請求項4】
前記金属体または合金体が、Sn、Cu、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属、合金体または金属間化合物であることを特徴とする請求項のいずれかに記載の接合構造部。
【請求項5】
前記接合構造部は、前記金属間化合物結晶を3〜85体積%含むことを特徴とする請求項のいずれかに記載の接合構造部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子および接合構造部に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT(Internet of Things)の進展や、一層の省エネルギーが求められる中で、その技術の核心を担うパワー半導体の重要性が益々高まっている。しかしながら、その活用には多くの課題がある。パワー半導体は、高電圧、大電流の大きな電力を扱うことから、多くの熱を発して高温となる。現行のSiパワー半導体に求められる耐熱性は約175℃程度への対応であるが、約200℃の温度に耐えるSiパワー半導体の開発が進められており、また、SiCやGaNのような次世代のパワー半導体は250〜500℃に耐えることが要求される。したがって当然、チップと基板の接合には高い温度に耐える接合材が必要になる。しかし、これまでにこの要求に応える接合材は存在しなかった。例えば、特許文献1に開示されているSnAgCu系接合材(粉末はんだ材料)では、現行の約175℃程度に対応したパワー半導体に適用可能であるに過ぎず、より高い温度に対応したパワー半導体には適用できない。
【0003】
パワー半導体が十分に性能を発揮するためには、接合材の制約を解消する必要がある。高耐熱性および高信頼性を有し、かつ鉛のような環境汚染物質を使用しない接合材が投入されれば、パワー半導体を使用するパワーエレクトロニクス産業は飛躍的に成長することが予測される。
【0004】
一方、本出願人は特許文献2において、外殻と、コア部とからなり、前記コア部は、金属又は合金を含み、前記外殻は、金属間化合物の網目状から成り、前記コア部を覆っており、前記コア部は、Sn又はSn合金を含み、前記外殻は、SnとCuとの金属間化合物を含む、金属粒子を提案している。この金属粒子により形成された接合部は、長時間にわたって高温動作状態が継続した場合でも、また、高温動作状態から低温停止状態へと大きな温度変動を伴うなど、過酷な環境下で使用された場合でも、長期にわたって高い耐熱性、接合強度及び機械的強度を維持することができる。
しかし、特許文献2に示された金属粒子は外殻とコア部の2層構造を有し、外殻の金属間化合物が接合対象物との間に介在することによって、Cuその他の接合対象物との拡散を制御して、カーケンダルボイドの発生を抑制するものであるが、接合工程の高温下で当該金属粒子が溶融する状況下において、外殻の金属間化合物が接合対象物上にできるだけ均一に接するように当該金属間化合物を分布させることは、必ずしも容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268569号公報
【特許文献2】特許第6029222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、従来技術よりも高い耐熱性、接合強度および機械的強度を有する接合部を比較的容易に形成し得る金属粒子を提供することにある。
また本発明の別の目的は、従来技術よりも高い耐熱性、接合強度および機械的強度を有する接合構造部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、高温相の金属間化合物である単斜晶系、六方晶系等の結晶構造を金属粒子中に析出させ亦析出界面は母相金属とエンドタキシャル接合にて構成された粒子に依って、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
また本発明者は鋭意検討を重ねた結果、前記粒子を用いて形成される接合構造部が、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の通りである。
【0008】
1.金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有する金属粒子。
2.前記金属間化合物結晶が単斜晶系、立方晶系または六方晶系である前記1に記載の金属粒子。
