特許第6556219号(P6556219)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556219
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】二次電池用負極活物質及びその方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20190729BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20190729BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190729BHJP
   C01B 33/00 20060101ALN20190729BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/48
   H01M4/36 E
   H01M4/36 C
   H01M4/36 A
   !C01B33/00
【請求項の数】22
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-505024(P2017-505024)
(86)(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公表番号】特表2017-516282(P2017-516282A)
(43)【公表日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】KR2015003575
(87)【国際公開番号】WO2015156620
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2016年10月7日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0042226
(32)【優先日】2014年4月9日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517050282
【氏名又は名称】ネクシオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヨンテ
(72)【発明者】
【氏名】パク スンチョル
(72)【発明者】
【氏名】パク ソン
(72)【発明者】
【氏名】ソ ヒヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジヘ
(72)【発明者】
【氏名】イ ヨンウィ
(72)【発明者】
【氏名】キム チョルファン
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−262862(JP,A)
【文献】 特開2002−170561(JP,A)
【文献】 特開2007−220585(JP,A)
【文献】 特開2011−142021(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0050987(US,A1)
【文献】 特開2011−233497(JP,A)
【文献】 特開2014−002890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンと、前記シリコンの少なくとも一部が酸化されて形成されたシリコン酸化物とを含む、シリコン系活物質複合体であって
記シリコン及び前記シリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量は、9重量%ないし20重量%に制限され、
前記シリコン系活物質複合体は、前記シリコンのコアと、前記コアを取り囲むシリコン酸化物のシェルとを有する粒子を含み、
前記シリコン酸化物のシェルの厚さは、2nmないし30nmの範囲内である、シリコン系活物質複合体。
【請求項2】
前記シリコン酸化物のシェルの厚さは、3nmないし15nmの範囲内である、請求項1に記載のシリコン系活物質複合体。
【請求項3】
前記シリコン系活物質複合体の粒子の平均直径は、30nmないし300nmの範囲内である、請求項1に記載のシリコン系活物質複合体。
【請求項4】
前記シリコン系活物質複合体の粒子の平均直径は、30nmないし200nmの範囲内である、請求項1に記載のシリコン系活物質複合体。
【請求項5】
前記シリコン系活物質複合体の外殻に導電層が形成された、請求項1に記載のシリコン系活物質複合体。
【請求項6】
前記導電層は、非晶質炭素膜または導電性金属酸化物粒子を含む、請求項5に記載のシリコン系活物質複合体。
【請求項7】
請求項1に記載のシリコン及びシリコン酸化物のシェルの一次粒子が凝集することで得られている二次粒子。
【請求項8】
