(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556329
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】化学的に活性化させた摩擦材
(51)【国際特許分類】
F16D 13/62 20060101AFI20190729BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20190729BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D69/02 A
C09K3/14 520C
C09K3/14 520M
F16D69/02 C
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-506883(P2018-506883)
(86)(22)【出願日】2015年8月13日
(65)【公表番号】特表2018-532079(P2018-532079A)
(43)【公表日】2018年11月1日
(86)【国際出願番号】US2015045043
(87)【国際公開番号】WO2017027036
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ラシッド ファラハティ
(72)【発明者】
【氏名】ムラート バカン
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−328043(JP,A)
【文献】
特開2001−32869(JP,A)
【文献】
特開2005−299688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00− 23/14
F16D 49/00− 71/04
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ用またはブレーキ用の摩擦材であって、前記摩擦材は、
第1の方向に向いた第1の表面と、
前記第1の方向とは反対の第2の方向に向いた第2の表面と、
前記第1の表面と前記第2の表面との間に挟まれた本体部と
を含み、前記本体および前記第1の表面および前記第2の表面は、
繊維材と、
充填材と
を含み、前記第1の表面の前記充填材は、Si−OH(シラノール)種およびSi−O−Na+種を含む、摩擦材。
【請求項2】
前記本体の前記充填材は、シラノール種およびSi−O−Na+種を含む、請求項1記載の摩擦材。
【請求項3】
前記第2の表面の前記充填材は、Si−OH(シラノール)種およびSi−O−Na+種を含む、請求項2記載の摩擦材。
【請求項4】
少なくとも13重量%でかつ41重量%以下のシリカを含む、請求項1記載の摩擦材。
【請求項5】
油の流体層
をさらに含む請求項1記載の摩擦材において、前記油は、少なくとも前記第1の表面と接するとともに摩擦調整剤を含み、前記摩擦調整剤は、
複数の極性頭部と、
前記複数の極性頭部における各極性頭部に対する各非極性尾部と
を含む、摩擦材。
【請求項6】
前記複数の極性頭部は、アミン基、アミド基、エステル基およびアルコール基からなる群から選択され、
前記各非極性尾部は、炭素鎖を含む、
請求項5記載の摩擦材。
【請求項7】
前記複数の極性頭部の少なくとも一部は、前記シラノール種または前記Si−O−Na+種に結合している、請求項5記載の摩擦材。
【請求項8】
カバーと、
前記カバーに接続されたインペラと、
前記インペラと流体連通するタービンと、
トランスミッションの入力軸に回転不能に接続されるように配置された出力ハブと、
トルクコンバータクラッチと
を含むトルクコンバータにおいて、前記トルクコンバータクラッチは、
Si−OH(シラノール)種およびSi−O−Na+種を含む摩擦材と、
ピストンであって、前記摩擦材が該ピストンおよび前記カバーに係合することにより、前記摩擦材および該ピストンを通じて前記カバーから前記出力ハブにトルクを伝達できるように変位可能なピストンと
を含む、トルクコンバータ。
【請求項9】
前記トルクコンバータは、摩擦調整剤を含む油をさらに含み、前記摩擦調整剤は、複数の極性頭部と、前記複数の極性頭部における各極性頭部に対する各非極性尾部とを含み、前記複数の極性頭部の少なくとも一部は、前記シラノール種または前記Si−O−Na+種に結合している、請求項8記載のトルクコンバータ。
【請求項10】
クラッチ用またはブレーキ用の摩擦材の製造方法であって、
Si−O−Si(シロキサン)を含む充填材を含む摩擦材をNaOH(水酸化ナトリウム)に曝露させることと、