3.さらに別の反応金属を含む前記1または2に記載の金属粒子。
4.前記Sn合金母相と別の金属とが、エンドタキシャル接合またはエピタキシャル接合を形成していることを特徴とする前記3に記載の金属粒子。
5.金属間化合物結晶およびSn合金母相を含み、金属体または合金体を接合する接合構造部であって、
前記金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有し、
前記Sn合金母相及び/または金属間化合物結晶が、前記金属体または合金体とエピタキシャル接合している、
ことを特徴とする接合構造部。
6.前記金属間化合物結晶が単斜晶系、立方晶系または六方晶系である前記5に記載の接合構造部。
7.前記Sn合金母相と前記金属体または合金体との接合が、エピタキシャル接合であることを特徴とする前記5または6に記載の接合構造部。
8.前記金属体または合金体が、Sn、Cu、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属、合金体または金属間化合物であることを特徴とする前記5〜7のいずれかに記載の接合構造部。
9.前記接合構造部は、前記金属間化合物結晶を3〜85体積%含むことを特徴とする前記5〜8のいずれかに記載の接合構造部。
【発明の効果】
【0009】
Snの結晶構造は、約13℃〜約160℃の温度領域では正方晶(なお、正方晶の結晶構造を有するSnをβ−Snという。)であり、これより低い温度領域になると立方晶(なお、立方晶の結晶構造を有するSnをα−Snという。)に結晶構造が変化する。また、β−Snの結晶構造は、約160℃を超える温度領域で斜方晶に変化する(なお、斜方晶の結晶構造を有するSnをγ−Snという。)。そして、とりわけ正方晶のβ−Snと立方晶のα−Snの間の相転移時には、大きな体積変化が生じることが一般的に知られている。
本発明の金属粒子は、約160℃以下でも(たとえば、常温でも)単斜晶系、六方晶系等の金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合し、Sn合金母相が安定合金相として含有していることに特徴がある。たとえば、この金属粒子を含む接合材を接合工程で加熱する際に、当該接合材を完全には溶融させない半溶融状態とし、単斜晶系、立方晶系、六方晶系等の金属間化合物結晶を含む状態とすれば、冷却後の160℃以下の温度領域でもエンドタキシャル接合が維持され(たとえば、常温でも)Sn合金母相が安定合金相状態を維持する。そして、かかるエンドタキシャル接合が維持されることにより、Sn合金母相が安定合金相として、ある程度まで温度を下げても、正方晶のβ−Snはα−Snへ相転移を起こしにくく、温度の低下によるα−Snへの相転移に伴う大きな体積変化が生じない。
また、電子部品には、Cu、Ag、Au、Niその他さまざまな金属が用いられるが、Sn合金は、これらのさまざまな金属と良好に接合する。
したがって、本発明の金属粒子は、幅広い温度領域で(たとえば、常温でも)単斜晶系、六方晶系等の金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合して構成されることで、温度変化による正方晶のβ−Snから立方晶のα−Snへの相転移に伴う大きな体積変化を起こしにくいという性質を有し、かつ、電子部品に用いられるさまざまな金属とも良好に接合するため、とりわけ微細な接合箇所の接合材料に有用である。
また、本発明の金属粒子がさらに別の反応金属を含む形態であっても、単斜晶系、六方晶系等の金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合する構造ないし特性は変化せず、前記別の反応金属の特性を兼ね備えた金属粒子を提供することができる。たとえば、Snより導電性が高い金属と組み合わせると、導電性がよく、かつ、比較的幅広い温度領域で体積変化が抑制された金属粒子が得られ、また、金属粒子内にSnと反応金属の金属間化合物が生成析出されると、当該金属間化合物の融点はSnよりも高いため、当該金属粒子は、Snよりも耐熱性に優れる。
さらに、前記Sn合金母相と前記別の金属とが、エンドタキシャル接合またはエピタキシャル接合を形成している形態では、単斜晶系、立方晶系、六方晶系等等の金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合している構造とあいまって、従来技術よりも幅広い温度領域において、ウスカー・マイグレーション等が抑制される接合を形成し得る金属粒子を提供することができる。
