(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556357
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】高クロム鋼製のケーシングを有する原子炉燃料要素を密閉する方法
(51)【国際特許分類】
G21C 21/02 20060101AFI20190729BHJP
G21C 3/07 20060101ALI20190729BHJP
G21C 3/10 20060101ALI20190729BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20190729BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20190729BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20190729BHJP
C22C 38/48 20060101ALN20190729BHJP
C22C 38/34 20060101ALN20190729BHJP
B23K 103/18 20060101ALN20190729BHJP
【FI】
G21C21/02 110
G21C3/07 200
G21C3/10 200
B23K9/00 501S
B23K9/23 H
!C22C38/00 302L
!C22C38/48
!C22C38/34
B23K103:18
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-527192(P2018-527192)
(86)(22)【出願日】2016年11月23日
(65)【公表番号】特表2019-506589(P2019-506589A)
(43)【公表日】2019年3月7日
(86)【国際出願番号】RU2016000808
(87)【国際公開番号】WO2017091111
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年3月22日
(31)【優先権主張番号】2015150743
(32)【優先日】2015年11月26日
(33)【優先権主張国】RU
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516219347
【氏名又は名称】ステート・アトミック・エナジー・コーポレーション・ロスアトム・オン・ビハーフ・オブ・ザ・ロシアン・フェデレーション
【氏名又は名称原語表記】STATE ATOMIC ENERGY CORPORATION ‘ROSATOM’ ON BEHALF OF THE RUSSIAN FEDERATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】グルヤジノフ、ニコライ・セラフィモビッチ
(72)【発明者】
【氏名】クルグロフ、オレジ・アナトレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】レオンテバ−スミルノバ、マリヤ・ブラディミロブナ
(72)【発明者】
【氏名】ナウメンコ、イリナ・アレクサントロブナ
(72)【発明者】
【氏名】スクポフ、ミハイル・ブラディミロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】スミルノフ、ビクトル・パブロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ソロキン、ユリイ・バシレビッチ
【審査官】
小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】
カナダ国特許出願公開第2927573(CA,A1)
【文献】
特開昭62−83450(JP,A)
【文献】
実開昭56−17599(JP,U)
【文献】
特開平9−159790(JP,A)
【文献】
特開2002−60910(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0106693(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/00−3/64
21/00−21/18
B23K 9/00、9/23
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉燃料要素を密閉する方法であって、ケーシングの一端をプラグへ溶接することと、ここで、前記ケーシングの一端と前記プラグの両方が高クロム鋼製であり、前記原子炉燃料要素に燃料を装填することと、第2のプラグを前記ケーシングの他端へ溶接することとを含む方法において、
高クロムフェライトマルテンサイト鋼製のケーシングと、高クロムフェライト鋼製のプラグとが使用され、溶接継ぎ目の金属においてフェライト相の形成を可能にする体積比であって、前記金属の形成に寄与するケーシング材料とプラグ材料の体積比において、アルゴンアーク溶接が実行され、ここで、前記体積比は、