前記シロキサンからSi−OH(シラノール)を形成させることと
を含む方法。
【請求項11】
前記水酸化ナトリウムへの前記摩擦材の曝露は、前記シロキサン中のSiとOとの結合を切断させることを含み、かつ
前記シラノールの形成は、前記シロキサン由来のSi−OをH(水素)と結合させることを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記シラノールの形成は、前記シロキサン由来のSi−Oを、前記水酸化ナトリウムの担体に由来するH(水素)と結合させることを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記水酸化ナトリウムへの前記摩擦材の曝露は、Si−O−Na+種の形成を含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
前記摩擦材は、第1の表面を含み、
前記水酸化ナトリウムへの前記摩擦材の曝露は、前記第1の表面を前記水酸化ナトリウムに曝露させることを含み、かつ
前記シロキサンからの前記シラノールの形成は、前記第1の表面上にシラノールを形成させることを含む、請求項10記載の方法において、前記方法は、
前記第1の表面上にSi−O−Na+種を形成させること
をさらに含む、方法。
【請求項15】
前記摩擦材は、
第1の方向に向いた第1の表面と、
前記第1の方向とは反対の第2の方向に向いた第2の表面と、
前記第1の表面と前記第2の表面との間に形成された本体と
を含み、
前記水酸化ナトリウムへの前記摩擦材の曝露は、前記本体内部の前記充填材を前記水酸化ナトリウムに曝露させることを含み、かつ
前記シロキサンからの前記シラノールの形成は、前記本体内部に前記シラノールを形成させることを含む、請求項10記載の方法において、前記方法は、
前記本体内部にSi−O−Na+種を形成させること
をさらに含む、方法。
【請求項16】
前記摩擦材は、
第1の方向に向いた第1の表面と、
前記第1の方向とは反対の第2の方向に向いた第2の表面と
を含み、
前記水酸化ナトリウムへの前記摩擦材の曝露は、前記第2の表面の前記充填材を前記水酸化ナトリウムに曝露させることを含み、かつ
前記シロキサンからの前記シラノールの形成は、前記第2の表面上にシラノールを形成させることを含む、請求項10記載の方法において、前記方法は、
前記第2の表面上にSi−O−Na+種を形成させること
をさらに含む、方法。
【請求項17】
前記摩擦材は、少なくとも13重量%でかつ41重量%以下のシリカを含む、請求項10記載の方法。
【請求項18】
少なくとも前記第1の表面上に油層を加えることをさらに含む請求項10記載の方法であって、前記油は摩擦調整剤を含み、前記摩擦調整剤は、複数の極性頭部と、前記複数の極性頭部における各極性頭部に対する各非極性尾部とを含む方法。
【請求項19】
前記複数の極性頭部は、アミン基、アミド基、エステル基およびアルコール基からなる群から選択され、かつ
前記各非極性尾部は、炭素鎖を含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記複数の極性頭部の少なくとも一部を、前記シラノール種または前記Si−O−Na+種に結合させることをさらに含む、請求項18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は全体として、化学的に活性化させたクラッチパッド用またはブレーキパッド用の摩擦材に関し、特にNaOH(水酸化ナトリウム)に曝露させてSi−OH(シラノール)種およびSi−O−Na
+種を形成させた摩擦材に関する。
【0002】
公知のクラッチ用またはブレーキ用の摩擦材は、繊維材および充填材から構成される。繊維材によって摩擦材の構造が形成され、充填材によって摩擦力が生じる。公知の摩擦材では、充填材として珪藻土が用いられる。典型的には、珪藻土はその80〜90%がシリカから構成される。クラッチの摩擦材によって、クラッチに通常使用されるオートマチックトランスミッションフルードに含まれる摩擦調整剤の吸着量を増加させることが望ましい。こうした吸着によって摩擦材の摩擦係数の勾配が望ましく増加することとなり、これによって摩擦材の性能が向上する。
【0003】
概要
本開示は概して、クラッチ用またはブレーキ用の摩擦材を含み、該摩擦材は、
第1の方向に向いた第1の表面と、
前記第1の方向とは反対の第2の方向に向いた第2の表面と、
前記第1の表面と前記第2の表面との間に挟まれた本体部と
