特許第6556252号(P6556252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6556252光ファイバコネクタ端面の複数段階一括研磨方法及び研磨フィルム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556252
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】光ファイバコネクタ端面の複数段階一括研磨方法及び研磨フィルム
(51)【国際特許分類】
   B24B 19/00 20060101AFI20190729BHJP
   B24B 21/00 20060101ALI20190729BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20190729BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20190729BHJP
   B24D 11/04 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   B24B19/00 603B
   B24B21/00 Z
   B24D3/00 320B
   B24D11/00 M
   B24D11/04
【請求項の数】17
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-551506(P2017-551506)
(86)(22)【出願日】2015年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2015082785
(87)【国際公開番号】WO2017085884
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2018年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390037165
【氏名又は名称】Mipox株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096725
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 明▲ひこ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100171697
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 尚子
(72)【発明者】
【氏名】青木 賢二
(72)【発明者】
【氏名】杉田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】井川 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 光伸
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−29599(JP,A)
【文献】 特開平8−118241(JP,A)
【文献】 特開2012−166327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 19/00
B24B 21/00
B24D 3/00
B24D 11/00 − 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの端面を研磨盤に配置された研磨フィルムに当接させながら、基準面に平行な面内で前記ワークの端面と前記研磨盤とを相対的に移動させて前記ワークの複数段階の研磨を一括して行う研磨方法であって、
前記ワークの端面が、前記研磨フィルムに対して直径2Rで円運動し、且つ前記円運動の中心が、前記研磨フィルム上で所定距離Sだけ一方向へ直線移動し、
前記研磨フィルムが、前記直線移動の方向に沿って、第1、第2、及び第3の研磨面を備え、各研磨面の直線移動方向の長さが前記円運動の直径2R以上であり、
前記研磨フィルムがさらに、前記円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐ所定距離S上の範囲を低減させるように、または前記円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐことがないように、前記第1及び第2の研磨面の間に第1のクリーニング面と、前記第2及び第3の研磨面の間に第2のクリーニング面とを備えることを特徴とするワーク端面の研磨方法。
【請求項2】
前記第1及び第2のクリーニング面がそれぞれ前記直線移動方向の長さLc、Lcを有し、Lc、Lcがそれぞれ前記円運動の半径R以上であることを特徴とする請求項1に記載されたワーク端面の研磨方法。
【請求項3】
前記第1及び第2のクリーニング面がそれぞれ前記直線移動方向の長さLc、Lcを有し、Lc、Lcがそれぞれ前記円運動の直径2R以上であることを特徴とする請求項1に記載されたワーク端面の研磨方法。
【請求項4】
前記研磨フィルムがさらに、前記第1及び第2のクリーニング面を挟む溝部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載されたワーク端面の研磨方法。
【請求項5】
前記第1、第2、及び第3の研磨面の前記直線移動方向の長さがそれぞれ、前記直径2Rよりl1、l2、及びl3だけ大きく、l1、l2、及びl3の値が、前記第1、第2、及び第3の研磨面における所望の研磨時間に基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載されたワーク端面の研磨方法。
【請求項6】
前記ワークが固定され、前記研磨盤が円運動及び直線移動することにより、前記ワークの端面と前記研磨盤とが相対的に移動することを特徴とする請求項1に記載された研磨方法。
【請求項7】
前記研磨フィルムが前記研磨盤の配置面上に配置され、該配置面と前記研磨フィルムの形状、寸法が等しいことを特徴とする請求項1に記載された研磨方法。
【請求項8】
前記配置面及び前記研磨フィルムが、一辺が140〜150mmの正方形状であることを特徴とする請求項7に記載された研磨方法。
【請求項9】
前記第1、第2、及び第3の研磨面が互いに異なる粒子を含んで成り、
前記第1及び第2のクリーニング面がそれぞれ基材に植毛された多数の繊維を含んで成り、
前記ワークの端面が前記第1、第2、及び第3の研磨面及び前記第1及び第2のクリーニング面に所定の押圧力で当接されるときに、各研磨面及び各クリーニング面の高さが実質的に等しいことを特徴とする請求項1に記載された研磨方法。
【請求項10】