さらにまた、本発明の接合構造部は、160℃以下の温度領域でも(たとえば、常温でも)単斜晶系、立方晶系、六方晶系等の金属間化合物結晶とSn合金母相とがエンドタキシャル接合し、また、電極間接合に於ける接合部では、Sn合金母相と電極とがエピタキシャル接合にて構成された構造を有するために、Snを組成に含む他の接合材SACよりも、温度変化による体積変化が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例で得られた本発明の金属粒子の断面STEM-EDS Mapping SEM像である。
図2A】実施例で得られた金属粒子中の単斜晶系の金属間化合物結晶の透過型電子回折パターンである。
図2B】実施例で得られた金属粒子中の金属間化合物結晶が、Sn合金母相とエンドタキシャル接合している状態を示す、金属粒子断面の電子顕微鏡写真(TEM像)である。
図3】本発明の金属粒子の製造に好適な製造装置の一例を説明するための図である。
図4】従来のSnAgCu系接合材(粒径5μmの粉末はんだ材料)の断面STEM-EDS Mapping SEM像である。
図5A】実施例で得られたCu電極と接合構造部との界面のTEM像である。
図5B】実施例で得られたCu電極と接合構造部との界面のTEM像である。
図6】本発明における接合構造部の構造を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
先に、本明細書における用語法は、特に説明がない場合であっても、以下による。
(1)金属というときは、金属元素単体のみならず、複数の金属元素を含む合金、金属間化合物を含むことがある。
(2)ある単体の金属元素に言及する場合、完全に純粋に当該金属元素のみからなる物質だけを意味するものではなく、微かな他の物質を含む場合もあわせて意味する。すなわち、当該金属元素の性質にほとんど影響を与えない微量の不純物を含むものを除外する意味ではないことは勿論、たとえば、「Sn合金母相」という場合、Snの結晶中の原子の一部が他の元素、例えばCu、Ni、Ge、Sb、Ga、Si、Ti、Al に置き換わっているものを包含する。
(3)エント゛タキシャル接合とは、金属・合金となる物質中に他(金属間化合物)の物質を析出させた、対象となる物質間との結晶格子レベルでの接合状態にて結晶粒を構成する構造(例えば合金間、金属間、金属間化合物間)である。
(4)エピタキシャル接合とは、下地の金属または合金体(例えば電極)界面上に結晶成長が行われ、下地の結晶面と、Sn合金母相及び/または金属間化合物結晶とが結晶面同士で接合している状態を意味する。
【0012】
本発明の金属粒子は、金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の金属粒子は、例えば、8質量%Cuおよび92質量%Snを組み合わせた原材料(以下8Cu・92Snと称する)から製造することができる。例えば、8Cu・92Snを溶融し、これを窒素ガス雰囲気中で高速回転する皿形ディスク上に供給し、遠心力により該溶融金属を小滴として飛散させ、減圧下で冷却固化させる等、析出単斜晶系、六方晶系等の金属間化合物等の結晶構造を呈してSn合金母相とエンドタキシャル接合構造で固化するよう環境条件を適切に制御することによって、本発明の金属粒子を得ることができる。
【0014】
金属粒子の製造に好適な製造装置の一例を図3を参照して説明する。粒状化室1は上部が円筒状、下部がコーン状になっており、上部に蓋2を有する。蓋2の中心部には垂直にノズル3が挿入され、ノズル3の直下には皿形回転ディスク4が設けられている。符号5は皿形回転ディスク4を上下に移動可能に支持する機構である。また粒状化室1のコーン部分の下端には生成した粒子の排出管6が接続されている。ノズル3の上部は粒状化する金属を溶融する電気炉(高周波炉)7に接続されている。混合ガスタンク8で所定の成分に調整された雰囲気ガスは配管9及び配管10により粒状化室1内部及び電気炉7上部にそれぞれ供給される。粒状化室1内の圧力は弁11及び排気装置12、電気炉7内の圧力は弁13及び排気装置14によりそれぞれ制御される。ノズル3から皿形回転ディスク4上に供給された溶融金属は皿形回転ディスク4による遠心力で微細な液滴状になって飛散し、減圧下で冷却されて固体粒子になる。生成した固体粒子は排出管6から自動フィルター15に供給され分別される。符号16は微粒子回収装置である。
