特許第6556437号(P6556437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556437
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】燃料電池システムの運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20190729BHJP
   H01M 8/04291 20160101ALI20190729BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20190729BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/04291
   B60L58/30
【請求項の数】23
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-211030(P2014-211030)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-15301(P2016-15301A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月1日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0082665
(32)【優先日】2014年7月2日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】クォン、サン、ウク
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−3981(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/088753(WO,A1)
【文献】 特開2007−5064(JP,A)
【文献】 特開2009−4299(JP,A)
【文献】 特開2012−43677(JP,A)
【文献】 特開2011−113647(JP,A)
【文献】 特開2011−249143(JP,A)
【文献】 特開2013−239290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/2495
B60L 50/00−58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムの冷却性能低下状態または燃料電池スタックの劣化状態に基づいて燃料電池スタックの内部の水不足状態を判断する段階;
前記判断された状態によって燃料電池システムの診断レベルを分類する段階;及び
前記分類された診断レベルに対応する少なくとも一つの回復運転モードを選択して回復運転させる段階;を含み、
前記分類する段階は、前記判断する段階で冷却性能低下によって水不足の発生が予測される第1状態と判断されれば、前記第1状態を第1診断レベルに分類し、前記判断する段階で水不足による燃料電池スタックの劣化によって前記燃料電池スタックの発熱量が増加する第2状態と判断されれば、前記第2状態を第2診断レベルに分類し、
前記回復運転させる段階は、前記第1状態は、冷却関連単品およびシステム故障の段階1と、環境変化による段階2と、前記段階1および前記段階2で認知されていない状況の段階3とに区分され、これらの段階に対応する回復運転が行われ、
前記第2状態は既に前記燃料電池スタックの水不足が発生した段階であり、
前記段階1から前記段階3に段階が増加するほど、そして前記第1状態から前記第2状態へと状態が変わるほど、前記燃料電池スタックの劣化が進んだと判断し、回復運転の個数と水準が増加することを特徴とする、燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項2】
前記第1状態は、冷却システムの故障によって燃料電池スタックの内部に水不足の発生が予測される状態を含むことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項3】
前記第1状態は、前記燃料電池システムの運転温度が既設定の基準温度以上であり、前記冷却システムの故障が既設定の時間のうちに維持された状態であることを特徴とする、請求項2に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項4】
前記第1状態は、外風の温度または風量の増減によって燃料電池スタックの内部に水不足の発生が予測される状態を含み、
前記第1状態は、燃料電池車両の車速、登板角度または外気温度の中で少なくとも一つがそれぞれに対して既に設定された基準値より大きいとか小さい状態が既設定の時間のうちに維持された状態であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項5】
前記第1状態は、前記燃料電池車両の車速が第1基準車速より低いとか前記燃料電池車両の登板角度が第1基準登板角度より高いとかあるいは前記燃料電池車両の外気温度が第1基準外気温度より高い状態が既設定の時間のうちに維持された状態であることを特徴とする、請求項4に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項6】
前記第1状態は、前記燃料電池スタックの温度によって設定された基準電流と測定された燃料電池スタックの出力電流によって算出された結果値が既設定の第1基準値より大きい状態であるか否かによって判断されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項7】
前記基準電流は、前記燃料電池スタックの温度が上昇するにつれて上昇することを特徴とする、請求項6に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項8】
前記第1状態は、前記燃料電池スタックのカソード側の相対湿度の推定値によって算出される前記カソード側残存水の変化によって判断されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項9】
前記燃料電池スタックのカソード側の相対湿度の推定値は、前記燃料電池スタックのカソード側の入口及び出口の温度、前記燃料電池スタック入口の空気流量及び前記燃料電池スタックの生成電流量によって推定されることを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項10】
前記残存水の変化は、前記カソード側出口の相対湿度が前記推定値であるときと前記カソード側出口の相対湿度が90〜110%であるときのカソード側出口の水蒸気流量によって算出されることを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項11】
