特許第6556384号(P6556384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556384
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20190729BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20190729BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20190729BHJP
   C03B 37/014 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   C03B8/04 C
   C03B8/04 K
   C03B20/00 J
   C03B37/018 C
   C03B37/014 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-561319(P2018-561319)
(86)(22)【出願日】2017年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2017047180
(87)【国際公開番号】WO2018131499
(87)【国際公開日】20180719
【審査請求日】2019年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2017-2428(P2017-2428)
(32)【優先日】2017年1月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】角 児太郎
(72)【発明者】
【氏名】桑原 ひかり
【審査官】 有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−510070(JP,A)
【文献】 特表2007−532450(JP,A)
【文献】 特開昭61−101429(JP,A)
【文献】 特表2014−514236(JP,A)
【文献】 特開2001−172025(JP,A)
【文献】 特開昭62−078124(JP,A)
【文献】 特開2013−023411(JP,A)
【文献】 特開2003−073139(JP,A)
【文献】 特開2017−014099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 20/00
C03B 37/014
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状又は円筒状の耐熱性基体であり、SiO粒子を堆積させる外表面の表面粗さが、最大高さRzが9μm未満であり且つ算術平均粗さRaが1μm未満である耐熱性基体を準備する工程と、
該耐熱性基体を回転させ、該耐熱性基体の外表面にSiO粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を形成する工程と、
該ガラス微粒子堆積体から該耐熱性基体を抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する工程と、
を含むことを特徴とする中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記耐熱性基体のRzが6.0μm以下であり且つRaが0.6μm以下であることを特徴とする請求項1記載の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法に用いられる耐熱性基体であって、SiO粒子を堆積させる外表面の表面粗さが、最大高さRzが9μm未満であり且つ算術平均粗さRaが1μm未満であることを特徴とする耐熱性基体。
【請求項4】
請求項1又は2記載の方法により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いることを特徴とする合成石英ガラスシリンダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法及び合成石英ガラスシリンダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成石英ガラスは光学、半導体、化学産業において広く用いられ、特にマイクロリソグラフィーにおける投影や露光システム用レンズ材としてや半導体製造冶具や光ファイバー用材料として用いられる。
【0003】
中空状合成石英ガラスシリンダの製造は中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)を製造し、それを焼結透明化することが一般的である。スート体の製造ではOVD(outside vapor deposition)法が知られており、長軸を中心に回転するターゲット外表面に珪素含有原料を火炎加水分解、又は熱分解によって微細なSiO粒子を堆積することによりスート体を製造する。
【0004】