【0015】
溶融金属を減圧化で冷却固化させる過程は、本発明の金属粒子の結晶構造を形成するために重要である。
例えば次のような条件が挙げられる。
皿形回転ディスク4:内径60mm、深さ3mmの皿形ディスクを用い、毎分8万〜10万回転とする。
粒状化室1:9×10-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15〜50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10−1Pa以下とする。
これら条件により製造された金属粒子の粒径は、例えば直径20μm以下であり、典型的には2μm〜15μmである。
【0016】
製造された金属粒子は、シート状あるいはペースト状に加工し、これを接合対象物に接した状態で不完全に溶融させた上で固化させることにより、良好な接合を形成することができる。
本発明に係る金属粒子を材料に含むシートは、当該金属粒子を、例えば、以下のようにローラーで圧接することによって得ることができる。すなわち、対向する向きに回転する一対の圧接ローラーの間に、本発明の金属粒子を供給し、圧接ローラーから金属粒子に約100℃から150℃程度の熱を加えて、金属粒子を圧接することにより、本発明の金属粒子を材料とするシートが得られる。
【0017】
また、本発明の金属粒子を有機ビヒクル中に混在させて、導電性ペーストを得ることもできる。
【0018】
なお、前記シートまたは前記導電性ペーストには、本発明の効果を損ねない範囲において、SnAgCu系合金粒子および/またはCu粒子のような他の粒子を加え、金属粒子との混合物としてもよい。これら他の粒子は、必要に応じてSiのような金属でコートされていてもよい。
【0019】
図6は、本発明における接合構造部の構造を説明するための模式断面図である。
図6において、接合構造部300は、対向配置された基板100、500に形成された金属/合金体101、501(図6ではCu電極)を接合する。接合構造部300は、金属間化合物結晶およびSn合金母相とを含み、前記金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有し、前記Sn合金母相が、前記金属体または合金体101、501と接合している。金属間化合物は、例えばCuSn(その他CuSn)である。
【0020】
基板100,500は、半導体素子を備え、例えばパワーデバイスなどの電子・電気機器を構成する基板であり、金属/合金体101,501は、電極、バンプ、端子またはリード導体などとして、基板100,500に一体的に設けられている接続部材である。パワーデバイスなどの電子・電気機器では、金属/合金体101,501は、一般にはCuまたはその合金として構成される。もっとも、基板100,500に相当する部分が、金属/合金体で構成されたものを排除するものではない。
【0021】
本発明の接合構造部は、上記で説明した本発明の金属粒子を用いて形成することができる。該金属粒子を用いて加熱後に得られる本発明の接合構造部は、該金属粒子の結晶構造と同様の結晶構造を有することが、本発明者らによって確認されている。
本発明の金属粒子は、金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造を有する。また、本発明の接合構造部は、Sn合金母相及び/または金属間化合物結晶が、金属/合金体101,501とエピタキシャル接合している構造を有する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0023】
実施例1
原材料として8Cu・92Snを用い、図3に示す製造装置により、直径約3〜13μmの金属粒子を製造した。
その際、以下の条件を採用した。
皿形回転ディスク4:内径60mm、深さ3mmの皿形ディスクを用い、毎分8万〜10万回転とした。
粒状化室1:9×10-2Pa程度まで減圧する性能を有する真空槽を使用して減圧した上で、15〜50℃の窒素ガスを供給しつつ排気を同時に行って、粒状化室1内の気圧を1×10−1Pa以下とした。
【0024】
図1は、実施例で得られた本発明の金属粒子の断面STEM-EDS Mapping SEM像である。図1から、本発明の金属粒子が金属間化合物結晶とSn合金母相とを含むことが観察される。
【0025】