前記カソード側出口の水蒸気流量は、前記カソード側出口の水蒸気圧、前記燃料電池スタック入口の空気流量による前記カソード側出口の空気圧、及び前記燃料電池スタック入口の空気流量によって算出されることを特徴とする、請求項8に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項12】
前記燃料電池スタックの劣化は、前記燃料電池スタックの電圧と電流曲線、燃料電池スタックのインピーダンスまたは電流遮断法によって判断されることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項13】
前記回復運転モードは、前記燃料電池スタックの運転制限温度を低める回復運転モード、前記燃料電池スタックのカソード側の空気圧を高めるとか空気供給SRの割合を低める回復運転モード、及び前記燃料電池スタックのアノード側の水素圧力を低めるとか水素供給SRの割合を高める回復運転モードを含むことを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項14】
前記回復運転させる段階は、前記第1診断レベルに対応する場合、前記選択された回復運転モードの回復運転強度を可変して回復運転させる段階であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項15】
前記回復運転させる段階は、前記第2診断レベルに対応する場合、前記選択された回復運転モードの回復運転強度を許容可能な最大値にして回復運転させる段階であることを特徴とする、請求項12に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項16】
前記燃料電池スタックの運転制限温度を低める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、前記分類された診断レベルによって前記運転制限温度の下降程度を可変させることを特徴とする、請求項13に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項17】
前記燃料電池スタックのカソード側の空気圧を高めるとか空気供給SRの割合を低める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、前記分類された診断レベルによって前記カソード側空気圧の上昇程度または空気供給SRの割合の下降程度を可変させることを特徴とする、請求項13に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項18】
既にマッピングされた空気流量または燃料電池出力に対する空気出口バルブ開度マップに基づき、前記分類された診断レベルによって空気出口バルブの開度を増加させるとか空気供給SR可変領域を低めることを特徴とする、請求項17に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項19】
前記燃料電池スタックのアノード側の水素圧力を低めるとか水素供給SRの割合を高める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、前記分類された診断レベルによって前記アノード側の水素圧力下降程度または水素供給SRの割合の上昇程度を可変させることを特徴とする、請求項13に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項20】
既にマッピングされた空気流量または燃料電池出力に対する目標水素圧に基づき、前記分類された診断レベルによって目標水素圧を低めるとか水素供給SRの割合の上昇程度を可変させることを特徴とする、請求項19に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項21】
前記第1診断レベルに分類された場合、前記選択された回復運転モードによって運転制限温度を低めるとかカソード側の空気圧を高めるとか空気供給SRの可変領域を低めることで回復運転させることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項22】
前記第2診断レベルに分類された場合、前記選択された回復運転モードによって運転制限温度を既設定の最小限界値に低め、カソード側の空気圧を既設定の最大限界値に高め、空気供給SRの割合を最小限界値に低め、かつアノード側の水素圧力を最小限界値に低め、水素供給SRの割合を最大限界値に高めることで回復運転させることを特徴とする、請求項12に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【請求項23】
前記回復運転させる段階は、前記分類された診断レベルによって前記選択された回復運転モードの数を異にして回復運転させる段階であることを特徴とする、請求項13に記載の燃料電池システムの運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムの運転制御方法に係り、より詳しくは燃料電池スタックの状態によって異なる回復運転を実施することができる燃料電池システムの運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に優しい未来型自動車の一つである水素燃料電池車両に適用される燃料電池システムは、反応ガスの電気化学反応によって電気エネルギーを発生させる燃料電池スタック、燃料電池スタックに燃料である水素を供給する水素供給装置、燃料電池スタックに電気化学反応に必要な酸化剤である酸素を含む空気を供給する空気供給装置、及び燃料電池スタックの電気化学反応副産物である熱を外部に放出させて燃料電池スタックの運転温度を最適に制御して水管理機能をする熱及び水管理システムを含んでなる。
【0003】
一方、燃料電池システムは外部から水素と空気を受けて燃料電池スタックの内部で電気化学反応が起こるシステムであり、電気化学反応の副産物である水が温度、圧力などの実時間運転条件によって水蒸気、飽和液、氷などの形態に変わって水の伝達特性が変化することになる。また、この水は分離板のチャネル、気体拡散層、触媒層、電解質膜を通過するガスと電子の伝達特性にも影響を及ぼす。
【0004】
すなわち、燃料電池スタックから水が溢れるフラッディング(Flooding)現象と、水が不足なドライアウト(Dry−out)現象とが両立している。特に、燃料電池スタックがドライアウトされる状況を防ぐために燃料電池スタックが高温に露出されることを防止しなければならなく、このためには冷却性能を確保しなければならない。
【0005】