シリコンの粒子を提供する段階と、
前記シリコンの粒子を酸化させ、シリコン及び前記シリコンの少なくとも一部が酸化されて形成されたシリコン酸化物を含むシリコン系活物質複合体を形成する段階と、を含み、
前記シリコン及び前記シリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量は、9重量%ないし20重量%に制限され、
前記シリコンの粒子を酸化させる段階は、酸素含有液状溶媒内で前記シリコンの粒子を化学的に酸化させることによって行われる、シリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項9】
前記酸素含有液状溶媒は、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、過酸化水素(H)、水またはこれらのうち二つ以上の混合溶媒を含む、請求項8に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項10】
前記シリコンの粒子は、シリコンの粗粒子が粉砕または研磨工程により細密化された粒子を含む、請求項8に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項11】
前記シリコンの粒子は、シリコンの粗粒子を粉砕または研磨工程と共に、前記粉砕または研磨工程から誘導される圧縮及び剪断応力のうち少なくともいずれか一つにより、前記シリコンの粒子及び前記酸素含有液状溶媒のスラリーが化学的に酸化される、請求項10に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載のシリコン系活物質複合体の製造方法であって、前記製造方法によって製造された前記シリコン系活物質複合体が、シリコンのコアと前記コアを取り囲むシリコン酸化物のシェルとを有する粒子を含むシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項13】
前記シリコン酸化物のシェルの厚さは、2nmないし30nmの範囲内である、請求項12に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項14】
前記シリコン酸化物のシェルの厚さは、3nmないし15nmの範囲内である、請求項12に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項15】
請求項8〜14のいずれかに記載のシリコン系活物質複合体の製造方法であって、前記製造方法によって製造された前記シリコン系活物質複合体は、30nmないし300nmの範囲内の平均直径を有する粒子を含む、シリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項16】
請求項8〜14のいずれかに記載のシリコン系活物質複合体の製造方法であって、前記製造方法によって製造された前記シリコン系活物質複合体は、30nmないし200nmの範囲内の平均直径を有する粒子を含む、シリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項17】
前記シリコン系活物質複合体の外殻に導電層を形成する段階をさらに含む、請求項8〜14のいずれかに記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項18】
前記導電層は、非晶質炭素膜または導電性金属酸化物粒子を含む、請求項17に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項19】
前記導電層は、結晶質の炭素膜を含む、請求項17に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項20】
前記導電層は、SP炭素と、SP炭素とを含み、
前記SP炭素のモル分率は、前記SP炭素のモル分率よりも大きい、請求項17に記載のシリコン系活物質複合体の製造方法。
【請求項21】
前記導電層は、結晶質の炭素膜を含む、請求項5に記載のシリコン系活物質複合体。
【請求項22】
前記導電層は、SP炭素と、SP炭素とを含み、
前記SP炭素のモル分率は、前記SP炭素のモル分率よりも大きい、請求項5に記載のシリコン系活物質複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の技術に係り、より詳しくは、二次電池用負極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、可逆性に優れた電極材料を使用して充電及び放電が可能な電池であって、代表的にはリチウム二次電池が常用化されていた。前記リチウム二次電池は、スマートフォン、ポータブルコンピュータ及び電子ペーパーなどの小型IT機器の小型電力源だけでなく、自動車などの移動手段に搭載されたり、スマートグリッドなどの電力供給網の電力保存所に使われる中大型電力源としても、その応用が期待されている。