を含む。前記本体および前記第1の表面および前記第2の表面は、繊維材および充填材を含む。前記第1の表面の前記充填材は、Si−OH(シラノール)種およびSi−O−Na
+種を含む。
【0004】
本開示は概して、トルクコンバータを含み、該トルクコンバータは、
カバーと、
前記カバーに接続されたインペラと、
前記インペラと流体連通するタービンと、
トランスミッションの入力軸に回転不能に接続されるように配置された出力ハブと、
トルクコンバータクラッチと
を含み、ここで、前記トルクコンバータクラッチは、
Si−OH(シラノール)種およびSi−O−Na
+種を含む摩擦材と、
ピストンであって、前記摩擦材が該ピストンおよび前記カバーに係合することにより、前記摩擦材および該ピストンを通じて前記カバーから前記出力ハブにトルクを伝達できるように変位可能なピストンと
を含む。
【0005】
本開示は概して、クラッチ用またはブレーキ用の摩擦材を化学的に活性化させる方法であって、
Si−O−Si(シロキサン)を含む充填材を含む摩擦材をNaOH(水酸化ナトリウム)に曝露させることと、
前記シロキサンからSi−OH(シラノール)を形成させることと
を含む方法を含む。
【0006】
本開示内容の以下の詳細な説明において付属の図面を参照することによって、本開示内容の本質および実施形態がより十分に説明されよう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、NaOH(水酸化ナトリウム)を用いて化学的に活性化させた摩擦材の概略断面図である。
【
図2A】
図2Aは、摩擦調整剤と、
図1に示す摩擦材との化学的相互作用の概略図である。
【
図2B】
図2Bは、摩擦調整剤と、
図1に示す摩擦材との化学的相互作用の概略図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す摩擦材を含む例示的なトルクコンバータの部分断面図である。
【
図4】
図4は、公知の摩擦材と、NaOH(水酸化ナトリウム)を用いて化学的に活性化させた摩擦材とについて、それぞれの係数を速度に対してプロットしたグラフである。
【0008】
詳細な説明
初めに、異なる図面において図面中の番号が同一である場合には、こうした番号は本開示の同一または機能的に類似した構造要素を指すものと理解されたい。特許請求の範囲に記載の開示内容は、開示された態様に限定されるわけではないものと理解されたい。
【0009】
さらに本開示は、記載された特定の方法論、材料および修正形態に限定されるわけではなく、したがってこれらは当然のことながら変化しうるものと理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、単に特定の態様を説明するためのものにすぎず、本開示の範囲の限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0010】
別段の定めがない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本開示内容が属する当技術分野の当業者が通常理解しているのと同一の意味を有する。本開示の実施または試験においては、本明細書に記載されたものと類似または同等のいずれの方法、デバイスまたは材料をも使用してよいものと理解されたい。
別段の定めがない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本開示内容が属する当技術分野の当業者が通常理解しているのと同一の意味を有する。「実質的に(substantially)」という用語は、例えば「〜に近い(nearly)」、「極めて〜に近い(very nearly)」、「約(about)」、「およそ(approximately)」、「おおよそ(around)」、「〜に近似した(bordering on)」、「〜に近接した(close to)」、「本質的に(essentially)」、「〜の近傍の(in the neighborhood of)」、「〜の付近に(in the vicinity of)」などの用語と同義であり、そうした用語が本明細書および特許請求の範囲に出現した場合には、これらは互換的に用いられうるものと理解されたい。「接近した(proximate)」という用語は、例えば「近くの(nearby)」、「近接した(close)」、「隣接した(adjacent)」、「近傍の(neighboring)」、「すぐそばにある(immediate)」、「接している(adjoining)」などの用語と同義であり、そうした用語が本明細書および特許請求の範囲に出現した場合には、これらは互換的に用いられうるものと理解されたい。