しかし、外気温が高いとか登板運転中などの環境的要因と冷却水ポンプ、冷却ファン、サーモスタットなどの冷却部品の故障などの要因によって燃料電池システムの最大放熱可能量が減少すれば、最大許容温度を維持するために燃料電池スタックの出力量を減少させなければならない問題が発生する。
【0006】
先行特許として、特許文献1は燃料電池システムにおいて温度を調整する方法に関するもので、温度分布測定器と負荷状態測定器を活用して燃料電池スタックの入出口の温度差を特定温度以内にするために水ポンプとラジエーターのファンを制御する発明に関するものである。
【0007】
また、本出願人の特許文献2は、燃料電池スタックの冷却水出口の温度に対する区間を設定し、区間別回転速度目標値を設定し、検出された冷却水出口の温度によって目標値に到達することができるように冷却水ポンプと冷却ファンの回転速度をPI制御し、燃料電池スタックの発熱量によってフィードフォワード制御し、PI制御値とフィードフォワード制御値の中で最大値に冷却水ポンプと冷却ファンの回転速度を制御する発明に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】アメリカ登録特許第6087028号明細書
【特許文献2】大韓民国登録特許第1282622号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は燃料電池スタックの劣化進行を予め感知してそれ以上の劣化進行を防止し、劣化が進行したときに回復させることができる燃料電池システムの運転制御方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施例による燃料電池システムの運転制御方法は、燃料電池システムの冷却性能低下状態または燃料電池スタックの劣化状態に基づいて燃料電池スタックの内部の水不足状態を判断する段階;前記判断された状態によって燃料電池システムの診断レベルを分類する段階;及び前記分類された診断レベルに対応する少なくとも一つの回復運転モードを選択して回復運転させる段階;を含む。
【0011】
前記分類する段階は、前記判断する段階で冷却性能低下によって水不足の発生が予測される第1状態と判断されれば、前記第1状態を第1診断レベルに分類する段階であってもよい。
【0012】
前記第1状態は、前記冷却システムの故障によって燃料電池スタックの内部に水不足の発生が予測される状態を含むことができる。
【0013】
前記第1状態は、前記燃料電池システムの運転温度が既設定の基準温度以上であり、前記冷却システムの故障が既設定の時間のうちに維持された状態であってもよい。
【0014】
前記第1状態は、外風の温度または風量の増減によって燃料電池スタックの内部に水不足の発生が予測される状態を含むことができ、前記第1状態は、燃料電池車両の車速、登板角度または外気温度の中で少なくとも一つがそれぞれに対して既に設定された基準値より大きいとか小さい状態が既設定の時間のうちに維持された状態であってもよい。
【0015】
前記第1状態は、前記燃料電池車両の車速が第1基準車速より低いとか前記燃料電池車両の登板角度が第1基準登板角度より高いとかあるいは前記燃料電池車両の外気温度が第1基準外気温度より高い状態が既設定の時間のうちに維持された状態であってもよい。
【0016】
前記第1状態は、前記燃料電池スタックの温度によって設定された基準電流と測定された燃料電池スタックの出力電流によって算出された結果値が既設定の第1基準値より大きい状態であるか否かによって判断されることができる。
【0017】
前記基準電流は、前記燃料電池スタックの温度が上昇するにつれて上昇することができる。
【0018】
前記第1状態は、前記燃料電池スタックのカソード側の相対湿度推定値によって算出される前記カソード側残存水の変化によって判断されることができる。
【0019】
前記燃料電池スタックのカソード側の相対湿度推定値は、前記燃料電池スタックのカソード側の入口及び出口の温度、前記燃料電池スタック入口の空気流量及び前記燃料電池スタックの生成電流量によって推定されることができる。
【0020】
前記残存水の変化は、前記カソード側出口の相対湿度が前記推定値であるときと前記カソード側出口の相対湿度が90〜110%であるときのカソード側出口の水蒸気流量によって算出されることができる。
【0021】
前記カソード側出口の水蒸気流量は、前記カソード側出口の水蒸気圧、前記燃料電池スタック入口の空気流量による前記カソード側出口の空気圧、及び前記燃料電池スタック入口の空気流量によって算出されることができる。
【0022】
前記分類する段階は、前記判断する段階で水不足による燃料電池スタックの劣化によって前記燃料電池スタックの発熱量が増加する第2状態と判断されれば、前記第2状態を第2診断レベルに分類する段階を含むことができ、前記燃料電池スタックの劣化は、前記燃料電池スタックの電圧と電流曲線、燃料電池スタックのインピーダンスまたは電流遮断法によって判断されることができる。
【0023】
前記回復運転モードは、前記燃料電池スタックの運転制限温度を低める回復運転モード、前記燃料電池スタックのカソード側の空気圧を高めるとか空気供給SRの割合(Stoichiometry Ratio)を低める回復運転モード、及び前記燃料電池スタックのアノード側の水素圧力を低めるとか水素供給SRの割合を高める回復運転モードを含むことができる。
【0024】
前記回復運転させる段階は、前記第1診断レベルに対応する場合、前記選択された回復運転モードの回復運転強度を可変して回復運転させる段階であってもよい。
【0025】
前記回復運転させる段階は、前記第2診断レベルに対応する場合、前記選択された回復運転モードの回復運転強度を許容可能な最大値にして回復運転させる段階であってもよい。
【0026】
前記燃料電池スタックの運転制限温度を低める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、前記分類された診断レベルによって前記運転制限温度の下降程度を可変させることができる。
【0027】
前記燃料電池スタックのカソード側の空気圧を高めるとか空気供給SRの割合(Stoichiometry Ratio)を低める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、前記分類された診断レベルによって前記カソード側空気圧の上昇程度または空気供給SRの割合の下降程度を可変させることができる。
【0028】
既にマッピングされた空気流量または燃料電池出力に対する空気出口バルブ開度マップに基づき、前記分類された診断レベルによって空気出口バルブの開度を増加させるとか空気供給SR可変領域を低めることができる。
【0029】
前記燃料電池スタックのアノード側の水素圧力を低めるとか水素供給SRの割合を高める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、前記分類された診断レベルによって前記アノード側の水素圧力下降程度または水素供給SRの割合の上昇程度を可変させることができる。