図2Aは、金属粒子中の各場所での透過型電子回折パターンである。図2Aには、金属粒子(a)におけるSn合金母相(b)、金属間化合物結晶(d)およびSn合金母相−金属間化合物結晶界面(c)の透過型電子回折パターンを示している。図2A(d)から、該金属間化合物結晶が、単斜晶の結晶構造を有することが確認された。
図2Bは、実施例で得られた金属粒子(a)中の単斜晶の金属間化合物結晶が、Sn合金母相とエンドタキシャル接合している状態を示す、金属粒子断面の電子顕微鏡写真(TEM像)である。図2Bの(b)から、SnおよびCuを含む単斜晶の金属間化合物結晶が、Sn合金母相とエンドタキシャル接合していることが観察された。なお、エンドタキシャル接合とは、金属粒子の生成時、Sn合金母相中に金属間化合物が析出し、両者が結晶格子レベルで接合している状態を意味する。なお、図2Bの(c)は、Sn合金母相−金属間化合物結晶界面の透過型電子回折パターンを示している。
図2Aの透過型電子回折パターンおよび図2Bの電子顕微鏡写真(TEM像)は、常温(室温)で観察されたものである。
【0026】
次に、得られた金属粒子を圧接してシートを作成し、当該シートを用い、350℃の高温保持試験(HTS)を行ったところ、試験開始時から約100時間までは、シェア強度が約60MPaから約80MPaまで上昇し、100時間超の時間領域では、ほぼ60MPaで安定するという試験結果が得られた。
また、(-40〜200℃)の冷熱サイクル試験(TCT)では、約200サイクルを超えたあたりから、全サイクル(1000サイクル)に渡って、シェア強度が約50MPaで安定するという試験結果が得られた。
【0027】
なお、比較例として、従来のSnAgCu系接合材(粒径5μmの粉末はんだ材料)の断面STEM-EDS Mapping SEM像を図4に示す。図4(a)〜(d)によれば、従来のSnAgCu系接合材は、金属間化合物が存在せず、単一金属の元素が分散していることが確認された。したがって、本発明のように金属間化合物結晶がSn合金母相とエンドタキシャル接合した結晶構造をもつことも当然確認されない。また金属マトリクスのSn−Cu合金が高温動作領域で安定相として金属間化合物結晶構造をもたないことも確認された。このような従来のSnAgCu系接合材では、本発明の金属粒子のような耐熱性および強度を到底得ることができない。
【0028】
また、得られた金属粒子70質量部と、SiをコートしたCu粉末30質量部とを均一に混合し、乾粉圧延し、プレシート化した(50μm厚)。
【0029】
上記シートを金属体としてのCu電極間に挟み溶解接合を行った。上記本発明の金属粒子を用い、Snのもつ融点(231.9℃)で初期融解させ、接合構造部を形成した。なお、接合構造部の凝固後の再溶融温度は、Snよりも高融点であるCuxSnyのもつ融点(Cu3Sn:約676℃、Cu6Sn5:約435℃)によって支配される。したがって、耐熱性に優れた高信頼性及び高品質の接合構造部を形成し得る。接合構造部におけるこの特性は、発熱量の大きな電力制御用半導体素子のための電気配線及び導電性接合材として有効であった。
【0030】
図5Aおよび図5Bは、前記で得られたCu電極と接合構造部との界面のTEM像である。図5Aおよび図5Bから、Sn合金母相が、Cu電極とエピタキシャル接合していることが認められた。図5Bにおいて、左下側および右側のTEM像から、接合構造部のSn合金母相(淡色部)は、Cu電極(濃色部)とエピタキシャル接合していることが認められた。なお図5Bの左上側の図は、Sn合金母相の透過型電子回折パターンである。
【0031】
なお、本発明における電極は、Sn、Cu、Al、Ni、Si、Ag、Au、Pt、B、Ti、Bi、In、Sb、Ga、Zn、CrおよびCoから選択された少なくとも1種の金属、合金体または金属間化合物であることができ、これら各種物質と、Sn合金母相とは、エピタキシャル接合を形成することができる。
【0032】
以上、添付図面を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、その基本的技術思想および教示に基づき、種々の変形例を想到できることは自明である。
【符号の説明】
【0033】
1 粒状化室
2 蓋
3 ノズル
4 皿形回転ディスク
5 回転ディスク支持機構
6 粒子排出管
7 電気炉
8 混合ガスタンク
9 配管
10 配管
11 弁
12 排気装置
13 弁
14 排気装置
15 自動フィルター
16 微粒子回収装置
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6