【0011】
図1は、NaOH(水酸化ナトリウム)を用いて化学的に活性化させた摩擦材100の概略断面図である。摩擦材100は、例えばクラッチ用またはブレーキ用のものであり、この摩擦材100は、表面102と、表面104と、表面102と表面104との間に挟まれた本体106とを含む。表面102は、方向D1に向いており、表面104は、この方向D1とは反対の方向D2に向いている。材料100は、繊維材108および充填材110を含む。例示的な一態様では、摩擦材は、フェノール樹脂(図示せず)のような結合剤をさらに含む。
【0012】
図1は、水酸化ナトリウムに曝露させる前の摩擦材FMと、この材料FMを水酸化ナトリウムに曝露させることによって形成された摩擦材100とを示す。材料FMは、繊維108および充填材FLを含む。例示的な一実施形態では、材料FLはシリカ含有材料であるか、または材料FLはシリカに富む粒子を含む。当技術分野で知られているシリカ含有材料またはシリカに富む粒子を使用することができ、シリカに富む粒子は、非晶質、結晶質またはそれらの組合せである。例示的な一実施形態では、材料FLとしては、これらに限定されるものではないが、例えばCelite(登録商標)、Celatom(登録商標)、珪藻土または二酸化ケイ素が挙げられる。FLは、Si−O−Si(シロキサン)といくつかのSi−OH(シラノール)基とを含む。HO−(ヒドロキシル基)は、材料FM上にも材料100上にも存在する。例示的な一実施形態では、摩擦材100は、少なくとも15重量%でかつ45重量%以下のシリカ含有材料を含み、このシリカ含有材料のおよそ90重量%はシリカであり、摩擦材100は、少なくともおよそ13重量%でかつおよそ41重量%以下のシリカを含む。
【0013】
表面102における充填材110は、材料FMの表面102よりも高濃度のシラノールを有する。例示的な一実施形態では、本体106内部の充填材110は、表面102と表面104との間の材料FMよりも高濃度のシラノールを有する。例示的な一実施形態では、表面104における充填材110は、材料FMの表面104よりも高濃度のシラノールを有する。
【0014】
表面102における充填材110はSi−O−Na
+種を含むが、このSi−O−Na
+種は、材料FLの表面102の内部またはその上には存在しない。例示的な一実施形態では、本体106内部の充填材110はSi−O−Na
+種を含むが、このSi−O−Na
+種は、表面102と表面104との間の材料FM中には存在しない。例示的な一実施形態では、表面104における充填材110はSi−O−Na
+種を含むが、このSi−O−Na
+種は、材料FMの表面104上には存在しない。
【0015】
摩擦材FMを水酸化ナトリウムに曝露させると、シロキサン中のSiとOとの結合が切断され、また水酸化ナトリウム中の水素結合も切断される。シロキサン中の結合が切断されるとSi−Oが形成され、このSi−Oと、水や例えばメタノールやエタノールといったアルコールなどの溶媒や担体に由来するH(水素)とが結合して、シラノールが形成される。シロキサン中の結合が切断されるとSiが生じ、このSiによってSi−O−Na
+種が形成される。処理に用いたのと同一の溶媒や担体で摩擦材を洗浄して、余剰分の塩基を除去する。
【0016】
図2Aおよび
図2Bは、摩擦調整剤と、
図1に示す摩擦材との化学的相互作用の概略図である。例示的な一実施形態では、材料100の表面102および表面104の一方または双方は、油の流体層112を含み、この油は、摩擦調整剤を含む。総じて、摩擦調整剤は、例えば材料FMや材料100などの摩擦材の活性部位114に吸着されるように設計されており、そうすることで該摩擦材の性能が向上する。例示的な一態様では、流体層112は、当技術分野で知られているオートマチックトランスミッションフルード(ATF)である。部位114は、表面官能基を表す。
【0017】
摩擦調整剤は、極性頭部116と、極性頭部116に対する各非極性尾部118とを含む。極性頭部116は、材料FMまたは材料100による摩擦調整剤の吸着部分としての活性部位114と結合する。材料FMを示す
図2Aにおいて、活性部位は、シロキサンおよびシラノールにより形成される。
【0018】
有利には、
図2Bに示すように、材料FMを水酸化ナトリウムに曝露させた後に、シラノール種が増加するとともにSi−O−Na
+種が出現する(このSi−O−Na
+種は、活性部位を形成する)ことによって、材料100の部位114の数が増加する。層112における極性頭部116の少なくとも一部は、材料100の内部またはその上のシラノール種またはSi−O−Na