【数1】
であり、
V
1は、フェライト材料の体積であり、
V
2は、フェライトマルテンサイト材料の体積である
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
アルゴンアーク溶接が、14〜20Aの電流、12〜15m/時の速度、9〜10Wのアーク電圧、および7〜8l/分のアルゴン流量で実行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力工学に関し、動力炉のための燃料要素の製造において使用され得る。
【背景技術】
【0002】
燃料要素を密閉するための方法が知られており、ここにおいて、シールドガスの雰囲気において、非消耗式電極を使用して、ケーシング端部を、プラグとともに溶融することによって溶接が実行される(米国特許第3045108号)。
【0003】
この方法の欠点は、この電極とプラグの円筒突起との接触の結果、アークが点火されることにあり、ここにおいて、タングステン含有物が溶接池へ入り、このことは、溶接継手の強度を、また、それに相応して品質を低減させ得る。
【0004】
燃料要素ケーシングと同じ材料からなるプラグを、1X18H10Tステンレス鋼製のケーシングの一端へ溶接することと、燃料装荷し、それに続いて第2のプラグをケーシングの他端へ溶接し、これによって、燃料を含む燃料要素をしっかりと閉じ込めることとを含む、融接によって燃料要素を密閉するための方法がさらに知られている(A.G.Samoylov、V.S.Volkov、M.I.Solonin著、「Fuel elements of nuclear reactors」、モスクワ、Atomenergoizdat出版、1996年、アナログ版である書籍を参照)。この方法は、発振器が使用されるアークを点火するために、燃料要素を密閉するために必要とされるすべての不可欠な技術的工程を開示する。
【0005】
近年、(放射線量、冷却材腐食−浸食効果および温度のような)高速中性子炉の燃料要素の性能特性のためのより高い基準を考慮して、そのような燃料要素の製造において、それらのケーシングは、以下の等級、すなわち、EI−852、EP−823、EP−900の高クロムフェライトマルテンサイト鋼からなる。
【0006】
最も近い類似物は、高クロム鋼製のケーシングを有する燃料要素を密閉する方法であり、燃料要素ケーシングと同じ材料からなるプラグを、ケーシングの一端へ溶接することと、燃料を充填することと、そこから構造の急冷(quenching structures)を取り除くために、溶接継手を焼き戻しした後、溶接継手アセンブリを形成するために、ケーシングの他端へ、第2のプラグを溶接することとを含む(Ph.G.Reshetnikovによって編集された書籍「Development, production and operation of fuel elements of power reactors」、第2巻、Energatomizdat出版、1995、プロトタイプ版を参照)。この等級の鋼材を溶接するそのような方法の主な欠点は、これら鋼材における溶接が完了すると、一定の時間期間後に、構造の急冷および低温割れが進行し得ることにある。
【0007】
この方法の欠点のうちの1つは、そのような鋼材のための高品質な溶接継手を生成するために、追加の工程、特に、溶接継手焼き戻しが必要とされることにあり、これは、20〜30分間、740〜760℃において実行され、溶接工程とその後の焼き戻しとの間の最短時間を可能な限り維持する。溶接継手焼き戻し後にこの工程を実行することは、一定の費用を必要とし、特に、燃料を装填された燃料要素を密閉する溶接継手が焼き戻しされた場合、燃料要素製造の技術を複雑化する。
【発明の概要】
【0008】
提供されるべき技術的効果は、高品質かつ気密方式でケーシングをプラグへ溶接し、したがって、溶接継手のその後の熱処理を不要とし、これによって、製造技術を簡素化することによって、高クロム鋼製のケーシングを有する原子炉の燃料要素を密閉する信頼性を高めることである。
【0009】
この技術的結果は、ケーシングの一端をプラグへ溶接することと、ケーシングの一端とプラグの両方が高クロム鋼製である、燃料要素に燃料を装填することと、第2のプラグをケーシングの他端へ溶接することとを含む、原子炉燃料要素を密閉する方法において提供され、ここにおいて、高クロムフェライトマルテンサイト鋼製のケーシングと、高クロムフェライト鋼製のプラグとが使用され、溶接継ぎ目の金属においてフェライト相の形成を可能にする、前記金属の形成に寄与するケーシング材料とプラグ材料の体積比において、アルゴンアーク溶接が実行され、ここにおいて、その比は、
【0011】
であり、
V
1は、フェライト材料の体積であり、
V
2は、フェライトマルテンサイト材料の体積である。
【0012】