中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)は焼結前にターゲットを抜き出す作業が必要であり、抜き出す作業はターゲットと中空状スート体を相対的に回転させたり長軸方向に動かし行う。スート体とターゲットが固着している場合のこの作業は困難を極める。更に、大きな力を加えることで抜き出す事ができたとしてもその際にスート体内面に傷が発生し、発生した傷は焼結後の石英シリンダにも局所的な欠陥として残り不良部となる。
【0005】
中空状石英シリンダはスート体中空部にセラミック,石英ガラス,カーボン等の円筒もしくは円柱状の心棒を通しその状態で焼結することで内径を形作る。心棒を通して焼結する事によりスート体はその心棒に密着し心棒の形状に沿った内面形状を得ることができる。こうして作られた中空状石英シリンダはその用途により各種機械加工を行い目的の形状に加工される。
【0006】
近年、半導体ウエハの大径化や光ファイバー母材の大型化によって石英シリンダは大重量化大径化の需要が高まっている。大重量石英シリンダを製造するためには製造の中間体である中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)も大重量化が必要である。中空状多孔質石英ガラス母材の大重量化にはその嵩密度を高くすることがコスト面で有効である。低密度で大重量化する場合は体積が大きくなるためにスート体の製造装置、焼結透明化装置も大型化する必要があるため設備投資が莫大になるからである。
【0007】
しかし、スート体の高密度化はスート体内面とターゲットとの固着力が上がるためにターゲットの抜き出し作業が困難になるという問題がある。スート体からターゲットを抜き出す作業を容易にするため、例えば、特許文献1は、ターゲット形状を錐形にする事で外径が大きい方向に抜き出すことで抜き出し作業を容易にする方法を記載している。また、特許文献2は、SiOスート体の平均密度を0.3〜0.5g/cmとし初期条件を定常条件のH量よりも15%以上減じたガス条件でかつ原料ガスが定常条件の30%以上のガス条件とする事でそれを容易にする方法を記載している。しかしながら、この方法では平均嵩密度が低い場合は設備の大きな変更が必要であり好ましくない。
【0008】
また、特許文献3は、ターゲット材との隣接部に嵩密度0.2g/cm以下の第1層を堆積しその上に第1層よりも0.03g/cm以上密度の高い第2層を形成することで抜き出す際もしくは抜き出した後に第1層を除去することで抜き出しやすくし且つスート体内面が平滑なものを得る方法を記載している。しかしながら、第1層に0.2g/cm以下の低密度層を形成するとあるが、長軸方向にターゲットを回転させながら堆積を行うために大重量になった場合、スート体にかかる遠心力及びターゲットとスート界面のせん断力の増加にその第1層(0.2g/cm以下の低密度層)が堆積成長中に崩れターゲット上をスートが長軸方向に動いたり、スート体がターゲットの回転に追従しない等の問題が発生し製造することができないというおそれがある。
【0009】
更に、大径スート体からのターゲットの抜き取りに関しては、特許文献4記載の方法は、中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法であり、堆積工程において、嵩密度が0.45g/cm以上0.8g/cm以下である第1層を形成する第1層形成工程と、前記第1層の外側に隣接し、嵩密度が0.55g/cm以上であり且つ第1層の最低嵩密度よりも0.1g/cm以上高い最低嵩密度を有する第2層を形成する第2層形成工程と、前記第2層の外側に隣接し、嵩密度が0.44g/cm以上0.88g/cm以下であり、且つその最高密度が第2層の最高嵩密度を超えない嵩密度である第3層を形成する第3層形成工程と、を含むようにする事で高密度化大重量品であっても内面にキズを発生させずターゲットの抜き出しが容易で且つ焼結時に十分に心棒に密着する事で均一な内径を得る事ができるとしている。
【0010】
この特許文献4記載の方法により多くの場合、問題は解決される。しかしながら、製造を行う中である特定の条件下では、この特許文献4記載の方法を用いてもターゲットの抜き出しが困難なものが発生することが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−208242号公報
【特許文献2】特開2004−18364号公報
【特許文献3】特開昭61−205632号公報