+種と結合する。このようにして活性部位の数が増加することで、材料100による摩擦調整剤の吸着量が増大して材料100の性能が向上する。例えば、摩擦材100の動摩擦係数が増加する。シラノール種の増加およびSi−O−Na
+種の出現は、
図2Bでは表面102にしか示されていないが、表面104および本体106内部にも同様の増加が存在しうるものと理解されたい。
【0019】
例示的な一実施形態では、極性頭部116としては、これらに限定されるものではないが、例えばアミン基、アミド基、エステル基またはアルコール基が挙げられる。例示的な一実施形態では、非極性尾部は、炭素鎖を含む。例示的な一態様では、選択された摩擦調整剤は、16個以上24個以下の炭素原子を含む非極性尾部を含む。
【0020】
図3は、
図1に示す摩擦材100を含む例示的なトルクコンバータ200の部分断面図である。トルクコンバータ200は、カバー202と、このカバーに接続されたインペラ204と、このインペラと流体連通するタービン206と、ステータ208と、トランスミッションの入力軸(図示せず)に回転不能に接続されるように配置された出力ハブ210と、トルクコンバータクラッチ212と、振動ダンパ214とを含む。クラッチ212は、摩擦材100およびピストン216を含む。当技術分野で知られているように、ピストン216は、摩擦材100が該ピストン216およびカバー202に係合することにより、該摩擦材100および該ピストン216を通じて該カバー202から出力ハブ210にトルクを伝達できるように変位可能である。
【0021】
例示的な一実施形態では、コンバータ200は流体218を含み、この流体218は、極性頭部116および尾部118を含む。
図2Bについて論じたことが、
図3の材料100および流体218にも該当する。すなわち、流体218が材料100を覆い、この材料100の内部またはその上で活性部位を増加させることによって、クラッチ212の材料100の性能が向上する。例示的な一態様では、流体218は、当技術分野で知られている油またはATFである。
【0022】
トルクコンバータ200の特定の一構成例を
図3に示すが、トルクコンバータにおける摩擦材100の使用は、
図3で構成されているようなトルクコンバータに限定されるわけではないものと理解されたい。すなわち、材料100は、当技術分野で知られている任意のトルクコンバータ構成の、摩擦材を用いた任意のクラッチ装置に使用可能である。
【0023】
以下の記載については、
図1から
図2Bを参照して考察すべきである。以下に、クラッチ用またはブレーキ用の摩擦材の製造方法を説明する。第1のステップでは、Si−O−Si(シロキサン)を含む充填材を含む摩擦材をNaOH(水酸化ナトリウム)に曝露させる。第2のステップでは、このシロキサンからSi−OH(シラノール)を形成させる。水酸化ナトリウムへの摩擦材の曝露は、シロキサン中のSiとOとの結合の切断を含む。シラノールの形成は、シロキサン由来のSi−OをH(水素)と結合させることを含む。例示的な一実施形態では、シラノールの形成は、シロキサン由来のSi−Oを、水酸化ナトリウムの担体に由来する水素と結合させることを含む。例示的な一実施形態では、この担体は、水またはアルコールである。例示的な一実施形態では、水酸化ナトリウムへの摩擦材の曝露は、Si−O−Na
+種の形成を含む。
【0024】
摩擦材は、第1の方向に向いた第1の表面を含む。水酸化ナトリウムへの摩擦材の曝露は、この第1の表面を水酸化ナトリウムに曝露させることを含む。シロキサンからのシラノールの形成は、この第1の表面上にシラノールを形成させることを含む。例示的な一実施形態では、第3のステップでは、この第1の表面上にSi−O−Na
+種を形成させる。
【0025】
例示的な一実施形態では、水酸化ナトリウムへの摩擦材の曝露は、摩擦材の第1の表面と、摩擦材の、第1の方向とは反対の第2の方向に向いた第2の表面との間に形成された摩擦材の本体内部の充填材を、水酸化ナトリウムに曝露させることを含み、シロキサンからのシラノールの形成は、本体内部にシラノールを形成させることを含む。例示的な一実施形態では、第4のステップでは、本体内部にSi−O−Na
+種を形成させる。
【0026】
例示的な一実施形態では、水酸化ナトリウムへの摩擦材の曝露は、摩擦材の、第1の方向とは反対の第2の方向に向いた第2の表面の充填材を水酸化ナトリウムに曝露させることを含み、シロキサンからのシラノールの形成は、第2の表面上にシラノールを形成させることを含む。例示的な一実施形態では、第5のステップでは、第2の表面上にSi−O−Na