【0030】
既にマッピングされた空気流量または燃料電池出力に対する目標水素圧に基づき、前記分類された診断レベルによって目標水素圧を低めるとか水素供給SRの割合の上昇程度を可変させることができる。
【0031】
前記第1診断レベルに分類された場合、前記選択された回復運転モードによって運転制限温度を低めるとか前記カソード側の空気圧を高めるとか空気供給SR可変領域を低めることで回復運転させることができる。
【0032】
前記第2診断レベルに分類された場合、前記選択された回復運転モードによって運転制限温度を既設定の最小限界値に低め、前記カソード側の空気圧を既設定の最大限界値に高め、空気供給SRの割合を最小限界値に低め、かつ前記アノード側の水素圧力を最小限界値に低め、水素供給SRの割合を最大限界値に高めることで回復運転させることができる。
【0033】
前記回復運転させる段階は、前記分類された診断レベルによって前記選択された回復運転モードの数を異にして回復運転させる段階であってもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法によれば、燃料電池スタックのドライアウト(Dry Out)状況を防止し、ドライアウト状況の回復運転によって燃料電池の耐久性を向上させることができる効果がある。
【0035】
また、燃料電池システムで発生し得る問題によってあるいは運転パターンによって燃料電池スタックの性能が減少することを最小化し、初期の運転性能を持続的に維持することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一実施例による燃料電池システムのパワーネット構成図である。
図2】本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法に用いる水不足程度による段階を示す表である。
図3図2に示した冷却性能低下及び水不足状況による燃料電池システムの運転制御方法を簡略に示すフローチャートである。
図4a図2に示したCase3に相当するか否かを診断するための方法を示すグラフである。
図4b図2に示したCase3に相当するか否かを診断するための方法を示すグラフである。
図5図2に示したCase3に相当するか否かを感知する第2方法に用いられる相対湿度推定モデルとそれによる空気供給化学量論比可変制御を図式化した図である。
図6a】本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法を示す図である。
図6b】本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法を示す図である。
図6c】本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法を示す図である。
図7】本発明の一実施例による回復運転の一例を示すグラフである。
図8】本発明の一実施例による回復運転の他の例を示すグラフである。
図9図8に示したようなカソード側空気圧及び空気供給SRを調整する方法を説明するグラフである。
図10図8に示したようなカソード側空気圧及び空気供給SRを調整する方法を説明するグラフである。
図11図8に示したようなカソード側空気圧及び空気供給SRを調整する方法を説明するグラフである。
図12図8に示したようなカソード側空気圧及び空気供給SRを調整する方法を説明するグラフである。
図13図8に示したようなカソード側空気圧及び空気供給SRを調整する方法を説明するグラフである。
図14】本発明の一実施例による回復運転のさらに他の例を示すグラフである。
図15a】本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法において条件変化による回復運転強度の変化を示すグラフである。
図15b】本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法において条件変化による回復運転強度の変化を示すグラフである。
図15c】本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法において条件変化による回復運転強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書または出願に開示されている本発明の実施例についての特定の構造的ないし機能的説明は単に本発明による実施例を説明するための目的で例示したもので、本発明による実施例は多様な形態に実施することができ、この明細書または出願で説明した実施例に限定されるものに解釈してはいけない。
【0038】
本発明による実施例は多様な変更を加えることができ、さまざまな形態を持つことができるので、特定の実施例を図面に例示し、この明細書または出願で詳細に説明しようとする。しかし、これは本発明の概念による実施例を特定の開示形態に限定しようとするものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれるすべての変更、均等物ないし代替物を含むものに理解しなければならない。
【0039】
第1及び/または第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使われることができるが、このような構成要素は前記用語に限定されてはいけない。前記用語は一構成要素を他の構成要素と区別する目的で使われるもので、例えば本発明の概念による権利範囲から逸脱しない範疇内で、第1構成要素は第2構成要素に命名することができ、同様に第2構成要素は第1構成要素にも命名することができる。
【0040】
ある構成要素が他の構成要素に“連結されて”いるとか“接続されて”いると言及されたときには、その他の構成要素に直接的に連結されているとかあるいは接続されていることもできるが、中間に他の構成要素が存在することもできると理解しなければならないであろう。一方、ある構成要素が他の構成要素に“直接連結されて”いるとか“直接接続されて”いると言及されたときには、中間に他の構成要素が存在しないものに理解しなければならないであろう。構成要素間の関係を説明する他の表現、つまり“〜間に”と“直ちに〜間に”または“〜に隣合う”と“〜に直接隣合う”なども同様に解釈しなければならない。
【0041】
本明細書で使用した用語はただ特定の実施例を説明するために使用したもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上はっきり違わない限り、複数の表現を含む。この明細書で、“含む”または“持つ”などの用語は指示した特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするもので、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加の可能性を予め排除しないものに理解しなければならない。