前記研磨フィルムがさらに、一つ以上の追加の研磨面を含み、該一つ以上の研磨面が、一つ以上の追加のクリーニング面を介して他の研磨面と隣り合うことを特徴とする請求項1に記載された研磨方法。
【請求項11】
前記基準面が水平に対して所定角度だけ傾けられ、前記研磨フィルムに水が供給されることを特徴とする請求項1に記載された研磨方法。
【請求項12】
ワークの端面を研磨盤に配置された研磨フィルムに当接させながら、基準面に平行な面内で前記ワークの端面と前記研磨盤とを相対的に半径Rで円運動させ、且つ前記円運動の中心を所定距離Sだけ直線移動させて前記ワークの複数段階の研磨を一括して行う研磨方法に使用される研磨フィルムであって、
第1、第2、及び第3の研磨面を含み、各研磨面の直線移動方向の長さが前記円運動の直径2R以上であり、
さらに、前記円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐ所定距離S上の範囲を低減させるように、または前記円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐことがないように、前記第1及び第2の研磨面の間に第1のクリーニング面と、前記第2及び第3の研磨面の間に第2のクリーニング面とを含むことを特徴とする研磨フィルム。
【請求項13】
前記第1及び第2のクリーニング面がそれぞれ前記直線移動方向の長さLc、Lcを有し、Lc、Lcがそれぞれ前記円運動の半径R以上であることを特徴とする請求項12に記載された研磨フィルム。
【請求項14】
前記第1及び第2のクリーニング面がそれぞれ前記直線移動方向の長さLc、Lcを有し、Lc、Lcがそれぞれ前記円運動の直径2R以上であることを特徴とする請求項12に記載された研磨フィルム。
【請求項15】
前記研磨フィルムがさらに、前記第1及び第2のクリーニング面を挟む溝部を有することを特徴とする請求項12乃至14のいずれか一項に記載された研磨フィルム。
【請求項16】
前記第2の研磨面が、平均粒径1μmのダイヤモンド粒子を含むことを特徴とする請求項12に記載された研磨フィルム。
【請求項17】
前記直線移動方向の長さが、前記第1の研磨面が15〜35mm、第2の研磨面が20〜40mm、前記第3の研磨面が50〜80mmの範囲にあり、
前記第1及び第2のクリーニング面の前記直線移動方向の長さがそれぞれ5mm〜20mmの範囲にあることを特徴とする請求項12に記載された研磨フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの研磨方法及び研磨フィルムに関し、特に、光ファイバコネクタ端面の粗研磨、中研磨、仕上げ研磨等を含む複数段階の研磨を一括して行うための研磨方法及び研磨フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信網において光ファイバとフェルールとで構成された光ファイバコネクタが広く使用されている。光ファイバの接続部に良好な光学特性を与えるために、光ファイバコネクタ端面は複数段階の研磨工程を経て高精度に研磨される。
【0003】
上記複数段階の研磨工程について、単芯の光ファイバコネクタ端面のために、種類や粒径が互いに異なる研磨粒子を含んで成る複数の研磨フィルムをそれぞれ用いた粗研磨、中研磨、及び仕上げ研磨等の複数の研磨工程が行われる。多芯の光ファイバコネクタ端面については概して、単芯の光ファイバコネクタ端面よりも多くの研磨工程が行われる。
【0004】
研磨が行われる現場において研磨対象である光ファイバコネクタの数は膨大であり、各光ファイバコネクタについて複数の研磨工程毎に異なる研磨フィルムを用いて研磨を行うことは作業時間を要し煩雑であった。粗研磨、中研磨、及び仕上げ研磨等の研磨工程毎に異なる研磨フィルムを研磨装置に装着、脱着させるためにミスが起こりやすかった。また、多数の光ファイバコネクタを研磨するために多数の研磨装置や洗浄装置を要し、コストが掛かり、設置のためのスペースが増大するという問題があった。
【0005】
従来、光ファイバコネクタの端面を、各研磨装置で粗研磨から中研磨及び鏡面の仕上げ研磨を各洗浄装置で洗浄しながら連続的に研磨して他の研磨剤と混じることなく、高精度に研磨するようにした光ファイバコネクタの自動研磨機が提案された(特開平5−157940号公報:特許文献1)。
【0006】
光ファイバコネクタの研磨の各工程において研磨材を交換する時間等を省くために、粒度の異なる複数の研磨剤を予め定めた部分に付着させた研磨面を有する研磨板と、光ファイバコネクタと研磨盤とを相対移動させることが提案された(実開昭57−065312号公報:特許文献2)。
【0007】
基材フィルム上に砥粒の砥粒径が互いに異なる複数の研磨面が備えられてなる光コネクタフェルール用研磨フィルムであって、複数の研磨面間に間隔がないか、又は複数の研磨面間に研磨面上の廃棄物を排出する溝を形成した研磨フィルムが提案された(特開2007−75975公報:特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−157940号公報
【特許文献2】実開昭57−065312号公報
【特許文献3】特開2007−75975公報
【特許文献4】特許第3773851号
【特許文献5】特許第5714932号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
粗研磨から中研磨及び鏡面の仕上げ研磨を自動化するための従来の研磨機は、研磨装置や洗浄装置の数を削減するものではなく省スペースの効果を奏しなかった。また、従来提案された複数の研磨面を備えた研磨フィルムを使用して光ファイバコネクタ端面の研磨を行う方法は、コネクタ端面が洗浄されないために十分な研磨精度を得られないという問題があった。
【0010】
上記課題に鑑みて本発明は、光ファイバコネクタ端面の多段階の研磨において、研磨工程毎の研磨装置を要さず、また、研磨工程毎の研磨フィルム要さずに複数の研磨工程を一括して自動的に行うことができる研磨方法を提供することを目的とする。光ファイバコネクタ端面の複数段階の研磨工程を、研磨フィルムを交換することなく、研磨装置の連続した動作により容易に且つ高精度に行うことができる研磨方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに本発明は、複数段階の研磨を一括して行う研磨方法に適した研磨フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一つの実施形態は、ワークの端面を研磨盤に配置された研磨フィルムに当接させながら、基準面に平行な面内でワークの端面と研磨盤とを相対的に移動させてワークの複数段階の研磨を一括して行う研磨方法であって、ワークの端面が、研磨フィルムに対して直径2Rで円運動し、且つ円運動の中心が、研磨フィルム上で所定距離Sだけ一方向へ直線移動し、研磨フィルムが、直線移動の方向に沿って、第1、第2、及び第3の研磨面を備え、各研磨面の直線移動方向の長さが円運動の直径2R以上であり、研磨フィルムがさらに、円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐ所定距離S上の範囲を低減させるように、または円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐことがないように、第1及び第2の研磨面の間に第1のクリーニング面と、第2及び第3の研磨面の間に第2のクリーニング面とを備えることを特徴とする。