+種を形成させる。
【0027】
例示的な一実施形態では、摩擦材は、少なくとも15重量%でかつ45重量%以下のシリカ含有材料を含み、このシリカ含有材料のおよそ90重量%はシリカであり、摩擦材は、少なくともおよそ13重量%でかつおよそ41重量%以下のシリカを含む。
【0028】
例示的な一実施形態では、第6のステップでは、第1の表面上に油層を加える。この油は、少なくとも1つの成分を含む摩擦調整剤を含み、この摩擦調整剤は、複数の極性頭部と、これら複数の極性頭部における各極性頭部に対する各非極性尾部とを含む。例示的な一実施形態では、複数の極性頭部としては、これらに限定されるものではないが、例えばアミン基、アミド基、エステル基またはアルコール基が挙げられる。例示的な一実施形態では、各非極性尾部は、炭素鎖を含む。
【0029】
例示的な一実施形態では、第7のステップでは、これら複数の極性頭部の少なくとも一部を、シラノール種またはSi−O−Na
+種と結合させる。
【0030】
上述したように、摩擦材において、例えばATFのような油に含まれる摩擦調整剤の吸着量を増加させることが望ましい。こうした吸着によって、摩擦材の摩擦係数の勾配が有利に増加する。こうした吸着量は、表面102の極性、すなわち活性化と少なくとも部分的に相関関係にあり、例えば部位114と少なくとも部分的に相関関係にある。表面102の極性、すなわち活性化を増大させると、摩擦調整剤の吸着力が高まる。水酸化ナトリウムに曝露させる前の材料FMの場合、表面102のシロキサンは、比較的低い極性/活性化を示す。
図1から
図2Bにおいて見て取れるように、材料100における表面102の極性/活性化は、シロキサンを水酸化ナトリウムに曝露させることによって増大する。水酸化ナトリウムによってシロキサンが分解されることで、より極性の高い活性化シラノールと、Si−O−Na
+種とが形成される。こうしたシラノール種やSi−O−Na
+種は、摩擦調整剤を引き寄せて吸着する能力がより高い。
【0031】
典型的には、材料100は、20〜80%、例えば50〜60%の気孔率を有する。したがって、水酸化ナトリウムが表面102に浸透し、それによって本体106内部でも表面104でもシロキサンが分解されて、本体106内部でも表面104でもシラノール種およびSi−O−Na
+種を形成させることができる。こうした浸透とシラノール種およびSi−O−Na
+種の形成は有利である。なぜなら、使用時に表面102が磨耗してしまうためである。しかし、本体106はSi−O−Na
+種および追加のシラノールを含んでいるため、本体106から形成される新たな表面102は常に、追加の活性部位114を含むことになる。
【0032】
図4は、公知の摩擦材と、水酸化ナトリウムを用いて化学的に活性化させた摩擦材100とについて、それぞれの摩擦係数を速度に対してプロットしたグラフ300である。このグラフのX方向の速度は、摩擦材と接するプレートに対する摩擦材の速度である。例えば、この速度は、摩擦材とプレートとの間のすべり速度である。プロット302は、水酸化ナトリウムを用いて化学的に活性化させた摩擦材100についてのプロットである。プロット304は、繊維と珪藻土充填材とを含む公知の摩擦材についてのプロットである。プロット302およびプロット304は、公知の摩擦材FMおよび摩擦材100の実際の試験に基づくプロットである。
【0033】
上述したように、摩擦材の動摩擦係数の勾配を増加させることが特に望ましい。有利にも、材料100によって、公知のクラッチ用またはブレーキ用摩擦材と比較して動摩擦係数の勾配(差分)が増加する。例えば415kPaでの材料100について、静止係数306は、およそ0.04であり、およそ0.30m/sでの摩擦係数308は、およそ0.11であり、差分は0.07である。
【0034】
これとは対照的に、415kPaでの従来技術による摩擦材については、静止係数310は、およそ0.09であり、およそ0.30m/sでの摩擦係数312は、およそ0.145であり、差分はわずか0.055である。
【0035】
上記で開示された様々な特徴や機能およびそれ以外の様々な特徴や機能、あるいはそれらの代替形態を望ましく組み合せることで、これ以外の多くの様々なシステムや適用を生じさせうることが理解されよう。当業者であれば、本開示内容においては目下予見不可能または予期しない様々な代替形態、修正形態、変形形態または改良形態を本開示内容に続いて生じさせることができるが、こうした形態も以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。