【0003】
リチウム二次電池の負極材料としてリチウム金属を使用する場合、デンドライトの形成により電池の短絡が生じるか爆発の危険性があるため、負極には、前記リチウム金属の代わりに、リチウムの挿入及び脱離が可能な、372mAh/gの理論容量を有する黒鉛及び人造黒鉛などの結晶質系炭素、またはソフトカーボン及びハードカーボンと炭素系活物質が多く使われている。しかし、二次電池の応用が拡大するにつれて、二次電池の高容量化及び高出力化がさらに求められており、これによって、炭素系負極材料の理論容量を代替できる、500mAh/g以上の容量を有するシリコン(Si)、スズ(Sn)またはアルミニウム(Al)などのリチウムと合金化が可能な非炭素系負極材料が注目されている。
【0004】
前記非炭素系負極材料のうち、シリコンは、理論容量が約4,200mAh/gと最も高いため、容量の面においてその応用は重要である。しかし、シリコンは、充電時の体積が約4倍膨張するため、充放電過程で体積変化によって活物質間の電気的連結が破壊されたり、集電体から活物質が分離され、電解質による活物質の侵食による固体性電解質界面層(Solid Electrolyte Interface:SEI)の形成などの不可逆反応の進行及びこれによる寿命短縮により、その実用化に障壁がある。
【0005】
したがって、シリコン材料の適用のためには、充放電時の体積変化を抑制し、かつ電池の不可逆容量を改善することが求められている。また、二次電池の爆発的な需要成長によって、シリコン負極活物質を経済的かつ大量に生産できる製造技術の確保が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題は、シリコンを利用して不可逆容量を改善し、充放電による体積変化を緩和して、エネルギー密度が高く、かつ高容量及び長寿命を有する負極活物質を提供することにある。
【0007】
なお、本発明が解決しようとする他の技術的課題は、上述の利点を有するシリコン負極活物質を経済的、迅速かつ大量に生産できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明の一態様によるシリコン系活物質複合体は、シリコンと、前記シリコンの少なくとも一部が酸化されて形成されたシリコン酸化物とを含む。前記シリコン及び前記シリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量は、9重量%ないし20重量%に制限される。
【0009】
一実施形態において、前記シリコン系活物質複合体は、前記シリコンのコアと、前記コアを取り囲むシリコン酸化物のシェルとを含む。前記シリコン酸化物のシェルの厚さは、2nmないし30nmの範囲内である。好ましくは、前記シリコン酸化物のシェルの厚さは、3nmないし15nmの範囲内である。他の実施形態において、前記シリコン系活物質複合体は、シリコンマトリックス、及び前記シリコンマトリックス内に前記シリコン酸化物が分散された構造を有する。
【0010】
前記シリコン系活物質複合体の平均直径は、30nmないし300nmの範囲内であり、好ましくは、前記シリコン系活物質複合体の平均直径は、30nmないし200nmの範囲内である。一実施形態において、前記シリコン系活物質複合体の外殻に導電層が形成されてもよい。前記導電層は、非晶質炭素膜または導電性金属酸化物粒子を含む。
【0011】
前記他の課題を解決するための本発明の他の態様によるシリコン系活物質複合体の製造方法は、シリコンの粒子を提供する段階と、前記シリコンの粒子を酸化させ、シリコン及び前記シリコンの少なくとも一部が酸化されて形成されたシリコン酸化物を含むシリコン系活物質複合体を形成する段階とを含む。この場合、前記シリコン及び前記シリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量は、9重量%ないし20重量%に制限される。
【0012】
一実施形態において、前記シリコンの粒子を酸化させる段階は、酸素含有液状溶媒内で前記シリコンの粒子を化学的に酸化させることによって行われる。この場合、前記酸素含有液状溶媒は、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、過酸化水素(H)、水またはこれらのうち二つ以上の混合溶媒を含む。
【0013】