【0013】
上記のようにすることで、研磨フィルムとワーク端面との一連の相対移動によって、各研磨面で実質的な研磨を行うことができ、また、ワークの端面が一つの研磨面から他の研磨面へ移動する前にクリーニング面を通過するので、異物等が研磨面間を移動することがなく、高い精度で複数段階の研磨を行うことができる。
【0014】
第1及び第2のクリーニング面はそれぞれ直線移動方向の長さLc、Lcを有し、Lc、Lcがそれぞれ円運動の半径R以上であることが好ましい。
【0015】
このようにすることで、ワークが相対的に直線移動する所定距離が比較的短い場合でも、各研磨面での所望の研磨量を低減することなく、且つ研磨精度を低下させることなく、複数段階の研磨を行うことができる。
【0016】
または、第1及び第2のクリーニング面の前記直線移動方向の長さLc、Lcがそれぞれ円運動の直径2R以上であることを特徴とする。このようにすることで、ワークの端面を第1の研磨面に当接させて研磨を行った後、クリーニング面へ当接させてクリーニングを行い、クリーニングが完了した後に第2の研磨面に当接させて研磨を行うことができ、より確実に段階的な研磨を行うことができる。
【0017】
研磨フィルムはさらに、第1及び第2のクリーニング面を挟む溝部を有する。このようにすることで、微小な研磨くず等の異物をクリーニング面だけでなく溝部で保持及び又は排出することができ、クリーニング効果を増大し得る。
【0018】
第1、第2、及び第3の研磨面の直線移動方向の長さはそれぞれ、直径2Rよりl1、l2、及びl3だけ大きく、l1、l2、及びl3の値が、第1、第2、及び第3の研磨面における所望の研磨時間に基づいて決定されることが好ましい。このようにすることで、実質的に各研磨面に当接する時間や研磨量を制御して、各段階の研磨を行うことができる。
【0019】
ワークの端面と研磨盤との相対移動は、ワークが固定され、研磨盤が円運動及び直線移動するものであってよい。
【0020】
研磨フィルムは研磨盤の配置面上に配置され、該配置面と研磨フィルムの形状、寸法が等しいことが好ましい。このようにすることで、研磨フィルムを直線移動方向に従って配置面に置くだけで、各研磨面及びクリーニング面を、研磨軌跡に対して容易に位置合わせすることができる。
【0021】
本発明の研磨方法における研磨軌跡に対応するように、配置面及び前記研磨フィルムは矩形であることが好ましい。配置面及び前記研磨フィルムは、一辺が140〜150mmの正方形状であってよい。このように本発明では、コンパクトな装置構成に対応した研磨フィルムにより複数段階の研磨を行うことができる。
【0022】
第1、第2、及び第3の研磨面は互いに異なる粒子を含んで成り、第1及び第2のクリーニング面がそれぞれ基材に植毛された多数の繊維を含んで成り、ワークの端面が第1、第2、及び第3の研磨面及び第1及び第2のクリーニング面に所定の押圧力で当接されるときに、各研磨面及び各クリーニング面の高さが実質的に等しいことが好ましい。このようにすることで、ワーク端面が研磨フィルム上をスムースに移動して、研磨及びクリーニングを行うことができる。
【0023】
研磨フィルムはさらに、一つ以上の追加の研磨面を含み、該一つ以上の研磨面が、一つ以上の追加のクリーニング面を介して他の研磨面と隣り合ってよい。このようにすることで、多芯光ファイバフェルール等のより多い研磨工程を要するワークの研磨を一括して行うことができる。
【0024】
研磨中、研磨装置の基準面が水平に対して所定角度だけ傾けられ、研磨フィルムに水が供給されてよい。このようにすることで、研磨開始以降に生じた研磨くず等が後続の研磨に影響することをより確実に防止することができる。
【0025】
本発明の他の態様は、ワークの端面を研磨盤に配置された研磨フィルムに当接させながら、基準面に平行な面内でワークの端面と研磨盤とを相対的に半径Rで円運動させ、且つ円運動の中心を所定距離Sだけ直線移動させてワークの複数段階の研磨を一括して行う研磨方法に使用される研磨フィルムであって、第1、第2、及び第3の研磨面を含み、各研磨面の直線移動方向の長さが円運動の直径2R以上であり、さらに、円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐ所定距離S上の範囲を低減させるように、または円運動の一回転が異なる研磨面をまたぐことがないように、第1及び第2の研磨面の間に第1のクリーニング面と、第2及び第3の研磨面の間に第2のクリーニング面とを含むことを特徴とする。
【0026】
第2の研磨面が、平均粒径1μmのダイヤモンド粒子を備えた研磨フィルムから成ることが好ましい。このようにすることで、後続の仕上げ研磨のために必要な表面性状をワーク端面に形成することができ、最低限の研磨面の数で粗研磨から仕上げ研磨まで一括して実施可能な研磨フィルムとすることができる。
【0027】
第1の研磨面の直線移動方向の長さが15〜35mmの範囲にあり、第2の研磨面が20〜40mmの範囲にあり、第3の研磨面が50〜80mmの範囲にあり、クリーニング面の直線移動方向の長さがそれぞれ5mm〜20mmの範囲にあることが好ましい。適切に寸法決めされた研磨フィルムにより、粗研磨、中研磨、仕上げ研磨の複数段階の研磨を一括して行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の研磨方法、研磨フィルムにより、単芯光ファイバコネクタ等のワークの端面を高精度に研磨するための複数段階の研磨工程をクリーニング工程とともに一括して容易に行うことができる。研磨フィルムの交換の煩雑さを解消し、研磨工程を大幅に効率化できる。
【0029】
また、本発明の研磨方法、研磨フィルムによれば、複数段階の研磨のために複数の研磨装置や洗浄装置を備える必要がなく、装置を設置するスペースを省き、コストを抑えることができる。研磨軌跡及び研磨工程に応じて寸法決めされた研磨面とクリーニング面を備えた研磨フィルムを使用して所定の研磨装置で研磨を行うことにより、低減された研磨工程で所望の研磨を達成し、ワーク端面の高精度な仕上がり面を得ることができる。