【0042】
他に定義しない限り、技術的や科学的な用語を含んでここで使うすべての用語は本発明が属する技術分野で通常の知識を持った者によって一般的に理解されるものと同様な意味である。一般的に使われる予め定義されているような用語は関連技術の文脈上持つ意味と一致する意味のものに解釈しなければならなく、この明細書ではっきり定義しない限り、理想的にあるいは過度に形式的な意味に解釈してはいけない。
【0043】
以下、添付図面に基づいて本発明の好適な実施例を説明することによって本発明を詳細に説明する。各図で提示した同一参照符号は同一部材を示す。
【0044】
図1は本発明の一実施例による燃料電池システムのパワーネット構成図である。図示のように、車両燃料電池−バッテリーハイブリッドシステムは、メインバス端を介して並列に接続される主動力源である燃料電池10と補助動力源である高電圧バッテリー(メインバッテリー)20、高電圧バッテリー20の出力制御が可能となるように高電圧バッテリー20に連結された両方向DC/DCコンバータ(BHDC:Bidirectional High Voltage DC/DC Converter)21、燃料電池10と高電圧バッテリー20の出力側であるメインバス端11に連結されたインバーター31、インバーター31に連結された駆動モーター32、インバーター31及び駆動モーター32を除いた車両内高電圧負荷33、低電圧バッテリー(補助バッテリー)40及び低電圧負荷41、低電圧バッテリー40とメインバス端11との間に連結され、高電圧を低電圧に変換する低電圧DC/DCコンバータ(LDC:Low Voltage DC/DC Conveter)42を含むことができる。
【0045】
ここで、車両の主動力源である燃料電池10と補助動力源として使われる高電圧バッテリー20がメインバス端11を介してインバーター31/駆動モーター32などのシステム内の各負荷に対して並列に接続され、高電圧バッテリー端に連結された両方向DC/DCコンバータ21が燃料電池10の出力側であるメインバス端11に接続され、両方向DC/DCコンバータ21の電圧(メインバス端への出力電圧)制御によって燃料電池10の出力及び高電圧バッテリー20の出力制御が可能となるようになっている。
【0046】
燃料電池10の出力端には逆電流が流れないように連結されたダイオード13と、燃料電池10をメインバス端11に選択的に連結するように備えられたリレー14が設置される。リレー14は燃料電池10が正常に運転される車両運行中だけではなく燃料電池システムのアイドルストップ/再始動状態で常時連結された状態となり、車両のキーオフ(キーオフによる正常シャットダウン)時または非常シャットダウン時にだけ連結が解除される。
【0047】
また、駆動モーター32を回転させるためのインバーター31がメインバス端11を介して燃料電池10及び高電圧バッテリー20の出力側に連結され、燃料電池10及び/または高電圧バッテリー20から供給される電源を相変換させて駆動モーター32を駆動させる。
【0048】
このような燃料電池システムにおいて、駆動モーター32の駆動は燃料電池10の出力(電流)を単独で用いるFCモード、高電圧バッテリー20の出力を単独で用いるEVモード、及び燃料電池10の出力を高電圧バッテリー20の出力が補助するHEVモードからなる。特に、燃料電池システムにおいて、アイドルストップ及び再始動後燃料電池10の出力によって駆動モーター32が駆動されるまでのEVモード走行状態では燃料電池10の発電が停止され、高電圧バッテリー20の出力だけで駆動モーター32の駆動及び車両の走行がなされる。
【0049】
このようなEVモード走行状態では、リレー14がオン(ON)及び燃料電池10の発電が中止(空気供給中止)された状態で高電圧バッテリー20の出力端に連結された両方向DC/DCコンバータ21のブースト制御によって高電圧バッテリー20の電圧をブースティングしてメインバス端11の電圧を上昇させ、これにより高電圧バッテリー20の出力だけでインバーター31/駆動モーター32などの車両内負荷を作動させることになる。
【0050】
もちろん、燃料電池システムのアイドルストップ時に空気の供給を中止して再始動時に空気供給を再開するようになり、再始動後に燃料電池システムの正常運転モード復帰時には空気が正常に供給される状態でさらに燃料電池10の出力を車両負荷によって追従制御し(負荷追従(Load Following)制御)、さらに両方向DC/DCコンバータ21のブースティング状態を解除するようになる。
【0051】
図2は本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法に用いる水不足程度による診断レベルを示す表であり、図3図2に示した放熱量減少及び水不足状況による燃料電池システムの運転制御方法を簡略に示すフローチャートである。
【0052】
図2を参照すれば、放熱可能量または放熱性能減少及び発熱量増加によって燃料電池スタックの内部で水不足が発生した状態を二つの診断レベル(Flt Lvl)に分類する。診断レベルが増加するほど水不足状態が深くなる状態を意味する。第2診断レベル(Flt Lvl 2)の場合は既に燃料電池スタックの劣化が進行して発熱量が増加した状態に相当する。第1診断レベル(Flt Lvl 1)の場合はまだ劣化が進行していないが水不足が予想されて劣化可能性がある状態を意味する。すなわち、第2診断レベルの場合、第1診断レベルの際に比べて回復運転の強度が強化しなければならない。例えば、複数の回復運転モードの中で実際に選択されて回復運転されなければならない回復運転モードの数または強度が増加しなければならない。
【0053】
放熱可能量の減少によって燃料電池スタックがドライアウトされる第1状態と判断されれば、第1状態は第1診断レベルに分類され、燃料電池スタックの発熱量増加によって燃料電池スタックがドライアウトされる第2状態と判断されれば、第2状態は第2診断レベルに分類されることができる。
【0054】
第1診断レベルに分類される第1状態の場合、水不足または冷却性能不足の原因とその感知方法によって3種の場合に区分される。まず、Case1は燃料電池システム内部の冷却制御システムを構成するコンポーネント及び冷却制御システムそのものの故障に起因する場合である。すなわち、冷却に関連した単品及びシステムの故障、環境変化などによって燃料電池システムの最大放熱性能が制限される、つまり放熱性能が減少する場合である。
【0055】