アルゴンアーク溶接は、14〜20Aの電流、12〜15m/時の速度、9〜10Wのアーク電圧、および7〜8l/分のアルゴン流量で実行される。
【0013】
≧0.18である、溶接継手金属におけるフェライト材料とフェライトマルテンサイト材料との体積比は、継手溶融ゾーンにおいて指定された値以上の値においては、低温割れの進展に対する高い耐性があり溶接継手が焼き戻しされることを必要としないフェライト相が形成され、より低い値においては、必要なフェライトゾーンが形成され得ず、したがって溶接継手金属の熱処理を必要とする、ということに基づく。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】フェライトマルテンサイト鋼製のケーシング1と、フェライト鋼製のプラグ2とを含む、溶接継手アセンブリの構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
例示的な実施形態
原子炉燃料要素を密閉する方法は、ケーシングの一端をプラグと溶接することと、ケーシングの一端とプラグの両方が高クロム鋼製である、燃料要素に燃料を装填することと、第2のプラグを、ケーシングの他端へ溶接することとを含む。
【0016】
ショルダ幅、ケーシング厚みδ、および、所定の溶け込み深さbのような異なる技術的パラメータにおいて、溶接プロセスをモデル化することが、溶接前および溶接後に、溶接継手アセンブリの幾何学的に水平なモデルに対して実行され、その後、溶接継手において形成された相が、構造分析の方法によって評価された。これは、その中にフェライト相を形成するための継手金属を取得するために使用される、異なる等級の鋼材の領域同士の比を計算することを可能にした。
【0017】
結果として得られる異なる等級の材料の領域は、継手の形成された金属における割合を考慮し、コンピュータプログラムJpSquare(LProSoft)を使用して、溶接継手のスライスにおいて決定され、溶接継手金属において形成された相は、構造分析によって決定された。継手金属において形成された相の体積は、溶接継手アセンブリの幾何学的フラットモデルにおける金属の領域に比例した。関連付けられるべき材料の計算された領域に基づいて、継手金属においてフェライト相を形成するために必要なケーシングおよびプラグのための材料体積の比が決定される。
【0019】
V
1は、フェライト材料の体積であり、
V
2は、フェライトマルテンサイト材料の体積である。
【0020】
密閉の方法は、0.5mmの壁厚を有するφ9.3mmのEP−823等級のフェライトマルテンサイト鋼製のケーシングを使用して、アルゴンアーク溶接によって実行される。
【0021】
プラグについては、05Х18С2ВФАyu等級のフェライト鋼が使用され、ショルダ幅は0.8mmであり、その直径は、ケーシング直径に対応している(図面参照)。
【0022】
溶接のために使用された鋼材の化学組成が、表1に示される。
【0024】
使用された鋼材の機械的特性が、表2に示される。
【0026】
鋼材05X18C2MBФАЮを用いた実験は、その高い機械的特性を証明し、鉛冷却材における耐食性の観点から有望である(ロシア特許第2238345号、「Steel for core fuel elements of lead−coolant nuclear reactors」Velyuhanov V.P.、Zelenskiy G.K.、Ioltuhovskiy A.G.、Leontieva−Smirnova M.V.、Mitin V.S.、Sokolov N.B.、Rusanov A.E.、Troyanov V.M.、出願人および特許保有者−国家原子力集団会社によって代表されるロシア連邦、SSC VNIINM、2004年10月20日発行)。
【0027】
鋼材EP−823製のケーシングを、鋼材05Х18С2ВФАyu製のプラグと溶接するモードは、
溶接電流15A、
溶接速度14m/時、
アーク電圧9V、
アルゴン割合8l/分。
【0028】
開発された技術に従って、燃料要素シミュレータが作成された。
【0029】
選択された溶接モードに関する溶接継手の金属組織調査は、フェライトマルテンサイト相体積に対するフェライト相体積の比は、0.46から0.51であることを示している。
【0030】
機械的強度試験は、サンプルの破裂が、燃料要素シミュレータのケーシングにわたって発生することを示した。ケーシングの強度限界は、818MPaである。
【0031】
溶接継手は4000時間の間、鉛冷却材における腐食に関して試験された。溶接継手の耐食性は、燃料ケーシングの耐食性のレベルにとどまることが発見された。
【0032】
室温において、質量分析法によるヘリウム漏れ検出器を使用して実行された気密性に関する溶接継手の試験は、すべての継手が、空気を通さないように密閉されていることを示した。
【0033】
高クロム鋼製のケーシングを有する燃料要素を密閉する創造性のある方法の使用は、ケーシングとプラグとの間の溶接継手の品質を向上させ、密閉技術を大幅に簡素化することを可能にする。