【0030】
研磨装置の一連の動作で研磨を行うことができるので、研磨開始から終了にかけて容易に均一な研磨を行うことができ、各ワーク間にばらつきのない仕上がり面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は本発明の研磨方法に使用するための研磨装置を示す。
図2図2は本発明の研磨方法に使用するための研磨装置のワークユニットを除いた状態を示す。
図3図3は研磨盤(配置面)の移動のための駆動機構を模式的に示す。
図4図4は研磨中のワーク端面の相対的な移動(研磨)軌跡を示す。
図5A図5Aは本発明に係る一つの実施形態の研磨フィルムを示す。
図5B図5Bは本発明に係る一つの実施形態の研磨フィルムを使用した研磨の状態と相対的な直線移動との関係を模式的に示す。
図6A図6Aは本発明に係る他の実施形態の研磨フィルムを示す。
図6B図6Bは本発明に係る他の実施形態の研磨フィルムを使用した研磨の状態と相対的な直線移動との関係を模式的に示す。
図7A図7Aは本発明に係るもう一つの実施形態の研磨フィルムを示す。
図7B図7Bは本発明に係るもう一つの実施形態の研磨フィルムを使用した研磨の状態と相対的な直線移動との関係を模式的に示す。
図8A図8Aは比較例の研磨フィルムを示す。
図8B図8Bは比較例の研磨フィルムを使用した研磨の状態と相対的な直線移動との関係を模式的に示す。
図9図9(a)は研磨フィルムの模式的な断面図であり、図9(b)は図9(a)の一部拡大図である。
図10図10は本発明に係る研磨方法における研磨装置の一つの使用態様を模式的に示す。
図11図11は本発明に係る研磨方法の研磨対象の実施例の単芯光ファイバコネクタを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照し、本発明の好適な実施形態が説明される。図面は説明のためのものであり、厚さ等の寸法は誇張され、尺度も必ずしも一致しない。同様の又は対応する構成要件に、同じ符号が使用されることがある。図面に記載された構成は、例として示されるものであり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0033】
図11に本発明に係る研磨方法の研磨対象物であるワーク500が図示される。ワークは例示的に光ファイバフェルール501とプラグハウジング502から構成される光ファイバコネクタである。該光ファイバコネクタの端面501aが研磨される。
【0034】
光ファイバコネクタ端面501aを研磨する研磨装置として、光ファイバコネクタ端面を研磨盤に配置された研磨フィルムを当接させ相対移動させることにより研磨を行う公知の研磨装置を使用することができる。そのような研磨装置が、特許第3773851号(特許文献5)、特許第5714932号(特許文献6)に開示される。
【0035】
実施例の研磨装置100として、特許文献6に係る研磨装置が図1に示される。研磨装置100は、防振ゴムなどを組み込んだペデスタル2を介して作業床面1上に載置されるベース3を含む。ベース3は平坦な取り付け面(基準面)3aを有する板状部材であり、好適に石定盤から成る。研磨装置100はさらに、ベース3上に、基準面3aに対して平行移動可能に支持された研磨盤11を含む研磨ユニット10と、該研磨盤11に光コネクタ端面を対向配置して保持する、研磨ユニット10に対して着脱可能なワークユニット20とを備える。
【0036】
ワークユニット20は、横一列に設けられた複数のワーク装着孔22、22、・・・を有する板状部材21と、複数のワーク装着孔にそれぞれ対応する複数の押さえ部材23、23、・・・を含む。複数のワーク装着孔に複数の光ファイバコネクタを装着し、装着されたそれぞれの光ファイバコネクタの端面が対応する押さえ部材23によりそれぞれ所定の押圧力で研磨盤上の研磨面等に押圧される。
【0037】
図2にワークユニット20を取り外した状態の研磨装置100が図示される。研磨ユニット10は、研磨面を備えた研磨フィルムを、ゴム板等弾性シートを介して貼着するための配置面11aを含む研磨盤11と、該研磨盤11をベース3の基準面3aに平行な面内で円運動させ、及び前後方向(矢印方向)へ直線移動させるためのモータ等を含む公知の駆動機構(図示せず)を備える。配置面11aは、所定の縦幅(H)及び横幅(H’)の矩形を呈する。
【0038】
図3を参照して、研磨盤11は、スライダ12上に、該スライダ12に回転自在に支持された2つの回転部材13、13’の2つの偏心ピン14、14’を介して支持される。偏心ピン14(14’)は、回転部材13(13’)の基準面3aに垂直な回転軸A(A’)から所定距離Rだけ偏心している。回転駆動機構により回転部材13(13’)が回転軸A(A’)の周りに回転することで、研磨盤上の全ての点が基準面3aに垂直な回転軸A(A’)の周りに半径Rの円運動を行う。さらにスライダ12は、直線移動駆動機構により、所定の直線移動距離Sで直線移動を行う。
【0039】
図4に、研磨装置100に配置された複数(図示の例では11)のワークの研磨軌跡が模式的に示される。このような研磨軌跡により、矩形の研磨フィルムを有効に使用して、高精度な研磨を行い得る。図示のように、例えば、研磨盤11(配置面11a)が円運動しながら後ろから前へ直線移動するとき、各ワークは研磨盤に対して円運動しながら前から後ろへ直線移動する。研磨盤11の直線移動方向は前から後ろ方向であってよく、左右方向等であってもよい。
【0040】
ワークWの研磨軌跡におけるパターン(円又は円弧)の形状やパターンの数等は、駆動機構の設定により決定される研磨盤11の直線移動速度V(mm/分)と、回転部材13(図3)の回転速度V(rpm)とによって決定され得る。例えば、直線移動速度Vが速く回転速度Vが遅いほど、研磨軌跡のパターンはばねを伸ばしたような「の」の字状になり、パターンの数は少なくなる。直線移動速度Vが遅く回転速度Vが速いほど、研磨軌跡のパターンは研磨盤11の円運動に係る半径Rの円に近付き、パターンの数が多くなる。
【0041】
直線移動距離Sが長いほど研磨軌跡が増大し、研磨量が増大し得る。しかしながら、直線距離Sが長過ぎると、研磨装置100が占めるスペースが増大するため好ましくない。直線距離Sが短すぎると十分な研磨量が得られない恐れがあり好ましくない。このため所定距離Sは、研磨盤11の直線移動速度V及び回転速度Vの設定範囲で所望な研磨量が得られる必要な長さであることが好ましい。
【0042】
本発明においては、研磨盤11は研磨工程中、一方向へ所定距離のみ直線移動する。このため、所望の研磨量を得るように、直線移動速度Vが遅く回転速度Vが速いことが好ましい。直線移動速度Vに対して回転速度Vが十分に速いため、ワークWの研磨軌跡は概して、半径Rの円が隙間なく直線状に連なったものとなる。