この場合、運転可能最大温度を維持するための燃料電池の収斂出力電流が減少し、出力電流が減少する状況が持続すれば、加湿量が減少して水不足が進行し得る。そして、水不足が進行すれば、燃料電池スタックが劣化し得る。具体的に、温度は高くなった状態であるから、高温によって飽和水蒸気圧は増加するが、出力電流が低くて燃料電池スタックで生成される水の量が減少して相対湿度が非常に低くなり得る。
【0056】
各Caseに相当するか否かを判断するために、既設定の複数の条件の中で少なくとも一条件が満足されるか否かが判断されなければならない。まず、Case1の場合、例えばホールセンサーの故障、3相電流センサーの故障によって回転数制限運転中であれば、冷却水ポンプ及び冷却ファンの故障という条件が満足される。また、サーモスタット制御モーターが故障であるとかサーモスタット開度命令に従わない場合、ラジエーターの方向に水流を生成することができなければ、サーモスタット開度の制御不良という条件が満足される。すなわち、冷却水ポンプ、冷却ファン、及びサーモスタットなどの冷却制御システムからの故障信号が受信されたかによってCase1に相当する水不足状態と診断することができる。
【0057】
まとめれば、Case1は冷却システムの故障によって燃料電池システムの運転温度が既設定の基準温度より高い状態が既設定の時間以上維持された状態を意味する。
【0058】
二番目のCase2の場合、燃料電池車両の車速、登板角度または外気温の中で少なくとも一つがそれぞれに対して既設定の第1基準値より大きいとか小さいとかによって燃料電池車両の外部で環境変化が発生して水不足が進行する状態であることができる。すなわち、燃料電池車両の外部温度が上昇するとか、登板運転によって外気の流入が減少して冷却性能が低下する場合に水が不足な程度を診断するものである。具体的に、燃料電池スタックの温度が既設定の第1基準値より高い状態が既設定の時間のうちにずっと維持されるか、燃料電池車両の車速が第1基準車速より低いか、燃料電池車両の登板角度が第1基準登板角度より高いか、または燃料電池車両の外気温が第1基準外気温より高いかなどの条件が満足されるかどうかを判断する。
【0059】
すなわち、燃料電池車両の車速、登板角度または外気温度によって車両に流入するラムエア(外風)の温度と風量が変わることができる。よって、外風の温度と風量の変化因子である車速、登板角度または外気温度の中で少なくとも一つがそれぞれに対して既に設定された基準値より大きいか小さい状態が既設定の時間以上に維持された状態がCase2に相当する。
【0060】
Case3の場合、燃料電池スタックの温度によって設定された基準電流と測定された燃料電池スタックの実際出力電流との偏差を積分した値が既設定の第1基準値より大きいか、そして燃料電池スタックのカソード側に残存する水の減少量が既設定の第1基準値より大きいかによって、Case1または2で診断することができない水不足状況を診断することができる。すなわち、冷却制御システムの故障または環境変化を感知することができないが、水不足状態の場合である。具体的に、冷却制御システムが実際は故障状態であるが、冷却水の不足またはリーク(leak)、誤った冷却水注入運転、冷却ループに異物が流入して故障と診断されない場合、燃料電池運転点を継続してモニタリングして高温/低出力の運転が持続するか否かによって冷却性能制限を認知して回復運転させることができる。
【0061】
第2診断レベルの場合、既に燃料電池スタックのドライアウトが発生した場合である。これに相当するかは電流電圧曲線の傾き、垂れ量、インピーダンス測定、CI(Current Interrupt)によるメンブレイン抵抗測定などによって判断することができる。
【0062】
すなわち、診断レベルが増加するほどスタック劣化が進行した状態を意味し、診断レベルが低いほど水不足は発生しなかったが発生した可能性がある低水準の状態を意味する。診断レベルが増加するほど深刻度の程度が高く、回復運転を強化するなど(回復運転の数と水準の増加)の戦略が要求されるものである。
【0063】
図3を参照すれば、燃料電池システムの放熱可能量が減少するかあるいは燃料電池スタックの発熱量が増加するか、つまり図2に示したようなFlt Lvl 1、2に相当するか否かを判断する(S301)。判断結果によって燃料電池スタックの水不足状態がFlt Lvl 1、2に相当しない場合、回復運転ではない正常運転モードで動作させ(S303)、Flt Lvl 1、2に相当する場合、各段階(Case)に対応する回復運転モードを選択して回復運転させることができる(S305)。
【0064】
回復運転によって水不足状態が解消されれば(S307)、さらに燃料電池システムの放熱可能量が減少するかまたは燃料電池スタックの発熱量が増加するかを判断する(S301)。回復運転モードは水不足状態が回復されるまで繰り返し遂行される。
【0065】
図4a及び図4bは図2に示したCase3に相当するか否かを診断するための方法を示すグラフである。図4aは燃料電池運転温度によって設定された基準電流との関係を示したグラフである。図4aを参照すれば、燃料電池スタックの温度によって設定された基準電流は温度が上昇しても一定温度までは増加しないが、一定温度以後からは温度の上昇に比例して増加する。図4aの二つのグラフは基準電流設定の際にヒステリシスを考慮して基準電流を二つに設定したものを意味する。図4bは時間によって基準電流と実際測定された電流との偏差を積分する過程を示したグラフである。具体的に、燃料電池スタックの温度によって設定された基準電流と測定された燃料電池スタックの実際出力電流との偏差を積分した値が既設定の第1基準値より大きい場合にCase3に相当する。
【0066】
運転温度別基準電流は既に設定され、ヒステリシスを考慮して二つのマップに設定されることができる。電流偏差は基準電流と実際測定電流の差であり、実際の測定電流がa1より高ければ電流偏差はa1−実際測定電流であり、実際の測定電流がa1とa2の間の値であれば電流偏差は0であり、実際電流がa2より高ければa2−実際電流が電流偏差となる。そして、このような電流偏差を時間積分した値が第1基準値より大きいか否かを判断するものである。
【0067】
図5図2に示したCase3に相当するか否かを感知する第2方法に用いられる相対湿度推定モデルとそれによる空気供給化学量論比可変制御を図式化した図である。Case3に相当するか否かを感知する第2方法は燃料電池スタックの残存水量を推定する方法である。すなわち、燃料電池スタックのカソード側に残存する水の減少量が既設定の第1基準値より大きい場合、Case3に相当することができる。
【0068】