他の実施形態において、前記シリコンの粒子を酸化させる段階は、前記シリコンの粒子に酸素イオンを注入することによって行われる。この場合、シリコンの熱酸化による緻密化を抑制し、かつシリコンマトリックスと注入された酸素を結合するために、50℃ないし200℃の低温で熱処理がさらに行われる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、シリコンと、シリコンの少なくとも一部が酸化されたシリコン酸化物とを含み、前記シリコン及び前記シリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量は、9重量%ないし20重量%に制限して、純粋なシリコンを複合化することにより、シリコンの理論容量に対して80%以上の容量を維持し、かつ寿命及び信頼性を向上したシリコン系活物質複合体が提供できる。
【0015】
また、本発明の実施形態によれば、酸素含有液状溶媒内でシリコンの粒子を酸化させたり、酸素イオンの注入によってシリコンを酸化させ、上述の利点を有するシリコン系活物質複合体を大量に生産できる経済的なシリコン系活物質複合体の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の様々な実施形態によるシリコン系活物質複合体を示す断面図である。
図1B】本発明の様々な実施形態によるシリコン系活物質複合体を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態によるシリコン系活物質複合体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付された図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明の実施形態は、当該技術分野で通常の知識を持った者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものであり、下記の実施形態は、色々な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記の実施形態に限定されるものではない。かえって、それらの実施形態は、本開示をさらに充実かつ完全にし、当業者に本発明の思想を完全に伝達するために提供されるものである。
【0019】
また、以下の図面において、各層の厚さやサイズは、説明の便宜及び明確性のために誇張されたものであり、図面上で、同じ符号は同じ要素を指す。本明細書で使われたように、用語“及び/または”は、当該列挙された項目のうちいずれか一つ及び一つ以上の全ての組み合わせを含む。
【0020】
本明細書で使われた用語は、特定の実施形態を説明するために使われ、本発明を制限するためのものではない。本明細書で使われたように、単数の形態は、文脈上明確に取り立てて指摘するものでなければ、複数の形態を含む。また、本明細書で使われる場合、“含む(comprise)”及び/または“含んだ(comprising)”は、言及した形状、数字、段階、動作、部材、要素及び/またはそれらのグループの存在を特定するものであり、一つ以上の他の形状、数字、動作、部材、要素及び/またはそれらのグループの存在または付加を排除するものではない。
【0021】
図1A及び図1Bは、それぞれ本発明の様々な実施形態によるシリコン系活物質複合体100A、100Bを示す断面図である。
【0022】
図1A及び図1Bを参照すれば、シリコン系活物質複合体100A、100Bは、粒子構造を有する。図1Aに示すように、シリコン系活物質複合体100Aは、シリコンのコア10と、コア10を取り囲むシリコン酸化物のシェル20Aとを含む。図1Bに示すように、シリコン系活物質複合体100Bは、シリコンのマトリックス10と、マトリックス10に分散されたシリコン酸化物20Bとを含む。
【0023】
一部の実施形態において、シリコン系活物質複合体100Aは、最外殻に導電層30をさらに含んでもよい。導電層30は、黒鉛、ソフトカーボン、またはグラフェンのような炭素系導電層をさらに含む。導電層30は、互いに接触するシリコン系活物質複合体100A間の電気的連結のためのものであり、集電体(図示せず)までの内部抵抗を減少させる。
【0024】
一部の実施形態において、前記炭素系導電層は、結晶質であるか、少なくとも部分的に非晶質の炭素膜である。炭素系導電層が高結晶性を有する場合に黒鉛であるが、この場合、表面で電解液と反応を生じる。しかし、低結晶性または非晶質炭素膜は、前記電解質に対して化学的耐食性を有しているため、充放電時に前記電解液の分解が抑制されるので、負極の寿命を向上させるという利点がある。また、前記炭素系導電層は、導電性を有するSP黒鉛構造と、絶縁性を有するSPダイヤモンド構造とが混在し、炭素系導電層が導電性を有するために、前記SPがSPよりも大きいモル分率を有させることもでき、これは熱処理工程により調節可能である。
【0025】
上述の炭素系導電層は例示的であり、本発明がこれに制限されるものではない。例えば、シリコン系活物質複合体100Aの最外殻は、アンチモン亜鉛酸化物またはアンチモンスズ酸化物のような導電性金属酸化物のナノスケール粒子またはその層のような他の導電層であってもよい。図1Bには示していないが、シリコン系活物質複合体100B上に上述の導電層30がさらに提供されてもよい。