【0043】
図5Aに、配置面11aに配置された本発明の一つの実施形態の研磨フィルム200が示される。研磨フィルム200は、配置面11aと同一寸法、同一形状であり、配置面11aと同様に所定の縦幅(H)及び横幅(H’)の矩形を呈する。研磨フィルム200は、粗研磨(慣らし研磨及び/又は接着剤除去のための研磨)を行うための研磨面P1、中研磨を行うための研磨面P2、仕上げ研磨を行うための研磨面P3を備える。さらに、各研磨面の間に、ワークWの端面が各研磨面を通過する際に生じた研磨屑や脱粒した研磨粒子等の異物がコネクタ端面に残存しないようクリーニングするためのクリーニング面C1、C2を備える。各研磨面は、各研磨工程に適した研磨粒子を備えた異なる研磨フィルム等から構成され、クリーニング面C1、C2は植毛フィルム、織布、不織布、及び/又は発泡ポリウレタン等から構成され得る。
【0044】
研磨フィルム200において、各研磨面及びクリーニング面は、研磨盤11(配置面11a)の直線移動方向に関して配置される。すなわち、研磨盤11が後ろから前方向(白抜きの矢印で表される)へ直線移動する場合、それに対して逆方向、すなわち、前から後ろ方向へ研磨面P1、クリーニング面C1、研磨面P2、クリーニング面C2、研磨面P3が順に並ぶように配置される。
【0045】
各研磨面P1、P2、及びP3は、それぞれ所定の縦幅(直線移動方向の長さ)L1、L2、L3を有し、各クリーニング面は所定の縦幅(直線移動方向の長さ)Lcを有する。各クリーニング面C1、C2の縦幅は等しくてよい。各クリーニング面C1、C2の縦幅は互いに異なってもよい。
【0046】
図5Bを参照して、ワークユニットに装着された各ワークW(例示的に12のワーク端面がそれぞれ白抜きの丸で示される)が配置面11a上の研磨フィルム200に当接して固定配置される。複数のワークWは、直線移動方向に直交する方向(左右方向)に所定の間隔pをあけて配置される。
【0047】
半径Rの値と、各ワークが左右方向に配置されるピッチPの値は互いの倍数とならないことが望ましい。そのようにすることで、複数のワークの研磨軌跡が重なる部分をなくす、ないしは少なくして研磨面を有効に活用することができ、研磨面にもし異物等が存在しても影響の及ぶワークを最小限にすることができる。
【0048】
研磨盤11を半径Rで円運動させると、研磨フィルム200も円運動を行う。研磨フィルム200の例示的な前後左右の位置がそれぞれ、200a、200b、200c、200dで示される。研磨フィルム200の各研磨面、クリーニング面の前後方向の位置は、最大で円運動の直径D(2R)だけ変化する。また、配置面11aが研磨装置100の前方へ所定距離S(≦H−D)だけ直線移動するとき、ワークWの位置は、薄いグレーの丸でそれぞれ示される例示的な位置へ、研磨フィルム200に対して後方へ移動する。
【0049】
単芯フェルール等ワークWの端面の複数段階の研磨は、各段階において端面に所定の表面性状を形成し、最終的に鏡面に形成するように行われる。例えば、単芯フェルールの粗研磨は、端面の接着剤を除去し、端面を後続の研磨に適した状態にするために行われる。中研磨は、ナノレベルの微細な砥粒を使用する仕上げ研磨では研磨量が限られるため、端面を鏡面に仕上げるための前工程として、微細なキズを除去するため等に行われる。中研磨は、タクトタイム短縮のために特に重要である。
【0050】
また、各研磨工程間のクリーニング工程は、前工程で生じた研磨くず等の異物がワークの端面に付着したままにしないように行われる。異物がワークの端面に付着したままであると、後工程の研磨面に異物が移動するなどして所望の研磨が行われない恐れがあり、好ましくない。
【0051】
本発明によれば、研磨盤とワーク端面の一連の相対的な直線移動及び円運動により、各研磨面においてワーク端面に必要な表面性状を形成しながら、最終的に高精度な仕上がり面を形成するように、複数段階の研磨を一括して行うことができる。
【0052】
研磨盤の移動によりワークWが研磨フィルム200に対して相対的に前から後ろへ距離Sだけ直線移動するとき、薄いグレーの丸で示される例示的な位置によって、研磨(及びクリーニング)の内容が変化する。図示のように、直線移動開始から距離S1の範囲は、研磨フィルム200の半径Rの円運動に関わらず、常にワークWの端面は研磨面P1上に位置する(粗研磨)。従って、P1’が実質的な粗研磨に対応し得る。S2の範囲では、P1上又はクリーニング面C1上に位置する(粗研磨及びクリーニング)。S3の範囲では、P1上又はC1上又は研磨面P2上に位置する(混合研磨:X1)。S4の範囲では、C1上又はP2上に位置する(クリーニング及び中研磨)。S5の範囲では、常にP2上に位置する(中研磨)。従って、P2’が実質的な中研磨に対応し得る。S6の範囲では、P2上又はクリーニング面C2上に位置する(中研磨及びクリーニング)。S7の範囲では、P2上又はC2上又は研磨面P3上に位置する(混合研磨:X2)。S8の範囲では、C2上又はP3上に位置する(クリーニング及び仕上げ研磨)。S9の範囲にある位置では常にP3上に位置する(仕上げ研磨)。従って、P3’が実質的な仕上げ研磨に対応し得る。すなわち、ワークWの端面は、順次、粗研磨、粗研磨とクリーニング、粗研磨と中研磨の混合研磨及びクリーニング、中研磨とクリーニング、中研磨、中研磨とクリーニング、中研磨と仕上げ研磨の混合研磨及びクリーニング、仕上げ研磨とクリーニング、及び仕上げ研磨が施されることになる。
【0053】
上記の直線移動距離Sは、図4の研磨軌跡において、各ワークの移動軌跡の円運動の中心が移動する距離に対応する。
【0054】
上記のように、配置面11a(研磨フィルム200)とワークの相対移動に伴って、初めはP1だけに当接していたワークWの端面が、P1だけでなくクリーニング面C1に当接するようになり、その後、C1の縦幅によっては、C1を介してP1及びP2に繰り返し交互に当接する(混合研磨X1)。
【0055】
ワークWが、交互に研磨面P1(P2)及び研磨面P2(P3)へ当接する(混合研磨X1、X2)場合、一方の研磨面で生じた研磨くずが他方の研磨面に移動し、また、異なる研磨面で交互に研磨が行われるため、必ずしも所望の表面性状が形成されない恐れがある。クリーニング面C1(C2)は、このような混合研磨部分を生じさせないために配置され得る。またはクリーニング面C1(C2)は、混合研磨部分を低減し、前の研磨面で生じた研磨くず等を十分にワーク端面から取り除き、後続の研磨面で高精度な研磨を行うために配置され得る。
【0056】