【特許文献4】特開2016−3162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)の大重量化と高嵩密度化を行ってもターゲットの抜き出しの容易性を保ち、安定してターゲットの抜き出しを行い、大重量スート体を製造することができる、中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法及び合成石英ガラスシリンダの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法は、円柱状又は円筒状の耐熱性基体であり、SiO粒子を堆積させる外表面の表面粗さが、最大高さRzが9μm未満であり且つ算術平均粗さRaが1μm未満である耐熱性基体を準備する工程と、該耐熱性基体を回転させ、該耐熱性基体の外表面にSiO粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を形成する工程と、該ガラス微粒子堆積体から該耐熱性基体を抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する工程と、を含むことを特徴とする。本発明においては該耐熱性基体をターゲットとも称する。本発明において、前記表面粗さRa及びRzはJIS B 0601:2001に基づき算出される。
【0014】
前記耐熱性基体のRzが6.0μm以下であり且つRaが0.6μm以下であることが好ましく、Rzが4.0μm以下且つRaが0.4μm以下であることがより好ましくRzが2.0μm以下且つRaが0.2μm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の耐熱性基体は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法に用いられる耐熱性基体であって、SiO粒子を堆積させる外表面の表面粗さが、最大高さRzが9μm未満であり且つ算術平均粗さRaが1μm未満であることを特徴とする。
【0016】
本発明の合成石英ガラスシリンダの製造方法は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いることを特徴とする。
【0017】
本発明の中空状多孔質石英ガラス母材は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法により得られる、中空状多孔質石英ガラス母材である。
【0018】
本発明の合成石英ガラスシリンダは、本発明の合成石英ガラスシリンダの製造方法により得られる、合成石英ガラスシリンダである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)の大重量化と高嵩密度化を行ってもターゲットの抜き出しの容易性を保ち、安定してターゲットの抜き出しを行い、大重量スート体を製造することができる、中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法及び合成石英ガラスシリンダの製造方法を提供することができるという著大な効果を奏する。さらに、本発明は、ターゲットの抜き出しの容易性がロット間のバラツキなく行えると同時にスート体から抜き出されたターゲットに付着しているシリカ微粒子を除去する清掃作業が容易になるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法の一例を示す概略説明図である。
図2】ガラス微粒子堆積体からのターゲットの抜き取りを示す概略説明図である。
図3】実施例1、2及び比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。図示において、同一部材は同一符号であらわされる。
【0022】
本発明者らは、OVD法による高密度大重量スート体の製造において、ターゲットの抜き出しが困難であったロットのスート体およびスート体から抜き出されたターゲットと、抜き出しが容易であったロットのスート体およびスート体から抜き出されたターゲットを詳細に観察した結果、ターゲットに付着しているシリカ微粒子の量がターゲットの抜き出しが困難であった方が多く付着していることを見出した。そこで付着していたシリカ微粒子を除去した後に目視にて観察したが大きな差は確認できなかった。
【0023】
そこで表面粗さ計(小形表面粗さ測定機:サーフテストSJ−210、株式会社ミツトヨ製)にてターゲットの表面粗さを測定したところ、ターゲットの抜き出しが困難なほど表面粗さが大きいという事が分かった。つまり、一見、平滑なターゲット表面であっても表面粗さのわずかな違いによりターゲットの抜き出し容易性は異なるという事である。表面粗さの値が大きい場合、スート体からターゲットを抜き取る際に表面の凹凸にシリカ微粒子が捕捉されその捕捉されたシリカ微粒子にさらに別のシリカ微粒子が付着しそれが繰り返される事でスート体内面とターゲット外面のクリアランスに粉が詰まったような状況となり抜き出し性が悪くなる。
【0024】
そこでターゲット表面の表面粗さを算術平均粗さRaと最大高さRz(JIS B 0601:2001)を共に規定する事で平滑性と引っかかりを管理することでターゲット抜け性を容易な状態に安定化することが出来ることを見出した。
【0025】