カソード側に残存する水の減少量が既設定の第1基準値より大きいか否かを判断するため、測定された燃料電池スタックの出力電流、燃料電池スタックの入口の空気流量及びカソードの入口及び出口の空気温度に基づいてカソード出口の相対湿度を推定し、カソード出口の相対湿度が推定された相対湿度であるときと100%であるときの燃料電池スタック出口の水蒸気流量の差を積分してカソード側に残存する水の減少量を演算する。燃料電池スタック出口の水蒸気流量は測定されたカソード側入口及び出口の温度による燃料電池スタックの入口及び出口の飽和水蒸気圧と、燃料電池スタック入口の空気流量による燃料電池スタック出口の空気圧によって算出することができる。演算された水の減少量が第1基準値より大きいと判断された場合、Case3に相当し、以後にCase3に対応する回復運転モードが選択される。
【0069】
図5を参照すれば、燃料電池スタックのカソード出口の相対湿度を予測するために、スタック入口の水蒸気流量、生成水の量、スタックの内部カソードとアノードの間の水移動量を考慮し、燃料電池スタックのカソード側の水変化量がないと仮定する。
【0070】
具体的に、カソード側の相対湿度を推定するために要求される入力値は燃料電池スタックの入口と出口の空気温度、電流、燃料電池スタックの入口の空気流量である。燃料電池スタック入口の空気総圧力は燃料電池スタック入口の空気流量の関数であり、燃料電池スタック出口の空気総圧力も燃料電池スタック入口の空気流量の関数である。燃料電池スタックの入出口空気飽和水蒸気圧は燃料電池スタックの入出口空気温度の関数である。
【0071】
燃料電池スタックの残存水量を予測するため、まずカソード出口の相対湿度が推定値であるときの燃料電池スタック出口の水蒸気流量を計算する。具体的に、燃料電池スタック出口の水蒸気流量は燃料電池スタック出口の乾空気流量(燃料電池スタック入口の空気流量−反応酸素量)、0.622(水蒸気1モル質量を乾空気1モル質量で割った値)、及び燃料電池スタック出口の水蒸気圧が燃料電池スタック出口の空気総圧力から燃料電池スタック出口の水蒸気圧力を差し引いた量において占める割合を掛けたものである。
【0072】
次に、カソード出口の相対湿度が100%であるときの燃料電池スタック出口の水蒸気流量を計算する。具体的な計算方法はカソード出口の相対湿度が推定値であるときと同様である。
【0073】
カソード出口の相対湿度が100%であるときの燃料電池スタック出口の水蒸気流量からカソード出口の相対湿度が推定値であるときの燃料電池スタック出口の水蒸気流量を差し引き、これを時間に対して積分すれば、カソード内の残存水の減少量を予測することができる。
【0074】
図5に図示のように、実際燃料電池電流と実際空気流量、カソード側入口の温度、カソード側出口の温度及び燃料電池スタックを構成する燃料電池セルの個数を入力とし、内部パラメーターとして加湿器効率マップ、アノード側からカソード側に移動する水の量、空気流量に対するカソード側入口の圧力と空気流量に対するカソード側出口の圧力を含む相対湿度(RH)推定モデルから推定されたカソード側出口の相対湿度推定値に基づいて推定値と既にマッピングされた化学量論比マップまたは目標相対湿度基盤の化学量論比PI制御によって目標化学量論比を決定することができる。
【0075】
図6a〜図6cは本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法を示す図である。正常運転モード(Normal Mode)と回復運転モードの間の遷移過程を示すもので、図2に示したCase1とCase2が図6aに対応し、Case3が図6bに対応し、Flt Lvl 2が図6cに対応する。
【0076】
図6a〜図6cを参照すれば、劣化防止モード及び劣化回復モードはいずれも回復運転モードであり、回復運転モードは燃料電池スタックの運転制限温度を低める回復運転モード、前記燃料電池スタックのカソード側の空気圧を高めるか空気供給SRの割合(Stoichiometry Ratio)を低める回復運転モード、及び前記燃料電池スタックのアノード側の水素圧力を低めるか水素供給SRの割合を高める回復運転モードを含むことができる。
【0077】
第1診断レベルに対応する場合、前記選択された回復運転モードの回復運転強度を可変して回復運転させ、第2診断レベルに対応する場合、前記選択された回復運転モードの回復運転強度を許容可能な最大値にして回復運転させる。
【0078】
図6aを参照すれば、運転温度が第1基準値(T2)より高く、車速が第1基準車速(V1)より低いか、登板角度が第1基準登板角度(G1)より大きいか、外気温が第1基準外気温(Ta1)より高いかあるいは冷却制御システムから故障信号が受信されるかどうかの条件が満足される場合に運転制御方法を示している。
【0079】
図6bを参照すれば、電流偏差の積分値(Q)が既設定の第1基準積分値(Q1)よりも大きいかあるいは燃料電池スタックの内部の残存水減少量が第1基準残存水減少量より大きいかによって回復運転させる運転制御方法を示している。
【0080】
すなわち、正常運転モードでの運転中に前述した条件が満足された状態が所定時間維持される場合、複数の回復運転モードの中で少なくとも一つを選択して回復運転させることになる。第1診断レベルに対応する回復運転時と第2診断レベルに対応する回復運転時に選択された回復運転モードの数と回復運転強度が変化することができる。また、第1診断レベル内でも放熱性能減少程度によって選択された回復運転モードの数と回復運転強度が変化することができる。すなわち、選択された回復運転モードで動作させるとき、回復運転強度を水不足程度によって変化させることができる。
【0081】
具体的に、選択された回復運転モードの種類によって、診断された水不足程度によって運転制限温度を低め、カソード側の空気圧を高め、空気供給SRの割合を低め、アノード側の水素圧力を低め、水素供給SRの割合を高めることで回復運転させることができる。また、診断された水不足程度によって選択される回復運転モードの数も異なることができる。
【0082】
例えば、燃料電池スタックの運転制限温度を低める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、分類された診断レベルによって前記運転制限温度の下降程度を変化させることができる。また、燃料電池スタックのカソード側の空気圧を高めるか、空気供給SRの割合(Stoichiometry Ratio)を低める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、前記分類された診断レベルによって前記カソード側空気圧の上昇程度または空気供給SRの割合の下降程度を変化させることができる。また、燃料電池スタックのアノード側の水素圧力を低めるか、水素供給SRの割合を高める回復運転モードを選択して回復運転させる場合、分類された診断レベルによって前記アノード側の水素圧力下降程度または水素供給SRの割合の上昇程度を変化させることができる。
【0083】
図6aに示したように、運転温度が第2基準温度(T2_1)以下であり、車速が第2基準車速(V2)以上であり、登板角度が第2基準登板角度(G2)以下であり、外気温が第2基準外気温(Ta2)以下であり、冷却制御システムから故障信号も受信されない条件がすべて満足されて一定時間維持されれば、選択された回復運転モードが解除されることができる。