図示のように、研磨面のいずれかのみ(P1’、P2’、P3’の範囲)に当接する範囲以外の、クリーニング面C1(C2)に当接する直線移動距離S上の範囲は、円運動の直径DにC1(C2)の縦幅(Lc)を加えた長さとなる。この長さが長過ぎると、直線移動距離S上で占める割合が多くなり過ぎ、各研磨面に実質的に対応した範囲(P1’、P2’、P3’)の割合が少なくなり好ましくない場合がある。また、クリーニング面に当接する範囲が短すぎると、ワークW端面が十分にクリーニングされず、各研磨面での研磨精度が低下して好ましくない場合がある。
【0057】
ここで、混合研磨X1(X2)の直線移動距離S上の範囲(S3、S7)は、円運動の直径Dからクリーニング面の縦幅Lcを差し引いた長さ(D−Lc)となる。クリーニング面の縦幅LcがDを下回る分が、混合研磨が行われる直線移動距離S上の範囲となる。言い換えると、混合研磨が行われる直線距離S上の範囲は、クリーニングの縦幅Lc分だけ、円運動の直径Dから低減される。
【0058】
本発明の一つの実施形態では、クリーニング面C1又はC2の縦幅Lcは、円運動の半径R以上である。このようにすることで混合研磨の範囲がR以下の長さに低減され、配置面11aの直線移動距離が比較的短い場合でも、各研磨面P1、P2、P3に対応した高精度な研磨を行うことができる。
【0059】
比較のため、図8Aに、異なる研磨面を単に並べて配置した研磨フィルム600が示される。図8Bに研磨フィルム600を使用して、ワークを相対的に円運動させながら直線移動させたときの研磨の状態が模式的に図示される。図8Bに示されるように、研磨フィルム600はクリーニング面を有しないため、異なる研磨面に交互に当接する範囲X1’、X2’(S3’、S7’)が円運動の直径Dの長さと等しい。X1’、X2’では、異なる研磨面に当接する際にクリーニング面を介することもないため、各研磨面で生じた異物が他の研磨面を汚染しやすい。このように、クリーニング面が存在しないか、クリーニング面の縦幅が短すぎると(例えば、Lc<R)、最終的に形成される単芯フェルール等ワークの端面が加工仕様を満たさず、歩留まりが低下する恐れがある。
【0060】
再び図5Bを参照して、各研磨面P1、P2、P3に対応した研磨は、実質的に、P1’、P2’、P3’の範囲で行われる。各研磨面での所望の研磨量を達成するために、P1’、P2’、P3’の範囲(L1’、L2’、L3’)を制御するように、P1、P2、P3の寸法(L1、L2、L3)を決定することが有効であり得る。
【0061】
例えば、仮に、P1の長さL1が円運動の直径Dに等しいと、実質的にP1上で研磨が行われる直線移動距離上の位置が一点となり、所望の研磨が達成されない恐れがある。
【0062】
各研磨面P1、P2、P3のそれぞれの縦幅L1、L2、L3はそれぞれ直径Dを上回ることが好ましい。直径Dを上回る長さL1’、L2’、L3’はそれぞれ、各研磨面P1、P2、P3における所望の加工時間比a:b:cに基づいて決定され得る。所望の加工時間比は、従来の粗研磨、中研磨、仕上げ研磨の加工時間に基づいて、粗研磨:中研磨:仕上げ研磨=1:1〜4:1〜3等に決定することができる。例えば、従来の粗研磨の加工時間が40秒、中研磨が120秒、仕上げ研磨が60秒であるとき、粗研磨:中研磨:仕上げ研磨=1:3:1.5とすることができる。加工時間比は、各研磨面を構成する研磨フィルムの種別や研磨対象物である単芯フェルールの材質、種類等によって任意に決定され得る。
【0063】
加工時間比a:b:cに基づいて、L1’:L2’:L3’=al:bl:cl(lは任意の正の値)とすることができる。図5Bに示されるように、(a+b+c)l+2Lc+2D=S、L1=L1’+D、L2=L2’+D、L3=H−(L1+L2+2Lc)であり、所与のa、b、c、Lc、D、S、及びHから、研磨装置100において複数段階の研磨を一括して行うように寸法合わせ及び位置合わせされた研磨フィルム200が得られる。
【0064】
図6Aに、本発明の他の実施形態の研磨フィルム300が示される。研磨フィルム300は、研磨フィルム200と同様に複数の研磨面P4、P5、P6、及びクリーニング面C3、C4を備える。さらに、各研磨面と各クリーニング面の間に微小な隙間(溝)G1、G2、G3、及びG4を備える。このような隙間(溝)があることで、研磨くず等の異物をより確実に保持し得る。G1、G2、G3、及びG4をクリーニング面を挟むように配置することで、クリーニング面の縦幅を広げるのと同様のクリーニング効果及び後続の研磨工程の精度向上が期待される。
【0065】
溝の縦幅(直線移動方向の長さ:Lg)は、ワークWの端面のスムースな移動を妨げないように決定されることが好ましい。例えば、ワークWの端面径に対して十分に小さいことは好ましい。単芯フェルールが2mmの端面径を有する場合、各溝の縦幅Lgは、1.5mm以下、1mm以下、0.5mm以下、0.1mm以下等である。各溝の縦幅Lgは等しくてよい。各縦幅は互いに異なっていてもよい。
【0066】
図6Bを参照して、上記と同様に、各研磨面P4、P5、P6における所望の加工時間比d:e:fからL4’:L5’:L6’=dl:el:fl(lは任意の正の値)として、(d+e+f)l+2Lc+2D+4Lg=S、L4=L4’+D、L5=L5’+D、L6=H−(L4+L5+2Lc+4Lg)により、所与のd、e、f、Lc、D、Lg、S、及びHから、配置面の円運動及び直線移動に適合して複数段階の研磨を一括して行うように寸法合わせ及び位置合わせされた研磨フィルム300が得られる。
【0067】
図7Aに本発明のさらに他の実施形態が示される。研磨フィルム400は、配置面11aと同一寸法、同一形状であり、配置面11aと同様に所定の縦幅(H)及び横幅(H’)の矩形を呈する。研磨フィルム400は、研磨フィルム200と同様に、粗研磨を行うための研磨面P7、中研磨を行うための研磨面P8、仕上げ研磨を行うための研磨面P9を備える。さらに、各研磨面の間に、クリーニング面C5、C6を備える。クリーニング面C5、C6は、混合研磨が生じないように、配置面11aの円運動の直径D(2R)以上の直線移動方向の長さを有する。
【0068】
図7Bを参照して、配置面11aが研磨装置100の前方(白抜き矢印の方向)へ所定距離S(≦H−D)だけ直線移動するとき、ワークWの位置は、薄いグレーの丸で示される例示的な位置へ、研磨フィルム400上を相対的に徐々に後方へ移動する。直線移動開始から距離S1の移動の間は、常にワークWの端面は研磨面P7上に位置する(粗研磨:P7’)。S2の範囲では、P7上又はC5上に位置する。混合研磨の範囲(S3)は存在せず、S4の範囲では、C5上又は研磨面P8上に位置する。S5の範囲では、常にP8上に位置する(中研磨:P8’)。S6の範囲では、P8上又はクリーニング面C6上に位置する。混合研磨の範囲(S7)は存在せず、S8の範囲では、C6上又はP9上に位置する。S9の範囲では常にP9上に位置する(仕上げ研磨:P9’)。
【0069】