即ち、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法は、円柱状又は円筒状の耐熱性基体を回転させ、該耐熱性基体の外表面にSiO粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を得た後、該ガラス微粒子堆積体から該耐熱性基体を抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材を製造する方法であって、該耐熱性基体として、SiO粒子を堆積させる外表面の表面粗さが、Rzが9μm未満であり且つRaが1μm未満のターゲット材を用いるものである。前記表面粗さの条件は、少なくともガラス微粒子堆積体が接するターゲット表面、即ち、SiO粒子が堆積される部分の外表面に適用されるものであり、ターゲット材の全外周面において前記表面粗さの条件を満たすことがより好適である。
【0026】
SiO粒子が堆積される耐熱性基体の外表面の表面粗さが、Rzが9μm以上である場合、該耐熱性基体の外表面の凹凸によるスート体内面への引っかかりが生じやすく、Raが1μm以上であると、スート体内面の一部が崩れて発生するスート粉がターゲット表面に付着し、該付着したスート粉にさらに他のスート粉が付着する事でスート粉がスート体内面とターゲット表面の間で固着してしまうという問題が生じる。
本発明方法において、Rzが9μm未満であり且つRaが1μm未満のターゲット材を用いることにより、ターゲット抜け性を容易な状態に安定化することが出来る。
【0027】
前記表面粗さの条件を満たす耐熱性基体を準備する方法は特に制限はないが、使用前に表面粗さの確認を行い、条件を満たしていない場合は、少なくともガラス微粒子堆積体が接するターゲットの外表面を研磨等により均質化し、前記表面粗さの条件を満たす耐熱性基体を得ることが好ましい。均質化の方法は特に制限はないが、ダイヤモンド研磨布紙等を用いて機械研磨により行うことが好適である。
【0028】
ターゲットとして用いられる耐熱性基体は、中空状多孔質石英ガラス母材の製造時にターゲット材の酸化消耗や熱的変質などにより表面粗さが粗くなる場合がある為、連続して中空状多孔質石英ガラス母材を製造する場合は、使用前にターゲット材の表面粗さの確認を行い、表面粗さが粗くなる場合はその都度ターゲット材を研磨し前記表面粗さの条件を満たすよう管理することが好ましい。
【0029】
前記耐熱性基体のRzが6.0μm以下であり且つRaが0.6μm以下であることが好ましく、Rzが4.0μm以下且つRaが0.4μm以下であることがより好ましくRzが2.0μm以下且つRaが0.2μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
前記耐熱性基体の材質は耐熱性であればよく特に制限はないが、Al、SiC、Siなどを代表とするセラミックやカーボン、金属材料などが好適である。
【0031】
図1は、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材の製造方法の一例を示す概略説明図であり、図2は、ガラス微粒子堆積体からのターゲットの抜き取りを示す概略説明図である。図1において、符号10は中空状多孔質石英ガラス母材を製造する製造装置であり、ターゲット14を回転保持し且つ回転速度を制御するターゲット保持回転機構20と、複数のガラス微粒子合成用バーナー16aが所定の間隔で配置されたガラス微粒子合成用バーナー群16と、該バーナー群16の往復移動(スイング)及び上下動の移動を制御するバーナー群移動制御装置18とを含む。前記ターゲット14は、ガラス微粒子が堆積される外表面の表面粗さがRz:9μm未満であり且つRa:1μm未満のものが用いられる。図1においては、ターゲット14として、全外周面の表面粗さが上記条件を満たすターゲット材を用いた。また、ターゲット14として円柱(ロッド)状のターゲット材を用いたが、円筒状のターゲット材を用いてもよい。
【0032】
図1に示した如く、ターゲット保持回転機構20により、長軸を中心に回転保持されたターゲット14の前記表面粗さの条件を満たす外表面に、ガラス原料(SiCl)を供給されたガラス微粒子合成用バーナー16aの火炎による加水分解反応で生成されるSiO粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体12を形成する。その後、図2に示した如く、該ガラス微粒子堆積体12からターゲット14を抜き取り、本発明の中空状多孔質石英ガラス母材を製造することができる。なお、図1では、ガラス原料(SiCl)を供給されたガラス微粒子合成用バーナー16aの火炎による加水分解によるSiO粒子の堆積の例を示したが、熱分解によって微細なSiO粒子をターゲットに堆積させてガラス微粒子堆積体を形成してもよい。
【0033】
前述した表面粗さの条件を有するターゲットを用いることにより、従来、ターゲットの抜き出しが困難であった大重量や高嵩密度の中空状多孔質石英ガラス母材の製造においてもターゲットの抜き出しの容易性を保ち、安定してターゲットの抜き出しを行い、大重量スート体を製造することができる。本発明方法によれば、150〜350kgの大重量の中空状多孔質石英ガラス母材や、平均嵩密度0.5〜0.8g/cmの高嵩密度の中空状多孔質石英ガラス母材を容易に得ることができる。
【0034】