【0084】
図6bに示したように、電流偏差積分値(Q)が既設定の第2基準積分値(Q2)より小さいとか同一である場合、あるいは燃料電池スタックの内部の残存水減少量が第2基準残存水減少量より少ないとか同一である場合、選択された回復運転モードが解除されることができる。
【0085】
図6cの場合、劣化度による正常運転モードと回復運転モードの間の遷移を示す。第2診断レベルに対応する図であり、燃料電池スタックの電圧と電流曲線または燃料電池スタックのインピーダンスによって算出される燃料電池スタックの劣化度が既設定の第1基準劣化度より大きければ、回復運転モードに遷移することができる。
【0086】
前述したように、第2診断レベルの場合、劣化が既に進行した状態であって燃料電池スタックがドライアウト状態にあるので、劣化度回復のための回復運転モードの回復運転強度を許容可能な最大値に設定して回復運転させることができる。
【0087】
具体的に、第3段階に対応する場合、選択された回復運転モードの種類に対応し、診断された水不足程度によって運転制限温度を既設定の最小限界値に低め、カソード側の空気圧を既設定の最大限界値に高め、空気供給SRの割合を最小限界値に低め、アノード側の水素圧力は最小限界値に低め、水素供給SRの割合は最大限界値に高めることで回復運転させることができる。
【0088】
図7は本発明の一実施例による回復運転の一例を示すグラフであり、図8は本発明の一実施例による回復運転の他の例を示すグラフである。図14は本発明の一実施例による回復運転のさらに他の例を示すグラフである。燃料電池の強制冷却、空気流量の供給中止、バッテリー強制充電及び負荷使用の方法によって燃料電池内部の水量を調節する方法は高出力限界状況では利用できない。
【0089】
図7を参照すれば、回復運転モードで運転制限温度基準を低める回復運転モードを示す。水不足程度が診断されて回復運転強度が決定されれば、つまり運転制限温度基準を低める程度が決定されれば高温出力制限基準温度が低まることができる。運転制限温度を低めれば、飽和水蒸気圧が大きく低まって相対湿度が上昇する。
【0090】
図8及び図14に示すように、空気と水素の圧力または化学量論比(SR)の調整によって外部に流出される生成水の量を最少化することができ、内部加湿構造が形成されることによりメンブレインの全領域が均一に加湿できる。
【0091】
具体的に、カソード側空気圧を上昇させるとか空気供給SRを低めれば、燃料電池スタックの外部に流出される生成水を最少化させることができる。また、アノード側の水素圧力を低め、水素供給SRを上昇させれば、内部生成水の循環による内部加湿構造を形成させることができる。水素圧力を低めるために、アノード側の圧力制御段数を増加させ、水素供給SRの量はアノード側の圧力制御段数の増加によって段階別に増加することができる。
【0092】
図9図13図8に示したようなカソード側空気圧及び空気供給SRを調整する方法を説明するグラフである。
【0093】
診断された水不足程度によって選択された回復運転モードの回復運転強度が決定されれば、つまりカソード側の空気圧を高める加圧程度が決定されれば、カソード側加圧制御段数を増加させ、空気供給SRの最大値は減少する。加圧制御段数を増加させるために、カソード出口側のBCV開度を低める。加圧の際、空気供給SRの最大値をSR_Lo1に制限する。図11に示したように、SR_Lo1は加圧制御段数が増加するにつれて減少する。常圧ではSR可変領域を高め、加圧の際、SR可変はフラッディング防止の目的であるので、この役目を縮小するためにSR可変領域を低める。
【0094】
加圧運転の過渡区間を考慮して加圧の割合(ratio)の変数を導入し、過渡区間では線形的にSR最大値をSR_Lo1まで低める。加圧の割合は実際の開度と常圧時の開度命令値との差と加圧時の開度命令と常圧時の開度命令との差の割合である。
【0095】
図15a〜図15cは本発明の一実施例による燃料電池システムの運転制御方法において条件変化による回復運転強度の変化を示すグラフである。
【0096】
図15aは車速による回復運転強度の変化を、図15bは燃料電池車両の外気温、登板角度、冷却制御システムの故障水準、電流偏差の積分値、及び残存水減少量演算値の増加による回復運転強度の変化を示す。図15cは燃料電池スタックの劣化度による回復運転強度の変化を示す。
【0097】
図15a及び図15bを参照すれば、車速、外気温、登板角度、冷却制御システムの故障水準、電流偏差の積分値、及び残存水減少量演算値の変化によって回復運転強度をヒステリシスを持つように変化させる回復運転の強度マッピングについて示している。回復運転強度は、前述したように、診断された水不足程度によって運転制限温度、カソード側の空気圧と空気供給SRの割合、及びアノード側の水素圧力と水素供給SRの割合によって調整することができる。図15a及び図15bは水不足程度によって線形的に回復運転強度を強化させるものを示しているが、このような関係は非線形的であることもできる。
【0098】
一方、図15cを参照すれば、回復運転が必要な部分(劣化度が既設定の第1基準劣化度(D1)以上の場合)では回復運転強度を許容可能な最大値に設定する。
【0099】
前述したように、Flt Lvlが低いほど、かつ判断された燃料電池スタックの水不足程度が低いほど、回復運転モードの回復運転強度を低め、回復運転モードの項目を減らすことが好ましい。回復運転モードは燃費が低下するとか加速応答性が低下する問題があり得るため、燃料電池スタックの水不足程度によって選択的に運転しなければならない。
【0100】
本発明は添付図面に示した一実施例に基づいて説明したが、これは例示的なものに過ぎなく、当該本技術分野の通常の知識を持った者であれば、これか多様な変形及び均等な他の実施例が可能である点を理解することができる。よって、本発明の真正な技術的保護範囲は添付の請求範囲の技術的思想によって決定されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、燃料電池スタックの劣化進行を予め感知してそれ以上の劣化進行を防止し、劣化が進行したときに回復させる燃料電池システムの運転制御方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0102】
10 燃料電池
13 ダイオード
14 リレー
20 高電圧バッテリー
21 両方向DC/DCコンバータ
31 インバーター
32 駆動モーター
33 高電圧負荷
40 低電圧バッテリー
41 低電圧負荷
42 低電圧DC/DCコンバータ
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15a
図15b
図15c