このように、クリーニング面の縦幅を研磨盤11の円運動の直径と等しくする、または直径より大きくすることにより、ワークWの端面が、研磨盤の一回転の円運動の間に、交互に異なる研磨面に当接すること(混合研磨)がない。言い換えると、研磨軌跡の一つの円が異なる研磨面をまたぐことがない。このようにすることで、より確実なクリーニングを行うことができ、後続の研磨工程の精度の向上に寄与し得る。
【0070】
各研磨面P7、P8、P9における所望の加工時間比g:h:iにより、L7’:L8’:L9’=gl:hl:il(lは任意の正の値)として、(g+h+i)l+4D=S、L7=L7’+D、L8=L8’+D、L9=H−(L7+L8+2D)により、所与のg、h、i、D、S、及びHから、配置面の円運動及び直線移動に適合して複数段階の研磨を一括して行うように寸法合わせ及び位置合わせされた研磨フィルム400が得られる。
【0071】
なお、研磨対象物や所望の研磨精度によっては、クリーニング面の縦幅Lcは半径Rを下回ってもよい。そのようにすることで、それほど高い研磨精度が必要でない研磨対象物を一括研磨するために、直線移動距離をより短くすることができ、研磨装置をよりコンパクトに構成し得る。また、クリーニング面の縦幅Lcが円運動の直径Dを上回る場合、上回る分の長さは、直線移動距離上でクリーニングのみが行われる範囲に対応する。研磨においてより高精度なクリーニングが必要であり、また、研磨装置において直線移動距離を十分に長くすることができる場合等に有効である。
【0072】
各研磨面の縦幅の寸法は、上記の方法に限定されず、任意の計算方法で計算され有る。ワーク端面の研磨開始時の固定位置は上記の例に限定されず、配置面11a上のより後方の位置であってよく、この場合、粗研磨に対応した研磨面の縦幅はより長くてよい。各研磨面の縦幅の寸法は、ワーク端面の一連の研磨軌跡に応じて、各研磨面で所望の表面性状が達成され、及び/又は最終的に加工仕様を満たす端面を形成し得る限り、任意の計算方法により、または、任意の経験的手法により決定されてもよい。
【0073】
上記においては研磨装置においてワークが固定され、研磨盤11が円運動及び直線移動することが説明されたが、ワークユニットが円運動及び直線移動し、研磨盤が固定されてもよい。又は、ワークユニットが直線移動又は円運動を行い、研磨盤が円運動又は直線移動を行うようにしてもよい。
【0074】
さらに、上記において、3の研磨面を備えた研磨フィルムが説明されたが、研磨面の数は上記に限定されない。研磨面の数は、2、4、5、6等、研磨工程数に応じて任意に設定し得る。また、クリーニング面の数も任意に設定し得る。
【0075】
図9(a)に、研磨フィルム300の断面が模式的に示される。研磨フィルム300の各研磨面P4、P5、P6、及びクリーニング面C3、C4は、それぞれ所定寸法にスリットされた既存の研磨フィルム、クリーニングフィルムを、それぞれ基材フィルム201上に積層することにより形成される。研磨面P4、P5、P6は、それぞれ粗研磨、中研磨、仕上げ研磨を行うために異なる研磨粒子を含む研磨フィルムから成る。クリーニング面C3、C4はそれぞれ基材と、該基材から突出する植毛部分とを含む植毛フィルムから成る。クリーニング面C3、C4は同じ植毛フィルム等から構成されてよく、互いに異なる植毛フィルムから構成されてもよい。
【0076】
研磨フィルム300の厚さ(高さ)Tは、異なる研磨面及びクリーニング面間で、概ね均一であることが好ましい。このため、必要に応じて、高さ調整用の基材202、203、204等を介して、各種フィルムが基材シート204上に積層されてよい。
【0077】
研磨フィルム200の作製は、基材フィルム201上に接着剤を塗布し、それぞれ所定寸法にスリットされた研磨フィルム、植毛フィルム、必要に応じて調整用基材フィルムを、位置合わせ用の冶具により位置合わせし、貼着して行われ得る。作製方法はこれに限定されず、任意に選択し得る。
【0078】
図9(b)に、研磨フィルム300の一部拡大断面が模式的に示される。微視的には、各研磨面(P4、P5等)の厚さ(高さ)に対して、クリーニング面(C3等)の基材部分205がやや低い。このようにすることで、ワーク端面が基材部分205に当接することがなく、植毛部分206のみに当接してクリーニングが行われる。植毛部分206は、該部分にワークWの端面が所定の押圧力で当接されて撓むことができ、このとき、前後の研磨面と同一の高さになるように、植毛部分206を構成する繊維の寸法や材質、密度等が調整される。
【0079】
各研磨フィルムに使用される研磨粒子は、例えば、無機粒子として、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、ダイヤモンド(単結晶、多結晶)、窒化硼素(cBN)、炭化珪素(SiC)、酸化セリウム(CeO)等を使用することができ、有機粒子として、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ポリカーボネート樹脂等を使用することができる。
【0080】
各研磨面を構成する研磨フィルムとして、上記のような研磨粒子を基材フィルムの表面にバインダ樹脂により固着させて形成した研磨フィルム使用することができる。研磨粒子はバインダ樹脂から切り刃が高さを揃えて突出されてよく、切り刃がバインダ樹脂に覆われてもよい。各研磨フィルムの表面は平坦であり、算術平均表面粗さ(Ra)は好適に、0.01μm〜3μmの範囲にある。
【0081】
粗研磨のための研磨フィルムは、平均粒径5μm〜20μmのアルミナ粒子を含んでよく、中研磨のための研磨フィルムは、平均粒径0.25μm〜3μmのダイヤモンド粒子を含んでよく、仕上げ研磨のための研磨フィルムは、平均粒径0.01μm〜0.2μmのシリカ粒子を含んでよい。
【0082】
本発明に係る一括研磨は、各段階の研磨を研磨盤の限られた直線移動の範囲で行うために、後続の研磨に適した表面性状を前工程でワークの端面に形成する必要がある。特に、仕上げ研磨の前の中研磨において、所望の表面性状を形成することが重要である。例えば、粗研磨で比較的粒径の大きいアルミナ粒子等で研磨を行い、仕上げ研磨でナノサイズのシリカ粒子で研磨を行う場合、中研磨では、平均粒径約1μmのダイヤモンド粒子を使用することが好ましい。各研磨面を適切に構成することで、研磨面の数を最小限にして、比較的短い直線移動距離で粗研磨から仕上げ研磨を一括して行うことができる。研磨装置構成をコンパクトにすることができ、研磨工程を短縮し得る。
【0083】
研磨粒子を固定するためのバインダ樹脂としては、特に制限するものではなく、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、可視光線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂やこれらの混合物が使用される。