該中空状多孔質石英ガラス母材は大重量の中空状多孔質石英ガラス母材であることが好適であり、150〜350kgが好ましく、200〜300kgがより好ましい。また、該中空状多孔質石英ガラス母材は高嵩密度の中空状多孔質石英ガラス母材であることが好適であり、平均嵩密度が0.5〜0.8g/cmであることが好ましく、0.6〜0.7g/cmであることがより好ましい。
【0035】
さらに、ターゲットの抜き出しの容易性がロット間のバラツキなく行えると同時に、ガラス微粒子堆積体から抜き出されたターゲットに付着しているシリカ微粒子を除去する清掃作業が容易になるという効果も奏する。
【0036】
本発明の合成石英ガラスシリンダの製造方法は、本発明方法により得られる中空状多孔質石英ガラス母材を用いるものである。該合成石英ガラスシリンダの製造方法としては該中空状多孔質石英ガラス母材を用いて公知の方法によりガラス化し、合成石英ガラスシリンダを製造すればよく、特に制限はないが、脱水処理及び焼結透明化し、合成石英ガラスシリンダを得ることが好適である。
【実施例】
【0037】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0038】
(実施例1)
図1に示した中空状多孔質石英ガラス母材の製造装置を用いて、OVD法により、12本の中空状多孔質石英ガラス母材を作製した。ターゲットには、ベルトサンダーに取り付けた#240ダイヤモンド研磨布紙で研磨し外周面全域において表面粗さが最大値Rz≦6.0μm且つRa≦0.6μmに仕上げたSiC製円筒を使用し、12本連続で実験を行った。ターゲットの表面粗さの測定は、表面粗さ計(小形表面粗さ測定機:サーフテストSJ−210、株式会社ミツトヨ製)を用い、JIS B 0601:2001に基づき行った。12本連続で中空状多孔質石英ガラス母材を作成する内にターゲット材の酸化消耗や熱的変質など表面粗さが粗くなる場合はその都度ターゲット材を研磨し上記表面粗さになるよう管理しながら行った。
【0039】
酸素ガス及び水素ガスを導入し燃焼させる複数のバーナーを、バーナースイング及び上下動装置に設置することによりターゲットの軸方向に対し垂直に配し、その複数のバーナーをターゲットの軸方向に平行にスイングさせ、ターゲット保持回転機構に保持されたターゲットを回転させながら、ターゲットの外周面にシリカ微粒子を堆積さてガラス微粒子堆積体を作製することで外径400mmのガラス微粒子堆積体を得た。その時の製造条件は四塩化珪素1020g/分,バーナーとターゲット若しくはスート体の距離:300mm,スイング速度:300mm/分である。
【0040】
得られたガラス微粒子堆積体からターゲットを抜き取り、中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)を得た。図3にターゲットの抜き出しに要した時間を示す。図3に示した如く、ターゲットの抜き出し性は全数良好であり抜き出し作業に要した時間にバラツキも小さくなった。
【0041】
また、得られたスート体の密度はスート体の部位により密度が異なるが、最大密度が約0.8g/cm、最低密度が約0.5g/cmであるスート体であった。密度は、測定した重量並びにスート体の外径及び長さから算出した体積より算出した。
得られたスート体はスート体の内孔に心棒を設置し、焼結透明化を行った。得られたスート体はターゲットの抜き出しが容易であったため内面にキズ等が無かった。このスート体を焼結透明化する事により、心棒に密着し均一な内径を持ち、かつ内面に局所的な欠陥を持たない、合成石英ガラスシリンダを得る事ができた。
【0042】
(実施例2)
ターゲット材を変更した以外は実施例1と同じ条件で行い、12本の中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)を得た。ターゲットには、ベルトサンダーに取り付けた#800ダイヤモンド研磨布紙で研磨し、外周面全域において表面粗さが最大値Rz≦2.0μm且つRa≦0.2μmに仕上げたSiC製円筒を使用し12本連続で実験を行った。また、12本連続で作成する内にターゲット材の酸化消耗や熱的変質など表面粗さが粗くなる場合はその都度ターゲット材を研磨し上記表面粗さになるよう管理しながら行った。
【0043】
図3にターゲットの抜き出しに要した時間を示す。図3に示した如く、ターゲットの抜き出しの容易性は実施例1より増し、最大値も下がりバラツキも小さくなった。
【0044】
(比較例1)
ターゲット材を変更した以外は実施例1と同じ条件で行い、12本の中空状多孔質石英ガラス母材(スート体)を得た。ターゲットは、外周面の表面粗さの最大値がRz=9.8μm且つRa=1.8μmのターゲットを用いた。図3にターゲットの抜き出しに要した時間を示す。ターゲットの抜き出しは容易な場合もあったが困難な場合が多く、その抜き出しに要する時間には大きなバラツキが生じた。最も困難であったロットでは65分の時間を要した。
【符号の説明】
【0045】
10:製造装置、12:ガラス微粒子堆積体、14:ターゲット、16:ガラス微粒子合成用バーナー群、16a:ガラス微粒子合成用バーナー、18:ガラス微粒子合成用バーナー群のスイング及び上下動装置、20:ターゲット保持回転機構。
図1
図2
図3