【0026】
シリコン系活物質複合体100A、100Bは、シリコンのコア10及びシリコンのマトリックス10を構成するシリコンと、シリコン酸化物のシェル20A及び分散されたシリコン酸化物20Bとの総重量に対する酸素の含量は、9重量%ないし20重量%に制限される。前記酸素の含量の範囲内において、初期充電率と容量維持特性の両方が80%以上に維持され、常用化に好適なシリコン系活物質複合体が提供できる。シリコンのコア10及びシリコンのマトリックス10は、一次粒子であってもよいし、前記一次粒子が凝集された二次粒子であってもよい。この場合も、シリコン系活物質複合体のシリコン及びシリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量は、10重量%ないし20重量%である。
【0027】
前記酸素の含量は、常用の元素分析機(ELTRA ONH−2000)を利用して赤外線検出方式により測定される。具体的には、試料量2〜10mg、熱量8kW、キャリアガスとしてヘリウム(純度99.995%)を使用して、サンプル内に存在する酸素を二酸化炭素に変化させ、二酸化炭素の発生量を測定して、酸素量を定量化する方式である。
【0028】
表1は、本発明の実施形態によるシリコン系活物質複合体を利用して製造された負極を有する半分セルの酸素の含量による初期効率及び容量維持率を示すものである。容量維持率は、充放電を50回行った後の結果である。基準となる初期容量は、シリコンの理論容量である4,200mAh/gであり、酸素の含量によって測定された複合体の重さ比容量を示した。
【0029】
【表1】
【0030】
酸素の含量が9重量%未満である場合には、体積膨脹抑制効果が微々であり、シリコン系活物質複合体の容量維持率が80%未満に減少し、体積変化による寿命短縮を改善できない。しかし、酸素の含量が20重量%を超える場合には、容量維持率特性は改善されるものの、初期充電効率が80%未満に減少し、エネルギー密度が低下する。
【0031】
シリコン系活物質複合体において、シリコン酸化物は、充放電によるシリコンの体積変化による応力を吸収できる機構を提供し、充放電による不可逆性を抑制して寿命を改善することはできるが、純粋なシリコンに比べて低い容量を有するため、シリコン酸化物の含有量は表1のように制限されなければならない。シリコンの高い体積膨脹率を解消するための代案として適用されたシリコン酸化物は、過度な酸素の容量のためにエネルギー密度を減少させるが、本発明の実施形態によるシリコン系活物質複合体は、上述の酸素含有量の制御によって、容量と体積変化による不可逆性を減少させることにより、シリコン系活物質複合体の応用を可能にする。
【0032】
上述のシリコン系活物質複合体の容量及び容量維持率特性は、粒子構造のシリコン系活物質複合体100A、100Bのサイズにも依存していることが確認された。シリコン系活物質複合体100A、100Bは、30nmないし300nm範囲内の平均粒径を有し、好ましくは、30nmないし200nm範囲内の平均粒径を有する。粒子の平均直径が30nm未満である場合には、活物質スラリー内で導電層または粒子状の導電材の相対的な割合が大きくなり、電池容量が80%未満に低下する。また、粒子の平均直径が300nmを超える場合には、コアシェルタイプの複合体100Aの場合、シリコン酸化物のセル厚さが増加し、体積変化による不可逆性が改善されるとしても、容量の低下が50%以下に急激に表される。このように、シリコン酸化物のセル厚さが増加すると、シリコン酸化物の密度をよく制御するとしても、シリコン酸化物がリチウムの酸化及び還元反応にさらに多く関与するため、内部のシリコンのコアが活物質として作用することが困難であることに起因するものと推測される。
【0033】
一実施形態において、コアシェル構造のシリコン系活物質複合体100Aのシェル20Aの厚さは、2nmないし30nmであり、この範囲内で、シリコン系活物質複合体100Aは、80%以上の初期容量を有する。好ましくは、コアシェル構造のシリコン系活物質複合体100Aのシェル20Aの厚さは、3nmないし15nmであり、この範囲内で、シリコン系活物質複合体100Aは、90%以上の初期容量を有する。シェル20Aの厚さが2nm未満である場合には、低い機械的強度のためにシリコンのコア10の体積膨脹を防止できず、シェル20Aの厚さが30nmを超える場合には、シェル20Aが内部のシリコンのコア10をスクリーニングして、容量低下が表される。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態によるシリコン系活物質複合体の製造方法を示すフローチャートである。
【0035】