【0084】
バインダ樹脂が紫外線硬化型樹脂であるときは、光開始剤、増感剤含む、エポキシ系、ポリエステル系、ウレタン系、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、若しくはシリコンアクリレート又はこれらの混合物が好適である。
【0085】
基材フィルム201、調整用基材フィルム202、203、204、各研磨フィルムの基材として、研磨中に作用する機械的な力による破断や製造中の熱による変形などに対する耐性(高強度、耐熱性)を有し、さらに柔軟性を有する必要性から合成樹脂からなるプラスチック基材を使用することができる。
【0086】
プラスチック基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリビニルアルコール又はメタアクリルアルコールを主成分とするアクリル樹脂、ポリカーボネート等からなるフィルムが使用できる。厚さは、特に限定されないが、5μm以上、500μm以下の範囲、特に、10μm以上、200μm以下の範囲にあることが望ましい。
【0087】
クリーニング面のための植毛フィルムとしては、可撓性のある基材フィルム上にナイロン等の繊維から成る植毛を、高さを揃えて植毛したものを使用することができる。可撓性の基材フィルムには、織物又はプラスチックフィルムシートが使用できるが、プラスチックフィルムシートを使用することがより望ましい。プラスチックフィルムシートには、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド)ポリイミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリエチレン、又はポリエーテルスルホンフィルムシートが使用される。
【0088】
植毛は、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ビニロン又はレーヨンから成る繊維、又はガラス繊維、炭素繊維又は金属繊維であり、植毛の太さは0.1〜10dの範囲にあり、その長さは0.1〜1.0mmの範囲にあり、その密度は20〜100g/mの範囲にあることが望ましい。植毛には0.01〜2μmの粒子を固着させてもよい。
【0089】
図10を参照して、本発明に係る研磨方法において、研磨中の洗浄効果を高め研磨精度をより向上させるために、研磨装置100の基準面3a(配置面11a)は、水平より角度θだけ傾けられ、研磨中、ノズル4から蒸留水等の研磨水が滴下され得る。角度θは約5〜10度の範囲にあることが好ましい。このようにすることで、研磨盤の前側よりも後ろ側の方が高くなり、研磨水がクリーニング面や溝部で保持されない研磨くず等を前側へ流すことができるので、後続の研磨工程で所望の研磨精度をさらに得やすくなる。
【0090】
本発明に係る実施例の研磨フィルム200〜400と、比較例の研磨フィルム600とを使用して、単芯フェルール(図11)の端面の研磨試験が行われた。
【0091】
実施例1
(1)研磨装置の条件
研磨盤の配置面のサイズ(H×H’) 145mm×145mm
研磨盤の円運動の直径(D) 15mm
研磨盤の直線移動距離(S) 86mm
研磨盤の直線移動速度(V) 86mm/5分
研磨盤の回転速度(V) 270rpm
研磨水 蒸留水
(2)研磨フィルムの条件
粗研磨用研磨面 平均粒径9μmの酸化アルミニウム砥粒を含む研磨フィルム
中研磨用研磨面 平均粒径1μmのダイヤモンド砥粒を含む研磨フィルム
仕上研磨用研磨面 平均粒径20〜30nmのシリカ粒子を含む研磨フィルム
クリーニング面 長さ0.4mmのナイロン繊維(1デニール)をPETフィルムに植毛した植毛フィルム
クリーニング面の縦幅(Lc>R) 9mm
溝の幅(Lg) 約0mm
設定加工時間比 粗研磨:中研磨:仕上げ研磨=1:1.5:1.3
(3)決定された研磨フィルムの寸法
L1’=10(mm)、L2’=15mm、L3’=13mm
L1=25mm、L2=30(mm)、L3=72mm
【0092】
実施例2
(1)研磨装置の条件
実施例1に同じ
(2)研磨フィルムの条件
研磨面、クリーニング面の構成は実施例1に同じ
クリーニング面の縦幅(Lc≧R) 各9mm
溝の幅(Lg) 各0.5mm
設定加工時間比 粗研磨:中研磨:仕上げ研磨=1:1.5:1.1
(3)決定された研磨フィルムの寸法
L4’=10(mm)、L5’=15mm、L3’=11mm
L4=25mm、L5=30(mm)、L6=70mm
【0093】
実施例3
(1)研磨装置の条件:
研磨盤の直線移動距離(S) 96mm
他は実施例1に同じ
(2)研磨フィルムの条件
研磨面、クリーニング面の構成は実施例1に同じ
クリーニング面の縦幅(Lc=D) 15mm
溝の幅(Lg) 約0mm
設定加工時間比 粗研磨:中研磨:仕上げ研磨=1:1.5:1.1
(3)決定された研磨フィルムの寸法
L7’=10(mm)、L8’=15mm、L9’=11mm
L7=25mm、L8=30(mm)、L9=60mm
【0094】
比較例
(1)研磨装置の条件
実施例1に同じ
(2)研磨フィルムの条件
研磨面、クリーニング面の構成は実施例1に同じ
クリーニング面 なし
溝の幅(Lg) 約0mm
設定加工時間比 粗研磨:中研磨:仕上げ研磨=1:1.25:1.25
(3)研磨フィルムの寸法:
L11’=16(mm)、L22’=20mm、L33’=20mm
L11=31mm、L22=35(mm)、L33=79mm
【0095】
実施例1〜3及び比較例の研磨フィルム及び研磨装置100を使用して、単芯フェルール端面の研磨試験が行われ、仕上がり面が観察された。試験の結果、実施例1〜3の研磨フィルムでは、単芯フェルールの端面が鏡面に仕上げられ、加工仕様を十分に満たすものであった。比較例の研磨フィルムでは、フェルール端面に微細なキズが観察された。
【0096】
本発明において、研磨フィルムは、1セットの一括研磨(粗研磨、中研磨及び仕上げ研磨)毎に交換されてよい。そのようにすることで、一括研磨毎にワークの端面を均一な鏡面に仕上げることができる。本発明の研磨方法及び研磨フィルムによれば、粗研磨、中研磨、仕上げ研磨毎の研磨フィルムの交換やワークを異なる研磨装置へ移動させること、及び/又は別途のクリーニング工程を要さず、コネクタ端面の研磨全体の工数を大幅に低減することができる。
【0097】
本発明は、上記実施形態に限定されるものでなく、この発明の要旨を変更しない範囲で、用途に応じて種々設計変更すことが可能である。
【符号の説明】
【0098】
100 研磨装置
200 研磨フィルム1
300 研磨フィルム2
400 研磨フィルム3

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11