図2を参照すれば、シリコンの粒子を準備する(S10)。前記シリコンの粒子は、ポリシリコンまたは単結晶シリコン粗粒子であり、甚だしくは、結晶性の低い非晶質であってもよい。前記粗粒子を粉砕工程または研磨工程によってナノ粒子化するか、大きい体積のシリコン材料、例えば、シリコンロッドまたはウェーハを電気爆発して、前記シリコンの粒子を準備する。前記シリコンの粒子は、後述するシリコン酸化物の形成工程によって形成されるシリコン系活物質複合体が、30nmないし300nm範囲内の平均粒径を有するように、好ましくは、30nmないし200nm範囲内の平均粒径を有するように制御される。
【0036】
細密化されたシリコンの粒子を酸化させ、シリコン及びシリコンの少なくとも一部が酸化されたシリコン系活物質複合体を形成する(S20)。シリコンの粒子を酸化させることは、熱酸化により達成される。しかし、当該熱酸化は、熱平衡状態でシリコンの酸化反応を誘導しやすく、緻密なシリコン酸化物(化学量論を実質的に満たすSiOである)を形成する。しかし、このような緻密な熱酸化されたシリコン酸化物は、シリコンのコアの体積変化を抑制し、容量維持率を80%以上維持できるとしても、内部のシリコンのコアをスクリーニングすることもあるため、シリコンの理論容量の60%以下に容量を急激に低下させることを確認した。
【0037】
したがって、一実施形態において、シリコンの粒子を酸化させることは、酸素含有液状溶媒内でシリコンの粒子を化学的に酸化させることによって達成される。このように形成されたシリコン系活物質複合体は、シリコン及びシリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量が9重量%ないし20重量%に制限される。前記酸素含有液状溶媒は、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、過酸化水素(H)、水またはこれらのうち二つ以上の混合溶媒であり、好ましくは、環境負荷の低い水である。
【0038】
前記メタノールは、炭素に対して酸素の含有量が最も多い炭化水素体であり、他の炭化水素体の場合に生じる炭素成分を抑制しているため、シリコンのコアと、前記コア上に形成されたシリコン酸化物のシェルとを有するシリコン系活物質複合体を形成するのに有利である。実際に、他の炭化水素体の場合、シリコンのコア上に形成されるシリコン酸化物の形成を妨害するか、シリコン酸化物の形成のために炭素を取り除くための別途の熱処理を必要とし、熱酸化による緻密なSiOが形成されるという問題点がある。
【0039】
他の実施形態において、シリコン系活物質複合体は、細密化されたシリコンの粒子に酸素を注入するための酸素イオン注入工程により製造される。前記シリコンの粒子は、シリコンマトリックスとなり、イオンが注入された酸素は、前記シリコンマトリックス内に分散されたシリコン酸化物を提供する。前記イオン注入は、製造されたシリコン系活物質複合体のシリコン及びシリコン酸化物の総重量に対する酸素の含量が9重量%ないし20重量%に制限されるように、イオン注入エネルギーと密度が調節される。シリコンの熱酸化による緻密化を抑制し、かつシリコンマトリックスと注入された酸素を結合するために、50℃ないし200℃の低温で熱処理がさらに行われてもよい。
【0040】
さらに他の実施形態において、前記シリコンの粒子は、シリコンの粗粒子を粉砕または研磨工程と共に、前記工程から誘導される圧縮及び剪断応力のうち少なくともいずれか一つにより、前記シリコンの粒子が化学的に酸化されることにより、シリコン系活物質複合体が提供される。上述の酸素含有液状溶媒を使用してシリコンの粒子のスラリーを作り、前記スラリーに対して粉砕及び研磨工程を行うと、粒子が細粒化されるにつれて、応力感度が増加し、シリコンの粒子に化学的な酸化が誘導される。
【0041】
また、シリコン系活物質複合体上に導電層を形成する工程がさらに行われてもよい(S30)。好適な溶媒にバインダーと共に導電材が分散された溶液を製造し、前記溶液内に前記シリコン系活物質複合体を分散させて得た後に乾燥させることにより、前記導電層が得られる。または、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリル酸(PAA)またはポリビニルピロリドン(PVP)のような高分子前駆体物質を好適な溶媒に溶かした後、そこにシリコン系活物質複合体を分散させ、前記高分子前駆体物質でウェットされた中間粒子を得て、これを乾燥及び低温熱処理することにより、前記導電層を得ることも可能である。
【0042】
以上で説明した本発明は、前述した実施形態及び添付された図面に限定されず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で、色々な置換、変形及び変更が可能であるということは、本発明が属する技術分野で通常の知識を持った者にとって明らかである。
図1a
図1b
図2